モンテレイ精神の維持 開発資金アジェンダと未完事項
2008年6月
CIDSE(開発と連帯のための国際協力)政策文書
はじめに
「我々の目標は、完全に包含的で公平な世界経済システムを達成しつつ、貧困を克服し、持続的な経済成長を達成し、持続可能な開発を推進することである。」[1]
2002年のモンテレイ開発資金国際会議は、リオデジャネイロ(1992)、ウィーン(1993)、カイロ(1994)、北京(1995)、コペンハーゲン(1995)における国連サミットでこれまで発表された全ての世界的公約を実施するための資金調達に関する、堅い決意と明確な戦略をもたらすことを目的に開催された。2000年の国連ミレニアムサミットおよびそれに続くミレニアム開発目標の策定は、「21世紀が万人のための開発の世紀になることを保証する」(モンテレイ合意第3項)ために緊急行動が必要であるという気運を非常に象徴的な形で高めるものとなった。
この目標を達成するため、モンテレイ合意(以下MC)では、相互に連結した世界的課題に取り組む国内、国際的な政策努力を含めた「全体論的アプローチ」(MC第8項)を明確に求めている。これらの取組みは「途上国の完全かつ効果的な参加」(MC第7項)の上に築かれた「先進国、途上国間の新しいパートナーシップ」(MC第4項)に基づき、「公正、公平、民主主義、参加、透明性、説明責任、包含の原則に基づいた国内および世界経済システム」(MC第9項)を目指す必要がある。2008年11月29日~12月2日にカタールのドーハで開催される「モンテレイ合意の実施を評価するための開発資金に関するフォローアップ国際会議(Follow-up International Conference on Financing for Development to Review the Implementation of the Monterrey Consensus)」(以下「ドーハ・レビュー会議」)は、モンテレイ合意の実施に関する進展、障害、新たな課題を評価するための重要なステップである。同会議が全体論的アプローチとモンテレイのアジェンダの緊急性に忠実であり続けることが非常に重要である。同会議は首脳レベルで開催されるべきであり、2002年のモンテレイ会議と同様の透明性を確保し、市民社会を含む利害関係者全員の参加の下で準備されなければならない。
カトリック教会の開発団体のネットワークであるCIDSEは、効果的な参加とパートナーシップに基づいた完全に包含的で公正な万人のための世界的開発というモンテレイの目標を共有している。しかし私達の見解では、このパートナーシップは「新しい」ものではない。これは時代や場所を超えた、男性、女性、子どもの間の基本的な関係である。2008年1月1日の世界平和の日に教呈ベネディクト16世がメッセージの中で想起したように、神に創造され、神の創造物としての私達の責務において、また神に提供された命の豊かさを共有するという私達に共通の宿命において、全人類は一つの共同体、「人類という家族」を築いくものである。この基本的概念は世界的開発の広範囲にまで影響を与えるものである。開発は、連帯、富と権力の公平な分配、資源の慎重な使用に基づく必要がある。開発は、全ての人が公正、公平な立場で協力できるものでなくてはならない。包括的な人間開発の一環としての経済発展は、現在では地球規模となった公益が必要とする要件に、効果的に対応することができなければならない[2]。
本文書はこれらの原則に基づき、ドーハ・レビュー会議に対する私達の結論および提案を示している。本文書では、「完全に包含的で公平な世界的経済システム」(MC第1項)の枠組みにおいて、貧困の克服、持続的な経済成長、持続可能な開発という全体目標を達成するために必要不可欠であり緊急に取り組まれる必要があると私達が考える主要課題を中心に取り上げている。この中では、モンテレイ合意の各章において(国内資源、民間のフロー、貿易、政府開発援助(ODA)、対外債務、システミック・イシュー(構造的問題))、取るべき行動についても言及している。
I. 脱税と資本逃避からの国内資源の保護
「開発のための国内資金源を動員する」という言葉が、モンテレイ成果文書に書かれた6つの行動提案の一項目として示されている。これには正当な理由がある。このような資源を動員することは、開発の資金調達のためだけでなく、国内、国際レベルでの民主的な説明責任と参加を強化するために、開発にとって不可欠である。このため、課税および税公正、関税、印税は、国内資源の動員だけでなく、外国民間投資、貿易、援助、対外債務、システミック・イシューに関わる分野横断的な問題なのである。
