法人減税の原資に金融取引税導入を心配するエコノミスト

ひょんなところで日本のエコノミストが金融取引税を取り上げています。それも法人税減税の原資(代替財源)として使われるかもしれないという心配からです。

 

そのエコノミストとは、大和総研の吉井一洋さんですが、こちらのレポートです。

◆「政府税調委員の株式課税強化提案の問題点」

http://www.dir.co.jp/research/report/law-research/tax/20140313_008329.html

 

今月12日に政府税制調査会の法人課税専門家委員会での法人税改革の第1回目の議論がはじまりました。が、減税の代替財源も課題となっており、吉井さんは「株式の配当やキャピタルゲインの課税の強化」が議論されたこと、そして新税として「『金融取引税の導入』などが検討される可能性もある」、ということで心配しているのです。

 

もとより私たちも(吉井さんと違う理由で)法人減税の代替財源に金融取引税が使われることに反対ですが、こんなところに金融取引税が出てくるのはやはり欧州での動きなどの反映でしょうか。

 

ところで、法人減税が次のアベノミクスの3本の矢の目玉で、実効税率を10%も下げたいとのことですが(約35%から25%へ)、減税のための財源は5兆円も必要となってきます。さすがに代替財源をそう簡単に見つけることができないこともあり、この間「法人税パラドックス論」が盛り上がっています。「法人税率を大幅に引き下げたにもかかわらず、2000年代に法人税収が増加した」というように。何やら鼻っからインチキくさいのですが、専門家にそう言われると戸惑ってしまいますが。

 

が、このことに対し、明確な批判を展開しているのが、下記のBNPパリバ証券の河野龍太郎さんです。

 

【ロイター通信】コラム:「法人減税でも税収増」のまやかし=河野龍太郎氏

http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPTYEA2O01P20140325

 

河野氏は、①財源論棚上げの減税は不適切、②租税特別措置は特定企業を利する政策、③法人税パラドックス論の罠、④企業への所得移転は本当に有効か、ということで論を進めています。その中で、「租税特別措置の廃止を(法人減税の)財源にすることを主張してきたが、全廃しても1兆円に満たない」と言っています。

 

が、ナフサ減税の件はどうなっているのでしょうか? 確か2010年の段階で3.6兆円もあり、これを削減するかどうかで政府税制調査会でたいへんな議論があったように記憶しています。で、26年度税制改正大綱を見ましたら、「ナフサなどの原料用石油製品等に係る免税・還付措置の本則化については、引き続き検討する」ということでまだ免税等の恒久化にはなっていないようですが。

 

それにしても明日から消費税がアップされます。なのに企業にだけ減税ということでとうてい納得できないものがあります。

 

参議院財政金融委員会で国際連帯税・金融取引税の質問(3月17-18日)

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去る3月6日参議院予算委員会での石橋通宏議員(民主党)の質問に続き、今週17-18日と参議院財政金融委員会で川田龍平議員(結いの党)が国際連帯税と金融取引税について、大門実紀史議員(共産党)が金融取引税について、それぞれ質問しました。

 

◎同委員会での質疑(全文)はこちらをお読みください⇒PDF

 

さて、両議員のうち川田議員が一昨年8月に成立した「税制抜本改革法」(*)の中で『国際連帯税について国際的な取組の進展状況を踏まえつつ、検討すること』と謳っている同法第7条7項を軸に質問されました。

 

(*)正式名称:「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」

http://www.mof.go.jp/about_mof/bills/180diet/sh20120330g.htm

 

●誰が第77項の具体的作業を進めるべきか--与党か政府か

 

「(国際連帯税に関する)国際的な取組を誰がどのように把握し、具体的検討作業をどのように進めてきたのか、また進めようとしているのか」という議員の質問に対し、愛知財務副大臣は「政府では外務省が毎年検討していて、26年度税制改正でも外務省から国際連帯税の要望が出されたが、与党(自公)税制改正大綱には記載されなかった」と回答しています。

 

しかし、これはおかしなことで、すかさず議員は「法律に検討すると書かれている以上、この主語は与党ではなく政府のはずで、政府のどこが中心となってこれを検討すべきなのか」と質問したところ、麻生財務大臣は「基本的には、税制の話になるので財務省であり政府税調であるだろう」と答えました。

 

明らかに愛知財務副大臣と麻生財務大臣の答弁は食い違っています。前者は具体的作業の結果(=最終判断)は与党にあると言わんばかりです。これに対し、後者は税制の設計を行うのは政府を構成する財務省となりますから、そこで主体的に検討し判断していくというのは有りうることです(有識者による政府税調での検討となるとより公正な判断が期待できます)。

 

しかし、国際連帯税の場合には、その税の目的(世界の貧困問題等対策のための資金調達)から所管省庁は外務省になるでしょうし、航空券税の場合には国交省、金融取引税の場合には金融庁の協力が必要となります。その意味では、まず政府としては関係省庁による省庁間会合を組織し主体的に検討を重ねるべきでしょう。一方、上述したように公正で普遍性をもった判断を行う場としては有識者による政府税調の下での検討機関がふさわしいと言えます。あと省庁や有識者を一堂に会しての検討委員会という方法もありますが、その場合総理または官房長官の下での検討機関となるでしょう。実際、国際連帯税生みの親であった「ランドー委員会」(2004年)はシラク仏大統領(当時)直属の諮問機関でしたし、メンバーも政府、有識者、経済界、NGOの代表から構成されていました。

 

●法成立から2年国際連帯税をたな晒し状態に:今年こそ本格的検討機関を

 

質疑を通して明らかになったことは、国際連帯税につき検討することが法律で明記され、2年も経つというのに、外務省以外政府の中で真剣に検討されていなかったこと、です。今回の参議院財政金融委員会で麻生財務大臣は「国際連帯税を検討すべきところは財務省もしくは政府税調」と明確に回答しましたので、今年こそ外務省任せにすることなく、<財務省が核となって>政府挙げて取り組んでいくべきです。その態勢の上で、政府税調または総理(官房長官)の下に本格的な検討機関を組織すべきです。

 

◎川田龍平オフシャルブログで財政金融委員会の質問を報告(上記写真は同議員のウェッブサイトより)

http://ameblo.jp/kawada-ryuhei/entry-11799109561.html?frm_src=thumb_module

 

 

国際連帯税を推進する市民の会(ACIST)解散のお知らせ

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国際連帯税を推進する市民の会(Association of Citizens for International Solidarity Taxes :ACIST)は2009年4月に設立され、国際連帯税に関する市民社会のより幅の広い理解と合意形成をめざし活動してきました。2011年6月に国際連帯税フォーラム(以下、フォーラム)が設立されてからは、同組織を構成する一団体となりましたが、活動目的と活動分野がほとんどフォーラムと同じであることから、組織的な整理が求められていました。

 

この度ACIST運営委員会を開催し、ACISTを発展的に解消し、(個々のメンバーは)フォーラムに参加していくことを決定しました。これまでACISTを支援してくれたみなさまにはフォーラムのウェッブサイト上からとなりますが、2014年3月31日をもって組織解散することをお知らせします(ACISTのウェッブサイトは残念ながら2012年1月にハッキングに遭い閉鎖を余儀なくされました)。4年間にわたってのご支援・ご協力に心より感謝いたします。

2014年3月31日

 

国際連帯税を推進する市民の会代表 田中徹二

 

●写真は、ACIST設立の契機となった「国際連帯税・東京シンポジウム2008」(2008年11月23日)

 

『News Letter 国際連帯税・金融取引税』第2号を発行!

今回のNews Letterは、1)航空券連帯税について:日本人は(正確には主に日本に居住する人)導入国にどのくらい納税しているか、2)逆に日本が導入した場合外国の方からどのくらい税を支払ってもらえるか、3)欧州金融取引税について:2月19日の仏独首脳会合での内容、について書かれています。

 

このNews Letterを、3月17日全国会議員に配布しております。

 

★『News Letter 国際連帯税・金融取引税』第2号を読む⇒PDF

参議院予算委員会でODA、国際連帯税の質問(3月6日)

写真: 国会議員あいさつ<br /><br /><br /><br /><br />
石橋通宏(国際連帯税創設を求める議員連盟 事務局長/参議院議員

 

3月6日の参議院予算委員会で民主党の石橋通宏議員(国際連帯税創設を求める議員連盟事務局長)がODA と国際連帯税関係の質問をしました。これは参議院のインターネット審議中継で 録画されていますので、以下のURLから見ることができます(1:14:41あたりから)。 どうぞご覧下さい。

 

参議院のインターネット審議中継  http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php

3月6日(木)参議院予算委員会(カレンダーで3月6日をクリック!)

 

<質問内容>

◎ODAのあり方について(目的、拠出額など) ◎国際連帯税について(革新的資金メカニズムに関する日本政府の取り組みの現状) ◎モザンビークのプロサバンナ事業、ミャンマーのODAについて

 

なお、石橋議員の質問は、前半が雇用や労働関連問題です。詳しくは、同議員のブログを参照ください。

http://blog.goo.ne.jp/i484jp

 

●写真は、昨年12月8日国際連帯税シンポジウムで発言する石橋議員

ライブラリー目次(論文など)

ライブラリー目次

 

国際連帯税フォーラムが推薦する金融取引税(通貨取引税)や国際連帯税の諸論文集です。「5、環境・貧困・格差に立ち向かう国際連帯税の実現をめざして」以外は英語で書かれていますが、それらはすべて邦訳しています。

 

<もくじ>

1、次の段階へ―通貨取引開発税の実施 

Taking the Next Step – Implementing a Currency Transaction Development Levy

 

デービッド・ヒルマン、ソニー・カプーア、ステファン・スプラット、2006年12月

 

英国のNGO、Stamp Out Povertyのメンバーによって書かれたこの報告書は、開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループの第3回国際会議を主催するノルウェー外務省に委嘱されたものである。同国際会議は2007年2月にオスロで行われた。この報告書で通貨取引開発税(CTDL: Currency Transaction Development Levy)が提案された。第2章~第4章を翻訳してある。

 

 

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2、通貨取引税:税率および税収の見積

The Currency Transaction TaxRate and Revenue Estimates

 

ロドニー・シュミット、2007年10月

 

この小論において、経済学者のロドニー・シュミットは0.005%の通貨取引税を提案している。このレートは「多くの資金を得るには十分高いが、市場歪曲の避けるのは十分低い」とシュミットは言う。またこの通貨取引税が一国・一地域単独で単一の主要通貨に課税される場合(ドル、ユーロ、円、ポンド)と、これらのうち複数の通貨に協調して課税される場合の税収を見積る。

 

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3、モンテレイ精神の維持 開発資金アジェンダと未完事項

Upholding the Spirit of Monterrey 

The Financing for Development agenda and its Unfinished Business

 

CIDSE(開発と連帯のための国際協力)政策文書、2008年6月

 

カトリック教会の開発団体のネットワークであるCIDSEは、効果的な参加とパートナーシップに基づいた完全に包含的で公正な万人のための世界的開発というモンテレイの目標を共有し、ドーハ・レビュー会議に対するCIDSEの結論および提案を示す政策文書である。

 

