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26年度税制改正要望>国際連帯税と国際観光旅客税について

各省庁が26年度(令和8年度)税制改正要望を提出する8月末を過ぎましたが、私たちが要求した国際連帯税について、外務省は今年度も断念しました。一方、連帯税オプションの一つであるの航空券連帯税と同じ仕組み(出国税)の国際観光旅客税については、国交省が税目を明らかにしないまま実質的に引き上げる方向での「検討」案を提出しました。貴重な税源を国交省に取られっぱなしとなっている外務省の意欲のなさはまことに遺憾としか言いようがありません。

 

■ 国際連帯税要望、外務省は引き続き断念

 

8月27日、私たちは「①日本政府は『国際線プレミアム旅客への課税を求める連帯連合』に参加すること、②26年度税制改正要望に『仮称・国際航空プレミアム券連帯税』を要求すること」の要求(*)をもって担当窓口の外務省地球規模課題総括課の安藤課長らと話し合いました。結論から言えば、「(外国援助に対する厳しい風潮がある中で)ODAやグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア基金)の拠出水準を守るのに精いっぱいの状況で、国際連帯税関係までには考えが及ばない」というものでした。

 

確かに、先の参議院選挙で「日本人ファースト(≒外国人への排外主義)」を掲げた政党が大躍進し、最近も途上国の子どもらへのワクチン供給を担う国際組織GAVIアライアンスへの供出に対する抗議やJICA「ホームタウン」問題への抗議デモ等、異様な事態が日本の社会現象になりつつあり、国際協力・途上国支援を謳う政府やNGOにはたいへん厳しい状況となっています。しかし、だからと言って、途上国援助を委縮してしまっては、逆の意味で国益を損なう事態になってしまいます。

 

■ 途上国援助は、徹底して「国益」に繋がってくる

 

というのは、中長期的にみて人口減がいっそう進行していく日本社会において、経済はもとより日本人の社会保障等も外国人なしには立ち行かなくなることは必至です。後者については、介護・医療現場で社会保障サービスを担ってくれることのみならず、社会保険料や税金を日本で働く外国人に払ってもらうことにより社会保障費を生み出してくれることになります。現在においても人手不足が深刻な製造業や農業や建設業、介護の現場は外国人が相当部分を担っています。

 

つまり、日本人は今後さらに人口が増加するアフリカ等途上国の人的資源に頼らざるを得ず、従って現在の貧困国・脆弱国が貧困や気候災害等に打ち勝っていただくための資金が必要なのです。ですから、途上国援助は「情けは人のためならず」であり、徹底して「国益」に繋がってくるのです(企業から見れば、健全に成長を続ける途上国は市場開拓の場になっていくしょう)。

 

当フォーラムは引き続き、日本政府に対し『国際線プレミアム旅客への課税を求める連帯連合』への参加を求めるとともに、国際線プレミアム旅客への課税を求めていきます。また、同税の実現を契機として、さまざまな国際(グローバル)連帯税に挑戦していきます。

 

■ 国際観光旅客税の引き上げを狙う税制改正要望

 

一方、国交省からは税制改正要望として「観光施策を充実・強化するために必要となる財源確保策の検討」を提出しており、要望内容として「受益と負担の適正なあり方…を勘案しつつ、観光施策を充実・強化するために必要となる財源確保策について必要な検討を行い、所要の措置を講じる」としています。ところが、所得税とか法人税とかの「税目」については何も書かれていません。この財源確保のリソースは明らかに国際観光旅客税(以下、観光税と略)を差すことになり、その引き上げを狙っていると言えるでしょう(本当は観光税と書きたいがそれを隠すことに?)。実際、「政府や与党からは1人につき1000円ずつ徴収する国際観光旅客税(出国税)の引き上げを求める声がある」(8月29日付日経新聞)と報道されていました。

 

このまま推移しますと、かつて観光税を新設した時と同様に、観光庁が有識者による検討委員会を設置し、そこで観光税引き上げを答申させ、しかる後に国会成立を図るというプロセスになろうかと思います。

 

■ 観光税は出国日本人にはほとんど利益なく悪い増税に

 

観光税はご承知のように、日本を出発する航空機や船舶の乗客に、出国税として1回につき1,000円課税しており、外国人も日本人(正確には国籍には関係なく日本に定住している人)も等しく課税されています。ところが、その税収の使途は、基本的に外国人観光旅客のために使われています(「外国人観光旅客の来訪の促進等による国際観光の振興に関する法律」に基づいて)。そのため、「その税収の大部分は訪日外国人旅行者の受け入れ環境整備やプロモーションに充てられ、日本人旅行者が享受する直接的な利益は極めて限定的である」(1月20日付航空新聞社WING)という状況です。

 

つまり、出国日本人にとっての負担と受益が一致しないのです。ほかにも細かいですがビジネスや留学で訪日する外国人も一致していません。また、国内の状況を見ても、観光地は大いに受益しますが(オーバーツーリズム問題があるが)、そうでない地方はまったく益することはありません。このように観光税は大きな矛盾を抱えています。

 

「国際観光旅客税の使途に関する基本方針等について」(観光立国推進閣僚会議決定)によれば、基本的考え方として「受益と負担の関係から負担者の納得が得られること」としています。しかし、当初から出国日本人に納得を得られたわけではなく、ましてそれが引上げとなれば納得どころか大いに国民的反発を招くのではないでしょうか。だから税制改正要望で税目を隠しているのかと勘繰りたくなります。

 

■ 国際観光旅客税引き上げに反対し、領土外での課税は地球規模課題に使用を!

 

もし外国人用観光のための財源として税を課すとすれば、出国日本人まで課税する出国税ではなく、制度設計を入国税にし直して外国観光客からだけ徴税すればよいのです。実際、ブータンやタイ等が導入しています。あるいは、米国のESTA(電子渡航認証システム)のようなシステムを導入し、事前審査を行うにあたり手数料(実質観光税)を取ることです。米国では現在の21ドルから本年9月30日より40ドルにも引き上げられます。

 

ともあれ、「国際航空運賃に対する課税は国家の領土主権の外で行われる消費行為であるから、その税収はこれを徴収した国家の歳入とされるべきではなく国際社会のために使うべき」(06年8月日経新聞「人道支援の税制創設を」)というのが、我が国の租税法の権威であった故金子宏東大名誉教授の指摘であり、先生は国際人道税を提唱したのでした。国際航空チケット(運賃)に連帯税や人道税を課し、それを途上国の貧困・感染症や気候変動対策という地球規模課題に使うことができれば、それは外国人であれ日本人であれ受益することになります。受益と負担は一致するのです。

 

いずれにしましても、国交省の税制改正要望である「観光施策を充実・強化するために必要となる財源確保策の検討」を注視し、出国日本人にはほとんど裨益しない実質的な観光税引き上げに反対していきましょう。また、航空チケット(運賃)への課税は連帯税として実施せよと日本政府に迫っていきましょう。

 

(*)2026年度 国際連帯税に関する要請書 http://isl-forum.jp/archives/4566 

 

外務省と国際連帯税(プレミアム旅客への課税)に関して話合います

 ベネチャ上空

 

当フォーラムは、2010年度税制改正以来、航空券連帯税や金融取引税などの国際連帯税を要求してきましたが、この度の2026年度税制改正要望に関しては、下記の通り、「国際線プレミアム旅客への課税」関係に絞って要求しています。

 

■ 2026年度 国際連帯税に関する要請書:要求項目

 

