今月22-23日パリで開催される新グローバル金融協定サミット(以下、協定サミットと略)を前に、Gunther Capelle-Blancardパリ第1大学教授が金融取引税に関して最新情報を含む「The taxation of financial transactions: An estimate of global tax revenues 金融取引への課税: 世界の税収の試算」(注1)という論文を発表しました。また、この論考が協定サミットのワーキンググループ(4つのグループのうちの革新的資金調達グループ)にも提案されたとのことです。
さてこの論文はソルボンヌ経済センターのWebサイトに掲載されていますが、マスメディアではリベラシオン紙に「Taxer les transactions financières, le retour d’une idée qui pourrait rapporter gros 金融取引への課税:多額の資金をもたらす可能性のあるアイデアの復活」と題して掲載されています(注2)。以下、簡単に紹介します。
●最大4000億ユーロをもたらすが、まずは既存の金融取引税からはじめる?
1)G20諸国で(株式交換または取引に)金融取引税(FTT)を導入した場合、年間1620億ユーロから2700億ユーロをもたらし、さらに日中取引や高頻度取引に拡大すると4000億ユーロ以上の税収となる。
2)従って、気候変動対策や貧困対策で莫大な資金需要がある現在、FTTはこれに応えることに役立つ。「この制度は、ケインズが最初に考え、トービンが開発したもので、2012年からフランスを含む約30カ国ですでに存在している」。
3)FTT推進派は、6月22-23日にパリでの新しい金融協定に関するサミットで政治的なチャンスを見出すだろう。「金融取引に対する国際課税への一歩は、何よりも、気候変動の影響を最も受けている国、つまり、気候変動の責任を最も負わない国にとっての貴重な勝利になるだろう」(NGOグローバル・シチズン副代表 Friederike Röder)。
4)税収だが、G20に導入した場合、フランス並みの税率0.3%で年間1620億ユーロ、英国並みの税率0.5%で2700億ユーロをもたらすと推定。が、日中取引や高頻度取引に拡大すれば、4000億ユーロ以上の税収になる。「貧しい国のために年間1000億ドルの気候変動資金を動員するという公約の達成と、豊かな国の国民総所得の0.7%を開発援助に割り当てるという集団的公約の達成に大きく貢献できる」(NGO ONEアドボカシー担当 Maé Kurkjian)。
5)【以下、編集者注】フランスも英国も株式の日中取引には課税していない。課税は、同一営業日において同一顧客によって執行されたすべての購入と売却をネットした(相殺した)額に行っている。つまり、ひとつひとつの取引(グロス)に課税していないので高頻度取引にあっても課税額はたいしたことはない(逆にグロス課税だと莫大な納税になる)。英国は株「取引税」ではなく「印紙税」として執行されてきている。また、フランスの場合には株取引税と言っているが、正確には株「譲渡税」と呼んだ方がよいのではないか。実際、「フランスでは60%から70%の取引がFTTの対象外になっているようだ」。
6)【本題に戻り】Capelle-Blancard教授は「FTTはよい税金」だと言います。それは「実証研究によると、導入時に取引量はわずかに減少するが、流動性や市場のボラティリティにはほとんど影響がない」「広範なベースと低い税率で、歪みを生じさせず、低い徴収コストで高い歳入をもたらし、高い再分配性を持つ税」なのだから、と。FTTが協定サミットでぐっと盛り上がり、協定内容に組み入れられるとよいですね。すると、その内容が9月のG20サミットに、同月の国連SDGsサミットに、そして11月のCOP28に繋がり、FTTが世界規模で実現していくと期待されます。
(注1)
Gunther Capelle-Blancard, The taxation of financial transactions: An estimate of global tax revenues
(注2)
Taxer les transactions financières, le retour d’une idée qui pourrait rapporter gros
【邦訳全文】
Taxer les transactions financières, le retour d’une idée qui pourrait rapporter gros
金融取引への課税:多額の資金をもたらす可能性のあるアイデアの復活
2023年5月15日発行
ある調査によると、このようなシステムを導入すれば、税率にもよるが、年間1620億から2700億ユーロをもたらすことができるという。しかし、ヨーロッパ全体への適用はまだ計画段階である。
