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ドイツ経済研究所(DIW)のFTT税収試算報告書:概要
2015.04.01
ドイツ経済研究所(DIW)のFTT税収試算報告書:概要

先に、3月9日付南ドイツ新聞に、「EU11カ国がFTT(金融取引税)を導入した場合の、ドイツの税収見込み」の記事が掲載されたことをお知らせしましたが、この税収見込みを試算したのがドイツでも有力なシンクタンクであるドイツ経済研究所(DIW)です。

 

その試算に関する報告書のエグゼクティブ・サマリー(概要)が英文で発表されていますので、翻訳しました。

 

なお、この報告書全体の意義について、ドイツのNGO、WEEDのピーター・ウォール氏は次のように述べています。

 

「研究の主要なメッセージは、税収が予測されていたよりも高いことで、これは課税の結果として取引高が減少し75%となるシナリオにおいてさえも得られる結果です。これは、配分の議論に関する斬新な情報を私たちに与えてくれています。FfD(国連資金会議)やCOP(気候変動枠組条約会議)のプロセスに対しても、この結果はよく適合します。その他、たとえばデリバティブや公債、居住地原則などに関する興味深い結果が示されています。」

 

DIW研究報告書:

Fiskalische und okonomische Auswirkungen einer eingeschranktenFinanztransaktionssteuer(ドイツ語)

 

エグゼクティブ・サマリー(pp. Ⅲ-Ⅳ、英語):

 

  • 本研究は、EU11加盟国間の先行統合(enhanced cooperation)に基づく金融取引税の導入効果を検証する。特に、欧州委員会の租税概念に基づき、ドイツ、フランス、イタリア、オーストリアの4参加国の税収を試算する。

 

  • クロス・ボーダーの金融取引税(以下、FTTと表記)は、EUにおいて根幹を成す重要性をもつ。FTTには、財政領域を超えた先行統合のモデルを確立すること、相当な税収を生み出すこと、金融セクターによる危機のコスト負担を適切に分配すること、そして将来の危機の予防に貢献することが期待されている。

 

  • フランスとイタリアは、それぞれ2012年と2013年に独自モデルのFTTを導入した。これらFTTモデルの効果に関する使用可能な実証的エビデンス(根拠)の全体的なレビューは、明瞭な結論を導き得ない。既存研究はおおむね取引量の減少を見出しているが、それらの発見は、課税対象企業のコントロール・グループ(統制群)の選択や観察時期の期間にかなりの程度依存した結果となっている。

 

  • EU4カ国における税収の試算が、本研究の核心である。第一試算の結果から、広範な課税ベースのFTTが相当な税収をもたらすことが明らかにされた。ドイツが獲得する税収の幅は、180-400億ユーロ以上で、これは居住地原則と発行地原則の双方を基礎に徴税し、税率を証券につき0.1%、デリバティブにつき0.01%とした場合の試算結果である。フランスの税収は、およそ140-360億ユーロ以上。イタリアの試算結果は、30-60億ユーロの間となった。オーストリアは7-15億ユーロの間の税収が見込めるだろう。

 

  • 課税ベースが広範である場合は、税率が低い場合においてさえも、依然として相当分の税収を見込める。もしデリバティブと証券の双方に0.01%の統一税率を採用した場合、ドイツの税収試算は約90-340億ユーロである。

 

  • もし国債の流通市場が課税されないと、税収見込は相当低くなる。ドイツの場合、およそ110-360億ユーロである。フランスは、およそ100-300億ユーロの間の税収が見込まれる。イタリアの税収は20-50億ユーロの間となる。オーストリアは5億から10億ユーロをわずかに上回る間の税収が見込まれる。

 

  • 同様に、居住地原則の撤回も、金融取引税の税収額を著しく制限することになる。イタリアとオーストリアはとりわけ影響を受けるだろう。フランスとドイツは試算額の30%を失うであろうが、一方オーストリアは試算税収の4分の3以上を失うであろう。したがって、もし居住地原則が落ち、FTTの徴税基本原則に発行地原則のみ採用される場合、より小さな国々が不相応に影響を受けるかもしれない。

 

  • デリバティブは、課税ベースのほとんどを構成する。もしこれが対象外となった場合、FTTから見込まれる税収の大半は失われる。ドイツとフランスは税収試算の90%を失うことになるだろう。

 

  • さらに、デリバティブの除外は、トレーダーが鞘取りの手段を通じた租税回避を行うことを助長する。そのあり得る帰結は、課税セグメントにおける課税ベースの著しい侵害である。したがって、FTTの導入を段階ごとに進め、デリバティブを第一段階において除外するモデルは、FTTの目的達成には不適当であるように思われる。

 

  • FTTによって特定の取引者(銀行、ヘッジファンド、保険会社など)に対しどのような影響を与えるかというデータは、不足している。国際決済銀行(BIS)における店頭デリバティブ「(BIS)報告銀行」や「その他の金融機関(other financial institutions)」は、とりわけ影響を受けるように思われる。それに対し「非金融機関(non-financial institutions)」はほとんど影響されないようだ。取引については、大雑把な検証でさえも不可能である。取引相手に関する必要なデータも使用可能ではない。

 

  • 金融取引データの改善手段は、至急求められている。公的に使用可能な証券取引の取引高データの明細、金融商品の発行国、取引相手の居住地は、FTTの影響を試算する際、とりわけ有用である。

 

 

ドイツ語圏以外の人々のためのヒント(DIW研究報告書のサマリーの補足、抜粋)

 ――ドイツのNGO、WEEDのピーター・ウォールより

 

・ サマリーにおける税収見込額に幅があるのは、以下の試算想定に基づく:

   最大値=課税による取引減なし

   最小値=課税による取引減の最大ケース

 

・ 研究の核心部分は以下:

  ・表5(p.23):「広範な課税ベースにおける税収」

  ・表6(p.24):「多様な税率と広範な課税ベースにおける税収」

  ・表7(p.25):「全商品0.01%の統一税率と広範な課税ベース」

  ・表9(p.27):「多様な税率と広範な課税ベースにおける税収、公債を除く」

  ・表10(p.29):「居住地原則および公債を除いた税収」

  ・表11(p.30):「居住地原則および公債を除いた、多様な税率と税収」

  ・表12(p.31):「居住地原則(および公債)を除いた税収減割合(%)」

  ・表13(p.32):「デリバティブを除く税収減、回避がない場合」

 

・ すべての取引は2回課税(売り手と買い手)

・ すべての表は、居住地原則を除き、と明示されている場合以外、欧州委員会の提案と同様に、居住地および発行地原則の組み合わせにより計算。

・ 第3章はフランスとイタリアの国内税を分析しており、今後の予測は困難だと述べている。

・ 本研究は、二段階アプローチに強固に反対している(第7章)。

・ DIWは権威ある一流のドイツ機関である。

・ 本研究は社会民主党(SPD)によって委託されたものである。

 

                       (翻訳:K.Tsuda)