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4、連帯のグローバル化:金融課税のための論拠 「国際的な金融取引と開発に関するタスクフォース」専門家委員会報告書
2014.03.05
4、連帯のグローバル化:金融課税のための論拠 「国際的な金融取引と開発に関するタスクフォース」専門家委員会報告書

開発のための革新的資金メカニズムに関するリーディング・グループ

報告書2010

連帯のグローバル化:金融課税のための論拠

「国際的な金融取引と開発に関するタスクフォース」専門家委員会報告書

 

3.5 中央で徴収する多通貨取引税(中央徴収型多通貨取引税)

中央で徴収する複数通貨を対象とした通貨取引税(CTT)(中央徴収型多通貨取引税)と前述の税(訳注:国内で徴収する単一通貨取引税(国内徴収型単一通貨取引税))には多くの共通点があるものの、当委員会では、この二つのオプションには別個に評価するだけの十分な違いがあると判断した。

一国で実施するCTTと異なり、このオプションは、ある管轄区内で中央システムを通して決済される全ての取引(どの通貨かに拘わらず)に適用されるため、本質的に多国間の税である。現在のところ、この中央システムは多通貨同時決済(CLS)銀行[31]だが、この税はCLS銀行を通して実施するものと限っているわけではない。むしろこの税は、中央集権的な外国為替取引決済のための多通貨メカニズム全てを想定している。とはいえ、中央集権化された世界的な外国為替取引の決済システムはその性質上独占状態を生むもののようであり、このような機関が複数生まれる状況は考えにくい。

 

3.5.1 十分な収益性

このオプションについての税収見込みは、国内徴収型CTTを全ての主要通貨群に課税する場合と同等である。しかし、前節で見たように、現行の見積額は近年の市場の出来高や呼び値スプレッドの変化を考慮に入れていない。

この問題を解決するために、我々は潜在的税基盤[32]に関する数値を新たに見積もり、これらを主要通貨ペアのスプレッドに関するより最近のデータと組み合わせ、現在の年間税収見込みをより正確に出すこととした。

2009年末における主要4通貨(ドル、ユーロ、円、ポンド)の出来高の見積もりを表2に示す。

 

表2 外国為替の年間出来高の見積額(2009年)(単位:米10億ドル)

米ドル

ユーロ

日本円

イギリスポンド

ドル/ユーロ 出来高 ユーロ/円 出来高 円/ポンド 出来高 ポンド/その他 出来高
現物

87427.85

現物

8020.80

現物

603.55

現物

4868.73

先物

28265.20

先物

2593.11

先物

195.13

先物

1574.05

FXスワップ

134996.11

FXスワップ

931.94

FXスワップ

7517.74

ドル/円 FXスワップ

12384.81

円/その他
現物

42290.16

ユーロ/ポンド 現物

4799.69

先物

13672.30

現物

6589.91

先物

1551.73

FXスワップ

65299.64

先物

2130.50

FXスワップ

7411.14

ドル/ポンド FXスワップ

10175.39

現物

28917.32

ユーロ/その他
先物

9348.90

現物

20618.01

FXスワップ

44650.84

先物

6665.75

ドル/その他 FXスワップ

31835.98

合計

年間

909,392

現物

113014.48

合計

一日

3,637

先物

36537.30

FXスワップ

174504.08

出典:国際決済銀行(BIS)(2007)、ロンドン外国為替合同委員会(FXJSC)、ニューヨーク外国為替委員会、東京外国為替市場委員会、および著者による計算。

 

この表から分かるように、一日の平均出来高は36,370億ドルと見積もられ、2007年に発表された3年ごとのBISによる調査(BIS Triennial Survey)結果から約20%の増加となっている。この間に、現在生きている人が記憶する中で最も深刻な金融危機が発生したにも拘わらずの増加である。

これらの出来高の見積額を表2に示すスプレッドと組み合わせ算出した、3つのシナリオにおける税収の見積額を表3に示す。各シナリオでは、(現在75%がCLSを通して決済されているのに対し)外国為替取引の87.5%が中央システムで決済されると想定した。基本ケースとして、価格弾力性はシュミット(Schmidt, 2008)に従い-0.43とした。

 

