みなさま、よいお年を!来年もよろしくお願いします

セツルメント

 

昔々日本のどの大学にもセツルメント部というのがあり、貧しい人々のコミュニティに入り、識字運動とか、子ども会活動とかを、今で言うボランティア活動を行っていました(今でもあるとのことですが)。

 

しかし、日本がだんだん豊かになり1980年代に入ると、学生・青年たちは貧困に喘ぐ人々を支援するために大挙してアジアに出かけ、今日のNGO/NPOを基礎を作りました。

 

そして2000年が過ぎたら、また日本でもワーキングプア―が非正規雇用とともに大量に表れ、今年に入るや子ども食堂が全国に作られるなど貧困・格差が目に見えて現れてきました(相対的貧困率がOECD加盟30か国のうち下から4番目!)。

 

グローバリゼーション(経済のグローバル化)から取り残されているのは、これまでは圧倒的に途上国の人々でしたが、今や先進国の中流階層にまで及び、このことが英国のEUからの離脱や米国のトランプ新大統領を生み出した要因のひとつになりました。

 

確かにトランプ新大統領の誕生は、ひとりよがりの米国ファースト政策を推進しようとするでしょうから、国際協力・協調政治や経済を困難にさせるでしょう。しかし、こうしたある意味とんでもない政治家の登場はこれまでのグローバリゼーションとして体現されていた資本主義そのものの破壊というか自滅につながって
いくのかもしれません。

 

時代は、一時バーバリズム(野蛮主義)に陥るかもしれませんが、その後はグローバリゼーションの時よりも理性的な世界を構築できるかもしれません。そのためにもグローバル連帯税(含むタックスヘイブン根絶)を求める運動は欠かせません。

 

それではみなさま、ご健康に留意され、よいお年をお迎えください。

 

★グローバル連帯税フォーラム代表理事: 田中 徹二

 

 

ポスターは【井上直行 弁護士ブログ」より】
http://kansaigodo.blog42.fc2.com/blog-entry-213.html
「懐かしいポスターが貼ってありました。30年前の全国学生セツルメント連合の新入生勧誘ポスターじゃないでしょうかね?」とのキャプション

SDGs(持続可能な開発目標)「実施指針」策定される

去る12月22日、安倍総理出席のもと「SDGs推進本部」第2回会議が開催され、『SDGs実施指針(本文)』および『SDGsを達成するための具体的施策』が策定されました。
 *12月22日SDGs推進本部決定: http://www.kantei.go.jp/jp/singi/sdgs/

 

国連SDGs採択から日本「SDGs実施指針」策定へ

 

ご案内のように、持続可能な開発目標(SDGs)は昨年9月の国連持続可能な開発サミットにおいて、ポストMDGs(ミレニアム開発目標)として策定されたもので、その内容は2030年までに世界から貧困をなくすなど、持続可能な社会をめざす17の目標が掲げられました。この目標は、同サミットで採択された成果文書『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』(以下、2030アジェンダ)の中に出てきます。
 *2030アジェンダとSDGs:http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000101402.pdf 

 

このSDGs採択を受けて、各国でも国内課題を含むSDGs推進のための政府組織等が作られつつありますが、日本はいち早く内閣総理大臣を本部長、全閣僚を構成員とする「SDGs推進本部」が本年5月に設立されました(同月開催されたG7伊勢志摩サミットの議長国としてのイニシアティブもあり)。この推進本部体制の特徴として、全政府を網羅した事務作業部門と非政府系のステークホルダーとによる「SDGs推進円卓会議」が設置されたことです。

 

この非政府系のステークホルダーの構成員は次の通りです。NGO/NPOセクター3人、民間(企業)セクター3人、有識者3人、国際機関3人、消費者団体1人、労働団体1人。円卓会議は9月、11月の2回開催され、その後パブリックコメントの募集があり、その上で上記SDGs実施指針が策定されました。

 

MDGsとSDGsとはどう違う?

