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「気候・開発・自然のための国際課税に関するタスクフォース」も始動

 国際課税TF②

 

既報通り、4月17日IMF・世銀春季総会時に、「気候・開発・自然のための国際課税に関するタスクフォース(以下、TFと略)」の第1回運営委員会(参加国のシェルパで構成)が開催されました。遅れましたが、このTF始動について報告します。

 

まず参加国を見ますと、ケニア、バルバドス、フランスの3か国が共同議長国となり、これまで参加を表明していたスペイン、アンティグア・バーブーダに加えて、アイルランド、マーシャル諸島、コロンビアが参加しました(ブラジルが参加を検討中)。当日は、これらの国に加えて欧州連合、ドイツ、IMF、国連の代表らが会議を傍聴しました。

 

この会合について、フィナンシャル・タイムズは次のように報道しました(注1)。

 

❝ …世界銀行とIMFの会議の公式アジェンダの外では、ケニア、バルバドス、フランスの3カ国政府が議長を務め、国際的な税制を通じて気候変動対策により多くの資金を集める方法を検討する新しいタスクフォースの初会合が開催された。

 

画期的なパリ協定の立役者の一人であるローレンス・トゥビアナ氏【注:TF事務局の共同リーダー】は、各国政府が「さまざまな戦争にどう対処するかにとらわれている」ため、エネルギー転換や気候変動プロジェクトの資金調達に利用できる財源は「非常に縮小している」と述べた。

 

同グループが検討している課税には、航空旅客税、富裕税、船舶燃料税、化石燃料生産者へのグローバル税が含まれる。理想的には、このような税金はG20で採択されるか、あるいは、より小規模な有志国連合で導入されることになるだろう、とトゥビアナ氏は語った。❞

 

ここで議論されたことをTFのWebサイトから抽出してみます(注2)。

 

◎目 的:途上国や気候脆弱国のエネルギーシステムの脱炭素化、気候ショックへの対応、回復力の構築のために2030年までに必要とする年間2.4兆ドル(注3) の投資に資金を供給する方法を検討する。

 

◎今回議論したこと:TFの作業計画に関しての合意を図ること、選択された税制オプションに関する影響調査を開始すること、可能性のある税制関する文献調査と分析を行うこと等を確認。

 

◎次のステップ

今後1年半にわたり、専門家グループが各税制の影響調査を開始し、実現可能性、公平性、規模拡大の可能性、消費者への負担回避策などを検討する。さらに、各国ですでに実施されている既存の税制の棚卸しや文献調査を行い、各税制の設計オプションを検討するとしている。

 

スケジュールとしては、11月にアゼルバイジャンで開催されるCOP29で最初の調査結果を発表し、2025年にブラジルで開催されるCOP30会議で、気候税制に関​​する一連の実行可能な選択肢をめぐってG20レベルもしくは有志連合を結成する。

 

●気候・開発のための国際課税議論が始まった!日本政府はTFに参加を!

 

このように新しい気候・開発資金をグローバル規模で創出しようという動きが始まりました。この動きに対し、「国際連帯税創設を求める議員連盟」(会長:衛藤征士郎衆議院議員)は3月末に上川外務大臣に「TFならびに同 専門家委員会に我が国も参加し、議論をリードすべき」を旨としての要請を行いました。しかし、大臣から前向きの回答を得ることはできませんでした。

 

翻って、今年のアゼルバイジャンでのCOP29は、「気候資金のCOP」とも言えるほど途上国・脆弱国支援のための資金問題が重要なテーマとなります。それは、国連グテーレス事務総長の次の言葉からも明らかです。「先進国は最低でも、1,000億ドルの拠出について明確にし【注:新規合同数値目標のこと】、2025年までに少なくとも年間400億ドルまで適応資金を倍増する方法を説明しなければなりません。COP29では、すべての国が、気候変動対策資金に関する野心的な新しい目標に合意しなければなりません。私たちは、革新的な気候変動対策資金源を模索すべきです」、と(「2024年の優先課題に関するアントニオ・グテーレス国連事務総長の総会発言」(注4))

 

一方、今年のG20サミットはブラジルが議長国ですが、アダジ財務相は超富裕層への課税強化をG20の枠組みで目指す考えを示し、「7月の(財務相・中央銀行総裁)会議までに国際課税に関するG20宣言作成を目指す」としています(注5)。この税制は、ブラジル・サミットの主要テーマである「貧困と飢餓との闘い」のための財源確保にあることは言うまでもありません。

 

このように世界的には気候と開発のための新しい資金創出に向けて始動しはじめています。日本政府は「グローバル・サウスとの連携強化」を謳うなら、ぜひこれらの議論に参加していくべきです。

 

(注1)

Rich nations pledge $11bn to World Bank for climate and global crises

https://www.ft.com/content/7cf9fd4c-58ca-48c9-8024-18f4c9a3892f 

(注2)

Climate and development action requires political will and financial support.

https://internationaltaxtaskforce.org/ 

(注3)

Scaling up investment for climate and development

https://www.lse.ac.uk/granthaminstitute/wp-content/uploads/2022/11/IHLEG-Finance-for-Climate-Action-1.pdf

(注4)

2024年の優先課題に関するアントニオ・グテーレス国連事務総長の総会発言

https://www.unic.or.jp/news_press/messages_speeches/sg/49902/

(注5)

G20、富裕層への最低課税案が浮上 ブラジルや仏が支持

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN28EC90Y4A220C2000000/ 

グローバル課税の議論が本格的に始動>国際課税の第3の柱としての世界最低富裕税

ニューチャレンジ

 

今月17日からワシントンでIMF・世銀春季総会やG20財務相・中央銀行総裁会合が相次いで開催されましたが、グローバル課税(Global Taxation)を巡って重要な会合がこれまた相次いで行われました。ひとつは、ブラジル・フランス・ケニアの各財務大臣とIMF専務理事がスピーカーとなって開催された“G-20 Event: New Challenges in International Taxation”(注1)、もうひとつは、ケニア、バルバドス、フランスを共同議長国とする“The Taskforce on International Taxation to Scale Up Development, Climate, and Nature Action”の第1回会合です。

 

当然両方の会合は別々に行われたものですが、実はかなり連携が取れていたと思われます。というのは、前者の会合の司会者をローレンス・トゥビアナ氏(欧州気候財団のCEO)が務めたのですが、実は彼女は後者のタスクフォースの共同事務局長です。

 

以上の取り組みに関して、日本のメディアはほとんど報道していませんので、今回はまず New Challenges の方をお知らせします。

 

■ 「世界最低富裕税は世界のマクロ経済問題の中核をなす」(ブラジル財務大臣)

 

今年のG20議長国はブラジルですが、主要テーマとして格差是正や貧困・気候変動を挙げ、そのためのキーコンセプトとして超富裕層に対する「世界最低富裕税」の導入を提案しています。

 

アダジ大臣は、「世界最低富裕税など国際課税は単に進歩的な経済学者のお気に入りのテーマではありません。世界のマクロ経済問題の中核をなす重要な関心事なのです」と会合の冒頭で述べ、「…世界的に格差は拡大しており、持続可能な開発目標はますます遠ざかっています。ブラジルがG20議長国を務めている間、私は社会的および環境的基準に基づいた新たなグローバリゼーションを提唱してきました」 (注2)と述べました。

 

ところが、実はこのブラジル提案に賛同しているのはフランスとスペインだけで(後者はG20メンバーではない)、必ずしも広がりを見せていません。これに対し、ブラジル側も織り込み済みで、「国際協力がなければ、各国の行動には限界があります。協力がなければ、トップにいる人たちは私たちの税制を逃れ続けるでしょう」と大臣は述べています。

 