表3 CTT税収および出来高縮小の見積もり(2009

シナリオ1

シナリオ2

シナリオ3

年間税収(米10億ドル)
米ドル

28.63

29.42

21.34

ユーロ

12.75

13.13

9.22

日本円

5.76

5.94

4.12

イギリスポンド

4.47

4.57

3.57

世界

33.47

34.38

25.00

出来高縮小(%縮小)
現物

14.60

14.60

14.60

先物

14.60

11.68

14.60

FXスワップ

14.60

9.73

50.93

出典:上と同じ、スプレッドのデータはOlsen Financial Technologies

 

シナリオ1では、各通貨ペアでスプレッドは当然異なるが、3つの市場分野(現物、先物、FXスワップ)全てにおいてスプレッドは同じであると想定した。またこれら3つの分野における価格弾力性は同じレベルであると想定した。表3から分かるように、結果としてもたらされる世界全体での税収は334.7億ドルとなり、シュミット(Schmidt, 2008)が示したものと非常に近い数値となった。上述のように、20%の出来高の増加はスプレッドの縮小により相殺され、これらの想定の下では税収の見積額は概して変わらない結果となった。

シナリオ2では、先物市場とFXスワップ市場のスプレッドを現物市場のスプレッドからそれぞれ50%、25%増加させた。これは先物市場で流動性が最も低いこと(決済日が固定されているため)、またFXスワップ市場でも現物市場より流動性が低いことを反映してのことである。ここでは税収の合計は若干増加し343.8億ドルとなった。これはスプレッドが増加しCTT税率の占める割合が下がったため取引される出来高への影響が小さくなったことを反映している。

シナリオ3では、シナリオ1と同様に3種類の市場におけるスプレッドは同じと想定するが、FXスワップ市場における価格弾力性を-0.43から-1.5へと大幅に増やした。これは基本的には「感受性試験」であるが、FXスワップ市場からの大幅な資本移転の効果を示すことも目的としている。ここでは税収は大幅に減少するが、それでも250億ドルと多額である。

ここで重要なことは、これらの見積もりは取引の1区間にのみ課税される取引を対象としていることである。このため、ポンドが売られユーロが買われる場合、その全体の取引に0.005%の税が課税されるのであって、両方の区間それぞれに課税されるのではない。しかし、もし英国とユーロ圏の両方がCTTメカニズムに参加しているのであれば、両方の区間それぞれに課税しない理由はどこにもない。例えば、英国当局はポンドの売却に、ユーロ圏はユーロの購入に課税することができる。この場合、税収の見積額は当然大幅に増加する。結果として取引に対する税率が2倍になるため、出来高は大きく減少することとなり、このため税収が単純に倍になるわけではない。しかしCTTの対象となる主要通貨全ての両区間に中央徴収型CTTが課税されれば、世界的な税収の合計はここで示した見積額を大幅に超えることになる。

 

3.5.2 市場への影響

表3では、3つのシナリオにおけるCTTの市場に対する潜在的影響についても見積もっている。中心的な数値となった「14.6%縮小」は、シュミット(Schmidt, 2008)で算出された数値に近いが、この間起きたスプレッドの縮小を反映し今回の縮小度合いが若干増している。シナリオ2では、先物市場、FXスワップ市場の流動性が比較的低いことから、先物市場、FXスワップ市場ともに現物市場よりスプレッドを大きく想定している。ここでは、出来高への影響は先物市場、FXスワップ市場で低減されている。シナリオ3では、FXスワップの価格弾力性を非常に高い-1.5と想定した。その結果、出来高は大幅に縮小した(50%の縮小)。

