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6月パリ「新グローバル金融協定サミット」近づく、その意義と課題
2023.05.27
6月パリ「新グローバル金融協定サミット」近づく、その意義と課題

既報通り、欧州では欧州議会で見られるように、再び金融取引税の議論が活発化してきました。一方、6月22-23日パリで開催される「新グローバル金融協定のためのサミット」(SUMMIT FOR A NEW GLOBAL FINANCIAL PACT、以下パリ・サミットと略)でも金融取引税が議論されています。日本ではこのサミットについてまったく報道されていませんが、ここでの議論や合意は9月のG20サミットや11月のCOP28(国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議)に大きな影響を及ぼすことが予想されます。パリ・サミットの概要ならびにNGO等の動きについて報告します。

 

 COP27の振り返り>気候資金についてのグローバル・タックスなどの提案

 

ご承知のように、昨年11月に開催されたCOP27において、気候変動の悪化に起因する災害等による「損失と損害(ロス&ダメージ:L&D)」を支援する基金創設が合意されました。これは島が侵食されていく小島しょ諸国など気候脆弱国が30年来訴えてきたものですから、歴史的な合意がなされたと言ってよいでしょう。とはいえ、L&D基金の中身(拠出額・方法や運用など)については、今年アラブ首長国連邦で開催されるCOP28で決めることになり、今後の議論が重要となってきます。

 

ところで、このCOP27を前にして、気候資金調達に向け、島しょ国等脆弱国のリーダーから様々な提案が出されました。グローバル炭素税、航空券税、化石燃料採掘税そして金融取引税などの国際連帯税(注1)、さらに国際エネルギー企業への課税そしてIMF・SDR(特別引出権)の増強など。一方、フランスにおいては、COP21でのパリ協定を設計した経済学者のローレンス・トゥビアナや欧州議会議員のピエール・ラルートゥルーなどの国際的な専門家や欧州議会議員が「(気候資金調達のために)金融取引税を創設することが、今までになく急務である」と仏紙『ルモンド』に発表するなど(注2)、議論が大きく盛り上がっていました。

 

こうした流れの中で、COP27においてL&D基金の創設が決まるとともに、マクロン仏大統領が「最も脆弱な国との新しい金融協定が必要」(ツイッターより)と提案。同大統領は、同年9月の国連総会で「世界金融の構造改革のための「2022年ブリッジタウン・アジェンダ」(注3)を提唱したカリブ海の小島バルバドスのミア・モトリー首相と共に、2023年6月にパリ・サミットを開催することになったのです。

 

●パリ・サミット(開催日:6月22-23日)について

 

以下、パリ・サミットの概要につき、簡単に説明します。

 

1)目的

気候変動と世界的危機に対処するために南北諸国の間で新たな協定を構築すること、とりわけ最も脆弱な国々が最も緊急かつ重要なニーズに対処するための支援を行うこと、そのために多国間開発銀行の改革、債務危機、革新的な融資と国際税、特別引出権(SDR)などの重要な問題に取り組む。

 

2)主な4つの課題とそれぞれのワーキンググループ

・WG1:最も影響を受ける国に対する財政スペースの確保

⇒債務の脆弱性に直面している国に対して、どのように資金へのアクセスを増やすか

・WG2:低所得国での民間セクターへの融資

⇒脆弱な国における民間セクター、とくに小規模企業をどのように支援するか

・WG3:新興国・途上国における「グリーン」インフラへの投資拡大

⇒グリーンインフラへの民間投資を加速させる方法

・WG4:気候変動に脆弱な国に対する革新的な資金調達の動員

⇒新たな資金源をいかに引き出すか、国際税務アジェンダ、インパクト・ファイナンス、気候変動に強い商品、債務スワップ、債務契約における災害関連停止条項、保険スキーム、その他のタイプのメカニズムについて

 

3)運営方法と参加国・国際機関(主催:フランスとG20サミット議長国のインド)

・運営方法:COP28、G20、G7など多くのパートナーからの提案とコミットメントを得る

・参加:フランス、バルバドス、インド、日本、UAE、米国、中国、EU委員会、ドイツ、英国、ブラジル、セネガル、南アフリカ、国連事務局、IMF、世界銀行、OECD

 

●パリ・サミットの課題とNGOの活動

 

パリ・サミットの焦点のひとつは、WG4にある「新しい資金源の創出」です。先進国によるODA(政府開発援助)拠出は限界にきており、先進国(ドナー国側)や国際機関は盛んに民間資金の動員(活用)を宣伝してきました。しかし、そうした国・機関が最も期待していた「ブレンドファイナンス」は減少に転じ(注4)、気候変動の支援資金の核となる2020年までに1000億ドル拠出公約も果たせませんでした。

 

確かにこれほどの地球規模課題対策に巨額の資金ニーズが高まっている現在、各国のODAも民間資金の動員も、さらに世界銀行・MDBs改革やIMF・SDRの増強も必要ですが、まったく間に合いません(OECDやUNDPは年間4兆ドルの資金ギャップを挙げている)。従って、これに加えて新しい方式による新しい資金調達がぜひとも必要となっています。その調達のためツールが国際連帯税(グローバルタックス)です。

 

パリ・サミットでは、市民参加も呼びかけられ、各WGにNGO代表が参加していますが、WG4では専門家やNGOは金融取引(FTT)を提案しています。また、WG4の共同議長は、モトリー首相の顧問でブリッジタウン・アジェンダ提案に関わったAvinash Persaud氏(英グレシャム大学名誉教授)が務めており、彼はこれまで欧州FTT活動に対して助言的立場を取ってきた人です。よって、ここにおいては新しい資金調達スキームとしてFTT実施案が勧告される可能性が大いにあると言えます。

 

ところで、日本政府も国際運営委員会に参加していますが、特段積極的な提案はされていないようで残念です。

 

ともあれ、パリ・サミットでの議論や合意が、次のG20サミットやCOP28の議論に、また9月の国連SDGsサミットに影響してくることは間違いありません。注目していきましょう。

 

(注1)

Vulnerable countries demand global tax to pay for climate-led loss and damage

(注2)

‘It is now more urgent than ever to reach an agreement to create a tax on financial transactions’

https://www.lemonde.fr/en/opinion/article/2022/11/16/it-is-now-more-urgent-than-ever-to-reach-an-agreement-to-create-a-tax-on-financial-transactions_6004481_23.html

(注3)

The 2022 Bridgetown Agenda for the Reform of the Global Financial Architecture

(注4)

SUMMIT FOR A NEW GLOBAL FINANCING PACT: TOWARDS MORE COMMITMENTS TO MEET THE 2030 AGENDA?

(注5)

【日経新聞】途上国に民間資金呼ぶ COP27、政府保証・無料データ活用

「…民間資金の動員は、ほとんどが中所得国で、銀行・金融サービス、エネルギー・産業、鉱業、建設など、収益源が明確なセクターで行われている」

 

※写真は、マクロン大統領とモトリー首相