欧州FTT:20の作業部会での詰め進む=5月国際電話会議報告

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4月の電話会議報告の時、「本日欧州11カ国財務大臣会合>金融取引税実施の合意なるか?」とお知らせしましたが、結局この日にまでは合意ができず、引き続き11カ国は20もの技術的問題に関する作業部会を組織し、合意に向けての議論を行っています。

 

そういう中で5月14日に行われた市民社会側の国際電話会議の報告が来ましたので邦訳し、お知らせします。

 

要点をまとめます。1)欧州情勢は、「6月19日のECOFIN(経済・財務相理事会)時に少なくとも今後の枠組みといった、何らかの発表がある見込み」とのことです【注:この電話会議後、欧州のNGOより「公式発表は7月になされる可能性もあり」との報告が来ている】。作業部会の到達点については一覧表を参照ください。

 

2)米国でも、とくに来年の大統領選挙に向けてFTT推進グループが活発に動いています。ジョセフ・スティグリッツによるRoosevelt Instituteの報告書「アメリカ経済のルールを書き換える(Rewriting the Rules of the AmericanEconomy)」が興味のあるところです。

 

3)国連開発資金会議(FfD)プロセスについては、米国のグループがオバマ大統領へ「FTTの導入を求めつつも、少なくともグローバル・レベルでの導入に向けた動きを妨げるべきではない」とするレターを起草したとのこと。【注:この電話会議の直前に成果文書に向けた第2ドラフトが出され、やや表現が弱くなったもののパラグラフ60でFTT含む革新的資金メカニズムについて明記された⇒しかしその後の政府間交渉で米国とG77がグローバルタックス、とくにFTT記述を削除するように求めてきた】

 

では、5月のFTT市民社会側の国際電話会議の報告をお読みください。

 

FTT市民社会側の国際電話会議の報告を読む⇒ PDF

 

※その他情報:仏独がG7で途上国の温暖化対策のための資金支援の拡充を提案か

 ⇒フランスのNGOによれば、金融取引税もオプションに入る可能性ありとのこと

 

日経新聞】仏、途上国の温暖化対策拡充をG7に提案へ 独とともに 

 

◆写真左は第3回開発資金国際会議の国連のロゴ、中央はドーハCOP18(2012年)でFTTを求める各国のNGO

 

 

(ご案内)グローバル連帯税を知ろう!~国連での議論と意義について~

 

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今年2015年は、持続的な開発問題と気候変動問題できわめて重要な国際会議が開催されます。それに向け、グローバル連帯税フォーラムは「グローバル連帯税(革新的資金メカニズム)」を軸に下記のようなキャンペーンをはじめます。その第1弾が6月8日の勉強会です。

 

 

     ポスト2015開発アジェンダとグローバル連帯税キャンペーン/NO.1
   グローバル連帯税を知ろう!~国連での議論と意義について~

 

◎日 時:2015年6月8日(月)午後6時30分~8時30分
◎場 所:日本リザルツ・会議室
     (東京都千代田区霞が関3-6-14 三久ビル503)
     地図:http://resultsjp.org/about/access 
◎講 師:田中徹二(グローバル連帯税フォーラム代表理事)
     上村雄彦(横浜市立大学教授)

◎主 催:グローバル連帯税フォーラム

◎申込み:次のアドレスから、「勉強会希望」とお書きの上、お名前、所属(あれば)とともに申込みください。
     info@isl-forum.jp
◎参加費:無料

 

今年2015年は、持続可能な開発・貧困問題や気候変動問題という地球規模課題について大きな転換点をなす年です。9月には国連において、ミレニアム開発目標(MDGs)に替わり、2030年を射程に入れたポスト2015開発アジェンダ(新目標)が採択されます。また、11月末から国連気候変動会議(COP21)が開催され、2020年以降の気候変動・温暖化対策の世界的な枠組みが決められます。

 

これらの会議の中心的議題の一つは資金問題です。現在、7月アジスアベバで行われる第3回開発資金国際会議に向け、国連で議論が行われています。しかし、圧倒的に資金が足りません。援助国はどの国も財政的に厳しく伝統的援助資金のODA(政府開発援助)を増やす傾向にはありません。とくに国際目標であるGNI(国民総所得)比0.7%の拠出という観点からみますと、米国や日本は0.2%を下回っており、援助国トータルでも0.29%というたいへんお寒い状況です(2014年)。

 