これらの見積もりでは、外国為替取引の87.5%が中央システムで決済されると想定した。この小節ではこれ以降、この想定について議論していく。

世界的な外国為替市場における決済は、ますます中央集権化されてきている。この潮流を推進している要素が2つある。一つは、異なる標準時間帯、管轄区における外国為替取引に関わる決済リスクを金融機関が緩和しようと努めていることである。これは、取引の区間の片方で受け取りが行われる前に、対応するもう片方の区間で送金が行われた場合、不履行により取引が完了しないリスクが発生し、関係金融機関に深刻なリスクがもたらされるからである。第二に、グローバル金融機関同士の相互連関性は非常に高く、一機関の破綻は個々の機関に大きなリスクを与えるだけでなく、世界レベルで深刻なシステミックリスクをもたらす。このため、金融規制当局や中央銀行は2通貨を同時に決済する(PVP方式)形での中央集権化された決済を推進している。PVP方式は外国為替取引の両方の区間の送金を同時に行うもので、これにより「ヘルシュタット・リスク」[33]を排除することができる。外国為替市場における決済リスクを解決するために、現在までに取り入れられた主要な手段はCLS銀行の設立である。CLS銀行は一つの窓口で全ての標準時間帯における通貨取引をPVP方式で決済する機関である。

近年の世界金融危機により、システミックリスクの削減に向けた規制努力に拍車がかかっている。これらの勢力により、今後時間とともにより多くの外国為替取引が中央システムで決済されるようになる可能性が非常に高い。しかし、世界的な決済機関を通して適用されるCTTがこの傾向にどのような影響を与えるかが、未解決の問題として残る。ある機関にとってのこのインセンティブの規模を測るには、CTTの費用(つまりCTT税率×取引額)と他の決済形式に取引を移転させる場合の費用を比較する必要がある。後者の費用は次の4つのカテゴリに分類することができる。

第一に、CLSを通して取引するために確立された制度的インフラを放棄することによる直接的な固定費[34]がある。第二に、中央集権化されていないシステムを通して取引することにより、(a)効率性が劣る、(b)取引毎の費用が高くなる、(c)一日毎に取引を可能にするには相当高い流動性が必要となる、という問題から発生する追加的な変動費がある[35]。スプラット(Spratt, 2006)は、これらの変動費の節約によりCLS参加者が受ける恩恵は年間179.4億ドルに上ると見積もっている。これらの数値が見積もられた時期から取引額が大幅に増加したことを考慮すると、節約された額も増加していると考えられる。第三に、非PVPシステムでは取引相手側における不履行の可能性があるため、莫大な決済リスクが発生する。確率は低いが、実際に起きた場合にはその機関に破壊的な結果をもたらす。

第四に、これらの経済的要素は潜在的規制コストを伴う。外国為替市場における主要な取引先の不履行がもたらす影響によるシステミックリスクは重大である。これは2008年のリーマン・ブラザーズ破綻の影響により痛感させられた事実でもある[36]。提案された金融規制・監督改革は現在取り組まれている最中であるが、改革の結果、リスクが高いと考えられる活動(特にシステミックな影響が重大な場合)を阻止するため規制当局がより大きな権力を持つことになりそうな気配である。

中央集権化されていないシステムで決済される外国為替取引はまさにこのカテゴリに当てはまると見られる。当委員会の知るところでは、バーゼル銀行監督委員会では現在、中央システム以外で決済される外国為替取引はリスクがより高いことを反映し、そのような取引に対してより高い自己資本比率規制を適用する案を検討しているという。

中央徴収型CTTについて、デリバティブ(金融派生商品)がもたらす問題の多くは、国内徴収型CTTの関連で上述された問題と類似している。しかしいくつか異なる点もある。中央システムで決済される外国為替デリバティブは増加してきている。その方が市場参加者にとって経済的利益となるからである。その結果、一般的に好まれる決済システムを通したCTTの適用と上述の規制圧力の組み合わせにより、CTT適用における「従来の外国為替取引」と「外国為替のOTC(店頭)取引」の相違が少なくなっている。このため概して、中央決済システムを通したデリバティブ取引へのCTT課税は、従来のFX市場への課税と同じ課題を抱えることになる。

CTT支持者の間では、「従来の」外国為替取引(現物取引、アウトライト先物FXスワップ[37])は課税されるべきとの合意が形成されている。中央システム以外で決済される非従来型のFX取引については、話はそこまで明瞭ではない。全体としては、これらの契約の概念的価格に課税することは、次の理由から望ましくも可能でもないというのが当委員会の意見である。(a)デリバティブ契約のほとんどは実際の通貨の受け渡しを伴わない。(b)オプションが従来のFX取引と同じ税率で課税されると、過重課税の問題が起きる[38]。(c)デリバティブは従来のFX取引の完全な代用にはならないため、従来のFX取引のみが課税されても実質的な租税回避の機会を与えることにはならない。

