現在西アフリカではエボラ出血熱が大流行し、死者はすでに900人を越えました。 現地で懸命に治療に関わっていた医者や看護師も命を落としているようです。 「エボラ熱死者932人に、現場の医師らから緊急支援の要請相次ぐ」(ロイター 通信、8月7日)という緊急事態となっています。 http://jp.reuters.com/article/jp_ebola/idJPKBN0G62KO20140806
ところで、地球温暖化と航空機による人の大量移動によって、感染症が地球規模 で拡大する傾向となっています。ウィルスに感染した人間が、そしてマラリアや デング熱のウィルスを媒介する蚊も飛行機に乗り、熱帯地方だけでなく世界中に 散っていきます。
(朝日新聞)成田便、やっかいな蚊も搭乗? 感染者増えるデング熱 http://www.asahi.com/articles/ASG7X54MRG7XULBJ00C.html
振り返ると、2003年に日本でもSARS(サーズ:重症急性呼吸器症候群)や鳥イン フルエンザ問題でたいへんでした。とくに前者は空気感染する可能性もあり、成 田空港での緊迫した対応ぶりがテレビで連日放映されたことは記憶に新しいとこ ろです。
SARSはその後収まっているようですが、エボラ出血熱など本当に怖いウィルスが いつ何時日本に入ってくるか分かりません。「…より深刻なのは、エボラウイル スなどを研究できる施設が国内にはないことだ。間違っても病原体が漏れ出さな いよう、最も厳重な高度安全実験施設(BSL4施設)でなければならないが、 世界には約40カ所あるのに国内はゼロ…」(朝日新聞8月5日付社説『エボラ出 血熱 拡散の危険を忘れずに』)。
これはまずい。エボラ出血熱ではとりもなおさず現地への緊急支援、そして国内 での感染症への万全な対応が求められています。そのためには感染症対策資金が 要ります。緊急支援など対外予算としては外務省や厚労省管轄のODA(政府開発 援助)が使われると思いますが、それが十分な資金なのか。また、国内的には厚 労省管轄の感染症対策予算が使われると思いますが、こちらも十分なのかどうか (上記朝日新聞記事だと心許ないですね)。
そこで提案ですが、航空券連帯税(*)が今こそ必要ではないでしょうか。同税 に反対する人たちはよく「税の負担と受益が不明確」だ、つまり飛行機に乗って 税を払う人とその税(資金)によってエイズやマラリア・結核等の感染症医薬品 で治療を受ける人、との関係が不明確だから反対だ、と言うのです。端的に言っ て、日本人乗客による資金が(アフリカ・アジアの)貧困国の人たちの感染症治 療に使うという因果関係はない、と言っているのです。
…………(*)航空券連帯税:現在フランス、韓国やアフリカ諸国など10カ国で実施中。税収は、主要にエイズ・結核・マラリア等感染症の治療薬や診断 薬を提供するUNITAID(ユニットエイド:国際医薬品ファシリティ)の 原資となっている。
この不明確論に100歩譲ってそうだとして、では航空機によって運ばれてくる感 染症関係の対策費用として同税を使用するということにすればどうでしょうか。 (反対する人たちが言うところの)負担と受益はぴたりと「明確」になるのでは ないでしょうか。グローバル化の象徴でもある航空機は、(ウィルスに感染した 人や感染源となる蚊や動物など)を運ばざるを得ず、従ってこれに付随するコス ト(緊急対策や国内感染症対策)を負担しなければならないのです。
このことに論理的・倫理的に賛同するとすれば、エイズ・マラリア・結核等の感 染症対策として同税を使うということは、ちょっと想像力を働かせれば十分理解 できることではないでしょうか。世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基 金)やUNITAIDが途上国と連携してこれらの感染症対策にがんばって行っている からこそ、(航空機で感染者が運ばれるのが圧倒的に少なくなり)世界的なパン デミックにならないで済んでいるといえるでしょう。
ところで、ちょっと古いのですが、GLOBAL POLICY FORUM(米国のシンクタンク) が1997年に『保健対策資金を提供する国際航空課税の草案』という提言をしてい ます。骨子は、「大量の国際的な航空移動により国内での感染症が拡大してきた、 それにより感染症対策のコストが上昇してきている、しかし関係組織の能力・資 金不足がはなはだしい、従って3~5ドルの国際航空券税を導入すべき」という ものです。先見の明があったというべきですね。 https://www.globalpolicy.org/component/content/article/216/45847.html
今日のエボラ出血熱のたいへんな緊急事態を見るにつけ、航空券連帯税の実現が 急がれるところです(もちろん航空券連帯税があろうがなかろうが緊急支援はそ れこそ緊急を要します)。