租税(および程度は異なるが関税、印税)は、自らが依存する社会の公益に市民や企業が貢献する主要な手段である。この基本的な仕組みが正しく機能して初めて、民間投資や貿易は貧困層の利益となる成長と開発を推進できるのである。またこの仕組みは、一国が自立した、対外援助フローと持続不可能な借り入れから独立した国として、その自立性を維持するために必要な前提条件である。
寛大な富裕国からの対外援助に依存する本質的に貧しい国々という、広く知られたイメージは誤っている。ほとんどの途上国は、国内に天然資源、人的資源という富を保持している。重要な問題は、これらの資源が全人口、特に貧困層の利益となる公共財の資金源として使用されるのを妨げる障害が、国内、国際レベルにおいて存在することである。国連は、途上国からの純資金移転は、流出額が最大だった2006年には年間6,580億米ドルに達したと見積もっている(UN, World Economic Situation and Prospects 2007, New York 2007, 58f))[3]。同期間のOECD(経済協力開発機構)加盟国からの援助は、1,039億米ドルであった[4]。世界貿易機関(WTO)の統計によると、世界貿易の50%以上が同じ会社または持ち株会社所有の会社の系列会社間で取引されるグループ内取引であり[5]、そのほとんどがタックスヘイブン(租税回避地)に事業体を置いている。「資本逃避の削減」は、モンテレイ合意で言及されており(MC第10項)、2005年の世界サミット成果文書[6]でも「国内資源を動員する権能を与える国内環境を作るために」必要な取り組みであると繰り返されているが、上述の事実は国際社会が資本逃避の削減に真剣に取り組んでいないことを示している。
私達は、国内資源の効果的な動員と利用を妨げている障害には、以下のようなものがあると考える。
1. 金融市場のグローバリゼーションおよび自由化を原因とする自由な資本移動の増加のために、資本の追跡と規制が欠如している。このため、途上国および先進国における資本への課税および、危機の際の資本逃避規制が難しくなっている。資本への課税による税収が低くなることによって、消費と賃金に対する課税の圧力が高まり、特に貧困層と女性への負担が相対的に高くなる。資産家の資産がタックスヘイブンに保管され課税不可能となっていることによる税収の損失は、低く見積もっても途上国だけで年間約500億ドルに上る[7]。
2. 各種のインセンティブ、休日、手当に関する措置を通して外国投資家を誘致する招致国が課税競争を繰り広げている。この競争は多国籍企業(TNC)が自社の納税を最小限に抑えるために利用しており、法人税に関する「底辺への競争」を招いている。また公共支出を削減し、累減的な効果を持つ税、特に消費税を増額する圧力を各国政府にかける結果となっている。同様に、国内の企業家は免税を受けた外国企業に対し不公平な競争を強いられることが多い。
3. TNCは政府間の課税競争により優遇税制措置を受けるだけでなく、自社の複数の系列会社間で行われる相当量の取引をうまく利用し、納税を回避するために複雑なミスプライシング戦略を構築している(つまり、振替価格操作)。例えば、TNCは税金の高い国から税金の低い国に収益を移転するために、企業内の資本構成を操作している。TNCの年次報告や会計基準は、企業が活動中の地域に関しても、関連する年間の総売上高、収益、納税額に関しても、正確な情報を提供していない。これらの偽造価格構造および歪められ操作された資本構成は、透明性の欠如と相まって、脱税の主要な抜け道を形成している。この結果途上国が被った年間損失額は、2000年には500億米ドルと見積もられている。これは同時期の世界のODA合計額に匹敵する[8]。
4. 節税のためのシェルターを提供するオフショア金融センター(OFC)の重要性が高まっている。国際通貨基金(IMF)によると、このようなOFCは1970年代の25カ所と比較して、現在では52カ所以上存在する[9]。税公正ネットワークは、11.5兆米ドルがオフショア金融センターに保管されていると見積もっている[10]。さらにオフショアシステムは、主に貧困層に影響を及ぼす金融の不安定と金融危機の一因となってきた[11]。
