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6、IMF中間報告書 金融取引への課税:実務上の実現可能性の評価
2014.03.05
6、IMF中間報告書 金融取引への課税:実務上の実現可能性の評価

IMF中間報告書     WP/11/185

IMF(国際通貨基金)財政局

 

金融取引への課税: 実務上の実現可能性の評価

 

著者: John D. Brondolo[1]

配布認可者: Michael Keen、Juan Toro

2011年8月

I. はじめに

 

本文書は、様々な金融商品に対する金融取引税(FTT)徴収の管理実現可能性を検討するものである。現在このテーマには、政治家、市民社会組織、学者が多大な関心を寄せているとともに、金融セクターへの課税の様々な選択肢に対する政策・管理メリットに議論が集中している。FTTに関するこの重要政策課題については、本文書以外でも幅広く議論されている。例えばIMF(2010a)およびMatheson(2011)では、税収確保と金融市場破綻の軽減を目的とする場合には、他の課税措置がよりふさわしいとの議論を展開している。本文書では、管理実行可能性の問題、つまり広い基盤を持つFTTが管理可能であるか、またそれをどのように行うかという点にのみ焦点を合わせている。

 

FTTは金融商品の取引に課する税である。 同税は金融商品の売買および、定義上は売買と見なされなくとも同様の効果のある金融取引の形態(例えば種々のデリバティブ(金融派生商品))に適用することを想定している。FTTは1種類の金融商品、少数の金融商品、または広範囲の金融商品(株式、確定利付き証券、デリバティブ、外国為替など)に課税することが考えられる[2]。いくつかの国が現在FTTを徴収しているが、大抵の場合、少数の金融商品(最もよく見られるのが株式および債券)[3] への課税である。

 

FTTはいくつかの手法により構築することが可能である。同税の管理における主な特徴は以下の通りである。

 

・同税は金融商品の最初の発行時、同商品のその後の取引、またはその両方に適用できる。

・同税は、取引により持ち主が変わる金額、取引の想定元本、またはその他の様々な査定方法に基づきさてい評価

できる。

・一定の種類の取引また一定のカテゴリーに当てはまる者を免除するよう設計することができる。

・同税は、単一の税率または複数の税率で、従価方式(%)または特定金額(固定額)の税として課税することができ

る。

・同税は、売り手、買い手、またはその両方に課税することができる。

・取引所、手形交換所、または市場参加者が徴収することができる。

 

金融取引への課税という考え方には長い歴史がある。ケインズは1936年、有価証券取引に対し相当な額の譲渡税を課すことにより、金融市場での投機を減らす可能性を提起している。[4] その40年後、トービンは通貨市場の不安定性を低減する手段として通貨取引への課税を提案した(Tobin, 1978, 1996)。それ以降、FTTの長所・短所が広く議論され、現在もその議論は続いている。

 

近年、FTTへの新たな関心の高まりが見られる。この関心の高まりは、次のような動きが一因となっている。2009年1月にピッツバーグで開催されたG20サミットで、G20首脳らは、2010年6月のトロントでのG20サミットに向け、銀行制度修復のための政府介入に関わる負担に対し金融セクターが公正かつ実質的な貢献をする手段のオプションについて、IMFに報告書を作成するよう依頼した。2010年6月のサミットに向け、学者、市民社会組織などが、FTTを含む様々な税政策について意見を述べた。この中で、FTTの支持者の中には、FTTのような税が(国際開発を含む)様々な目的のために歳入を確保する手段として、また金融市場が破綻するリスクを低減するための手段として、有用であると考える者もいた。

 

IMFG20首脳への報告書の中で、IMFが助言を求められた課題に対しては、FTT以外の課税政策がよりふさわしいとの見解を示した。[5] 同報告書では、過去の賃借対照表項目に基づき「回顧的に」金融機関への負担を課すことが、近年の危機時の金融機関に対する直接支援で発生した財政費用を回収する方法として、最もゆがみを抑えた方法であるという提案をしている。また同報告書では、将来の金融破綻の原因を取り除くために、次の二つの税を提案している。(1)過度のリスクを冒す行為を抑え、将来の破綻の直接的財政費用を賄うための、解決メカニズムにつながる、金融安定負担金(FSC:Financial Stability Contribution)および、(2)将来の金融危機のより広範な財政的、経済的費用を賄うこと、金融セクターが巨大すぎることによる税のゆがみを相殺すること、過度のリスクを冒す行為をさらに減らすことを目的とした金融活動税(FAT:Financial Activities Tax)である。[6]

 

トロントサミット後も、引き続きFTTは注目を集めてきた。例えば、「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」が2010年に作成した報告書では、グローバルな通貨取引税の採用を提案している。[7] 2011年1月、欧州委員会は、2011年夏までに金融セクターへの課税に対する影響評価(FTT導入の影響評価を含む)を作成することを示唆した。[8] また2011年2月には、同議題について関係者が意見を述べる諮問論文を発行した。2011年3月、欧州議会はFTTの導入を欧州連合(EU)に強く求める決議を採択した。このような中で、FTTの支持・反対に関する議論は、主に同税の政策的影響と管理実現可能性に集中して行われるようになっている。

 

FTTに関しては、いくつかの政策的懸念が挙げられている。FTTは、歳入を創出するものであると同時に、有価証券の価値を下げ、使用者にとっての資本の費用を増やし、金融市場の流動性を低下させることから、非効率な手段であることが分かったためである。金融市場規制とバブル予防に関するFTTの効力についても懸念の声が上がっている。つまり、FTTが短期的な価格の不安定性を抑えるという説得力のある証拠はなく、また資産バブルは過度の金融取引数というよりは過度のレバレッジにより引き起こされることが分かっているのである。さらに、FTTの実際の負担は、金融セクターの収益にかかる(そのように想定されていることが多いようであるが)というよりは、主に最終消費者の負担となるという可能性も指摘されている。[9]

 

FTT導入を計画する国は、税管理の問題についても相当の検討をする必要がある。一般的な議論として金融取引への課税の実現可能性評価を行っている論文はすでにいくつかある(Griffith-Jones 1996, Schulmeister 2008, Kern 2010, Leading

Group 2010)。また、特定の種類の金融商品、特に外貨取引に対して、取引税を適用する方法を詳細に説明した論文もある(Kenen 1996, Schmidt 1999, Spahn 2002, Hillman, et. al. 2006)。しかし、幅広い金融商品に適用するFTTの管理について、その実現可能性と選択肢を掘り下げて評価した論文は、我々の知る限りではまだ存在しない。

 