■ 国際課税アジェンダの第3の柱としての「世界最低富裕税」

 

では、この富裕税をどう世界的な協力のもとに実現できるのでしょうか? 結論として、OECD/G20が決めた「BEPS(税源浸食と利益移転)の包摂的枠組み」である二本の柱にプラスして、富裕税を3本目の柱として据えて、議論していくと考えているようです。この点、フランスのル・メール経済財務大臣も同様の考えを取っています。

 

ちなみに、第一の柱はいわゆるデジタル課税で、多国籍企業に対する課税権をそのビジネスを実施している市場国に配分するもの、第二の柱はいわゆるグローバル・ミニマム課税で、多国籍企業の最低法人税率を決めるもの(当面15%)、です。前者については、条約として2025年批准・実施をめざしています。後者については、今月から日本でも導入されています。いずれにせよ140か国がこれに賛同しており、富裕税もこうした国際協力で導入したいということです。

 

もとより世界的な富裕税の導入は相当困難であると思います。ル・メール大臣は2027年を目指すとしています。ともあれ、富裕税導入はこれまでは一部学識者やNGOの要求でしたが、G20レベルで公に論議となることはかつてないことであり、進展を期待するものです。

 

■ ミニマム富裕税の税収:世界2756人で2500億ドル、日本44人5180億円?

 

さて、この世界最低富裕税の対象者と税収を見てみましょう。これはパリ経済学院のガブリエル・ズックマン教授が参加した調査機関「EUタックス・オブザーバトリー」が行っていて、「10億ドル(約1500億円)以上の資産を持つ富裕層(ビリオネア)の保有資産の2%課税」というものです。世界には2756人のビリオネアがいるので(東アジア838人、北米835人)、2500億ドルの税収となると試算しています(注3)。

 

日本はとなると、フォーブス・ジャパンの「日本長者番付 2023 トップ50」によりますと、1500億円以上のビリオネアは44人で、資産総額25兆8990億円となり(注4)、従って税収は5180億円となります。

 

ところで、フォーブス・ジャパンの国別ビリオネアを見ますと、東アジアでは中国で495人、香港66人、台湾52人、韓国41人となっています。これに日本の44人を加えても計698人ですので、上記「EU…オブザーバトリー」の838人とは若干差があるようです(シンガポールのビリオネアは推定44人)。それにしても東アジアの大富豪は中国=華僑系が圧倒的です。これらの人士に果たして「ノーブレス‐オブリージュ(社会的に地位の高いものはそれに応じて社会に貢献しなければならない)」の精神は宿るでしょうか?

 

(注1)

G-20 Event: New Challenges in International Taxation

(注2)

“Taxation is at the heart of the global macroeconomic issue,” says Brasil’s Minister of Finance

(注3)

G20、富裕層への最低課税案が浮上 ブラジルや仏が支持

(注4)

日本長者番付 2023 トップ50

 

※写真は、クリスタリナ・ゲオルギエバIMF専務理事のXより。登壇者は、左からトゥビアナ氏、ゲオルギエバ氏、フェルナンド・アダジ伯財務相、ブルーノ・ル・メール仏経済財務相。ケニアのヌジュグナ・ヌドゥング財務・計画相はまだ到着していない模様。

 

神野直彦著『財政と民主主義』(岩波新書)の紹介>元財務副大臣・峰崎直樹さん

 神野iwanami

 

峰崎直樹さんの『チャランケ通信』を送ります。峰崎さんは、このブログで何回か紹介しましたように、民主党政権時代に財務副大臣を務め(2009年~10年、12年までは内閣参与)、政府税制調査会の責任者でもありました。また、国際連帯税に関してよき理解者でもありましたので、税制調査会の専門家委員会(委員長が神野直彦先生)の下に国際連帯税を含む国際課税小委員会を設置されるなど、国際連帯税を実現すべく準備をなされました。

 

2010年9月6日に開催された小委員会の第1回目会合には租税法学会の権威である金子宏先生(当時、東京大学名誉教授)が国際人道税に関する特別報告を行うなど、連帯税実現に向けてのお膳立てが進められていました。ところが、何と!当時ナショナルフラッグである日本航空が倒産し(負債2.3兆円ほど)、さらに、全日空も史上最悪の赤字を出すなど航空業界を取り巻く環境がたいへんに厳しく、結果として航空券連帯税導入は実現に至りませんでした。以下、チャランケ通信です。

 

チャランケ通信 第515号 2024年4月8日

                               峰崎 直樹

 

■ 神野直彦著『財政と民主主義』(岩波新書2024年2月刊)を読んで

 

2月中旬の頃、神野直彦東大名誉教授から『財政と民主主義』という岩波新書を送っていただいた。この本は、最近の新書販売ランキングの中でもベストテンに入っていたようで、社会科学系の本にしては比較的多くの人に読まれている。

 

私もこの本は、是非とも多くの国民に読んで欲しいと思う好著であり、網膜剥離という眼の病に侵され、失明の危機を乗り越えられながらご家族やお弟子さんたちの温かいご支援を得、苦闘されてきた著者の憂国の思いが全面展開されていて読む者にその思いが迫ってくる。特に私が望みたいのは、財政を論議し民主主義のアリーナで日々格闘されている各級議員や首長の皆さん方には、是非とも読んで欲しいと思う。

 

■ 神野先生との出会い、「地方消費税」新設の提案に感激

 

私が最初に神野先生とお会いしたのは、1994年頃だったと記憶する。当時「自社さ連立による村山政権」の時代で、当選後2年、まだ1期生の若造でありながら与党税制決定会合の一員として消費税3%から5%への引き上げに直面していた。そんな消費税増税議論が展開されていた時、参議院議員会館の私の部屋に自治省(当時)の税制担当課長であり後に総務省事務次官から民主党政権の内閣官房副長官となられた滝野欣弥さんとご一緒に訪ねてこられ、地方消費税(新設)の必要性について熱心にお話しされたことを思い出す。

 

引き上げ分2%の内1%を新しく地方消費税にするというのはなかなか大変な事だったが、地方財政の独自財源強化は自治体労働運動に従事してきた私にとっては魅力のある提言だった。結果、この税制改正で1%が地方消費税となって実現できた事を、主として税を担当した者の一人として、一つのレガシィとして忘れることはできない。

 

■    自社さ政権時代に消費税5%への増税、村山総理、五十嵐官房長官にも恵まれ、地方消費税で何とか乗り切れたのでは

 

1989年に消費税の導入した直後の参議院選挙で、当時の社会党が大勝利し、土井たか子委員長が「山が動いた」と高らかにその勝利を宣言されてまだ5年しか経過しておらず、当時の参議院社会党の大半の議員は消費税に反対して当選してきたわけで、なかなか消費税の引き上げには抵抗が強かったことは確かであった。

 

それだけに、地方消費税の導入という提案は、地方分権・地方自治の強化という観点から何とか理解を得ることができ、総理大臣が自治労出身の村山富市さんで官房長官が元旭川市長の五十嵐広三さんであったこともあり、社会党も辛うじて消費税引き上げに賛成へと舵を切ることができたのだ。

 

■ 民主党菅総理、神野理論「強い経済、強い財政、強い社会保障」で武装

 

その時、理論的な支えとなったのが神野直彦先生であり、以降税財政問題についての導きの星として民主党政権時代には大変な役割を果たしていただいたことが忘れられない。特に民主党が政権交代を実現させた後、鳩山総理退陣を受けて成立した菅直人政権の時、「強い経済、強い財政、強い社会保障」というスローガンを打ち出した背景には、神野直彦先生が責任者となって民主党政権の税制専門家会議の座長としてリーダーシップを発揮していただいたことも忘れることはできない。

 