 

ポストMDGs (ポスト2015開発目標)がSDGsであると述べましたが、MDGsとSDGsとはどう違うのでしょうか。MDGsは開発・貧困問題など主に途上国の目標であったのですが(8つの目標中7目標が途上国の課題)、SDGsは世界の環境、社会、経済の3分野を網羅し(それで目標が17にもなった)、したがって途上国のみならず先進国も取り組むべき国際社会の普遍的な(ユニバーサルな)目標となったことです。

 

つまり、先進国である日本も17の目標を指針にして(貧困や格差問題などの)国内ならびに(途上国支援など)国際的な取り組みを、2030年に向けて行っていかなければならない、ということになります。

 

「SDGs実施指針」をどう評価するか

 

さて、日本政府の「SDGs実施指針」についてどう評価すればよいでしょうか。結論的に言えば、SDGs(2030アジェンダ)実施に向けた構えというか心意気としては素晴らしいものがあります。しかし、その実施基調については多々疑問が出てきます。

 

◎「大胆かつ変革的な手段をとる」との心意気や良し

 

『指針・本文』は次のように言います。「我々は、これまでと異なる決意を持って、国際協調主義の下、国際協力への取組を一層加速していくことに加え、国内における経済、社会、環境の分野での課題にも、またこれらの分野を横断する課題にも、国内問題として取組を強化するのみならず、国際社会全体の課題としても取り組む必要がある」(「1 序文」の「(1)2030アジェンダの採択の背景と我が国にとっての意味」)。

 

「これまでと異なる決意」とは「(SDGs実施に向け)大胆かつ変革的な手段をとる」ということで、その心意気は大いに良し!です。

 

◎ビジョンの独創性なし

 

しかし、心意気とは裏腹に、指針の最も目玉となる「ビジョン」(「3 ビジョンと優先課題」)については見るべきものがありません。つまり、《我が国として》国内的にも国際的にも“これこれこのような持続可能な社会・世界を目指す”という独創性がないのです。『指針・本文』は言います。「我々は、2030年までに以下のことを行うことを決意する。あらゆる貧困と飢餓に終止符を打つこと。国内的・国際的な不平等と戦うこと。平和で、公正かつ包摂的な社会をうち立てること。…以下省略」と。これは国連文書『我々の世界を変革する』の第3パラグラフそのまま!で、これが《我が国のビジョン》のエッセンスなのです。

 

◎気になる(経済)成長依存主義

 

なぜ自らの確たるビジョンが出せなかったのか。『指針・本文』が井手英策慶大教授の言葉を借りなら「(経済)成長依存主義」に陥っている日本社会のあり方を一方で持ち上げ、他方では必ずしも成長主義ではない『2030アジェンダ』のエッセンスのアマルガム(混合物)となっているからと思われます。

 

『指針・本文』の「2 現状の分析」のところの「(2)現状の評価」を見ますと、(現在日本政府が推進している)「一億総活躍社会」の実現はSDGsのキーワードである「誰一人取り残さない」と軌を一にしていると述べています。そして一億総活躍社会の実現のためには、まず経済成長を強化し、その果実をSDGsや社会保障に回す(分配する)ことだと述べています。しかも、これこそ日本が他の先進国に先駆けて提示できるメカニズム(新たな「日本型モデル」)と高らかに言っています。

 

これは「成長なくして分配なし」という、それこそ経済のトリクルダウン論と同じく、とても古い考え方です。今日の世界的な論調としては(OECDなど)、「分配なくして成長なし」という方向性へと変化してきています。「不平等の拡大は経済成長の鈍化につながっており、富裕層以外の人々が恩恵を受けられるような税制によって(田中:つまり分配政策の強化によって)そうした状況が和らぐ可能性があると経済協力開発機構(OECD) が指摘した」(2014年12月9日ブルームバーグ電子版)。
 *OECDワーキングペーパー『所得格差の動向と経済成長への影響』:
http://www.oecd.org/tokyo/newsroom/inequality-hurts-economic-growth-japanese-version.htm 

 

一方、『2030アジェンダ』の方を見ますと、経済成長と不平等(分配政策)については明確に述べていませんが、その第27パラ(経済基盤)では「「我々は、すべての国のために強固な経済基盤を構築するよう努める。包摂的で持続可能な経済成長の継続は、繁栄のために不可欠である。これは、富の共有や不平等な収入への対処を通じて可能となる。…以下省略」と書かれています。

 

著書『21世紀の不平等』(*)で世界的に著名なアンソニー・アトキンソン氏(オックスフォード大学フェロー)は、「不平等は多くの国で生じており、豊かな国にも貧困が依然として存在している。…(中略)IMF(国際通貨基金)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事も『不平等は世界の経済的システムの安定性を脅かすものだ』と述べた。そして国連のメンバーは2015年9月に、貧困と不平等の問題を強調した『持続可能な開発のための2030アジェンダ』に署名した」(東洋経済online15年12月)と述べています。
 *「貧困度の高い日本は格差是正策を打つべきだhttp://toyokeizai.net/articles/-/97409 
 (*)『21世紀の不平等』は日経新聞の「2016年エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10」の堂々第一位となっています
   http://www.nikkei.com/article/DGKKZO11042800U6A221C1MY5000/