当委員会は、特にFXオプションが実行された場合には現物市場で課税されるため、FXオプション契約へは課税しないことが正しいと考えている。しかし一方で、平等な競争条件を確保するために、オプションプレミアムには多国間CTTを課税すべきだと考える。OTCデリバティブからの税収は上記の見積額には含んでいない。

最後に、当委員会は、「CTTの納税回避のために複雑なデリバティブ商品が構築されるリスク」が誇張されていると考えている。金融革新は基本的に費用便益に基づく決定である。非常に低率のCTTはそのような商品の構築にかかる費用よりも低い[39]

さらに、英国の株式に対する印紙税と同様に、中央システム以外で決済される取引が法的に実施不可能となるように、租税回避を阻止する確固とした法的環境が整えられることになるだろう。

 

3.5.3 実現可能性

技術的な実現可能性が高い点が、中央徴収型CTTの魅力的な特徴といえる。例えばCLSでは、既に1,000,000ドルの取引毎に22セントという少額の税がかかる。これは0.000022%のCTTに相当する。CLSを通して0.005%のCTTを課税する場合、このインフラに便乗することができ、その場合既存の税率は0.005022%に増加することになる。

CLS銀行などの中央決済機関に頼る参加国は、それらの決済機関の領土管轄権を持つ国々に対して共同委任することにより、第三者徴税システム[40]を設置させることもできる。

中央徴収型CTTの実施には、国内徴収型CTTの実施より当然はるかに多くの国際的な法的取り決めが必要となろう。また、税の基本原則(「代表なくして課税なし[41]」や税の主権など)、実施上の法的原則(税の執行管轄区における領土権の原則)、国際的な原則(無差別待遇および、投資・貿易自由化の原則)に対する解決策が必要である。しかし当委員会は、これら全ての課題については国際課税のこれまでの経験を参考にすることができ、共同で適用されれば必要な解決策が得られると考える[42]

現在100%民間資本の世界的決済インフラを通して徴税する国際税を確立するためには、課税に関する相当な調整と連携が必要である。また、国際経済法の基準(特に既存の法定の資本・貿易自由化との適合性に関わる基準)に沿った設計が必要である。共通に合意された設計に基づき国際的な公共体のために徴税することを目的にCLS銀行などの中央決済・支払機関に共同の法的委任・指示を与えることにより、多重課税のリスクを解決することができるだろう[43]

国内徴収型CTTと同様に、(公認の)支払・決済機関を通して多通貨取引税を中央集権的に徴収することは、市場参加者によるコンプライアンスを促進し、また代替方法がより費用のかかるものとなるため、そのこと自体がインセンティブとなるだろう[44]

無差別待遇と自由貿易の国際原則の問題については、多通貨CTTでは通貨によって異なる扱いをすることがないため資産の差別という法的問題には抵触しない。

中央銀行は、中央銀行により独占的に発行される通貨に関して法定の「独占権」を持つ。このことは、(各国通貨が各参加国の管轄区内で唯一の法定通貨であるという)通貨取引における特定の法的側面と課税手法を組み合わせる、国際法上またとない機会を与えることとなる。このような強力かつシステミックな仕組みは、英国で発行される株式の取引に対する印紙税の場合と同様に、地理的な租税回避を完全に排除することにはならないにせよ効率的に阻むことになる。上述のように、税外の契約を実施不可能にするという英国の手法を活用して、この仕組みを強化することもできる。

 

3.5.4 安定性と適合性

中央徴収型CTTからの税収の安定性は、FX市場の発展、税の設計の強靭性、中央決済システムからの移転の度合いに左右されることになる。また中央決済システムからの移転の度合いは、移転を逆方向に押し戻そうとする中央銀行による監視行為を含めた、経済的手段、規制手段を使用した勢力の強さに左右される。

