【速報】 河野外相 G20外相会合で「国際連帯税」を提案!!

河野太郎

 

現地21日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20外相会合で、河野外務大臣は金融取引税など国際連帯税を提案しました。これは画期的なことですね。振り返れば、日本の閣僚クラスが公式の国際会議で国際連帯税に言及・提案したのは、2009年の世界銀行・国際通貨基金(IMF)の合同開発委員会での峰崎直樹財務副大臣以来です。大臣ともども日本での国際連帯税実現に向けがんばっていきたいと思います。

 

以下は、河野外務大臣の発言に関するマスコミ報道です。そして、その下に外務省の報道があります。

 

【毎日新聞】 河野外相 G20に「国際連帯税」提案

 アルゼンチンのブエノスアイレスで開催された主要20カ国・地域(G20)外相会合で、来年の議長国、日本の河野太郎外相は21日、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成に必要な資金を確保するため、人や企業のグローバルな活動に課税する「国際連帯税」を提案した。

 

 今年の議長国アルゼンチン政府は11月の首脳会議のテーマに、…以下、省略。

 

【共同通信】G20に「国際連帯税」提案 持続可能な開発目標の資金確保で

 【ブエノスアイレス共同】アルゼンチンのブエノスアイレスで開催された20カ国・地域(G20)外相会合で、来年の議長国、日本の河野太郎外相は21日、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の達成に必要な資金を確保するため、人や企業のグローバルな活動に課税する「国際連帯税」を提案した。

 

 今年の議長国アルゼンチン政府は11月の首脳会議のテーマに、公正で持続可能な開発を掲げている。SDGsなど「公正な開発」は、引き続きG20が取り組む重要な課題となりそうだ。

 

 SDGsは貧困や飢餓の撲滅から教育の確保、インフラ整備など幅広い分野で野心的な目標を掲げる。

 

外務省の報道によれば、外相会合では「G20の貢献,期待及び性質(ワーキングディナー)」,「マルチラテラリズムとグローバルガバナンス(第1セッション)」,及び「公正で持続可能な開発のための行動(第2セッション)」の議題のもと議論が行われたとのことですが、河野外務大臣は第2セッションで、次のように述べたとのことです。

 

「河野大臣からは,会議の締めくくりに,G20では,持続可能な未来の創出に向けた方策につき議論すべきである旨強調した上で,高齢化問題解決のための鍵となる要素は革新及び開放性である,公平な社会のためには民主主義を伴った開発が必要,SDGs達成のためには金融取引税を含む国際連帯税の活用も一案である,インフラについては開放性や平和利用を含む質が極めて重要である等の点についても指摘した。また,G20において,経済だけでは解決できない問題等についても議論することは重要である旨強調した。…以下、省略」

 

【外務省】G20ブエノスアイレス外相会合

 

(写真は、ブエノスアイレスの五月広場)

 

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巨大IT企業による錬金術と巨大化・寡占化>格差拡大そして次の危機

1990年代よりグローバリゼーションが進展してきたのですが、やがて金融セクターの比重が圧倒的に増大し、金融のグローバル化といってもよい状況へと推移してきました。モノやサービスという実物経済の成長より金融経済の成長の方のスピードがぐっと速まったからです。

 

●実物経済、金融経済そしてデジタル経済

 

実際、世界のGDP(年間)と外国為替取引(1日)の2001年から2016年までの推移を見ますと、前者で2.2倍、後者で4.3倍というように、金融経済の一部門(*)である外国為替取引はGDP(実物経済)2倍のスピードで成長してきたのです。
 *GDP(年間)     *外国為替取引(1日)
   01年33.6兆ドル     01年1.2兆ドル 
   16年74.7兆ドル     16年5.1兆ドル(年間約1250兆ドル)

 

(*)金融市場には、外国為替取引、株式取引、債券取引そしてデリバティブ取引の各市場があるので(今や原油・穀物市場も金融市場といってよい)、金額的に見れば桁違いのお金がグローバルに飛び交い、金融経済を構成している。

 

ところが、今日このグローバリゼーションの性格について大きな転換を迎えているようです。それは米国の巨大IT企業の躍進です。現在の世界の企業の株式時価総額を見ると1位から5位まで、アップル、アマゾン、マイクロソフト、アルファベット(グーグル)、フェイスブックのIT企業5社で占められています。かつては金融セクターや原油・資源セクターの会社によって占められていましたが。

