民間税制調査会による久しぶりのシンポジウムです。今回のテーマは7月参議院選挙を射程に入れて「投票の前に税のあり方を問い直そう!」というもの。ふるってご参加ください。
・日 時:6月26日(日)13時~16時半頃
・場 所:青山学院大学(青山キャンパス)5号館545号室
・参加費:無料
・申込先:参加希望者は、joe.aoki01@gmail.com から申し込みください。
当日のプログラムはまだ発表されていませんが、私が希望するのは「税のあり方」としてやはり「格差・貧困是正に資するための税制」を各党の選挙公約から見出していくことにあると思います。今日の日本が古き良き「一億総中流」社会から「格差・貧困」社会へと転落してきたことを踏まえると(「子ども食堂」が全国的に作られる社会なんて誰が想像したでしょう!)、何はともあれ「分配機能を強める税制」が待ち望まれます。
ただし、理念・理想ばかりではなく、実現可能性も配慮しないとなりません。
●成長なくして格差是正なしは本当か?
ところで、格差是正のための分配を行うにはまず経済成長が必要だ、という伝統的とも言える議論があります。一方、今日新たな経済政策・理論として、格差(つまり、分配政策の不備)こそが経済成長を阻害しているという議論が出てきました。
ご案内のように、後者のような議論は、ラジカルな経済学者だけではなくOECD(経済協力開発機構)やIMFというメインストリームからも出てきているというところに(今日的な)特徴があります。OECDペーパー『所得格差は経済成長を損なうか?』(14年12月)では次のような結論を導き出しています。
・富裕層と貧困層の格差は今や大半の OECD 諸国において過去 30 年間で最も大きくなっており、このような所得格差の趨勢的な拡大は、経済成長を大幅に抑制している。…
・ 租税政策や移転政策による格差への取り組みは、適切な政策設計の下で実施される限り、成長を阻害しない。
・特に、再分配の取り組みは、人的資本投資に関する主要な決定がなされる対象である子供のいる世帯や若年層を重視するとともに、生涯にわたる技能開発や学習を促進すべきである。
●「格差拡大=経済成長を阻害」論の背景
以上のような議論の背景はどのようなものでしょうか? このことを紹介しているのが、小林慶一郎・慶大教授の「経済教室『格差拡大、成長に悪影響?』」(日経新聞 16年2月22日)です。ここではOECDやIMFの研究者のみならず世界の経済学者の議論も紹介していて、勉強になります(電子版になし)。
格差拡大がなぜ経済成長を阻害するかですが、「OECDやIMFの研究では、教育や技術などの『供給能力』の低迷という要因を重視しているが、『需要』の縮小という要因も問題だと思われる。…(注:名前が長いので…大学教授2人の)共著『ハウス・オブ・デット』(14年)は、家計の債務の膨張(これは富の格差拡大の一種である)が米経済を脆弱にしていると主張している」、と小林教授は紹介しています。
確かに家計の縮小・貧困化が需要増を妨げており、米国や他の先進国のみならずこの間の日本社会の家計消費活動の低迷がそれを物語っています。そしてそのことが経済成長を停滞させていると言えます。
その日本ですが、14年4月実施の消費税アップが低迷の主要因という説もありますが、実際はもっと複雑です。実は消費税以上に社会保障関連(年金、医療・介護、雇用など)負担が毎年3%のペースで値上がりしており、国民全般が将来への不安を抱き生活防衛(貯蓄を含め)に回っています。また、高齢者や非正規雇用者など(これに比例して貯蓄率が低下)低所得と貧困の分厚い層が社会に積もり消費活動の最大のブレーキとなっています。
<参考>
【東洋経済】なぜ消費低迷が続くのか?社会保障の負担も重く
【日経新聞】雇用絶好調でもさえぬ消費 賃上げ力不足、貯蓄に回る
●格差・貧困是正に資するための税制に向けての議論を
以上から、所得税や法人税、資産課税や消費税そして国際課税なども、格差・貧困是正のために抜本的に改革する必要があります。参議院選挙に臨む各政党は税制をどのような理念から政策化しようとしているのか、シンポジウムの中でともに考えていきたいと思います。