要求項目は次の2項目です。

1、日本政府は「国際線プレミアム旅客(ビジネス・ファースト席、プライベート・ジ  ェット利用者)への課税を求める連帯連合」に参加してください。

2、26年度税制改正要望に「仮称・国際航空プレミアム券連帯税」を要求し、導入に向  けて準備してください。

 

■ 8カ国の航空連帯連合の呼びかけに応えて

 

6月末からはじまった第4回開発資金国際会議(FfD4)に合わせて、フランス、ケニア、バルバドス、スペインなど8カ国(**)が「プレミアム旅客への課税を求める連帯連合」を発足させました。同連合の目的は、「開発途上国の国内歳入動員を改善し、国際的な連帯(特に気候変動の緩和と適応、パンデミック、その他の開発課題に関して)を支援すること」としています。

 

特徴的なことは、課税対象が国際線のビジネス・ファーストクラスの航空券ならびにプライベート・ジェット利用者というプレミアム旅客に絞っていることです。その理由としては、①プレミアム旅客(富裕層)の伸びは著しく、その分気候変動や感染症拡大というグローバル・イシューに多大な影響を与えていること、②とくに途上国では観光資源が大きな収入源であり、エコノミークラスまで課税対象を広げると参加国拡大が厳しくなる等、からだと思われます。

 

ともあれ、国際的に気候・開発資金調達が厳しい中にあって、途上国・先進国を問わず共同して資金創出を図ろうという試みがはじまりました。外務省もかつては航空券税等の国際連帯税を実施したいという要求を持っていたのですから、ぜひ同連合に参加し、「仮称・国際航空プレミアム券連帯税」導入を目指すべきです。

 

外務省との話し合いは、今月27日行いますが、国際協力局の地球規模課題総括課ならびに政策課が出席されます。ご注目ください。

 

(*)26年度国際連帯税に関する要請書: http://isl-forum.jp/archives/4566   

(**)8カ国:フランス、ケニア、バルバドス、スペイン、ソマリア、ベナン、シエラレオネ、アンティグア・バーブーダ

連帯連合の詳細:https://solidaritylevies.org/eight-countries-launch-solidarity-coalition-for-levies-on-premium-flyers/ 

 

※写真は、ヴェネツィア・マルコポーロ空港に向かう飛行機

国際連帯税2.0「国際航空プレミアム券連帯税」の実現を>26年度税制改正

各省庁が26年度税制改正要望を提出する時期となってきました(決定するのは年末となります)。当フォーラムは毎年航空券連帯税や金融取引税などの国際連帯税を要求してきましたが、今回は、国際連帯税2.0として、より具体的に「仮称・国際航空プレミアム券連帯税」を下記の通り要求します。

 

 

2026年度 国際連帯税に関する要請書

 

外務大臣 岩屋 毅 様

 

                  グローバル連帯税フォーラム

                       代表理事 金子文夫、田中徹二

 

日頃からの日本と世界のための外交努力に感謝します。

 

2026年度税制改正要望を提出する時期となってきました。当フォーラムは「国際連帯税創設を求める議員連盟」とともに、2010年度税制改正要望の時期以来「国際連帯税」を要求してきました。また、外務省におかれましても同年度から同税を要望してまいりました。ところが、貴省は2020年の『SDGsの達成のための新たな資金を考える有識者懇談会』最終論点で、「新型コロナウイルスより日本経済全体が大きな打撃を受けている状況下での新税の導入は現実的ではない」(要旨)という提言を受ける形で、2021年度税制改正要望から国際連帯税要望を断念するようになりました。

 

しかし、同提言では「国際旅客は短期間での感染症拡大等の形で人々の健康及び国内経済に大きな打撃を与え得ることから、国境を越えた人の移動への課税による税収を国際的な感染症予防対策の支援に充てることには合理性があり、国際航空事業が正常化した段階で(入国税として)再考すべき」(要旨)とも述べています。貴省はその後、この提言部分についてどのように再検討され、連帯税要望の断念に至ったのか、 遺憾ながらその足跡が見当たりません。

 

翻って、ここ数年とみに人類に脅威を及ぼしている主たる事象は、ひとつは新型コロナウイルス(COVID-19)禍に見られたように感染症のパンデミックであり、もうひとつは気候変動・温暖化です。この二つの脅威に関係してくるのが、国際航空です。前者については、上記有識者会議で述べているように、短期に爆発的に感染症を広めるという役割を負いました。後者については、航空部門は人為的なCO₂排出量の2.5%以上を占めており(他の排出ガス等を含めれば4%)、単位距離あたりのCO₂排出量が他のどの交通手段よりも多いという傾向があります。その上国際民間航空機関(ICAO)は、2030年に世界の総旅客数が2024年比126%、2042年には倍増の205%に増加すると予測しています。

 

我が国においても、訪日外国人は過去最高が2019年3,188万人(出国日本人は2,008万人)でしたが、2024年には3,687万人(出国日本人は1,301万人)を数えました。そして本年には4,500万人と予測され(出国日本人は1,410万人)、政府は2030年には6,000万人を見込んでいます。

 

このように航空部門は内外とも、温室効果ガス排出量が最も急速に増加している部門の一つと言えますが、同部門がグローバルに負の影響を与えている活動に対して、対策を実施するための資金調達方法として航空券連帯税があります。この度、同税のバージョン2として、本年6月末第4回開発資金国際会議(FfD4)時に「国際線プレミアム旅客への課税を求める連帯連合」がフランス、ケニア、スペインなど8カ国(*)で立ち上がりました。プレミアム旅客とは国際線のビジネス・ファースト席ならびにプライベート・ジェット機を利用する乗客ということで、エコノミークラスとは違って富裕層が利用し年々需要が高まっています。同連合は、目的として「開発途上国の国内歳入動員を改善し、国際的な連帯(特に気候変動の緩和と適応、パンデミック、その他の開発課題に関して)を支援すること」を挙げるとともに、広く参加国を求めています。

 

つきましては、貴省におかれては10年にわたり航空券連帯税など国際連帯税を要望するために知見を深めてきたところですので、その知見をもって連帯連合に参加し、航空券連帯税2.0を目指してはいかがでしょうか。このことから、私たちは下記のことを要望します。

 

 

1、日本政府は「国際線プレミアム旅客(ビジネス・ファースト席、プライベート・ジェット利用者)への課税を求める連帯連合」に参加してください。

 

2、26年度税制改正要望に「仮称・国際航空プレミアム券連帯税」を要求し、導入に向けて準備してください。

 

(*)8カ国とは、フランス、ケニア、バルバドス、スペイン、ソマリア、ベナン、シエラレオネ、アンティグア・バーブーダ。同連帯連合は2023年に発足したフランス、ケニア、バルバドスを議長国とする「グローバル連帯税タスクフォース」の支援を受けている。

                                                             2025年8月吉日

 

※写真は、日本航空(JAL)のHPより

 

 

6月29日 グローバル連帯税フォーラムの第15回定期総会開催

グローバル連帯税フォーラムの第15回定期総会が6月29日に開催され、4つの議案が提案され、採択されました。

 

議案書の中の「25年度活動方針」の基調の一部を紹介します。

 

「開発・気候資金の創出方法として、国際連帯税(グローバル課税方式)に取り組むことを基本としつつ、しかし暴力的なトランプ関税によって経済的不況の可能性や日本社会においても高まる排外主義的傾向から、短期的に途上国支援のための増税がなかなか厳しいことも事実です。従って、国際連帯税については今後本格的に議論される国連での国際租税枠組み条約の取り組みと連動しつつ中長期的に取り組んでいきます。短期的には、日本特有の潤沢に存在する外貨準備のなかのほとんど未使用のSDR(特別引出権)[*]の再チャネリング(自発的融通)実施に挑戦していきます。 」

