政府コロナ分科会の小林氏、三たびトービン税を主張

この間、政府コロナ分科会メンバーの小林慶一郎氏はコロナ対策財源にトービン税(金融取引税)を導入すべきと提案してきました(ブルームバーグや東洋経済)。昨日(28日)の日本経済新聞・電子版でも氏は「各国と協調しトービン税導入を」と主張していますので、紹介します。

 

ここでの主張はほぼ以前のものと同様ですが、この小林氏案を具体化、深化していくために以下の3点を考えました。

 

1)莫大な財政赤字を返済するために「為替など国際的な金融取引に課税する『トービン税』を各国と協調のもと導入」すべきと氏は提案していますが、各国で協調できるならば、各国内の借金返済の原資のみならず、感染症など国際的課題対策のための資金を協調して創出できるのではないか。

 

2)国内と国際的課題のための資金創出のために、かつ金融業界をまき込んで課税するためには、なるべく低率な税とし、また幅広い形での金融取引(為替のみならず、株、債券、デリバティブ等)への課税を考えた方がよい。その取引には、現在高騰しつつある金(キン)取引、仮想(暗号)通貨取引も加えるべき。

 

3)各国の協調を具体的に引き出すには、どこかの有力国が国際会議の場で(G20サミットや国連総会等)倦まずたゆまず提案・主張することが重要。金融取引税については欧州でも米国でも提案されているがどちらも内向きの議論になっている。すぐ前の河野太郎外務相(当時)があらゆる国際会議の場で国際連帯税を主張してきたように、日本の「首相や財務相・外務相が先頭に立って」提案・主張していくべき、と小林氏も私たちも強く要求していくことが必要だ。

 

以下、小林氏の主張を紹介します。

 

【日経新聞】東京財団の小林氏「各国と協調しトービン税導入を」 

コロナ後の資本主義

 

…小林慶一郎氏に、今後の経済対策や財政再建をどのように推し進めるべきか聞いた。小林氏は所得保障の拡充と国際協調に基づく財政負担軽減の取り組みが必要と指摘する。

 

■今後2~3年はマイナス10%成長も…省略

 

(前略)

 

■全国民に月10万円、1年間支給を 事後に税で回収

 

――政府の一連の経済対策について評価を教えてください。

 

「対策の規模やスピード感が不十分だった。典型例が、国民1人当たり10万円の特別定額給付金の支給だ。給付金は生活できない人の所得を保障して生活機能を維持するためのものだ。…以下、省略

 

(中略)

 

――多額の国費が必要で、国の財政負担は重くなります。

 

「新型コロナによって世界中の国が同じように借金を増やしている。コロナショックでできた借金については、世界の各国で協力して返済をしていくべきだ」

 

「具体的には、為替など国際的な金融取引に課税する『トービン税』を各国と協調のもと導入することを提案したい。一国だけで導入すると投資家の資金がタックスヘイブン(租税回避地)に逃げるだけに終わる。世界で協調すれば逃げ道がふさがり、税金を分け合うことができる」

 

「もちろん、日本はコロナ前から借金大国だったので、もともとあった債務には増税など自国の手段で対処するしかないだろう。だが新型コロナは未曽有の危機であり、世界中で協調して財政負担を軽減する取り組みを進めていく必要がある」

財源確保の切り札?トービン税再び静かに浮上>加谷珪一氏の解説

今週の『ニューズウィーク』誌(7月7日号)に経済評論家・加谷珪一氏のトービン税の超解説「コロナ給付金の財源問題も即解決だが……取り扱い注意なトービン税とは」が載っていまして、それが電子版でも読むことができますので、紹介するとともに氏の「解説」へ少々のコメントを加えさせていただきます。

 

◎いま、なぜトービン税? 簡単に数兆円の財源捻出が可能?

 

まずなぜトービン税を問題にするかというと、「新型コロナウイルスに関する『基本的対処方針等諮問委員会』のメンバーに経済の専門家として加わった小林慶一郎氏…が、感染対策によって増大する財政問題の解決策として『トービン税』の導入を提唱して話題となっている」から、と加谷氏は言っています。

 

さて、為替を含む金融取引ですが、「金融取引の規模は、モノやサービスなどリアルな取引とは比べものにならない。外国為替取引ひとつをとっても、日本における取引量は1日40兆円を超える。…わずかな税金をかけるだけで、数兆円程度の税収はごく簡単に捻出できるので、トービン税は財政の切り札とも言われる」、と加谷氏は続けます。

 

数字をちょっと挙げてみましょう。年間為替取引高は、40兆円×250日=1京円、これに0.01%の低率課税で、年間1兆円、0.05%で5兆円の税収となります(世界全体では、0.01%で約18兆円)。

 

また、金融取引税は為替取引だけではなく、株・債券・デリバティブ取引等もありますので、これらにも課税できれば、より低率の税金での実施が可能となります。

 

◎世界同時導入でなければトービン税実施は不可能? 

 

「だが、トービン税は全世界で同時に導入しなければ意味がない。例えば日本だけトービン税を導入すると、日本の金融取引は全て海外に逃げて…しまう。トービン税を機能させるには、全ての国が一切の不正を行わず同時に実施する必要がある。(また)これを実現するには、ある種の世界国家を樹立するという話とな(る)」

 

この指摘は、トービン税実施不可能の論拠として必ず用いられるものですね。しかし、①まず一国で実施することが本当に不可能なのか。ブラジルは一国でも為替に関するIOF税(金融取引税)を行いました。また税率を超々低率(例えば、0.0001%)で制度設計したら可能ではないのか? ②何よりもG20サミットなどで絶えず金融取引税を主要議題とする政府が現れたら案外早く実現するのではないか、それは加谷氏が「コロナ危機がなければ、話題にはならなかった可能性が高い」と言明していますが、逆にコロナ危機だからこそ(第2波もありそうだし、別のウイルスの流行も考慮にいれて)平時では考えられないことが起こる可能性があるのです。

 

◎議論も大事だが、どうすれば実施可能か知恵を絞るべきでは?

 

最後に、加谷氏は「日本政府は今回のコロナ危機に際して、既に2回の補正予算を組んでおり、真水で60兆円近くの財政支出を決定している。今後、感染が再拡大すれば財政支出がさらに増大するのは確実であり、財源確保は全ての国にとって共通課題となりつつある。実際に導入するのかはともかく、聖域を設けず議論を進めることは重要だろう」、と言います。

 

今年度予算は、ついに100兆円を超えての赤字国債発行(借金)という事態になりますが、コロナ情勢によっては第3次補正予算を組まなければならないし、そもそも20年度税収が激減するなかで来年度の予算をどのように組むか、予算編成がもすごく厳しいものになりそうです。このことを鑑みれば、消費税などいわゆる大衆増税はとうてい行えませんので、何らかの金融取引税は必要です。そればかりか今後貧困国・医療脆弱国へさらに援助が必要となることは目に見えていますので、できるだけ幅広い形での徴税を実現し、国内財政や国際協力のための資金調達(国際連帯税として)を捻出していかねばならないと思います。

 

ですから、逼迫し赤字だらけの財政を何とか持ちこたえつつ、かつ国際協力を進めるという立場から、どうすれば金融取引税の実現が可能か知恵を絞るべきなのです。議論のための議論ではなく!!

 

【ニューズウィーク】コロナ給付金の財源問題も即解決だが……取り扱い注意なトービン税とは