そこでもうひとつの公的援助資金として期待されているのが革新的資金メカニズムの有力スキームである「グローバル連帯税」です。すでに航空券に少額の税を課す「航空券連帯税」が10か国で実施されています。また欧州は2016年1月から11カ国で実施予定の「金融取引税」の一部を開発・気候変動資金として拠出する方向で議論が行われています。新しい公的資金としてグローバル連帯税の出番と言えます。

 

こうした状況から、私たちは日本政府に対して、《世界規模での新たな資金調達のために国際会議の場でグローバル連帯税を議題として提案する》ことを求めてキャンペーンを行っていきます。

 

このキャンペーンの第一歩として上記の通り勉強会を開催しますが、グローバル連帯税についてのABCを含む、意義と可能性について学んでいきます。また、この考え方が国際社会並びに国連レベルで議論されてきた過程についても学びます。ふるってご参加ください。

 

◆写真左はミャンマー・マンダレーの結核病院、真ん中はエチオピアでの結核治療中の風景(どちらもユニットエイド(*)からの医薬品提供で治療しています)

 

(*)ユニットエイド:各国の航空券連帯税を主な原資として、エイズ・結核・マラリア等感染症対策の治療薬や診断薬を提供する国際機関

 

本日欧州11カ国財務大臣会合>金融取引税実施の合意なるか?

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4月21日行われたFTT(金融取引税)に関する市民社会国際電話会合の報告を送ります(日本語)。簡単なまとめと解説です。

 

FTTに関する市民社会電話会合の報告を読む⇒PDF

 

1)欧州情勢について

 

(マスコミではまったく報道されていませんが)本日5月11日、FTT導入予定の欧州11カ国の財務大臣会合が行われ(明日欧州経済・財務相理事会 [ECOFIN] 開催)、実施内容の取り決め合意に至るのではないか、との感触を得ているようです。これまで11カ国で技術的内容について20ほどの技術作業部会が作られ、相当詰めてきたようです。

 

この電話会議報告では触れられていませんが、5月7日付ルモンド紙に、パスカル・カンファン前開発大臣への気候変動・COP21に関するインタビュー記事が載っています。ここで彼は11日の財務大臣会合でのFTT合意を期待しています。

 

Climat : ≪ La question du financement peut faire derailler la COP 21 ≫

  「気候:資金問題がCOP21を脱線させることができる」

 

2)第3回(国連)開発資金国際会議(FfD3)について

 

同資金会議(7月、アジスアベバ)に向けての成果文書に関してですが、3月に草案(ゼロドラフト)が出されまして、そのパラグラフ62に、革新的資金メカニズムとFTTなどのグローバル・タックスについて記述されていました。

 

ところが、これに対し米国が反対し、IMFがこれに追随したことから(G77は支持のようです)、市民社会側は署名要請行動等を配置してアドボカシー活動を強化しようということになりました。

 

●以上が4月21日時点での市民社会側からの報告ですが、アジスの成果文書について、5月6日に第2(改訂版)ドラフトが出されました。これを見ますと、パラグラフ60にゼロドラフトで記述されたものと、ほぼ同じ内容で記述されています。フランスやチリなど「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ(LG)」ががんばったのでしょうか(4月末には市民社会側へのヒアリングがありブラジルのNGOがFTTを強く主張)。

 

◆写真左はパスカル・カンファン前仏開発大臣(ルモンド紙より)、中は米国のロビンフッド・タックス・キャンペーンのデモ(2015年1月)

 

 

子どもの日に「子どもの貧困」を考えなくてはならないとは!=各社の社説より

今日は「子どもの日」ですが、各新聞の社説を見ると、「子どもの貧困」を取り上げている新聞が多いですね。子どもの貧困についてはここ数年問題となってきましたが、昨年厚生労働省は2013年の「国民生活基礎調査」で子どもの貧困率が16.3%に達し(2012年段階)、過去最悪となったことを公表しました。

 

実際、「学校現場では、給食以外満足な食事を得られない子や、医療費を負担できず病院に行けない子も報告されている。放置すれば社会の階層化と格差拡大が進み、子供が将来に希望を持ちにくい社会となりかねない」(14年7月20日付毎日新聞)という懸念が一層拡大してきています。

 

子どもの将来に希望を持ちにくい国というのは、その国の将来に希望を持ちにくいということを物語っています。このままでは少子化とともに確実に衰退していくでしょう。いずれにせよ祝日である子どもの日に子どもの貧困を考えなければならないというのは国として恥ですね。

 

