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航空券連帯税、400~1100億円の税収が可能>パンデミック対策の財源に!

今や東京でも繁華街に行きますと外国人観光客で溢れかえり、訪日外国客が年間4,000万人の大台に乗りそうな勢いです。このことから、政府・与党は「国際観光旅客税」(以下、観光税と略)の増税を検討しているようです(航空新聞)。ただし2025年度税制改正大綱には要望が出ていませんので、26年度税制改正で打ち出されるかもしれません。翻って、この観光税は様々な点で問題があり、国際線利用からの税収は地球規模課題に使用すべきです。あらためて航空券連帯税(正確には航空券・船舶券連帯税、以下連帯税と略)を考え、やや早いのですが、26年度税制改正に向け提言していきたいと思います。

 

■ 2024年の訪日外国人は過去最高、2025年は4000万人強を予測

 

2024年の訪日外国人数と出国日本人数、並びに大手旅行会社JTBの2025年予測は次の通りです(1)。前者の訪日外国人は過去最高ですが、超円安のため出国日本人は最高時の6割程度。観光税の税収ですが、出国にあたり1回1000円の徴収で、2023年度で合計440億円に上りました。

 

・2024年(実績):訪日外国人数 36,869,900人/出国日本人数 13,007,300人 ⇒合計:49,877,200人

 

・2025年(予測):訪日外国人数  4020万人/出国日本人数  1410万人 ⇒合計:5430万人

 

■ 2025年の国際線の予測のもとに、入国税としての「連帯税」の税収を試算してみる

 

2025年の国際線の予測のもとに連帯税による税収を試算してみますが、まず税目として導入されていない「入国税」と位置付けます(2)。観光税は「出国税」という形を取っていますが、日本に入国するに際して連帯税がかかるという仕組みです。

 

税率(定額税)と税収ですが、担税力の観点から座席(船舶の場合キャビン)により格差をつけるパターンを2つ、それに観光税のように座席別に関係なく一律とするパターンの3種類を試算してみます。

 

◎パターンA:税収426億円/E席0円、PE席1,000円、B席:5,000円、F席:10,000円 

 

◎パターンB:税収1121億円/E席1,000円、PE席2,000円、B席:8,000円、F席:15,000円 

 

◎パターンC:税収543億円/座席別なしで一律1,000円                    

  注1)E席はエコノミー、PE席はプレミアムエコノミー、B席はビジネス、Fはファースト

  注2)以下は(3)を参照。

 

パターンAはできるだけ税額を低くするパターンで、とくにエコノミークラスには課税しないという特徴があります。パターンBはできるだけ税額を高くし税収を多くするパターンで、したがってエコノミークラスも観光税並みに徴収します。パターンCは観光税の税額を踏襲します。

 

ひとつ見逃せないのは、富裕層や超富裕層が使うプライベート(ビジネス)ジェットの利用が近年急速に増えてきて、国際線での発着回数が2023年で5864回となっていますので(4)、2025年には1万回を軽く超えるでしょう。何よりもCO₂排出量が桁違いということもあり、これには「連帯税」を大幅に課してもよいのではないでしょうか。ちなみに英国では航空旅客税のワンクラスとして11万円以上を課しています(5)。従って、「連帯税」をその半額の5万円としても125億円となります(1機当たり5人搭乗として)。さらに言えば、プライベートヨット(高級クルーザー)利用者にも課すことができます。

 

■ なぜ「連帯税」か? 税収はパンデミック対策の財源に!

 

ⅰ) 今日の主な地球規模課題のひとつに新型コロナ等感染症パンデミックがありますが、国境を越えた人の移動、とくに飛行機による短期間の移動は爆発的な感染症拡大をもたらしました。この結果、莫大な人的被害をもたらすとともに国際経済に大打撃を与えました。現在、コロナ感染は完全に終息した訳ではなく、さらに第二第三のウイルスによるパンデミックが起きないとは限りません。その危険性からして、国境を越えて移動する人に対し予備的に一定の対策費用を負担してもらうことは理に適っていると考えます。

 

ⅱ)日本政府は出国税による税制(国際観光旅客税)を国内観光という限られたセクターの資金にしましたが、観光税で受益するのはもっぱら観光業界並びに観光を目的とした訪日外国人であり、必ずしも航空機利用者全員の利益になっていないという矛盾があります。税収を感染症対策資金とすれば間違いなく搭乗者全員にとって、ひいては人類全体にとって裨益することになります。

 

ⅲ) 米国トランプ政権が発足しましたが、心配した通り(世界保健機関)から脱退を表明しました。WHOの分担金は米国が最大拠出国で22%を占めますので(金額は1.33億ドル)、予算が立ち行かなくなりそうです。他方、日本の拠出は第3位の8.6%(4097万ドル)。さらに心配なのは、低中所得国のパンデミックPPR(予防、備え、対応)強化を支援するための「パンデミック基金」での米国の貢献がなくなることです。ここでも米国の拠出は24年のプレッジを含めダントツ1位の11.2億ドルを占めています。日本は第5位の1.2億ドルです(6)。

 

これはたいへん由々しきことで、世界的規模で感染症・公衆衛生対策が立ち遅れてしまうことになってしまいます。日本政府は、米国にWHO脱退の撤回を粘り強く求め、同時にパンデミック基金など国際保健のための資金調達を航空券連帯税で賄い、拠出金のさらなる増額に向け努力すべきです。また、連帯税が1000億円前後になるようでしたら、その半分を国内の感染症対策に使用することも考えられます。外務省・日本政府は国際・国内感染症対策の資金調達を真剣に考える時です!

