グローバル連帯税フォーラム

サイトマップ
お問合せ
NEWS
オリガルヒ制裁にはタックスヘイブン対策、金融資本台帳が必要
2022.05.19
オリガルヒ制裁にはタックスヘイブン対策、金融資本台帳が必要

日本ではまったく報道されませんでしたが、4月20日に開催されたG20財務相・中央銀行総裁会合に向け、「国際法人課税改革のための独立委員会(ICRICT)」が公開書簡を公開しました。ICRICTとはノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツや著書『21世紀の資本』のトマ・ピケティ、タックスヘイブン研究のガブリエル・ズックマンたちによって創設された公正なグローバル税制を求める非政府組織です。

 

そのICRICTが公表した書簡は「隠された富を対象としたグローバルな資産登録が必要な時だ」というもの(注1)。この書簡につき、4月19日付の英ガーディアン紙が「G20閣僚はオリガルヒへの取り締まりをタックスヘイブン対策に活用するよう促された」と題して報道していますので、紹介します。本文の前に、2,3の背景説明を行います。

 

1、オリガルヒと「ロンドングラード」

 

オリガルヒ(新興財閥)とはプーチン政権と癒着して財を成している者たちのことですが、その財(資産)たるやロシアGDPの21%に達すると言われています(米経済誌「フォーブス」)。その莫大な資産の相当部分が海外に移されていますが、最大の受け皿となったのが英国ロンドンで、その実態をNHKテレビが伝えていました(注2)。

 

英国には『ゴールデン・ビザ』という制度があり、投資額に応じて居住権、永住権が与えられる投資家用のビザ制度で、どんなに汚い金やマネーロンダリング用の金であろうと、金さえ払えば匿名でビザを取得できるというもの。オリガルヒはこれを使ったのですが、「英ロンドンは、ロシア語で都市を意味する“グラード”にかけて“ロンドングラード”と揶揄されるほどロシアマネーで潤った」とのこと。

 

現在、イギリス政府はオリガルヒ51人に制裁を科すことになっていますが、その資産の総額は1000億ポンド(15兆6000億円)。しかし、オリガルヒたちは「資産凍結はある程度見込んでいたのではないか かなりの資金をタックスへイブン(租税回避地)に、名義を別にしてきれいにして、すでに移している」とNHKは報じています(注2)。

 

2、タックスヘイブン対策、金融資産台帳作成が必須

 

それでオリガルヒへの制裁を有効裡に進めるにはタックスヘイブン対策が必要となります。多国籍企業に対しては先のデジタル課税(新多国籍企業税+世界共通最低法人税率)で網をかけることができますが、中小企業・ペーパーカンパニーや個人資産には網をかけることができていません。真の所有者と金融資産の中身が分からないからです。それでピケティやズックマンはグローバルな金融資産台帳を作成し、資産そのものへの課税を行うべき、と提案しています(注3)。

 

金融取引税でも難しいのに、金融資産税となるともっと難しいのではと思われますが、一つには有価証券については有力国ではほとんど電子化されていること(日本は証券保管振替機構)、二つにマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与防止が目的ですが、正・準会員併せて200以上の国・地域が参加する金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)が活動中であり、匿名のペーパーカンパニーに対する透明性確保を目指しています。これらが金融資産台帳作成のツールとして利用できるでしょう。

 

3、日本ではまず預金通帳の名寄せを行い、マイナンバーとリンクさせ金融資産台帳作成へ

 

ところで、金融資産は有価証券だけではなく、預金もあり、暗号通貨もあり、絵画や宝石もあるでしょう。これらすべてをカウントしなければなりませんが、日本では何よりも個人・法人の預金口座を正確に把握することが大事です。10億冊あると言われている預金通帳の名寄せを行い、預金口座とマイナンバーとをリンクさせることが必要です(プライバシー保護を前提として)。

 

ともあれ、ずタックスヘイブンの存在は税の公正さを著しく歪め、同時にグローバルな格差是正を台無しにさせるものです。例え国際連帯税が世界で実行され、途上国への支援が一層活発となっても、その支援以上ものリソースがタックスヘイブンへと流出するであろう構造を何としても解体していかなければなりません。

 

4、ガーディアン紙の報道

 

G20閣僚はオリガルヒへの取り締まりをタックスヘイブン対策に活用するよう促された
G20 ministers urged to use oligarch crackdown to tackle tax havens

重鎮エコノミストが、富裕層が国に支払うべきものを奪うのを阻止するための世界的な登録を要求

 