             [*]5月末現在603億ドル(約9兆円)も積み上がっている

 

※第15回定期総会の議案書はこちらからご覧ください。

【資料】セミナー「国連租税枠組条約交渉の振り返りと今後の取組」

6月29日、講師に金子文夫さんを迎え、g-taxセミナー「国連租税枠組条約交渉の振り返りと今後の取組」を行いました。当日使用したパワーポイントを送ります。たいへんよくまとまっていますので、資料としてご利用してください。

 

 

※金子さんのパワーポイント資料「 国連租税枠組条約交渉の振り返りと今後の取組」はこちらからご覧ください。

 

<はじめに>

*国連租税条約(国際租税協力に関する国連枠組条約)

 ・UN Framework Convention on International Tax Cooperation:UNFCITC

 ・気候変動枠組条約(UN Framework Convention on Climate Change : UNFCCC)の国際租税版

 ・国際課税問題(グローバル税制)はこれまでOECD(先進国クラブ)が主導して取り組んできたが、これに対してグローバルサウスからの批判が高まり、国連によるルール形成を目指して国連租税条約の交渉が進行中

 

*報告の構成

 Ⅰ.グローバル税制はなぜ必要か

 Ⅱ.OECDの取組み

 Ⅲ.国連租税条約の準備過程

 Ⅳ. 国連租税条約交渉の現状と展望

 

※ 以下は、パワーポイント資料をご覧ください。

第4回開発資金国際会議近づく>成果文書での国際租税に関する扱いは?

決定

 

ほとんど報道されてませんが、6月30日から7月3日まで、スペインのセビリアで国連の第4回開発資金国際会議が開催されます。途上国では、債務危機に見舞われ、「アフリカ54カ国のうち、30カ国以上は医療や教育よりも多くの予算を対外債務の返済に振り向けている」(1)状況ですが、会議では途上国援助のための資金調達(途上国自身の努力含め)に関しての議論が行われます。

 

一方、途上国を援助する先進国側は、まず米国トランプ政権が人道援助の予算のほとんどを(一時)停止してしまい、また欧州各国も次々とODA(政府開発援助)予算を削減しつつあります。今こそ開発資金の大幅増額が必要であるにも関わらず、米欧はそれに背を向けています。

 

■ 最終ドラフトは第1ドラフトより後退>国際租税協力に関してチェック

 

さて、セビリア会議ですが、これまで成果文書を作成すべく、要素ドラフト(昨年11月)、ゼロ・ドラフト(本年1月)、第1ドラフト(3月)と議論を積み重ねてきましたが、米国が反発し400か所以上の修正案を出してきました。が、6月17日突如米国がFfD4から撤退を宣言。かくて最終ドラフトである’Compromiso de Sevilla’(セビリアの約束)が全会一致で!採択されることになりました(2)。

 

最終ドラフト(以下、最終)をざっと見ますと、明らかに第1ドラフト(以下、第1)から後退しています。債務問題や国際租税問題に典型的なように、主な国際ルールは先進国側が決めているので(前者はパリクラブ、後者はOECD)、途上国が主張する「どの国も平等に参加できる」国連の場での議論は必要がないとばかり、ブレーキ役となっています。

 

国際租税協力に関するドラフトを見ますと、やはり「第1」(II. A. Domestic public resourcesの章の第23パラグラフ)で記述されていた重要な文言のいくつかが「最終」(同 第28パラグラフ)でトーンが弱められたり削除されています。日本を含む先進国側からの圧力によるものと思われます。

 

<弱められた箇所>

・b) …国際租税協力に関する国連枠組み条約…「交渉を引き続き支持」し、建設的に関与(第1)

⇒…交渉に引き続き建設的に関与し、「そのプロセスへの支持を奨励」(最終)

 

<削除された箇所>

・e)「自動的な税務情報交換」「報告義務を富裕層個人にまで拡大することを検討」

・f)「実務的な会社、信託、有限責任事業組合など、幅広い資産、法人、法的取決めを網羅する世界的な実質的所有者登録簿の構築」

・「i) 持続可能な開発のための資源動員のため、グローバル連帯税の形態を含む革新的な税制の導入を検討し、各国に対し自主的な適用を呼びかけます」

 

■ 詳細は、下記6月29日開催のセミナーで報告・分析

 

g-taxセミナー:国際租税枠組み条約交渉の振り返りと今後の取り組み

 

  ◎日 時:2025年6月29日(日)午後2時30分~3時30分(延長の可能性あり)

  ◎場 所:Zoomで開催

  ◎参加申込:gtaxftt@gmail.com まで。後ほどリンクを送ります。

  ◎参加費:無料

  ◎提案者:金子文夫(グローバル連帯税フォーラム/横浜市立大学名誉教授)

 

(1)【日経新聞】アフリカが挑む国際金融改革 ハナン・モルシー氏

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD131I20T10C25A6000000/ 

(2) Compromiso de Sevilla

https://www.globalpolicy.org/en/news/2025-06-23/compromiso-de-sevilla

 

 

【第1ドラフト】

II. A. Domestic public resources

(※ゴシック斜字は、最終ドラフトでトーンが弱められたり、削除されたりした箇所)

 

23. 国際租税協力を強化し、国際課税ルールがすべての国、特に開発途上国の多様なニーズ、優先事項、能力に対応することを確保するため、

 

a) 我々は、国際租税協力が完全に包摂的かつすべての国に恩恵をもたらすことを確保することにコミットする。我々は、国際的な租税構造における開発途上国の発言力と代表性を強化することを決意する。我々は、国際租税協力枠組みが開発途上国に及ぼす影響を慎重に分析し、公平な利益を確保し、開発途上国特有の課題に対処することの重要性を強調する。

 

b) 我々は、国際租税協力に関する国連枠組み条約およびその議定書に関する交渉を引き続き支持し、建設的に関与していく。

 

c)我々は、多国籍企業を含む全ての企業が、経済活動が行われ、価値が創造される国に納税することを確保する。

 

d) 我々は、国際課税問題に関する各国税務当局間の包摂的な協力と対話を促進し、国連国際租税協力専門家委員会(その小委員会を含む)の活動を歓迎する。

 

e) 我々は、特別な状況にある国々が直面する課題を認識しつつ、税の透明性を高めることにコミットする。我々は、開発途上国に対し、例えば、自動的な税務情報交換に基づく完全な相互主義のための猶予期間の付与や、特定の基準及び条件の更なる簡素化といった特別な配慮を与えることを含め、基準の実施を支援する。我々のコミットメントには、多国籍企業の国別報告の強化、及び国別報告のための中央公開データベースの構築の更なる評価が含まれる。我々はまた、報告義務を富裕層個人にまで拡大することを検討する。

 

f) 我々は、高品質かつ標準化された情報を備えた効果的な国内実質的所有者登録簿の導入、並びに実務的な会社、信託、有限責任事業組合など、幅広い資産、法人、法的取決めを網羅する世界的な実質的所有者登録簿の構築に向けた取り組みを進めています。これらの取り組みすべてにおいて、既存の作業を基盤とし、開発途上国がこれらの透明性基準を実施できるよう支援を提供します。

 

g) 開発途上国が国際課税協力の恩恵を受けられるよう、需要に基づいた技術支援と能力構築プログラムを提供する。

 

h) 多くの国が第二の柱の実施において進展を見せていることを踏まえ、経済協力開発機構(OECD)/20カ国・地域(G20)の税源浸食と利益移転に関する包摂的枠組みに対し、他の国際機関と協力し、関心のある法域に対し国別に特化した技術支援を提供するよう要請します。