 

(1)【JTB】2025年(1月~12月)の旅行動向見通し

 

(2) 入国税:航空券税につき多くの国は出国税として徴収していますが、米国は出入国税として国際通行税(出発・到着)を取っています。最近ではスイスが国会に入国税を提案しています。

  【スイス】入国税、赤字抑制…スイス冬期議会の注目ポイント 

 

(3) 注2)通常の飛行機の座席割合を、Eは70%、PEは12%、Bは16%、Fは2% とした。

       注3)訪日外国人客が増えるとともに、LCC(格安航空)利用者も増え3割を超えるようになったが(2025年予想で1629万人)、この利用者の席をほとんどエコノミー席として計算。

        注4)クルーズ船での訪日外国人数は150万人(2024年)で、キャビン(客室)による区別は飛行機に準拠。

 

(4)【国交省】日本におけるビジネスジェットの発着回数推移(国際)  

 

(5)参考:英国の航空券税(航空旅客税/25年4月1日から実施料金) ※PJ;プライベートジェット

①0~2000マイル(EU内など) E席2,500円/PE・B・F席2,700円/PJ15,000円

 

②2000~5500マイル(米国など)E席17,000円/PE・B・F席37,000円/PJ112,000円

 

③5500マイル以上(日本など) E席18,000円/PE・B・F席43,000円/PJ117,000円

 

(6)【財務省】グローバルヘルス戦略フォローアップ/パンデミックPPRに関する最近の取組

 

冬季資金支援のお願い>希望は急速に盛り上がった国際課税の議論

本年を振り返りますと、世界的には、戦争、気候危機、そしてインフレ・物価高騰等々に見舞われ、途上国ではこれに債務危機が重なり「ポリクライシス(複合危機)」に陥っています。他方、先進国では米大統領選挙に典型的なようにポピュリスト・極右勢力が台頭してきました(英国だけは別)。このような情勢の中で、人々のグローバルな希望の一つとして「国際課税」実現に向けての取り組みの進展があります。当フォーラムは当面この希望を国内で推進していく決意ですが、そのためには資金も必要ですので、冬季一時金の折、資金支援を訴えますので、よろしくお願いいたします。

 

■ 超富裕層への課税:G20リオ・サミットそして経団連会長

 

去る11月18-19日、ブラジル・リオデジャネイロでG20サミットが開催され、その首脳宣言の冒頭に「我々は、誰一人取り残すことなく、公正な世界と持続可能な地球を構築すること」というSDGs(持続可能な開発目標)理念の確認を行いましたが、宣言でも述べているように目標は17%しか進展しておらず、SDGs危機ともいうべき状況です。これを打破すべく、議長国ブラジルは「飢餓と貧困に対するグローバル・アライアンス」と、それを推進するための資金調達として「世界の超富裕層への課税」を提唱しました(宣言にも明記 注1)。

 

この超富裕層への課税ですが、4月にブラジルが起草し、ドイツ、南アフリカ、スペインが賛同した提言は、資産額が10億ドルを超える全世界の約3000人の超富裕層の資産に少なくとも2%を課税し、2500億ポンド(47兆円)の収入を見込む、というものです(注2)。

 

この提案については、今日グローバルな資金創出のツールとして国際的に市民権を得るに至っています。実際、7月と10月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議声明において、9月の国連未来サミットでの「未来のための協定」において、さらに後述する「国連 国際租税協力のための枠組条約」議論において、取り上げられています。

 

一方、こうした国際的な議論に刺激されたのか(?)日本経団連の十倉雅和会長が2040年を見据えた政策提言「フューチャー・デザイン2040」で、所得や資産に対する富裕層への課税強化で34年度までに5兆円規模の財源を確保し、現役世代の社会保険料の負担率が上がらないようにする、と提案しています。課税の具体的な中身は分かりませんが、注目すべきかと思います。ちなみに、日本で資産額が10億ドル(1500億円)を超える人は、ファーストリテイリングの柳井会長以下44人いて(フォーブス・ジャパン「日本長者番付 2023 トップ50」)、そこに2%課税すると5180億円の税収を得ることができます。

 

■ グローバル連帯税:7項目の連帯税オプション

 

フランス、ケニア、バルバドスを議長国とする「グローバル連帯課税タスクフォース」は、先月のCOP29で報告書「連帯を拡大する: グローバル連帯税の進捗(Scaling Solidarity: Progress on Global Solidarity Levies)」を発表し、以下の7項目の連帯税オプションを提案しています。1)航空税、2)化石燃料課税、3)金融取引税、4)海上輸送課税、5)プラスチック生産課税、6)暗号通貨課税、7)超富裕層個人への課税。

 

詳細は、当フォーラムのWebサイトに掲載している「COP29:グローバル連帯税で数千億ドル創出可能との訴え>モトリー首相」をご覧ください(注4)。

 

■ 国際租税協力に関する枠組条約:反対した8カ国の税収損失は1,770億ドル(約26.6兆円)!!

 

既報通り、11月27日国際租税枠組条約への付託草案が圧倒的多数で採択され、新しい条約の交渉プロセスは、いよいよ来年2025年2月に開始され、2027年に終了することとなります。条約草案は、多国籍企業への公平な課税、世界の富裕層への効果的な課税、不正な資金の流れや租税回避・脱税への対応等を求めており、総合的で持続可能な開発のための国際税制の構築を目指しています。これは、タックスヘイブンが世界の多国籍企業や富裕層の脱税を許している現在の制度の根本的転換となります。

 

ところで、付託草案採択にあたり、これまで反対していた8カ国<オーストラリア、カナダ、イスラエル、日本、ニュージーランド、韓国、英国、米国>とアルゼンチンが今回反対しました。英国のNGO、タックス・ジャスティス・ネットワークの最新の調査によれば、各国はタックスヘイブンを利用して税金を安く納めている多国籍企業や富裕層により、年間4,920億ドル(約74兆円)の税金を失っていますが、上記8カ国の損失は1,770億ドルで、ほぼ半分(43%)を占めるとのことです(注5)。何という皮肉!!