5. タックスヘイブンにおける司法の実態の遅れが、資金の不法な流出と腐敗のシェルターとなっている。独裁者や官僚に略奪された資産は多くの場合、銀行秘密、トラスト、財団その他の匿名性を許す特別目的媒体の陰に隠されている。富裕国間を含め、司法の協力が大幅に強化される必要がある。またどのような種類の法人についても、実際の所有者情報を司法当局、税務当局が入手できるようにする必要がある。不法な資金の本国への送還は、切に必要とされている開発資金の提供に大いに役立つ可能性がある[12]。
6. IMFや世界銀行などの国際金融機関および援助供与者からの助言や融資条件は、貿易自由化、資金フローの規制撤廃、外国投資を誘致するための租税控除、財政引き締めに向けて途上国に圧力をかけるものがあまりにも多い。このような政策は、保健、教育、需要主導型の経済刺激プログラムの実施に対する支出を増額するために、切に必要とされている財源を適切に動員する努力を妨げるものである。ほとんどの途上国では、外部から強いられた貿易の自由化によって失われた関税からの多額の税収を、租税で賄うことができない[13]。失われた税収を賄うために、消費税や労働所得税などの移動性の低い税基盤に対する課税が増額されることが多く、これらは累減的な性格を持ち特に貧困層に大きな打撃を与える。ブラジルでは、1996年から2001年の間、労働所得税は27%増加し社会保険料は66%増加した。一方、法人税は16%減少し、地方の所有地に対する税は半減された[14]。
7. 財政において、公共支出および歳入創出政策全般、特に課税に関して、ジェンダーの問題が十分に考慮に入れられていない。男性と女性では、課税および財政の目減りにより受ける影響が異なる。それは、男性と女性では、環境、所得、無報酬の仕事に関する社会経済条件や状況が異なり、資源の入手可能性と処理が異なるからである。またジェンダーに特定の行動にも違いが見られる。
主に腐敗に対する取組みに限って言えば一定の進展があったとはいえ、上述の評価は正しいものといえる。世界銀行によると、「犯罪活動、腐敗、脱税による、国境を越えた収益のフローは、世界で年間1兆~1.6兆ドルと見積もられている」[15]。汚職資金問題に対処する国際社会の関与が強化されたことを示す取組みには、2005年に発効した国連腐敗防止条約(UNCAC)、世界銀行統治・対腐敗戦略(World Bank Governance and Anticorruption Strategy)、2007年9月に世界銀行と国連が開始した不正蓄財回収構想(Stolen Assets Recovery (StAR) initiative)などがある。しかしStAR構想は、腐敗により蓄財された約200~400億米ドルの資金に焦点を合わせており、脱税により生じた多額の不法な資本フローは対象となっていない。
節税と脱税については、IMF職員によるオフショア金融センターに関する評価は現在までのところ26司法管轄区を対象として行われている[16]。OECDレベルでは、租税委員会(Committee on Fiscal Affairs)、税制・税務行政センター(Centre for Tax Policy and Administration)、課税に関するグローバルフォーラム(Global Forum on Taxation)が国際的な課税問題を扱っている。それにも拘らず、OECDはこの点において途上国が直面している問題にほとんど注意を注いでおらず、非協力的なオフショア地域のリストからはほとんどの行政区が取り除かれている。2000年以降に同リストから消された国の政策が、実際に変更されたという証拠はほとんどない。しかし現在ブラックリストに掲載されているタックスヘイブンは、アンドラ、リヒテンシュタイン、モナコの3カ国に過ぎない。同様に、金融活動作業部会(Financial Action Task Force (FATF) )はマネー・ロンダリング(資金洗浄)に関して非常に貴重な提案を策定したが、FATFと関連する地域当局は、加盟国からの非公式な圧力以外にその実施を保証する仕組みをほとんど持ち合わせていない。
税収に関する途上国を巡る状況は全般的に暗いままである。脆弱な税務行政や大規模なインフォーマル部門などの国内問題に加え、この極めて重要な問題の根源的な原因は、脱税と資本逃避という世界的課題に取り組むための国民の意識と政治的意思が欠けていることである。対腐敗、金融セクターの監視、課税の問題に取り組む上述のイニシアティブでさえ、この問題にまったく取り組んでいないか、激しい反対を受け有効な施策の代わりに見せかけに過ぎない取組みを行う程度の結果に終わっている。