 

i) 持続可能な開発のための資源動員のため、グローバル連帯税の形態を含む革新的な税制の導入を検討し、各国に対し自主的な適用を呼びかけます。

 

【最終ドラフト】

II. A. Domestic public resources

 

28. 国際租税協力を強化し、国際課税ルールがすべてての国、特に開発途上国の多様なニーズ、優先事項及び能力に応えることを確保するため、以下の事項を実施する。

 

a) 我々は、国際租税協力が完全に包摂的かつ効果的であり、すべての国に恩恵をもたらすことを確保することにコミットする。我々は、国際課税構造における開発途上国の発言力と代表性を強化することを決意する。我々は、国際租税協力枠組みが開発途上国に与える影響を慎重に分析し、公平な利益を確保し、開発途上国特有の課題に対処することの重要性を強調する。

 

b) 我々は、国際租税協力に関する国連枠組み条約及びその議定書に関する交渉に引き続き建設的に関与し、そのプロセスへの支持を奨励する。

 

c) 我々は、国際税務に関する各国税務当局間の包摂的な協力と対話を促進し、国連国際租税協力専門家委員会(その小委員会を含む)の活動に感謝の意をもって留意する。

 

d) 我々は、OECD/G20税源浸食・利益移転に関する包摂的枠組みの第二の柱の継続的な実施を認識する。この柱は、大規模多国籍企業が事業を展開するそれぞれの国・地域で生じる所得に対し、最低限の税率を支払うことを確保することを意図している。我々は、関心のある加盟国に対し、要請に応じて、第二の柱に基づくグローバル税源浸食対策モデルルール及び課税対象ルールの実施について、国別に特化した技術支援を求める。

 

e) 我々は、多国籍企業を含むすべての企業が、国内法及び国際法・政策に従い、経済活動が行われ価値が創造される国の政府に納税することを確保する。

 

f) 我々は、特別な状況にある国々が直面する課題を認識しつつ、税の透明性を高めることにコミットする。我々は、データ保護と情報セキュリティを確保しつつ、能力開発支援の強化や特別な配慮を含め、開発途上国による基準の実施を支援する。我々は、国別報告書のための中央公開データベースの構築の更なる評価を含め、必要に応じて、多国籍企業の国別報告の強化に取り組む。

 

g) 我々は、実質的所有者の透明性の向上と実質的所有者情報交換に関する協力の強化にコミットする。我々は、国際基準に適合した、高品質かつ標準化された情報を備えた効果的な国内実質的所有者登録簿を実施する。我々は、各国実質的所有者登録簿間の情報交換メカニズムを強化し、世界的な実質的所有者登録簿の実現可能性と有用性を検討する。これらの全ての努力において、我々は既存の取組を基盤とし、知識とベストプラクティスの交換を促進し、開発途上国がこれらの透明性基準を実施できるよう支援を行う。

 

h) 我々は、開発途上国が国際租税協力の恩恵を受けられるよう、需要に基づく技術支援及び能力構築プログラムを提供する。

 

※写真は、6月17日最終ドラフトが満場一致で採択された瞬間。ジョセフ・スティグリッツ教授が共同代表を務めるICRICT(Independent Commission for the Reform of International Corporate Taxation)のXより。

開発のための資金:国際租税枠組み条約、SDRスキーム>フォーラム総会に向けて

来る6月29日(日)、グローバル連帯税フォーラムの第15回総会が開催されます。開催にあたって簡単にご挨拶を述べさせていただきます。

 

               グローバル連帯税フォーラム・代表理事 田中 徹二

 

■ グローバル化の行き過ぎ、自国第一主義・ポピュリスト勢力の伸張

 

「富裕層がさらなる富を築き、それ以外がさらに困窮するという二極化した経済において、現在、あまりにも多くの人々が繁栄を逃している。この分断が(トランプ政権の)保護主義政策の台頭を助長した…。資本主義は機能する。ただ、あまりにも少数の人々にとってだ」と述べたのは、世界一の米資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOです(*)。グローバル化の最前線にいる人の明け透けな物言いです。

 

経済のグローバル化が行き過ぎた結果、先進国においては中間層がやせ細り富裕層と大多数の取り残された人々というように格差が拡大してきました(米国で顕著な事態に)。このことはすでに2016年の米トランプ第1次政権の誕生(就任は翌年1月から)や英ブレグジット(EUからの離脱)の時に散々指摘されてきたことですが、以降も格差が拡大し続け、米国ではトランプ第2次政権が生まれ、欧州では極右・ポピュリスト政党がいっそう台頭してきました。

 

■ 先進国による途上国援助の停止(米国)と後退(欧州)

 

一方、途上国においては一部新興国の台頭はありつつも、新型コロナ禍等から債務危機に見舞われ、貧困・飢餓、そして難民・避難民が拡大しています。

 

トランプ政権の高関税を武器にした米国優先主義は世界中で軋轢を生じさせていますが、とくに看過できないのは、突然米国際開発庁(UNAID)を実質的に解体し、国際援助のほとんどを一時停止したことです。この結果、食糧や医療支援の停止で百万人単位での犠牲者を生ずる恐れが出てきています。実際、6月5日国連総会でエイズ対策についての会議が開かれ、その場で「米がエイズ支援停止の場合には4年後までに死者が400万人増となる」と報告されました(**)。

 

また、ODA優等生であった欧州でも、英・仏・独などがODA削減に踏み切りました。主要国がこぞって国際協調よりも自国優先や地政学を重視する傾向となり、途上国の危機はいっそう厳しくなりそうです。

 

■ 排外主義が拡大する中での途上国支援、フォーラムの二つの方針

 

日本国内においては、超円安以降の物価高騰とくに食料品高騰が続き、他方賃金アップがそれに追いつかないことにより国民生活は苦しいものになっています。こうした背景から、現役労働者の間に、高齢者や在日外国人等に対しての分断・排外主義的思考がSNSを通じつつ拡大しています。

 

このような情勢の中で、私たち途上国援助・国際協力としてのNGOの役割は何でしょうか? 当フォーラムは、(前身の団体活動含め)20年近く国際(グローバル)連帯税の実現を目指し活動してきました。しかし、今日日本の世論においても、欧米の風潮と同じように「途上国にカネを使うな、(困っている)国内の自分たちに使え」という声が大きくなりつつあります。こうした中で、一国内で連帯税実現は厳しいものがあるものの、フォーラムとしては国際的な包括的かつ持続可能な税制を求める「国際租税枠組み条約」の取り組みと連動して実現を図っていきたいと考えています(個々の税制は議定書で実現していく)。

 

とはいえ、上記枠組み条約が承認されるのは2017年9月以降となりますので、その間途上国援助のための資金調達を何としても見出さなければなりませんが、そのひとつが先進国では流動性や外貨準備としてほとんど未使用状態にあるIMFのSDR(特別引出権)です。SDRは外貨準備に積まれていますが、日本では本年4月末現在で600億ドル(約8.6兆円)も有しています。ちなみに外貨準備全体では1兆2,983億ドル(約186兆円)もあります(***)。もし積み上がっているSDRを途上国支援に使用しても、国庫の一般会計から拠出するわけでも、新税を制定するわけでもないので、抵抗なく実施できるのではないでしょうか。ということで、この資金調達スキームにもチャレンジしていきたいと考えています。

 

(*)【日経新聞】米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極化が助長」
(**)【NHK】“米がエイズ支援停止の場合 4年後までに死者400万人増”国連
(***)【財務省】外貨準備等の状況(令和7年4月末現在)