原則として、FTTは他の税以上に管理が困難というわけではなく、逆により簡単な側面もある。他の税に適用されるのと同じ管理業務、つまり、納税者の登録、税の査定と徴収、税負担の検証が、FTTでも必要となる。これらの業務にはFTTのいくつかの特徴が有利に働く。同税が取引ベースで課税されるため、多くの金融商品について税負担額の計算がかなり容易になる。金融セクターの記録能力が高いことから、同税の計上が容易になる。また、FTTの対象主体数が比較的少ないことから、同税の管理に関する税当局の作業量が削減される。

 

実際には、FTTの管理にはいくつかの難題がある。その中には、同税の地理的範囲、課税対象となるイベント、税基盤、課税対象者の定義といった、概念的な問題に関わる課題もある。また、金融商品は非常に流動性が高く、常に革新されていくため、課税対象外の管轄区や商品へと取引を移動させることにより租税回避が可能となるという問題もある。

 

ケインズおよび後にトービンがFTTを提案して以降、同税の実現可能性を促進する発展および、同税の実現可能性を複雑化させる発展があった。実現可能性を促進した要素としては、金融商品の決済における手形交換所の役割の拡大、自動取引プラットホームの急増、紙ベースの有価証券から電子記帳式の有価証券への変換、近年いくつかの国においてデリバティブの相対(OTC)取引の規制が強化されたことが挙げられる。実現可能性を複雑化させた要素としては、新しい複雑な金融商品の創造、増加の一途をたどる金融取引量、進む金融市場のグローバル化が挙げられる。

 

これらの背景に照らし、本文書では、広い基盤を持つFTTの管理実現可能性を評価する。それにより、このような税を、(1)上場商品、(2)OTC商品、(3)外国為替商品、という3つの広範かつ一部重複する金融商品カテゴリーに適用する方法について検討する。(3)に示す外国為替商品については、取引所およびOTCで取引されるものであるが、外国為替市場が大規模であること、取引の性質がグローバルであること、これらの商品への課税に対する注目度が高いことから、独立した一つのカテゴリーとして扱う。本文書では、これら3つの各カテゴリーについて、FTTの管理を促進または複雑化する要素、同税の査定と徴収のオプション、起こる可能性の高い遵守に関わるリスクの種類、これらのリスクを緩和する方策について、検討する。[10]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IV. 外国為替商品

 

外国為替市場に対するFTTの課税というのは、特に難しい分野である。取引が主にOTC取引であること、限定的な規制しか持たない国が多いことから、課税対象取引と課税対象者を特定する税当局の作業が複雑になるのである。さらに、通貨取引の範囲が世界的であり、大規模銀行が取引デスクの世界的ネットワークを維持していることから、取引を非課税の管轄区へ移動して租税回避を行うことが特に容易にできてしまう可能性がある。

 

とはいえ、以前より現在の方が対処しやすくなった可能性のある課題もある。過去数年間に起きた制度上の進展によって、通貨取引への税を管理できる新たな可能性が出てきた。これらの進展のうち、最も重要なものは、本節で述べるように、多通貨同時決済(CLS)銀行という単一の決済機関を通して決済される外国為替(FX)取引の割合が高まっていることである。

 

外国為替取引に取引税を課している国は数少ない。その一例はブラジルで、主に資本フロー管理の手段としてFX取引(およびその他の金融商品)に課税している。通貨取引に対するFTTの設計は、同税の主目的が資本フロー管理か歳入確保かによって変化するが、徴税の管理機構は政策目的が異なっても概して同じになると考えられる。[11] この観点から、下に示すように、ブラジルの例は通貨取引に対するFTTの実際の適用について有用な識見を提供するものとなっている。

 

A. 市場における組織、商品、および規制環境

 

外国為替市場は最大級の金融市場で、世界で一日に約4兆米ドルが取引されており、その内訳は、従来の外国為替商品(スポット、外国為替スワップ、アウトライト・フォワード)が3.7兆米ドル、非従来型の商品(通貨スワップとオプション)が0.3兆米ドルである。[12] 最もよく普及している外国為替商品の定義を表3に示す。

 

3.普及している外国為替商品

商品

定義

外国為替スポット取引 一つの通貨でもう一つの通貨を購入または売却する行為で、通常受け渡しは取引日の2日後に行われる。
外国為替オプション 事前に合意されたレートで、満期日に一つの通貨をもう一つの通貨に交換する権利(義務ではない)を買い手に与える契約。
外国為替先物取引(フューチャー) 二つの異種類通貨を事前に合意された日に事前に合意されたレートで交換する取決め。アウトライト・フォワードと似ているが、OTCではなく取引所で取引される。
アウトライト・フォワード 事前に合意された将来の為替レートと日において、ある種類の通貨を異種類の通貨に交換する単一取引。「アウトライト」とは、先渡し(フォワード)を外国為替スワップと区別するための用語。前者は単一取引で、後者は多くの場合スポット取引とそれに続く先渡し取引で構成される。
ノンデリバラブル・フォワード(NDF) アウトライト・フォワードと似ているが、満期に二つの異種類通貨の物理的な受け渡しは行われない。その代り、契約した決済日に、合意された想定元本について、(i)契約したフォワードの為替レートと(ii)スポットの実勢為替レートの差額に基づき、一方の当事者からもう一方の当事者に現金決済が行われる。NDFは現金決済される商品であるため、想定元本が交換されることはない。
外国為替スワップ 2者が、事前に合意された日(通常、スポット日とフォワード日)に事前に合意されたレートで、一定額の通貨の売買および買戻し・売戻しを同時に合意する契約。
通貨スワップ 事前に合意された期間毎に、ある種類の通貨での元本と金利(固定または可変)の両方を、異種類の通貨での元本と金利(固定または可変)に交換するスワップ。取引の最後に、両者は元本を互いに交換しなおす。金利スワップと異なり通貨スワップの元本を交換できるが、通貨スワップの金利は異種類の通貨に基づくため純支払はできない。

 

外国為替市場は、銀行間取引市場と顧客市場の2種類に分かれる。銀行間取引市場は、直接または外国為替ブローカーを通して互いに取引を行うディーラー(通常は大銀行および証券会社)に支配された市場である。[13] 顧客市場では、ディーラーは顧客と取引を行う。顧客には、比較的小規模な銀行、年金基金、投資信託、ヘッジファンドなどの金融機関や、外国貿易・対外投資に携わる金融機関以外の機関が含まれる。取引の大部分(87%)は、ディーラーと他の金融機関の間における取引で、残りの13%は、ディーラーと非金融機関の間における取引である。[14] 銀行間取引市場においても顧客市場においても、スポット、先渡し(フォワード)、先物(フューチャー)、オプション、その他の通貨取引が行われる。

 