このため、途上国が最大限の政策余地の中で扱うことのできる資金源の保護と増額は、引き続き重要なアジェンダであり続けているのである。
提案
国内資源の動員を可能にする環境を整えるために取るべき主要行動は、以下の通りである。
(1)既にモンテレイ合意で示唆されたように、タックスヘイブンおよび脱税の克服を含め、税務、財政問題におけるより効果的な国際協力を保証する。この協力は以下を含む必要がある。
- ドーハ成果文書の一部として、経済社会理事会(ECOSOC)の税問題に関する小委員会により策定される国際的な脱税・節税克服のための協力に関する行動規範を採択する。この行動規範には、以下の主要点が含められるべきである。
- 例えば銀行秘密規定を制限するなどの、金融問題に関する透明性についての要件。
- 税務当局間の、包括的かつ自動的な情報交換に関する協定。
- 秘密に付された条件を持つトラストなどの、課税の実施を混乱させることを意図した合法的投資手段の設立を回避することに関する公約。
- 銀行その他の金融仲介機関については「顧客を知る(KYC:know your customer)」規定、企業その他の法人については「株主を知る(know your shareholder)」規定に関する、新興の基準の準拠。
- 大口の現金移転に関する規定などの、報告規定の採択と実施を約束する公約。
- 国連税金問題における国際協力に関する専門家委員会(UN Committee of Experts on International Cooperation in Tax Matters)を、特にOECDによる既存の国際的取り組みを拡大する政治的な代表に基づく政府間委員会に格上げすることにより、国際的な税務に関する協力を強化する。格上げの際には、同委員会に割り当てられる資金を大幅に増額すべきである。また、国際税務機関を設立するという提案が真剣に検討される必要がある。
- 国際会計基準の一環として、一部のセクターだけでなく全てのセクターのTNCに対して国別報告を義務付ける。これにより振替価格操作の可能性が大幅に低減できる。現在、貿易関連投資措置(TRIM)協定により禁止されている、現地調達や貿易の均衡に関する要件などの受入国による要件を、再度導入できるようにすべきである。これらの措置は振替価格操作を阻止できる可能性があるからである。
(2)途上国が富の再分配と保健や教育などの公共サービスへの資金調達を保証できる累進課税を導入できる政策の余地を保証する。また、課税スキームの社会的およびジェンダーに対する影響評価を支援する。
(3)以下の要素を含め、各国間の司法協力を強化する。
- 腐敗や公共資金の横領だけでなく、脱税の疑いのある人物に関して、外国の司法当局、税務当局に要求された場合、銀行の情報を提供することを義務付ける。
- 受取り側の国が、本国送還の司法手続きを開始できるか否か、または開始する意思があるかないかに拘らず、着服された資産を本国へ送還することを義務付ける。
(4)金融センターおよび国際金融構造の監視監督に関する、国際通貨基金(IMF)の責任を強調する。この責任を果たすためにIMFは、同機関が発行する国際基準の遵守状況に関する報告書(Reports on Observance of Standards and Codes (ROSCs))において、非居住者の顧客に代わり資産を扱う金融センターである管轄区域が、国際的な金融の透明性および効果的な情報交換に関する基準を遵守しているか否かについて、報告すべきである。
II. 革新的な開発資金源
国際的な税公正に密接した関係を持つ課題には、現在「革新的な開発資金源」という名の下に議論されている課題がある。これらの課題には、開発資金のための連帯税に関するリーディンググループ(Leading Group on Solidarity Levies to Fund Development)の設立などの前途有望な展開を含め、注目が高まっている。これらの議論は(国際金融ファシリティ(International Finance Facility)、事前買取制度(Advanced Market Commitments)などの)革新的な資金源を創出することに重点を置いているが、提案の中には、グローバリゼーションがもたらす利益の公正な分配の問題や、国際税によって地球公共財の費用を賄うといった問題を扱っているものもある。CIDSEは航空燃料、炭素、金融取引全般および通貨取引(通貨取引税(CTT))に対する課税の提案、および航空券税に見られるこれらの税の実施に関する最初の進展を歓迎している。
