8月7日付朝日新聞「私の視点」コーナーに、当フォーラム理事の宮越太郎氏の投稿が掲載されましたので、紹介します。なお、文中にある「ジョセフ・スティグリッツの外交誌での論稿」というのは、FOREIGN AFFAIRS誌に載ったThe International Tax System Is Broken(国際課税システムは破綻している)です(*)。
宮越太郎さん「私の視点」
6月末の国連報告によれば、2030年達成が目標のSDGs(持続可能な開発目標)の内83%が達成されていない。大きな原因は資金不足で、不足額は年間約4.2兆ドルに上る。ESG投資など民間資金は広がっているが、公的資金の拡大なしに達成は難しい。
大きなウェートを占める目標が、気候変動対策だ。昨年のCOP28 (国連気候変動会議)では、フランスのマクロン大統領が、「国際課税に関するタスクフォース」を発足した。化石燃料や海上・航空輸送への課税、国境を超えた経済取引の恩恵を受ける金融取引への課税など、グローバルタックス(国際連帯税)に基づく革新的な資金調達手段を決めるのが目的である。グローバルタックスは、従来の国家主権に専属した課税では対応できない、国境を超える取引や資産に課税し、税収を地球規模課題の解決などに充てる税制だ。
すでに導入されているのが航空券連帯税だ。税収はユニットエイドという国際保健機関に送られるが、医薬品開発などは成功率が低くリスクが高いので、まさに公的資金が適しているといえる。
…中略…
これまで先進国中心のOECDが国際課税ルールを策定してきたが、現行制度では年間約4800億ドル(約72兆円)の租税漏れが生じるため、昨年、国連が国際課税の公平な制度を目指し「国際租税協力枠組み条約」交渉開始の決議をした。9月の国連総会で進捗報告が予定されている「枠組み条約」には、租税回避を許す欠陥税制を改革するものと期待が集まる。ノーベル賞経済学者のジョセフ・スティグリッツも7月、外交誌にそう明確に指摘した論稿を寄せた。
この条約に加え、今年と来年はSDGs達成の資金調達にとって決定的に重要な年となる。一つは11月に開催されるCOP29で、気候変動対策へ向けた資金動員が主要な議題になる。二つ目は来年十年ぶりに国連の第4回「開発資金国際会議」が開催されることだ。第3回ではその後の開発資金調達の指針となる行動目標が策定された。
グローバル連帯税フォーラム(http://isl-forum.jp)はグローバルタックスや枠組み条約の実現に向けて動いているが、非現実的と批判されることも多い。しかし、これらのアイデアはむしろ国境を越えて繋がる今の世界の現実に即したものだ。SDGsを取り巻く困難な現実に世界が諦めつつある中、国際課税のようなアジェンダに大きな発言権を持つ日本だからこそ、官民総掛かりでこの現状を変え得るアイデアに挑戦すべきではないだろうか。