 

 

info:g-taxセミナー:国際租税枠組み条約交渉の振り返りと今後の取り組み

 

  ◎日時:2025年6月29日(日)午後2時30分~3時30分(延長の可能性あり)
  ◎場所:Zoomで開催
  ◎参加申込:gtaxftt@gmail.com まで。後ほどリンクを送ります。
  ◎参加費:無料
  ◎提案者:金子文夫(グローバル連帯税フォーラム/横浜市立大学名誉教授)

第4回開発資金国際会議(FfD4)に関する提言書を提出

当フォーラムもアドバイザー団体として参加している「開発・気候資金アドボカシープロジェクト」は、6月30日~7月3日スペイン・セルビアで開催される第4回開発資金国際会議(FfD4)に関する提言書を、外務省に対して5月20日に提出しました。

 

FfD4に向けては、成果文書となるゼロからファーストドラフトまで提案されていますが(*)、当然ながら開発資金会議は途上国のための資金会議ですから基本的に途上国側の利益に立って書かれています。ところが、米国トランプ政権はここでも種々の言いがかりをつけブレーキ役を演じています(**)。

 

 

           外務省地球規模課題審議官組織 中村亮 地球規模課題審議官 
                          安藤重実 地球規模総括課長

 

    第4回開発資金国際会議(FfD4)に向けた政策提言

                              2025年5月20日
                   

 

                    開発・気候資金アドボカシープロジェクト

                       共同実施団体:アフリカ日本協議会
                             国際協力NGOセンター

                  アドバイザー団体:アジア太平洋資料センター
                           グリーンピース・ジャパン
                          グローバル連帯税フォーラム
                       セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン
                         ワールド・ビジョン・ジャパン

 

 2025年6月30日から7月3日までスペイン・セビリアにて開催される第4回開発資金国際会議(The 4th International Conference on Financing for Development、以下、FfD4)に向けて、本プロジェクトの共同実施団体およびアドバイザーは以下の提言を行います。なお、本提言は必ずしもすべての団体の見解を反映しているわけではありません。

 

1. 原則

 

FfD4は、国連加盟国が合意した持続可能な開発目標(SDGs)を含む2030アジェンダの達成期限まで残り5年となるタイミングで開催されます。

 

国際社会は自国優先主義の潮流が席巻しつつあるように見えますが、一国だけでは解決できない複合的危機の中で、多国間でルールを形成し、それを尊重することが、一国主義的な潮流を克服する上でも重要になっています。また、グローバルサウスの国々が経済力・政治力を高める中で、これまでのグローバルノース主導の国際秩序は揺らいでおり、グローバルサウス諸国が公正かつ対等に参画する形で、新たな国際秩序を形成していくことも重要です。現代の開発や環境をめぐる多国間交渉で見られる厳しい南北対立は、過去の不公正な歴史の清算という観点からみれば必然的なものでもあります。日本は、そのおかれた地政学的な状況に鑑みても、自国優先主義に偏することなく、多国間主義を堅持し、グローバルサウス諸国の対等な参加に基づく、より公正で調和的な新たな国際秩序の形成に向けて対話によるルール形成に主導権を発揮することが、その国益にもかなうと考えます。開発資金会議プロセスは、その重要な柱の一つであり、日本として、国際益と国益の双方をにらみながら、粘り強い対話によって克服していくことが必要です。

 

私たちは、この国際状況にあっても、「自発的国家レビュー」(VNR)にあたって日本政府が示している「ぶれずにSDGs達成を目指して取り組んでいく」「誰も取り残さない、誰もがイノベーションの担い手になりうる日本・世界を」という決意を強く支持します。FfD4は、世界全体でSDGsを達成することをめざし、資金ギャップを埋め、国際財政構造をより公正なものにすることを目的とした、多国間の協力の仕組みやルール作りを目指すものです。日本政府には、ぜひとも交渉にて、グローバルサウス諸国の主張を踏まえてリーダーシップを発揮し、成果を出すべく尽力していただけると幸いです。

 

特に、これまで開発資金や債務問題などを主要に扱ってきたいくつかの機構や枠組みは、歴史的に先進国が主導権を握る形で設置・運営されているのが現状ですが、国連開発資金会議プロセスは、国連加盟国が対等な立場で参加し、また、市民社会やその他のステークホルダーも意見を表明できる、より民主的なフォーラムとなっています。私たち市民社会は、この点で、開発資金や債務問題等の多国間での多国間の交渉やルール作りについては、この会議プロセスを含む国連の枠組みが中心になるべきだと考えています。

 

私たち日本のNGOは、グローバル・サウス(南側)諸国の市民社会との連帯のもとに活動を行っています。私たちは日本政府に対して、公平・平等・持続可能性といった観点を踏まえ、グローバル・サウス諸国の主張を聞き、成果に反映させることを強く要望します。開発途上国の経済・社会状況が改善することは、日本が進める「人間の安全保障」の達成により近づくと確信します。

 

2. 開発資金

 

世界経済危機以降、途上国への投資や巨大新興国の資源需要の伸びなどを要因として好景気となった途上国は、経済開発に多額の資金が投入され、これらの国々も債券を発行して経済開発のための資金を確保していきました。ところが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)危機と、その後のインフレ・物価高、さらにこれを抑制するための利上げなどが重なり、これらの国々は債務危機に陥り、債務不履行を宣言する国も多く出現しました。現在、これら債務危機への取り組みがパリ・クラブ等を中心になされているものの、様々な困難のために進まず、これらの国々の多くは債務返済のために教育や医療、気候変動対策などに十分な資金を回せない状況となっています。

 

同時に、SDGs達成に向けた最も大きな課題の一つが開発資金ギャップであり、SDGs達成のために必要とされる費用は、以前は年間2.5兆米ドル程度であったところ、COVID-19パンデミックを経て現在は年間4兆米ドルと大きく増加しています。

 

開発資金について、第一義的に先進各国によるODA拠出目標の達成が急務です。日本は「開発途上国に対するODAをGNI比0.7%にする」という目標に対し、2022年は0.39%、2023年は0.44%(2023年)と増加したものの、2024年は再び0.39%に戻り、DACメンバーの中では第13位と、平均よりは高いものの目標にはいまだ到達していないため、2030年までに0.7%に達する道筋を示すことが求められます。また「少なくともGNI比0.20%のODAを後発開発途上国に供与する」という目標に対し、最新の数値は0.12%であり、この達成も求められます。さらに、ODAの増加分の多くは借款が占め、貧困対策や感染症対策に効果的な贈与(グラント)は有意に増加していないところ、グラントの大幅な増加や、DAC定義によるODAのアンタイド化を進めるべきです。

 

この点について、2025年3月10日に発表されたFfD4の成果文書ファーストドラフト(以下、ファーストドラフト)では、

 

31. 国際開発協力の量を増やし、配分を強化するために(原文:To increase volumes and enhance allocation of international development cooperation)

 

政府開発援助(Official development assistance)

 

・我々は、ODAとして報告されるフローの譲許的性格を維持しつつ、ほとんどの先進国が、途上国に対するODA/GNIの0.7%、およびLDCsに対するODA/GNIの少なくとも0.2%という既存の目標を達成するというコミットメントを含め、ODAの削減を逆転させ、それぞれのコミットメントを拡大・達成するためのあらゆる努力を行うことを決定した。(原文:We decide to undertake every effort to reverse reductions in ODA and scale up and achieve our respective commitments, including the commitment by most developed countries to reach existing targets of 0.7 per cent of ODA/GNI to developing countries, and at least 0.2 per cent of ODA/GNI to LDCs, while preserving the concessional character of flows reported as ODA.)

