■ 国連租税枠組み条約の付託事項草案の概要
8月16日国連において、政府間特別委員会による「国際租税協力に関する国連枠組み条約の付託事項の草案」(注1)が《賛成110カ国、棄権44カ国、反対8カ国》という圧倒的多数で採択されました。この結果、国連は2027年末までの間に、国連租税枠組み条約と2つの議定書を作成することになりました。以下、採択された草案について概要を見てみます。
◎ 国連租税枠組み条約
<原則>
a)普遍的アプローチと開発途上国等のニーズの考慮、b)加盟国の租税主権の承認、c)国際人権法との整合性、d)持続可能な開発の視点、など。
<具体案>
a)多国籍企業への公平な課税、b)富裕層への課税、c) 持続可能な開発の達成に貢献するアプローチ、d) 透明性及び情報交換を含む相互行政支援、e) 不正な資金の流れ、租税回避、脱税及び有害な税慣行への対処、f) 租税紛争の効果的な予防及び解決
◎ 2つの議定書
*一つ目の議定書
デジタル化とグローバル化経済において、国境を越えて行う多国籍企業のビジネスへの課税
*二つ目の議定書(以下の優先分野から選択する)
a)デジタル化経済への課税、b)不正な資金フローへの措置、c)租税紛争の予防と解決、d)富裕層による脱税と租税回避への対処と課税
■ 草案採択の意義:抜け穴だらけの国際租税制度の根本的変革へ!
今日、各国はグローバルな税制の不正利用により、年間4,800億ドル(約72兆円)の税金を失っています。このうち、3,110億ドルは多国籍企業による国境を越えた法人税の不正利用により、1,690億ドルは富裕層によるオフショア税(タックスヘイブンなど)の悪用により失われています(英Tax Justice Network、2023年)。実際、多国籍企業は海外で稼ぐ利益の3分の1を、タックスヘイブンに移転し続けています(注2)。
一方、「約890億ドル(約13兆円)の不正な資金がアフリカから流出し、先進各国に流れ込んでいる。それは先進国がアフリカに拠出している開発援助や海外直接投資よりはるかに多い」(注3)という途上国においての不正な(違法な)資金流出問題があります。
端的に言って、私たちは抜け穴だらけの非常に非効率なグローバル税制を抱えており、世界の富裕層や大企業がタックスヘイブンを利用して税金逃れを可能にしています。戦後国際租税ルールを主導してきたのは先進国グループのOECD(経済協力開発機構)でしたが、いぜんとして不公平で非効率な国際租税ルールがまかり通っているのです。
近年のグローバル化・デジタル化経済に対応すべくBEPS(税源浸食と利益移転)包摂的枠組による「第1の柱=市場国での一定の課税権(いわゆるデジタル課税)と第2の柱=国際最低課税」という2つの新たな税制も残念ながらうまくいっていません。とくに前者につき、米国議会の批准・承認がなければ成立しないという大きな問題を抱えています。デジタル課税に反対している米共和党の上院議員は、選挙で選ばれたわけでもない非公開のフォーラム(注、OECDのこと)にどうして我々が従わなければならないのか、と述べています。
とするなら、世界の大多数の国々が参加し、合法的に条約等を作成し、そのことに米国などをまき込んでいくことで対応していってはどうか。このことができるのは国連でしかできません。今回の枠組み条約策定に向けての動向は、2つの歴史的ともいえる意義を持っています。ひとつは、今日のグローバル化・デジタル化経済下における包括的で効果的かつ法的なグローバル税制を目指していること、ふたつは、すべての国連加盟国の参加方式によるグローバルガバナンスを目指していること、です。文字通り、気候変動課題に続き、国際租税課題の枠組み条約が誕生する可能性が出てきたのです。
■ 第2弾セミナー、近日中に開催!:租税枠組み条約策定は、世銀・IMF改革に繋がります
去る7月29日にセミナー「国連 国際租税協力枠組み条約の設立の可能性を探る」を開催しましたが、今月中に国際的な総括議論を踏まえて、セミナー第2弾を開催します。
ところで、国際租税ルールに関しては、これまでもっぱらOECDが主導し、途上国は協議にすら参加できませんでした。ただ経済のグローバル化とデジタル化にあたり、OECDはBEPSプロジェクトを設定し、上記2つのグローバル課税に関し包摂的枠組ということで途上国にも参加を呼びかけ、140カ国余りが参加しました。しかし、途上国は議論には参加できても最終的な意思決定過程には参加できなかったということです。いうまでもなく国連で枠組み条約を作ることはすべての国連加盟国が対等の立場で参加できることになります。
一方、今日喧しく言われている世界銀行やIMF(国際通貨基金)の改革ですが、根本的には組織ガバナンスを改革する必要があります。それは投票権が出資額によって配分されており、したがって意思決定においては先進国や経済規模の大きい国が有利となるからです。一国一票制という国連方式に限りなく近づけなければなりませんが、それに向けた試みを、今回の国際租税枠組み条約策定過程でチャレンジしていることになります。
ともあれ、第2弾のの国際租税枠組み条約問題セミナー開催をお待ちください。
(注1)
(注2)
(注3)
※写真は、付託事項草案に関する特別委で発言する市民社会代表(米国のNGO、Center for Economic and Social Rights のHPより)