■ 混迷の日本財政を切り開く憂国の書、新自由主義からの脱出への道を照らす

 

さて、著書の中身について要約してみたい。日本の財政が抱える課題は深刻であり、どう改革できるのだろうか。最近の国会論議では、財政赤字をどうするのか、基礎的財政収支黒字化目標(=2025年度)も消えかかっている。そんな時、財政学の泰斗である神野直彦東大名誉教授が、渾身の力を込めて書かれたのがこの『財政と民主主義』であり、副題として「人間が信頼し合える社会へ」とある。

 

神野先生にとっては、戦後の福祉国家から1980年頃から始まる新自由主義への大転換が、「小さな政府=財政支出の削減」となってアメリカやイギリスそして日本を襲い、人々の連帯を根底から破壊し格差社会をもたらしたと批判される。その帰結がリーマンショックであり、新自由主義による小さな政府=小さな財政がもたらしたもので、再び財政の果たす役割が重要という見方が広がり始めている。

 

財政は民主主義でコントロールされるべきなのに、今や米英日といった新自由主義を取り入れた国では民主主義が機能不全に陥っていると強く警告される。さらに、地球規模でも温暖化やコロナパンデミックなど「根源的危機の時代」が襲っており、どう解決していけるのか、主権国家にとって実に深刻な課題にも直面している。

 

■ 岸田政権「新しい資本主義」、時代錯誤の重商主義、再分配に触れず

 

こうした中で、人間主体の経済システムをどう作り上げていけるのか、スウェーデンのロベーン内閣の提起した最新の高齢者ケアと育児のレベルアップした「強い社会」の提起を取り上げる。他方、これと対照的に岸田内閣の「新しい資本主義」についての批判が展開される。岸田総理の提起は、確かに新自由主義批判の言葉はあるものの、「人間」を手段化した時代錯誤の「重商主義路線」に舞い戻り、生活(社会)よりも生産(経済)を重視したものになっている。

 

また、知識社会のインフラとしての教育の重要性や地方自治体による対人社会サービスの充実が必要なのであり、そのために必要な財源の確保は再分配としての税・社会保険料の重要性を指摘されている。もはや、国会の場ではだれも税を含む公的拠出(負担)の増加が必要であるとは言わなくなっており、再分配政策の重要性の指摘は現役政治家たちにとりわけ重く突き刺さる。

 

特に、重化学工業からサービス・知識集約産業化が進む中、女性の社会進出による帰属所得(家事労働など)の喪失が起き、社会保険中心では生活保障が困難になる。かくして「社会保険国家」から「社会サービス国家」への転換が求められるのに、それを支える日本の公的負担の低さ、とりわけ租税負担は実に貧弱でしかない。ポスト福祉国家における育児や高齢者ケアといった生活保障の現物給付や、再訓練・再教育を含む教育サービスなどの充実にむけて、所得や消費といったフローの税制だけでなくストックである資産に対する富裕税の新設を提起されている。

 

■ 基礎的自治体から始まるヨーロッパや日本の新しい自治体作りとデモクラシー                                                                                  

 

さらに、大量生産・大量消費社会という「量」から、存在欲求を充足する「質」を重視した経済・社会が求められる時代になっていることを指摘され、具体的にフランスのストラスブールやドイツのルール地方の街づくり、日本での大正デモクラシー以来続いている三重県度会郡七保村や信州における教育国民運動などの基礎的自治体レベルの取り組みにも言及されている。

 

さらに、大変重要な財政の課題として、民主主義を危うくする「巨大な富の形成を阻止する」ことの重大性を指摘され、資産課税の強化を取り上げ、戦後のシャウプ税制で一度失敗した富裕税の導入の必要性にも言及されている。

 

■ 故宇沢弘文東大名誉教授の神野先生に贈られた「ことば」、根源的危機の時代とどう立ち向かうべきなのか

 

最後に、神野先生に対する故宇沢弘文名誉教授の贈られた言葉が紹介されている。神野先生は、これを「私に下された『垂訓』である」と受け止めておられる。

 

「未来へのシナリオは、単に未来を現在の延長として予測するのではなく、人間を人間として充実させるビジョンとして描かなければならない」(宇沢弘文「リベラリズムの立場に立った真の意味における経済学者――神野直彦氏の人と業績」『自由思想』2003年12月号)

 

これに対する神野先生の言葉が最後のページに次のように書かれている。

「私たちは、週末的破局を恐怖してはならない。恐怖すべきは『人間を人間として充実させる』希望のビジョンを描く意欲を阻喪してしまうことである。『人間を人間として充実させる』未来へのシナリオを描き、希望を胸に、意志の楽観主義にもとづいた努力を重ねることが、『根源的危機の時代』に生を受けた私たちの責任なのである」(244頁)

 

この本を読み終えながら、ふと神野先生が語っておられた言葉を想いだしていた。それは、東京大学経済学部の大内兵衛教授以来築かれて来た伝統あるドイツ財政学講座が、神野先生でもって終わるのだ、という趣旨の言葉だったと記憶する。この著書はそうしたドイツ財政学に命を懸けてこられた神野先生の心からの叫びが凝縮されたものになっているように思えてならない。

 

 ( この第515号は、3月24日に発刊された同人誌『メディアウオッチ100』第1778号に寄稿した「1冊の本」というコーナーに出した原文を補強して掲載したものである)

 

国際連帯税議連、上川外務大臣要請を行う>国際課税TF参加を要望

 議連要請(24.3.27)

 

去る3月27日、国際連帯税創設を求める議員連盟(以下議連)は外務省において上川外務大臣に「開発・気候のための国際課税タスクフォース並びに国際連帯税に関する要望書」を手交し、要請行動を行いました。

 

要望内容は、以下の3項目です

 

(1)「開発、気候、自然のための国際課税タスクフォース」に我が国も参加し、議論をリードすべき

 

(2)このタスクフォースの専門家委員会に我が国から参加させるべき

 

(3)2回目の有識者懇談会を設置し、国際連帯税に関して検討を行うべき

 

<要望書全文はこちらからお読みください>

 

以下、要請行動の参加者からの聞き取りです。

 

参加したのは、衛藤征士郎会長(衆議院議員)、逢沢一郎副会長(衆議院議員)、古川元久副会長(衆議院議員)、石橋通宏幹事長(参議院議員)、田島麻衣子事務局長(参議院議員)の5名でございます。

 

上川外務大臣にお迎えいただき、衛藤会長より要望内容の説明をした後、出席者と大臣で意見交換を行い、最後に衛藤会長から上川外務大臣へ要望書を手交しました。

 

意見交換は予定の時間を越えるものとなりましたが、残念ながら要望については承るということで具体的な回答はありませんでした。これを皮切りに今後とも要請を強めていきたいと思います。

 

 【解説】

国際連帯税創設を求める議員連盟は新型コロナウイルス禍もあり、この数年日本政府(外務省や官邸)に対しての要請行動を取れてきませんでした。これに合わせるように、外務省は2020年より国際連帯税に関する税制改正要望をサボタージュしてきました。

 

国際的には、昨年6月パリでの「新グローバル金融協定サミット」や9月ナイロビでの「アフリカ気候サミット」を経て、11月COP28の場で「開発、気候、自然への取組みを強化するための国際課税に関するタスクフォース」(議長国:フランス・ケニア)が設立され、もうひとつの公的資金調達を目指す動きが強まっています。

 

このことは途上国において、貧困・飢餓や気候危機、その上に債務危機が重なり、総じてSDGs達成の危機となって現れています。外務省はODA以外の資金として、国際連帯税を諦めて民間資金利用を図ろうとしていますが、民間資金は本当に援助を必要とする貧困国・(気候)脆弱国には向かいません。今こそ、日本外務省は上記タスクフォースに参加し、国際協調・協働でSDGs達成など途上国支援のための資金創出を図るべきです。