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4、連帯のグローバル化:金融課税のための論拠

「国際的な金融取引と開発に関するタスクフォース」専門家委員会報告書

 

Globalizing solidarity: The Case for Financial Levies

Report of the Committee of Experts to the Taskforce on International Financial Transactions and Development

 

開発のための革新的資金メカニズムに関するリーディング・グループ、2010

 

この報告書は、米国、英国、フランス、ドイツと日本を含む9カ国からの専門家委員会によって書かれたもの。金融セクターからのより大きな税収を得るために5つの異なるオプションを評価しつつ、通貨取引に課税することが国際的な開発と気候変動への解決のために資金提供を促進する最良の方法であると結論する。ここでは、第3章の「革新的資金調達オプションの評価」の「3.5 中央で徴収する多通貨取引税(中央徴収型多通貨取引税)」について翻訳している。

 

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5、環境・貧困・格差に立ち向かう国際連帯税の実現をめざして

―地球規模課題に対する新しい政策提言―

 

国際連帯税推進協議会(寺島委員会)最終報告書、2010 9

 

国際連帯税推進協議会(通称、寺島委員会)は、国際連帯税、とりわけ通貨取引税の内容

と方法、税収の使途、ガヴァナンスを検討し、日本からその実現の道を切り開いていくこと

を目的として、国際連帯税創設を求める議員連盟(2008 年2 月設立)との密接な連携のも

と、2009 年4 月に創設された。委員は、この分野に関心をもつ研究者、NGO、国会議員、

労働組合、金融業界によって構成され、外務省、財務省、環境省、世界銀行がオブザーバー

として参加した。協議会はこれまでに10 回開催され、2009 年末に中間報告書を作成し、それをふまえて今回の最終報告書が完成した。

 

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IMF中間報告書 金融取引への課税:実務上の実現可能性の評価

 

IMF Working Paper

Taxing Financial Transactions:An Assessment of Administrative Feasibility

 

John D. Brondolo - IMF中間報告書、2011年8月

 

本文書は、様々な金融商品に対する金融取引税(FTT)徴収の管理実現可能性を検討するものである。現在このテーマには、政治家、市民社会組織、学者が多大な関心を寄せているとともに、金融セクターへの課税の様々な選択肢に対する政策・管理メリットに議論が集中している。本文書では、管理実行可能性の問題、つまり広い基盤を持つFTTが管理可能であるか、またそれをどのように行うかという点にのみ焦点を合わせている。ここではFTT全般の分析のうち「IV. 外国為替商品」の部分を邦訳している。

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7、金融取引税の共通制度および指令2008/7/ECの修正に関する理事会指令案

 

Proposal for a

COUNCIL DIRECTIVE

on a common system of financial transaction tax and amending Directive 2008/7/EC

 

欧州委員会、2011年9月28日

 

欧州委員会は、欧州連合(EU)の加盟27カ国で金融取引税を導入する法案を提出。取引に関わる機関のうち少なくとも1機関がEU域内に拠点を置いている場合課税対象となり、株と債券の取引については0.1%、デリバティブ(金融派生商品)取引には0.01%の税率が課せられる。これにより、年間約570億ユーロの税収が見込まれる。欧州委員会は、同税の2014年1月1日導入を提案している。

 

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8、金融取引税を巡る12の誤解

Financial Transaction Tax: Myth-Busting

 

Stamp Out Poverty 編、2012年3月

 

国際的に見ても金融取引税(FTT)への支持が広がっているのに、反対論者たちはいまだにFTTが経済に与える影響に関する「神話」を広めようとしている。だが、こうした「神話」は事実無根だ。この論文の目的は、こうした「神話」を一掃することである。

 

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1、次の段階へ―通貨取引開発税の実施

原文:”Taking the Next Step – Implementing a Currency Transaction Development Levy” Chapter 2~4, David Hillman, Sony Kapoor, Stephen Spratt(デービッド・ヒルマン、ソニー・カプーア、ステファン・スプラット共著「次の段階へ―通貨取引開発税の実施」第2章~第4章)

http://www.stampoutpoverty.org/wf_library_post/taking-the-next-step/

 

 

第2章 通貨取引開発税の実施

 

金融取引税(FTT

 

株式取引、債券取引、住宅の購入、銀行預金引落としに対する税などの金融取引税は長い歴史を持っており、その多くは長年にわたり成功裏に実施され特に市場に影響を与えることなく多額の税収を上げてきた。実際、カナダを除く10か国蔵相会議(G10)の参加国すべてが時期は違えども金融取引税を課税している。このうち、米国[13]、英国、フランス、ベルギー、スイスは現在もFTT制度を実施している。他のG10各国は自国で実施していたFTTを(比較的最近)廃止した。廃止の時期は、日本が1999年、イタリア1998年、スウェーデンおよびドイツが1991年、オランダが1990年である。

 

しかし、これら取引税の廃止または減税の動きは、最近他国で導入されたFTT制度により相殺される形となっている。これらの国は、インド(2004年)、ペルー(2003年)、アルゼンチンおよびコロンビア(2000年)、エクアドル(1999年)、ギリシャ(1998年)、フィンランド(1997年)である。さらにギリシャは1999年に株式取引に対する取引税を二倍に増税している。本書付録の表に、さまざまな金融取引税のより包括的な一覧を示しておいた。

 

金融取引税の導入に対する反対理由としてよく聞かれる意見には以下のようなものがある。(a)市場をゆがめる。(b)投資家、金融業者が課税対象の経済地域または分野から非課税の経済へと流れる。しかし多くの場合、現実はこれとかけ離れている。たとえば英国では、株式取引に対する印紙税は毎年約70億ドルの税収を上げている。徴税費用は所得税の徴税にかかる費用の50分の1に過ぎない。この0.5%(50ベーシスポイント)の印紙税が株式取引に課税されているにもかかわらず、英国は現在も世界有数の金融センターであり、ロンドン証券取引所は世界の首位に立つ取引所の一つであり続けている。

 

ペルー政府は2003年、教育分野のための資金創出を目的として、0.1%の一般金融取引税を導入した。その際、国内・国際経済新聞、関連民間投資家、および国際通貨基金(IMF)などの国際金融機関は、同税がペルー経済に深刻な悪影響を与えると予測した。特に彼らは、銀行預金が引き出され、これが同国経済における信用貸しの利用可能性にマイナスの影響を与え、それにより成長率が抑制されることを恐れた。下の「図1」では実際に起きた結果を示している。

 

図1 ペルーにおける金融取引税導入(2003年)以降の銀行預金および信用貸しのレベル

出典:Superintendencia de Banca y Seguros, Lima(2005年12月)

 

 

 

ここで見られるように、銀行預金の減少、およびそれによる信用貸しの減少が起きるどころか、金融取引税の導入以降に銀行預金および信用貸しへのアクセス両方が着実に伸びている。

 

事実、コロンビアやアルゼンチンなど近年導入された取引税の多くについて、金融セクターは大きな影響もなく取引税に適応している。これらの税率が、私達が本報告書で提案している通貨取引開発税(CTDL)の税率と比べて何倍にも及んでいるにもかかわらず、である。徴税されている税率は0.2~0.8%(20~80ベーシスポイント)で、毎年多額の税収を生み出している。徴税費用は非常に低く、脱税の問題もほとんどない。さらに、これらの税の徴税は、主に電子的な手段を用いて最小限の費用で、政府に代わって銀行を通して行われている。税収は国や時期によって、GDPの0.3%~3.5%、または税収総額の1.5%~26.7%の範囲にわたっている[14]

 

要約すると、FTTの主要な要素は以下となる。

 

● どのような形態であれ、金融取引への課税は珍しいものではない。金融取引税は、英国の株式取引に対する税から、ドイツの社債取引に対する税、ペルーの金融取引に対する一般税まで、多岐にわたっている。

● FTTが課税された場合も、金融市場は概して大きな影響を受けることなく適応している。

● FTTは多額の税収を生み出す。

● ほとんどの場合、これらの税は決済の時点において最小限の費用で電子的に徴税され政府の手元に届いている。

● 租税回避、脱税のいずれも深刻な問題とはなっていないことが判明している。

 

この議論から明らかになってくるポイントの一つは、外国為替市場が未だ課税されていないのは異例のことであるという点だ。同市場が世界最大の金融市場であることを考えると、取引決済の時点における適切な徴税メカニズムを設計することができれば多額の税収を創出することが期待できる。税率を適切な低いレベルに設定することで同税は市場の日常の活動に悪影響を与えずに済む。税収は、国際開発などの政府が望む措置を実施するといった目的のために動員することができる。

 

私達は本書において、各国に対し、一国・一地域単独で非常に少額の税を通貨取引に課税し、既存の電子決済システムを利用して徴税することを提案する。

 

私達が提案する通貨取引開発税

 

私達の提案は、それが世界のどこで行われようと、特定の通貨での外国為替取引が0.005%の課税対象となるというものである。過去20年間、外国為替取引の決済方法は大きな変化を遂げてきた。この変化は、国内では即時グロス決済(RTGS)システムの使用、国際的には多通貨同時決済(CLS)銀行の使用によってもたらされた。(「BOX2:国際支払と決済システム」参照。)

 

このため、各国の中央銀行は、制度的に重要な各国ベースの決済システムが効果的に機能することを保証する責任を負っているが、各国はこの意味で孤立しているわけではない。むしろ、相互に連結した(そして相互に依存した)中央銀行および国内決済システムの世界的ネットワークの中で機能しており、CLS銀行などの国境を越えた決済システムを協力して管理している。

 

これらの発展により、現在CTDLを一国・一地域単独で実施することが可能となったのである。同分野研究の第一人者であるロドニー・シュミット(Rodney Schmidt)教授は、この問題について2000年に次のように述べている。

 

「…外国為替取引決済のためのインフラはますます形式化、中央集権化され、規制されるようになっている。これは規模に関する収穫の増加および、決済リスクを減らすためのトレーディングバンク・中央銀行間の協力を可能にするための新技術によるものである。外国為替取引の決済には、2度の支払(取引された各通貨における支払)が発生する。決済リスクは、支払義務が当該の原取引に結び付けられその原取引までさかのぼり、双方の支払が同時に行われることで解消される。現在ではこの業務に対処するための技術と制度が配備されている。これにより、取引を規定するのに使用される金融商品の種類や取引の当事者の所在地にかかわらず、外国為替の支払総額を特定し課税することが可能となった。」[15]

 

BOX1 ノルウェーにおける決済システムの重要性と中央銀行の役割

「決済システムは、国の重要な経済、金融インフラの一部である。円滑に機能する支払システムにより、物品やサービスの購入、資本移転、有価証券や外国為替の取引の決済にあたり、安全かつ時宜を得た支払取引を実行することが可能となる…これらの取引は民間の顧客、銀行、および政府機関により行われる。これらの取引により、支払人の銀行・受取人の銀行間における請求が発生する。これらの請求はノルウェー銀行に設置された各銀行の口座を通して決済される。このため、各銀行および中央銀行は支払システムの中核を担うものである。」[16]

 

