「気候危機下の何十億人が依存」(COP議長)>L&D基金と革新的資金調達

COP28のロゴ

 

●損失と損害への資金が決まらなければ、COP28交渉全体が頓挫する可能性!

 

標題は、来月開催されるCOP28の議長スルタン・アル・ジャベル氏の言葉です。気候危機に脆弱な何十億人もの人々が損失・損害基金(以下、基金)立上げを待ち受けていること、そのために「…基金の導入方法や補充方法について、COP28までに明確でクリーンかつ確実な勧告を打ち出すよう、世界の注目が集まっている」とAFPのインタビューに答えています。

 

ところが、基金立上げに向けての管理運営ならびに実施方法等の設計に関する「移行委員会」がこれまで4回開かれたにもかかわらず、富裕国と貧困国の対立で合意できずにいます。

 

世界資源研究所(WRI)地球気候プログラムおよび金融センターの上級顧問のプリーティ・バンダリ氏は「(基金)に関する途上国の優先事項が適切に対処されなければ、COP28の成功を測る重要な尺度なので、このままでは交渉全体が頓挫する可能性がある」(注1)と危機感を強めています。

 

実際、COP27での画期的ともいえる基金設立の合意は、アフリカ、アジア、ラテンアメリカの134か国ならびに小島嶼国によって勝ち取られたものですから、もしCOP28で立ち上げが不可能となれば、COPそのものが大混乱に陥りそうです。

 

●対立を解消し、基金は早く革新的資金メカニズムの議論を

 

対立は、まず基金の主催は誰か(管理部門をどこに置くべきか)ではじまり、先進国側は世界銀行に管理を任せるべきとし、途上国側は独立した機関に管理部門を置くべきとして平行線をたどっています。このため追加会合をアル・ジャベル議長がCOP28の前に設定しました。世界銀行のバンガ新総裁も対案を持っているようですので、対立を克服し早急にどのような資金で基金を賄うのかを決めていくことが必要です(注2)。

 

その資金ですが、これについては先進国も途上国も「革新的資金メカニズム」を重要視するということで一致しています。ただし、支払う側となる先進国は「民間資金の動員による」ということになるでしょうし、途上国側は「新規かつ追加的な公的資金による」という主張になると思われます。

 

そういう中で明快な主張をしているのが、ケニアのウィリアム・ルト大統領です。9月の国連総会の一般演説で、また気候野心サミットで「革新的資金調達として、航空・海上運輸、航空券、化石燃料取引への課税ならびに金融取引税を」と主張し、さらに大規模な資金調達にあたっては金融取引税が有効と力説しています(注3)

 

●「損失と損害/世界の国会議員の誓い」キャンペーンにご協力を!

 

このようにCOP28が重要テーマである温室効果ガス排出削減を目指す「グローバルストックテイク(GST)」を成功裡に実施するためにも、基金の立上げがぜひとも必要となっています。これにむけ基金を専門的にウォッチしているNGOやアフリカの最大規模の環境NGOが「損失・損害に関する世界の国会議員の誓い」キャンペーンを実施しています(注4)。

 

遅れましたが、グローバル連帯税フォーラムはこの世界的なキャンペーンに参加することとし、今後国会議員のみなさんからのご協力を得るべく宣伝・広報していきます。このキャンペーンにご関心があり一緒に活動してくださる方がおりましたら、ご連絡ください。

 

(注1)STATEMENT: Loss and Damage Transitional Committee Fails to Reach Consensus Ahead of COP28

(注2)Tensions soar over new fund for climate ‘loss and damage’ ahead of COP28
(注3)ルト大統領演説  
(注4)「損失と損害/世界の国会議員の誓い」キャンペーンのWebサイト

 

※写真は、アル・ジャベルCOP28議長
  

【ご案内】勉強会「気候正義と国際連帯税~秋の知識収穫祭」

10.28チラシ

 

学生たちが以下のミニ学習会を企画してくれました。なかなか気候変動問題と国際連帯税とが結びつかないできましたが、COP28で主要テーマとなる途上国・脆弱国への「損失と損害基金」問題--気候被害が直接食料危機や感染症等にも繋がってくる--がそれの架け橋になります。せっかくの機会ですので、興味のある方はご参加ください。

 

◇◇ミニ勉強会~秋の知識収穫祭◇◇

  気候正義と国際連帯税~新たな革新的資金調達の必要性     

 

◎日 時:10月28日(土)18:00~19:30
◎講 師:田中徹二氏(グローバル連帯税フォーラム)
◎参加方法:Zoomによるオンライン配信で行います。申し込みは、こちらのformよりお願いいたします。      
◎参加費:無料