カムバックである。各国政府がパンデミックから多額の負債を抱え、気候変動対策であれ貧困対策であれ、資金の必要性が莫大である現在、大規模な金融取引税(FTT)の導入は、この方程式を解決するのに役立つだろう。この制度は、ケインズが最初に考え、トービンが開発したもので、2012年からフランスを含む約30カ国ですでに存在している。
欧州規模での創設というアイデアは欧州議会で再燃し、先週水曜日(5月7日)に採択された決議で、欧州予算の新たな収入源の候補に挙げられている。2月に欧州議会は、「欧州委員会と強化協力交渉に参加している加盟国(フランスやドイツを含む11カ国【正しくは10か国】)に対し、2023年6月末までに金融取引税に関する合意に達するよう最大限の努力をするよう要請した」ところだ。この意図は新しいものではない。2011年9月以来、欧州金融取引税の指令案が欧州委員会の棚に眠っているのだ。
最大4,000億ユーロ
トービン税の推進派は、6月22日と23日にパリで開催される新しい金融協定に関するサミットに政治的なチャンスを見いだすだろう。「金融取引に対する国際課税への一歩は、歴史的な第一歩であり、エマニュエル・マクロンとナレンドラ・モディのサミットにとっての真の成功であり、何よりも、気候変動の影響を最も受けている国、つまり、気候変動の責任を最も負わない国にとっての貴重な勝利になるだろう」と、NGOグローバル・シチズンの副代表、Friederike Röderは述べている。
どれくらいの金額が期待できるのか? 経済学者のGunther Capelle-Blancard氏(パリ第1大学教授)が月曜日にNGO Oneから発表した研究は、いくつかの明確な根拠を示している。それによると、G20諸国にFTTを適用した場合、名目税率0.3%(フランスで選択された税率)で年間1620億ユーロ、0.5%(英国で選択された税率)で2700億ユーロをもたらすと推定しています。この税金を日中取引や高頻度取引に拡大することで、4000億ユーロ以上を回収することができる。「これは、2022年に1940億ユーロに達した世界の開発援助総額の2倍以上です」と、Oneのアドボカシー責任者であるMaé Kurkjianは比較する。そして彼女は、これが「貧しい国のために年間1000億ドルの気候変動資金を動員するという公約の達成と、豊かな国の国民総所得の0.7%を開発援助に割り当てるという集団的公約の達成」に大きく貢献すると計算する。
10年以上前に初めてスケッチされたとき、欧州のプロジェクト(想定されていた率は0.1%【編集者注:正確には、株と債券取引に0.1%、デリバティブ取引に0.01%】)は年間600億ユーロ近くと評価されていた。報告書は、現在の取引数で利回りを更新していない。Gunther Capelle-Blancard氏は、「欧州プロジェクトは素晴らしいが、非常に野心的である。2000年代前半に比べ、市場の状況ははるかに透明性が低くなっているため、収益については非常に不透明な部分がある。しかし、それ以降、取引が増えていることは確かです」と説明している。また、すべては課税ベースとその設計方法によって決まる、とも。
「良い税金とは」
エコノミストはまた、この税制を導入した国々で観察された効果を引き合いに出し、定期的に指摘される多くの批判に反論している。「実証研究によると、実際にはFTTの効果は控えめで、導入時に取引量はわずかに減少するが、流動性や市場のボラティリティにはほとんど影響がない」と説明し、「よく戯画的に言われることとは異なり、FTTは良い税金になる資産を持っている」と考えている。実際、「広範なベースと低い税率で、歪みを生じさせず、低い徴収コストで高い歳入をもたらし、高い再分配性を持つ税」なのだ、とも。
欧州やその他の国々でFTTが導入されれば、フランスの収入も増加する可能性がある。現行の課税は、主にフランスに登記上の事務所があり、時価総額が10億ユーロを超える企業の株式交換に関するものだ。「フランスでは60%から70%の取引がFTTの対象外になっているようだ」と報告書は述べている。昨年、FTTは約19億ユーロをもたらした。2016年、フランス議会はこれを日中取引に拡大することを決議した。エマニュエル・マクロンは大統領に選出されるや否やこの決定を覆し、その理由の1つとしてブレグジットを挙げています。彼はOuest-Franceのインタビューでこのように説明した:「欧州レベルでは、私はすべての道を行くと言ってきた。…私はFTTを望んでいる。私は、一貫した領域で適用され、理にかなっていて、効果的なFTTを望んでいます」。それが、約6年前のことです。■■
※写真は、Gunther Capelle-Blancardパリ第1大学教授