 

ちなみに、2007年の段階ではマイクロソフトだけが上位10位中6位に入っているだけでしたし、グーグルやフェイスブック、アマゾンは2010年の段階でも上位20にすら入っていません。つまり、いかに急速に投資資金を集め時価総額を増やしてきたかが分かります。

 

このように巨大化し寡占化したIT企業は短期間のうちにプラットフォーマーとして君臨し、社会全体を覆ってきました。そして経済システムもデジタル化が主流となってきました。

 

●今日の経済の象徴的存在としてのアップル>5つの重要な傾向

 

こうした巨大IT企業の現出が何をもたらしているか--このことについて、とても分かりやすく分析しているのが、フィナンシャル・タイムズのグローバル・ビズネス・コラムニストのラナ・フォール―ハーの『次の危機は種はアップル』(5月27日付日経新聞)と題した論考です。

 

【日経新聞】[FT]次の危機の種はアップル

 

 

「…アップルは今の経済を象徴する存在だ。同社を研究すれば、今の経済の5つの重要な傾向を理解できる」と言っています。

 

その5つの傾向とは、次の通り。第一、金融手法に関してだが(これは他の多くの多国籍企業が取っている手法)、巨額な現金を持ちつつも同時に巨額の債務も持っており、(その債務の要因である)低利の社債を発行し記録的な自社株買いと株主配当を行ってきたこと。この結果、利益を得てきたのは米国の全株式の84%を保有する上位10%の富裕層であり、格差拡大につながっていること。

 

「多くの経済学者は、成長率が過去のトレンドに届かない最大の要因はこの格差にあり、しかも格差の拡大は政治のポピュリズム(大衆迎合主義)を招き、ひいては市場というシステムそのものを脅かしつつあると考えている」と筆者は言っています。

 

第二は、これらIT企業はソフトウェアやネットサービスにより一気に規模を拡大でき巨大企業を生み、しかも寡占化しやすいこと。このことが雇用や需要の縮小傾向を招いていること。第三は、寡占化は同時に記録的なM&A(合併・買収)を生じさせていること。それは巨大IT企業に対抗するため大企業が打たざるを得ない方法となっていること。第四に、このM&Aのために大企業が多額の借金を行っているが、問題は一部の企業が高利回り債の(大量の)発行で行っており、いまその市場が危うい様相を呈していること。

 

この結果、「次の大きな危機は恐らく、金融機関方ではなく産業界から生ずるということだ」。そして第五に、超低金利が続いてきてアップルなどは借り入れと株高という事業環境の恩恵を受けてきたが、「金利が急上昇すれば(そうした環境も消え)損失と二次的影響は深刻になりかねない」と筆者は警告しています。

 

●現代の錬金術をやめさせるには>金利の正常化と金融取引税など

 

巨大IT企業のみならず、利益をすごく上げている大企業は、(手持ち資金を使わず)超低金利をよいことに多額の借金をして自社株を買い、かくして株主と経営陣に多大な金銭的プレゼントを行うという、現代の錬金術を駆使していることが分かりました。このことがとくに米国で格差拡大を助長し、政治的にはポピュリストを招いていることも。

 

こうした現代の錬金術をやめさせるには、超低金利政策を1日でも早く止めさせることが必要で、同時に行き過ぎた金融取引にブレーキをかける金融取引税とIT企業が現金を貯め込んでいるオフショア・タックスヘイブンを廃止させていく活動が必要です。確かにデジタル経済が社会を覆いその独占化・寡占化も大問題ですが、まず錬金術そ可能とする現在の金融システムの抜本的的改革が求められています。

 

ところで、この金融取引税ですが、今週先行実施で(大枠)合意している欧州10カ国財務相が久しぶりに集まり、議論を再開していきます。一つの議題として、英国のEUからの離脱がFTTにどのような影響を及ぼすかを探ることにあるようです。要、注目ですね。

 

【bloomberg】EU Sees $23.5 Billion in Revenue From Financial-Transaction Tax

 

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巨大IT企業への課税は日和見でよいのか>森信教授の米国との合意論