 

■ 冬季資金支援のお願い:最低向こう3年間はがんばります

 

以上、急ピッチに進んだ本年の国際課税の動きを概括すると、超富裕層への課税もグローバル連帯税も国際租税枠組条約の動向に収斂していくと思われます。今日多国籍企業や富裕層への課税につき、単独でまたは有志国で実施することは困難な状況で、まして米国で国際協調に背を向けることが予想されるトランプ政権が誕生する状況にあってはなお厳しく、従って、国連を舞台とした法的根拠のある条約と議定書が必要になります。

 

その条約と議定書が晴れて陽の目を見るのは3年後の2027年です(その頃はトランプ大統領もレームダック状況になっているかも?)。それまでは当フォーラムとしてもがんばっていこうと考えています。国内外の関係NGOのみなさんと連携しつつ、いっそう国会議員や政府・省庁へのアプローチを強化していきますので、資金支援をよろしくお願いいたします。

 

<資金支援先>

 

【お振り込み先】
■銀行口座: みずほ銀行 築地支店(支店番号015)
        普通 2698313
■口座名義: 国際連帯税フォーラム

 

※ 支援された方は、gtaxftt@gmail.com までご一報くださると助かります。

 

(注1)
G20リオデジャネイロ首脳宣言
(注2)
World’s billionaires should pay minimum 2% wealth tax, say G20 ministers
(注3)
経団連会長「税・社保改革逃げるな」 2040年見据え提言
(注4)

COP29:グローバル連帯税で数千億ドル創出可能との訴え>モトリー首相

(注5)
The State of Tax Justice 2024

国連国際租税協力枠組条約への付託草案、圧倒的多数で採択!

投票結果

 

昨日の国連総会第2委員会での採決結果と今後について、PSI (Public Services International)の青葉博雄さんから以下のような投稿がありましたので、紹介します。

 

【 採決結果:賛成125、反対9、棄権46 】

 

11月27日昼(日本時間同日深夜)、国連第2委員会(マクロ経済政策)において、ナイジェリア政府がアフリカグループを代表して提出した決議案(資料1参照)が賛成125、反対9、棄権46の圧倒的多数の下、採択しました。欧州連合(EU)加盟27か国すべてが棄権する中、8月の「国連国際租税協力枠組み条約への付託事項草案作成特別委員会」における議長草案への採択において反対票を投じた8か国(米国、英国、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、イスラエル、日本、韓国)に加えアルゼンチンも反対票を投じました。一方、8月の採択において棄権したシンガポールが今回、賛成票を投じました。

 

今回採択された決議は8月に「付託事項草案作成特別委員会」で採択された付託事項を承認するものです。よって、8月に採択された特別委員会議長草案(資料2参照)が正式に効力を持つ文書となったとご理解ください。日本政府は採決に先立ち、広範なコンセンサスの不在、国内資源動員(DRM)強化への意欲の欠如などを理由に反対する旨の発言を行いました。

 

今後、決議は第5委員会(国連の行財政)に送付され、予算そして事務局構成等の検討および決定が行われます。次に来年2月に開催される租税条約交渉委員会において委員会の意思決定規則が検討・決定されます。単純過半数を基本とする規則を求めている「賛成派」と採択のハードルをより高く設定したい「反対派」との間で再び論戦が繰り広げられることになるでしょう。

 

引き続きグローバルな市民社会ネットワークである”Tax Justice Workstream of the Civil Society Finance for Development Mechanism”における議論に参加しながら、「グローバル連帯税フォーラム」ほか国際租税問題に関心のあるみなさまと共に日本政府、政党、国会議員等への政策提言活動を行ってまいりますので、よろしくお願いいたします。

 

PSI (Public Services International) 東アジア事務所

代表 青葉博雄

 

※国連の投票ボードは、Xより入手

11月20日 国際租税枠組条約問題で財務省主税局へ要請行う

■国連総会第2委員会での採択迫る

 

11月20日、現在国際的に焦点となっている「国連国際租税協力に関する枠組条約」問題に関し、枠組条約と議定書策定のための交渉に入る一歩手前の、特別委員会への付託事項草案の国連総会第2委員会(経済と開発、税を審議)での採択が迫っています。つまり、ここで否決されれば枠組条約等策定は無に帰すことになります。

 

ところで、日本政府は枠組条約に関しては前向きではなく、一貫して採択に反対してきました。本年8月の特別委員会での付託事項議長草案の採択は、賛成110カ国、反対8カ国、棄権44カ国でしたが、超少数グループとなった反対8カ国の中に日本政府も入っていました(注1)。このままでは上記第2委員会での採択でも反対し国際社会で孤立するのではないかとの懸念から、要請することになりました。

 

■ 私たちの要望と財務省のコメント

 

当日、財務省主税局からは、参事官補佐(国際租税担当)の大和史明さんが対応してくれました。冒頭、加藤勝信財務大臣あての「国連国際租税協力に関する枠組条約策定についての要望書」を提出し、主旨を説明しましたが、要望内容は次の2項目です(注2/全文)。

 

1、日本政府は、国連第2委員会における国際租税協力に関する国連枠組条約の付託事項草案の採択にあたり賛成票を投ずること

 