1. 通貨および金融取引税
CIDSEは、スパーンによる二重構造の通貨取引税(CTT)[17] 案を長年にわたり推進してきた。CIDSEが同税案を支持するのは、同税がより公平な富の分配を実現する可能性を持つため、また開発資金の創出と同時により安定した金融状態を支える施策としての可能性を持つためである。加えて、同税は税負担を労働所得税や消費税から資本に対する課税に移すことに寄与し、税制全体をより公平なものにする働きがある。
これは1994年にポール・ベルント・スパーン(Paul-Bernd Spahn)(当時フランクフルト・アム・マイン大学の経済学教授で、IMF専門家)が提案した税案である。この案は、税収を得ることを目的とした非常に低率で単一税率の税(0.01または0.02%)、および為替レートの変動速度からその通貨が投機的な通貨流出の対象となると考えられる場合に課せられる一時的な懲罰的税率(50~100%)という、二重構造を持つ[18]。
モンテレイ以降、CTTの提案に関する議論の機運はさらに高まり、多くの国にわたり国内および国際的に実現可能な選択肢として広く受け入れられてきている。いまや同税の実施は政治的意思の問題であることは明らかであり、実施すべきときが来たといえる。非常に低い税率のCTTは一国または単一の通貨圏で導入することができ、投機攻撃に対抗する非常に高い税率を持つ二番目の措置は単独で導入できる。
開発資金のための連帯税に関するリーディンググループによる近年の発行物や議論では、0.5ベーシスポイント(0.005%)という非常に低率の税を特定通貨の全ての取引に課税する「通貨取引開発税(Currency Transaction for Development Levy (CTDL))」が提案されている。この税は、市場のひずみや租税回避の可能性を最小限に抑えるために、取引される地域に拘らずその特定通貨の取引全てに課税される。この提案は、CTTの導入に関する長期的な展望を維持しつつ、税の実施に関する経験を得る第一歩としてパイロット・スキームの役割を果たせる可能性がある。
通貨のスポット(直物)取引以外の金融商品を使用した取引の重要性が高まる形で金融市場が発展する中、オーストリア政府の支援を受けてオーストリアの研究所が全般的な金融取引税(Financial Transaction Tax (FTT))の実現可能性と効果に関する調査を行った。通貨取引のみならず、株式、債券などと関連デリバティブ(金融派生商品)(金利契約、先物取引、オプション)を含む全ての金融取引(スポットおよびデリバティブ)を含めることにより、税基盤が拡大する。このため低い税率を保ったままで多額の税収を得ることができる。この税は短期取引への影響がより大きくなるため金融市場の安定に寄与する可能性がある。
全ての主要経済大国における金融資産の取引全般に対する課税は、いくつかの主要なEU加盟国においてスポットおよびデリバティブ取引に対する課税に限定して実施し、後にこれを拡大していくという、段階的なFTTの実施プロセスの最終段階と位置づけられる。
今後の国際レベルにおける一層の議論および研究は、FTTの実施の詳細に集中して行われるべきである。
2. 航空券税
開発資金のための連帯税に関するリーディンググループによるイニシアティブとして、いくつかの国によって航空券税が導入されている[19]。同税は、航空産業に悪影響を与えない最低限の妥協案として、低い税率が採用されている。この税は現在、途上国におけるHIV/エイズ、マラリア、結核治療のために新たに設立された仕組みである国際医薬品購入ファシリティ(International Drug Purchasing Facility)のUNITAIDを通して、結核、エイズ、マラリアに対する医薬品調達の資金源となっている。
航空券税の導入は、その体制において、国および市民社会の代表を含む北と南が対等な立場で開発資金を創出し管理する共同行動の経験を積む一助となる、興味深いパイロット・プロジェクトである。この取組みは、一国または一地域が単独で、もしくは主導的な国家の連盟が、国際税に向けた第一歩を踏み出せることを証明するものである。しかし、現在の航空券税が効果的な仕組みになるには、以下の点について改善が必要である。
1. 負担は任意ではなく義務付けられるべきである。
2. 環境コストを内部化し、個々人の行動に影響を与えるためには、航空券税の税率を十分に高く設定する必要がある。それにより税収も大幅に増額できる。
3. その重要性を増すには、より多くの国を含む国際社会の支持を得る必要がある。
