国際連帯税(金融取引税)の今:ブレーキかかる日本、動き出す世界

1、日本外務省、4年連続して国際連帯税の新設要望を断念

 

政府関係の24年度税制改正の要望が8月末に締め切られましたが、外務省は私たちの要求にもかかわらず、今年度も国際連帯税の新設要望を提出しませんでした。これで2021年度税制改正要望以降4年連続して断念したことになります。

 

一昨日(9月9日)「コラム:中ロと高まる緊張、見直されるG7 課題は途上国支援の本気度」というロイター通信記事が目に留まりました。コロナ・ワクチンを迅速に途上国へ供給しなかったことや気候資金1000億ドルの拠出の公約破り等など「G7による近年の途上国支援の実績も乏しい」と記事は述べていますが、グローバルサウスはG7を心から信用していないということでしょう。とくにコロナ・ワクチンの先進国の買い占めは酷いもので、それがために自国ワクチンを供給した中国が途上国への影響を高めたことは記憶に新しいところです。

 

ともあれ、グローバルサウスとの連携がキーポイントと言うなら、G7は本気度を見せないとならないでしょう。それを担保するにはまず資金です(含む、債務帳消し)。しかし、G7の中で日本政府に至っては、圧倒的に借金財政に陥っており、これ以上ODA(開発支援資金)を増やせる状況ではありません。ならばG7広島やG20大阪サミットの首脳コミュニケで謳われている革新的資金調達メカニズムを真剣に考えるべきではないでしょうか。外務省のみならず政府全体が途上国支援に対して本気度を見せていないことは実に遺憾と言わねばなりません。

 

2、世界で動きはじめているグローバルタックス(金融取引税等)

 

1)第1回アフリカ気候サミット>新たなグローバルタックス呼びかけも

 

9月4-6日、ケニアのルト大統領とアフリカ連合主催で開催されたアフリカ気候サミットは、ナイロビ宣言で締めくくられました。世界のメディアは「気候変動対策に資金を提供するための新たなグローバル・タックスを呼びかけ」(ロイター通信 注1)、「より貧しい国々でのグリーン・エネルギーのためにグローバルな炭素税を支持」(FT)と報じました。

 

実は、ルト大統領等は気候危機にあたっては南も北もない、援助よりは投資が必要ということで、炭素クレジットなどの市場ベースの投資を強調していましたが、「最終宣言では主要汚染者と世界的金融機関がより多くの資源を投入して貧困国を支援し、手ごろな金利で借り入れを容易にするよう求める要求が最も強調された」(ロイター通信ほか)形になりました。

 

その上で、ナイロビ宣言では、世界の指導者に対して「化石燃料取引、海上輸送、航空に対する炭素税を含むグローバル炭素税制の提案に賛同し、さらにグローバル金融取引税によって強化される可能性がある」と促しました。

 

このような宣言内容がアフリカ諸国の総意となり、来る11月のUAEでのCOP28に提案されていくことになります。

 

2)気候「損失と損害(L&D)」基金での議論>多様な資金源を

 

COP28での主要議題のひとつがL&D基金の具体的な内容(誰が払い誰が受取る等の制度設計、資金源など)を取り決めることで、そのために移行委員会で鋭意議論しています。資金源の議論として、一部からグローバル・タックスの提案がなされています。フランスは次のように提案しています(南太平洋の島国バヌアツも同じような革新的な資金調達案を提案)。

 

「革新的な資金源を含む多様な資金源を受け入れることができるよう、基金を設計すべきである。…補助金ベースの資金調達から、ブレンデッド・ファイナンス・メカニズムや、グローバル化の流れに対する革新的な課税手段、例えば、航空・海上輸送や化石燃料の貿易・生産に対する課税、金融取引税、国際カーボンプライシングなどによる資金調達が考えられる」(注2)。

 

途上国・脆弱国の当面のL&D基金の要求として1000億ドル/年を挙げていますが、これまで先進国は長期気候資金1000億ドルを拠出しなければなりませんので(2025年まで)、併せて2000億ドルになりますから、これはこれまでのような資金拠出ではまったく間に合わず、思い切った革新的な資金調達方法、すなわち金融取引税など国際連帯税実施が必要となってくるのではないでしょうか。

 

3)欧州連合-欧州議会>9月13日欧州委委員長の一般教書演説に注目を

 

欧州はコロナ復興基金を含む2021~2027年中期予算を実施中ですが、ウクライナ戦争やインフレ、そして復興基金の債券の金利上昇等で、予算不足とになり修正をすることになりました。そこで欧州議会は独自財源として金融取引税の(前倒し)を軸に暗号資産への課税や法人税の一部なども含む決議案を採択しました。ところが、欧州委員会は6月に金融取引税を捨象し、国内の企業の利益分を加盟国から拠出させるという、(企業が拠出するのではない変則的?)法人税の一部拠出という修正案を提案しました。

 

こうした状況の中、ポルトガル、フランス、ドイツのEU担当大臣(&副大臣)がEU予算は課題に対してあまりにも少ないということで、未来のための税金や賦課金による「独自の資源」を備えた、より連邦的なEUを求める共同見解をメディアに発表しています。当然そこでは金融取引税も有力な選択肢となっています(注3)。

 

9月13日に欧州議会でフォン・デア・ライエン欧州委委員長が一般教書演説を行う予定で、ここでの発言が注目されます(ただし、彼女はいつも金融取引への課税について話すことを拒否しているとのこと)。

 

4)G20ニューデリー・サミット>シンクタンクGがFTTを提案

 

サミットは10日に閉幕しましたが、首脳宣言をざっと読むと金融取引税等のグローバルタックスの表現はありません(一部革新的資金源の記述あり)。エンゲージメントグループのシンクタンクグループが金融取引税を提案していましたが残念です。Think20 India Communiquéは最初の「マクロ経済、貿易そして暮らし」の章で次のように述べています。

 

「G20は、課税ベースを合理化するための政策を検討し、(不平等の削減と消費型経済の成長という)…文脈において、国際金融取引税(FTT)の役割も、総合的な費用便益分析を通じて評価されるべきである。FTTを使用する場合は、金融取引への悪影響を最小限に抑え、税収増につながるように設計すべきでる」(注4)。

 

(注1)

African leaders call for new global taxes to fund climate change action

(注2)

Submission from France to the Transisitonnal committee

(注3)

A European Union fit for the future

France, Germany, Portugal pitch EU levies and Ukraine ‘Marshall plan’

(注4)Communiqué