BOX2 国際支払および決済システム

過去20年間で、支払業務および決済システムは世界的に大きく変化した。監督当局が決済リスクを減らし制度的効率を上げようと努めた結果、時点ネット決済(DNS)システムは即時グロス決済(RTGS)システムに取って代わられた。RTGSは、PVP決済(決済時に異なる2通貨の支払いを同時に行う)およびDVP決済(証券の引渡しと代金の支払いを同時に行う)を使用するため、少なくとも国内では、決済リスクが効果的に解消される。大まかに言うと、非正統的な形式が、ITの進歩により、一般に使用される技術的プラットフォームに基づいたより均質な方法に徐々に取って代わられることで、均一性が広がった。これにより、効率性が高まり費用が大幅に削減されたのである。先進国の主な大口支払システム(LVPS)はますます相互依存度が高まっている。これらのシステムは共通の技術的インフラに依存している。これらの技術的インフラは、この相互依存関係が円滑、効果的に機能することを保証しているのである。

 

国際銀行間通信協会(SWIFT)が他に先駆けて実施したメッセージ機能は、このプロセスの中心となっている。これは、規模の経済を考慮すると、すべての世界的な市場参加者が同じシステムを利用するのが理にかなうようになってきたからである。金融業界が所有するSWIFTは、現在206カ国・地域において8,000以上の金融機関にメッセージサービスを提供している。このためSWIFTは、国内および国際的に、金融インフラの重要な一部となっているのである。ノルウェー銀行、イングランド銀行、欧州中央銀行が各自SWIFTの活動を監督しているわけではないが、これらの銀行は、国際決済銀行におけるG10グループが提供する援助の下で実施されている、ベルギー中央銀行による監督を支援している。[17]

 

本報告書の目的のためには、通貨決済がどのように行われるか理解することが重要である。たとえば英国では、CHAPS(Clearing House Automated Payment System、英国のコンピュータ決済システム)がこの点において主要な機構となる。英国ではこのCHAPSという機関を通してほとんどの大口の支払が処理される。CHAPSではRTGSシステムが採用されている。ポンドの通貨取引はCHAPSと多通貨同時決済(CLS)銀行のいずれかを通して決済されているのである。

 

ノルウェーのこれに相当する機関はノルウェー銀行(ノルウェーの中央銀行)独自の決済システムであるNBOである。ノルウェー銀行はこの他に、DnB NOR Bank ASAおよびノルウェー銀行間決算システム(NICS、Norwegian Interbank Clearing System)という2つの支払・決済システムも公認している。しかしこれらは比較的少額の決済しか行っておらず、また中央銀行の監督下で業務している。

 

大口のユーロ取引の決済については、欧州中央銀行(ECB)がTARGETシステムを運営している。これは、自動決済を可能にするために、ユーロ圏15カ国の各国レベルにおけるRTGSシステムを連結するシステムである。同システムは、共通の手順(特に各国のRTGSシステム間で決済のための支払指図が円滑に移動できることを可能にするメッセージ機能)を提供することを目的としている。

外国為替に関わるユーロ取引のほとんどは、CLSシステムまたはTARGETシステムを通して決済されており、ノルウェー クローネの場合はNBOまたはCLSを通して決済されている。

 

国際的には、越境の外国為替におけるヘルシュタット[18]リスク―世界金融セクターにおいて最後まで残っていた決済リスクの産物―の問題もまた、CLS銀行を開始することにより取り組まれた。つまりCLS銀行を通して、異なるタイムゾーンでの外国為替取引もPVP決済を用いて行われることが可能になったのである。国内の大口支払システム(LVPS)と同様、CLS銀行の開始により決済リスクは事実上解消されたことになる。

 

CTDLが効果的であるためには、同税は以下の特性を備えている必要がある。

●既存の市場インフラおよびネットワークを利用して、比較的容易かつ安価に実施することができる。

●特定の通貨で世界的に行われる取引の大部分に課税することができる。

●市場をゆがめないよう、また金融機関がCTDLの納税回避のために現在のシステム外に逃げるインセンティブを与えないよう、税率が十分に控えめなレベルに抑えられている。

 

以下に、このようなCTDLがどのように機能するかの詳細を、イギリスポンドとノルウェークローネの例を使って解説する。また、このCTDL案がこれら3つの条件をどのように満たしているかを説明する。

 

CTDLの実施

 

2002年のCLS銀行の開始以来、同システムへ移行した外国為替取引の割合は増え続けた。現代、世界で行われているすべてのポンド、クローネおよびユーロ取引のうち60%強が、CLSシステムを通して実施されている[19]。残りの取引のうち、圧倒的多数がそれぞれ英国のCHAPS、ノルウェー銀行のNBO、および欧州中央銀行のTARGETシステムを通して処理されている。このため、これらの特定通貨専用のシステムは、CLSの加盟銀行に直接連結しており、この連結を通して他の主要なRTGSシステムともつながっているのである。

 

このため、CTDLが効果的であるためには、同税はいくつかのレベルで実施されなければならない。このうち最も簡単な方法はCLS銀行を通して実施することである。上述したように、すべてのポンド、クローネ、ユーロ取引の60%以上がCLSシステムで決済されている。CLSシステムにおいてこれらの取引を特定するのは容易である。たとえば、英国家財政委員会はこの点が妥当であることを認めている。その理由は、この方法が実際に容易であるからである。また、英国が同税を実施することになれば、CLS銀行にも遵守してもらう必要があるから、というのが主な理由である。

 

英国家財政委員会は次のように述べている。

「技術的に言えば、CLSを通して通貨取引税(CTT)を一国・一地域単独で課税することは可能である…CLS銀行は15の通貨で決済しており、このため同銀行は各管轄区域の関連法に従わなければならない。この関連法にはたとえば、一国・一地域単独で実施される通貨取引税も含まれる。」[20]

 

ポンド、クローネ、ユーロの外国為替取引すべての60%以上に課税できたとしても、CTDLは残る取引の課税にも取り組まなければならない。(上述したように、この「残り」の占める割合は今後数年のうちに非常に低くなると考えられるが。)この点で間違いなく最も重要な位置を占める機関は、LVPSであろう。具体的には、各3地域におけるCHAPS、NBOおよびTARGETである。ここでは、LVPS分野の発展が、効果的なCTDL実施の実現可能性へのカギをにぎっている。

 

実際にCTDLはどのように徴税されるのか?

 

たとえばノルウェーで、ノルウェーの銀行1(以下N銀行1)がノルウェーの銀行2(以下N銀行2)からノルウェーの金融資産を購入したいと考えたとする。売却価格が合意されると、N銀行1は、ノルウェー銀行にある自行の決済口座からその価格分を引き落とし、N銀行2の決済口座にその金額を振り込むよう指示するSWIFTNetメッセージを関連LVPSに送信する。これと同時に、N銀行2は当該資産の所有権をN銀行1に移行するよう要請するSWIFTメッセージを送信する。SWIFTはこの2つのメッセージを適合させ、両銀行に確認を求めその確認を受け取った後、クローネの金額と資産の所有権をそれぞれ移行する。この場合、取引は両サイドともクローネで行われるため、CTDLの対象とはならない国内取引となる[21]

 

しかし国際的な取引では、状況は少々異なる。N銀行1がクローネで米ドルを購入しようと考えたとしよう。N銀行1は米国銀行1(以下米銀行1)に(いくつかの可能な経路のうちの一つを通して)売買を提案し、提案が受け入れられたとする。上記の国内取引の例と同様、N銀行1はしかるべき額のクローネをノルウェー銀行にある自行の決済口座から引き落とし、中央銀行にあるN銀行2の口座にその金額を振り込むよう要請するSWIFTメッセージをLVPSに送信する。(ここでは、標準的な国際銀行業務の慣行を反映し、米銀行1がエスクロー勘定としてN銀行1の口座に保有クローネを保持していると想定する。)これと同時に、米銀行1はしかるべき額のドルを自行の残高から米国銀行2(以下米銀行2)の口座へ振り込むよう要請するメッセージを自国のLVPSに送信する。(ここでも、N銀行1が米銀行2の口座に保有ドルを保持していると想定する。)

 

ノルウェーでは、SWIFTはN銀行1にこの取引を確認するよう要請する。SWIFTはN銀行1からの確認を受けると、ノルウェー銀行にあるN銀行1の口座から当該金額を引き落とし、N銀行2にこの額を振込む。しかし国内取引と異なり、SWIFTはこのN銀行1のメッセージともう一つのクローネをベースとした取引のメッセージを、システム内で適合することができない。このため、国内のPVP決済プロセスでは双方の取引を適合させ決済リスクを解消する必要があるが、国際的な外国為替取引ではNBOなどの国内のシステムにおいてPVP決済を行うことができない。これは、国際外国為替取引では双方の取引が、(多くの場合異なるタイムゾーンで運営される)異なる各国内のLVPSで行われるからである。このようにクローネでの取引の一対が適合できないことにより、この取引が外国為替取引であると特定され、この取引はCTDL課税の対象となるのである。

 

このような方法で、CLSシステムおよびNBOを通して世界的に行われるクローネ取引の圧倒的多数が特定されるため、CTDLはノルウェー一国単独で実施することが可能となる。上記の定型化された例が示すように、この方法は国内のLVPSにおけるPVP決済システム、およびCLS銀行が用いているPVP決済方式に基づいている。しかし、このプロセスを円滑化し可能とする「潤滑油」の役割を果たすのは、金融セクターにおいて標準化され広く使用されているメッセージフォーマットである。

 

外国為替取引が決済できるさまざまな連結システムの重要な特色は、これらがSWIFTNetのメッセージシステムを使用しているという点である。重要なことに、SWIFTは過去においても現在においても、FXallなどの主要な外国為替の電子取引プラットフォーム、および主要な外国為替のバイラテラルネッティング(2者間で行われる相殺決済)、マルチラテラルネッティングの世界的システムにも、メッセージサービスを提供している。このようなSWIFT使用の世界的な広がりによって、CTDLの適用範囲をさらに拡大し、CHAPSにおけるポンド、NBOにおけるクローネ、TARGETにおけるユーロのすべての外国為替関連取引を確実に特定することができる可能性がある。

 

SWIFTが運用される各システムにおいて、SWIFTNetは自社のFINシステムを通して加盟金融機関間の安全な支払メッセージサービスを提供している。さらに重要なことに、SWIFTは個々の外国為替取引の確認に使用される専用のメッセージ様式(MT300)を持っている。このため、CLSシステムにおいてであろうと、CHAPS、NBO、TARGET、FXall、またはマルチラテラルネッティングシステムにおいてであろうと、外国為替取引はFIN MT300メッセージまたはその変形を用いて取引先企業間で確認されることになる。

 

MT300メッセージはまず外国為替契約に合意した当事者らにより、または当事者らを代行して交信される。MT300メッセージは、契約の修正および、以前に行われた確認の取り消しも扱っている。これは、本CTDL提案において重要なポイントとなる。というのも、この機能があることによって、CTDLがポンド、クローネ、またはユーロの最終的な外国為替取引にのみ課税されることが保証できるからである。また、MT300は個々の外国為替取引の確認を行うものであるため、各取引に続くかもしれないバイラテラルネッティングのプロセスに先行して確認が行われる。バイラテラルネッティングのプロセスが行われた後では、関連する個々の取引を特定することができなくなる可能性があるため、これも重要な点である。

 