 

今年の夏は「史上最高の暑さ」。日本や世界で異常気象が頻繁化。昨今話題となっている気候変動の問題とそれにともなう国際社会における動向について探ります。アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「地球温暖化の時代は終わり、地球沸騰化の時代が到来した」「人類は地獄の門を開けてしまった」と警告しています。

 

早くも来月末には第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)が開催されますが、同会議では途上国の気候被害に対する「損失と損害」基金が重要なテーマとなり、それは「気候正義」の要求です。その基金立ち上げで期待されているのが、従来のODA(政府開発援助)資金や民間資金ではなく「革新的資金調達」です。このメカニズムには国際連帯税が含まれます。

 

本年7月7日、グローバル連帯税フォーラムと横浜市大THEsの主催で「気候危機とグローバルサウス 国際連帯税は未来を救えるのか?」講演・討論会を行いましたが、引き続き次のようにミニ学習会を開催します。

 

みなさんにとって、あらゆる知識の収穫ができる会になればと願っております。関心のある方は、ぜひご参加ください。

 

損失・損害基金:世界のカトリック系NGO、世界的な署名活動を開始!

カトリック系

 

来月末からUAEのアブダビでCOP28(気候変動枠組条約締約国会議)が開催されます。主要議題は、CO2削減等の実施レビューを行う第1回グローバル・ストックテイク(GST)、並びにCOP27で合意された「損失・損害基金」の立ち上げ、その他です。

 

気候変動、温暖化といえば、私たちはまずそれを防ぐためにCO2削減をどうするかと考えがちですが、しかしその被害が世界全体で一様に現れているのではなく、CO2をほとんど排出せず温暖化に寄与していない途上国や気候脆弱国により酷く現れています。大洪水や大干ばつ、海水面上昇による国土喪失に襲われ、食料危機・飢餓、マラリアやコレラ等の感染症等に見舞われています。

 

被害の原因を作った方が被害が少なく、原因を作っていない方が被害が大きいというのは明らかにジャステス(衡平・公正)なあり方ではありません。このことから「気候正義」の考え方が広がってきました。COP・締約国会議においても2021年グラスゴー会合で言われるようになりました。かくして損失と損害への資金提供は、先進国としての「責任と補償」と位置付けることができると思います。

 

こうしたことから、損失と損害基金の立ち上げにつき、世界的に様々な運動が起きています。先にアフリカの気候正義団体や南北のアクティビストによる「損失と損害/世界の国会議員の誓い」キャンペーンを紹介しましたが、今回は世界のカトリック系NGOの署名活動を紹介します。経過は次のようです。

 

「2023年6月…損失と被害に関する会議が行われ、行動を起こすことを決めました。したがって、カトリック団体のグループである《国際カリタス、SCIAF、CIDSおよびラウダート・シ運動》(注)が、COP28で世界の指導者たちに届けられるよう、世界中のあらゆる宗教の指導者に損失と損害に関する行動への支持を示す(共同)声明を発表し、その署名を求めます」

 

Loss and Damage: The Moral Case for Action(損失と損害:行動のための道徳的課題)

※世界中の50人以上の信仰指導者の賛同を得た声明を発表!

 

 なお、10月12日に以下の170団体が、損失と損害に対する資金提供を求める共同呼びかけを発表したとのことです。

 

170以上の人道、気候、開発団体が損失・損害基金への資金拠出を拡大するよう要求

 

このように、損失と損害基金のための国会議員キャンペーンや署名・声明活動が、NGO、宗教団体、専門家などで行われています。こうした運動がシナジーして大きな運動になるとよいですね。グローバル連帯税フォーラムは主に基金の革新的資金メカニズムにフォーカスしつつ、国会議員へアプローチしてみようと考えています。

 

(注)

◎国際カリタス(英: Caritas Internationalis):165カ国・地域の組織が加盟

 ⇒カリタスジャパンはこちら  

◎CIDSE(Coopération internationale pour le développement et la solidarité=開発と連帯のための国際協力):ヨーロッパと北米から18の会員組織が参加。120か国・地域で活動。

 ⇒同団体はこれまで金融取引税や国際連帯税についても積極的に発言していました。

  金融取引税(FTT)に関する欧州カトリック指導者の声 

◎laudato si movimento(ラウダート・シ運動):回勅「ラウダート・シ(あなたは讃えられますように!)」での教皇フランシスコの呼びかけに応えるために協力したいと願う、さまざまなカトリックの国際的なネットワーク