本日の日経新聞の『経済教室/巨大IT企業と税制』に、森信茂樹・中央大学特任教授の「課税へ当局の知恵問われる」と題した所論が載っており、いわゆるデジタル課税問題につきどのように解決していくべきか、一定の方向性を示しています。

 

デジタル課税問題を一言でいえば、アップルやアマゾンなど巨大IT企業が実際にビジネスを展開している国(消費国・源泉国)からその利益を低税率国やタックスヘイブンに移転し、極端な節税を図っていること。このため、消費国に入るべき税金が入らず(逆にこれらIT企業は消費国の様々なインフラへのフリーライダーとなっている)、また自国競合企業との競争を阻害するという問題を生じさせています。

 

これはよくない、ということで、OECDやG20財務相・中央銀行総裁会議等で国際ルールをきちんと決めようとしていますが、本格的課税案は2020年まで延ばされました。が、これではたまらんということで、EUは根本的課税案に至るまで暫定案を提示し、これを実施しようとしています。それは「IT企業の売上高に3%の間接税を課する」、というものです(が、米国は大反対し全面対決も辞さないと言明)。

 

当然、EUと同じく巨大IT企業の節(脱)税被害にあっている我が国も、EUと連動し、まずは売上高税を実施すべきだと思うのですが、森信教授は「米国の反発を招けば、根本的改革案の合意は不可能となる」ので、米国の賛同を得るように努力すべきと言い、「安易な(EU暫定案への)同調は避けるべきだ」とまで言っています。

 

しかし、米国の一方的な鉄鋼・アルミ輸入関税の引上げに見られるように、今の米国政権は自国産業擁護で凝り固まっていますので、根本的改革案に至るのはほとんど無理です。この際EUががんばろうとしているのですから同調して連動すべきです。そもそもアマゾン・ドットコムは我が国で1.6兆円もの売上を誇っていますが、税金はほとんど払っていないのですから。

 

【日経新聞】巨大IT企業と税制(上)  課税へ当局の知恵問われる

 

 

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国連SDGs(持続可能な開発目標(*))採択から3年が経過し、来年には国連「持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)」首脳会議が開催されます。日本でも2016年に内閣総理大臣を本部長とするSDGs推進本部が立ち上がり、その後ガイドラインやアクションプランが策定されてきました。

 

SDGsは、「誰一人取り残さない」社会の実現、「貧しい人々や脆弱な状況下にある人々に対する連帯の精神」に基づくグローバル・パートナーシップの推進という崇高な理念の下、2030年を期限とする包括的な17の目標を掲げています。しかし、この間目指すべき社会とは裏腹に、国際社会では排外主義的なポピュリズムを掲げる政治勢力が伸長しています。

 

21世紀国際社会の特徴のひとつは、格差・不平等の拡大です。トマ・ピケティ教授は「資本収益率(r)>経済成長率(g)」の図式を用いて格差拡大の歴史的検証を行いました。また元世界銀行エコノミストのブランコ・ミラノビッチ氏は全世界での所得増加率を「エレファント・カーブ」(通称)で示し、先進国で拡大する貧富の格差を明示的に明らかにしました。こうした格差・不平等の拡大が野蛮なポピュリズムを生み出しているといっても過言ではありません。

 

もとより現代社会の矛盾は格差・不平等問題だけではありません。貧困・感染症や地球環境問題、そして世界の難民・避難民は過去最高の6560万人にも上っています(2016年末)。このような現実を前に私たちは、「誰一人取り残さない」「脆弱な状況下にある人々への連帯」を掲げるSDGsについてどのように理解し、つづく社会へと進むことができるのでしょうか(そのひとつの重要なツールがグローバル連帯税です)。

 

折しも来年は、重要な国連イベントもありますが、日本が議長国となり6月大阪でG20サミットが開催されます。持続可能な社会に向けて私たちが声を上げる絶好の機会です。G20に対する市民社会側のプラットフォームを準備しているSDGs市民社会ネットワークの稲場雅紀専務理事から、SDGsならびにG20サミットの課題について縦横無尽に語っていただきます。

 

(*)SDGs(持続可能な開発目標) 持続可能な開発のための2030アジェンダ

 