全ての革新的メカニズムにより創出された資金の割り当てにおいては、その資金の受益国のオーナーシップという原則が尊重されるべきであり、受益国は重荷となるどのような形の融資条件も強いられるべきではない。資金は、持続可能な開発のための包括的プログラムに割り当てられるべきである。援助供与者が定義する資金割り当ての基準の範囲が狭すぎれば、受益国のオーナーシップが損なわれ、そのような援助は恐らく受益国のニーズと重点事項に対応できないものになるだろう。
提案
ドーハ・レビュー会議では、これまでの革新的資金源に関する成果と議論を基礎に、以下の行動を取ることによりさらなる前進に向けて措置を講じるべきである。
- CTTを含む国際開発税に関する課題をドーハのアジェンダに含めること。
- 以下に関して明確な公約を行うことを目指すこと。
- 国連大学世界開発経済研究所(United Nations University- World Institute for Development Economics Research (UNU-WIDER))に対して金融取引税の実施に関して研究するよう要請する。
- 実施経験を得るために低率のCTTまたはCTDLを実施するためのパイロット・スキームを導入することに合意する。
- 革新的資金源から得られる資金を管理する体制が、国内、国際レベルにおける資金の活用において透明性、説明責任、利害関係者の参加を保証するものであるようにすること。このことは、開発のためのグローバル・パートナーシップをより実質的なものにすることになるため、ミレニアム開発目標(MDG)の目標8の実現に寄与することになる。
- 革新的資金源の追加性を公約すること。
- 航空券税の規制効果の側面をさらに重視すること、開発資金のための連帯税に関するリーディンググループをさらに強化すること、UNITAIDの体制をさらに改善することを公約する。これらの強化改善には、費用効率および有効性の改善、医薬品の配布を超えた持続可能な開発のための資金活用、国際開発のイニシアティブに資金供給するリーディンググループによる航空券税イニシアティブに対するより多くの国々の参加などがある。
- 新たな資金調達手段は、少数の国で実施するよりも、多国間ベースで実施することによって、その効率性を高め規模を拡大することができる。また、これらの新たな仕組みにより創出された資金がどのように活用され管理されるかを決める制度的枠組みが必要である。国連は、これらのイニシアティブのいくつかについて議論し、支持を獲得し、実施を助ける促進者の役割を維持すべきである。しかし、多国間協定を通して、いくつかの種類の資金源をより汎用的に使用することを模索する価値はある。革新的資金源とその管理に関する取組みは、そのガバナンスを多国間の国連機関として制度化することによって、改善できる可能性がある。
VI.フォローアップ・プロセスの強化
モンテレイ合意は結果ではなく、出発点となるよう意図されたものであったことを強調することが重要である。ここで発表された約束やコミットメントは、「モンテレイの精神」に具象化されているように、継続的な対話と全ての利害関係者による取組みを通してのみ実現されるところが大きい。モンテレイ合意の重要な功績は恐らく、そのような対話の枠組みを作ったことであろう。
しかしこれは、各国政府によるコミットメントの度合いが、成果文書で使用される言葉遣いよりもフォローアップ・プロセスの力強さによって量られるべきであることを意味する。
CIDSEは初期のモンテレイ・プロセスに取組み、そのフォローアップに定期的に参加してきたが、このプロセスに対するコミットメントが薄れていることを懸念している。この煮え切らないコミットメントを象徴する最近の出来事として、首脳レベルでのドーハ・レビュー会議の開催が合意できなかったことが挙げられるが、それだけではない。事実、ECOSOCのハイレベル対話と国連総会は牽引力をますます失ってきており、国連以外の利害関係者はこれらの成果の政治的価値が不明確なため無視しがちである。
また市民社会は、フォローアップ・プロセスの最近の段階において、重要な利害関係者として意味のある関与の場を与えられていない。これは地域準備会議において特に言えることで、市民社会は事前にこれらの会議について通知を受けることも招聘されることもなかった。開発資金プロセスへの多様な利害関係者の参加という方式に従い、このような通知や招聘は行われるべきであった。