 

・我々は、いくつかの国がODAの約束を果たし、いくつかの国がODA目標達成のための具体的で拘束力のある期限を設定したことを評価する。われわれは、他の国々にも同じことを求める。(原文:We appreciate that some countries have fulfilled their ODA commitments, and some have set concrete and binding timeframes for achieving ODA targets. We call on others to do the same.)

 

 

と記載されています。0.7%目標および0.2%目標を達成するための具体的かつ拘束力のあるタイムフレームを設けている国もあり、「我々は、[…]他の国々にも同じことを求める」とありますので、日本政府も、期限を区切ったODAの増額目標を打ち出すべきです。

 

3. 気候資金・環境アジェンダ

 

国際的な気候資金の不足が叫ばれる中、気候資金の拡充に向けた議論が気候変動枠組み条約(United Nations Framework Convention on Climate Change、以下、UNFCCC)を中心に行われてます。一方、気候資金の不足の根本的な原因は、UNFCCCの範囲に含まれていない根本的な問題である、国際資金構造(IFA)の中での不平等な仕組みにあり、その解決なくしては、気候変動課題の解決にはありえません。そのため、国際資金構造における途上国の代表制の不在を解消することが必要です。

 

国内資源動員(特にパラ22)に関しては、財政ルール及び政策全体を通して、環境及び気候保護の要請を公平な方法で主流化することを奨励すべきです。国際課税ルールは、国連租税枠組条約に向けた交渉の一環として、経済、社会、環境の3つの側面における持続可能な開発の達成に、均衡のとれた統合的な形で貢献すべきです。環境に有害な補助金は、開発途上国及び影響を受ける人々やコミュニティの具体的なニーズと状況を十分に考慮し、段階的に廃止されるようすべきです。一方、環境汚染を行う多国籍企業に対しては、世界的な利潤への追加税という形で連帯税を課し、UNFCCC及び生物多様性条約に基づくグローバルな資金調達義務に充当すべきです。

 

パラ34(a)では、UNFCCCの目的のみが言及され、原則について触れられていません。確かに時代は以前とは異なったものになっているものの、依然として歴史的に責任がある国の排出量は、非常にわずかな一部の発展途上国を除いて途上国のそれよりも圧倒的に多いのが現状です。「共通だが差異ある責任」(common but differentiated responsibilities / CBDR)を含めて、バランスのとれた表現にすることが求められます。

 

パラ34(d)に記述されている「ODAと気候変動資金について報告する際の一貫性と透明性を強化し、開発と気候に関する資金のインパクトをより適切に測定するため、総会の後援の下、政府間作業部会を設置するという提案を維持する」という条項を支持し、合意に含めてください。特に、気候資金として計上されているODAには、気候変動対策にほとんど貢献しないものも含まれていたりするなど、その計算方法には問題があります。透明性を向上させるべきです。

 

パラ34(h)の記載は曖昧かつ、民間市場メカニズムに偏重しています。ここでは、開発途上国に対する公的気候資金の提供におけるUNFCCCの資金メカニズムの中心性を強調し、これらから拠出される年間合計金額を2022年の水準から2030年までに3倍にすることにコミットして下さい。

 

貿易に関するパラ39では、デユー・ディリジェンス(Due Deligence、以下、DD)について言及があるものの、先住民や地域コミュニティに対する自決権の尊重や、環境保護についての言及がまったく不十分です。DDについては、「人権DD」と「環境DD」のように明記するとともに、その土地を所有したり、そこにすむ人々の自決権を尊重することを明記すべきです。

 

4. 国内資源動員・国際課税

 

国内資源動員の観点から国際協調による税の衡平性と富の再分配が求められる中、2024年11月、国連租税枠組条約の骨子案は125か国の圧倒的多数をもって採択されました。しかし、日本は税制に関する広範なコンセンサスが反映されていないことなどを理由として、反対票を投じています。この点について、ファーストドラフトでは、

 

23. 国際租税協力を強化し、国際租税規則がすべての国、特に発展途上国の多様なニーズ、優先事項、能力に対応できるようにする。(原文:To strengthen international tax cooperation and to ensure that international tax rules respond to the diverse needs, priorities, and capacities of all countries, especially developing countries:)

 

• 我々は、国際的な租税協力が完全に包括的であり、全ての者にとって有益であることを確保することを約束する。我々は、国際的な租税構築における途上国の発言力と代表性を強化することを決意する。我々は、国際的な租税協力の枠組みが開発途上国に与える影響を慎重に分析し、衡平な利益を確保し、開発途上国特有の課題に対処することの重要性を強調する。(原文:We commit to ensure that international tax cooperation is fully inclusive and beneficial to all. We resolve to strengthen the voice and representation of developing countries in the international tax architecture. We emphasize the importance of careful analysis of the implications of international tax cooperation frameworks for developing countries, ensuring equitable benefits and addressing their specific challenges.)

 

• 我々は、国連国際租税協力枠組み条約とその議定書に関する交渉を引き続き支持し、建設的に関与していく。(原文:We will continue to support and engage constructively in the negotiations on a United Nations Framework Convention on International Tax Cooperation and its protocols.)


と記載されています。また、国連租税枠組条約の交渉に建設的に関わることも表明されています。公平な税制を確立するために、日本政府はこのファーストドラフトによる提案にある通り、国連租税枠組条約交渉に関して各国との交渉を続けるなど、積極的な関与が求められます。

 

開発に関する追加的資金の観点からは、航空券連帯税や金融取引税などの国際連帯税により、国際的に公的資金を捻出し、社会課題に投資することが極めて重要です。2020年の「SDGsの達成のための新たな資金を考える有識者懇談会」では、航空券税に関しては「国際航空事業が正常化した段階で再考すべき」とされましたが、その後も具体化に至っていません。世界の富の配分の逆進性が高まり、貧困・格差が加速している現在、所得税や法人税の累進化を強め、税と社会保障による所得再分配機能を上げる必要があります。

 

「開発資金が大きく不足している現状で、これに対応しギャップを埋めるという観点からは、国際開発金融機関(MDBs)の改革、迅速な債務救済を行い重債務状況にある国を返済負担から解放すること、また、途上国の多くが重債務・気候危機など複合的危機にあることを踏まえ、これらを克服するために、今一度、SDR(特別引出権)の再配分を行い、その多くを低所得国や下位中所得国に再分配することによって、これらの国々において十分な資金流動性を確保し、資金アクセスの向上、必要な開発資金や気候資金の確保を実現することが必要です(詳細は、次節「5.債務持続可能性、国際財政構造の変革」参照)。

 

OECDで国際課税への合意はなされましたが、収益構造のグローバル化により、各国の税源が浸食され、また、グローバルな利益移転により超富裕層らが各国の徴税を逃れて資産を蓄積するという現象はいまだ改革されていません。その中で、グローバルに利益を得る超富裕層の資産は膨れ上がり、2024年現在、世界トップ10位の資産家の資産合計額(240兆円)は世界のODA総額(34兆円)の7倍に達しています。一方で、先進国を含め、各国は本来、各国の社会・経済開発や気候変動対策、債務の解消などに活用できるはずの公的資金をみすみす喪失する状況にあります。こうした問題を解決するには、グローバルな税源浸食や利益移転の結果として巨額な資産を築いている超富裕層への適切な課税制度は不可欠です。これは、国際課税と各国での富裕層課税の双方によって達成される必要があります。

 

この点について、ファーストドラフトでは、

 

22. 各国が必要な資源を確保し、それが透明性をもって持続可能な開発に沿った形で集められ、使われるようにする。(原文:To ensure that countries have the necessary resources, and that they are collected and spent transparently and in alignment with sustainable development:)

 

財政制度と持続可能な開発との整合性(Alignment of fiscal systems with sustainable development)

 

e) […] 我々はまた、国家主権を尊重しつつ、国際協力に支えられ、累進的な税制と富裕層への課税を促進・強化する。(We will also promote and strengthen progressive tax systems and the taxation of high-net-worth individuals, supported by international cooperation, while respecting national sovereignty.)