全体として中央決済に向かう勢力が強い場合、このオプションは他にも次のような長所を持つことになる。第一に、中央徴収型CTTは、国内での徴税、支出を避けることにより、その時々の税収の予測可能性を低くする「国内歳入問題(domestic revenue problem)」を克服することができる(訳注:国内で徴税された場合、これらの税収を差し迫った国内ニーズに充てようとする政治的圧力が高まり、開発資金のための税基盤が浸食されるという問題)。第二に、中央徴収型CTTは、グローバル決済時点で徴税することにより、上述の「世界的連帯のジレンマ(Global Solidarity Dilemma)」に対する解決策を提供するもののようである(訳注:グローバル経済の成長は地球公共財の費用を抜きに進められ、今日世界経済、社会、環境等のリスクを招き、逆にグローバル化の基礎を蝕んでいる、というジレンマ)。中央システムで決済される外国為替取引に低率の税を課すことは、税の帰着を世界経済における影響力と結び付けることにより、「徴税における不釣合い(asymmetry of revenue collection)」の問題をも克服している(訳注:金融機関の拠点国では税収が不相応に高くなる問題)。また、金融機関がCTTの負担の大部分を金融・法人顧客に転嫁すると想定すると、その影響は、経済市場参加者の市場への関与の度合いに応じて世界経済全体に市場ベースで均等に分配される。その結果、世界経済全体が地球公共財の供給のために低率の税を支払うことになる。これは地球公共財のための資金を調達するには適切な方法である。

別表4では、これらの評価の概要をマトリックス形式で示している。

 

3.6 主な提案

地球公共財のための資金調達源として最も適切なのは世界経済の経済活動そのものであり、その資金調達による影響度は国際システムへの関与の度合いに比例しているべきである。これは、「グローバル・コモンズ」の使用により得た金銭的利益について、世界経済システムに課される料金(fee)または課徴金(levy)であると考えることができる。その収益は世界公共財の資金源として使用される。これは、公平な人間開発と安定した自然環境という、システムの安定を支える地球公共財に対して世界的責任を果たすことに匹敵する。我々は、この料金を直接世界経済の全ての経済参加者に課すことを推奨しているのではない。我々が推奨するのは、最も利益を得ており最も貢献力のあるセクターが負担の重要部分を担うようにしつつ、費用負担が国際システムに広く分配されるような資金調達方法を見つけることである。

検討されたオプションは全て公共資金調達メカニズム案として価値があるが、これら全てが同等に上述の特定の任務に適しているというわけではない。我々はこの任務と、「国際開発および環境危機の緩和・適応のための安定した革新的資金源として最適な潜在的資金源を特定する」という当委員会に課せられた付託事項を直接結び付けている。

これは極めて重要な点である。世界経済は社会、環境の揺るぎない安定性なしにはその目的を果たせない。これを支えるための安定した長期的資金を提供できなければ、開発目標はいつまでも達成できないし、環境変化は驚くほど激しさを増すことになるだろう。その先にあるのは長期的な世界的安定ではなく、貧困、不平等、急速に悪化する環境により悪化し続ける社会不安であろう。

まず第一に、この理論に基づき我々は世界金融セクターが最も適切な資金源であると特定した。国際金融はグローバリゼーションと密接に結びついている。国際金融は世界経済の活力源である。世界経済活動と世界金融は共進化してきたもので、相互依存性が非常に高い。金融なしには今のグローバリゼーションはあり得なかっただろうし、その逆もまたしかりである。国際金融システムの成長はグローバリゼーションに依存している。

また、金融システムのいくつかの側面は、本質的に国際的である。最終的に、当委員会が全般的な金融取引税(FTT)、金融収益・報酬への課税(FAT)、金融セクターへの売上税の拡大(VAT)を推奨しない主な理由はここにある。これらの提案にはそれぞれ、特に国内の資金調達方法としてのメリットはあるものの、「世界的連帯のジレンマ」の解決と地球公共財への資金調達という任務には適していないと我々は考えた。これらの提案には全て国際的な要素が含まれるが、いずれも完全にグローバルなものではなく、国内レベルの金融活動に大きく頼っている。その結果、これらは「徴税における不釣合いの問題」と「国内歳入問題」の両方を抱えることになる。

