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水野『資本主義の終焉…』14万部突破>格差・貧困、不条理への問い直し
2014.09.29
水野『資本主義の終焉…』14万部突破>格差・貧困、不条理への問い直し

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■すごいタイトルだが、わずか半年で10刷14万部を突破!

 

水野和夫さんの『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書、以下「終焉」本)が、半年足らずで10刷14万部も売れているということです(8月段階)。たいへんな売れ行きでもあり、出版社は特設サイトを開設しています(出版界では「3万部でベストセラー、10万部で一流」と言われているようです)。 

 

水野さんについては、2012年5月12日に国際連帯税フォーラム第2回総会時に講演をしていただきましたが、「過剰マネーと利子率革命~グローバリゼーションの真実~」というのが講演タイトルでした。当時の資料を見ると、ほとんど「終焉」本と同じです。

 

当時、水野理論の根幹である「利子率革命」についていまいちピンと来ませんでした。ひとつに、今日の金利ゼロ=利潤率ゼロという事態がやがて改善される可能性があるのではないか、とも思っていたからです。しかし、アベノミクスの第一の矢(異次元緩和策)や金利ゼロを脱するであろう米国の意外なもたつきなどを見るにつけ、資本主義が終焉するかどうかは別として、資本主義に出口がないことが理解できたような気がします。

 

■ピケティ理論との通底/格差・不条理・貧困を眼前にして

 

「終焉」本は言います。「もはや利潤をあげる空間がないところで無理やり利潤を追求すれば、そのしわ寄せは格差や貧困という形を取って弱者に集中します。…現代の弱者は、圧倒的多数の中間層が没落する形となって現れるのです」(12頁)、と。つまり、資本主義の延命のため(利潤をあげるため)異次元金融緩和などというカンフル剤を打ち続けていればいずれバブル破裂による経済の破たんを招くことになります。また、日常的に非正規雇用などという「辺境」を作り出し労賃を切下げることにより利潤を挙げようとすると、中間層の没落は必至であり、ひいては民主主義の危機ともなります。

 

日本の賃金水準の推移は同本77頁、米国の賃金水準の推移は日経新聞コラム「株価と格差の危うい関係 ウォール街も警鐘」を参照ください(http://isl-forum.jp/archives/691)。両国の賃金水準が「激しく低下して」いることが分かります。

 

あとトマ・ピケティ理論の存在も大きかったと思います。どういうことかと言うと、「終焉」本で次のような記述があります。「資本配分を市場に任せれば、労働分配率を下げ、資本側のリターンを増やしますから、富むものがより富み、貧しいものがより貧しくなっていくのは当然です。これはつまり、中間層のための成長を放棄することにほかなりません」(29頁)。しかし、資本配分を市場に任せれば「当然」そうなるのかどうかを証明しないとなりませんが、それが「終焉」本にはありません。一方、それを証明したのがピケティ理論ではなかったか、と私は思います。

 

ともあれ、水野理論もピケティ理論も数百年にわたる資本主義の歴史を踏まえ、現在の分析と未来の予測とを立てていることで共通です。それだけ資本主義が立ち行かなくなっており、歴史的俯瞰が必要になっているのだと思います。そしてそのことを直感した人々が、つまり格差や不条理や貧困などを目のあたりにした人々が(私を含め)、「終焉」本やピケティ理論に引き付けられているのだと思います。

 

■資本主義のソフト・ランディング=金融取引税が第一歩

 

「終焉」本の結論は「いまだ資本主義の次なるシステムが見えていない以上、このように(資本が主人で国家が使用人のような関係)資本の暴走を食い止めながら、資本主義のソフト・ランディングを模索することが、現状では最優先されなければなりません」(187頁)、というものです(ハード・ランディングの道は中国バブル崩壊など)。では、そのソフト・ランディング策は何かと言いますと、あまり明確に打ち出されていません。

 

「終焉」本は、その模索するものとして、日本の債務問題やエネルギー問題に触れ、考え方として、つづめて言えば、ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレという定常状態を維持するための高度な構想力を持つこと、と述べています(ただし、マイナス成長を取るのではない)。つまり、考え方を述べたものであり、政策的なものは述べていません。

 

ところが、『資本主義の終焉国家はその後、どうなるか?』という水野さんと山下範久(歴史社会学者)さんの対談が動画となっておりまして、そこで「ソフト・ランディングのためにまず何をすべきか」と問われた水野さんは、その『シナリオの第一歩としてトービン・タックス(金融取引税)』を挙げ、それを説明しています。

 

実は、「終焉」本でもシナリオとして体系付けされてはいませんが、次のような記述があります。「世界国歌、世界政府というものが想定しにくい以上、少なくともG20が連帯して、巨大企業に対抗する必要があります。擬態的には…国際的な金融取引に課税するトービン税のような仕組みを導入したりする。そこで徴収した税金は、食糧危機や環境危機が起きている地域に還元することで、国境を越えた分配機能をもたせるようにするのがよいと思います」(186-187頁)、と。

 

以上で「終焉」本の書評を終わりますが、水野さんも提起されてている金融取引税や他の「国境を越えた分配機能」のためのグローバル・タックスについて、その方法と可能性とを議論するのが、下記のシンポジウムです。もとより本シンポジウムは「資本主義(終焉)のソフト・ランディングの第一歩策」であるかどうかを議論する場ではありませんが、結果としてそのような歴史的な役割があるのかもしれません。ふるってご参加ください。

 

       【第2次寺島委員会設立記念シンポジウム】

   グローバル連帯税が世界を変える!

          -環境危機、貧困・格差、カジノ経済への処方箋-     

 

   ・日 時:10月12日(日)午後1時30分~4時45分(午後1時開場)

   ・場 所:青山学院大学 9号館22号室

      (東京メトロ「表参道駅」より徒歩5分)

   ・資料代:500円(学生は無料)

   ・申込み:こちらのフォームから申し込みください。  

 

《メインスピーカー》

 

*基調講演:寺島実郎(日本総合研究所理事長、多摩大学学長)

 

*パネル討論

 ・テーマ「欧州では今:金融取引税実施に向けた最新情報」

      上村雄彦(横浜市立大学教授)

 ・テーマ「COP21に向けて:気候変動問題の解決のカギは持続可能な資金源」

      小西雅子(WWFジャパン気候変動・エネルギープロジェクトリーダー)

 ・テーマ「地球規模の課題としての貧困と格差:『ポスト2015』の地平から」 

      稲場雅紀(「動く→動かす」事務局長)

 

※詳細は、http://isl-forum.jp/ まで