と記載されています。

 

しかし、日本政府が2025年の所得分から適用している「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化のための措置」については、「税負担の公平性の観点」からのみ導入されており、気候変動や貧困・格差対策などの地球規模課題に使われるわけではありません。グローバル・サウス諸国が求める地球規模課題への対処にも、これらの税収が使われるべきです。

 

5. 債務持続可能性、国際財政構造の変革

 

多くの国が深刻な債務危機に陥っており、対外債務の支払額は過去30年間で最高水準に達しています。FfD4において、現在の債務危機を公正・迅速かつ有意義な方法で解決し、透明性と責任ある貸借ルールを通じて将来の危機を防止するような財政構造を構築することが不可欠です。

 

この点で、ファーストドラフトでは、

 

43.[…]国連において政府間プロセスを開始し、債務構造のギャップを埋めるとともに、多国間ソブリン債務メカニズムを含みつつ、これに限定されない、債務の持続可能性に対処するための選択肢を模索する。(原文: […] we will initiate an intergovernmental process at the United Nations, with a view to closing gaps in the debt architecture and exploring options to address debt sustainability, including but not limited to a multilateral sovereign debt mechanism.)

 

と記述されており、これを歓迎します。

 

これらは、短・中期的な対処療法では解決できない構造的な課題であり、資金拠出の意思決定や実施をめぐる不平等な制度を改革する必要があります。IMF・世界銀行、OECDなど、主要な経済先進国が意思決定の中心を占め、開発資金や気候資金の受け手である途上国の意見が反映されない仕組みは是正されなければなりません。

 

例えば、2024年8月24日と25日に日本で開催されたアフリカ開発会議(TICAD)閣僚会合共同コミュニケにおいて、「我々は、国内外の資金源を動員する観点から、税制システム改革について協力することの重要性を認識した。我々は、アフリカ開発銀行への特別引出権(Special Drawing Rights、以下、SDR)の分配、アフリカの持続可能で安価かつ衡平な資金へのアクセスの促進及び再発する対外債務危機への対応を含め、AUアジェンダ2063及び持続可能な開発目標のためのアジェンダ2030を加速する投資のための資本を動員する緊急性を認識した」と言及されています。アフリカ連合やアフリカ諸国は、2023年9月にも「アフリカ気候サミット」を開催し、気候危機に対処するためのSDRの新たな配分などを含め、必要な資金確保を積極的に主張しています。日本を含む先進国はこれを支持し、実現に向けて取り組む必要があります。

 

SDRの配分および途上国への分配については、IMF・世界銀行でも議論が進んでおり、脆弱国の財政再建や気候適応資金への活用が期待されています。日本政府は、これまでもG7諸国の中でも積極的にSDRの活用などに取り組み、アフリカ開発銀行を通じたSDRの分配に積極的に取り組み、他のG7諸国にも同様の動きを呼びかける必要があります。

 

特に、今日の国際的な危機にあって、日本政府はSDRに関して、次のような政策を国際的に呼びかけるべきです。
 

◎ IMFによって2021年に6,500億ドル相当が発行されたSDRについて、 グローバル・ノース(北側)諸国は、この割り当てから、流動性と準備資産を維持しつつ、迅速に50%以上をチャネリングすること。

 

◎ 途上国の流動性と債務危機への対処を支援するための新たなSDRの発行を検討すること

 

日本政府は流動性と準備資産を十分に有しているので、これまでの40%のチャネリングに加えて、残りの60%(238億ドル相当)をチャネリングすることが可能です。

 

(以上)

 

(*)FfD4のHP参照: https://financing.desa.un.org/ffd4 

 

(**)【ロイター通信】米、開発資金巡る改革案に反対意向=国連会議草案文書

https://jp.reuters.com/markets/commodities/XIWBVQ3N6NO75NS25PJBGEEWEU-2025-05-05/

 

「米国が課税や化石燃料補助金、信用格付けといった項目に反対。トランプ政権が『米国第一主義』を掲げる中、『気候』『ジェンダー平等』「持続可能性』といった記載を削除することも求めている。」

 

 

【資料】SDGsに関する自発的国家レビュー(VNR)への意見

SDGsロゴ

 

外務省が「持続可能な開発目標(SDGs)に関する自発的国家レビュー(VNR)」についてのパブリックコメントを募集しましたので、提出しました(4月18日)。

 

外務省案はこちら

 

◎ コメントの主旨:

 

公的な開発資金調達を図るということで、国際連帯税のことはもとより、SDR(特別引き出し権)や円借款の利子の利用ということも提案しました。

 

SDRについては外貨準備として585.4億ドル(約8.5兆円)も保有されています。外貨準備全体としては1兆2,725億ドルもありますので、SDRはあってもなくても大勢に影響はありません。従って、SDRは途上国支援に回せと。なお、昨年の自民党の総裁選挙で当時の茂木幹事長も溜まりすぎた外貨準備金を利用しようと言っていましたが、今やいろんな政党の人が目を付けています。

 

円借款の利子は、額は多くはありませんが、1兆2,000億円程あります。これに財務省からの出資金8兆円と合わせて自己資本と言っています。この1兆2,000億円(の一部)を無償資金の方に使うべきという提案です。ご承知のように、円借款とは有償資金(ローン)で日本のODAの70%近くを占めていて、結局利子が生じそうなところに融資しています(内容は圧倒的にインフラ整備)。従って、アフリカ等のLDCs(後開発途上国)にはほとんど融資されていません。以下、提出した意見です。

 

 

SDGsに関する自発的国家レビュー(VNR)への意見書

 

意見:

 

(全般)

 

2030年に向けてのSDGs達成がきわめて困難な状況にあることをまず確認しましょう。それは、第一に、新型コロナウイルス・パンデミックやロシア・ウクライナ戦争などの地政学的危機を経て、SDGs達成の折り返し時点の2024年においても、その進捗状況が15%程度という危機的状況にあったこと(「国連未来サミット」)、です。第二に、今年に入り、米国トランプ政権が米国際開発庁(USAID)を実質的に閉鎖し、世界中での食料や医療支援などの人道援助を極めて困難にし、その上に「SDGs拒否」を表明したこと、です。加えて、欧州の国際援助有力国が遺憾なことにODA拠出を削減し始めました。

 

こうした状況から、私たちはSDGs達成の危機的事態を確認するとともに、しかし「一人も取り残さない」という理念にもとづき厳しいながらも前進を図っていかなければなりません。

 

SDGs達成危機の最大の要因は、途上国での取り組みの停滞と後退にありますが、何よりも開発資金の不足によるものです。つい昨年まで、その資金ギャップは年間4兆2000億ドルと試算されていました。一方、世界のODA資金はトータルで2,121億ドル(2024年)であり、一桁も足りません(しかも、多くをウクライナ支援に拠出)。

 

そこでこのギャップを埋めるべく、国連は資金調達の手段として、「政府開発援助の目標の達成、民間セクターの投資、国内リソースの動員、包摂的かつ効果的な国際租税協力、富裕層に対する国際的な最低課税水準の検討など」(「未来のための協定」より)を提言しました。このような提言をどう具体化していくか考えていきます。

