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「環境・社会富裕税」創設に向け、9月から欧州100万人署名に向かう
2023.07.22
「環境・社会富裕税」創設に向け、9月から欧州100万人署名に向かう

欧州レベルで最富裕層1%を対象とした富裕税創設に向け、具体的に動きが始まりました。仏ルモンド紙は「7月11日火曜日、欧州委員会は、欧州社会民主党陣営の有力人物2人、ベルギーのPaul Magnette議員とフランスのAurore Lalucq議員による欧州市民イニシアチブ(ECI)の登録を決定したと発表」と報道(注1)。

 

両議員による欧州委への要請は「エコロジーと社会的移行のための巨万の富への課税」(Taxing great wealth to finance the ecological and social transition、以下、環境・社会富裕税と略)をECI方式で行うというものです。この方式は少なくとも7カ国の欧州国民から1年以内に100万人の署名を集めれば、欧州委員会に対して立法を提案することができる制度です。これを欧州委が受理したということで、9月から署名がはじまるようです。

 

●環境・社会富裕税の目的

 

「この構想は、欧州委員会に対し、巨万の富に対する欧州税の創設を求めるものである。これにより欧州連合の財源が確保され、加盟国が共同出資する欧州の生態系・社会的移行および開発協力政策を拡大し、永続させることが可能となる。この拠出金は、気候変動や不平等と闘うために使用され、これらの目標達成のために欧州市民が公平な負担をすることを保証するのに役立つだろう。」(欧州連合のHPより)

 

●欧州富裕税を推進する人々・団体

 

1)欧州議会議員100人ほどの賛同(注:中道右派の一部、中道左派、グリーン、左派など)

2)研究者・専門家:トマ・ピケティ、ガブリエル・ズックマン、ジョセフ・スティグリッツ、ジャヤテイ・ゴーシュ、アン・ペティフォーなど

3)愛国的な大富豪:マリーナ・エンゲルホルン(1992年、オーストリア生まれ。世界最大の総合化学メーカーBASF社の創設者の一人)など

4)NGO/シンクタンク:オックスファム、TaxEd Alliance (Actionaid, Global Alliance for Tax Justiceほか)、ETUC(欧州労働組合連合)、Patriotic Millionairesなど

 

なお、上記の名前、団体等は欧州富裕税に向けたキャンペーンサイト(注2)をご覧いただくとして、この富裕税の仕組み等についてはまだ公表されていないようです。オックスファムの試算によれば、欧州の億万長者に年間最大5%の富裕税を課せば、年間2500億ユーロ近くが集まる可能性があると報告しています(注3)。

 

●富裕税関する最近の動きと100万人署名への注目

 

・富裕税については欧州各国で廃止・縮小されてきましたが、この間、欧州議会においてEUの長期予算である多年度財政枠組み(パンデミック復興資金の返済資金も含む)の修正議論の過程で富裕税提案が出されました。しかし、この提案は見送られたという経緯があります。そこで議会(並びに行政)の外から市民の総意で富裕税の実現を目指そうというのが今回の動向といえます。実際、世論調査でも富裕税への賛同は高いようです。

 

・ひとつ問題は、富裕税実現となれば、富裕層が国外脱出を図るということで、最近でもノルウェー政府が富裕税1.1%に引き上げたところ続々と富裕層が国を出ているということです(行先は主にスイス)。これへの歯止めが絶対必要になりますが、推進派はどのような制度設計を考えていますでしょうか?

 

・さらに言えば、富裕税は直接税ですので、その分抵抗が激しくなると思いますので、まずは富裕層が行う資金運用に課税していく、つまり株や通貨などの金融取引に課税していくという間接税の方がやり易いのではないかと思います。ともあれ、何しろ100万人署名ですから、大きな運動になることは間違いありません。この運動に注視し、わが国でも増税が待ち受ける中、大衆収奪にならない形での増税を、すなわちお金がうなるほどあり十分担税力のある所から徴収することのできる税制を考えていきたいと思います。

 

(注1)

欧州委員会、富裕層課税に関する請願を承認

(注2)

欧州富裕税キャンペーンサイト

(注3)

Economists, activists and millionaires register landmark ‘European Citizens’ Initiative’ calling for a European wealth tax on the richest 1%