外国為替取引は、世界的に、そして少数の金融機関で集中的に行われている。大抵の取引はOTCで行われ、集権的な取引所で行われる取引は比較的少額である(特に外国為替先物取引(フューチャー)、外貨オプションの場合)。FX取引は世界市場で行われ、その外国為替取引の3分の2は越境取引である(BIS, 2010)。取引される商品が均一な性質を持つことが、越境取引を促進している。この均一な性質のために、異なる金融センターでも同じように容易に通貨の売買ができるのである。市場は非常に集中して存在しており、不釣り合いなほど多額の取引額を各国の少数の大規模金融機関が扱っている。[15]

 

規制環境は国により、また市場の種類のより様々である。一般的に、取引所で取引される通貨市場は、より大規模なOTC通貨市場より厳しく規制されている。厳しい規制が敷かれた国では、企業が外国為替取引に携わるためには認可が必要で、取引可能な商品の種類と外国為替予約に含めるべき情報が規制で定められており、トレーダーは当該規制機関に個々の取引に関する情報を報告しなければならない。それほど厳しい規制が敷かれていない国では、銀行や証券会社は通常OTCでの外国為替に関わる活動に携わるために認可を義務付けられることはなく(他の目的のために登録を義務付けられている場合もあるが)、OTC取引のための条件として公式の規則や規制は存在しない(ただし市場参加者がベストプラクティス指針を作成する場合もある)。このような国では、事業取引を取り締まる標準的な商法に従ってさえいれば、取引を行う2者が満足する条件・規定ならどのようなものでも採用してFX取引を行うことができる。

 

B. 管理オプションとその実現可能性

 

外国為替取引への課税管理について、いくつかの方法が評者から提案されている。

トービン(1978)が提案した最初の案は、少なくとも全ての主要通貨国によるスポット取引に一律の税率で課税するというものであった。トービンは後に、租税回避に歯止めをかけるためには、短期のフォワードやスワップなどの、スポット取引に似た代用品となる商品も課税対象にする必要があると認めている(Tobin, 1996)。続いて、通貨取引に対するFTT適用のための管理取決めの概要が、他の評者から提案された。これらの取決め案の主な違いは、同税を市場参加者が自己査定するか、決済機関が源泉徴収するかという点である。

 

一つのアプローチとしては、外国為替予約が確認された時点で市場参加者が税の自己査定を行うという、ケネン(Kenen, 1996)が提案した案がある。このアプローチの下では、銀行その他の外国為替ディーラー(これ以降「銀行」という)は、課税対象の管轄区内において各銀行の取引デスクが行った全種類の外国為替取引について徴税する。銀行は定期的に(毎月、毎四半期、またはその他の定められた期間毎)、納税申告書を税当局に提出し税負担の申告と政府への税の送金を行う。国の税当局は、管轄区内で行われた取引に対する納税義務を銀行が遵守しているか否かを監督する。

市場参加者を通した自己申告によるFTTの徴収には短所と長所がある。主な長所としては、この徴税は既存の管理方法に基づくため、決済機関において新たな源泉徴収の取決めを導入する必要がない。また、銀行が、定期的な所得申告を行い、徴収した税を政府に送金するまでの間、一時的に銀行が徴収した税を保持できるようにすることで、FTTを支持する大きな金銭的インセンティブ(フロートという形で)を銀行に与えることになる可能性がある。主な短所としては、決済機関ではなく市場参加者から直接徴税する場合、税当局はより多くの取組が必要になり、またより大きな納税遵守リスクに直面することになる。さらに、税の査定、経理、徴収に関わる時間と費用という負担が市場参加者に課されるという問題もある。

 

これに代わるアプローチとしては、決済機関が税を源泉徴収する取り決めを行うことである。銀行の取引デスクが外国為替予約を行うと、取引相手との間で通貨(多くの場合銀行差額)が送金された際に、最終的にその取引が決済される。決済は様々な方法で行われる(BOX 4参照)。この点については、CLS銀行や各国の大口資金決済システム(LVPS)のような決済機関に対し、決済済みの各取引に課税・徴税することを義務付けるよう提案する評者もいる。[16] この手法は、英国の清算機関(CREST)が有価証券取引に対する印紙税を徴収する方法と似た形で機能することになる(Section II)。

 

 

BOX 4. 外国為替取引の決済方法

金融機関が行う外国為替取引の決済方法には主に4つの方法がある。

多通貨同時決済(CLS)銀行:売却された通貨を受け取った場合のみ購入された通貨を支払うようにする、専門の決済機関(Appendix 2)。

従来の取引先銀行を通した取引:取引する者が取引先銀行を通してその者が売る通貨で相手の銀行預金に送金する。送金は多くの場合、各国の大口資金決済システム(LVPS)を通して行われる。

双方向相殺決済(相互ネッティング):特定の日が満期の2当事者間の取引が相殺され、従来の取引先銀行を通した方法など、他の方法を通して正味額が決済される。

 “on-us”決済:外国為替取引の両レッグ(取引の両行程)が単一機関の帳簿を通して決済される。これは、一つの銀行がその銀行の顧客と取引しており、その顧客が両方の取引通貨ベースの口座をその銀行に持っている場合など、様々な場合に行われる。

 

 

CLS銀行は、世界の外国為替取引の50%以上を決済しており、これらの取引から徴税するためにCLS銀行を利用することもできる。[17] CLS銀行は、通貨取引の決済不履行リスクを減らすために、複数の最大規模の外国為替銀行が2002年に設立した、外国為替決済の専門機関である(CLS銀行の事業の詳細についてはAppendix IIを参照)。各CLSメンバーはCLS銀行に複数通貨口座を持つ(メンバーでない者は、メンバーを通してCLS銀行にアクセスすることができる)。決済のために外国為替取引がCLS銀行に提出されると、2当事者の口座で、売却された通貨の額の引き落とし、購入された通貨の額の入金が同時に行われれる。CLSは、売却された通貨を受け取った場合にのみ購入された通貨を支払う仕組みとなっている。これにより、CLSは決済プロセスにおける信頼された第三者機関の役割を果たす。

 

CLSは徴収した歳入を様々な方法で配分することができるだろう。例えばCLS銀行は各取引ベースで課税し、税収を各国または取引当事者が位置する国に送金することができる。または、税収は(取引当事者が位置する国ではなく)取引に使用された通貨の国に蓄積させることもできる。ただし、この方法では、ある国に位置する銀行が他の国の通貨を取引した場合(例えば韓国にある銀行がユーロと円を取引した場合)などに、管轄権上の大きな問題が起きる可能性がある。重要な点として、CLS銀行では、外国為替取引の様々な種類を判別することができる(スポット、フューチャー、オプションなど)ため、必要であれば各種類の取引に異なる税を適用することもできる。

 