2、日本政府は、「OECD/G20 BEPS包摂的枠組」における合意にこだわることなく、BEPSプロジェクトでの先進的知見を踏まえ、国連枠組での議論において主導的立場を取っていただきたいこと

 

この後ざっくばらんな意見交換となりました。財務省側のコメントと説明について簡単にまとめると次のようになります。「日本政府としてはやはり広範なコンセンサスが不足しており、国内資源動員(DRM)強化についても意欲を欠いているという認識であること。とはいえ、日本政府としては国連の議論については建設的に参加していきたいこと。また、採択については交渉事であるので、どうするとは言えないこと。さらにBEPS包摂的枠組の柱1(市場国での一定の課税権)については引き続き交渉を進める立場であること」

 

■ 日本政府・財務省は国連の場で枠組条約議論をリードすべき

 

このことに対し、私たちは次のようなコメントを付け加えました。「かつてOECDでのBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトにおいて日本の財務省が能力を発揮し議論をけん引していたという経緯があったが、BEPS包摂的枠組の、とくに柱1での行き詰まり状況からして、OECDという枠からより広い国連という枠において財務省の知見を発揮すべきではないか」

 

早ければ来週にも第2委員会において採決が行われる見通しです。その結果を皆さまにお知らせすると共に、日本政府・財務省、政党、国会議員に対し、引き続き提言活動を行ってまいります。

 

(注1)

国際租税枠組み条約に向けた付託事項草案、圧倒的多数で採択!!

(注2)

財務大臣への要望書・全文

 

COP29:グローバル連帯税で数千億ドル創出可能との訴え>モトリー首相

シンジケート

 

今月11日からアゼルバイジャンのバクーで国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP29)が開催されました。最大の焦点は、条約が拠出を義務付ける先進国から途上国への対策資金の増額です。これまで2020年までに年間約1000億ドルを拠出し、2025年まで継続することになっていますが、25年以降の支援のあり方、つまり気候資金に関する新規合同数値目標(Finance and The New Collective Quantified Goal on Climate Finance)を決定することになっています。(もう一つの焦点は、パリ協定に基づく国別の温室効果ガス削減目標(NDC)の引き上げですが、ここでは省略)

 

■ グローバル連帯税タスクフォースと日本政府の動向

 

このことにつき、先進国側は具体的な提案を行っていませんが、途上国側は年間1兆ドル以上という提案をしています(G77+中国は1.3兆ドル)。が、先進国側は1000億ドルでさえようやく拠出している現在、もう一桁上げるのは容易ではなく、交渉が難航することは必至の状況です。

 

そういう中で、「一部の指導者たちは、気候変動対策のための財源を充実させるための『革新的な』方法を模索し続けている。バルバドスのミア・モトリー首相は火曜日(12日)の演説で、海運会社、航空会社、債券、株式に課税し、化石燃料の採掘に課税すれば、数千億ドルの資金を調達できる可能性があると指摘した。フランス、スペイン、ケニア、セネガル、コロンビアを含む14カ国と欧州委員会、アフリカ連合は、『連帯税連合』を通じてこれらのアイデアをより具体化しようとしている」(11月13日付Climate Home News)と伝えられています。

 

連帯税連合とは、既報の「開発・気候・自然のために国際課税に関するタスクフォース」改め、フランス、バルバドス、ケニアを共同議長とした「グローバル連帯税タスクフォース:人類と地球のために」(The Global Solidarity Levies Task Force: For People and the Planet)のことです。これも既報通り、同タスクフォース(以下、GSLTFと略)は昨年6月にパリで開催された「新グローバル金融協定サミット」を機として設立されたものですが、当フォーラム並びに国際連帯税創を求める議員連盟はGSLTFに日本政府=外務省としても参加するように要請してきました(注1)。しかし、外務省は動きませんでした。

 

■ 国際租税や気候ファイナンスの専門家など錚々たるメンバーでTF報告書作成

 

さて、モトリー首相の演説は、12日のGSLTF共同議長の国家元首または政府首脳会議の場で発したものですが、報告書「連帯を拡大する: グローバル連帯税の進捗(Scaling Solidarity: Progress on Global Solidarity Levies)」(注2)の内容を述べたものです。まずこの報告書を作成した専門家や国際機関のメンバーを見ますと、国際租税や気候ファイナンスの専門家など、実に錚々たる顔ぶれが並んでいます。

 

OECD租税政策・行政センター前所長のパスカル・サンタマン(OECD・BEPSプロジェクトの責任者であった)、国連租税条約特別委員会議長のラミー・モハマド(現在最もホットな国際租税問題を主導している)、アフリカ租税行政フォーラム事務局長のLogan Wort(アフリカでのIllicit Financial Flows対策を主導)、気候ファイナンスに関するハイレベル専門家グループ共同議長のVera Songweなど(敬称略)。

 

◎連帯税のオプションを見てみましょう。

 

1)航空税:検討されている政策オプションには、灯油燃料税(プライベートジェット燃料の協調課税を含む)や、高級航空券や頻繁な飛行機利用者への航空券課税など

 

2)化石燃料課税:化石燃料の採掘、臨時利益、多国籍企業の最低法人税率の引き上げなど

 

3)金融取引税:選択肢には、株式0.1%、債券0.1%、デリバティブ0.01%の税率を想定

 

4)海上輸送課税:「well-to-wake」課税(燃料を生産し、輸送し、船上で使用するまでのプロセス全体と、そこで発生するすべての排出物への課税)をベースとする

 

5)プラスチック生産課税:一次ポリマー生産に対する課税

 

6)暗号通貨課税:暗号通貨マイニングのエネルギー需要が高いことを考慮し課税

 