 

議員連盟におかれましても、こうした国際的な動きを理解しつつ、再度国内においてモメンタムを創出しようとしていますので、大いに期待したいと思います。

 

※写真は、田島麻衣子参議院議員事務所から提供してもらいました。

フランス:労組、市民団体並びに国会議員らが相次いで金融取引税を要求

フランスの有力紙、ル・モンドはこの間相次いで金融取引税(以下、FTTと略)に関する記事を配信していましたので、お知らせします。ひとつは、政府の100億ユーロ予算削減に関する労組・市民団体の抗議と意見の中で、もうひとつは、フランスの与党プラス中道派の国会議員の意見の中で、です。前者は、住宅やODAなど公共支出の削減ではなく、FTTによる財源確保を行うべき、と主張しています。後者は、欧州での財源不足に対し、欧州規模でのFTT導入を求めています。また、両者とも国内や欧州のみならず貧困や気候危機下にある南の国々への財政支援を訴えています(下記参照)。                 

 

■仏FTTや英印紙税をG20諸国に適用すれば1,560億€から2,600億€の税収

 

そのFTTですが、具体的には株式取引税で、パリ第一パンテオン・ソルボンヌ大学のギュンター・カペル・ブランカール教授の論文を参考にしているようです(*)。前にも紹介しましたが、教授の推定によれば、フランスのFTTや英国の印紙税と同様のFTTをG20諸国に適用した場合、年間1,560億ユーロから2,600億ユーロの税収を得られること、また、このFTTを日中取引や高頻度取引に拡大すれば、税収が年間4000億ユーロ近くまで増加する可能性があること、が分析されています。

 

■日本の東証株価の売買高1日当り4~6兆円、その内約70%は海外投資家

 

日本では、株価が史上最高値を更新するなど高騰を続け、この間の売買高は1日当たり4~6兆円にも上っています。昨年の売買高は歴代最高となりましたが、1日当りの平均3.8兆円です(年間943兆7,637億円)。また、その売買高のうち約70%は海外投資家によって行われています(日本取引所グループ・JPCXの「投資部門別売買状況」参照)。このほか株取引にはデリバティブ取引もあり、こちらも莫大なお金の取引が行われています。

 

ともあれ、もし日本でも株取引税が実施されているとすれば、大雑把に言って、1日当り4.5兆円の売買高があるとして、フランス並みに0.3%課税(日中取引含む)で3.4兆円の税収、日中取引外しで1兆円強の税収となります。しかもその税の大部分は海外投資家が払うことになります(フランスでは50%とのこと)。

 

 

【以下、ルモンドの電子版より】

 

「フランスが最終的に金融取引への課税を受け入れれば、欧州は多大な利益を手にすることができるだろう。」

 « Si la France accepte enfin la taxe sur les transactions financières, on verra que l’Europe peut rapporter gros »

2024年3月11日

 

ソフィー・ビネ、マリリーズ・レオン、メラニー・ティセラン・ベルジェ、ナジャット・ヴァロー=ベルカセムを含む市民社会のリーダーたちは、『ル・モンド』紙に掲載された記事の中で、100億ユーロの公共支出削減ではなく、金融取引税(FTT)による投機への課税を主張している。

 

(注:ビネ氏は最大労組CGTのトップ、レオン氏は有力労組CFDTのトップ、ティセラン・ベルジェ氏はCJD・若手経営者センターの会長、ヴァロー=ベルカセム氏は元教育大臣。4人とも女性)

 

他の多くのヨーロッパ諸国と同様、フランスでも、政府が電気代やディーゼル燃料の税金を引き上げると、ますます多くの市民が不快感を示すようになっている。何百万人もの人々が生活費の高騰に苦しみ、多くの農家が仕事から生計を立てられなくなっている今、このような増税は耐えることのできる限度を超えるものであり、市民はより大きな税の公正を求めるようになっている。

 

南の国々でも状況は悪化している:新型コロナのパンデミックの結果だけでも、2020年以降、特にアフリカでは1億2,400万人以上の人々が1日2.10ドル[1.92ユーロ]以下の極貧状態に置かれている。私たちは今、経済的、社会的、気候的な課題が計り知れず、その解決に必要な投資も莫大なものとなる歴史の瞬間にいる。

 

私たちは、ヨーロッパと南の国々で気候変動と戦うための資金を見つけなければならない(建物の断熱化、再生可能エネルギーの開発、公共交通機関への投資、農民への支援、洪水や干ばつ、森林火災などの災害に対する真の予防策など)。

 

劇的な結果

 

私たちはまた、貧困と不平等と闘うための国際連帯や、開発途上国が最初の犠牲者である気候変動への適応を支援するための追加的な資金を解放する必要がある。COP28では、最も大きな被害を受けた国々のための損失損害基金が設立されたが、基金が空っぽでは意味がない。

 

私たちはまた、医療制度、教育、警察、司法のための資金も必要としている…私たちは、日常生活と私たちの将来にとって基本的な公共サービスの深刻な貧困化を目の当たりにしている。私たちは最終的に、グリーン産業がヨーロッパに留まるのを助ける資金を見つけなければならない。

 

米国にグリーン投資を誘致するためにジョー・バイデンが今後10年間に提示した3,600億ドルの補助金に直面して、欧州は移転や雇用の喪失、気候変動対策の大幅な遅れを避けるために迅速かつ強力に対応しなければならない。

 

残念ながら、ブルーノ・ルメール経済大臣は、新たな財源を確保する代わりに、100億ユーロの予算削減を発表したばかりだ(省エネ住宅改修への10億ユーロの削減、国際連帯への8億ユーロの削減、地方自治体の気候変動適応基金への4億ユーロの削減など)。これらが実現すれば劇的な結果をもたらすだろう。…(以下、有料記事)

 

※全文は、https://www.lemonde.fr/idees/article/2024/03/11/si-la-france-accepte-enfin-la-taxe-sur-les-transactions-financieres-on-verra-que-l-europe-peut-rapporter-gros_6221390_3232.html

 

 

「欧州委員会が提案した金融取引税は、毎年最大570億ユーロの収入をもたらすだろう。」

≪ La taxe sur les transactions financieres proposee par la Commission europeenne rapporterait chaque annee jusqu’a 57 milliards d’euros ≫

2024年3月14日

 

危機を脱するためには、投機と闘い、金融取引に対する欧州税を導入することが急務であると、ホライゾンズ、LIOT、MoDem、ルネサンス各グループの国会議員58名が「ル・モンド」紙に寄稿した。

 

(注:各グループはLIOTを除いてマクロン大統領の与党に属します)

 

ディーゼル燃料の増税計画に対して農民が示した怒りは、広く国民が共有している苦しみを明らかにしています。支払うのは常に同じ人々でなければならないのでしょうか? 電気に対する税金は10%増税されるのに、定期的に新記録を更新する金融市場には課税されないのだろうか?