◎SCIAF(Scottish Catholic International Aid Fund):スコットランドのカトリック国際援助基金

「損失と損害/世界の国会議員の誓い」キャンペーン、革新的資金調達への期待

L&Dロゴ

 

今年の夏はとにかく暑く、世界的にも異常気象が頻発しました。11月末日から第28回気候変動枠組締約国会議(COP28)が開催されますが、その主要議題の一つが「損失と損害」基金の立ち上げです。その基金につき、国際社会では革新的資金メカニズムの期待が高まっています。COP開催を前に「損失と損害に関する世界の国会議員の誓い」キャンペーンが立ち上がりしたので紹介します。日本でも国会議員に対してアプローチできればと考えています。

 

1、今年平均1.2℃上昇で「史上最高の暑さ」、1.5℃や2.4℃上昇となると…

 

9月14日米航空宇宙局(NASA)は今夏が「史上最高の暑さ」を記録したと発表し、この温暖化は世界中で山火事や熱波と豪雨の要因となった説明しています(注1)。が、これだけの暑さにもかかわらず、産業革命以前から地球の平均気温がどのくらい上昇したかと言えば、IEA(国際エネルギー機関)は1.1℃、英国気象庁は1.08~1.32℃(推定中央値1.20℃)と報告しています。

 

ところで、2015年のCOP21「パリ協定」では1.5℃上昇を上限努力すると決め、国際社会はそれを目標にしているわけですが、しかし1.5℃で止まったとしても今年の暑さ(+様々な気候災害)の比ではなくなることは明らかです。まして、UNEP(国連環境計画)の昨年10月27日の報告書を読むと空恐ろしくなります。「世界の今の気候変動対策では今世紀末までに産業革命前比で2.8度、各国が約束した温室効果ガス削減目標を達成しても約2.5度、それぞれ上昇してしまう」(注2)、と。いずれにせよ、コロナ・パンデミックに続き、国際社会は人類的危機を迎えていることになります。

 

2、「損失と損害」基金と「気候正義(Climate Justice)」

 

気候変動対策には、大きく分けて「緩和策」と「適応策」があります。前者は、CO2など温室効果ガスを削減する政策であり、後者は高温に強い作物育成や避警報装置設置など温暖化に適応していく政策です。そしてこの両者に加えて、昨年のCOP27で「損失と損害(L&D)策」が加わりました。

 

L&Dについては、30年前から温暖化による海水面上昇によって沈んでしまう小島嶼途上国より提案されてきましたが、先進国側はそれが(CO2排出の歴史的な)「責任と補償」に繋がってしまうことからずっと抵抗してきました。しかし、このL&Dを裏付ける「気候正義」という考え方が、2021年のCOP26で出されるという経緯もあり、先進国側も認めざるを得ませんでした。

 

事務総長②

 

気候正義につき、アントニオ・グテーレス国連事務総長は先の国連総会冒頭で次のように述べています。「私たちは…過熱する地球に取り組む決意を固めなければなりません。…温室効果ガスの排出量を削減し、この危機の原因に最も貢献していないにもかかわらず、最も高い代償を払っている人々のために気候正義を確保することです。…G20諸国は温室効果ガス排出量の80%を占めています。彼らが主導しなければならない。」(注3)

 

気候変動に関する主要問題として、温室効果ガスを歴史的にも大量に排出し気候危機を招いている先進国等と、その悪影響をもろに受けて大きな負担を強いられている途上国・脆弱国との格差であり、その格差を是正していくのが気候正義です。実際、小島嶼途上国のCO2排出量は世界全体の排出量のわずか1.1%に過ぎませんが、海水面上昇で国土を失いつつあります。また、約14億人(世界人口の17%)の人口を持ち大干ばつや洪水などに見舞われているアフリカのCO2排出量は4%未満です。

 

3、期待される革新的資金調達:ルト大統領、一般演説で金融取引税等を主張

 

L&D基金の運用はこの11月から始まるCOP28で確立することになりますので、これまで3回の「移行委員会」を行い、さらに9月22日には国連で閣僚会議を開催してきました。ところが、ここでも高所得国(先進国等)と低所得国(途上国等)の対立がいぜんとして続いています。とくに「誰が資金を拠出し、誰が資金を受け取るべきか」という本質的なところで決着ができていません。

 

22日の閣僚会議での発言を見ますと、低所得国のみならず高所得国からも「革新的資金メカニズム」への期待が述べられています。実際、高所得国では自国財政に余裕がなくODA等の公的資金の拠出が困難なことから、同メカニズムに期待するのでしょう。しかし、その中身についてはアイルランドが「航空・海運ならびに化石燃料会社への課税」を主張したのみでした(注4)。

