このところ井手栄策・慶応大学教授のメディアへの登場の機会がぐんと増えています。東京新聞元日号の堤未果さんとの対談『対立 政治が利用 みんな 受益者に』は見開き2ページというボリューム満点の記事でした(WEBサイトに載っていないのが残念!)。
対談では井手節(ビジョン・理念)満載です。そのエッセンスを紹介します。
今までの経済の議論は経済成長、財政再建、格差是正の三つだけ。でも、財政再建や格差是正を犠牲にしてあれだけアベノミクスで頑張ったけれど、経済は成長しませんでした。いつまでも成長に頼り続けるのか。やはり、第四の選択肢、「あなたたちが安心して生きていける社会をつくる。そのためにはお金がかかる。そのお金を誰がどう払うのか」という選択肢を出さないと、若い人たちがかわいそうです。
…大事なのは未来の不安をなくすこと。税を払って社会に貯蓄して、安心して生きていける状況をつくりましょう、と(引用者挿入:そうすればお金を消費に回すから景気も良くなる)。「すべての人が受益者になる」という僕の戦略は、既得権をなくすこと。社会的な構成に最もかなうし、所得制限を設けない普遍的な給付なので行政も効率化できます。実は多くの日本人も気づき始めています。
これに対し堤さんは次のように言います。
これに真っ向から反論する人はいないのでは。お話をイメージすると、そういう社会に住みたいと、幸せな気持ちになります。
そうなんです。井手教授のビジョン・理念を読んでいると、本当に目から鱗が落ちて、希望が湧いてきます。しかし、課題はないのかと言いますと、そのビジョン・理念の先にあるような気がします。
つまり、対談で述べているところの「既得権をなくすこと」ですが、結論から言えば、最大の既得権を持っているのは大企業であり、富裕層ではないのでしょうか。これらの層は端的に言って、タックスヘイブンを利用でき、税金を払わない、または過小に払うことが可能だからです。またとくに重厚長大産業に有利となっている租税特別措置法による法人税の切下げ問題もあります。詳しくは、田中秀明・明治大学教授の「国民不在の意思決定過程に見る28年度税制改正の課題(下)」を参照ください。
井手教授の「既得権をなくすこと」で一番言いたいことは、例えば“格差是正のために所得制限を設けて貧しい人に給付するというやり方では、貧しい人たちが既得権化し、中間層以上の人たちからのバッシングを受け、とくに中間層から租税抵抗を呼び起こす”(「第189回国会 国民生活のためのデフレ脱却及び財政再建に関する調査会」での井手発言の要旨)と言っているように、階層分断を招くようなやり方ではよくないことの証明に使っていることが多いようです。
これはこれで理解できるのですが、本格的な格差是正のためには「最大の既得権者・層」にどう切り込んでいくか、だと思います。
追伸.井手教授の最新本は『分断社会ニッポン』(朝日新書)で、著者は井手英策、佐藤 優、前原誠司という“最強トリオが語り尽くす”(本の帯より)つくりとなっています。
★写真は、堤 未果物(国際ジャーナリスト)さんと井手英策(慶応大学教授)さん=1月1日付東京新聞