トマ・ピケティ教授の『21世紀の資本論』が出版される(フランス語の出版が2013年、英語版が2014年3月)直前、米国の所得格差問題についての興味深い映画小論と新聞コラムが手近なところにありました。それを紹介するとともに、ピケティ理論理解の一助になればと思います。
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この米国の所得格差の現実ですが、他の先進国の明日の姿でもあります。日本でも、過去最高水準となった非正規雇用者(2013年全雇用者の36.7%)、生活保護受給世帯数の高止まり、そして未来を暗くする「子どもの貧困率」の悪化(6人に1人)など、格差拡大の要因の枚挙にいとまがありません。
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紹介するのは以下の小論と新聞コラム。
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1)『金持ちへの優遇を決してやめない、貪欲な米国』
2012.05.31(木)JBpress 竹野 敏貴
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35329
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2)『株価と物価、格差に懸念』
ニューヨーク=西村博之
2013/11/22 日本経済新聞 電子版なし
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3)『株価と格差の危うい関係 ウォール街も警鐘』
米州総局編集委員 西村博之
2014/1/19 6:00日本経済新聞
http://www.nikkei.com/markets/column/ws.aspx?g=DGXNMSGN1800V_18012014000000
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1)『金持ちへの優遇を決してやめない、貪欲な米国』
米国1980年代末から1910年代初めにかけての米国の「金ぴか時代」を当時の映画とともに紹介し(『エイジ・オブ・イノセンス』『風と共に去りぬ』ほか)、同時に現代のカーペットバッガーが住む町、ウォール街についても映画で紹介している(『大いなる野望』『アビエーター』ほか)。
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カーペットバッガーとは、南北戦争後の荒廃した南部の地に、一攫千金の夢を追って、使い古しのカーペットで作られた「カーペットバッグ」に一切の持ち物を入れやって来る北部の連中のことを言うのだそうだ。現代的に言えば強欲に取り憑かれた連中と言える。
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以下、本文より引用(映画を述べた部分ではなく現代の格差をもたらす一要因の税制についての部分)。
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100万ドル以上収入のある者は少なくとも30%の税金を払うべきだ」という富裕層への課税強化を目指した「バフェット・ルール」法案が、4月16日、共和党の反対のため米国上院で否決された。
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「ブッシュ減税」により配当・長期キャピタルゲインの税率が15%へと引き下げられたため、それらが多くを占めれば通常所得の最高税率35%よりはるかに低い率となるからである。
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2)『株価と物価、格差に懸念』
以下、要旨をまとめる(「 」内が引用文)。
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「…相次ぐ量的緩和でFRBの資産(マネーの供給量)は4倍強に膨らんでいる。」
「注意が必要なのは、どこにマネーがあるか」だが、FRBから(国債買取等で)銀行の口座に振り込まれた(巨額の)マネーが融資などを通じて銀行外に出ているかというと、「世の中に出回る『マネーサプライ』は(2008年の)危機前の約4割増にとどまる」。
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この要因は、需要の弱さからくる設備稼働率の低迷などと相まって物価上昇を抑えているからだが、一方「逆に株価の上昇が続く理由は何か。マネーサプライが鈍いとはいえ伸びているのは一因だろう」。つまり「かろうじて世の中ににじみ出したお金もモノづくりなどの経済活動を素通りにして、目先は有望に映る株式に向かう。勢い不足の物価と株高をマネー面からみると、そんな構図になる」(以上、要旨まとめ終わり)。
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つまり、FRB(米国の中央銀行)は空前のマネーを供給しているが、銀行の口座に積み上がるばかりで、思ったほど市中のそのマネーが出回ってない。かろうじて出回っているマネーは実体経済に向かわず、株式などの金融の方に向かっている、ということだろう。日本での、日銀が毎月7兆円の国債を購入するという異次元緩和策も、基本的に上記米国の構図と同じとなっている。
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3)『株価と格差の危うい関係 ウォール街も警鐘』
以下、本文より引用。
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なお本調子から遠い米景気を尻目に米株価は最高値で推移する。だが恩恵は富裕層に偏り、株式を持たない一般家計の多くはリストラや賃金低迷で割を食う。このゆがみが臨界点に達し、業績や株価が崩れる可能性はないのか。勝ち組のウォール街からも懸念の声が出始めた。 …中略…
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しかも直近は、この傾向(富の偏り)に一段と拍車がかかっている可能性が高い。株価上昇と経営者の報酬増で富裕層の資産が膨らむ一方、その前提となる企業の好業績をひねり出すため従業員のリストラや賃金抑制が続いているからだ。
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米連邦準備理事会(FRB)の資金循環統計によると、米家計がもつ株式や投資信託の価値は、昨年9月末までの1年だけで19%、実に2兆9000億ドル(約300兆円)も増えた。だが米国では、家計の上位1割の所得層が、株式などの金融資産全体の9割を保有する。潤うのは一握りの人々だ。 …後略…
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本文にある、空前の利益を上げている「企業」と「働き手」への分け前の劇的減少を示したグラフは、ピケティの指摘(資本の収益率(r)>総所得の成長率(g))を待つまでもなくきわめて鮮明であると言える。
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◆企業と働き手のグラフを見る⇒扉のグラフ参照
(日経新聞『株価と格差の危うい関係 ウォール街も警鐘』より、14年1月19日付)
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ところで、黄色信号を掲げていたはずのウォール街もまだまだ「強気一辺倒」のようだ。それだけバブルというマグマが溜まっていくのだが…。