1)「保健のための革新的な資金調達メカニズム:マッピングと提言」公表される
「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」(常設事務局:フランス外務省)が11月末に報告書「保健のための革新的な資金調達メカニズム:マッピングと提言」を公表しました。(報告書はフランス外務省のHPに掲載されていますが、URLは下記参照)
報告書では、新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックにより、途上国が危機によって増大した巨大な開発資金ギャップを満たすための追加的な資金源の必要性が述べられ、それが先進国のODA予算や途上国の国内資源に加えて、開発のための革新的な資金調達の可能性に光を当てています。コロナが発生する前、SDG3「健康と福祉=保健」を達成するための年間資金ギャップは、すでに低・中所得国(LMIC)で3,710億ドルと見積もられていましたが、パンデミックによりそのギャップがさらに広がっていることが予想されています。
報告書は、保健に関するSDG3に対応する42の主要な革新的資金調達イニシアチブを次の5つのカテゴリーに分けて分析しています。
1、結果ベースとした資金調達
2、触媒的資金調達
3、インパクト投資
4、社会的責任投資
5、課税の新しいチャネル
2)「課税の新しいチャネル」の位置づけ弱く
さて5番目の“NEW TAXATION CHANNELS”を見てみますと、冒頭「今後、国際課税と国内課税は、保健のための資金源として急速に拡大していく可能性があります」と述べられていますので期待してみました。“Domestic health taxs”(国内課税)ではタバコ税、アルコール税、砂糖税を挙げ、“International Solidarity Taxs”(国際課税)では航空券税、金融取引税、炭素税、超富裕税が挙げられています。
しかし、後者では航空券税が9か国でしか実施されていないこと、また金融取引税(FTT)については2013年に欧州11か国が実施しようとしたが議論が長期化し、合意を難しくしている、という現状が報告され、何とも国際課税の打ち出しが弱い記述になっています。
その上で、報告書は「国際連帯税は、SDG3のための資金調達を増やすことができますが、その実施には世界的なリーダーシップと国際的な調整が必要であり、それを達成するのは難しい場合が多いため手間がかかる」と述べています。一方で、「国際連帯税の可能性は運用面や政治面での大きな障壁を克服する必要があるが、ODAを強力に補完できる大きなチャンスでもあります」、と。何か煮え切らない書き方をしています。
ちょっと疑問なのは、FTTに関して最新情報が述べられていないことです。それは、①欧州における94兆円にも上る復興基金の(償還に充てる)原資としてFTT実施が企図されていること(2024年から、まだ具体化はされてない)、②米国ではバイデン新大統領が誕生することになりますが、副大統領のカマラ・ハリス氏や米行政管理予算局(OMB)局長のニーラ・タンデン氏など有力指導者がFTT推進派であり、早晩新政府の経済政策にFTT実施が上ってくる可能性があること、です。
ともあれ、民間セクターの資金の利用は、どうしてもリターン問題がネックであり、採算を度外視して援助しなければならないプロジェクト等(ワクチン開発や難民救援など)に対しては、公的資金となる国際課税の方が有効であることは間違いがありません。
3)国際連帯税を放棄した日本外務省
リーディング・グループの一員でもある日本政府(外務省)は実に困ったことに11年連続して新設要望していた国際連帯税要求を断念してしまいました。これはコロナ禍にあって感染症対策で困難に陥っている途上国への支援のための大きなリソースを放棄することに等しいといえます。
まして昨年夏まで前外務大臣が国際会議の場で散々国際連帯税の必要性を訴えてきたという経緯にもかかわらず、一方的に放棄してしまうということでは、国際社会にどのように言い訳をするのでしょうか。外務省は改めて国際連帯税の旗を掲げ直すべきでしょう。
■「保健のための革新的な資金調達メカニズム:マッピングと提言」
“Innovative financing mechanisms for Health: Mapping and Recommendations”