各国の大口資金決済システム(LVPS)を外国為替取引税の徴収に利用することもできる。各国は少なくとも1つのLVPSを運営している。LVPSは、主要金融機関が、中央銀行の口座を通して大口資金または緊急の支払いを行うために利用する。[18] 銀行は多くの場合、中央銀行の口座から相手の中央銀行に(または相手の取引先銀行の口座に)差額を送金するために、LVPSを使用して、外国為替取引を決済する。原則として、LVPSは、税の査定を行い税収を政府の口座に送金することができるだろう。この作業は、金融機関が現在利用している標準メッセージシステムを使用して行うことができると提案する評者もいる(Hillman et. al.)。標準メッセージシステムは、確認指示のコピーを当該LVPSに送ることによって、外国為替取引を確認するために金融機関が利用しているシステムである。コピーを受け取った当該LVPSは、税を査定し徴収することができる、というものだ。[19]

 

決済機関を通して通貨取引に対するFTTを徴収することには、重要なメリットがある。主な長所は、遵守しない可能性を低くできる点と、銀行に対する記録義務を減らすことができる点である。前者については、第三者が税を源泉徴収する場合(例えば雇用者が個人の所得税を従業員の給与から源泉徴収する場合)、納税者から直接徴税するより、遵守率が高くなることは、文書で十分に立証されている(GAO, 2006)。後者については、決済機関が徴収する税が最終版であると見なされ、銀行は納税義務を果たすための広範囲に及ぶ報告システムを維持する必要から解放される。

 

FTTを徴収するために決済機関を使うことには、いくつかのデメリットもある。

・第一に、FTTを管理するためには決済機関のコンピューターシステムを大幅に技術的に強化させる必要がある可

能性がある。これには追加的コストを伴い、また導入には時間がかかる。この問題については、多くの国の大口資金決済システムは外国為替の支払いとその他の支払いを区別する機能を持たないため、そのような機能を持たせるためにはかなりの取組が必要となる可能性がある。

・第二に、決済機関に徴税の責任を追加して負わせることは、円滑で安全な支払サービスを提供することで金融の安定化を推進するという、中心的目的から決済システムを逸脱させる可能性がある。

・第三に、CLS銀行を通してFTTを適用し、他の決済機関に適用しない場合、非課税の決済システムを通して取引を決済するインセンティブをユーザーに与えることになる。このような結果となれば、CLS銀行が開始されて以来提供してきた、決済リスクを低減するという重要なメリットが損なわれる可能性がある。税率によっては、CLS銀行を使用することによるメリットが、取引税のコストを上回る可能性があるとの証拠も出ているため、この懸念は完全に根拠があるとは言えないかもしれない。[20] いずれにせよ、CLS銀行またはその他の徴税を行う決済機関以外で決済を行う取引の割合に合わせて、各銀行に高い資本費を適用すれば、トレーダーがCLSを利用するのを止めるリスクをある程度減らすことができる可能性がある。

・最後に、決済機関を通して徴税することにより銀行の記録負担が減るという潜在的利益は、誇張され過ぎている可能性がある。決済機関が課税対象の取引全てに対するFTTを源泉徴収できない限り(そしてそのような源泉徴収は実現可能ではないと考えられる妥当な理由がある)、各銀行は結局、決済機関外で決済した取引に対する税を計上するために、報告システムを設置する必要が出てくる。

 

上記の問題は、十分な資源と政治的支持があれば解決できるかもしれないが、十分に注意深く評価する必要がある。同時に、決済機関を徴税のために利用する、または少なくとも決済機関が特定の当事者らのために決済した取引に関する情報を税当局に報告するようにできない場合、外国為替取引に対しFTTを適用することは、より難しく費用がかさむことになるという事実を、認識する必要がある。いずれにせよ、このようなシステムがうまく機能する例を、ブラジルに見ることができる。

 

ブラジルは、様々な種類の外国為替取引に取引税を課税している。ブラジルのFTTである「Impuesto sobre Operacoes Financieiras(IOF)」は、(1)外国為替、(2)有価証券、(3)融資事業という3種類の金融商品に課税されている。[21]

 

IOFはブラジルで行われる外国為替取引に課税される。同税はスポット取引とデリバティブの両方に課税され、資本流入(非居住者によるレアルの購入)と資本流出(居住者による外国為替の購入)の両方に課税される。スポット取引については、IOFは0.38%(38ベーシスポイント)で課税されるが、外国為替取引で得た現地通貨をどのように使用するかによって高い税率が追加される場合がある。[22] さらに、銀行間取引や輸出を含む、様々なスポット取引には一連の控除が設定されている。2010年に(外国為替だけでなく全ての金融商品に対して)徴収されたIOFは、連邦政府の歳入の1.9%を占めた。これはGDPの0.7%にあたる。[23] 

 

同税は、自己査定ベースで管理されている。IOFはブラジルで発生する取引にのみ適用され、納税義務は外国為替予約が決済される際に発生する(つまり、国内通貨が外貨と交換で受領または支払われる際に発生する)。同税は、外貨で取引することをブラジル中央銀行から認可された金融機関により徴収される。これらの機関は、外国為替取引の記録を維持し、これらの取引を中央銀行に登録することを義務付けられている。これらの金融機関は、各FX取引に対して課税し、各10日間サイクルの最後の日から3営業日後に政府に税収を送金し、毎月納税申告書を提出しなければならない。[24]

 

ブラジルは、金融機関のための査定プログラムを維持している。ブラジルの税当局は、サンパウロとリオデジャネイロに、金融機関の管理に責任を持つ2つの支所を持つ。これらの支所は、外国為替取引に対するIOFを含む、銀行が支払義務を負う全種類の税を審査する会計監査官の専門チームが行う、総合査定プログラムを持つ。

 

IOFの遵守に関する推定は存在しないが、過去に投資家が節税計画を立てた形跡がある。これは、資本規制とそれに関わる税を回避することを目的としたものである。これらには、短期資本を外国直接投資と偽る、ブラジルの基礎商品についてオフショアでデリバティブ取引を行う[25]、オプション条項が組み込まれた債券を発行する(Carvalho and Garcia, 2006)などの手法が含まれる。[26]

 

他の商品と同様、外国為替取引に対するFTTの課税を実現可能にするには、次の点に関して明確なルールと実用的な方法が必要になる。(1)同税の領土的範囲の確立、(2)課税の対象となる出来事と課税のタイミングの規定、(3)税基盤の評価、(4)課税対象者の特定、(5)税の査定と徴収。

 

同税の領土的範囲の確立について。国境を越えた外国為替取引が多額に上るため、これらの取引に対するFTTに関する領土的範囲を決定する際には整合性のあるアプローチを取ることが特に重要である。通貨取引は取引所とOTCの両方で行われるため、この分野における課題とアプローチは、前述の節で説明した、取引所およびOTCにおける取引に関するものとほぼ同じである。取引所におけるFX取引については、取引所が位置する国でFTTを課税するのが妥当なアプローチであろう。