G20諸国は、著名な経済学者のグループから、ウクライナ制裁の中でのオリガルヒの富の取り締まりを、タックスヘイブン対策に大いに利用するようにと促されている。

 

火曜日に開催される20カ国の財務相会議に送られた公開書簡では、資産、会社、建物を所有者に関連付ける世界的な登録制度を導入し、彼らが国に支払うべきものを奪うことができなくなるようにすることが求められた。

 

この公開書簡には、経済学者のガブリエル・ザックマン、ジョセフ・スティグリッツ、トマ・ピケティや、フランスの捜査判事エヴァ・ジョリなど、租税回避防止団体「国際法人課税改革のための独立委員会(ICRICT)」の委員14名が署名している。

 

彼らは、タックスヘイブンに隠された極端な富の集中が不平等を拡大し、社会の最貧層を貧困化させていると主張し、「富裕層の税金悪用で歪んだ」国際金融システムの改革を要求しているのです。

 

パンデミック発生以来、世界の富裕層の富は2倍の150億ドル(1.01兆ポンド)に達したが、ICRICTの委員は、その間、貧富の差は広がるばかりで、ウクライナ紛争で悪化した状況は、多くの貧困層を生活危機とエネルギーや食料の高騰に直面させていることを明らかにした。

 

彼らは、グローバルエリートのメンバーは、しばしば「税金の支払いを避けるためだけでなく、汚職や違法行為によって生じたお金を隠すために精巧な構造を通し…グローバル金融は、税の悪用、汚職、マネーロンダリングを繁栄させることができ」その富を隠していると書いている。

 

ウラジーミル・プーチンの侵攻後、ロシアのオリガルヒに属する資産を制裁しようとする試みは、彼らの富の保有場所について署名者たちが「不透明性の壁」と呼ばれる壁によって、クレムリンとつながりを持つ人々に刑罰を課そうとする国々を困難にしていた。

 

書簡にはこうある。「ウクライナ戦争は、タックスヘイブンに正面から取り組み、緊急に透明化対策を実施する必要があることを示している。それは、すべてのオリガルヒ、そして税務当局や一般市民から隠され、金融の不透明性が高い国・地域に隠されているあらゆる富をターゲットにすることである」、と。

 

同グループによると、金融口座情報の自動交換や受益者登録の導入など、富とその真の所有者を結びつける上で、近年いくつかの進展が見られたという。しかし、これまでの進展は「政治的な意思」を欠いていたとし、G20諸国にさらなる努力をするよう促している。

 

「パナマ文書」、「パラダイス文書」、そして最近では「スイス・シークレット」など、大量の文書がリークされ、富裕層や企業の活動、そしてオフショアのタックスヘイブンの利用が浮き彫りになっている。しかし、その結果、各国政府に対してより厳しい税制上の措置を取るよう圧力がかかったにもかかわらず、活動家は、オフショア租税回避地の利用を取り締まることにほとんど進展がないと述べている。

 

ICRICTのエコノミストは、不動産、ヨット、ジェット機、宝石などの資産から、銀行口座、暗号通貨資産、貸金庫、信託などの法的手続き、さらには知的財産や商標などの無形資産まで、あらゆる形態の富を登録した資産登録の国際ネットワークの導入を提案した。

 

これらの資産は、法的な所有者とは異なる実際の受益者にリンクされることになる。経済学者らは、何がどこに、誰によって所有されているかを詳細に示すグローバル資産登録によって、各国が富と不平等を記録・分析できるようになり、税法の執行強化につながると同時に、不正な活動を行おうとする人々の防止になると述べています。

 

委員は、G20首脳に対し、このようなシステムを導入し、オフショア富とタックスヘイブンを議論するための緊急国際サミットを開催するよう促しています。「もう言い訳はいらない、パンデミックもいらない、戦争もいらない、行動しないことを正当化できない」と彼らは署名し、そのような行動は「民主主義を守り、一層進行する不平等を終わらせ、社会契約を再構築するために」必須だと結論づけた。

 

(注1)
https://www.icrict.com/press-release/2022/4/19/icrict-open-letter-to-g20-leaders-its-time-for-a-global-asset-register-to-target-hidden-wealth 
(注2)
https://www.nhk.jp/p/nw9/ts/V94JP16WGN/blog/bl/pKzjVzogRK/bp/pQ8JrVgMyX/ 
(注3)
https://toyokeizai.net/articles/-/74897