各MT300メッセージでは、いくつかの項目が入力されなければならない。外国為替取引の場合、この必要項目には、当該通貨と売買される金額が含まれる。MT300メッセージの必須項目(Mandatory Subsequence)セクションの中でこれらに該当する部分は、購入した通貨と金額についてはB1(Tag 32b)、売却した通貨と金額についてはB2(Tag 33b)である。したがって、ポンド、クローネ、またはユーロ取引を特定するのに必要な情報はすべて揃っていることになる。専用のインフラは必要ないというわけである。

 

このためMT300のメッセージシステムは、「従来の」外国為替市場におけるポンド、クローネ、またはユーロ取引の大部分を掌握することができる。しかし、その他にまだOTC(店頭)デリバティブ市場の分野が残る。しかし重要な点として、この市場もまたMT300系のメッセージにより扱われるのである。これらのメッセージは、外国為替操作が実行されたことを確認するために使われる。この場合のメッセージフォーマットとしては、MT305およびMT306が使用される。その他すべての外国為替のOTCデリバティブ契約は、SWIFTスタンダードのメッセージフォーマットの3つめのカテゴリとなる、MT300~MT341、およびMT350~MT399のフォーマットを用いて扱われる。従来の市場の場合と同様、これらのメッセージ内には通貨、金額、取引先企業が入力される必要があり、また契約を修正、取り消しできる機能も必要とされる。

 

続いてCTDL実施に必要となる「配管工事」としては、CTDLを徴税するためにこの様式で送信される関連メッセージを中枢部に集める必要がある。しかしここでも、既存のネットワークに便乗して、SWIFTNet FIN Copyというコピーメッセージ機能を利用することが可能である。SWIFT FIN Copyメッセージは、中央集権化されたRTGSシステムでの決済を促すものであるため、同メッセージの受取人のほとんどは中央銀行である。この目的に最も適したテンプレートはFINInformであろう。というのも、これは当事者の身元または送信されたメッセージの種類に応じてメッセージのコピーが中央銀行に送信されるものだからである。

 

このため、従来の市場およびOTCデリバティブ市場におけるMT300~MT399の外国為替メッセージ送信をトリガー(プログラムに特定動作を起こさせる入力)とする、SWIFTInformメッセージサービスを確立することが、本CTDL案の重要なポイントとなる。この場合、たとえばポンドに関わるすべての外国為替取引について、メッセージの一部のコピー(通貨、金額、取引先企業)が自動的に、イングランド銀行に送信されるようにする。本提案のすべての側面同様、このプロセスはすべて自動化され、また専用のインフラを必要としない。次に、集められた情報を元にCTDLがどのように徴税されるかについて解説する。

 

下図は、ポンド取引を例として、CTDLが既存の決済インフラを利用して実際どのように実施されるかを示したものである。

 

 

 

 

 

 

図2 世界的なポンド支払・決済システム

 

 

図3 ポンド印紙税が採用された場合の世界的なポンド支払・決済システム

 

CTDLの徴税と租税回避の予防

 

上述した方法で課税対象を特定した後は、CTDLの徴税は比較的単純なプロセスである。CLSシステムに参加するためには、金融機関はCLS銀行に口座を開設している必要がある。しかし実際には、英国に拠点を置くCLS銀行加盟機関はイングランド銀行に、ノルウェーに拠点を置く加盟機関はノルウェー銀行に、ユーロ圏の加盟機関はそれぞれの中央銀行に口座を設けている。これにより、CLS銀行はCLS銀行に対する流動資産要件に従ってこれらの口座からの出金、これらの口座への入金を行うことができる。このためCLSシステムにおいてCTDLを課税するには、これら当該口座から直接徴税すればよい。

 

これと同様に、CHAPS、NBOまたはユーロ圏のRTGSシステムに参加するには、金融機関はそれぞれの中央銀行に決済口座を開設している必要がある。このため、支払われるべき税が特定されRTGS加盟機関までたどることができれば、中央銀行に設けられた当該の決済口座から、こちらも中央銀行に設けられた財務省の口座に、税金分の金額を移せばよいのである。

 

全般にSWIFTメッセージシステムは、(そして特にFINInformのコピーメッセージ機能は、)日常ベースで完全に自動化されている。このため、税の特定と中央銀行にある当該口座からの徴税を促進するため関連システムに若干手を加える必要はあるものの、変更は比較的少なくて済む。さらに、始動のための固定費用が賄えれば、システムの運営にかかる限界費用は非常に少ない。

 

CLSシステムおよび各国レベルのLVPSに直接加盟している機関の数は比較的少ない。これは、これらの加盟機関が第三者である顧客を代行して取引全体のかなりの割合を実行しているからである。こういった市場参加者は、直接課税されはしないが、CTDLの影響を受ける。つまりCLS銀行、CHAPS、NBO、またはその他のRTGS加盟機関が外国為替業務の実行と引き換えにこれらの市場参加者に請求する手数料に、CTDLが直接反映されるのである。

 

残るポンド、クローネ、またはユーロの取引(たとえば企業によるもの)もまた、上述したSWIFTNetメッセージサービスを使用するため、特定することができる。さらに、これらの取引は取引を行う企業を代行して取引先銀行が決済する。これらの取引先銀行は、各自の中央銀行またはCLS銀行、もしくはその両方に口座を設置している。この結果、最終的にはこれらの外国為替取引にもCTDLが課税されることになる。

 

運営費

 

SWIFTメッセージの費用は平均で各メッセージ約0.067ポンド(0.82クローネ、0.1ユーロ)である。CLS銀行は1日に20万件の取引を決済している。これはすべての外国為替取引の半数以上である。このため外国為替市場全体を掌握するには、1日40万メッセージが必要となる。下の表では、現在議論している3つの通貨について、SWIFTコピーメッセージ送信を実施するのに必要な費用の見積もりをいくつか示している[22]

 

表1 SWIFTコピーメッセージの実施に関わる費用見積もり

 

ここまで(a)外国為替取引の特定(b)CTDLの徴税の2点に関する実現可能性を立証してきたが、最後に残る問題はどのようなレベルの税率を設定するのが適切か、という点である。ここでの目的は、税収自体を最大まで増やすことではなく、ミレニアム開発目標(MDG)達成のための資金を提供するのに十分な税収を得ることと市場のゆがみを避けることをうまく両立させることである。

 

2004年に、ポンド、クローネ、ユーロ取引は、世界の外国為替取引全体(総額で1日平均1兆8800億ドル)のそれぞれ8.5%、0.7%、18.6%を占めていた。つまり3通貨それぞれ、1日合計約1600億ドル、130億ドル、3500億ドルが課税対象となる可能性を秘めていたということになる。

 

下の表は、1年に260取引日があると想定した場合の、異なるCTDL税率における年間税収額の試算を示したものである[23]

 

 

 

 

 

表2 さまざまな税率における年間税収額の試算

 

上記から分かるように、仮に税率1%で課税した場合、何千(または何百)億ドルもの税収を上げることができる可能性がある。しかし、CTDLをこのレベルに設定すると、確実に市場をゆがめる結果を招き、取引高が劇的に減少することになる。0.1%のレベルでも、理論的には相当な額の年間税収が可能となる。しかし、標準的なスプレッド(買値と売値の差)はこのレベルより低いため、この10ベーシスポイント(bp)の税率でも市場にかなり大きな影響を及ぼすだろう。特に、この税率では同税が取引の阻害要因となり、取引高が落ちる結果となる可能性があり、その場合減少した取引高に応じて税収も減少することになる。

 

より現実的なCTDLの税率は0.01%(1ベーシスポイント)であろう。この場合、ポンド、クローネ、ユーロ取引からの年間の税収はそれぞれ41.5億ドル、3.4億ドル、90.9億ドルとなる。1ベーシスポイントのCTDLなら、それぞれの通貨市場に大きな混乱を招かないと考えられるが、私達はこの税率は提案していない。本提案では、CTDLを0.005%(0.5ベーシスポイント)に設定している。この低い税率ならば、同税が市場をゆがめると反論するのは非常に難しいだろう。しかし、それでも同税は相当額の税収を生み出すことになる。

 

以上のことから私達は、控えめな条件に基づき、英国の場合は20.8億ドル、ノルウェーの場合1億7000万ドル、ユーロ圏の場合45.5億ドルのCTDL税収が得られると見積っている。もちろん、これはCTDLの実施が取引高に影響を与えないことを前提としている。税率レベルが非常に低いことから、これは不合理な前提ではない。しかし、用心のため、通貨の取引高が2.5%減少すると想定しよう。すると年間の税収は英国の場合20.3億ドル、ノルウェーの場合1億6700万ドル、ユーロ圏の場合44.3億ドルとなる。この2.5%という数字は、国連の依頼により作成された通貨取引税による税収の可能性に関する報告書に基づいている(Nissanke、2003)[24][25]

 

CTDLを徴税する法定権力を持つ政府機関は、他の税と同様、各税務当局である。しかし、課税対象の資金が中央銀行の口座に置かれていることから、徴税のシステムは非常に単純化できる。たとえば英国では、CHAPSシステムを通して税金を支払うことはすでに可能となっている。このことから分かるように、最も簡単な徴税方法は、税務当局の専用CHAPS口座に税金が直接支払われるという方法である。この口座はイングランド銀行に開設される。他の通貨についても同等の措置が取られるとよいだろう。

 

ここまでの議論すべてにおいて、私達は潜在的に徴税できる税収の見積もりを出す際、非常に控え目な数字を選んできた。つまり、従来の市場にのみ焦点を当て、OTCデリバティブ市場を無視してきた。OTCデリバティブ市場では、従来の市場より多い1日2兆3170億ドル相当の通貨が取引されている。すでに述べたように、このOTCデリバティブ市場で税を実施することは、従来の市場で実施するのと複雑さの点で差異はない。このため、従来の取引およびOTC取引における特定の通貨取引の割合がおおよそ同様であると想定した場合、ポンド、クローネ、ユーロ取引に0.005%課税した場合の実際の潜在的税収は、ここまでに私達が計算した金額の2倍以上となる。

 

経済的な影響範囲

 

CTDLの「経済的な影響範囲」はまず第一に、CLS銀行およびNBOやCHAPSのようなRTGSシステムに加盟する大規模金融機関に及ぶ。これらは主に国際銀行および最大級の国内銀行である。CTDLの影響がここまでに達するだけなら、次ページの表3および表4が示すように、主要な国際銀行はこのコストを容易に吸収できるに違いない。

 

大規模な国際銀行は世界的な外国為替市場を独占している。各通貨地域の大規模な国内金融機関とともに、これらの国際銀行はポンド、クローネ、ユーロを含むすべての通貨に関して、外国為替市場の大部分を占めている。これらの銀行による取引は突き詰めれば、これらの銀行が幅広い顧客から請け負っているものである。たとえば、CLS銀行では毎日20万件の異なる取引が決済されていると見積もられている。この数字から、世界的な外国為替市場における最終的な市場参加者数の規模をある程度想像することができるだろう。

 

ここで、ポンドに対するCTDLの対象者、また同税が企業に与える影響を手短に検討してみたい。これまで見てきたように、CLS銀行は1日平均20万件の外国為替取引を処理している。世界規模の状況と一致させる形で、20万件のうち取引の一方がポンドである割合が17.5%だと想定する。すると、CLS銀行におけるポンド取引は1日3万4000件と計算できる。