当委員会は、金融市場の中で最も国際的に組織化され統合化された分野であり、投資、商品、サービスの国際決済に組織的構造を提供している外国為替市場が、この目的を達成するためのメカニズムとして最も適していると考える。国際通貨取引に課される低率の税の一部は、間違いなく金融機関からその顧客、他の金融機関(ヘッジファンドなど)、企業に転嫁されるだろう。これらの機関はさらにその顧客にコストの一部を転嫁する。この波及プロセスによって、世界経済活動における金融セクターを含めた各参加者の関与の度合いを幅広く反映する形で、コストの一部が国際経済全体に分配、共有されることになる。金融セクター内では、ヘッジファンドや投資銀行などのより頻繁に金融取引を行う参加者、および高収益で高い報酬を支払う参加者らは、全体の税のうち高い割合を負担することになる。またこの事実は、他のオプションと比べこの税が比較的公平であることを意味する。

本報告書では、2つの外国為替メカニズムが検討された。まず、「国内で徴収する単一通貨取引税(国内徴収型単一通貨取引税)」は、特に租税回避が困難であることと比較的容易に一国の管轄区内でメカニズムを設立できるという点で、明らかに重要な潜在性を有する課税メカニズムである。しかし、当委員会は検討の結果、この税は資金が国内レベルで徴収されるという点において、もう一つのオプションである「中央で徴収する多通貨取引税(中央徴収型多通貨取引税)」と比べ、地球公共財に資金調達するという任務には適していないと考えた。

中央システムでのグローバル決済時点で外国為替取引に料金を課す方法は、世界的連帯のジレンマの解決に直接取り組む方法となる。この案の最も重要な課題は、外国為替取引を中央決済から移転させるインセンティブをこの税が与えてしまう可能性があることである。しかし当委員会は、中央決済を促進する経済手段、規制手段を用いた勢力の方が、全体としてそのようなインセンティブに勝ると考える。

 

バーゼル委員会では既に、承認されたメカニズムを通した中央集権的な決済を使用しない取引に対する自己資本比率規制を採用することにより、中央決済システムがもたらす安定性の利益を内部化しようとするイニシアティブが存在すると聞いている。この要件は、バーゼル合意の第一の柱に追加されるか、第二の柱における監督の裁量のメカニズムを通してこのイニシアティブが取り入れられるかのどちらかであろう。後者の場合、バーゼル合意の改正を必要としない。このような動きは、もし正しく調整されれば、中央決済を促進する勢力をさらに強化することになる。

これらの勢力は、法的措置(例えば、下位指令で定める税の遵守に関する規定、確固とした反租税回避規制、税外取引の実施可能性に対する法的保護の欠如)と組み合わせれば、CTTの適用により発生する阻害要因を相殺するどころか、これに勝ることになるだろう。

さらに我々は、税を徴収した中央決済システムが、国際開発と環境危機への資金調達を担う機関にその税収を直接渡すことを推奨する。そのような機関がどのように機能するかについて、いくつかの提案を下に示す。

我々は「税(tax)」ではなく「課徴金(levy)」という言葉を意図的に使用する。上述したように、当委員会はこれらの税収を、「グローバル・コモンズ」へのアクセス、およびグローバル化した経済圏の富の共有へのアクセスを反映して、広く世界経済に課する「料金」であると捉えている。このため、これを「通貨取引税」と考えるのは適切ではなく、「世界連帯課徴金(Global Solidarity Levy)」と考えるのが適切である。