ところで、その対策ですが、「国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩・社会保障応用分析研究部長は『子どもの貧困率は景気がよい期間も上昇傾向が続き、景気対策だけで解決しないのは明らか。教育などを充実させるだけでは不十分。現金給付を増やし、生活苦を和らげて初めて、教育の充実も有効に機能する』と強調」(同上)しています。まさに「税制や社会保障政策の出番」(朝日新聞・社説)ですね。

 

ともあれ、各マスコミの社説を要旨とともに紹介しますが、全文についてもぜひお読みください。

 

 

(社説)子どもの貧困―大人一人ひとりが動こう

2015年5月5日(火)付 朝日新聞

 

日本の子どもの今を考えるとき、見過ごせない数字がある。16・3%。子どもの貧困率である。ひとり親など大人が1人だけの世帯の貧困率は、5割を超える。先進国の中で最も高い水準だ。

 

親を亡くした子どもたちを支援する「あしなが育英会」が、奨学金を受けている高校生にアンケートをしたところ、こんな声が寄せられた。「正直あした食べるご飯に困っている。早く自立できたらと何度もふさぎこんだ」「学校では食べずにガマンしている。友達といるとお金がかかるのでいつも一人でいる」

 

■不十分な政府の対策

 安倍政権は子どもの貧困対策法の成立を受け、総合的な対策を進める大綱を昨年、決めた。しかし、ひとり親家庭への児童扶養手当を増やすことは、財源不足などを理由に見送られた。また、子どもの貧困率を下げる数値目標もない。

 

…不平等をなくすのは政府の役割だ。「国民全体で負担し、支え合う」という、税制や社会保障政策の出番である。その意味で疑問を感じるのが贈与税の非課税枠の拡大だ。…ゆとりのある家庭には恩恵が大きいが、家庭間の不平等を広げかねない危うさをはらむ。

 

■おせっかいの勧め

■支える連鎖を生もう

 大人が関わることで、子どもを支える連鎖も生まれる。…奨学金を受けてきた大学生たちも、支援活動に加わっている。民間団体の有志らが集まり政策を提言する「子どもの貧困対策センター」。その設立に向けた募金活動を5日に行う。

 

…少しだけ、おせっかいになってみよう。大人になっても貧困から抜け出せない「貧困の連鎖」を断ち切ることにつながるかもしれないのだから。

 

 

(社説)社会全体で子育てを支えよう 

2015/5/5付 日本経済新聞

 

 「団塊の世代」が生まれてすぐの65年前には3人に1人だった。30年前には5人に1人、そして今では8人に1人――。日本の総人口に占める14歳以下の子どもの割合だ。…子どもを持つかどうかは、もちろん個人の選択だ。しかし子どもを持ちたいと望んでも、それを阻む様々な壁がある。社会全体で子育てを支え、子どもが健やかに成長する環境を整えたい。

 

妊娠中からきめ細かく

…子育てや子どもを支える施策には、一定の費用がかかる。20年までの少子化対策をまとめた大綱は、財源を確保して予算を増やすとしたが、具体的な手立ては盛り込まなかった。子どもの貧困対策として、政府は夏までにひとり親家庭や子どもが多い家庭への支援策をまとめる予定だ。この財源もどう手当てするのか。どんな施策を優先させるのかを含め、議論を深めなければならない。

 

一人ひとりが担い手に

…多くの大人が活動にかかわることで、子育て家庭の負担は軽くなる。参加する人にとっても生きがいになる。かつて支援を受けた人が、やがて支援をする側に回るという好循環も期待できる。少子化がこのまま進めば、日本経済は活力を失い、社会保障制度の土台も揺るぎかねない。行政も私たち一人ひとりも、前に踏み出すときだ。

 

 

(社説)こどもの日に 貧困の連鎖を断ち切りたい

2015年05月05日 京都新聞 

 

 <けなされて育つと、子どもは、人をけなすようになる>で始まる詩をご存じの方も多いだろう。米国の教育学者ドロシー・ロー・ノルト博士の「子は親の鏡」だ。…この詩を基にした博士の著書「子どもが育つ魔法の言葉」(PHP文庫)は世界中で愛読され、日本でも120万部を超すベストセラーとなった。…通底するのは子どもとしっかりと向き合うことの大切さだ。親は心にゆとりが求められる。だが、今の日本には生きていくのに精一杯で、わが子と向き合う余裕のない家庭が少なくない。

 

