コロナ禍の現状と未来>税財政やグローバル・タックス講演会など

いぜんとしてコロナ禍が続いていますが、その対策のために各国政府は莫大な財政支出を行い、今や日本を筆頭に各国とも持続可能な財政状況ではなくなりつつあります。そういう中で、米国は富裕層や企業への増税を柱にして、また欧州は環境関連の新税や企業増税などを柱にして、それぞれ財政支出や立て直しを行おうとしています(消費税=付加価値税や所得税の全般的な増税など大衆増税でないことに注目を)。

 

ところが、日本ではそのような税財政施策はもとより、議論ですら全くと言ってよいほど政府では進んでいません。5月25日の経済財政諮問会議での骨太方針(骨子)でも「プライマリーバランス黒字化などの財政健全化の旗を降ろさない」などと抽象的に述べるにとどまっています。

 

コロナ禍状況にあって、ポスト・コロナの、とりわけ税財政のあり方に関してどのように展望していくべきか。そのための材料となるシンポジウムや講演会が下記のように開催されます。まだ申し込みが可能ですので、参加してみたらいかがでしょうか(どの会合もオンラインです)。

 

1)シンポジウム「ポスト・コロナの経済・財政」

 

・日時:2021年6月7日(月)13:30~16:00

・主催:東京財団政策研究所 共催:株式会社 日本経済新聞社

・メインスピーカー

 森信茂樹(東京財団政策研究所 研究主幹)

 土居丈朗(東京財団政策研究所 主席研究員、慶應義塾大学経済学部教授)

 佐藤主光(東京財団政策研究所 主席研究員、一橋大学国際・公共政策大学院教授)

*詳細:https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=3746 

 

2)【国会議員との対話集会】コロナ禍で拡大する格差・貧困問題に立ち向かう!~市民の立場から税制・財政を考える~

 

・日時:2021年6月7日(月)17:00~19:30

・主催:公正な税制を求める市民連絡会

・メイン報告

 バイデン政権の税制改革プラン 合田寛(同会幹事)

   提言 猪股正(弁護士,同会事務局長)

*詳細:http://tax-justice.com/  

 

3)講演会「グローバル・タックスの意義と可能性」

 

・日時:6月20日(日)14:30~16:30

・主催:グローバル連帯税フォーラム

・講師:諸富 徹(京都大学大学院経済学研究科教授)

   司会:上村雄彦(横浜市立大学国際教養学部(教養学系)教授)

*詳細:http://isl-forum.jp/archives/3147 

諸富 徹教授講演「グローバル・タックスの意義と可能性」

諸富先生

 

フォーラムの講演会のご案内です。

 

諸富 徹教授講演「グローバル・タックスの意義と可能性」(仮題)

 

◎日 時:6月20日(日)14:30~16:30

◎参 加:Zoomでの受講

◎参加費:1000円

◎講 師:諸富 徹(京都大学大学院経済学研究科教授)

 

※要申込:gtaxftt@gmail.com までに、お名前、所属をお書きの上申込みください。40人程度になりましたら締め切らせていただきます。また、前日までに参加URLをメールにてご案内差し上げます

◎参加費振込:上記URLを送付時に振込先をお知らせしますので、後日振り込んでくださるよう願います。

 

<呼びかけ>

所得税のフラット化、法人税率の引き下げ、タックスヘイブン利用による租税回避…。この傾向が1980年代から新自由主義政策として展開されてきました。一言でいえば、富裕層や大企業に優しい税制がとられてきたのです。経済のグローバル化とデジタル化がそれを可能にしました。この結果、GAFAはじめ巨大多国籍企業が台頭し、「租税戦争」が仕掛けられてきました。

 

もとより国際社会はこうした「租税戦争」が各国内の税収過小と企業間の公平な競争を阻害することより、過度な租税回避行為を防止するための国際課税ルールを求めて、2010年代よりOECDにおいてBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げました。

 

国際課税ルール(デジタル課税など)議論の10年余を経て、米国トランプ政権に邪魔されながらも、バイデン政権に米国が変わるやデジタル課税に積極的になり、この4月米国案を約140か国に提示。内容は大雑把に言って、年間売上高と利益率が上位100位程度に入る巨大多国籍企業に対してそれぞれの国内で課税というもの。OECD側も米国案が弾みになり、10月のG20首脳会議までには確実に合意できるとの見通しを示しています。

 

さて、講師となっていただく諸富教授は、その著書『グローバル・タックス』(岩波新書、20年10月発行)において、グローバル・タックスとは「課税権力のグローバル化」と定義しています。具体的には、新しい国際共通ルールをつくって、その下で各国が協力しつつ実施していく税制で、今回のデジタル課税もそのようなケースになる、と分析しています。一方で、国際公共財の財源調達を目的に、国境を越える経済活動に対して課税する国際連帯税もグローバル・タックスの重要な要素としています。