 

SDGsの背景をなす『2030アジェンダ』のそもそもの意義につき、アトキンソン氏は「貧困と不平等の問題(の解決)」と喝破していることが印象的です。

 

SDGsの今後

 

以上『SDGs実施指針(本文)』の方をざっと見てきましたが、指針に基づいた『SDGsを達成するための具体的施策』の方もチェックしなければなりません。こちらの方は、基本的に各府省庁が実際に行っている政策・プロジェクトを寄せ集めているという感じです。肝心の「貧困と不平等・格差問題」については“子どもの貧困”を取り上げているにすぎません。

 

またタックスヘイブン対策やグローバル連帯税の創設というSDGs市民社会ネットワークからの提案も具体的施策に反映されないままです。

 

ともあれ、実施指針づくりにおいて本部事務局は様々なステークホルダーによって構成される「SDGs推進円卓会議」を設置し意見を吸い上げる努力をしていたことも事実です。「5 推進に向けた体制」の「(3)ステークホルダーとの連携」でも、NPO・NGO、民間企業、消費者、地方自治体、科学者コミュニティ、労働組合がしっかりと入りました(当初の「たたき台」では民間企業だけがカテゴライズされていた)。あと農民団体、生活協同組合、障害者団体、先住民、若者・青年等もメンバーになることが望まれます。

 

NPO・NGOとして円卓会議をけん引したのはSDGs市民社会ネットワークです。同ネットワークは実施指針が策定された12月22日、日本記者クラブで共同記者会見を開催しました。これには日本政府や企業関係者、学界、国際機関の方々も参加し、「実施指針は“目的”ではなく、あくまでも達成のためのスタートラインである」ということを確認しました。
 *記者会見: http://www.huffingtonpost.jp/ugoku-ugokasu/sdgs_1223_b_13840326.html 

 

SDGsは今年(2016年)が開始年ですが、今後世界レベルでは国連総会主催の下で フォローアップ・レビュー4年に1回行われることになりますが、ハイレベル政治フォーラム(HLPF)が毎年自主的レビューを行っていきます。来年(2017年)夏には日本もレビューを行うということで、この実施指針がたたき台となっていくと思います。

 

★ロゴは、ハイレベル政治フォーラム(HLPF)のものです。

29年度税制改正大綱:国際連帯税盛り込まれず>5年連続

政府・与党は12月8日、平成29年度の税制改正大綱を決定しましたが、国際連帯税については今回も盛り込まれませんでした。これで、政権が交代した25年度大綱から5年連続して国際連帯税の文言が外されたことになります。

 

ただし、国際連帯税に繋がる関連部分として(*)、毎年のことですが、次のような記述がなされています。「また、わが国の経済社会の変化や国際的な取組の進展状況等を踏まえつつ、担税力に応じた新たな課題について検討を進めていく」(第一 平成29年度税制改正の基本的考え方)。

 

与党の(合同)税制調査会で国際連帯税につきどのような議論がなされたのかはまだ分かりませんが、前年度には(政権交代以後はじめて)議論のテーブルに乗り、「長期的な検討課題扱い」となりました。今年はここから前進したのか、あるいは後退したのか、が問題です。

 

税制改正に向けて、この間フォーラムは有力国会議員、府省庁へ一定ロビー活動を行いました。また、国際連帯税議員連盟も外堀を埋めるべく航空業界との意見交換などを行いました。さらに、外務省も独自で動いていました。しかし、税制調査会全体また官邸を動かすまでには至りませんでした。

 

ともあれ、5年連続して大綱に盛り込まれなかったという現実を見据え、今後抜本的対策を考えていきたいと思います。

 

 

(*)国際連帯税に繋がる関連部分について:

 

平成26年度税制改正大綱では、「(税制抜本改革法)においても示されているこうした課題について検討を進め、所要の措置を講ずる。また、今後、内外の社会情勢の変化を踏まえつつ、担税力に応じた新たな課税について検討を進める」と記述されましたが、この税制抜本改革法が連帯税に繋がる根拠です。

 

つまり、この「税制抜本改革法」(2012年8月国会で成立)では、その第7条の7で「国際連帯税について国際的な取組の進展状況を踏まえつつ、検討すること」と謳っています。ですから、「こうした課題について検討を進め、所要の措置を講ずる」という中に国際連帯税も含まれることにもなります。

 

注)「税制抜本改革法」の正式名は「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」。