支援の手を緩めるな

 …とりわけ母子家庭は深刻だ。子どもを抱えての就労が難しく、4割以上は非正規雇用で平均就労年収は200万円に満たない。子どもの貧困率は5割に跳ね上がる。貧困には負の連鎖も付きまとう。生活苦で進学を諦め、大人になっても安定収入を得られる職に就けず、貧困にあえぐ。その子どもも同じ境遇を繰り返す。生活保護受給世帯で育った子どもの4人に1人が大人になって再び生活保護を受ける、との調査結果もある。

 

深刻さ増す児童虐待

ネットの危うさ懸念

 …冒頭の詩は<和気あいあいとした家庭で育てば、子どもは、この世の中はいいところだと思えるようになる>と結ばれている。

 

 

<社説>こどもの日 貧困対策と教育に全力を

2015年5月5日琉球新報

 

 今日は「こどもの日」。沖縄の未来を担う子どもたちの幸福や教育のため、予算や労力は惜しみなくつぎ込むべきだと強調したい。…県民所得が全国最下位にある沖縄は、もっと深刻だ。特に厳しい状況にある「ひとり親世帯」の割合は、沖縄は全国の約2倍。県のひとり親世帯の実態調査では、生活状況が「苦しい」と回答したのは13年度で8割に上り、母子世帯に比べ余裕があるとされた父子世帯の環境悪化が目立った。

 …使途をめぐって議論がある一括交付金などで、子どもを毎年百人、いや千人規模で留学させるような発想があってもよい。そのくらいの大胆さで、教育には予算をつぎ込むべきだ。

 子どもの貧困は、食事や栄養などの「健康格差」にも直結しているとの非常に気掛かりな指摘もある。子どもたちを取り巻く課題の解決は、社会全体に課せられた課題であることを再認識したい。その取り組みは待ったなしだ。

風薫る5月:が、貧困格差は止めどなく=究極のデータ

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今日から早くも5月1日。5月は風薫る季節で、暦上はすでに初夏です。GW中はどうぞ緑の中を散策してください。

 

ところで、この間のトマ・ピケティの『21世紀の資本』の勉強会でも明らかになったように、彼の学問的功績の第一は、富と所得に関するぼう大な歴史的データを提示したことにあります。このことにより、21世紀は19世紀資本主義と同じく不可避的に格差を生み出す、ということを歴史的に証明しました。この結果「資本主義が発達すれば(所得)格差は自動的に縮小する」とする主流派経済学の超楽観論は打ち砕かれました。

 

さて、データ=事実の集積は、なまなかな理論や仮説、ましてイデオロギーを吹き飛ばすくらい威力があるものですが、次のデータはいかがでしょうか。何かしら暗澹たる感慨をもたらすものですが。

 

それは「親の収入が多いほど、子どもの脳は発達する」というものです(逆に言えば、貧困下に育った子どもの脳は未発達に留まる)。下記のレポートをお読みください。

 

米国で実証された「金持ちの子供は頭がいい」 年収300万円の家の子は、富裕層の子より大脳皮質が6%小さかった

 

 

簡単に要旨を記すと、ロサンゼルス小児科病院とニューヨーク・コロンビア大学医学部を含む9大学の研究者25人が、3歳から20歳までの1099人の子どもの脳の高解像度のMRIによる画像解析と両親・家庭の社会経済学的要因の聞き取り調査を行い、結果は世帯年収が2万5000ドル(約300万円)未満の家庭に育った子供たちは、15万ドル(約1800万円)以上の家庭の子供たちよりも、MRIの計測値で大脳皮質の領域が6%小さかった、というもの。

 

ここでの大脳皮質の領域というのは、とくに言語と認識力をつかさどる脳の部位であり、ここに親の収入によって差異が生じているというのですが、同研究の筆頭執筆者は「生まれ持った資質よりも世帯年収の差違の方が学力に影響を与える」と言っているそうです。

 

もちろん貧困家庭に生まれても(大脳皮質が小さくても?)勉強ができる子どもは必ずいますが(レポーターの堀田氏はこちらの方の神経科学的・社会経済学的な要因を探ってほしいと言っているが)、残念ながらそれは圧倒的に小数であるのも現実です。そういう意味では何ともやり切れないものがありますが、大脳皮質の大小(発達度)も貧困と格差に関係があるのかもしれません。

 

ところで、以下の記事は昨年のハフィントンポストに載ったものですが、富裕層と貧困層の格差が一目瞭然です。米国、北朝鮮、シリア、18世紀のフランス、古代ローマの「持てる者と持たざる者」の食事です。

 

富裕層と貧困層の食事を並べてみた 「持てる者と持たざる者」の目に余る格差(画像)

 

◆中の写真は、ハフィントンポスト電子版より