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国際観光旅客税(出国税)への批判続くー特定財源化への懸念など
2018.03.19
国際観光旅客税(出国税)への批判続くー特定財源化への懸念など

27年ぶりの新税となる国際観光旅客税法案(出国税)は、去る2月2日に平成30年度税制改正法案とともに国会に上程。衆議院財務金融委員会で審議し、3月2日同委員会において可決され、 3月9日衆議院本会議で賛成多数で可決されました。現在参議院へ送られていますが、「森友文書改ざん問題」で同院では審議が進んでいません。

 

ところで、国際観光旅客税(出国税)に関しては、1)道路特定財源のように予算が肥大化し無駄遣いとなる、2)受益と負担の関係が不明確、3)国境を超える活動への課税は地球規模課題に使用すべき等、という批判がなされています。

 

先週の週刊エコノミスト誌に佐藤主光・一橋大学国際・公共政策大学院教授が、上記1)と2)の立場から、国際観光旅客税を批判していますので紹介します。佐藤教授は、21世紀政策研究所(注:経団連の公共政策のシンクタンク)「あるべき税制に関する委員会」委員、「地方分権に関する基本問題についての調査研究会」委員(総務省・財団法人自治総合センター) 、内閣府・民間資金等活用事業推進委員会委員なども務めています。

 

なお、3)についてはこの間国会内の議論で、何人かの議員が取り上げていますので、別途紹介します。

 

 

●エコノミスト2018.03.20 
〔27年ぶり新税〕国際観光旅客税・森林環境税 “第2の道路特定財源”懸念も=佐藤主光

 

2018年度税制改正で新たな税「国際観光旅客税」の導入が決まった。この税は報道で出国税とも呼ばれた。国による新税はバブル期の地価税以来27年ぶりである。19年1月7日以降、訪日外国人客が日本から出国するとき、および日本人が旅行などで出国する際に1人当たり1000円を徴収することになっている。

 

…中略…

 

新税は国際観光旅客税だけではない。森林環境税(仮称)も創設されることになった。政府は創設理由を「パリ協定の枠組みの下における我が国の温室効果ガス排出削減目標の達成や災害防止等を図るため、森林整備等に必要な地方財源を安定的に確保する観点から」と説明する。地方自治体が徴収している個人住民税の均等割り(一定額以上の所得がある場合に一律額で課される部分) に年額1000円上乗せされる形をとり、国の地方交付税・譲与税特別会計に払い込まれる。均等割りについては現在、東日本大震災(11年)後の「復興税」として1000円が課されているが、森林環境税は、この復興税が終了する24年度から課税される。森林環境税の税収は全額、「間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用」(18年度与党税制大綱)に充当すべく主に市町村に配分される。

 

◇受益・負担関係に疑問

 

これらの新税に共通して掲げられているのが税の「応益性」である。公共サービス・事業の受益者に一定の負担を求めることは公平にかなっているかもしれない。応益課税は課税の根拠を明確にすることで納税者の信認を得る上でも有用だろう。仮に、多くの納税者が受益を感じていないのであれば、対象事業を縮小して課税を縮減すればよい。ここでサービスの受益者=納税者は(1)高い税を払って受益するか、あるいは(2)低い税にとどめて受益を諦めるかを選択する。

制度上、国際観光旅客税は一般財源(一般会計)向けであるが、使途があらかじめ定められているという意味で目的税にあたる。実際、国際観光旅客税の導入にあたって、基本方針は「受益と負担の関係から負担者の納得が得られること」や「費用対効果が高い取り組みであること」を対象事業の条件に掲げている。財源は国家公務員の人件費などには充当せず、「無駄遣いを防止し、使途の透明性を確保する仕組みとして、行政事業レビューを最大限活用し、第三者の視点から適切なPDCAサイクルの循環を図る」ものとする。

 

しかし、国際観光旅客税を含む応益課税の実態は全く異なる。税の負担と受益の関係が定かではないことが多い。国際観光旅客税の場合、出国者が受益者であることが想定されているが、実際のところはどうだろうか? 例えば、基本方針が使途に掲げている「我が国の多様な魅力に関する情報」は日本人の出国者が受益するところではない。訪日客にしてもビジネスや国際会議などを目的としているのであれば、観光関連の施設・インフラを多く享受するとは考えにくい。そもそも、「受益と負担の関係から負担者の納得」(基本方針)を担保する仕組みが整っているわけではない。つまり、応益課税を建前にしても、実態は「取りやすいところから取る」ことになる。

 

◇予算査定逃れの手法にも

 

また、財源があることを理由に対象事業が膨張することが懸念される。つまり、財政需要(ニーズ)があるから財源確保するのではなく、財源があるから需要(使途)を拡大させかねない。その典型例が「道路特定財源」であろう。道路特定財源は自動車取得税、自動車重量税などに暫定税率を課して道路の整備・拡充に充てていた。08年度予算における道路特定財源税収の総額は約5兆4000億円に上っていた。しかし、利用ニーズの乏しい道路まで建設されたり、使途がミュージカル制作・上演など道路以外に広がったりしたという批判を受けて09年度に廃止され、暫定税率分は全て一般財源化された。

 

国際観光旅客税などについても政府は「無駄遣いを防止」するとしているが、財源を使い切るよう対象事業が際限なく拡大するかもしれない。森林環境税についても既に、30府県以上で 、個人住民税(均等割り)に対する500~1000円の超過課税として独自に導入が進んできた。こうした府県では屋上屋を架すことになり、そのままでは事業費が膨れ上がることになる。

 

観光基盤の拡充・強化であれ、森林整備であれ、それらを目的税=恒久的な財源でまかなうことは必須ではない。仮に国の重要な政策課題であり、「費用対効果が高い取り組み」と評価されるならば、他の政策・事業同様、毎年の予算編成の中で措置すればよいからだ。目的税の本音は国の財政状況が悪化する折、むしろ財政当局の厳しい査定を逃れることになるように思われる。恒久的な財源があると事業を続けたり、拡大させたりする格好の口実になりやすい。予算査定も甘くなりがちだ。政府は既存施策の財源の単なる穴埋めはしないとする。しかし、新規事業が新たな財源でまかなえるなら、既存施策の見直しも進まない。事業に優先順位を付けるにしても観光政策等の枠内であり、「部分最適」にとどまる。本来、国の予算配分は観光といった特定の分野にとどまらず、政策全体に目配りをしたものでなければならない。今後も財源を確保しやすい方法として、国際観光旅客税のような目的税は増えそうだが、財政がひっ迫する折に予算を分断させ、かえって、メリハリがあり効率的な、言い換えれば全体最適にかなった配分を損ないかねない。

 

(佐藤主光、一橋大学国際・公共政策大学院教授)