 

新しい資金源を見つける必要性に異論を唱える人はいない。ジョー・バイデンがすべてのグリーン産業を米国に誘致するために4,000億ドルを投じるとき、黙って見ているわけにはいかない。また、私たちは新型コロナウイルスの援助に返済し、気候変動との闘いに勝つための新たな手段を見つけなければなりません。公共交通機関に投資し、農業援助に資金を提供し、最終的にはすべての建物の複数年にわたる大規模な熱改修計画を実施し、COP28で創設された途上国支援基金への資金提供を行う必要があります。

 

フランスでは今年、建設業界が最大15万人の人員削減を発表しているが、もし私たちがこれらの人員削減を受け入れれば悲劇的なことになるだろう。 2007 年にジャン=ルイ・ボルロー(注:元環境・持続的開発・計画大臣)が主催した環境フォーラムでは、「 2010 年から 2017 年にかけて、エネルギー不安の深刻な状況にある 30 万人の質素な持ち家を改修する」ことに賛成する強力なコンセンサスが得られたことを私たちは覚えています

 

公平で迅速かつ効果的な対応

 

残念なことに、17年経った今でも、効率的な改修は毎年 13,000 件しか行われていません…何百万もの国民が深刻なエネルギー貧困の状況にあり、フランスの貿易収支はガスと石油の購入により巨額の赤字となっており、気候学者は現在、1960 年代や 1970 年代の 3 倍の速さで増加している大気中のCO 2濃度に唖然としている。

 

こうした人員削減を回避し、気候変動の緊急事態に対応するには、私たちは直ちに新たな財源を見つけ出さなければなりません。同時に、私たちのすべての領土から発せられている税の正義への要求に応えなければなりません。

 

公平かつ迅速で効果的な対応策は、金融取引に対する欧州税の創設です。これは欧州議会全体からの要請であり、欧州議会はこの 3 年間でこの主題に関する3つの報告書を可決しました。欧州委員会が2011年から提案している少額の税金(0.1%)は、毎年最大570億ユーロの収入をもたらすことになる。

 

経済学者のギュンター・カペル・ブランカール氏が指摘するよう に、金融取引税(TTF)には優れた税金を生み出すあらゆる利点が…(以下、有料記事)

 

※全文は、https://www.lemonde.fr/idees/article/2024/03/13/la-petite-taxe-proposee-par-la-commission-europeenne-rapporterait-chaque-annee-jusqu-a-57-milliards-d-euros_6221788_3232.html

 

 

(*)金融取引の課税: 世界の税収の推定

 

ギュンター・カペル・ブランカール(パリ第一パンテオン・ソルボンヌ大学教授)

 

<以下、ソルボンヌ・エコノミック・センターのHPの扉より>

 

経済学者ギュンター・カペル・ブランカールによる新しいノートによると、フランスのFTTや英国の印紙税と同様の金融取引税をG20諸国に適用した場合、年間1,560億ユーロから2,600億ユーロの税収が見込まれる。分析によると、この国際的な金融取引税を日中取引や高頻度取引に拡大することで、この税収は年間4000億ユーロ近くまで増加する可能性がある。

 

金融取引税(FTT)はしばしばユートピア的なアイデアと考えられ、その実施は金融市場に乗り越えがたい障害をもたらすと考えられている。しかし、英国では17世紀以来、株式市場取引に印紙税という形で課税されており、シティーの発展を妨げることなく、年間約40億ユーロを生み出している。事実上すべての先進国がどこかの時点でこの制度を採用しており、現在でもスイス、香港、台湾、フランスなど世界30カ国以上が金融取引に課税している。

 

実際、FTT は歪みが少なく、潜在的な税収が高く、徴収コストが最小限に抑えられる優れた税であるようです。再分配効果もあります。G20 諸国が適用する英国の印紙税またはフランスのFTT相当額は、多くの免除にもかかわらず、年間 1,560億ユーロから2,600億ユーロを生み出すことになります(名目税率 0.3% または 0.5% に基づく)。課税をデリバティブや日中取引に拡大すれば、金融市場の透明性を向上させながら歳入が増加するだろう。

 

※全文は、

https://centredeconomiesorbonne.cnrs.fr/en/gunther-capelle-blancard-the-taxation-of-financial-transactions-an-estimate-of-global-tax-revenues/

 

 

 

G20サミット、財相会議で富裕層への最低課税案 フランスも支持

G20ブラジル ロゴ

 

今年のG20サミットはブラジル・リオで11月に開催されますが、それに先立ち外相会議に続いて、2月28-29日と財務相・中央銀行総裁会議が開催されました。会議2日目「ブラジルのアダジ財務相は…『超富裕層を対象にした公平な税金の支払いは国際協力次第だ』と述べ、富裕層への課税強化をG20の枠組みで目指す考えを示し」(下記、日経新聞)、これにフランスなどが支持したとのことです。

 

■ 世界の10億ドル(約1500億円)以上の資産を持つ超富裕層は2756人

 

パリ経済学院のガブリエル・ズックマン教授が参加した調査機関「EUタックス・オブザーバトリー」によると、「10億ドル(約1500億円)以上の資産を持つ富裕層(ビリオネア)の保有資産の2%に相当する最低課税を導入する国際合意が必要だとの考えを示している。その場合、2500億ドルの税収増につながると試算している。世界には2756人のビリオネアがいて、東アジア(838人)や北米(835人)に多い」(同紙)との報告がなされています。

 

■ 日本の「超富裕層ミニマム税」、株式市場では1日6兆円の売買

 

ところで、日本では2025年度より3.3億円超の納税者に対し「超富裕層ミニマム税」が実施されますが、課税対象者は200~300人程度で、税収は300~600億円程度という、とても小粒な税制です。さらに言えば、日本では金を最も貯めこんでいるのは大企業で、2022年度の日本企業の内部留保(利益剰余金)は、554兆7,777億円と過去最高で(2023年厚労省)、23年度はさらに積みあがっているものと思います。むしろここに税を課した方がよいでしょう。

 

ついでに担税力に満ち溢れているのは、金融セクターです。3月1日の東京証券取引場での株式売買高は6兆円を超えました(昨年の東証での1日の売買高は平均で3兆円前後)。しかも、この売買の約70%は外国投資家が占めています。ここに税を課すことができれば、主要に外国人投資家に税を支払ってもらうことになります。

 

■ ブラジルの貧困・飢餓TFとフランス・ケニアの国際課税TFとの連動を

 

話を戻しまして、今度のG20サミットで議長国ブラジルが主要テーマとしているのが貧困と飢餓の削減であり、「飢餓と貧困に対抗する世界連合」の設立です。そのために、“Task Force for a Global Alliance Against Hunger and Poverty”を設置しました。目標の1と2(貧困と飢餓)を含むSDGs達成プロセスが極めて厳しい中にあって時宜にかなった取り組みと言えましょう。

 

そのタスクフォース第1回会合を2月中に行っています。ブラジル側は国際機関を含むすべてのG20メンバーが参加することが見込まれているとしています(注)。日本政府もこのタスクフォースに参加するのでしょうか。

 

ざっとブラジルのG20関係のWebサイトを見ても、このタスクフォースに関し、まだ詳細な報告はなされていません。気になるのは、途上国における「貧困・飢餓」目標を含むSDGs達成のための資金ギャップ(不足額)で、これをどのように埋めていくか、つまり資金調達の議論がどう行われるか、です。その点、新しい国際課税による資金調達という、フランスとケニアが議長国となって立ち上げた“Taskforce on International Taxation to Scale Up Development, Climate, and Nature Action” においても、今回の超富裕層への課税などもテーマになると思われますので、両タスクフォースがうまく連動していくと、「新規かつ追加的で予測可能な(公的資金となる)」国際連帯税の実現の可能性が高まるのではないでしょうか。

 

(注)“It’s about putting the poor in the budget and the rich in income tax,” said Minister Wellington Dias

 

 

【日経新聞】G20、富裕層への最低課税案が浮上 ブラジルや仏が支持

2024年3月1日

 

サンパウロで開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、富裕層への課税強化の議論が浮上した。貧富の格差が大きい議長国ブラジルを含む途上国や新興国だけでなく、フランスも賛同している。今後は国際連携の枠組みに向けて具体的な提案を目指していく見通しだ。

 

ブラジルのアダジ財務相は29日、2日目の会議冒頭の演説で「超富裕層を対象にした公平な税金の支払いは国際協力次第だ」と述べ、富裕層への課税…(了)

