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グローバル課税の議論が本格的に始動>国際課税の第3の柱としての世界最低富裕税
2024.04.23
グローバル課税の議論が本格的に始動>国際課税の第3の柱としての世界最低富裕税

ニューチャレンジ

 

今月17日からワシントンでIMF・世銀春季総会やG20財務相・中央銀行総裁会合が相次いで開催されましたが、グローバル課税(Global Taxation)を巡って重要な会合がこれまた相次いで行われました。ひとつは、ブラジル・フランス・ケニアの各財務大臣とIMF専務理事がスピーカーとなって開催された“G-20 Event: New Challenges in International Taxation”(注1)、もうひとつは、ケニア、バルバドス、フランスを共同議長国とする“The Taskforce on International Taxation to Scale Up Development, Climate, and Nature Action”の第1回会合です。

 

当然両方の会合は別々に行われたものですが、実はかなり連携が取れていたと思われます。というのは、前者の会合の司会者をローレンス・トゥビアナ氏(欧州気候財団のCEO)が務めたのですが、実は彼女は後者のタスクフォースの共同事務局長です。

 

以上の取り組みに関して、日本のメディアはほとんど報道していませんので、今回はまず New Challenges の方をお知らせします。

 

■ 「世界最低富裕税は世界のマクロ経済問題の中核をなす」(ブラジル財務大臣)

 

今年のG20議長国はブラジルですが、主要テーマとして格差是正や貧困・気候変動を挙げ、そのためのキーコンセプトとして超富裕層に対する「世界最低富裕税」の導入を提案しています。

 

アダジ大臣は、「世界最低富裕税など国際課税は単に進歩的な経済学者のお気に入りのテーマではありません。世界のマクロ経済問題の中核をなす重要な関心事なのです」と会合の冒頭で述べ、「…世界的に格差は拡大しており、持続可能な開発目標はますます遠ざかっています。ブラジルがG20議長国を務めている間、私は社会的および環境的基準に基づいた新たなグローバリゼーションを提唱してきました」 (注2)と述べました。

 

ところが、実はこのブラジル提案に賛同しているのはフランスとスペインだけで(後者はG20メンバーではない)、必ずしも広がりを見せていません。これに対し、ブラジル側も織り込み済みで、「国際協力がなければ、各国の行動には限界があります。協力がなければ、トップにいる人たちは私たちの税制を逃れ続けるでしょう」と大臣は述べています。

 

■ 国際課税アジェンダの第3の柱としての「世界最低富裕税」

 

では、この富裕税をどう世界的な協力のもとに実現できるのでしょうか? 結論として、OECD/G20が決めた「BEPS(税源浸食と利益移転)の包摂的枠組み」である二本の柱にプラスして、富裕税を3本目の柱として据えて、議論していくと考えているようです。この点、フランスのル・メール経済財務大臣も同様の考えを取っています。

 

ちなみに、第一の柱はいわゆるデジタル課税で、多国籍企業に対する課税権をそのビジネスを実施している市場国に配分するもの、第二の柱はいわゆるグローバル・ミニマム課税で、多国籍企業の最低法人税率を決めるもの(当面15%)、です。前者については、条約として2025年批准・実施をめざしています。後者については、今月から日本でも導入されています。いずれにせよ140か国がこれに賛同しており、富裕税もこうした国際協力で導入したいということです。

 

もとより世界的な富裕税の導入は相当困難であると思います。ル・メール大臣は2027年を目指すとしています。ともあれ、富裕税導入はこれまでは一部学識者やNGOの要求でしたが、G20レベルで公に論議となることはかつてないことであり、進展を期待するものです。

 

■ ミニマム富裕税の税収:世界2756人で2500億ドル、日本44人5180億円?

 

さて、この世界最低富裕税の対象者と税収を見てみましょう。これはパリ経済学院のガブリエル・ズックマン教授が参加した調査機関「EUタックス・オブザーバトリー」が行っていて、「10億ドル(約1500億円)以上の資産を持つ富裕層(ビリオネア)の保有資産の2%課税」というものです。世界には2756人のビリオネアがいるので(東アジア838人、北米835人)、2500億ドルの税収となると試算しています(注3)。

 

日本はとなると、フォーブス・ジャパンの「日本長者番付 2023 トップ50」によりますと、1500億円以上のビリオネアは44人で、資産総額25兆8990億円となり(注4)、従って税収は5180億円となります。

 

ところで、フォーブス・ジャパンの国別ビリオネアを見ますと、東アジアでは中国で495人、香港66人、台湾52人、韓国41人となっています。これに日本の44人を加えても計698人ですので、上記「EU…オブザーバトリー」の838人とは若干差があるようです(シンガポールのビリオネアは推定44人)。それにしても東アジアの大富豪は中国=華僑系が圧倒的です。これらの人士に果たして「ノーブレス‐オブリージュ(社会的に地位の高いものはそれに応じて社会に貢献しなければならない)」の精神は宿るでしょうか?

 

(注1)

G-20 Event: New Challenges in International Taxation

(注2)

“Taxation is at the heart of the global macroeconomic issue,” says Brasil’s Minister of Finance

(注3)

G20、富裕層への最低課税案が浮上 ブラジルや仏が支持

(注4)

日本長者番付 2023 トップ50

 

※写真は、クリスタリナ・ゲオルギエバIMF専務理事のXより。登壇者は、左からトゥビアナ氏、ゲオルギエバ氏、フェルナンド・アダジ伯財務相、ブルーノ・ル・メール仏経済財務相。ケニアのヌジュグナ・ヌドゥング財務・計画相はまだ到着していない模様。