観光庁(国土交通省)は15日、国内の地方の観光施設整備などに使う財源を確保するための有識者検討委員会を開催しました。検討委員会には、次の3案が提示されたようです。「▽出入国者(出国税など)▽航空機利用者(航空旅客税など)▽宿泊施設の利用者(宿泊税など)」(毎日新聞)。が、観光庁側の本心は出国税であることは間違いありません。
●国土交通省の二枚舌
これまで国交省は、外務省から新設要望として9年間出し続けている航空券連帯税(以下、連帯税)につき「観光客の減少が予想される」などとして反対してきました。出国する国際線航空から徴税するという仕組みにおいては、連帯税も出国税も変わりません(当然使い道が違ってきます)。連帯税で客が減少するなら、出国税でも減少するはずですが、そのことは不問にしています。これこそ二枚舌ではないでしょうか。
●出国税は受益と負担の乖離が大きすぎる
以前にも書きましたように、一応観光庁側は「受益と負担」との関係を気にしているようですが、受益する外国人観光客だけに課税すれば「内外無差別原則」(WTOサービス貿易など)に反しますし、出国する日本人にも課税するとすれば受益はなく負担だけとなってしまいます。また、訪日外国人もすべて観光客ではなくビジネス客もいますが、こちらも受益なしです。
また東京新聞では次のような指摘がなされています。
検討会で座長の山内弘隆・一橋大大学院教授は「財源的な裏付けが観光の持続的な発展につながる」と述べた。ただ、使途は明確に示されておらず、中部地方の観光地の自治体関係者は「もともと外国人観光客を受け入れるノウハウや人材が足りない市町村は、予算を有効に使えないのではないか」と話す。「観光立国」を名目に集めた税金が、地方の効果の薄い施策や公共事業に投じられる懸念も残っている。
ところで、座長の山内教授ですが、2010年9月に開催された政府税制調査会の国際課税小委員会において有識者として出席し、「航空券連帯税により、航空利用者の負担とすることについては、受益と負担の関係が不明確」として批判的見解を述べていました。出国税は「受益と負担の関係が明確だ」とぜひ証明していただきたいですね。
●航空券連帯税に関する受益と負担の関係について
航空券連帯税に関する受益と負担の関係は、ちょうどODAのそれと同じです。ODA資金は国民からの税金から拠出されますので、負担者は日本の国民です。一方、ODA資金を受け取りそれを貧困対策や基礎教育関係などに使うのは途上国です。つまり、受益者は途上国の国民ということになります。
え? ではODAも受益と負担との関係が乖離しているではないか、と思われるかもしれません。しかし、「情けは人のためならず」ということわざにもあるように、それなりに裕福な国民が困窮する国民を助けることは、まわりまわってやがて逆の関係になることもあるのです。実際、先の東日本大震災で、ハイチはじめ世界の最も貧しい国々からも支援の申し込みが寄せられました。それはともかく、困っている隣人を助けることは、それが国同士の関係においても必要なことであり、(貧困国で多発している)民族対立や地域紛争を未然に防ぐことができるのです。そういう意味で、ODAは直接的には受益と負担との関係は薄いものの、間接的にその関係は濃いものとなっていきます。
話を航空券連帯税に戻しまして、負担するのは飛行機の国際線を利用する客で(以下、利用者と略)、受益するのは途上国の国民です。利用者には直接受益はないものの、途上国の貧困や感染症対策などグローバルな課題の解決に資することになり、上記のODAのように間接的ながら利用者にも受益が及びます。
さらに航空券連帯税はそれにとどまりません。利用客は地球規模の航空網の発達というグローバル化の恩恵を受けていますが、反面、航空網の発達は感染症(デング熱やジカ熱など)のパンデミック的な拡大、温室効果ガスの大量排出という負の影響をもたらしています。これを改善するにはコストがかかりますが、今日利用者はそのコストを支払っていません。この負のコストを支払ってもらうことは実に理にかなっていると思います。
ところで、グローバル化の恩恵を受けているのは、国境を超えて経済活動を行っている航空、船舶、電子、金融、貿易などです。ですから、国際(グローバル)連帯税は航空券のみならず、輸送税、電子商取引税、金融取引税、多国籍企業税などを射程に入れて導入を図っていきたいと考えています。