 

表3 主要国際銀行の収益(2005年)[26]

銀行 2005年収益
シティグループ 250億ドル
HSBC 160億ドル
UBS 110億ドル
JPモルガン・チェース 80億ドル
バークレイズ 70億ドル
ゴールドマン・サックス 60億ドル
ABNアムロ 50億ドル
メリルリンチ 50億ドル
モルガン・スタンレー 50億ドル
ドイツ銀行 40億ドル

 

表4 ノルウェーの主要銀行の収益(2005年)[27]

 

銀行 2005年収益
Nordea 40億ドル
DnB NOR 20億ドル
Handelsbanken 20億ドル
Skandinaviska 10億ドル

 

しかし、CLS銀行はすべての外国為替取引の約半分しか決済していないため、世界的に実行されているポンド取引の件数は6万8000件ということになる。このため一年間では、合計1770万件のポンド取引が行われていると見積もることができる。CTDLの影響は、この1770万件の取引を実行している何万人もの市場参加者に、非常に広く国際的に分散されることになる。取引毎の費用は約117ドルで、取引の規模は平均200万ドル強である。

 

しかし企業の場合、状況は明らかに異なる。たとえば、英国は年間約3800億ドル相当の物品、サービスを輸出している。1990~2002年における英国の会社の利益幅に基づくと、平均利益幅は10%と想定される[28]。3800億ドルの10%は380億ドルであるため、これを英国の輸出分野における大体の年間収益と見積もることとする。英国企業に対するCTDLは約1億1500万ドルである。この結果、英国の輸出業者への影響としては年間収益のたった0.3%ということになる。これは企業の収益性に影響を与える他の多くの要素に比べて非常に小さな割合である。たとえば、過去10年間で、英国の企業の平均収益性は年間最大10%も変動している。このため一般的な業況の変化、金利やポンド為替レートなどの指標の変動と比べれば、0.005%のCTDLが識別可能な影響をほとんど与えないことは明らかである。これはユーロおよびクローネに対するCTDLの影響についても言えることである。

 

これらを検討した結果、私達はCTDLが生む負担のうち少なくとも半分が、最終的には若干広めに設定されたスプレッドとして銀行から世界の顧客に回されると予測している。このためCTDLの影響は、世界の金融システム全体に広く分散することになり、一機関に偏って負担がかかることはない。

 

結論

 

この章では、国際支払・決済システムの発展が、共通の技術的システム、通信システムにより円滑化されつつ、相互に関連する世界的ネットワークを作り上げてきた過程を見てきた。まさにこの相互に依存したネットワークの発展によって、現在どの通貨に対しても一国・一地域単独でCTDLを実施することが可能となったのである。市場のゆがみを生み出すのを避けるために、本提案では特定の通貨によるすべての外国為替取引に0.005%の税率を課税することを提案している。またこの章では、CTDLを効率的に特定し徴税するメカニズムを論証してきた。

 

私達は、各国・各地域単独でのCTDL実施を通して創出できる年間の税収を、非常に控え目な計算に基づいて提示した。具体的には、英国では20.8億ドル、ノルウェーでは1億7000万ドル、ユーロ圏では45.5億ドルである。この税収を同システムの運営費用見積もりと比較すると、管理費および徴税費用は極小であり、国際開発目的に使用できる額が最大限確保されることは明らかである。

 

最後に私達は、CTDLの影響を受ける金融機関にとって、その影響は(国内においても海外においても)金融システム全体に広く分散し、たとえば英国では、最終的には平均200万ドルの外国為替取引に対してたった117ドルの負担となることを示した。

 

企業の輸出分野について言うと、たとえば英国では、平均的な年間利益幅10%に対して0.3%という、上記同様に控え目な負担となることを示した。これらの金融セクターおよび非金融民間セクターは明らかに、本提案で設定した税率のCTDLによる影響を、容易に吸収することができるだろう。これは、他の国・地域の当該機関に関しても言えることである。

 

 

 

第3章 異議に対する反論

 

この章ではまず、通貨取引への課税案に対する最も一般的な批判を2つ挙げる。次に、CTDLがトービン税とは全く異なるものである理由を説明し、その後最も広く議論されている争点に関しての反論を述べる。

 

2つの典型的な「租税回避」批判

 

● すべての国がCTTを同時に実施しない限り、CTTの支払いを回避するために通貨取引は他の取引へ移転される。(このいわゆる多国間実施という議論はCTTの推進を阻むために何年も使われてきたことから、この問題を最初に扱うことが重要である。)

 

● 取引の移転によりCTTが回避できないとしても、同税の支払いを回避するために、改造された、または新たに作られた外国為替商品が使用されるようになる。

 

本CTDL案は、これらの障害および旧来の論点を主に次の2つの理由から克服することができる。

 

CTDLはある国が自国の通貨に対して課税するものである。これは自国で取引されるすべての通貨への課税とは違い、世界中で取引される自国の通貨に課税するものである。この違いが非常に重要である。特にこの違いによって、一国による単独実施または志を同じくする国のグループによる実施が可能となるため、この違いは実現可能性の面で重要なカギとなる。このような実施がうまくいくのは、(前章のBOX1にあるノルウェー銀行速報に示されるように)通貨がタックスヘイブン(租税回避地)を含む世界のどこで取引されようと、その国の中央銀行が自国の通貨取引の中心的役割を果たしているからである。CTDLの支払いは他のすべての税と同様、法律上の義務である。この支払いを回避しようとすれば、その金融機関は自社の世評を危険にさらすことになる。非常に少額の税を回避するためにこのようなリスクを冒すことは理にかなった行為ではない。(これについては以下に詳述する。)

 

本CTDL案で提案している税率は、もともとのCTT提案の200分の1である。これが長年CTTに抵抗してきた旧来の懸念の多くを覆す数々の結果を生む重要な要素であることは明らかであろう。提案している0.005%という税率は非常に低く、通常の市場の機能に影響を与えることはない。同様に、これは租税回避のために手の込んだ対策を取るに値しない税率である。以下に示すように、この税率では、租税回避により金融機関が得られる利益よりも損失の方が上回ってしまう。0.005%のCTDLを回避するのは基本的に不経済なのである。

 

CTDLはトービン税ではない

 

ジェームズ・トービンが1970年代に提唱したもともとの考えは、外国為替市場で働く動機を、課税によって変化させるというものであった。トービンが提唱した税の目的は、日々の通貨取引を妨げ[29] 投機的活動を阻止することであった。同氏がこの提案を行った時代の通貨市場の売買高は1日180億ドルであった。これに対し、現在の売買高は1日2兆ドル弱である。またトービンが提案した税率は本提案で設定した0.005%の200倍に当たる1%であった。さらに、税収はたとえば開発などの特定の目的に使用するよう指定されていなかった。

 

CTDLはこれとは全く異なる。CTDLのレゾンデートル(存在理由)は開発のための資金調達手段を提供することである。その税率は、通常の市場の働きを妨害しないようにしつつ、取引される売上高のほんの上澄みをすくい取るために設定されている。この2つの提案に共通する要素は、両税とも通貨に関わる税であるということだけである。このためCTDLは、異なる時代に生まれ、異なる税率を持ち、異なる目的のために設計されたという意味で、トービン税とは根本的に違うものである。

 

旧来の争点

 

金融市場の参加者は、新たな外国為替商品を創り出すことにより、またはオフショアのタックスヘイブンや他の課税対象外の管轄区に通貨取引を移転することにより、CTDLを回避するか?

 

批評家の意見に反し、(通貨取引が行われる司法管轄区に課税される税に対し)通貨に課税されるCTDLを回避するインセンティブは非常にわずかである。CTDL(もしくはどのような税でも)を回避するインセンティブの有無は税率レベルによるところが大きい。銀行および他の金融機関は、租税回避の潜在的コスト(罰金、資格の一時停止、世評に関するリスク、実際に新たな法人組織や商品を通して租税回避するための技術的コスト)と遵守した場合のコスト(利益総額のほんのわずかな一部分または顧客に請求するコストの微増額)を比較検討する。0.005%という非常に低い税率では、回避する場合のコストが遵守する場合のコストを大きく上回ることが予測されるため、同税を回避するインセンティブは非常に低いと考えられる。

 

新たな商品を使いCTDLを回避する余地も非常に限られている。本提案で私達は、取引の種類や継続期間にかかわらずすべての取引に課税することを提案している。各外国為替商品はそれぞれ独自の機能を持っており、課税対象外の完璧な代替品を見つけることは難しいため、変わり種の金融商品を使う余地は非常に少ない。たとえCTDLを回避するために独創的な手段が取られたとしても、各国の課税体制は固定的なわけではない。たとえば所得税などの徴税は、納税者がなるべく支払う税を少なくしようと常に努力する一方で税務当局はなるべく多くの税を徴税しようとする、いわば「いたちごっこ」である。税法を回避しようとする行為は市場での展開を監視する当局の反撃に合う。また、市場の性質上、租税回避は技術的に難しくなっている。現在では外国為替取引を電子的に追跡できるようになっているからである。さらに、支払システムは金融の安定に非常に重要であるため、租税回避のためであれ他の理由であれ、金融機関が支払システムの使用を避けるのを監視機関が許すとは考えられない。つまり必要とされているのは、CTDLを実施する政治的意思、また確実な支払いを保証し租税回避を罰するために必要な法的執行のシステムを提供する政治的意思である。

 

取引の移転により同税を回避する余地もまた、わずかである。それは、私達の提案ではCTDLは特定の司法管轄区ではなく特定の通貨に課税されるものだからである。つまり、一旦ある国が同税を実施すれば、その通貨に関わる外国為替取引は世界のどこで行われようと課税される。国際決済システムは、最終的には特定通貨の国の中央銀行に頼っているため、取引が行われる場所にかかわらず、同税を徴収することができる。

 

以前はCTDLを一国・一地域単独で実施できなかったかもしれないが、今ではそれが可能である。歴史的に見ると、世界的な外国為替市場は(お互いにほとんどまたは全くつながりのない)異なる要素の寄せ集めであった。取引は取引先同士で電話を通して手動で行われ、互いにほとんどつながりのないさまざまなシステムで決済されていた。現在では、世界的な外国為替市場の各要素は共通の技術的プラットフォーム上に構築され、共通の電子メッセージ供給業者が使用され、共通のシステムを通して電子的に取引が行われている。そしてこれらすべてのシステムは、各監視機関により厳密に管理監督されている。

 

経済的影響:誰がCTDLを支払うのか?影響範囲はどこまで広がるのか?同税の実施により市場の活動は変わるのか?

