1990年代よりグローバリゼーションが進展してきたのですが、やがて金融セクターの比重が圧倒的に増大し、金融のグローバル化といってもよい状況へと推移してきました。モノやサービスという実物経済の成長より金融経済の成長の方のスピードがぐっと速まったからです。
●実物経済、金融経済そしてデジタル経済
実際、世界のGDP(年間)と外国為替取引(1日)の2001年から2016年までの推移を見ますと、前者で2.2倍、後者で4.3倍というように、金融経済の一部門(*)である外国為替取引はGDP(実物経済)2倍のスピードで成長してきたのです。
*GDP(年間) *外国為替取引(1日)
01年33.6兆ドル 01年1.2兆ドル
16年74.7兆ドル 16年5.1兆ドル(年間約1250兆ドル)
(*)金融市場には、外国為替取引、株式取引、債券取引そしてデリバティブ取引の各市場があるので(今や原油・穀物市場も金融市場といってよい)、金額的に見れば桁違いのお金がグローバルに飛び交い、金融経済を構成している。
ところが、今日このグローバリゼーションの性格について大きな転換を迎えているようです。それは米国の巨大IT企業の躍進です。現在の世界の企業の株式時価総額を見ると1位から5位まで、アップル、アマゾン、マイクロソフト、アルファベット(グーグル)、フェイスブックのIT企業5社で占められています。かつては金融セクターや原油・資源セクターの会社によって占められていましたが。
ちなみに、2007年の段階ではマイクロソフトだけが上位10位中6位に入っているだけでしたし、グーグルやフェイスブック、アマゾンは2010年の段階でも上位20にすら入っていません。つまり、いかに急速に投資資金を集め時価総額を増やしてきたかが分かります。
このように巨大化し寡占化したIT企業は短期間のうちにプラットフォーマーとして君臨し、社会全体を覆ってきました。そして経済システムもデジタル化が主流となってきました。
●今日の経済の象徴的存在としてのアップル>5つの重要な傾向
こうした巨大IT企業の現出が何をもたらしているか--このことについて、とても分かりやすく分析しているのが、フィナンシャル・タイムズのグローバル・ビズネス・コラムニストのラナ・フォール―ハーの『次の危機は種はアップル』(5月27日付日経新聞)と題した論考です。
【日経新聞】[FT]次の危機の種はアップル
「…アップルは今の経済を象徴する存在だ。同社を研究すれば、今の経済の5つの重要な傾向を理解できる」と言っています。
その5つの傾向とは、次の通り。第一、金融手法に関してだが(これは他の多くの多国籍企業が取っている手法)、巨額な現金を持ちつつも同時に巨額の債務も持っており、(その債務の要因である)低利の社債を発行し記録的な自社株買いと株主配当を行ってきたこと。この結果、利益を得てきたのは米国の全株式の84%を保有する上位10%の富裕層であり、格差拡大につながっていること。
「多くの経済学者は、成長率が過去のトレンドに届かない最大の要因はこの格差にあり、しかも格差の拡大は政治のポピュリズム(大衆迎合主義)を招き、ひいては市場というシステムそのものを脅かしつつあると考えている」と筆者は言っています。
第二は、これらIT企業はソフトウェアやネットサービスにより一気に規模を拡大でき巨大企業を生み、しかも寡占化しやすいこと。このことが雇用や需要の縮小傾向を招いていること。第三は、寡占化は同時に記録的なM&A(合併・買収)を生じさせていること。それは巨大IT企業に対抗するため大企業が打たざるを得ない方法となっていること。第四に、このM&Aのために大企業が多額の借金を行っているが、問題は一部の企業が高利回り債の(大量の)発行で行っており、いまその市場が危うい様相を呈していること。
この結果、「次の大きな危機は恐らく、金融機関方ではなく産業界から生ずるということだ」。そして第五に、超低金利が続いてきてアップルなどは借り入れと株高という事業環境の恩恵を受けてきたが、「金利が急上昇すれば(そうした環境も消え)損失と二次的影響は深刻になりかねない」と筆者は警告しています。
●現代の錬金術をやめさせるには>金利の正常化と金融取引税など
巨大IT企業のみならず、利益をすごく上げている大企業は、(手持ち資金を使わず)超低金利をよいことに多額の借金をして自社株を買い、かくして株主と経営陣に多大な金銭的プレゼントを行うという、現代の錬金術を駆使していることが分かりました。このことがとくに米国で格差拡大を助長し、政治的にはポピュリストを招いていることも。
こうした現代の錬金術をやめさせるには、超低金利政策を1日でも早く止めさせることが必要で、同時に行き過ぎた金融取引にブレーキをかける金融取引税とIT企業が現金を貯め込んでいるオフショア・タックスヘイブンを廃止させていく活動が必要です。確かにデジタル経済が社会を覆いその独占化・寡占化も大問題ですが、まず錬金術そ可能とする現在の金融システムの抜本的的改革が求められています。
ところで、この金融取引税ですが、今週先行実施で(大枠)合意している欧州10カ国財務相が久しぶりに集まり、議論を再開していきます。一つの議題として、英国のEUからの離脱がFTTにどのような影響を及ぼすかを探ることにあるようです。要、注目ですね。
【bloomberg】EU Sees $23.5 Billion in Revenue From Financial-Transaction Tax
●インフォメーション
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国連SDGs採択から3年:世界をつづく社会に向かわせるには?
~2019年G20大阪サミットと市民社会の果たす役割~
*講師:稲場雅紀・一社 SDGs市民社会ネットワーク専務理事
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◎日時:5月26日(土) 18時30分~20時30分
◎会場:アカデミー文京「学習室」(文京シビックセンター内地下1階)
◎申込み:acist.japan@gmail.com から、お名前、所属(あれば)ならびに「g-taxセミナー参加希望」とお書きの上、お申込みください。
※詳細は、こちらから。