OTCで行われる外国為替取引については、取引当事者が別々の国に位置することが多く、両方の国がその取引に課税する権限を正当に主張することができる可能性があるため、事態はより複雑である。この問題に対して考えられる解決策は、国境を越えたOTC取引についての議論の中でも述べたように、国はFTTの税率の半分をその国の登録納税者に支払わせ、残りの半分を、その国の非居住者で、FTT非課税国に居住する取引相手に課税するというものである(その国の非居住者で、FTT課税国に居住する取引相手の場合は、課税しない)。

 

課税の対象となる出来事および課税のタイミングの規定について。Section IIとIIIで述べたその他の金融商品と同様に、課税の対象となる出来事は、FTTの範囲となる全てのFX取引を含むよう、広範に規定することができる。また、課税のタイミングは、取引当事者同士がFX取引契約を結んだ時(発生ルール(accrual rule))または取引が決済された時(現金ルール(cash rule))とすることができる。これらルールの通貨取引への適用には、この論文で述べた他の取引と同様の長所と短所がある。[27] 「発生ルール」はトレーダーの納税義務の履行を遅らせないようにするという利点があるが、実際に取引が行われるまで取引される外国為替の額が分からない取引に対して無規則な課税が行われる可能性がある(オプション、フューチャー、フォワード、ノンデリバラブル・フォワード(NDF)、スワップなど)。このため、外国為替取引に関しては、取引される商品に応じて「発生ルール」と「現金ルール」の両方を使い分ける折衷型が適切ではないかと考えられる。[28]

 

税基盤の評価について。外国為替取引の税基盤は、他の金融商品と同じ方法で評価されるべきである。つまり、取引当事者同士が交換する、国内通貨ベースの金額(またはその他の対価)ということになる。この定義は、多種類のFX取引に容易に適用することができる。[29] しかし、これをノンデリバラブル・フォワード(NDF)などの商品に適用しようとすると、概念的問題が出てくる。NDFでは、取引当事者同士は二種類の通貨を実際に引き渡すことはなく、その代り契約期間における為替レートの変動に基づいて、一方の当事者が他方の当事者に相殺後の純支払額を支払う。このような商品の場合、純支払額にFTTが課税されると、取引当事者同士が実際に二種類の通貨を交換し、交換された総額にFTTが課税される場合と比べて、非常に低い税負担が課される結果となる。純支払と総額支払のどちらが税基盤として適切かの議論は、最終的にはこの二つの取引が同等のものか否かという点に集約される。一方で、この二つの取引は、両取引当事者にとって同じ利益と損失をもたらすため、これは同等の取引であると考えられる。これに基づくと、総支払額への課税が正しいと論証できる。他方で、NDF契約の両当事者は、取引終了時に通貨を実際に所有することによる利益を享受することはない。これに基づくと、純支払額への課税が正しいと立証できることになる。

 

課税対象者の特定について。通貨取引に対するFTTは、取引当事者に課税される。前述と同じ理由で、同税が法的にどちらの当事者に課税されるかは、経済学的観点からは重要なことではない。しかし、管理の観点から見た場合、特に同税を決済機関が源泉徴収するのが実現可能でない場合には、同税を二当事者間で折半することには利点がある。この取決めの下では、FX取引に携わるため登録された者は、取引の記録を維持し、税を請求し、政府に送金し、決済機関で徴税されたもの以外の取引について定期的に納税申告書を提出する義務を課される。小口または不定期のトレーダーは登録を免除されることも考えられるが、これらのトレーダーも登録者と取引した場合には課税される。

 

税の査定と徴収について。査定・徴税方法は、取引がどのように決済されるか、取引相手が控除対象者か否かによって異なる。

集中型の決済機関(CLS銀行など)を通して決済される取引については、決済機関が二当事者から半分ずつ税を課税・徴収することが可能であろう。このためには、政府は決済機関による徴税を定めた協定を決済機関と結ぶ必要がある。

集中型の決済機関で決済されない取引で、その取引が登録者(ブローカーディーラー[訳注:株式の仲買と自己売買を共にする業者]やその他の主要参加者)により行われる場合、二登録者は半分ずつ税を支払うことになる。[30] この手法では、税当局が二当事者間の取引を照合することができるため、遵守の確認が可能になるという重要な利点を持つ。さらに、FX取引において両当事者が同時に(一つの通貨の)「買い手」であり(もう一つの通貨の)「売り手」となる中で、「売り手」と「買い手」のどちらにどのように課税するかを決定するという、概念的問題を解決することができる。

集中型の決済機関で決済されない取引で、その取引が登録者と非登録者(小口のトレーダー)の間で行われる場合、登録者は税の半分を自ら支払い、残りの半分を非登録者に請求する。この手法は、登録者と非登録者の間で行われる取引において、税の全額を確実に徴収するために必要である(非登録者は徴税義務から免除されるため)。[31]

 

管理制度の設立について。FX取引に対する取引税を徴収するための機構を確立することは、大事業となる可能性が高い。CLS銀行と各国の大口資金決済システム(LVPS)を通して決済される通貨取引について、これらの機関に税の源泉徴収をさせるには、相当な政治的、財政的資源が必要となる。集中型の決済機関で決済されない取引の場合、または徴税に決済機関を利用できない場合、査定、計上、検証すべきFX取引の額が莫大であることを考えると、市場参加者を通して同税を徴収するには、多大な努力が必要となる。

 

C. 納税遵守リスクとリスク緩和

 

過少申告リスク

全ての税に言えることだが、納税者の中には自分が行った外国為替取引ついて支払う義務のあるFTTを過少申告する者が現れるだろう。ほとんどの外国為替ディーラーはFTT納税義務を期限内に全額申告し支払うことが予想されるが、制度に打ち勝とうとするか、または不注意によって、義務を果たさない者も出るだろう。例えば、ブラジルの外国為替取引税に対しては、前述のように様々な節税計画が存在した。

 

過少申告を取り締まるには、いくつかの対策を考慮する必要がある。まず出発点として、FTTの計算方法は単純にし、可能であれば徴税には決済機関を利用すべきである。例えば、CLS銀行および各国の大口資金決済システム(LVPS)は、銀行からFTTを徴収するか、または銀行の外国為替取引に関する報告を税当局に提供するよう義務付けられるべきである。このような取決めは、源泉徴収の対象となる税や第三者による報告の対象となる税の納税遵守率が最も高いことを明確に示した税管理における国際優良事例とも整合している。さらに、納税者と決済機関が報告する税の正確性を検証するためには、適切な罰則体制に裏打ちされた監査プログラムが必要である。

 