 

外国為替市場は、比較的少数の大規模な国際銀行が独占している。最初にCTDLの「経済的な影響範囲」に入るのは、CLS銀行および即時グロス決済(RTGS)システムに参加しているこれらの大規模な金融機関である。これらの金融機関が得ている収益の規模から見れば、これらの機関は同税をたやすく吸収できるだろう。しかし、これらの機関はスプレッドを若干広げることにより、できる限りこのコストを広範な顧客に回そうとするだろう。CLS銀行は、毎日平均20万件の取引(世界合計の約半分)を決済していると見積もっている。この数字から、世界的な外国為替市場における最終的な市場参加者数の規模をある程度想像することができるだろう。このためCTDLの影響は、世界の金融システム全体に広く分散することになり、一機関にかかる負担は最小限に抑えられる。

 

この点をさらに強調するため、ここでポンドに対する0.005%のCTDLの例を使って説明したい。上述したように、CLS銀行は1日平均20万件の外国為替取引を処理している。世界規模の状況と一致させる形で、20万件のうち取引の一方がポンドである割合が17.5%だと想定する。すると、CLS銀行におけるポンド取引は1日3万4000件と計算できる。しかし、CLS銀行はすべての外国為替取引の約半分しか決済していないため、世界的に実行されているポンド取引の件数は6万8000件ということになる。このため一年間では、合計1770万件のポンド取引が何万人もの市場参加者により行われていると見積もることができる。この1770万件の最終的な取引を見ると、取引毎の費用は約117ドルで、取引の規模は平均200万ドル強である。

 

しかし企業の場合、状況は明らかに異なる。英国は年間約3800億ドル相当の物品、サービスを輸出している。1990~2002年における英国の会社の利益幅に基づくと、平均利益幅は10%と想定される[30]。3800億ドルの10%は380億ドルであるため、これを英国の輸出分野における大体の年間収益と見積もることとする。英国企業に対するCTDLは約1億1500万ドルである。この結果、英国の輸出業者への影響としては年間収益のたった0.3%ということになる。これは企業の収益性に影響を与える他の多くの要素に比べて非常に小さな割合である。たとえば、過去10年間で、英国の企業の平均収益性は年間最大10%も変動している。このため一般的な業況の変化、金利やポンド為替レートなどの指標の変動と比べれば、0.005%のCTDLが識別可能な影響をほとんど与えないことは明らかである。

 

0.005%のCTDLを回避するのが基本的に不経済なのはなぜか?金融機関はCLSシステムの利用を止めることによってCTDL回避を試みる価値はあるのではないか?

 

すでに述べたように、CLS銀行設立の主な理由は、国境を越えた外国為替取引における決済リスク(ヘルシュタット銀行の崩壊で明らかになったような)を解消することである。この意味で、CLS銀行は著しく成功したといえる。同システムは2002年に開始されて以来、ほぼ完璧に機能している。各主要銀行の日々の取引における合計額を考えると、外国為替市場に関わる主要な国際銀行が一行でも破たんすれば、その破たんは波及効果をもたらし世界中でシステムリスクを生み出し、個々の銀行および、最終的には各国レベル、国際レベルの支払・決済システムに予期せぬ結果をもたらす可能性がある。

 

もしもCTDLの導入によって現在の加盟機関がCLSシステムを離れることになれば(または金融機関が同システムに加盟する意志がくじかれるようであれば)、これは深刻な結果を招くことになる。しかしCTDLが銀行にとってCLSシステムを離れるインセンティブとなるには、CTDLを納税する場合のコストがCLS銀行への加盟がもたらす利益を上回る必要がある(ここでもポンドへの課税を例に説明する)。つまりこれは単純な費用対効果の問題である。ポンドにCTDLが課税される場合、この方程式の両側を比較するとどうなるだろうか。

 

CLS銀行の加盟機関が同システムに加盟する場合、固定費と変動費の両方が関わってくる。固定費では、ITシステムの開発、組織的な実務の構築、同システム上での職務遂行を可能にするためのスタッフ研修にかかるコストがある。変動費では、CLS銀行への参加により、定量化できる大幅な効率向上が得られる。また、最低流動性要件・正味の資金調達額に関係するコスト削減が可能となる。

 

効率向上

 

金融機関がCLS銀行に加盟することによって得られる主な利益は、スタッフの数はそれまでと同じで(またはそれまでより少数で)外国為替の取引量を増やす能力を向上させることができる点だ。この点は、ロンドンに拠点を置くZ/Yen社の研究グループが2004年のデータを元に行った調査の結果により明らかにされている[31]。調査結果によると、銀行間の外国為替の平均売買高が1年で大幅に増加した一方で、同じ期間内に平均人員数は減少している。調査では、CLS銀行への参加によって同システムに加盟した機関は32%の直接的な効率向上を得たとことが実証されている。では、各外国為替取引が(スプレッドという形で)1.5ベーシスポイントの純益を生み出すと想定し(これは妥当な想定である[32])、この効率性向上の効果を見積もってみよう。CLSシステムは毎日2兆ドル相当の取引を処理している。しかし、CLS銀行のデータは、各取引の両サイドのデータを含んでいるため、発表されたこの数字は半分にする必要がある。1日の利潤は1兆ドルの1.5ベーシスポイントであるから、1億5000万ドルと見積もられる。しかし上述したように、CLSシステムで得られる運営上の効率性向上によって、システム参加者は経常的支出を増やすことなく取引の規模を32%増やすことができる。この結果、CLSシステムへの参加により、外国為替取引の利潤を1日1億5000万ドルから1億9800万ドルに増やすことができる。つまり、システム全体としての利益は1日につき4800万ドルの増加となるのである。これを一年に換算すると、この効率性の向上は、CLS銀行参加者にとって124.8億ドルの直接的な利益となるのである[33]

 

流動性・正味の資金調達額に関わるコスト

 

各国内の「RTGS」システムのうち頭文字「G」は、ネット(相殺後の正味額)ではなくグロス(総計)を意味している。CLS銀行の取引もグロス決済の形で行われるが、資金調達は正味額に基づき行われる。この方法によるメリットをCLS銀行は次のように説明している。「決済する加盟機関が取引ごとの総額を資金調達するのではなく、必要な日々の資金調達を多通貨のネットポジション(純持ち高)に基づいて行うことを可能とすることにより、CLSは必要な資金調達額を90%以上削減した。」[34]

 

CLSシステムのこの機能は参加銀行に実質的な金銭的利益をもたらしている。参加銀行が銀行間市場において必要とされる正味の資金調達額のうち、10%を調達する必要があると想定しよう[35]。この10%という数字は、英国の主要な銀行が2000~2003年に経験した資金不足分の平均である。資金不足分は銀行の総預金と総貸付額の差額である[36]。この不足分は外部からの借入(国内または海外)により埋めなければならない。もちろん、国内での貸付における銀行の活動と国際的な外国為替市場における銀行の活動は大きく異なる。しかし、グループとして見た際に、(CLS銀行を通した金融活動において資金調達が必要とされる正味額が90%削減されることによる)流動資産の使用節約は、グループ全体として他の機能にその流動性を利用できるようになることを意味する。この結果、資金不足分が減ることとなり、そのためその銀行の活動を支えるために外部から調達しなければならない資金の額を減らすことができる。この不足分の減額規模は、CLS銀行への加盟により減らすことができる必要な流動資産の額を直接的に反映したものであると想定するのが妥当だろう。

 

CLS銀行の550加盟機関は、CLSシステムを通して1日平均2兆ドル相当の取引を実行している。このためグロス(総計)での資金調達額としては、全体で2兆ドルが決済のために使用可能となっている必要がある。(ネッティング(相殺)を全くしない場合、取引の両サイドの当事者が流動資産として全額を供給しなければならない。このため、上記では半分のデータを使用したが、今回は2兆円が実際の状況を正確に反映した額となる。)しかし必要な正味の資金調達額が90%削減されるとなると、システム内では2000億ドルが使用できればよいため、CLS銀行の参加者は全体で1日1兆8000億ドル分の流動性を節約することができる。平均でこのうちの10%分を外部から資金調達しなければならなかったと想定すると、ここで「節約」できる額は1日1800億ドルとなる。毎日3%のLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)でこの額を一晩借り入れると1年に54億ドルのコストとなる(3%の金利が年率で、1年の取引日が260日であると想定した場合)。この数字、つまり年間54億ドルが、CLS銀行の参加者が同システムへの参加の直接的な結果として得る節約分ということになる。

 

CLS銀行への参加で得られるメリットと、私達の提案するCTDLが与える影響を、定量的に比較する

 

前章では、CTDLが創出できる可能性のある税収を見積もった。ポンドに対するCTDLでは約20億ドル、ユーロでは45億ドル、ノルウェークローネでは約1億7000万ドルであった。以下に、銀行その他の金融機関がCLSシステムに参加することにより得られる潜在的利益を見積もることとする。

 

表5からも分かるように、CLS銀行への参加が生む利益が年間180億ドル弱という中、税率0.005%のCTDLの導入は租税回避のためにCLSシステム参加者が同システムの使用を止めるインセンティブにはなり得ない。実際、そのようなインセンティブとなるには、CTDLは提案された税率よりはるかに高いレベルで課税されなければならないだろう。

 

表5 CLS参加による銀行の利益

 

利益の種類 CLS参加により得られる年間の利益
効率向上 124.8億ドル
正味の資金調達要件が採用されることによる利益 54億ドル
合計 179億ドル

 

さらに、金融機関が(監督責任のある)中央銀行の容認を得られ、自己資本比率基準と反マネーロンダリング関連法規を遵守するためには、CLS銀行を去ることを希望する金融機関は厳密な規制管理を伴う上記の機能を備えた同等のシステムを設置する必要が出てくる。このため、このような許容範囲となる代替システムを通せば、結局CTDLを徴税することが可能となる。

 

金融派生商品を使用すればCTDLは回避できるか?

 

この報告書で説明したCTDLの税収予測は、数値に金融派生商品(デリバティブ)を含んでおらず意図的に控え目に見積もられている。しかし第2章では、デリバティブ取引に同税を課税することも容易であることを明らかにした。事実、私達はCTDLが従来の外国為替市場およびOTC(店頭)外国為替デリバティブ市場の両方に課税されることを想定している。このため、(特に、デリバティブ契約も最終的には従来の外国為替市場で決済されることになるため)取引活動をデリバティブ市場に移してもCTDLを回避することはできない。

 

ただし考えられる例外が一つある。それは「差額決済契約(CFD:contract for difference)」と「ノンデリバラブル・フォワード(NDF:non-deliverable forward)」で、ここでは取引の総額ではなく契約の差額(つまりネットポジション)のみが決済される。しかしそうだとしても、CFDやNDFを販売する金融機関は通常このエクスポージャー(価格変動のリスクにさらされる金融資産)を自らの帳簿に載せておくことを嫌うため、これらの契約に伴うリスクをヘッジしようとする。このヘッジプロセスは、すでにCTDLの範囲となっている外国為替市場内の分野でしか行うことができないため、これらの商品もまた同税の範囲内に入ることになる[37]

 

この点に関連する要素は他にもいくつかある。まず、CLS銀行はそのシステム内でデリバティブ契約を決済する能力を次第に備えてきている。CLS銀行は、NDF契約および外国為替オプション料のためにキャッシュポジション(現金持高:即時換金可能な持ち高)を決済する「端から端まで完全につなぐ」サービスを2007年までに提供開始する。そうなればCTDLの徴税プロセスはさらに単純化できる。

 

