国際連帯税とは何か?
●国際連帯税の基本的な考え方
世界では、貧困・感染症や気候変動・大災害の問題、さらには莫大な投機的短期資金が引き起こす金融危機の問題など、国境を超える課題が山積しています。これらのグローバルな課題に対処するためには、国際社会が協働して対応するシステムの構築が求められており、とくにそのために必要な資金の確保を可能とするメカニズムが必要です。
グローバルな課題のための資金は、従来、各国の政府開発援助(ODA)による資金拠出で賄われていました。しかし、ODAは2008年の金融・経済危機以降ドナー国の財政危機が重なり、その拠出総額が減少傾向となってきています。また、ODAは各国の国益に左右される性格を有しています。つまり、政権が変わるごとに援助政策が変わるという不安定性です。
これに対し、新たな資金メカニズムは、国益等に左右されない持続性を持ち、かつ予測可能性を備えていなければなりません。さらに一定の資金量の確保も求められます。こうした要件を満たすのは、地球規模の課税、つまり「グローバル・タックス」方式が最もふさわしいと考えられています。その課税権は、超国家機関による徴収または複数国によるシェアなどとして検討されるべきです。しかし、現実的には複数の政府から構成される共通の「地球規模課題を扱う国際機関等」へ税収の一部または全部を拠出、という形になると思われます。また、投機マネーの抑制には金融取引税が有効であり、これは他方で、相当額の税収を生むものとして注目が集まっています。
グローバル・タックスの仕組みは、経済のグローバリゼーションで受益している経済主体の、国境を越えて行う経済活動に課税し、その税収でもってグローバルな課題対策のための資金源とする、というものです。課税対象としては(つまり、国境を越えて行う経済活動で恩恵を受けている経済主体)、国際航空・船舶輸送、国際金融取引(外国為替取引)、国際電子商取引、多国籍企業(貿易)、武器取引などが考えられています。
グローバル・タックスの萌芽は、2006年フランスが率先して導入した航空券連帯税で、現在10か国ほどが同税を導入し、その税収の一部または全部をUNITAID(ユニットエイド:国際医薬品購入機関)という国際機関に拠出しています。UNITAIDとは、途上国のエイズ・結核・マラリアという3大感染症治療のための医薬品や診断薬を購入する機関です。
●国際連帯税の誕生<2006年>
国際連帯税の誕生は、2002年の国連開発資金会議(モンテレイ)まで遡ります。同会議で、ミレニアム開発目標(MDGs)達成のためには、ODAだけでは不十分という認識の下、革新的資金メカニズムの必要性が議論されました。こうした議論をもとに、その翌年、フランスでランドー委員会が設置され検討されることになりました。
ランドー委員会は、シラク大統領の諮問機関として設置され、委員長にはジャン=ピエール・ランドー氏(会計検査院委員長)が就任し、政府、IMF、経済界、大学、NGO出身の15人で構成されました。2004年8月「ランドー・レポート」が提出され、環境税(炭素税、航空・海上輸送税)、航空券税、金融取引税、多国籍企業への課税、武器取引税など、国際課税方式による資金メカニズムを主張しました。
◇ランドー・レポート:
http://www.diplomatie.gouv.fr/en/IMG/pdf/LandauENG1.pdf
このランドー・レポートを受けてフランスはブラジルなどとともに2006年3月「革新的資金調達に関するパリ会議」を開催し、「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ(以下、LG)」を設立しました。当時このLGには38カ国が参加しました。同年7月にフランスが航空券連帯税を導入し、9月には5カ国を設立国とするUNITAID(ユニットエイド)が創設されました。UNITAIDの予算は主に航空券連帯税で賄われます。
●日本:国際連帯税創設を求める議員連盟の設立<2008年>
日本では2007年頃より国際連帯税に関する関心が高まり、2008年2月、超党派の「国際連帯税創設を求める議員連盟」(以下、議連)が設立され、初代会長は津島雄二衆議院議員(当時)、幹事長は林芳正参議院議員、事務局長は犬塚直史参議院議員(当時)が就任しました。
議連の当初の活動目標は、①リーディンググループ(LG)のフルメンバーになること、②LGの議長国となり総会を日本で開催すること、③国際連帯税を日本で導入すること、でした。その後、①は2008年中に、②は2010年に実現しました。後は③のみです。
●その後の経緯と最新情報
LGとUNITAIDは大きく拡大しました。前者は65カ国に、後者は28か国に拡大。が、航空券連帯税導入国はまだそれほど増えていません。一方、LGは2010年に「国際金融取引タスクフォース」を組織し、専門家委員会からグローバル通貨取引税の答申を受けました。具体的には、主要国の通貨取引に0.005%課税し、税収をグローバル連帯基金として使用するというものです。このグローバル通貨取引税の提案が、2011年欧州委員会による金融取引税の提案につながりました。
日本では、2010年に政府税制調査会が専門家委員会の下に「国際課税小委員会」を組織し、本格的な検討が行われましたが、税制改正大綱では「今後とも真摯に検討を行います」との表現にとどまりました。2012年には総選挙で政権交代となり、議連の役員・会員メンバーもずいぶん変わりましたが(2008年の創設から衆参両選挙がそれぞれ2回ずつ行われる)、引き続き国際連帯税実現のため奮闘しています。
今、世界ではグローバルな課題がいっそう増大し、それに対応するための資金の必要性が高まっています。2015年を達成期限とするMDGsの第2ステージである「ポスト2015開発アジェンダ」の資金について、気候変動対策のための適応資金について、さらに大地震等の災害等への資金について、民族紛争や資源戦争等に対処する平和構築のための資金について等々、枚挙にいとまがないほどです。
しかし、それらの資金供給が先細ってきています。それは先に見たドナー国の財政危機からODA拠出が減少してきているからです。こうした状況に対し、今、世界的に革新的資金メカニズム(国際連帯税・金融取引税)への関心が高まっています。なかでも、現在欧州11カ国で導入に向けての準備が進められている金融取引税です。
●金融取引税と航空券連帯税については、以下をクリックして下さい。