国境を越えた取引の過少申告に対処するためには、追加的措置が必要となる。FX取引に関する課税対象となる出来事を検証する作業は、国際銀行の子会社や支社が取引場所ではなく帳簿記入場所(自国または第三国)に記録を保持している場合には、さらに複雑になる。[32] この問題に対処するために、市場参加者は、記録の写しを取引場所で保持し、監査の際には提出することを義務付けられることになる。また市場参加者は、FTT課税目的のために取引場所においても彼らが行った外国為替取引について把握しておくことが義務付けられる。

 

移動リスク

通貨取引に対するFTTを一国だけで導入した場合、非課税の管轄区への大規模な外国為替取引の移動が起こるため、FTTが台無しなってしまうという主張がある。[33] このような懸念は大げさだと却下する意見もある。一カ国または少数の国によるFTTの導入が一定の取引の移動をもたらすことはほぼ確実であるが、移動する額やその結果発生する歳入の損失を正確に予測するのは難しい。しかし確実に言えることは、歳入の漏出を大きく左右するのは、移動により得られる利益(節税と遵守に関わる負担の軽減)と移動によりかかるコスト(銀行の取引業務の移動にかかる費用および、移動により発生する現地の顧客サービスの混乱)だということである。この観点から、FTTの税率を低く抑え、主要金融センターを持つ国々が共同でFTTを導入することによって、FTTの前途はより明るくなるだろう。

 

資産代用リスク

もう一つの納税遵守リスクとして挙げられているのが、トレーダーが課税対象の外国為替取引を課税対象外の外国為替取引で代用するという可能性である。これに関しては、もし同税がスポット取引のみに課税された場合、トレーダーは外国為替デリバティブ(フューチャー、フォワード、オプション、スワップ)で取引を行うことによって、税を回避する可能性がある。または、もっと複雑な方法として、二カ国の短期国債(またはその他の流動資産)を交換した後すぐにその国債を売却して銀行預金に換える可能性もある(Garber and Taylor, 1995)。

 

多国籍企業は、ストラクチャード・ローン(structured loan)を外国為替取引の代わりに用いることで税を回避しようとする可能性がある。例えば、1970年代にイングランド銀行は、ロンドン外国為替市場でFX取引を行う英国企業に対し、外国子会社の運営に資金提供するために、米ドルについて市場価格より割増したレートを支払うことを義務付けた。その結果、英国企業にとってロンドンでドルを借りる方がニューヨークで借りるより割高となった。このドル購入に対する税を回避するため、英国の多国籍企業は、パラレルローン、バックツーバック・ローンを米国の多国籍企業との間で手配した。[34] これらを手配したことにより、米国と英国の企業は、外国為替市場で実際に通貨を獲得することなくそれぞれの通貨を貸し借りすることができるようになり、税を回避することができた。(Schinasi et.al., 2003)。

 

トービンが提案したように、資産代用リスクに対する最良の解決策は、スポット取引に近い代替商品にもFTTを課税することである。これらには、満期の短いフューチャー、フォワード、スワップが含まれる。それでも多少は代替品利用の可能性が残るかもしれないが、最終的にはより複雑な(そして最適ではない)代用品を使用するコストが税により発生するコストを上回るようになるため、失われる歳入はそれほど大きくならない可能性がある。さらに税当局は、バックツーバック・ローンやその他の回避計画のような一定の種類の取引について報告義務を導入し、税法の回避対策条項を利用してそのような取引を課税対象取引として再定義することもできるだろう。[35]

 

D. 評価のまとめ

 

外国為替取引にFTTを課税することは、他の金融商品への課税より難しい。しかしこれらは解決不可能な問題ではない。外国為替取引が困難である原因は、外国為替市場がグローバルな性格を持つものであること、通貨取引を国境を越えて容易に移動させることができること、多くの国で同市場に対する規制が緩いことにある。もしCLS銀行のようなFX決済機関が徴税または少なくとも銀行の外国為替取引に関する情報を税当局に報告するようにできれば、これらの難題を減らすことができるだろう。もしこのような取決めが実現可能でないとなれば、外国為替取引に対する課税の見通しは、他の金融取引にも増して以下の点に左右されることになる可能性が高い。(1)主要な金融センターを持つ国々が、ある程度均一な形で協力して共同で同税を導入する。(2)租税回避のインセンティブを低減するよう低い税率で税を査定する。(3)スポット取引に似た代替商品を課税対象にする。(4)納税者が自由意思で納税義務を果たさなかった場合に、税当局がFTTの遵守を強制できるよう、十分な資源を税当局に提供する。

 

V. 結論

 

広範な基盤を持つFTTの導入を検討している国は、その政策目的と管理面の実現可能性を考慮に入れるべきである。税務政策の観点から、最近のIMFによる研究結果では、歳入創出と金融市場破綻リスクの緩和にはFTT以外の税手段の方が適切であることが述べられている。税管理の観点から、本文書では、FTT管理の実現可能性についていくつかの結論を導き出している。

 

FTTの実施がどの程度容易かは、金融商品によって異なる。一般に、組織化された取引所で取引され、集中型の決済機関で決済される商品の方が、OTCで取引され集中型の決済機関で決済されない商品より、課税しやすい。しかし、最近いくつかの国で行われた法律改正(OTCデリバティブに関する新たな金融規制の制定など)や進行中の制度的発展(外国為替取引の決済においてCLS銀行の役割が卓越して大きくなっていることなど)によって、以前よりも幅広い商品にFTTを課税することが容易になってきた。ただし、CLS銀行などの決済機関を徴税に利用する前に、これら決済機関を通してFTTを徴収する場合の意図せぬ悪影響の可能性(およびこれらの悪影響を緩和する措置)について、徹底した評価を行うべきである。

 

FTTの効果的な管理には、整合性の取れた法律制定が不可欠である。特に、FTTの法律には、同税の領土的範囲、課税対象となる出来事と課税のタイミング、税基盤、課税対象者を定める明確な条項が必要である。金融取引が多様であることと、複雑な商品が存在することから、「納税義務が現金ベースで課されるべきか発生ベースで課されるべきか(またはその両方か)」、「商品の想定元本を税基盤とすべきか持ち主が変わる額を税基盤とすべきか」、「現金で決済される取引への課税を純支払額に基づいてすべきかその基礎をなす総支払額に基づいてすべきか」といった、概念的問題が出てくる。法律の効果的な管理のためには、このような問題に対してうまく機能する解決策が必要になる。

 

取引所や清算機関を通してFTTを徴収することには大きな利点がある。これらの機関を利用することで、市場参加者が登録、税の徴収、送金を行う必要が無くなり、遵守・管理コストが削減できる。取引所や清算機関が利用できない場合は、課税・徴税の義務をブローカーディーラーおよび主要トレーダーに限定して課すことによって、市場参加者から直接FTTを徴収する際のコストを低減することができるだろう。小口の市場参加者や不定期の市場参加者はこの義務から免除されるが、ブローカーディーラーやその他の主要トレーダーと取引する際には課税対象となる。徴税が取引所や清算機関を通して行われないことになった場合でも、取引所や清算機関は、取引に関する情報を税当局に報告する必要がある。