不調なプロセスを背景に、フォローアップの強化ができなければ、モンテレイの精神の喪失につながり、その公約全ての価値が下がることになる。このため私達は、ドーハ・レビュー会議で合意されるフォローアップの力強さを最も重要視しているのである。
提案
CIDSEは現在のフォローアップ・プロセスを、少なくとも以下に示す5つの特徴を持つ、制度化された新たなメカニズムに置き換えることを提案する。
1.定期的に、高い頻度で会合すること。
2.交渉による成果を出すこと。私達は、交渉を行わないフォローアップ様式から、交渉を行うフォローアップ様式へと移行しなければならない。
3.この制度化されたメカニズムは最高レベルで取り組まれるものであること。これは、特に加盟国の主要な経済関連の地位に着く高級官僚を含む政府の参加に加えて、国際金融機関および世界貿易機関の最高指導者、ならびに関係する全ての開発主体の参加を含む。
4. 開発資金プロセスの開始段階からそうであったように、市民社会は参加の機会を与えられるべきである。ドーハ会議準備プロセスの最終段階において、進行全てに市民社会が完全に参加できるようにすることにより、国内、地域、国際レベル、および会議自体における市民社会の本プロセスへの参加が推進されるべきである。
5. 開発資金プロセスが、真に多様な利害関係者が参加するプロセスとなることを保証するために、情報の入手可能性、および市民社会を含む全利害関係者の交渉への参加を推進する必要がある。
さらに、この制度化されたメカニズムは、開発資金問題への取組みを強化した国連事務局に支援される必要がある。
このような成果を達成する具体的方法の一つとして、国連総会およびECOSOCにおける既存のフォローアップ・プロセスを置き換える開発資金委員会(Financing for Development Commission)を設立することを提案したい。モンテレイの精神を保持するために、同委員会には全ての関連する利害関係者からの参加者が含められる必要がある。また、市民社会と民間セクターの参加というECOSOCにおける方式と同様の方式が採用される必要がある。
開発資金委員会は、モンテレイ合意の実施の進展を評価するため、定期的(毎年または半年毎)に会合を持つべきである。出席者には財務担当大臣、貿易担当大臣が含められるべきである。同委員会は、全ての利害関係者により協議されたアジェンダに基づいて会合すべきである。また、モンテレイの精神を保持するために、全ての政府に合意され、関連する機関利害関係者の支持を得た成果文書を発行すべきである。
国連総会は「開発資金委員会」を、日々のフォローアップ事項に関する国連事務局の政府間カウンターパートとなる形で、また他の機関利害関係者との協力関係を維持する政府間の要となる形で設立すべきである。
開発資金フォローアップ・プロセスの事務局における必要物に現在当てられている資金は、定期的に協議される開発資金委員会の成果文書の策定に当てられるべきである。また、国連事務局、国連総会の開発資金委員会、ブレトンウッズ機関の加盟国、WTOその他の関連する利害関係者が同委員会の定期的会議を準備するためのプラットフォームとして、事務局が設置される必要がある。
結論
CIDSEは、モンテレイに向けたプロセス、モンテレイ会議、現在の「ドーハへの道」フォローアップに参加してきたが、モンテレイ合意の精神を実現するためにやるべきことは未だ多くあると確信している。同時に、ドーハ・レビュー会議およびその成果文書においては、変化する世界経済および財政の現状と、このような変化の開発資金アジェンダに対する影響を無視することはできない。
本文書では、モンテレイ・アジェンダの状況を検討し、ドーハ・レビュー会議およびそれ以降に取るべき行動に関する提案を行った。CIDSEは、このアジェンダを実現する野心的な成果文書が発行されることが、まさしくモンテレイの精神に対するコミットメントの証明になると考えている。
[1] United Nations (2002), Monterrey Consensus of the International Conference on Financing for Development. Chapter I.1. Monterrey, Mexico, 18-22 March 2002. 開発資金国際会議で採択された合意と公約の最終版。
[2] Benedict XVI (2008), Message for the World Day of Peace, paras 9-10, Vatican, 1 January 2008.