他のサービスと同様、デリバティブ契約を決済するCLSの能力が向上すれば、CLSシステム内において大幅なコストの節約が可能となるだろう。これまで見てきたように、金融機関は一旦CLSシステムに参加すると、外国為替業務の多くの割合を同システム内で決済する方が効率的になってくる。これはデリバティブを含む外国為替取引の形態すべてにおいて言えることである。

 

第4章 戦略的にニーズを満たす―CTDL税収の用途

 

私達は早急に資金調達が必要な分野を3つ特定している。この3分野を選んだ理由は、これらの分野で資金調達を実現することが多数の開発目標の達成に大きく寄与するからである。この3つの分野とは、水と公衆衛生の劇的な改善流行病克服のための保健医療人材への投資国連中央緊急対応基金(CERF)への資金供給の緊急増額である。これらはすべて、戦略的に貧困を克服するために必要な構造を築くのに、思いのほか重要な分野となっている。

 

清潔な飲料水および基本的な公衆衛生を提供するための投資

 

「これまでにない豊かさに恵まれた現在の世界において、コップ1杯のきれいな水と適切な公衆衛生が不足しているために毎年200万人の子どもが命を落としている。何百万もの女性と少女達が、水を汲み運ぶために何時間も費やしており、このため彼女らに与えられる機会と選択肢は制限されている。さらに、水系感染症は世界の最も貧しい国々における貧困削減と経済成長を阻止している。」[38]

 

現在、11億人が安全な水にアクセスできない状況で生活しており、26億人が穴を掘った簡易なトイレにさえアクセスのない不衛生な環境で生活している。この最低レベルの必需品にアクセスのない状況を私達は当然のように容認しているが、この状況は世界の最も貧しい地域で見られる非常に高い疾病率と死亡率に直接的に関係している。初歩的な浄水と公衆衛生設備さえない状況のために、毎年180万人以上(うち大部分が児童)が下痢のために命を落としている[39]。2億人以上が身体を衰弱させる水系の病気である住血吸虫症に感染している。コレラやチフスなど他の水系の病気はそれほど流行していないが、死亡率ははるかに高い。

 

すべての統計、個々の症例に関する証言から、開発コミュニティが水と公衆衛生の提供に関する危機に取り組めていないことが分かる。1990年から2004年の間に、浄水にアクセスできない人々の数は、合計11億8700万人からわずか1億1800万人しか減少していない。同様に、改善された公衆衛生にアクセスできない人の数は、1990年の27億1000万人から9800万人減少したに過ぎない[40]。このままの速度では、安全な飲料水と基本的な公衆衛生にアクセスのない人々の数を半分に減らすというMDG目標(目標7)が達成できないのは明らかである。

 

「安全な飲料水と清潔な公衆衛生設備の組み合わせは、保健医療および、貧困、飢え、児童の死亡、男女不平等に対する闘いを成功させるための前提条件である。」[41] 適切な水と公衆衛生設備の提供に関する目標およびコミットメントを達成できずにいることにより、その他のMDG、特に医療(目標6)、教育(目標2)、男女平等(目標3)に関連する目標の進展にも支障をきたしている。また児童の死亡率を削減するという目標4は、安全な水を飲み衛生的な環境に暮らす児童の数が増えない限り、実現できそうにない。教育への普遍的アクセスは、児童が病気のために、または水を汲みに行くのに忙しいために学校に通うことができなければ、達成することはできない。下痢のためだけでも4億4300万日分の授業日が失われている。女性や就学年齢の少女達は遠方に水を汲みに行くために1日平均何時間も費やしているため、これは男女平等に関する進展の支障となっている。

 

きれいな飲料水と基本的な公衆衛生へのアクセスがないために起きている問題の規模の大きさ、深刻さは疑う余地もない。それにもかかわらず、援助供与者の対応は不可解なものである。二国間の援助供与で見ると、水・公衆衛生分野に充てられた資金は金額で1995/1996年の28億ドルから2003/2004年の26億ドルに減少している。また、ODA総額に占める割合で見ても1999/2000年の8%から2003年には6%に減少している。この分野に充てると公約された合計額は、1995/1996年の36億ドルから2001/2002年の31億ドルへと急激に縮小した後、2004年には39億ドルに増額されている[42]。しかしこのような控えめな増額は、この規模の問題に取り組むには全く不十分である。

 

「水と公衆衛生は感染症削減に政府が使用できる最も強力な予防医学の一部といえる。」「この分野に1ドル費やす毎に平均8ドルのコスト回避、生産性向上が得られる。」たとえば、米国で20世紀の最初の約30年間に死亡率が半減したのは浄水によるものである。また英国における公衆衛生の拡大は、1880年以降の40年間に平均寿命が15年も伸びたことに寄与している[43]

 

このため私達は、ノルウェー政府の次の発言に同意する。「給水、衛生設備、衛生状態の改善は、貧困克服の闘いに不可欠である。」[44] 私達は、ノルウェー政府がCTDLの税収をUNDP人間開発報告書2006に概説された水と公衆衛生に関する世界的行動計画の策定と資金供給に率先して充当することを提案する。援助供給分野の中でも非常に重要なこの分野に対する支出を、現在のレベルから倍増することが急務である。CTDLのような長期的で予測可能な資金源の充当により、この分野に対する投資を促進することが可能であるため、このような資金源は医療、教育、男女平等、貧困に関わるMDGに前向きな影響を与える開発利益をもたらすだろう。

 

保健医療人材(HRH)に対する投資

 

「世界的医療において、私達はこれまでにない保健医療人材の危機に直面している。」[45] WHOは、57カ国(そのほとんどは最も重大な危機に瀕しているアジアとアフリカの国々)における不足を埋めるためには、400万人以上の医師、看護師、管理者その他の公衆衛生に携わる就業者が必要であると見積もっている[46]。また、人材と資金が不足しているということは、現在の労働者が過度の仕事を抱え、経済的な苦難、不安感、崩壊しつつあるインフラ、HIVなどの病気感染の高い危険性に直面しながら働いているということである。これらはすべて勤労意欲の低下につながる。「保健医療に携わる労働者の深刻な不足により、小児期の予防接種、母親に対する安全な妊娠、出産に関わるサービス、HIV/エイズ、マラリア、結核の治療へのアクセスといった、必要不可欠な救命ための診療の提供が妨げられている。」[47]

 

このHRH危機は大きな被害をもたらしている。たとえば、「マラウィでは必要とされるスタッフの数が大きく不足しており、平均寿命は1990年に48歳であったのが2000年には39歳と短くなっている。マラウィにおいて5歳の誕生日を迎える前に亡くなる子どもの数および出産時に亡くなる女性の数を減らし、HIVに感染したマラウィ人に治療を提供するには、適切な資源を割り当てられた医療サービスが必要不可欠である。」[48] 構造調整プログラムの下で実施された保健医療分野の改革では、保健医療従事者は医療システムの中核的な財産というよりは財政的な重荷と見られることが多かったため、十分な注意を払われてこなかった。この深刻な投資不足、最低生活賃金ぎりぎりの賃金、熟練したスタッフの転出、残るスタッフのHIV/エイズに関わる高死亡率により、問題は危機的状況に達している。これに労働者の不均衡な配分、不適切な技能の構成、知識の差があいまって、HRH危機は医療に関わるすべてのMDGにおける進展を脅かしているのである。

 

予防接種および熟練助産師の提供を80%達成するなどの、主要な目標を達成するには、人口2000人につき最低限でも5名の医療従事者が必要である。しかしこれに対し、サハラ以南のアフリカの6億人以上が、人口1000人につき1人未満の技能者しかおらず医者の数が合計で10万人未満しかいないという状況に置かれている。MDGを達成するには、アフリカでは医療従事者の数を3倍に増やす必要がある。つまり、100万人の増員が必要である。医療関連のMDG達成にはHRH対策を避けて通れないのであり、この危機は自然に消失するものではない[49]

 

世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)などの国際的なイニシアティブを通して動員された資金源が、重大課題に重点を絞りMDG達成に向けた進展のスピードを加速させるのに重要な役割を果たしてきたことは間違いない。特にUNITAIDなどの、最近開始された医薬品に焦点を合わせたイニシアティブにおいては、適切に訓練された意欲のある労働者なしに診断薬や治療薬は役立たないことを覚えておくことが非常に重要である。だからこそ、対象人口の基本的な医療ニーズ全範囲に取り組むための保健医療システムを確立することに重点を置く必要があるのである。

 

多くの援助供与者はこの状況の真意をまだ理解していないようである。HRH危機が存在しその影響が広範囲にわたっているにもかかわらず、医療従事者の研修や雇用といった平凡な活動よりも、医療施設の建設や医薬品の提供などのより目立つ介入のために資金を集める方がはるかに容易である。援助供与国は診療所の建設は安請け合いするが、スタッフ配属の費用を満たすという点では受益国政府を当てにしている[50]。しかしスタッフ不足の規模はあまりに大きく、最も貧しい受益国政府の多く(特に最も深刻な危機に直面している国々)はとても必要な資源を充てられる状況にない。就業前の教育、定期的な研修、および農村部門に就業するスタッフへの特別手当などのインセンティブが必要なことも考えると、この資源不足はさらに悪化する。

 

医療インフラへの投資のライフサイクルは短いが、人材への投資ははるかに長期的な視野が必要である。これは大部分のODA支出の対象期間と相いれない。ODA支出の多くは5年以上にまたがることがほとんどないためである。医療システムの供給を中核的な使命とする世界基金でさえ、資金提供の対象期間は3年から5年である。このタイムスパンは、長期的に医療従事者を教育し、訓練し、補充するには短すぎる。

 

HRH危機の解決には、援助供与者が割り当てる資金額を大幅に増額し、より長い20~30年という「ライフサイクル」での援助を約束するという解決策が、強く求められている。この状況においては、CTDLによって動員することのできる、長期的で予測可能な相当額の資金源が、非常に適切な資金源になるといえる。

 

中央緊急対応基金(CERF)の拡大への投資

 

「世界は地球規模で災害の可能性が高まっている状況に直面しているだけでなく、危険に対して脆弱な人々の数も増加している…」[51] 1995~1999年のデータと2000~2004年のデータを比較すると、報告されている年間平均災害数は55%増加しており、貧しい国々で災害の影響を受けた人々の数は100%近く増加している[52]「都市集中、気候変動の影響、環境劣化により、脆弱性は大幅に増している。」[53]

 

災害に直接的に関連しているもの、それほど直接的な関連性のないものを含め、人道的緊急事態の数も急増している。「食料危機は何度も繰り返しアフリカの眼前に現れる…私達はアフリカの食料危機が『当たり前』のこととして受け入れられるようになっているのではないかと懸念している。WFP(世界食糧計画)が危機の際に食料を提供するアフリカ人の数は、10年前に比べ倍増している。」[54]

 

このような災害や緊急事態は、MDG達成および持続可能な開発というさらに広範な目標に向けた進展を台無しにするものである。これらの緊急事態への対処を十分に行えなければ、何年もかけて開発努力を注いで得た成果を後退させることになる。

 