 

FTTの遵守リスクに対処するには、適切なリスク緩和手法を適用する必要がある。納税者がFTTを過少申告するリスクに対しては、適切な罰則体制に支えられた施行プログラムが必要となる。金融商品の所有権の譲渡に関する法的地位を同税の支払いに関連付けることによって、過少申告を阻止することもできる。市場参加者の中には、取引を課税対象の金融商品から非課税の金融商品に移動しようとする者も現れる可能性がある。この問題に対処する最良の方法は、課税対象の金融商品に近い代替商品に対しても、税を適用することであろう。トレーダーが取引を非課税の管轄区に移動するリスクについては、移動のインセンティブを減らすような低い税率での課税を行うことで、そのリスクを低減することができる。

 

FTTの実現可能性は国際協力によって強められる。主要金融センターを持つ国々がある程度均一な形でFTTを導入すれば、各国がFTTを実施する自由度は高まり、税のアービトラージ(裁定取引)や取引移動の可能性についての懸念も低減される。

 

FTTの実施には入念な準備と計画が必要である。主な実施業務としては、法規制の制定、情報システムと管理手順の作成、税務官の補充と養成、納税者の登録、納税者の義務に関する教育がある。これらの業務を遂行する際には、官民両セクターの関係者と協議し、徴税のための管理に関する取決めを設計する際に関係者のニーズや懸案事項を考慮に入れることが不可欠である。各国による新税の実施を支援したIMFの経験から、FTTの導入には少なくとも18カ月はかかると考えられる(IMF, 1991参照)。新税を導入する場合、一般的に優良事例とされている方法は、様々な設計と実施業務を行う専門チームを税当局の中に設立することである。これにならい、税当局は、FTT管理が安定して最終的に税当局の主要業務にFTTを統合させるまでの間(実施の初期)FTTを管理するための、特別部署を設立すべきである。最後に、FTTの実施と管理のために、継続的に税当局に十分な資源(予算、人員、必要に応じて技術的支援)を提供することが極めて重要である。

 

原文:Taxing Financial Transactions: An Assessment of Administrative Feasibility

http://www.imf.org/external/pubs/ft/wp/2011/wp11185.pdf

 


[1] この文書の策定にあたり以下の皆様から大変有用な指導・コメントをいただきました。Roberto Benelli, Vieri Ceriani, Massimo Cirasino, Serge Cools, Carlo Cottarelli, Mark de Brunner, Randall Dodd, Simon English, Michael Gaw, Simon Gray, Miles Harwood, Michael Keen, Andrei Kirilenko, Robert Kramer, Heitor Lima, Antonella Magilocco, Thornton Matheson, Arbind Modi, Victoria Perry, Luc Robin, Christine Sampic, Alessandra Sanelli, Robert Schroeter, Bernd Spahn, Lawrence Sweet, Victor Thuronyi, Franz Tomasek, Juan Toro, and Koenraad van der Heeden. しかしいかなる誤り、記述漏れも著者に全責任があります。

[2] 現在のFTT提案者は支持していない考え方だが、当座預金銀行取引も同税の対象になりうる。

[3] FTT課税を行っている国の一部が、Matheson (2011)表1に示されている。

[4] Keynes(1936)、104~105ページ参照。

[5] IMF(2010a)参照。

[6] FSCは、最初は定額の拠出金とし(ただし金融機関の種類により額は異なる)、後に個々の機関のリスク度とその機関のシステミックリスクへの寄与度に応じた額に改訂される。またFSCは、広範な賃借対照表の債務側に基づき適用される(資本は除外、簿外の項目を含める可能性あり)。拠出金は、脆弱な金融機関の破綻処理を促進するための基金に貯蓄されるか、一般歳入に支払われる。FATは総収益および金融機関の報酬に課すもので、一般歳入に支払われる。詳細については、IMF(2010a)および、Keen, Krelove and Norregaard(近刊のIMF中間報告書)参照。

[7] Leading Group(2010)参照。

[8] Semeta(2011)参照。

[9] これらを含む政策課題の詳細は、Matheson(2011)、IMF(2010a)およびShome and Stotsky(1996)の中で詳細に分析されている。

[10] 各国は、国境を超えた株式投資に特定した課税、対外債権に特定した課税、外国為替の流れに特定した課税を、資本フロー抑制の手段として使用することもできる。このような税を資本フロー管理に使用することが望ましいか否か、効力があるか否かの評価は、本文書では行わない。

[11] 資本フロー管理が望ましいか否か、またその手段に関わる問題は、本文書での検討の範疇外となる。これらの課題の検討については、IMF(2011)およびOstry et.al.(2011)参照。

[12] Bank for International Settlements(BIS, 2010)。国際決済銀行(BIS)は3年毎に、外国為替市場とOTCデリバティブ市場の規模と構造に関する情報を取り纏めるため、50の中央銀行と連携しTriennial Central Bank Survey3年毎の中央銀行調査)を実施している。

 

[13] 外国為替のディーラー(マーケットメーカーとも呼ばれる)は、ディーラー自身のため、または顧客のため、もしくはその両方のために外国為替を売買する。これにより、これらの業者は様々な通貨の売値と買値(為替レート)を提示し、そのレートで取引できるよう待機する取引のプリンシパルの役割を果たす。一方、外国為替ブローカーは、ブローカー自身のために取引することはなく、顧客に連絡を取ることもない。ブローカーは、ディーラーを引き合わせるサービスを提供し手数料を請求することにより収益を得る。

[14] 出典:Bank for International Settlements(2010年12月)

[15] 例えば、英国、米国、スイス、日本における外国為替の取引高の75%は、それぞれ12銀行、10銀行、3銀行、9銀行が扱っている(BIS, 2007a)。同様の状態が他の国でも見られる。

[16] 詳細は、Schmidt (1996, 2001), Spahn (2002) および Hillman, Kapoor, and Spratt (2006) 参照。

[17] CLS銀行の活動の規模を示す数字を挙げると、2010年2月16日には、CLS銀行は一日で過去最高の170万サイド、額にして合計で6.2兆米ドルを決済している。CLS銀行が世界の外国為替取引に占めるシェアは、2007年のBISサーベイ時の50%から70%にまで伸びている可能性があるとされている。