◎稲場雅紀氏プロフィール:

 

1969年生まれ。90年代初頭から横浜市寿町の日雇労働者の保健・医療の問題に取り組んだ後、94年から「動くゲイとレズビアンの会」のアドボカシー部門ディレクターとして性的少数者の人権問題や国内外のエイズ問題などに取り組む。2002年より、「アフリカ日本協議会」の国際保健部門ディレクターとして主に調査や政策提言に従事。2009年、MDGs達成のためのNGOネットワーク「動く→動かす」(GCAP Japan)を設立し、事務局長を務める。2016年SDGs市民社会ネットワークを設立し、翌年社団法人化し専務理事に就任。(国連広報センター資料等から作成)

EU長期財政計画でのFTTと10カ国FTT、日本での国際連帯税

EU(欧州連合)では再び金融取引税(FTT)の議論が活発になってきたようです。この議論は二つの方面で行われています。ひとつは英国離脱後の備えてのEU財政に関しての議論、もうひとつはEU10カ国での先行導入問題に関しての議論です。このような欧州情勢と日本での国際連帯税について報告します。

 

1、欧州連合(EU)での長期財政計画案議論

 

前者につき、2021年からはじまる7年間の次期長期財政(多年次財政枠組み)に関して、欧州議会はすでに1月の段階で「自主財源による欧州連合システム改革(on reform of the European Union’s system of own resources」という報告書を出しています[1]。同報告書では、VAT制度改革、共通連結法人税課税ベース(CCCTB)導入等の法人税改正、欧州レベルでの金融取引税、デジタル分野の企業に対する特別課税、環境税など、EUの新たな税収源を提案しています。

 

また、草案を提出する欧州委員会も、実は昨年6月の段階で、独自財源のオプションのひとつとして金融取引税を挙げていました[2]。ところが、去る52日に「未来のための欧州財政」[3]と題して欧州委員会草案が出されましたが、そこには金融取引税が入っていません。上記CCCTBと環境税(排出権取引への課税)が入っており、加えて非再生プラスチック包装廃棄物への課税が入っています[4]

 

どうして金融取引税が抜けたのかは提案内容を読み込まないとなりません。またデジタル分野の企業に対する特別課税についても。ともあれ、この2021年からの長期財源については2019年いっぱい議論されていくことになりますので、欧州議会の議論との関係など事態の推移を見守っていきたいと思います。

 

[1]EUReporter#Long-Term Budget: MEPs want EU to have more own resources 

[2]commissionEU財務の将来に関するリサーチ・ペーパー(2017628日)

[3]commissionEU Budget for the future

[4]commissionMODERNISING THE EU BUDGET’S REVENUE SIDE

 

2、欧州10カ国FTT議論>今月末から再交渉

 

後者(EU10カ国FTTについては、201610月以降交渉が止まっていましたが、Bloomberg Taxの報道によれば今月末から交渉を再開するようです。  

 

問題は、「新ドイツ連立政権がFTTへの強いコミットメントがあるかどうか、あれば確実に前進できる」と見られており、とりわけ新財務相となったオーラフ・ショルツ氏の手腕によるところが大きいようです。が、同報道ではショルツ氏はSPD(社会民主党)でも保守的でありあまり熱心ではないようだ、と研究者の話を紹介しています[5]

 

そのショルツ氏ですが、財務相就任直後、次のようにFTTに関する意欲を述べていました。「欧州での金融取引税キャンペーンを再び行うが、これは(そもそも)過去の大連立政権の合意であった。が、一部のユーロ圏の意欲の欠如とドイツ財務相(ショイブレ前財務相のこと)のおかげで失敗してしまった」、と[6]。南ドイツ新聞報道の通りであれば、政治信条が保守的であってもFTTには前向きであるようにも思えますが、いかがなものでしょうか。

 

[5]BloombergEU to Restart Financial Transactions Tax Negotiations

[6]【南ドイツ新聞】Scholz: Deutschland muss mehr zahlen 

 

3、FTTSDGs財源のための有力なツールに>フランスの事例を見る

 