 

(重点事項④:国際社会との連携・協働)

 

● 世界銀行や主要援助国はもっぱら民間セクターの投資(民間資 金の動員)に力点を置いていますが、最も必要としている国や   セクターに届いていないという現実があります。それは「…民間資金の動員は、ほとんどが中所得国で、銀行・金融サービス、エネルギー・産業、鉱業、建設など、収益源が明確なセクターで行われている」(OECD/UNDP、2021年)からです。

 

 ● 債務危機に陥っている国や気候脆弱国等、最も資金を必要としている国やセクターにはやはり公的資金が必要です。その第一歩はODA資金であり、我が国は財政的に困難な中で削減を行っていないことは多としますが、しかし国際目標からほど遠いことを反省しなければなりません。すなわち、2023年時のODA拠出は、GNI比0.7%目標に対して0.44%(2024年0.39%)、LDCs向け目標GNI比0.15~0.20%に対してわずか0.09%に留まっています。毎年目標を掲げるだけではなく、目標実現のための工程をきちっと打ち立てるべきです。

 

 ● 我が国のODAのあり方の抜本的改革が必要です。開発協力大綱の改定において、重点政策として「人間の安全保障」の理念を踏まえ、脆弱国・地域等への協力に取り組みつつ、SDGs達成に向けた取組を加速化すると謳っていますが、ODAの主力は円借款(有償援助)であり全体の63.0%を占めており、無償援助=贈与は36.1%です(2022年)。円借款方式ではプロジェクト実施後、元本と利子を返還してもらわないとなりませんが、いくら利子が一般の金融市場より低いとはいえ、一定利益を得ていなければ返還は可能ではありません。このことがLDCs向けがわずか0.09%に留まっている理由と思われます。脆弱国・地域等への協力はやはり無償援助資金でなくてはなりません。

 

 ● さらに、円借款融資の地域の極端な偏りです。承認額で見ると(全体で2兆1,258億円)、アジアが77%、アフリカが1.2%、残高でみると(全体で1兆4,207億円)アジアが76%、アフリカが4%となっています(2023年)。本当に開発資金を必要としているサブサハラ諸国など債務危機に見舞われている国への援助を、地域を超えて増やすべきです。

 

(開発資金)

 

● 援助国においてはどの国も財政が厳しく、公的資金としてのODAを飛躍的に増加させることが困難であること、また民間資金の動員も期待できないことから、革新的な資金調達メカニズムを考えるべきです。

 

 ● ひとつは、国際連帯税方式です。もっとも実施が容易なのは航空券連帯税である。実際フランスや韓国、チリ等が実施し、連帯税ではないが航空券税はほとんどの国で実施されています。我が国では出国税として国際観光旅客税が実施されているので、入国税として実施すべきです。また、株式取引税としての金融取引税も有力です。連帯税ではないが、30数か国で実施されています(我が国でもかつて有価証券取引税として実施されていた)。

 

● ふたつは、国際条約を使っての国際連帯税の実施で、現在「国際租税枠組み条約」の議論が始まっていますが、この条約下の議定書において、超富裕層への課税や為替取引税としての金融取引税、などが考えられます。

 

 ● みっつは、SDR(特別引き出し権)の利用です。2021年にIMFは貧困国へのSDR再配分を決め、我が国は当初の20%から40%に引き上げ159億ドル分を拠出し、国際社会から評価されました。ところで、我が国の外貨準備を見ますと、総額は1兆2,725億ドルですが、うちSDRは585.4億ドル(約8兆4,883億円)あります(2025年3月末現在)。つまり、総額の5%程度です。従って、このSDRの585.4億ドルをそっくり途上国への援助に使っても外貨準備という枠から見れば大勢に影響はありません。毎年4,000億円をODAにプラスしても21年拠出が可能です。

 

● よっつは、円借款で生ずる利益金の無償資金への繰り入れです。有償資金協力勘定を見ますと、準備金として表記されている利益金は1兆2,554億円あります(26年度9月末)。金額的にはそう多くはありませんが、利益金の一部をまた円借款使うのではなく、無償資金に使うようにすべきです。

 

                  グローバル連帯税フォーラム・田中徹二

 

バフェット氏の納税の勧めとフランス議会での超富裕層への課税採択

 3人組

 

ウォーレン・バフェット氏(94歳)が週末発表した「株主への手紙」で納税の重要性と(遠回しながら)米政権を批判していることが話題になっています。他方、フランスでは国民議会(下院)で超富裕層への課税を採択しました。

 

■ バフェット氏、トランプ政権の「愚かな財政政策」等をやんわり批判

 

2月25日の日経新聞弟子版に『バフェット氏が異例の政治発言 通貨安定を要望』という興味深い記事が配信されていたので、簡単に紹介します。

 

バフェット氏とは、言うまでもなく、世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハサウェイの筆頭株主であり、同社の会長兼CEOを務める大富豪ですが、60年前に会社を興して以降バークシャーの税金は1016億ドルに上り、「税金をまったく支払えなかった恥ずべき時期もあった」と述懐。「税金を払えないことは『華やかな新興企業とは異なり、米経済の柱を支える企業にとっては黄信号だ』と指摘。巨額の税金を払うバークシャーの成功を誇った」と記事は述べています。

 

その上で、トランプ大統領の富裕層を含めた減税政策等に対し、「『愚かな財政運営がまん延すれば紙幣は価値を失う。米国でも危機にひんしている』『通貨の安定にはあなた方の知恵と用心が必要なことを決して忘れないで』」と述べています。

 

内外に傍若無人な振る舞いを行っているトランプ政権ですが、富裕層への大減税や関税強化等の「愚かな財政運営」でよりひどいインフレ・物価高を招来し、足元から政権弱化を招くのではないかと思われます。

 

フランス国民議会(下院)、超富裕層への課税を採択!!

 

2月20日フランス国民議会(下院)はエコロジー党などの議員が提出した超富裕層への課税、通称「ズックマン税」案を、116票の賛成、39票の反対で採択しました。これが可能となったのは会派第一勢力である極右の国民連合(RN)が棄権したという背景があったようです(それにしても議員定員が577人なのに、どうしてこんなに投票者が少なかったのか?)。

 

このズックマン税とは、経済学者ガブリエル・ズックマンの提案に基づいて、「1億ユーロ以上の資産を持つ納税者の最も裕福な0.01%に対して、資産の少なくとも2%を税金として支払う富裕税の最低額を設ける」法案で、約1800人が対象となるようです。そして税収は150億から250億ユーロ(約2.3~3.9兆円)に上ると試算されています。ただし、実現の可能性ですが、上院では右派が多数なので否決されると予想され、かつ憲法評議会での関門もあるということで、かなり困難ということです。

 

それでも、「これは歴史的な勝利だ! フランスにとって大きな第一歩であり、他の国々にも刺激を与える可能性がある」(ズックマン氏)、「勝利!超富裕層の富に2%の課税を導入する私たちの法律案が国民議会で採択されました」(提案者の一人のクレマンティーヌ・オータン氏)と意気は高いようです。

 

超富裕層への課税については、昨年のG20リオデジャネイロ・サミットで提案し、これにフランス、スペイン、南アフリカ等も賛同したという経緯があります。ですから、フランスのマクロン大統領の与党は積極的にズックマン税に賛成すべきですね。日本でも超富裕層は少ないながらも100億円以上の資産を持つのは多くて1000人程度おられるようです。

 

※写真は、左からバフェット氏、ズックマン税を提案したエヴァ・サス氏、ズックマン氏