7)超富裕層個人への課税:億万長者に対する協調的な最低2%の課税

 

TFは当面1)~4)をメイン課税分野とし、5)~7)をさらに検討していくようです。なお、詳しい分析については、今後のメールで報告しますが、オピニオン電子メディア Project Syndicateでも、Emmanuel Macron、Mia Amor Mottley, and William Rutoの連名で “The Case for Solidarity Levies”というテーマで寄稿されています(注3)。

 

いずれにせよ日本政府を含む先進国側は、財政がたいへん厳しい中にあって、新規合同数値目標を大きく上積みするためにグローバル連帯税を真剣に検討していかなければならないでしょう。

 

(注1)
国際連帯税議連、上川外務大臣要請を行う>国際課税TF参加を要望
(注2)
Scaling Solidarity: Progress on Global Solidarity Levies
(注3)
The Case for Solidarity Levies

 

※イラストは、Project Syndicate より

財務省への質問:BEPS包摂的枠組、DST課税、国際租税枠組条約について

11月7日第83回財務省・NGO定期協議(*)で、当フォーラムは、3項目につき質問を出しました。詳細は下記提出文書を見ていただきますが、まず骨子を述べます。

 

【質問骨子&足下でのアマゾン等巨大IT企業の租税回避】

 

〇 BEPS包摂的枠組みの「市場国への新たな課税権の配分」(柱1)につき、今後実施できる可能性は厳しいものがある。実施が伸びれば伸びるほど米国等の巨大IT企業からの法人税を徴税できないか、または過少納税となっている現状を放置することになる。

 

〇 これは税制上の不公正、ビジネス上の不平等を継続することになり、これを是正するためにデジタルサービス課税(DST)を準備すべきではないか。実際、アマゾン・ドットコムは日本で3兆6663億円も売り上げており(2023年)、過少納税のまま。他のIT企業も同様である。

 

〇 グローバル化・デジタル化経済における包括的でSDGs理念に相応しいグローバル税制を確立するためにも、またDST実施への米国からの制裁関税を回避するためにも、日本政府は国際租税枠組条約を推進すべきではないか。今後行われる国連総会での付託事項草案の採決に賛同し、議論をけん引すべきである。

 

【財務省への質問文書】

 

テーマ:BEPS包摂的枠組み(IF)における柱1と柱2の進行状況、デジタルサービス課税の新設、国連国際租税協力に関する枠組条約について

 

1)BEPS包摂的枠組み(IF)における柱1と柱2の進行状況等についての質問

柱1の「市場国への新たな課税権の配分」については、2024年6月までに多数国間条約の署名、2025年発効という予定でしたが延期されています。今後の展望をどう見ていますでしょうか。

 

柱2の「グローバル・ミニマム課税」については、我が国でも2023年度税制改正で法制化され、本年4月以降より適用されていますが、今年度の税収はいくらほどになるでしょうか。また、その税収は海外でビズネスを展開している多国籍企業からの税収となりますので、税収の一部をSDGs達成のための革新的資金源として徴収できませんでしょうか。

 

2)デジタルサービス課税の新設についての質問

これは上記IFの柱1との関連となりますが、もし多数国間条約が不成立となった場合、次の国際交渉-合意までにかなりの時間を要することが予想されます。そうなれば日本においてビジネス展開する米国等の巨大IT企業からの税金が徴収できないか、過少にしか徴収できない状況が続き、これは「価値創造の場で税金を払うべき」というBEPSプロジェクトの原則に反することであり、ビジネス上での公平な競争を妨げるものです。

 

従って、日本政府としては欧州各国やインド他多数の国が実施している(実施を準備している)デジタルサービス課税を準備し、早期に実施すべきではないでしょうか。また、この税も海外でビズネスを展開している多国籍企業からの税収となりますので、税収の一部をSDGs達成のための革新的資金源として徴収すべきではないでしょうか。

 

3)国連国際租税協力に関する枠組条約についての質問

BEPSプロジェクト、就中上記IFは100年ぶりの国際課税制度の改変という画期的内容を含むものでしたが、これを主導してきたOECD(経済協力開発機構)プロセスでは行き詰まっています。これに対し、途上国側からは国連を軸とした国際租税制度を構築すべきとして、「国際租税協力に関する枠組条約」をめざす動きが起き、昨年国際租税協力枠組条約ToR起草特別委員会が組織されました。そして、先の8月16日ToR案が採決され、賛成110、反対8、棄権44で可決されました。この反対8の中に日本が含まれ、財務省主税局総務課主税企画官の原田浩気さんが反対意見を述べています。また、棄権44にはEU加盟国(OECD加盟国でもある)が多く含まれていますが、9月の国連未来サミット並びに一般討論演説においてノルウェー政府首相が建設的に取り組むと発言しています。

 

今後の予定ですが、国連総会において年内に「付託事項」が決定し、同条約および議定書の交渉委員会を支える事務局の設置が決まり、2025年から2027年にかけて同条約および議定書の中身が議論されていきます。

 

そこで質問です。日本政府は、①未来サミットの『未来のための協定』で謳われている「国際租税枠組条約策定プロセスに建設的に関与する」という提言、②先の10月23-24日開催されたG20 財務大臣・中央銀行総裁会議での「国連における、国際租税協力に関する国連枠組条約とその議定書の策定に関する建設的な議論を引き続き奨励する」という声明に逆行して、年内に開催される「付託事項」案件に関する国連総会で再び三たび反対の立場を表明するのでしょうか。むしろ日本政府においては、OECD/BEPSプロジェクトをけん引してきたという経緯を踏まえ、国連における議論につき積極的に前に進める役割を担うべきではないかと考えますが、いかがでしょうか。