[18] LVPSは中央銀行か銀行業界が所有している場合がある。

[19] 銀行とその他の金融機関の間で金融メッセージを交換する際に使用されるシンタックス(体系)は、SWIFT(国際銀行間通信協会)メッセージシステムに基づき標準化されてきた。SWIFTは、ベルギーの法の下に登録された協同組合で、加盟金融機関が所有する協会であるが、2010年9月時点で209ヶ国、9,000の金融機関と連携している。重要なことは、SWIFTがMT3000とその変形という専用のメッセージ形式を持っており、これらは異なる種類の外国為替取引(スポット、デリバティブなど)確認のために使用されるということである。

[20] 例えば、Spraat et.al. ((2005) はポンドの取引に対するFTTによりトレーダーが追う費用の合計と、CLSを使ってポンド取引を決済することにより彼らが得る利益の合計を比較した。その結果、ポンド取引へのFTTが0.005%の場合トレーダーが支払う費用は年間10億米ドルと見積もられた。これに対し、CLSを使用してポンド取引を決済することによる利益は、180億米ドルと見積もられた。その内訳は、効率向上による利益が125億米ドル、必要とされる正味資金の削減が54億米ドル、操業コストの削減が1億ドルである。メンバーがCLSを去った場合に失われる追加的利益には、CLSにアクセスするためのコンピューターシステムの開発に必要な費用(メンバー毎に約500万米ドルと見積もられる)などの様々な固定費がある。

[21] 具体的には、IOFには、(1)外国為替のスポット取引に適用されるIOF sobre Cambio(外国為替取引)、(2)株式、社債、有価証券オプション、有価証券フューチャー、外国為替フューチャー、オプション、デリバティブ(フォワード、スワップ、金利先渡し契約(FRA))に適用されるIOF sobre Titulos e Valores Mobiliarios(有価証券取引)、(3)金融機関と非金融機関による融資に適用されるIOF sobre Operacoes de Credito(融資・信用貸し事業)がある。

[22] 例えば、(1)投資家がブラジルの株式、債券に投資することを目的に外貨を現地通貨に交換する場合、それぞれ6%、2%を課税できる。(2)投資家がデリバティブのマージン支払を目的として外貨を現地通貨に交換する場合、6%が課税される。(3)外国の銀行がブラジルの金融会社または非金融会社に満期720日以下のローンを提供する場合で、借り手がそのローンからの外貨をレアルに交換する場合、そのローンに6%を課税できる。(4)国際クレジットカードの管理会社が、海外で購入された物品、サービスに関わったクレジットカード所有者の債務を支払うために外貨を購入した場合、その管理会社に対し6.38%を課税できる。

[23] 2010年に、徴収されたIOFは266億100万レアル、連邦政府の歳入合計は1兆3,786億900万レアル、GDPは3兆6,749億6400万レアルであった(出典:財務省およびIMF)。

[24] 納税者は、外国為替その他の金融商品へのIOFを含む全ての月間の連邦税負担額を、DCTFと呼ばれる単一の統合納税申告書を使用して申告する。

[25] ブラジルの基礎商品に基づくデリバティブ取引の多くは、ブラジルの外で行われる。これによりトレーダーは、ブラジルの基礎資産を取得することなく(つまり税を回避しながら)買い持ちすることができる。

[26] この計画は、過去に短期外債に適用されていた高い税率を回避するためのものである(満期が90日以下のローンには5.38%の税が課せられていた)。これはプットオプション条項が組み込まれた長期債券を発行するというものであった。これらの条項は、オプションの行使によって外国投資家が長期のローンを短期化することを可能にし、しかも税率は長期ローンに対する低い税率で済むというものである。

現在IOFは満期が720日以下のローンに適用される。

[27] 場合によってはこの2つのルールは同じ取引について全く異なる課税の成果をもたらすことになる可能性があることに触れておきたい。例えば、輸出業者と銀行が、米ドルから韓国ウォンへのノンデリバラブル・フォワード(NDF)契約を結んだとする。具体的には、輸出業者は銀行と(1)55.75億韓国ウォンのフォワードを、1米ドル=1115韓国ウォンで売却(500万米ドル相当)し、(2)6カ月後のスポット実勢価格(つまり「fixing date [訳注:決済日の決済レートが表示される日]」の価格)で55.75億韓国ウォンを購入する、という契約を結んだとする。もし韓国ウォンがその後ドルに対してウォン安となりfixing dateの時点で1米ドル=1130韓国ウォンとなり、55.75億韓国ウォンの価値が4,933,628米ドルに下がった場合、輸出業者は銀行から500万米ドルと4,933,628米ドルの差額である66,372米ドルを受け取ることになる[訳注:原文では「US$6,372」とあるが、計算では「66,372米ドル」となるためそのように訳出した]。「発生ルール」の下では、FTTの税基盤は500万米ドルとなる。「現金ルール」の下では、税基盤は66,372米ドルのみとなる。

[28] 課税対象となる出来事の定義に関しては他にも概念的問題がある。FTTは通貨のスワップ取引の両レッグ(両行程)に課税すべきかどうかという問題である。Section IIIで説明したような買戻し契約の場合、スワップが売却として扱われるか(その場合、両レッグに課税されるべきである)、金融取決めとして扱われるか(その場合、最初のレッグのみに課税されるべきである)によって異なると考えられる。

[29] 例えば、FX即日決済取引のスポット価格や、FXオプション取引の行使価格+プレミアムは、これらの取引に関する税負担を妥当に、また容易に計算する税基盤となる。

[30] 登録者は、顧客との取引の2倍の税を銀行間取引に課税するのを避けるため、登録者相手の取引については税の半分のみ請求する。徴税主体が登録者と非登録者を区別できるようにするために、税当局は徴税主体に登録者リストを提供するか、登録者情報をウェブサイト上で提供する。

[31] 非登録者間の取引は課税を免除されるが、これにより失われる税収はわずかだと考えられる。

[32] 国際銀行は、外国為替取引を様々な場所(例えば取引場所)にある子会社や支社から行う可能性がある。国際銀行は、コストを抑えるために、これらの取引の経理を一か所または少数箇所(帳簿記入場所)で集中的に行う可能性がある。

[33] 移動は様々な形で起きる可能性がある。Garber(1996)が指摘したのは、課税管轄区内の親会社が非課税管轄区内の子会社に貸し付けをし、その子会社が外国為替取引を行い、得られた外貨を親会社にまた貸し付けるという方法である。

[34] バックツーバック・ローンは、異なる国の二企業間のローンで、各企業がそれぞれの通貨で相手企業にローンを提供する。パラレルローンは、異なる国の二企業間のローンで、両企業とも相手企業の国に子会社を持つ。二企業は、互いの企業の子会社にローンを提供する。

[35] これらの条項または法的慣行は、納税者が税回避以外の事業目的を持たない非課税取引契約を結んだと税当局が判断した場合、その取引を課税対象として再定義する権限を、税当局に与えることになる。