 

どうする壊滅的状況のSDGs>未来サミットとグローバル・ガバナンス

上川大臣

 

本年の国連の最大のイベントは、9月の総会ハイレベル・ウィーク中に首脳会合として開催される未来サミット(The Summit of the Future)です。サミットの目的を一言でいえば、国際社会における「グローバル・ガバナンスの変革と多国間システムの再活性化」を図ること、それを『未来のための協定』にまとめ上げようというものです。

 

(1)サミットは国連の存在意義を取り戻すために必要な作業

 

実際、新型コロナウイルスによるパンデミックという未曽有の苦闘はあったものの、国連の安全保障理事会は機能していませんし、国際目標であるSDGsは8年目の折り返し時点でも15%しか実現していません。このように国連そのものの存在意義が問われている事態に対し、国際社会が国際協力・協調というグローバルなガバナンスを取り戻すために努力することは時宜にかなっていると言えるでしょう。

 

国連側は『未来のための協定』策定のための作業の第一弾として「ゼロ・ドラフト」(以下、ドラフトと略)を2月2日に公表し、今月12日までに意見書の公募と21日にバーチャル会合を設定しました。当フォーラムもこれに対応しましたので、下記をご覧ください。その前に、「ドラフト」そのものの問題点について、さらに開発資金調達の課題点について考えてみたいと思います。

 

(2)「ドラフト」の章立て>「国際的な平和と安全保障」からはじめるべきだが…

 

まずこの「ドラフト」の構成は次の通りとなっています。
 ・リード(パラ1~18) 
 ・第1章 持続可能な開発と開発のための資金調達(パラ19~45) 
 ・第2章 国際的な平和と安全保障(パラ46~90) 
 ・第3章 科学、技術、技術革新とデジタル分野の協力(パラ91~102) 
 ・第4章 ユースと将来世代(パラ103~115) 
 ・第5章 グローバル・ガバナンスの変革(パラ116~148)

 

    ※未来サミット「ゼロ・ドラフト」はこちら

 

ところで、「グローバル・ガバナンスの変革」を言うならば、現下のロシア/ウクライナとパレスチナ/ガザ戦争についてロシアと米国の拒否権発動で安全保障理事会が機能マヒに陥っていることからして、むしろ「国際的な平和と安全保障」を第1章にした方がよいと思われます。また今回のサミットが国連創設75周年(2020年)を記念することからはじまったことからも、そうあったほうがよいのではないでしょうか。

 

しかし、安保理改革は微妙な問題もあることからして、共同起草者(ドイツとナミビア代表)は第5章で[5.1 安全保障理事会の改革]という中見出しを用意したものの、具体的記述はありません。そのことにつき [共同進行役注:安全保障理事会の改革が依然として未来サミットの優先課題であることは…明らかであり…我々は、2024年6月に、この問題に関する最初の文言を提示する予定である]と述べています。

 

(3)なぜ第1章に「開発のための資金調達」か>説得力ある説明なし

 

「ドラフト」を読んで、第1章に持続可能な開発問題を持ってくることを了としつつも、なぜ続けて資金調達問題を持ってきたのか、このことの説明が明確ではありません。文章的には、リード(前書き)部分で「…極度の貧困を含め、あらゆる形態と次元の貧困を根絶することが、世界最大の課題であり、持続可能な開発にとって不可欠な要件であることを再確認する」とは述べているものの、その根絶に向けなぜ改善できていないのか(結果、SDGs達成率がわずか15%)の原因は述べていません。

 

改善できていない理由を端的言いますと、途上国での貧困・飢餓が増大しているからであり、それを克服するための主な手段としての支援資金が圧倒的に足りていないからです。ですから、「ドラフト」で資金調達問題を取り上げなければならなかったのだと思われます。

 

このことに対し、説得力のある説明がないまま「私たちは、持続可能な開発目標の資金ギャップの推定値が増加していることに深い懸念を抱いており…開発資金の量と質において一歩踏み込んだ変化が必要であることを認識し」と述べるだけで、これでは「世界最大の課題である」という割には何の切迫感も危機感も感じられません。また、開発資金の踏み込みも、「私たちは、援助国に対し、政府開発援助の規模を拡大し、そのコミットメントを履行するよう促す」と述べるのみです。資金ギャップがどのくらいで、政府開発援助(つまり、ODA)の現状がどうで、それをどう拡大していくのかなどは述べられていません。

 

ところで、先進・ドナー国といえども新型コロナ問題等への莫大な支出により財政的余力は乏しく、政府開発援助を飛躍的に増加させるには厳しいのが現状です。従って、国際社会は盛んに民間資金の活用や世界銀行等IFIs改革による資金捻出を唱えています。しかし、途上国や気候変動に脆弱な国は、公的資金の拡大を望んでおり、それがODAでは厳しいのであれば、新規かつ追加的で予測可能な資金、つまり国際連帯税のような革新的資金調達を望んでいます。

 

このような観点から、当フォーラムとして「ドラフト」に関する意見書を提出しました。

 

(4)「ドラフト」への意見書>SDGs資金ギャップを公的資金で埋めるために

 

細かいところもありますがそれは省略して、主要なコメント部分を日本語でお知らせします。

 

1)「Chapeau」の10パラグラフに続けて、次の文章を入れる
――我々は貧困の根絶が世界最大の課題であることに鑑み、持続可能な開発目標(SDGs)の達成年の中間点にあたる2023年時点で、その達成率が15%でしかないという現実に危機感を抱き、その原因が開発途上国におけるSDGs達成のための資金ギャップにあることに留意する。

 

2)「Sustainable development and financing for development」の12パラグラフに続けて、次の文章を入れる。
――我々は、開発途上国におけるSDGs達成のための資金ギャップが、COVIT-19以前は年間2.5兆米ドルと予測していたが、COVIT-19によるパンデミック、気候危機、ウクライナ戦争による食料危機とインフレーション、並びに先進国の高金利政策によって4兆米ドルにも跳ね上がっていることを認識する(UNCTAD 2023)。一方で開発援助国側(OECD・DAC)のODA総額は年間2110億ドルであり(OECD 2022)であり、その差が著しいことに留意する。

 

3)「1. Sustainable development and financing for development」の39パラグラフに続けて、次の文章を入れる。
――我々は事務総長提案を実現するためにも、2023年のCOP28 で創設された「The Taskforce on International Taxation to Scale Up Development, Climate, and Nature Action」(議長国:フランスとケニア)を支援する。同時に各国に対しタスクフォース参加を呼びかける。

 

4)「1. Sustainable development and financing for development」の41パラグラフに続けて、次の文章を入れる。
――我々は政府開発援助だけではグローバル公共財を賄えないことを認識する。年間4兆米ドルというSDGs資金ギャップを公的資金で埋めるために、新規かつ追加的で予測可能な資金としての国際連帯税などの革新的資金メカニズムの創設に同意する。(了)

 

※写真は、昨年9月21日、国連・未来サミット閣僚級会合で演説する上川外務大臣

 

多極化時代のグローバル税制の展望

未来サミットのロゴ

 

 2024年に入り、ウクライナ戦争、パレスチナ戦争の先行きが見通せないなかで、米国ではトランプ再選の可能性が高くなっている。世界は分断と混迷を深めているが、長期的にはグローバルサウスの動向に注目すべきだろう。1月22日の日経新聞1面には、「サウス台頭『旧秩序』突く、米中『世界二分論』に異議」という見出しの記事が掲載された。グローバルサウスは経済力を増大させ、発言力を高めつつある。以下、グローバル税制をめぐる最近の動向に即して、サウス台頭の展望を記してみたい。