 

(*)財務省・NGO定期協議は「環境・持続社会」研究センター(JACSES)が事務局を担い、1997年から開催され、27年目の今回で83回を数えています。詳細は、JACSESのwebサイトをご覧ください。

 

【資料&解説】セミナー「採択された国際租税枠組条約の草案:意義と今後」

9月24日g-taxセミナ-②「採択された国際租税枠組条約の草案:その意義と今後のステップ」は、講師に青葉博雄・CNEO(Center for New Economic Order)代表を迎え、30人が参加しました。

 

■ セミナーで使われた資料

 

この時に使われた資料、ⅰ) 国際租税協力枠組み条約を巡る交渉の状況

ⅱ)国連国際租税協力枠組み条約への付託事事項(TOR)議長草案(邦訳)を送ります。

 

■ セミナーでの質疑を踏まえた青葉さんのコメントと解説

 

また、青葉さんの報告の後、質疑を行いましたが、この質疑を踏まえ、あらためて青葉さんから、ⅰ)国連審議での日本政府の役割、ⅱ)IFF(不正な資金の流れ)への取り組み、ⅲ)来年の「第4回開発資金国際会議」に向けて、に関するコメントと解説が寄せられたのでお送りします。

 

青葉博雄さんのコメントと解説》

 

1. 国際租税枠組条約および関連議定書に関する国連での審議における日本政府の役割について

 

国際課税原則の見直しに向け、OECDは租税委員会の下、2012年に「税源浸食と利益移転(BEPS:Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクト」を立ち上げました。この議論の大枠を纏めたのが、当時の委員会の議長、財務省の浅川雅嗣財務官(当時)でした。

 

その後、2018年に同プロジェクトのフォローアップとして、「デジタル化に伴う課税上の課題-中間報告書2018」を発表、「BEPSに関する包摂的枠組み」における交渉を経て、2021年10月に合意に至りました。

 

その後、発展途上国を中心に課税権への再配分が不十分であるとの認識が広がり、アフリカ諸国を中心とする発展途上国から国際課税改革における議論の場を国連に移す提案が出され、国連は「国際租税枠組み条約」の交渉開始を決定しました。8月まで開催された「国際租税枠組条約付託事項に関する政府間特別委員会」において、日本政府は「OECD/G20包括的枠組み」の下での合意事項見直しに繋がる動きに終始反対の立場を取ってきました。

 

現在開催されている国連総会において年内に「付託事項」が決定し、同条約および議定書の交渉委員会を支える事務局の設置が決まります。そして、来年早々に条約交渉委員会に置ける議論が始まる見通しです。私は、日本政府に対し、「OECD/G20包括的枠組み」における合意に固執することなく、国際課税改革に関する豊富な知見を活かし、国連における議論において(ブレーキ役を果たすのではなく、)積極的に前に進める役割を担うことを求めていきたいと考えております。

 

2. IFF(不正な資金の流れ)への取り組み

 

今回のセミナーの中でIFFへの取り組みに関する有意義な意見交換がありました。現在、国際社会はIFFに対する取り組みとして次のようなことを行っております。(注:ここでのIFFには租税回避も含むとします。)

 

  1)資金洗浄・テロ資金供与に対処を目的とするする「金融活動作業部会(FATF)」による取り組み

  2)匿名の法的組織の真の所有者および金融口座情報の自動交換などを通しての租税回避対策を図るための、「 税の透明性と情報交換に関するグローバル・フォーラム」による取り組み

  3)「税源浸食と利益移転(BEPS)」に対するOECDを中心とする取り組み

  4)透明性があり責任ある資源管理を目指す、「採取産業透明性イニシアティブ(EITI)」による取り組み

 

今回の政府間特別委員会における審議において、2つ目の初期議定書のテーマの候補の一つとして「税に関係する不正な資金の流れ」が挙げられています。よって、2)に関しては国際租税枠組条約および関連する議定書の対象となり得ると考えられますが、先ず既存の取り組みの強化が求められるものと思います。次に1)の「資金洗浄・テロ資金供与への対処」についてですが、国際的税務取り決めによって対応が図られるものではなく、刑事案件としての取り締まりが中心となると考えます。

 

3.「第4回開発資金国際会議」に向けて

 

来年6月にスペインにおいて、第4回開発資金国際会議(Ffd4)が開催されます。既に私が入っているFfDに関する国際的市民社会グループにおいても、国連のプロセスへのインプットの準備が始まっております。過去の開発資金国際会議において、SDGs実現に資する国内資金動員(DRM:Domestic Resource Mobilization)の増大を図る方策の一つとして国際課税改革の重要性が強調されてきました。

 

詳しくは『国際人権ひろば(2022年03月発行号』に掲載された拙論をご参照ください。開発資金国際会議における議論の行方も注視する必要があると考えます。

 

※写真は、国連一般討論で演説するナイジェリア副大統領のカシム・シェティマ 氏(9月25日)

【資料】9.24セミナー国際租税枠組み条約付託事項3つの草案の一覧

国際租税枠組み条約に関するセミナーの第2弾が、9月24日下記の通り行われます。今回は付託事項の草案が採択されましたので、その意義について青葉氏より報告していただき、その上で今後の展望なども議論していきたいと思います。お時間が取れるようでしたらぜひご参加ください。

 

なお、付託事項の草案策定のため政府間特別委員会は4回にわたり草案(ゼロ~第3)を発表し、8月15日付公表の草案が翌日採択されました。そこで第1草案から最終草案までの文案を一覧にしてみましたので、どの文言が消えて、何が追加されたか、お読みください(どれも仮訳です)。なお、ゼロ草案は省略しています。

