政府の新型コロナ(以下、コロナ)対策の組織である「基本的対処方針等諮問委員会」はこれまで感染症の専門家中心の集まりでしたが、5月に経済の専門家4人を加えました。その1人である東京財団政策研究所の小林慶一郎研究主幹がブルームバーグの取材で、相当踏み込んだ提言をしています。
●ベーシックインカムとトービン税
提言の骨子は、①コロナで影響を受けた個人の生活再建と事業転換を支援するための「ベーシックインカム」の導入、②コロナ対策で悪化した財政立て直しのため、国際社会協調による金融取引の収益に課税するトービン税の導入、というものです。
【ブルームバーグ】コロナ継続支援でベーシックインカム導入を-諮問委新メンバー小林氏
小林氏は以前からベーシックインカム導入は提言していたかと思いますが、トービン税導入の提案ははじめてではないかと思います。なお、記事ではトービン税について「金融取引の収益に課税する」ものとしていますが、トービン税といえば「為替(通貨)取引そのものに課税するものであり、「収益」に課税するものではありません。また、金融取引といっても、株も、債券も、デリバティブも、そして為替取引もあり、何の「金融」取引か記事では判然としませんが、記事全体を読むと「為替(通貨)取引」だと思われます。
●欧州での金融取引税(復興基金の財源の一部)
一方、欧州では先にドイツとフランスがEU(対コロナ)復興基金として7500億ドル(約90兆円)創設すべきと提案しました。案の定スウェーデンやオランダ等「倹約国」が反対しているようですが、これまで後ろ向きであったドイツが提案してるのですから、今週後半に行われるEU首脳会議で最終決定に至る見込と言われています。
実はこの基金の財源として、金融取引税やデジタル課税、さらに国境炭素税など大企業中心の課税によって賄うようです(まずユーロ債を発行し、その償還資金に充てる)。ただここでも何の金融取引税かは提示されていません。これまでの経緯からすると、株取引税が有力ですが、これだけでは税収が十分上がらないとして他の取引税の議論もあるようです。
他方、我が国ですが、現在のところ第一次や二次の補正予算を加えて莫大な借金財政となった国家予算に対して、どのように立て直していくかの議論はまったく起きていません。そういう中で、小林氏のトービン税提案は大きな反響を呼ぶのではないかと思われます。
●世界の為替(通貨)取引への課税、0.001%の税率で17兆円の税収
国際協力やSDGs対策資金としてトービン税を含む金融取引税を国際連帯税として提案している私たちとしては、その貴重な資金を国内の財源確保だけのために使うことには納得できませんが、様々な金融取引をミックスして税収を行えば、相当の資金が調達されます。ちなみに、世界の為替取引量は2019年で年間 約1,614 兆 5,500 億ドル(17 京 3000 兆円)にも上っています。これに超々低率の0.001%課税するだけで、世界で16 1億 4550 万ドル(17兆2757 億円)の税収が可能になります。これに株取引や債券取引、デリバティブ取引、外国為替証拠金取引などへの課税を実施すればいっそうの税収がもたらされます。
ともあれ、以下小林氏のトービン税提案の内容を見てみますが、時代はようやくトービン税または金融取引税の実施に近づきつつあるようです。
【ブルームバーグ記事より】
トービン税導入で国際協調を
新型コロナ対策を踏まえた20年度の一般会計歳出総額は160兆円、新規国債発行は90兆円を上回り、それぞれ過去最高を更新。小林氏は、「感染症危機が数年後に終わった時に100兆-200兆円とかものすごい金額で国の借金が増えているはずだ。感染症危機で国内総生産(GDP)の半分くらい借金が増えるという現象は日本だけではなく世界的に起きる」と述べ、それに対応するための国際協調の枠組みが必要だと述べた。
具体的には、金融取引の収益に課税するトービン税の導入を提案。「一つの国がトービン税を導入すると、投資家の資金は全て海外に逃げてしまうが、世界中の国が一斉にトービン税をかければ、投資家はどこにも逃げられなくなるため、低い税率でもかなりの税収が得られる」とみる。世界各国が合意できれば、「1-2年間かけてコロナ対策で増えた各国の借金は、その税収で減らしていくという考え方ができるのではないか」と述べ、20カ国・地域(G20)財務相会合などの場で議論すべきだとの考えを示した。
※写真は、小林慶一郎さん