 

国際連帯税の再構築

 

 国際連帯税は、2000年の国連ミレニアム開発目標(MDGs)の資金調達を目的にしてフランス主導でスタートした。その要件は、▼国境を越える経済活動に課税、▼税収は国際機関が管理、 ▼使途はグローバル課題に充当というもので、2006年の航空券連帯税が第1号となった。国際線を利用する旅客に少額課税、税収は国際機関UNITAIDが管理し、貧困国への医薬品供給にあてるという方式で、現在も継続している。

 

 これに続いて2011年、EUで金融取引税が提起された。この税は、国境を越える金融取引(株式、債券、デリバティブ等)に低率課税し、税収は各国政府とEUが管理・使用するもので、課税対象が国際連帯税に近いといえるが、金融業界の反対が強く現在まで実現をみていない。

 

 そうしたなかで、気候危機に対する資金調達策として新たな取組が開始された。2022年のCOP27(エジプト)では、グローバルサウスの気候危機に対処するための「損失と損害基金」設置が合意された。その具体化に向けて、様々な試みが追求されていく。

 

 2023年6月、フランス、バルバドスの呼びかけで、「新グローバル金融協定サミット」がパリで開催され、国際課税を通じた資金調達を検討するタスクフォース設置が提起された。9月、ケニアでのアフリカ気候サミットを経て、11~12月、COP28(アラブ首長国連邦)が開かれ、「損失と損害基金」の制度の大枠が決定された。財源には公的資金、民間資金、革新的資金源等が広くあげられ、その一環として「開発、気候、自然の資金調達のための国際課税に関するタスクフォース」の立ち上げに至った。そこでは炭素税、海上・航空輸送税、金融取引税などが扱われるが、この間の経緯のなかにグローバルサウスの発言力の増大を確認することができる。

 

多国籍企業課税改革の紆余曲折

 

 多国籍企業への課税は本国、進出先のいずれでなされるべきか、二重課税問題の扱いについては100年の歴史がある。第二次大戦後はOECDと国連で取り組みが続いたが、ルール形成の主導権は先進国クラブであるOECDが握ってきた。

 

 21世紀に入り、グローバル化、デジタル化の進展とともに、タックスヘイブン等を利用する多国籍企業の課税回避(二重非課税)が横行する事態となった。2012年、OECDはG20との共同作業として、BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げ、2015年に15項目からなる行動計画を策定した。約40カ国が参加したBEPSをさらに発展させ、140カ国参加の交渉を続けた結果、2021年10月に2本柱からなる新たな課税ルールで合意に達した《第1の柱は、売上高200億ユーロ超、利益率10%超のグローバル企業(約100社)を対象に、10%を超える利潤のうち25%について市場国(消費者のいる国)に課税権を配分、第2の柱は法人税の最低税率を各国共通して15%に設定》。

 

 当初の予定では、2022年に多国間条約、法改正を成立させ、2023年実施を目指したが、多国間条約の締結は現時点でなお実現していない。特に米国議会(共和党)が反対の意向であり、米国が条約に批准しないとなれば、この合意は不成立に終わるかもしれない。

 

国連主導のルール形成へ

 

 2本柱の新ルールについては、先進国に有利な決め方だとしてグローバルサウスから反発の声が上がっている。最低税率が低すぎるというNGOからの批判もある。アフリカ連合などがルール形成の場をOECDから国連に移すべきだと声を上げてきた結果、国連事務総長は2021年7月、25カ国の専門家からなる国連租税委員会の設置を決めた(期間は2021~2025年)。

 

 また2022年11月の国連総会では、国際課税ルールは国連の場で取り組むべきとの決議がなされた。米国は修正を試みたが失敗に終わっている。さらに2023年11月15日、改めて国連総会で「包摂的で効果的な国際課税協力の推進」に関する議題が取り上げられ、アフリカ連合提案が賛成125、反対48、棄権9で採択された。イギリスは修正提案を提出したが、賛成55、反対107、棄権16で否決された。日本は前者に反対、後者に賛成だった。ここにはグローバルサウスが多数派、G7が少数派になった現実が示されている。

 

 2024年9月には国連未来サミットが開かれる。この決議を受けて、2024年夏までに一定の案をまとめるべく、20カ国ほどの政府間協議体が組織される。その先はかなり長い道のりになると思われるが、世界が多極化へと進んでいくなかで、多国籍企業課税、さらには超富裕層へのグローバル課税の具体化が進むことになるのだろう。

 

金子文夫(横浜市立大学名誉教授)・記

 

「NPO現代の理論・社会フォーラム経済分析研究会」の“POLITICAL ECONOMY No.254” (2024年2月1日発行)より転載   

 

※上記ロゴは、国連未来サミットのものです。

多極化時代のグローバル税制の展望

未来サミットのロゴ

 

 2024年に入り、ウクライナ戦争、パレスチナ戦争の先行きが見通せないなかで、米国ではトランプ再選の可能性が高くなっている。世界は分断と混迷を深めているが、長期的にはグローバルサウスの動向に注目すべきだろう。1月22日の日経新聞1面には、「サウス台頭『旧秩序』突く、米中『世界二分論』に異議」という見出しの記事が掲載された。グローバルサウスは経済力を増大させ、発言力を高めつつある。以下、グローバル税制をめぐる最近の動向に即して、サウス台頭の展望を記してみたい。

 

国際連帯税の再構築

 

 国際連帯税は、2000年の国連ミレニアム開発目標(MDGs)の資金調達を目的にしてフランス主導でスタートした。その要件は、▼国境を越える経済活動に課税、▼税収は国際機関が管理、 ▼使途はグローバル課題に充当というもので、2006年の航空券連帯税が第1号となった。国際線を利用する旅客に少額課税、税収は国際機関UNITAIDが管理し、貧困国への医薬品供給にあてるという方式で、現在も継続している。

 

 これに続いて2011年、EUで金融取引税が提起された。この税は、国境を越える金融取引(株式、債券、デリバティブ等)に低率課税し、税収は各国政府とEUが管理・使用するもので、課税対象が国際連帯税に近いといえるが、金融業界の反対が強く現在まで実現をみていない。

 

 そうしたなかで、気候危機に対する資金調達策として新たな取組が開始された。2022年のCOP27(エジプト)では、グローバルサウスの気候危機に対処するための「損失と損害基金」設置が合意された。その具体化に向けて、様々な試みが追求されていく。

 

 2023年6月、フランス、バルバドスの呼びかけで、「新グローバル金融協定サミット」がパリで開催され、国際課税を通じた資金調達を検討するタスクフォース設置が提起された。9月、ケニアでのアフリカ気候サミットを経て、11~12月、COP28(アラブ首長国連邦)が開かれ、「損失と損害基金」の制度の大枠が決定された。財源には公的資金、民間資金、革新的資金源等が広くあげられ、その一環として「開発、気候、自然の資金調達のための国際課税に関するタスクフォース」の立ち上げに至った。そこでは炭素税、海上・航空輸送税、金融取引税などが扱われるが、この間の経緯のなかにグローバルサウスの発言力の増大を確認することができる。

 

多国籍企業課税改革の紆余曲折

 

 多国籍企業への課税は本国、進出先のいずれでなされるべきか、二重課税問題の扱いについては100年の歴史がある。第二次大戦後はOECDと国連で取り組みが続いたが、ルール形成の主導権は先進国クラブであるOECDが握ってきた。

 