 

【資料】国際租税協力に関する国際連合枠組条約の付託 草案(第 1 ~第 3 )の一覧

 

ちょっと見ずらいと思いますが、「黒い字」が7月18日付の第1草案【1】、「青い字」が8月11日付の第2草案【2】、「赤い字」が8月15日付の第3草案【3】です。

 

ざっと目を通してくださると助かりますが、いっそう関心のある方は、この最終草案の意義につき、「第2草案までに盛り込まれたまっとうな内容が最終案で維持されているか(維持)」「第2草案までに盛り込まれていないまっとうな内容が最終案で盛り込まれたか(追加)」を探ってみてください。

 

※「維持・追加」内容については、前回のセミナーで青葉氏から報告された「国際租税協力枠組条約を巡る交渉の状況」を参照ください。 

 

※なお、国際租税協力枠組条約が国連の課題として浮上してきた経緯については、金子先生から報告された「国連国際租税協力枠組条約の形成過程」を参照ください。

 

《 各ドラフトのURL 》

【1】国際租税協力に関する国際連合枠組条約の草案改訂案(2024年7月18日)

 

【2】国際租税協力に関する国際連合枠組み条約の付託草案改訂案(2024年8月11日現在)

 

【3】国際租税協力枠組条約に関する議長規約案(2024年8月15日)

 

 

《インフォメーション》

【g-taxセミナー:採択された国際租税枠組み条約の草案:その意義と今後のステップ】

 ◎日 時:2024年9月24日(火)午後7時~8時30分

 ◎場 所:Zoomで開催

 ◎参加申込:希望者は次のアドレスに「g-tax②セミナー参加」、並びにお名前、所属(あれば)を明記の上申込み下さい。 gtaxftt@gmail.com(担当:田中) 

  ⇒希望者には後ほどZoomリンクを送ります。 ※ 無名の申込みはお断りします。 

 ◎参加費:無料

 ◎提案者:青葉博雄・CNEO(Center for New Economic Order)代表、GATJ(Global Alliance for Tax Justice)世界委員会アジア代表

 

【ご案内】セミナー「採択された国際租税枠組条約の草案:意義と今後のステップ」

国際租税枠組み条約問題の<g-taxセミナー>の第2弾を行います。ふるってご参加ください。

 

   ~法的拘束力のある枠組み条約と2つの議定書の交渉へ!~

採択された国際租税枠組み条約の草案:その意義と今後のステップ

 

◎日 時:2024年9月24日(火)午後7時~8時30分

◎場 所:Zoomで開催

◎参加申込:

  希望者は次のアドレスに「g-tax②セミナー参加」、並びにお名前、所属(あれば)を明記の上申込み下さい。 gtaxftt@gmail.com(担当:田中) 

 ⇒参加希望者に、後ほどZoomリンクを送ります。※ 無名の申込みはお断りします。  

◎参加費:無料

◎提案者:青葉博雄・CNEO(Center for New Economic Order)代表、GATJ(Global Alliance for Tax Justice)世界委員会アジア代表

 

既報通り、8月16日政府間特別委員会による「国際租税協力に関する国連枠組み条約の付託事項の草案」(*)が《賛成110カ国、棄権44カ国、反対8カ国》という圧倒的多数で採択されました。この結果、国連は2027年末の間までに、法的拘束力のある国連租税枠組み条約と2つの議定書を交渉していくことになりました。

 

前回のセミナーで、「枠組み条約の形成過程」と「枠組み条約を巡る交渉の状況」について学びました(**)。今回その続きとして、付託事項草案採択の意義について、青葉さんより国際的な議論を踏まえて報告してもらいます。また、採択に反対した8カ国のうちに日本も入っていますが、BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトをけん引してきた日本はむしろ率先して枠組み条約策定プロセスに関わっていくべきではないか、ということで対策を立てていきたいと思います。

 

いずれにせよ、国際租税ルールは、抜け穴だらけの非常に非効率なグローバル税制のままであり、世界の富裕層や大企業がタックスヘイブンを利用して税金逃れを、またアフリカ等途上国においては違法な資金流出を可能にしています。グローバルでデジタル化された経済下にあって、そのことに相応しい総合的で公正かつ効率的な国際租税制度が必要なことは言うまでもありません。

 

(*)Chair’s Proposal for Draft Terms of Reference for a United Nations Framework Convention on International Tax Cooperation

(**)前回セミナーの資料   

 

【国連租税枠組み条約の付託事項草案の概要(枠組み条約と2つの議定書)】

 

◎ 国連租税枠組み条約

<原則>

 a)普遍的アプローチと開発途上国等のニーズの考慮、b)加盟国の租税主権の承認、c)国際人権法との整合性、d)持続可能な開発の視点、など。

<具体案>

 a)多国籍企業への公平な課税、b)富裕層への課税、c) 持続可能な開発の達成に貢献するアプローチ、d) 透明性及び情報交換を含む相互行政支援、e) 不正な資金の流れ、租税回避、脱税及び有害な税慣行への対処、f) 租税紛争の効果的な予防及び解決

 

◎ 2つの議定書

*一つ目の議定書

 デジタル化とグローバル化経済において、国境を越えて行う多国籍企業のビジネスへの課税

*二つ目の議定書(以下の優先分野から選択する)

 a)デジタル化経済への課税、b)不正な資金フローへの措置、c)租税紛争の予防と解決、d)富裕層による脱税と租税回避への対処と課税

 

採択された国連租税枠組み条約「草案」の概要とその歴史的な意義

 ■ 国連租税枠組み条約の付託事項草案の概要

 

