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世界的リスク回避の処方策>途上国への有効なワクチンの供給、そのための資金調達
2022.01.12
世界的リスク回避の処方策>途上国への有効なワクチンの供給、そのための資金調達

ユーラシア・グループの年頭の「世界の10大リスク」を読み、そのリスク回避のための処方策を考えてみました。

 

●世界のリスクの第一位は「No zero Covid(ゼロコロナ政策の失敗)」

 

米政治リスクの調査会社ユーラシア・グループが毎年年頭に「世界の10大リスク」を発表しており(以下、グループ)、今年の第一位は「No zero Covid(ゼロコロナ政策の失敗)」でした[注1]。これは第一に中国のコロナ政策の失敗を意味し、第二に(グループでは明確に述べていませんが)先進国のワクチン等確保での自国優先政策による国際社会総体の失敗を意味します。

まず、中国の失敗について。中国は現在のコロナ変異種を完全に封じ込めることができず、国内での経済的な混乱が世界的に拡大していく可能性があり、というもの。

 

それはオミクロン株のような感染力の強い変異型に対して、中国製ワクチンは効果が低く[注2]、またゼロコロナを標榜している手前、封じ込めのためにはロックダウン(都市封鎖)を行うしかないことからきます。グループでは述べていませんが、来月の北京冬季オリンピックがこれに拍車をかけるのではないか。すると中国のあちこちの都市で強権的なロックダウンが行われるようになり、中国が世界的なサプライチェーンの要であることから、世界的な混乱に繋がっていくのではないかというものです(現在外資系企業の拠点となっている天津市がロックダウン手前になっている)。

 

●もっとも有効なワクチンであるmRNA型は先進国が独占

 

一方、先進国の自国優先主義からくる帰結は次のようになります。まず数あるワクチンの中でメッセンジャー(m)RNAが最も効力があり、ファイザーとモデルナがそれです。年間35.45億回分の生産を予定しているファイザーへの契約具合ですが、そのうちの75%を先進国が占めています(米、欧州、日、英、加)。これに石油産油国やイスラエルなどを加えると80%以上が高所得国によって買われようとしていますし、中国も3%ほどを契約済みです(数字は昨年9月17日現在[注3])。

 

このような状況の上に、高所得国はブースター(追加)接種をどんどん進めようとしていますからいっそうmRNAワクチンは新興国や途上国には配布されず、ワクチン格差はどんどん拡大することに。この結果どうなるかというと、「(グループは)『発展途上国が最も大きな打撃を受け、現職の政治家が国民の怒りの矛先を向けられる』と指摘し、貧困国はさらなる負債を抱えると警告する」(1月4日付日経新聞)。

 

●アダム・トゥーズ 教授の提言>グローバルワクチン対策こそ本質的経済政策

 

上記のようなグループのトップリスク論につき、ではどう対処すべきかという提言はなく、ただ指摘しているだけですが、実は中国のコロナ政策等につき同様な分析をしているのがアダム・トゥーズ コロンビア大学教授です[注4]。分析をまとめますと、コロナ危機は世界を富裕国、途上国、中国と3つ分断したこと、世界のワクチン接種推進こそ最優先課題なこと、なのに米中関係は緊張したままであり「安全保障」がトップに押し上げられていること、です。

 

ともあれ、教授はワクチン政策について次のように先進国を批判しています。「全員が安全になるまで誰も安全ではないとの教訓をオミクロン・ショックが思い出させたのに、世界のワクチン接種率は最優先課題になっていない。(コロナ政策こそ本質的な経済政策なのに)先進国はいまだに自国優先の政策の狭い枠にとらわれている」、と。

 

●グローバルワクチン対策に必要な政策>知的所有権問題、新しい資金調達問題など

 

では、グローバルワクチン対策に必要な具体的な政策は何でしょうか? 第一に、新興国も途上国もmRNAワクチンの取得などワクチン格差を是正することです。そのためには製薬会社がワクチンという「国際公共財」を提供するという立場から知的財産権を一時放棄し、新興国を含む途上国でワクチン生産を可能とすることです。その際、技術援助も欠かせません。

 
今年初めから南アフリカでファイザー製ワクチン製造が開始されるようですが、ワクチンをバイアルに入れ密封・出荷する生産の最終段階に限られるもので、知的財産の移転はないそうです。つまり、ファイザーの下請け会社が南アフリカにできるだけです。

 

第二に、途上国へのコロナ対策支援のための国際ファシリティーである「ACTアストラレータ」(以下、ACT-A)への資金援助です。ACT-Aは10月に評議会を開催し、1年間の予算額を234億ドル(約2.64兆円)と算出しました。しかし、2021年でも資金不足に見舞われているという現状にあって、上記予算額を調達し、資金ギャップを埋めることは容易ではありません。

またG20レベルで創設された「パンデミックへの備えと対応のための国際公共財への資金調達に関するG20ハイレベル独立パネル(HLIP)」では、向こう5年間、年間100億ドル(約10兆円)規模の「世界保健脅威基金」設立を提案しています。

 

こうしたコロナ・パンデミック関係の資金援助も先進国等のODA等の財源だけでは到底賄えません。それで各国の政府はさかんに民間資金の利用を打ち出しています。そのひとつがESG投資で世界的に35兆ドルもの資金が投資されています。しかし、民間資金はどうしても利潤を上げなければならないため、もっぱら気候変動関係の電力や電気自動車(EV)に集中し、ESGバブルと呼ばれる状況になっています[注6]。

 

そこで国際連帯税の出番です。グローバリゼーション構造なくして事業を展開できない国際金融や巨大ITなどのグローバル企業の、国境を超える取引等に広く薄く課税または課徴金を課し、その資金をワクチン(製造)ほかコロナ感染症ならびに地球規模課題に使用していくべきです。それをまずはG20レベルで実施していくことが求められています。

 

[注1]
【日経】22年の10大リスク、「中国のゼロコロナ失敗」が首位(2022年1月4日)
(原文)EURASIA GROUP’S TOP RISKS FOR 2022(英語日本語
[注2]
【ロイター】中国シノバック製ワクチン、オミクロンに低効果=査読前論文(2022年1月1日)
【ブルームバーグ】中国シノバック製ワクチン、オミクロン株防御効果ない-香港研究(2021/12/15)
[注3]
【日経】チャートで見るコロナワクチン世界の接種状況は 「メーカー別の契約数」
[注4]
【日経】経済より安全の保障に重点 コロナ危機を超えて(2022年1月5日)
[注5]
【ロイター】南アのバイオバック、ファイザー製ワクチン製造開始へ 年初から(2021年12月7日)
[注6] 
【朝日】(多事奏論)脱炭素マネー 高すぎる削減目標に透ける思惑