[31] 2002年、中央銀行と世界的民間銀行のコンソーシアムが、外国為替取引の決済をより確実なものにするため、多通貨同時決済銀行(Continuous Linked Settlement (CLS) Bank)を設立した。CLS銀行は、決済インフラの世界的中枢となっている。同銀行は他に類を見ない市場主導の機関で、市場参加者にネッティング(相殺決済)・決済サービスを提供し、世界の17主要通貨に制度的枠組みを提供している。CLS銀行には59の銀行が加盟しており、これら59行はCLS銀行を所有する持株会社であるCLSグループの株主でもある。CLS銀行の企業統治および、CLS銀行がどのようにデータ、リスク・エクスポージャー(リスクにさらされる度合い)、加盟銀行へのサービスの管理を行うかについては、これらの59株主銀行が責任を負っている。これら59加盟銀行に加え、現在合計7070の参加機関、参加主体がCLS銀行のサービスを利用している。これらの第三者参加者のうち、6620機関が投資銀行で、残る450機関は銀行、企業主体、その他銀行以外の金融機関である。このため、CLS銀行のネットワークの範囲は幅広く、同銀行が提供する外国為替決済サービスの範囲もまた、これらの機関や主体による外国為替取引に及んでいる。外国為替決済市場におけるCLS銀行のシェアが増加していることから、同銀行は将来的に外国為替取引の価格や出来高に関するデータの管理、収集を制度的に支配することになると考えられる。とはいえ、この市場シェアの成長は危ういものである。もし加盟銀行やその顧客が取引銀行間(二行間)などのより従来型の方法を使用する、または他の決済取り決めを使用するなどしてFX取引を決済するとの決定を下せば、このシェアは減少する可能性がある。しかし、CLSを通して決済を行う加盟銀行とその顧客金融会社・機関はリスク削減に関して多大な利益と相乗効果を得ており、外国為替取引に対する非常に低率の取引税を回避するためにこれらの重要な費用の優位性を犠牲にしたいとは恐らく思わないだろう。

[32] 潜在的税収の見積額については、国際決済銀行(BIS)の外国為替とデリバティブ(金融派生商品)取引に関する3年ごとの調査(Triennial Central Bank Survey of Foreign Exchange and Derivatives Market Activity)に頼っていることがほとんどである。しかし前回の調査は2007年であり、2010年の調査は当委員会の報告が終了した後に発行される予定である。この問題を解決するため、我々は、主要な外国為替取引センター(ロンドン、ニューヨーク、東京)の出来高データを照合し、これを元に世界レベルの傾向を推定することにより、世界レベルでの数値を見積もった。

[33] 「これは、時差により銀行間資金送金システムの営業時間が重ならないことによって起こる通貨間決済リスクである。この状況下では、一方の取引先側の決済が不履行となることで横断的な不履行の連鎖反応が起きる。1974年6月に、取引先からの支払いを受け取った後契約を決済すべき期間に破綻したドイツの小規模銀行(Bankhaus Herstatt)の名前にちなみこのように呼ばれる。」(BusinessDictionary.comより)

[34] 金融サービスIT調査会社であるタワーグループ(Tower Group)は、CLS加盟銀行、利用者、第三者が1999~2003年に既存または新たなITインフラに費やした費用は、1億8300万ドルだと見積もっている。

[35] スプラット(Spratt, 2006)は、CLSを通して処理される各取引の費用は他の方法に比べ相当に低く、これによりCLS参加者は6000万ドル以上の純益を得ているとしている。またスプラットは、CLSのネッティング(相殺決済)処理によって、流動性確保のための必要額(liquidity requirement、各機関がシステムに払い込む必要のある額の合計)が取引全体の総額の2%で済むという点も指摘しており、CLS参加者はこのメリットにより年間54億ドルの利益を得ていると見積もっている。またスプラットは、CLSシステムによって少ないスタッフでより多額の取引を行うことができるようになり、年間120億ドル強という大幅な効率向上につながっているとしている。

[36] ドイツ国有銀行であるドイツ復興金融公庫(KfW)は、リーマン・ブラザーズ倒産の日に3億ユーロを送金した。CLSを通さない取引であったため、KfWはドルの支払いを受けられず、ユーロの回収もできない事態となった。

[37] CLSによると、現物、スワップ、アウトライト先物の価格の75%がCLSを通して決済されているという。2009年10月にCLSにより決済された支払指図書の合計価格は一日平均3.766兆ドルであった。

[38] 通貨デリバティブの売り手にとって、そのデリバティブが有効な期間中管理し続けるということは、原資産の額の一部に関する現物取引が絶え間なく発生することを意味する。

[39] デリバティブを利用して、従来のFX取引に対する税を回避する方法は2つある。一つは、例えばローンと2つのオプション取引(コールとプット)を組み合わせることにより、デリバティブ商品を利用して現物取引を人工的に再構成することである。もう一つは、例えば通貨自体の代わりに二種類の通貨建ての流動性を有する証券(財務省短期証券のような)をスワップ取引することである。問題は、このような回避行為が行われる可能性はどの程度あるかという点である。これらの操作は純粋な従来のFX取引(現物またはFXスワップ)より費用がかかりリスクが高いため、従来のFX取引に対する税率が十分低く設定されていればこのような操作を行う価値は見出せないだろう。

