今年のG20サミットはブラジル・リオで11月に開催されますが、それに先立ち外相会議に続いて、2月28-29日と財務相・中央銀行総裁会議が開催されました。会議2日目「ブラジルのアダジ財務相は…『超富裕層を対象にした公平な税金の支払いは国際協力次第だ』と述べ、富裕層への課税強化をG20の枠組みで目指す考えを示し」(下記、日経新聞)、これにフランスなどが支持したとのことです。
■ 世界の10億ドル(約1500億円)以上の資産を持つ超富裕層は2756人
パリ経済学院のガブリエル・ズックマン教授が参加した調査機関「EUタックス・オブザーバトリー」によると、「10億ドル(約1500億円)以上の資産を持つ富裕層(ビリオネア)の保有資産の2%に相当する最低課税を導入する国際合意が必要だとの考えを示している。その場合、2500億ドルの税収増につながると試算している。世界には2756人のビリオネアがいて、東アジア(838人)や北米(835人)に多い」(同紙)との報告がなされています。
■ 日本の「超富裕層ミニマム税」、株式市場では1日6兆円の売買
ところで、日本では2025年度より3.3億円超の納税者に対し「超富裕層ミニマム税」が実施されますが、課税対象者は200~300人程度で、税収は300~600億円程度という、とても小粒な税制です。さらに言えば、日本では金を最も貯めこんでいるのは大企業で、2022年度の日本企業の内部留保(利益剰余金)は、554兆7,777億円と過去最高で(2023年厚労省)、23年度はさらに積みあがっているものと思います。むしろここに税を課した方がよいでしょう。
ついでに担税力に満ち溢れているのは、金融セクターです。3月1日の東京証券取引場での株式売買高は6兆円を超えました(昨年の東証での1日の売買高は平均で3兆円前後)。しかも、この売買の約70%は外国投資家が占めています。ここに税を課すことができれば、主要に外国人投資家に税を支払ってもらうことになります。
■ ブラジルの貧困・飢餓TFとフランス・ケニアの国際課税TFとの連動を
話を戻しまして、今度のG20サミットで議長国ブラジルが主要テーマとしているのが貧困と飢餓の削減であり、「飢餓と貧困に対抗する世界連合」の設立です。そのために、“Task Force for a Global Alliance Against Hunger and Poverty”を設置しました。目標の1と2(貧困と飢餓)を含むSDGs達成プロセスが極めて厳しい中にあって時宜にかなった取り組みと言えましょう。
そのタスクフォース第1回会合を2月中に行っています。ブラジル側は国際機関を含むすべてのG20メンバーが参加することが見込まれているとしています(注)。日本政府もこのタスクフォースに参加するのでしょうか。
ざっとブラジルのG20関係のWebサイトを見ても、このタスクフォースに関し、まだ詳細な報告はなされていません。気になるのは、途上国における「貧困・飢餓」目標を含むSDGs達成のための資金ギャップ(不足額)で、これをどのように埋めていくか、つまり資金調達の議論がどう行われるか、です。その点、新しい国際課税による資金調達という、フランスとケニアが議長国となって立ち上げた“Taskforce on International Taxation to Scale Up Development, Climate, and Nature Action” においても、今回の超富裕層への課税などもテーマになると思われますので、両タスクフォースがうまく連動していくと、「新規かつ追加的で予測可能な(公的資金となる)」国際連帯税の実現の可能性が高まるのではないでしょうか。
【日経新聞】G20、富裕層への最低課税案が浮上 ブラジルや仏が支持
2024年3月1日
サンパウロで開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、富裕層への課税強化の議論が浮上した。貧富の格差が大きい議長国ブラジルを含む途上国や新興国だけでなく、フランスも賛同している。今後は国際連携の枠組みに向けて具体的な提案を目指していく見通しだ。
ブラジルのアダジ財務相は29日、2日目の会議冒頭の演説で「超富裕層を対象にした公平な税金の支払いは国際協力次第だ」と述べ、富裕層への課税…(了)