[3] Gurtner, Bruno (2007) Verkehrte Welt: Der Süden finanziert den Norden. In IUED, Schweizerisches Jahrbuch für Entwicklungspolitik, Vol. 26, N°2, 61-84, Geneva.
[4] OECD (2007) Development aid from OECD countries fell 5.1% in 2006, Paris.
[5] World Trade Organisation (2006) International Trade Statistics 2006, Geneva.
[6] United Nations General Assembly (2005), 2005 World Summit Outcome (A/60/L.1), 24 (e), New York.
[7] Tax Justice Network (2005) The price of offshore, London. 全ての国を含めた概算は約2,550億ドル。
[8] Oxfam (2000) Tax havens: Releasing the hidden billions for poverty eradication, Oxfam Briefing Papers, Oxford.
[9] International Monetary Fund (2006) Offshore Financial Centers: the Assessment Program – A Progress Report.
[10] Tax Justice Network (2005)
[11] Oxfam (2000) Tax havens: Releasing the hidden billions for poverty eradication, Oxfam Briefing Papers, Oxford. 同報告書では、東アジアへの短期資金フローの経路として使われたタイのバンコク国際金融市場(BIBF)の例を取り上げている。同地域は、租税優遇措置と規制要件の控除を提供するオフショアセンターとして機能していた。これらの慣行によって、タイで100万人を貧困に陥れ、インドネシアで貧困生活を送る人口を倍増させた、アジア危機の下地が作られたのである(Bank for International Settlements (1998), 68th Annual Report, Basel および、Financial Stability Forum (2000) Report of the Working Group on Offshore Centres (point 36)参照)。
[12] CCFDの調査では、南の国々の独裁者が過去数十年に着服した資金は1,000億~1,800億ドルと見積もられている。(CCFD (2007) Biens mal acquis… profitent trop souvent. La fortune des dictateurs et les complaisances occidentales, Paris)
[13] 125カ国の情報を評価したIMFの研究者によるパネル調査では、中所得国は失われた貿易からの収入1ドルに対し35~55セントを回収できている。しかし最低所得国は基本的に全く回収できてない。(Baunsgaard, Thomas and Keen, Michael (2004) Tax Revenue and (or?) Trade Liberalization. Washington DC.)
[14] GRESEA (2003) La Justice fiscale pour le développement social – Etudes de cas: Brésil et Algérie, pp. 17-18, Brussels.
[15] World Bank Fact Sheet on Stolen Asset Recovery, Washington DC.
[16] これよりはるかに多くの管轄区に対して接触が図られたが、そのほとんどは(明確に、または事実上)参加していない。International Monetary Fund (2006) Offshore Financial Centers. The Assessment Program – A Progress Report, Washington DC 参照。
[17] CIDSEウェブサイトのCTTに関する取組み、および CIDSE (2004) Redistribution through Innovative Measures: a Currency Transactions Tax, Brussels and CIDSE (2005) New Resources for Development, Brussels 参照。
[18] Spahn, Paul Bernd (2006) in IMF Finance and Development, June 1996.
[19] フランス、チリ、コートジボワール、コンゴ、韓国、マダガスカル、モーリシャス、ニジェールが現在この税を実施している(出典:UNITAID)。