米民主党副大統領候補 カマラ・ハリス氏も金融取引税を主張

8月19日、カマラ・ハリス上院議員は2020年大統領選の民主党副大統領候補の正式指名を受諾しました。政治的スタンスとして、同氏はバイデン氏と同じく中道派と目されているようで、その点からウォール街の民主党支持者は歓迎しているようです。

 

●米民主党政策綱領案と金融取引税

 

しかし、こうした思惑は甘いというのが下記ブルームバーグの記事です。もともと加州司法長官として金融機関の不正には厳しく当たってきましたし、何よりも同氏は大統領候補選挙で金融取引税を提案していました(*)。記事では次のように書かれています。

 

「ハリス氏はヘルスケア財源として、株やデリバティブ(金融派生商品)など金融取引への課税を支持。取引税にはバイデン氏も一定の支持を表明しているが、提案にはまだ含まれていない」

 

従って、全国大会で採択する予定の政策綱領案には金融取引税は取り上げられていません。しかし、金融取引税に関してはいわゆる民主党左派(サンダース氏やウォーレン氏など)が強く主張している政策でもあり、ハリス氏の役割のひとつが左派との架け橋になることが期待されているところから、ハリス氏が副大統領となり、米経済や財政等の動向如何により、金融取引税が具体的に俎上に乗ってくるかもしれません。

 

(*)ハリス氏の金融取引税:株取引0.2%、債券取引0.1%、デリバティブ取引0.002%課税し、10年間で約3兆ドルの税収を得ることができる。

 

●政策綱領案における主要な税制

 

なお、政策綱領案での主な税制に関しては次の通りです(8月18日付日経新聞より)。

 

○富裕層に恩恵を与え、米雇用を海外に流出させる企業を利するトランプ政権の減税政策を覆すために行動する。

○富裕層に相応の税金を払わせ、投資家が労働者と同じ税率を支払うようにする。共和党が大きく引き下げた法人税率を引き上げる。

 

 

【Bloomberg】「それでもハリス氏は革新派」-ウォール街に厳しく、取引税も支持

 

―加州司法長官として住宅金融大手との金融危機後の協議で強い姿勢
―ウェルズFの無断口座開設スキャンダルの捜査指揮でも重要な役割

 

2020年米大統領選の民主党候補となるバイデン前副大統領が、カマラ・ハリス上院議員を副大統領候補に選んだことをウォール街の民主党支持者は歓迎した。

 

ハリス氏の起用は、より強硬な銀行規制を支持する党の革新勢力が抑えられた兆しと受け止められた。しかし、同氏の州政府と上院での実績を見ると、金融業界は戸惑うかもしれない。

 

カルフォルニア州司法長官として、住宅金融大手との金融危機後の協議で示した断固とした姿勢が、ハリス氏の政治的躍進の下地をつくった。バンク・オブ・アメリカ(BofA)やウェルズ・ファーゴ、JPモルガン・チェースを含む金融機関は、借り手に対し抵当権を不適切に行使したとされる問題の決着のため、180億ドル(約1兆9000億円)の支払いを余儀なくされた。

 

米財務省の元当局者で、現在はビーコン・ポリシー・アドバイザーズ(ワシントン)のマネジングパートナーを務めるスティーブン・マイロー氏は「はっきり分かる革新派でないかもしれないが、それでもハリス氏は革新派だ」と指摘する。

 

ハリス氏は加州司法長官在任中、ウェルズ・ファーゴの行員が顧客に無断で無数の口座を開設したスキャンダルの捜査指揮でも重要な役割を果たした。

 

民主党大統領候補の指名争いを通じて、ハリス氏はヘルスケア財源として、株やデリバティブ(金融派生商品)など金融取引への課税を支持。取引税にはバイデン氏も一定の支持を表明しているが、提案にはまだ含まれていない。

 

ハリス氏台頭の意味はウォール街にとって単純でないかもしれない。ビーコンのマイロー氏は、銀行業界にどう影響するかの判断は時期尚早だと話す。バイデン氏の政策と主要な金融規制・監督機関の人事にどこまで影響力を行使できるかにかかっているが、マイロー氏によれば、消費者金融保護局(CFPB)の再活性化に一定の役割を見いだすことも考えられる。(了)

コロナ危機下の財源、環境税や金融取引税など>政府税調で佐藤一橋大教授

8月5日、政府税制調査会(首相の諮問機関)の第2回会合がウェブ会議方式で開かれ、委員と特別委員の45人全員がオンラインで繋がれたとのこと。テーマは「中間答申:経済社会の構造変化について」ということですが、新型コロナの影響を含め委員から幅広く意見を求めるという形で会合が行われました。

 

●コロナ危機により20年度国家予算160兆円のうち赤字国債は90兆円

 

ご承知のように、コロナ危機により2020年度の国の予算は2次にわたる補正予算を加えて、160.3兆円にのぼり、うち公債費(赤字国債)は90.2兆円にも及びました。こうした事態に対して、ウィズ&ポストコロナ下における税制はどうあるべきかなど議論されました。

 

第2回政府税制調査会(動画):佐藤教授の発言は、1:32:15あたりから)
同 資料一覧

  

●注目される佐藤主光・一橋大学教授の「非常時」の財源論

 