 21世紀に入り、グローバル化、デジタル化の進展とともに、タックスヘイブン等を利用する多国籍企業の課税回避(二重非課税)が横行する事態となった。2012年、OECDはG20との共同作業として、BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げ、2015年に15項目からなる行動計画を策定した。約40カ国が参加したBEPSをさらに発展させ、140カ国参加の交渉を続けた結果、2021年10月に2本柱からなる新たな課税ルールで合意に達した《第1の柱は、売上高200億ユーロ超、利益率10%超のグローバル企業(約100社)を対象に、10%を超える利潤のうち25%について市場国(消費者のいる国)に課税権を配分、第2の柱は法人税の最低税率を各国共通して15%に設定》。

 

 当初の予定では、2022年に多国間条約、法改正を成立させ、2023年実施を目指したが、多国間条約の締結は現時点でなお実現していない。特に米国議会(共和党)が反対の意向であり、米国が条約に批准しないとなれば、この合意は不成立に終わるかもしれない。

 

国連主導のルール形成へ

 

 2本柱の新ルールについては、先進国に有利な決め方だとしてグローバルサウスから反発の声が上がっている。最低税率が低すぎるというNGOからの批判もある。アフリカ連合などがルール形成の場をOECDから国連に移すべきだと声を上げてきた結果、国連事務総長は2021年7月、25カ国の専門家からなる国連租税委員会の設置を決めた(期間は2021~2025年)。

 

 また2022年11月の国連総会では、国際課税ルールは国連の場で取り組むべきとの決議がなされた。米国は修正を試みたが失敗に終わっている。さらに2023年11月15日、改めて国連総会で「包摂的で効果的な国際課税協力の推進」に関する議題が取り上げられ、アフリカ連合提案が賛成125、反対48、棄権9で採択された。イギリスは修正提案を提出したが、賛成55、反対107、棄権16で否決された。日本は前者に反対、後者に賛成だった。ここにはグローバルサウスが多数派、G7が少数派になった現実が示されている。

 

 2024年9月には国連未来サミットが開かれる。この決議を受けて、2024年夏までに一定の案をまとめるべく、20カ国ほどの政府間協議体が組織される。その先はかなり長い道のりになると思われるが、世界が多極化へと進んでいくなかで、多国籍企業課税、さらには超富裕層へのグローバル課税の具体化が進むことになるのだろう。

 

金子文夫(横浜市立大学名誉教授)・記

 

「NPO現代の理論・社会フォーラム経済分析研究会」の“POLITICAL ECONOMY No.254” (2024年2月1日発行)より転載   

 

※上記ロゴは、国連未来サミットのものです。     

                                                                                                      

TIME誌に「開発・気候のための国際課税タスクフォース」紹介される

ローレンス・トゥービアナ カナダ大臣 

 

1月16日付「TIME誌」電子版に、「2024 年は飛躍的な気候変動アクションの年になるに違いない」と題した小論が掲載され、その中で「開発・気候のための国際課税タスクフォース」についても述べていますので、紹介します。

 

小論の執筆者は、ローレンス・トゥビアナさんとキャサリン・マッケナさん。前者は、この間何回か紹介していますように、欧州気候財団の CEO であり、フランスの気候変動大使および COP21 特別代表であり、画期的なパリ協定の主要な立案者であり、かつ今回のタスクフォース設立の立役者でもあります。

 

後者のマッケナさんは、2015 年から 2019 年までカナダの元環境・気候変動大臣、2019 年から 2021 年までインフラ・コミュニティ大臣を務めました。現在、国連ネット-ゼロの議長などを務めています。

(写真は、左がトゥビアナさん、右がマッケナさん)

 

 

2024 年は飛躍的な気候変動アクションの年になるに違いない

    ローレンス・トゥビアナ、キャサリン・マッケナ

 

2024 年、あるいは T マイナス 6 (注:気候変動の1.5度リミットまで6年を切る)へようこそ。気候変動との闘いにおける重要な節目である 2030 年が、今やはっきりと視界に入ってきました。

 

しかし、世界はまだ、あるべき方向に進んでいません。

 

パリ協定で定められた気温上昇を摂氏1.5度以内に抑えるには、早急に軌道修正が必要だ。しかし、現在の(注:各国の現在の公約の実施による)摂氏 2.5 度から 2.9 度という軌道は、破滅的な気候変動の可能性を確実なものにしています。

 

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「今日の(温室効果ガス)排出量ギャップはむしろ排出量の峡谷に似ている」と簡潔に述べた。この峡谷を閉じるには、2024 年を飛躍的な気候変動対策の年にする必要があります。

 

これは、気候変動の主な原因である化石燃料への依存を即時かつ急速に削減することによってのみ可能なことです。

 

2024 年に、私たちは化石燃料時代が終わりを迎えたことを明確にし、次の 5つの飛躍的な行動に焦点を当てる必要があります。

 

1.IEA のネット・ゼロの道筋を実行する …省略

 

2.化石燃料の段階的廃止 …省略…

 

3.グローバル・サウスへの融資の拡大

化石燃料を段階的に廃止するには、再生可能エネルギーシステムを構築し、グローバル・サウス諸国が公平かつ公正な移行を達成できるよう支援するために利用可能な資本を大幅に拡大する必要があります。飛躍的な行動をとるためには、数十億ではなく、兆単位の資本が必要です。これが、アゼルバイジャンで開催されるCOP29を含め、今年は金融が焦点でなければならない理由であり、気候繁栄と債務の持続可能性に向けて世界的な金融アーキテクチャの方向性を直ちに転換し、民間資本を活用するためのリスクを軽減するブレンデッド・ファイナンスモデルが不可欠である理由である。

 

また、気候変動資金の新たな財源も必要です。これは、気候変動の原因となっていることが最も少ないにもかかわらず、最も高い代償を払っている気候変動脆弱国にとって、特に重要です。フランス、ケニア、バルバドスは、海運、航空、化石燃料取引、金融取引、極度の富に対する課税を検討する、開発と気候変動対策のための課税に関する新たな国際タスクフォースの立ち上げを主導している。これらの措置は、切実に必要とされている資金を提供し、気候変動の最も責任のある人々が最終的に公平な負担を確実に提供できるようにするのに役立つでしょう。

 

4.国と地方のネット・ゼロ行動を連携させる …省略…

 

5.人々に力を与える

私たちは2024年を、広報ではなく国民の声が普及する年にしなければなりません。今後 12 か月間で少なくとも 67 回の国政選挙が行われます。私たちは国民に、より野心的な気候政策に取り組む政党を支持し、投票してもらう必要があります。

 

両親や祖父母とともに行進する若者たちや、法廷で政府や化石燃料産業に異議を唱える市民グループの行動が重要であることに疑いの余地はありません。宗教団体が化石燃料投資からの撤退を表明し、若者が有望な雇用主に対して気候変動リーダーであることを要求することが重要なのです。また、消費者が信頼できる気候変動対策に取り組んでいると知っている企業から購入することや、先住民が伝統的な土地を守るために闘うことを支援することも重要です。2024年、私たちは変革のためにあらゆる場所で活動する人々への支援を倍増させる必要があります。

 

これは特に女性に当てはまります。残念なCOP28の家族写真に写っているような女性首脳の不足にもかかわらず、世界的には女性が気候変動対策をリードしています。私たちは、より多くの女性と女児がコミュニティで主導権を握れるよう支援し、世界が必要としている女性主導の気候変動解決策を拡大するために、資金、指導、技能訓練を動員する必要があります。

 

新年は、自分自身を見つめ直し、より良くやっていこうと誓う時です。しかし、決意を新たにする時期は終わりました。これは、私たち全員が参加しなければならない戦いなのです。新年には新たな希望が約束されています。この新しい年を1日も無駄にしないようにしましょう。

 

◎原文はこちら:

2024 Must Be the Year for Exponential Climate Action

 

※左の写真は、1930年3月31日付TIME誌の表紙を飾ったマハトマ・ガンディーとのことです。

 

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