 

ルト大統領

 

一方、国連総会の一般討論演説でケニアのウィリアム・ルト大統領は、開発と気候危機に対処するため先のアフリカ気候サミットで挙げたナイロビ宣言を踏まえ、国際金融システムの改革とグローバル資金調達を訴えました。後者についてはグローバル炭素税(航空・海上輸送、化石燃料取引)とグローバル金融取引税を挙げおり、大規模な資金調達にあたっては金融取引税が有効と力説しています(注5)。

 

気候変動枠組み条約ならびにパリ協定では、途上国への資金供与につき「新規かつ追加的な」資金で行うべきとしているが、これは既存のODAではなく革新的資金調達のことを意味しているはずです。しかし、先進国側は民間資金を利用・動員することで新規&追加資金としてきました。ところが、民間資金はリターンの問題がありますので、貧困国・脆弱国には向かわないという根本的問題を抱えています。

 

以上から、「L&D」基金は公的資金で、かつグローバル炭素税や金融取引税などのグローバル・タックスによる新規の資金でなければならないこと、このことが必須条件になると思います。

 

4、「損失と損害に関する世界の国会議員の誓い」キャンペーンが立ち上がる

 

今年の地球「沸騰時代」を経験し、我が国の被害でもたいへんでしたが、途上国・脆弱国においては国土の3分の1が沈んだ昨年のパキスタンでの大洪水に見られるように、その被害、したがって損失はケタが違っています。同国においては直接生命と生活が危機に見舞われましたが、その後もマラリアやコレラ等の感染症や食料危機が広がり、同国の経済が立ち行かなくなっています。

 

こうした損失と損害をもろに受けているのがCO2 排出に僅かしか関与していない途上国・脆弱国ですから、「気候正義」を実現するにはCOP28での基金の設立・運営が成功することが何より大切だと思います。

 

そういうなかで、「損失・損害に関する世界の国会議員の誓い」キャンペーンが立ち上がりました。呼びかけは、ルワンダを拠点に南と北の専門家、活動家などで構成されるThe Loss and Damage Collaboration (L&DC)とアフリカ全大陸51か国の1,000 以上の組織からなるコンソーシアムであるPan-African Climate Justice Alliance(PACJA)です。

 

「COP28に先立ち、損失と損害に取り組む行動への支持を世界中の国会議員や立法関係者に呼びかけ、私たち全員が共にこの問題に取り組み、最前線にいる人々、特に最貧困層を気候変動の最悪の影響から守るために、私たち一人ひとりが果たすべき役割があることを世界に示そう」と呼びかけ、次の4項目につき各国の国会議員のみなさんに誓っていただくことを要請しています。

 

UNFCCC 締約国の注目のために

 

私たち、グローバルノースおよびグローバルサウスの国会議員は、損失と損害が世界中の地域社会に与える影響に深い懸念を抱いている。

 

私たちは、各国政府を支援し、以下を実施するために行動することを誓う:

 

1. COP28において、パリ協定およびUNFCCCの衡平性の原則に基づき、あらゆる損失・損害のニーズに対応する救済のための十分な資金が確保された、目的に合った損失・損害基金を運用すること。

 

2. 損失と損害に対応するため、ローン(有償)ではなく、グラント(無償)という形で重要な新規追加資金を調達し、汚染者負担の原則を法に盛り込むとともに、排出削減を推進するための法整備を強化すること。

 

3. 損失と損害に対処するための資金が、可能な限り迅速に必要とする地域社会に行き渡り、地域主導で、ジェンダーに対応し、信頼できるものとなるよう、政策的枠組みを導入すること。

 

4. 気温1.5℃の目標に沿った排出量削減のための政策と法律の実施を早急に導入し、監視すること。

 

私たちは、気候変動の影響に直面している世界中の人々と連帯し、COP28において、損失・損害基金があらゆるニーズに十分に応えられるよう、私たちそれぞれの立場を活かして、その完全かつ効果的な運用を支持します。

 

(注1)NASA、23年夏は「史上最高の暑さ」 異常気象の要因に
(注2)Emissions Gap Report 2022
(注3)2023年9月19日国連総会でのグテーレス事務総長の演説(全文)
(注4)L&Dに関する閣僚会議での各国の発言は、Loss and Damage Collaboration の「X」より。またレポートは、こちら。  
(注5)ルト・ケニア大統領の演説   
(注6)「世界の国会議員の誓い」のWebサイト