注目されたのは、「コロナ下に関する経済対策について財源をどう確保するか」という観点から意見を述べた佐藤主光・一橋大学大学院経済学研究科教授です。議論を簡単に紹介すると、次のようなものです。

 

1)「平時」と「非常時」との財政は切り離すべきで、前者は社会保障対応の消費税などであり、後者はコロナとか災害時への対応のもの。

 

2)非常時であるコロナ下での財源確保は、財源を確保しながら既存の課題解決につながる「二重の配当」をもたらす税目で行う。具体的には、環境税、金融取引税、金融課税、デジタル課税など。

 

●簡単な評価

 

「非常時」の財源は、「平時」には採用されずらい税を探すということで先の小林慶一郎氏のトービン税導入と通じますが、さらに単に税収だけを求めるのではなく政策実現まで求めるという「二重の配当」論まで引き延ばした点でユニークですね。佐藤教授の発言につき文字お越しを行いましたので、下記にUPしておきます(すごく早口だったので100%正確かどうかは請け負いかねます)。

 

 

佐藤主光教授の発言(全文)

 

佐藤主光教授:3点につき申し上げたい。

 

1)コロナ下における財源確保について
この際は、「平時」つまり社会保障対応の財政と、「非常時」つまりコロナであれ災害であれ、こういったことに対応するための財政とは切り離した方がよい。消費税はあくまでも平時の財政のためであって、今回のコロナにおいて減税もしないけれど、ただしコロナ経済対策にかかる財源のために増税もしない、という役割分担が効いている。

 

他方、コロナに関する経済対策について財源をどう確保するかというところで、経済に対して、社会に対してプラスになるような税を考えてみる。

 

具体的には、諸富委員(京都大学教授)からのご指摘もあったように、環境税のようなものがよい。いわゆる「二重の配当」、つまり財源を確保しながら既存の課題解決につながる、こういった税目を探してくることかなと思う。環境税のほかには金融取引税であるとか、資産格差ということを考えるならば金融課税ということが考えられる。それから法人課税の適正化という点から見れば、デジタル課税といったものがある。「二重の配当」ということを念頭に置いたらいかがかと思う。

 

2)所得税について
これも積み残された課題。源泉徴収と年末調整で完結するモデルはすでに終わっているわけで、裏にあるのは雇用の多様化、副業化が増えていることにある。多くの人たちが確定申告するという時代が来るとすれば出来るだけ簡素な仕組みがよい。

 

具体的には、所得区分の見直し。区分が10もあるわけですし、事業所得と金融所得の境界線も曖昧になりはじめている。また、雑所得とはそもそも何なのかということもある。事業所得については、例えば、フリーランスの方々、必ずしも青色申告をしない方々もいる。彼らの事業所得であっても概算控除を認める仕組みであるとか、それからプラットフォームを通じて仕事を請け負っている人たちについては、プラットフォームの段階で源泉徴収をかけるとか、そういった仕組みが必要だ。

 

雇用が多様化する中において、収入が不安定になっている方も多い。今回のコロナは平時は社会を支える人たち、税金を払い社会保険料を払う人たち、そういった人たちが逆に困ったというか、困窮するといった事態になった。もともと収入基盤が不安定だからだ。したがって、そういう収入の不安定さに応じた課税体系のあり方があってよい。

 

実はこれ何を言いたいのかというと、住民税である。住民税は今全面所得課税になっているわけで、去年、2019年の段階で普通に稼いでいた方々は今日仕事がなくても、今年仕事がなくても税金を払わなくてはならない。先ほど余計納税の話があったが、同様にキャッシュフローを彼らから奪うことにもなりかねないので、やはり住民税の全面所得課税ということを見直して、所得税と併せて減免課税化ということがあってもよい。これはもちろん国の所得税と地方の住民税の一体的徴収ということも裏にあるかなと思っている。

 

3)税と給付について
最後に、税と給付というのは一体的に改革しないといけないかなと思う。どうしても税は税、給付は給付というような妙な役割分担をこれまで強いてきたが、平たく言えば、これはタテ割り行政だと思う。

 

結果として、今困っている人たちになかなか手が行き届かないのは、もちろんマイナンバーの利用ということもあるが、究極的には「負の所得税」という仕組みがあってよい。つまり、所得が高い時には税金を払ってもらい、所得が下がったときには一定の所得を保障するという仕組みである。今の現行制度で考えれば、給付付き税額控除である。

 

税の給付が嫌だというのであれば、例えば社会保険料での通算を認める。そういう形で所得が下がった時にもそれ相応の対応ができる、そういった仕組みがあってよい。そのためには何度も言っているが、所得に対する認識を改めなければならない。

 

これまでは金持ちが正しく税金を納めてもらうために所得を補足する、つまり納税のための課税のための所得捕捉であったが、これからは給付の適正化のための所得捕捉というものがあっても、その捕捉された所得情報というものをマイナンバーに紐付けて給付に活用していくという体系があってもよい。

 

よく所得税というのは再分配機能が重視されるが、今回コロナでよくわかったことは、所得税には本来保険機能もあるはずということ。ビルト・イン・ストビライザーというマクロ経済の教科書にもあるが、保険機能がちゃんと発揮できる体系、税と給付を結びつけて保険機能を強化するという視点があってもよい。(了)