以上のように、ドイツで新連立政権が誕生してから欧州でようやくFTTの議論が活発化しそうな事態になってきました。現在、グローバル連帯税フォーラム(以下、フォーラムと略)で欧州FTTに関するセミナー等を行ってくれている津田久美子氏(北海道大学大学院)が調査研究でベルギーに滞在していますので、ブリュッセルやドイツ、フランスなどの最新情報について、帰国され次第報告していただく予定になっています。

 

ところで、フォーラムがFTTに拘るのは、その税収が世界の貧困や気候変動対策など地球規模課題解決のための資金として、今日的に言えば持続可能な開発目標(SDGs)の達成のための資金として役立つからです。

 

昨年末フランスで気候変動サミットが開催されましたが、開催に先立ち、フランスのルメール財務相など同国の閣僚4人が「金融取引税を導入すれば、2020年までに年間最大50億ユーロ(59億ドル=6300億円)を調達でき、それを気候変動対策の原資できる」としてFTT推進を訴えました[7]。 

 

そのフランスですが、航空券連帯税に続いて、2012年独自のFTTを導入しました。具体的には、「時価総額10億ユーロ以上の国内株式の購入に0.2%を課税する」というものですが、昨年1月より0.3%に引き上げられました(本年よりデイトレーディングにまで拡大する予定でしたが断念した)。2017年の税収は14億ユーロ(1800億円)で、その半分ほどがアフリカ支援等地球規模課題に使われているようです。

 

[7]【ロイター】フランス、欧州の金融取引税導入を推進へ

 

4、日本では国際連帯税を>航空券連帯税や独自FTTなどの実施が可能

 

日本では、2009年より外務省が税制改正要望として国際連帯税の新設を要望してきました。20128月にはいわゆる「税制抜本改革法」[8]が国会で成立し、その中で「…国際連帯税について国際的な取組の進展状況を踏まえつつ、検討すること」ということが法律として決められました(第7条第7号)。

 

しかし、これ以降政府はまったく検討を怠たり、毎年度の税制改正大綱から国際連帯税に関する文言を盛り込んでいません。そして前年度には、国民的議論はもとより自民党内ですら十分な議論もなく、大急ぎで国際観光旅客税(出国税、以下旅客税と略)を国会で成立させてしまいました(十分な国民的議論を行い、また特定財源化=財政の硬直化を防ぎ、かつ税収を連帯税的要素にも拠出するものであれば出国税に反対するものではないが)。

 

当然国際連帯税のうちの航空券連帯税は旅客税と同じく国際線の飛行機が出国するときに課すものですから、旅客税が導入されてしまえば、さらにその上に連帯税を加えるというのは厳しいと言えるでしょう。しかし、お隣韓国では観光のための出国税(出国納付金)も連帯税(国際疾病撲滅基金)も徴収していますし、主要国の空港税・料金はおしなべて高いので、旅客税1000円を加えても日本の空港税・料金はまだまだ安いのです。従って、旅客税プラス連帯税という選択肢は十分ありえると言えます。

 

また、連帯税は経済のグローバル化により国境を越えて活動している経済主体に課税するという性格上、航空券(運賃)への課税だけではなく、航空や船舶の輸送(燃料)への課税

についても国際的に議論されており、上記のように金融取引への課税もあります。まだ検討の段階ですが、当然ながら電子商取引への課税も考えることができます。

 

このような中で、去る425日、河野太郎外務大臣がシリア支援国会合で「国際的な税」の必要性を訴えました[9]。が、その必要な税につき直ちに実現するというのではなく、「いつかの時点で国際社会は作り上げる必要があります」というもの。確かに国際協定で決められるような(共通)税制はいまだ実現していませんが、その萌芽は至る所にあります。航空券税は14カ国で実施され、欧州FTT10カ国で実施方を交渉しています。何よりも気候変動対策のとくに適応資金については、まだ実現されていませんが、共通税制の可能性を探ってきた経緯があります(炭素税やFTT)。またフランスは独自FTTを実施し税収の相当部分を地球規模課題に使用しています。

 

日本でも(当面一国でも)航空券税や独自FTTを実施することは可能ですので、未来の国際社会に期待するのではなく、河野外務大臣は国際的な税に関しての国際的イニシアティブを発揮していただきたいものです。

 

[8]正式名:「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」

[9]【外務省】シリア及び地域の支援に関するブリュッセル会合河野外務大臣ステートメント