[40] 多くの国の金融セクターに適用されている既存の印紙税、有価証券取引税、不動産取引税の経験がある。領土外の管轄区に関する発想は、これまでの経験から得ることができる。例えば、EU貯蓄指令(EU Saving Directive)における支払代理人(paying agents)システムが多数のオフショアセンターへ拡大されていること、仲介業者に資格を与えるという米国の考え方、また多くの管轄区における、賃金、配当、金利に対する国境を越えた源泉徴収税の負担義務に関する経験などがある。

[41] 国内の税務当局が徴税を監督するため、税のこの部分に関する民主的管理は国内レベルで行使されることになる。税の支出側については、これ以降に説明されるように、税収を受け取り資金を分配する「グローバル基金(Global Fund)」の統治構造により、民主的に管理することができる。

[42] 多通貨CTTでは明らかに、金融取引税(FTT)や単一通貨CTTよりさらに、各国間で税の適切な共通設計に合意する必要がある。これらの設計には、課税対象の取引と資産、課税対象の活動、税基盤と税率、納税者、徴税を委任・指示される金融仲介業者を承認するための基準についての、一致した定義が含まれる。各国は、二重(または多重)課税を避けるために、共通に合意された個人または対象領土の関連要素に従って税の徴収(を共同で委任すること)ができるよう、各々の課税の権利・権力に関する主権を共有することに合意しなければならない。しかし多通貨CTTでは、一国の通貨ではなく、参加管轄区内の外国為替市場全体が対象となる。つまり、取引に関与する通貨の種類、取引先(の住所)、仲介業者に拘わらず、全参加管轄区における全ての取引が課税される。このような税はその適用においてより中立的であり、全ての市場参加者にとって公平な競争の場を提供できる。さらに多通貨CTTでは、この共有メカニズムに参加していないが参加国の管轄区内で取引されている国の通貨が関わる取引に対しても、課税することができるのである。このことは徴税を行う決済機関レベルでの実際的な実施を大幅に簡素化、促進し、類似の単一通貨課税より多くの税収をもたらす可能性が高い。

多国間での導入では当然、課税の権利に関する摩擦のリスクや多重課税を排除できるが、海外にある領土外の課税執行管轄権(徴税)の委任、組織化を伴うことを意味する。適切な枠組みとしては、基本的な課税の特徴、定義、相互協力を含む多国間協定および/または地域的取り決めが考えられる。さらにこれらは各国で実施され国内法に統合されることになる。

[43] 参考:多くの国の金融セクターに適用されている既存の印紙税、有価証券取引税、不動産取引税の経験がある。領土外の管轄区に関する発想は、これまでの経験から得ることができる。例えば、EU貯蓄指令(EU Saving Directive)における支払代理人(paying agents)システムが多数のオフショアセンターへ拡大されていること、仲介業者に資格を与えるという米国の考え方、また多くの管轄区における、賃金、配当、金利に対する国境を越えた源泉徴収税の負担義務に関する経験などがある。

[44] 脚注22参照。(訳注)脚注22:コンプライアンスに関わる市場参加者の負担(徴税を担う公認の仲介業者を通さない取引を行う場合)には次のようなものがある―納税申告の提出、取引先への税の支払いと税の徴収、より詳細な報告を市場規制当局に行うことによる取引データの監視、税務当局による管理。税務当局による管理は、市場規制当局への報告および当局による監視に基づくもの、SWIFT(国際銀行間通信協会)や類似機関のメッセージシステムが要求する情報に基づくものが考えられる。また税務当局による管理は、(資金洗浄、テロリズムへの資金調達などの)不法な資金フローの領域における監視機能を持つ総合的な金融情報サービスとの協力の下行われることが考えられる。税収がEU予算に使用される場合には(EUの開発資金を含む)、欧州不正対策局(OLAF)が関わってくるEUの「経済的利害」保護のためのEU法もまた、適用されることになる。

 

 

 

 

原典: http://www.leadinggroup.org/IMG/pdf_Financement_innovants_web_def.pdf