 

以上から、1)BEPSプロジェクトとデジタル課税、2)米国案の評価と課題点、3)グローバル・タックスの意義と可能性などについて述べていただき、議論できればと思っています。ふるってご参加ください。

 

●諸富教授の著書

『グローバル・タックス-国境を超える課税権力』(岩波新書 2020年)、『資本主義の新しい形』(岩波書店 2020年)、『財政と現代の経済社会』(NHK出版 2015年)、『私たちはなぜ税金をおさめるのか-租税の経済思想史』(新潮選書 2013年)など多数

 

GTタックス

 

コロナ禍を経ての時代変化>バイデン米政権と国際課税の現状から

日本でのコロナ感染は英国型株「N501Y」が主流となり、厳しい状況が続いています。みなさま、どうぞお気をつけ願います。

 

●国際課税、グローバルタックス、国際連帯税などのキーワードでの問い合わせ

 

14世紀のペスト大流行以来、感染症のパンデミックの歴史を見るならば、時代の政治経済そして社会状況を大きく変えることになりました。2019年から顕在化した新型コロナウイルス危機もその例外でないようです。そのことを国際課税(デジタル課税)の状況から見てみますが、その変化をもたらしつつあるのが米国バイデン政権のデジタル課税(含む、法人税の世界共通「最低税率」)についての提案です。現在、トランプ前政権のため停滞していた同税の国際的合意が一気に進むような気運となっています。

 

このこともあり、実は上村雄彦横浜市大教授や当フォーラムに、国際課税、グローバルタックス、国際連帯税などのキーワードでの問い合わせ、原稿依頼が来るようになってきました。

 

●バイデン米政権の新自由主義政策からの転換>企業増税と大きな政府

 

米国バイデン政権の何が時代の変化をもたらそうとしているのでしょうか。それを簡潔に説明しているのがハーバード大教授のダニ・ロドリック氏です。「バイデン米政権(の)企業増税を財源にインフラや研究開発などに2兆ドル(約217兆円)を投じる『米国雇用計画』は、同国経済の重要な転機になる公算が大きい。政府の関与を減らし、市場原理を重視する新自由主義の時代の終わりをします」(「米『雇用計画』、政府の役割変えるか」4/29付日経新聞)、と。

 

ここから2つのことが指摘できます。ひとつは、財源を企業への増税によって賄おうとしており、これまでの世界の企業減税競争という流れからの大転換を意味します(英国も企業増税を提案)。もうひとつは、「大きな政府」の復権です。新自由主義は政府の福祉・公共サービスの縮小(小さな政府)を図るものですが、バイデン政権はそれを逆転しようとしています。

 

デジタル課税については、これまでOECD/G20で、①巨大IT企業等への「デジタル課税」、②法人税に対する世界共通の「最低税率」を議論してきて、昨年合意手前まできましたが、トランプ前米政権の反対でとん挫していました。ところが、バイデン政権になってから、とくに①につき、世界で100社程度の大企業を対象に各国で課税権を分かち合うという米国案が提示され、本年半ばの合意を目指し各国の協議が進む事態となっています。

 

もっとも金融政策の面では規制が弱い、また法人税増だけで大規模な政府支出が賄えるのかとの懸念はあり、後者では金融取引税まで踏み込むことが期待されます。

 

●ネット企業の勃興とGAFAの税金逃れ

 

グローバリゼーションは、IT(ネット)企業の勃興をもたらし、GAFA(アルファベット=グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)等が今日のデジタル化した新経済を独占的に支配するようになってきました。これらGAFA等は独占の問題もさることながら、「悪質な課税逃れ」という問題も生じてきました。

 

課税逃れの手法は次のようなものです。まず特許やブランド等の知的財産をタックスヘイブンなどの低税率国に設立した子会社で所有し、その子会社にライセンス料などの形で各国から利益を集め、全体的に税負担を減らす、というもの。既存の法人税では、国内に支店とか工場とかの「恒久的施設(PE)」がないと課税することができません。ですから、ネット企業は各国で巨大な収益を上げながら、どの国からも課税されないのです。これが既存の国際課税ルールの限界でした。

 

その結果GAFAがいかに税金逃れしてきたかを見てみましょう。5月9日付の日経新聞で報じています。

 

・GAFAの税負担率:15.4%(世界5万社超の平均:25.1%)

・日本企業の平均:28.3% トヨタ自動車:24.8%

・主要国の法人税率(地方法人税を含む実効税率):日本29.7%、米国25.8%、英国19.0%、フランス32.0%、ドイツ29.9%

 

※グラフは同日付日経新聞・電子版より

 

GAFAの税率と世界の税率