8月16日国連において、政府間特別委員会による「国際租税協力に関する国連枠組み条約の付託事項の草案」(注1)が《賛成110カ国、棄権44カ国、反対8カ国》という圧倒的多数で採択されました。この結果、国連は2027年末までの間に、国連租税枠組み条約と2つの議定書を作成することになりました。以下、採択された草案について概要を見てみます。

 

◎ 国連租税枠組み条約

<原則>

a)普遍的アプローチと開発途上国等のニーズの考慮、b)加盟国の租税主権の承認、c)国際人権法との整合性、d)持続可能な開発の視点、など。

<具体案>

a)多国籍企業への公平な課税、b)富裕層への課税、c) 持続可能な開発の達成に貢献するアプローチ、d) 透明性及び情報交換を含む相互行政支援、e) 不正な資金の流れ、租税回避、脱税及び有害な税慣行への対処、f) 租税紛争の効果的な予防及び解決

 

◎ 2つの議定書

*一つ目の議定書

 デジタル化とグローバル化経済において、国境を越えて行う多国籍企業のビジネスへの課税

*二つ目の議定書(以下の優先分野から選択する)

a)デジタル化経済への課税、b)不正な資金フローへの措置、c)租税紛争の予防と解決、d)富裕層による脱税と租税回避への対処と課税

 

■ 草案採択の意義:抜け穴だらけの国際租税制度の根本的変革へ!

 

今日、各国はグローバルな税制の不正利用により、年間4,800億ドル(約72兆円)の税金を失っています。このうち、3,110億ドルは多国籍企業による国境を越えた法人税の不正利用により、1,690億ドルは富裕層によるオフショア税(タックスヘイブンなど)の悪用により失われています(英Tax Justice Network、2023年)。実際、多国籍企業は海外で稼ぐ利益の3分の1を、タックスヘイブンに移転し続けています(注2)。

 

一方、「約890億ドル(約13兆円)の不正な資金がアフリカから流出し、先進各国に流れ込んでいる。それは先進国がアフリカに拠出している開発援助や海外直接投資よりはるかに多い」(注3)という途上国においての不正な(違法な)資金流出問題があります。

 

端的に言って、私たちは抜け穴だらけの非常に非効率なグローバル税制を抱えており、世界の富裕層や大企業がタックスヘイブンを利用して税金逃れを可能にしています。戦後国際租税ルールを主導してきたのは先進国グループのOECD(経済協力開発機構)でしたが、いぜんとして不公平で非効率な国際租税ルールがまかり通っているのです。

 

近年のグローバル化・デジタル化経済に対応すべくBEPS(税源浸食と利益移転)包摂的枠組による「第1の柱=市場国での一定の課税権(いわゆるデジタル課税)と第2の柱=国際最低課税」という2つの新たな税制も残念ながらうまくいっていません。とくに前者につき、米国議会の批准・承認がなければ成立しないという大きな問題を抱えています。デジタル課税に反対している米共和党の上院議員は、選挙で選ばれたわけでもない非公開のフォーラム(注、OECDのこと)にどうして我々が従わなければならないのか、と述べています。

 

とするなら、世界の大多数の国々が参加し、合法的に条約等を作成し、そのことに米国などをまき込んでいくことで対応していってはどうか。このことができるのは国連でしかできません。今回の枠組み条約策定に向けての動向は、2つの歴史的ともいえる意義を持っています。ひとつは、今日のグローバル化・デジタル化経済下における包括的で効果的かつ法的なグローバル税制を目指していること、ふたつは、すべての国連加盟国の参加方式によるグローバルガバナンスを目指していること、です。文字通り、気候変動課題に続き、国際租税課題の枠組み条約が誕生する可能性が出てきたのです。

 

■ 第2弾セミナー、近日中に開催!:租税枠組み条約策定は、世銀・IMF改革に繋がります

 

去る7月29日にセミナー「国連 国際租税協力枠組み条約の設立の可能性を探る」を開催しましたが、今月中に国際的な総括議論を踏まえて、セミナー第2弾を開催します。

 

ところで、国際租税ルールに関しては、これまでもっぱらOECDが主導し、途上国は協議にすら参加できませんでした。ただ経済のグローバル化とデジタル化にあたり、OECDはBEPSプロジェクトを設定し、上記2つのグローバル課税に関し包摂的枠組ということで途上国にも参加を呼びかけ、140カ国余りが参加しました。しかし、途上国は議論には参加できても最終的な意思決定過程には参加できなかったということです。いうまでもなく国連で枠組み条約を作ることはすべての国連加盟国が対等の立場で参加できることになります。

 

一方、今日喧しく言われている世界銀行やIMF(国際通貨基金)の改革ですが、根本的には組織ガバナンスを改革する必要があります。それは投票権が出資額によって配分されており、したがって意思決定においては先進国や経済規模の大きい国が有利となるからです。一国一票制という国連方式に限りなく近づけなければなりませんが、それに向けた試みを、今回の国際租税枠組み条約策定過程でチャレンジしていることになります。

 

ともあれ、第2弾のの国際租税枠組み条約問題セミナー開催をお待ちください。

 

(注1)

Chair’s Proposal for Draft Terms of Reference for a United Nations Framework Convention on International Tax Cooperation

(注2)

米国が葬る税の国際協調 断ち切れない「底辺への競争」

(注3)

アフリカ、中国・ロシアの権威主義望まず 元世銀副総裁

 

 ※写真は、付託事項草案に関する特別委で発言する市民社会代表(米国のNGO、Center for Economic and Social Rights のHPより)