何億人もの人々を危険にさらす災害と脆弱性の急増に照らして見たとき、国際社会の対応は全く不十分である。たとえば、国連要請後の最初の月に提供された資金は、ニジェールの危機では要請された資金額の約22%、マラウィの危機では約30%に止まった。さらに広範囲でいうと、(急激に発生した災害やすでに存在する人道的危機の突然の状況悪化に対する)国連の緊急アピールは数日のうちに発表されるが、そのほとんどが最初の月に受け取る資金は、要請された資金額の30%未満である[55]。このような危機では、時間がかかるほど人命が失われる。

 

さらに、国連はアフリカだけでも1600万人が「放置された緊急事態と資金供給が不足した状態の危機」により危険にさらされていると見積もっている。ここでは、マスコミ報道が少なく政治的に目立たない、または長期化問題で援助供与者が援助疲れしているといった理由から、十分な人道的援助が実現していないのである[56]。ここ数年間、すでに存在する人道的危機および新たに起きた人道的危機に対処するために必要な資金額のうち、年間約10億ドルが不足する事態となっている。このため実質的に、当事国の対処方法と国内資源が尽きれば、人々は極貧、飢餓、死亡に直面するがまま放置されているのである[57]

 

この分野への資金増額が差し迫って必要とされていることに対応し、ノルウェーを含む数カ国が国連の既存の緊急対応基金をCERFという形で再開した。CERFは2つの使命を持つ。一つはスピードが重視される要件に対処するための早急な行動を推進することである。もう一つは資金供給が十分でない危機および放置された危機に対する人道的対処を強化することである。CERFは時機を得た形でより多くの資金を提供することによって、災害その他の人道的緊急事態に対処しようとしている。

 

しかし、4億5000万~5億ドルというCERFの控えめな資金調達目標でさえ、いまだ達成されていない。さらに、多くの解説者は現在の災害、緊急事態に対処するための資金不足を埋めるだけでも資金を最低でも倍増すべきだと考えている[58]。スウェーデンやオランダなど多くの国々が年間支出を約束しているが、このような複数年にまたがる公約の達成に関する開発コミュニティの過去の達成度は非常にお粗末である。このため、CERFもまた、現在の国連の人道的支援要請を悩ます資金の予測不可能性および資金不足という問題に直面する可能性が高い。このような事態は、開発コミュニティが緊急事態に適切に対処する能力を弱めるだけでなく、医療と教育を扱う目標(目標6および目標2)を含むいくつかのMDG達成における進展を後退させることになる。

 

増加する災害および人道的緊急事態に効果的に対処できる資金の迅速な支出を可能とするメカニズムを持たせるため、私達はCERFを年間最低10億ドルに拡大し、(少なくとも一部は)CTDLのような長期的に予測可能な資金源から資金供給されるようにすることを提案する。CERFに資金供給するためにCTDLを利用することは、合意された地球公共財の費用を支払うという、(国内で徴税され国際的に支出される)革新的な連帯税の精神に沿うものである。



[13] 米国では、公開株の取引、取引所での先物取引およびオプション取引に対して有価証券取引税が課税されており、同税からの税収は証券取引所委員会(SEC)などの金融規制機関の運営費用を賄うために使用されている。

[14] Bank Debit Taxes in Latin America: an analysis of recent trends, IMF Working Paper 67 (2001)(「ラテンアメリカにおける銀行預金税:最近の動向に関する分析」、IMF調査報告書67、2001)

[15] Schmidt (2002)(シュミット、2000)

[16] Norges Bank’s oversight and supervision of the payment system, Norges Bank Economic Bulletin 2002 Q1 (2002)(ノルウェー銀行による支払システムの管理監督、「ノルウェー銀行経済速報」2002年第1四半期、2002)

[17] Annual Report on Payment Systems 2005, Norges Bank (May 2006)(2005年支払システムに関する年次報告書、ノルウェー銀行、2006年5月)およびBank for International Settlement(BIS:国際決済銀行)

[18] 1974年6月26日、中央ヨーロッパ標準時15:30に、ドイツ政府当局は大規模な外国為替業務を行っていた中規模銀行であるヘルシュタット銀行を閉鎖した。しかし閉鎖前に、ヘルシュタット銀行の取引銀行はヘルシュタット銀行に(変更不可な)ドイツマルクの支払を行っていた。この際、米国の金融市場は開いたばかりで、取引銀行は支払ったドイツマルクと引き換えに行われるべきドルの支払を受けていなかった。この不履行は、世界的な(特にニューヨークの)支払・決済システムに連鎖反応を起こした。最終的に、この連鎖反応はニューヨークのマルチラテラルネッティング(多数の企業間で行われる相殺決済)システムに達し、このためその後3日間、同システムを経由する純支払が60%減少した(BIS、2002)。この決済リスクはヘルシュタットリスクとして知られ、この問題は即時グロス決済(RTGS)システムの開発および多通貨同時決済(CLS)銀行の近年の導入によって取り組まれた。

[19] CLS Issue Brief October 2006(2006年10月CLS発行物要約)。CLSがすべての通貨の取引を同等の割合だけ決済していると想定した場合。

[20] HM Treasury (2004)(英国家財政委員会、2004)。Stamp Out Povertyの提起した点に対する回答文書の中で。

[21] この定型化された例は、Schmidt (2001)(シュミット、2001)の中で使われたものに脚色を加えたものである。

[22] ここでは、各中央銀行の運営費合計(これらの銀行が自行内にシステムを設置する費用も含む)が追加のSWIFTコピーメッセージを作成するコストの2~3倍であると想定している。

[23] これらの税収見積もりは非常に控え目な数字で、国際決済銀行(BIS)が報告した1日1兆8800億ドルという従来の外国為替市場における売買高だけに基づいている。OTCデリバティブ市場では1日2兆4100億ドル、取引所で取引される外国為替商品の市場では1日4兆6570億ドルの売買高がある。これらの市場も含めると、見積もられた税収の3倍の税収を見込める可能性がある。

[24] 取引高の減少の一部は、異なる通貨建ての株式を取引することによって外国為替取引を実行できる、株式市場への移行を反映している可能性がある。この慣行は、今後伸びる可能性は限られているとはいえ、現在でもすでにある程度行われている。しかし、取引された株式もこの報告書で説明したような中央集権化されたシステム上で決済されるため、比較的簡単にCTDLの範囲に取り込むことができる可能性がある。

[25] 現在ロドニー・シュミット教授が作成している外国為替の取引高の価格弾力性に関する研究報告書が発行されれば、この点については同研究報告書の中でより明瞭化されるだろう。

[26] 米国の銀行に関するデータ:http://money.cnn.com/magazines/fortune/fortune500/full_list/index.html

米国以外の銀行のデータ:各機関の2005年連結財務諸表より。米国以外の銀行に関する米ドル換算データは、2006年1月3日の為替レートを使用して換算している(端数切り捨て)。

[27] 主要国際銀行およびノルウェーの銀行の年報より(端数切り捨て)。

[28] Citron and Walton (2002) 参照。

[29] 同氏の目的は「過度に効率的な国際通貨市場の車輪に砂を入れる(=邪魔をする)」ことであった。Professor James Tobin(ジェームズ・トービン教授)(1978)「A Proposal for International Monetary Reform(国際通貨改革のための提案)」Eastern Economic Journal、1972年プリンストンのジェインウェイ講義に基づく。

[30] Citron and Walton (2002) 参照。

[31] この調査の全文はwww.zyen.comを参照。

[32] たとえば2002年には、銀行間の「卸売市場」のスプレッドは米ドル/円の取引で0.023%、米ドル/英ポンドの取引で0.021%であった(Spahn 2002)。

[33] ここでは年間取引日を260日間と想定している。本報告書でこの想定を採用している。

[34] About CLS(CLSについて)を参照: www.cls-group.com

[35] もちろん実際には、銀行はさまざまな資金源から自行の活動の資金調達を行っている。しかし、これらの資金調達に関する費用を総計として見積もるには、LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)の金利を使用するのが妥当である。

[36] 英国の金融部門の資金調達パターンに関する詳細レビューについては、Bank of England(イングランド銀行)(2003)を参照。

[37] この点に関するさらに詳細な議論については、Currency Transaction Taxes; financing development and enhancing stability(通貨取引税:開発資金源と安定性の強化)Sony Kapoor(ソニー・カプーア)(2004年)を参照。

[38] 2006 Human Development Report(人間開発報告書2006)、UNDP(国連開発計画)(2006)

[39] Jose Augusto Hueb(2006)「Trajectories of Progress Achieving the MDGs and Achieving Coverage on Water and Sanitation(MDG達成と水・公衆衛生の項目達成に関する進展の軌跡)」、WHO(世界保健機関)

[40] 同上

[41] Meeting the MDG Drinking Water and Sanitation Target: a mid-term assessment of progress(飲料水と公衆衛生のMDG目標の達成:進捗状況の中間評価)、WHO(2004)

[42] Measuring Aid For Water – has the downward trend in aid for water reversed…?(水のための援助を評価する―水のための援助における減少傾向は逆転したか…?)

www.oecd.org/dac/stats/crs/water

[43] 2006 Human Development Report(人間開発報告書2006)、UNDP(2006)

[44] Norwegian Action Plan for Environment in Development Co-operation(開発協力における環境のためのノルウェー行動計画)、MFA(外務省)(2006)

[45] Lincoln C Chen(リンカン・チェン)(2005)「Triple C’s in Oslo – consultation, consensus and call for action(オスロにおける3C―コンサルテーション、コンセンサス、コール・フォー・アクション:協議、合意、行動要請)」

[46] World Health Report 2006(世界保健報告2006)、WHO

[47] Global Health Workers Alliance(世界医療保健労働者連合)

[48] Hilary Benn(ヒラリー・ベン)英国国際開発相の発言。2004年12月3日付のDFID(国際開発省)プレスリリースより。

[49] Working Together to Tackle the Crisis in Human Resources for Health(保健医療人材の危機に共に取り組む)(2005)。Learning Initiative of the Global Health Trust(世界保健医療トラストの学習イニシアティブ)での推定値を引用して。

[50] Sony Kapoor(ソニー・カプーア)(2006)、A Think Piece: making aid more effective(解説記事:援助の効率性を上げる)、世界銀行(未刊)

[51] UN-ISDR(国連国際防災戦略)

[52] World Disasters Report 2005(世界災害報告2005)、IFRC(国際赤十字社・赤新月社国際連盟)、Table 1(表1)、およびWorld Disaster Report 2005(世界災害報告2005)、IFRC、Table 3(表3)、p196

[53] Salvano Brinceno ISDR事務局長の言葉をBBCが引用:

http://news.bbc.co.uk/2/hi/in_depth/3666474.stm

[54] James Morris(ジェームス・モリス)世界食糧計画(WFP)事務局長の言葉をWFPプレスリリースで引用:

www.wfp.org/English/?ModuleID=137&Key=1990

[55] Jan Egland、パワーポイントでのプレゼンテーション「UN Humanitarian Response: An Agenda for Reform(国連人道支援への対応:改革のための検討課題)」、2005年10月

[56] OCHA(国連人道問題調整事務所)、2005年10月13日、Campaigns, Forgotten and Neglected Emergencies(キャンペーン、忘れられ放置された緊急事態)

http://ochaonline.un.org

[57] 2005: Year of disasters(2005年:災害の年)、Oxfam Briefing Paper(オックスファム簡易報告)(2005)

[58] 同上

2、通貨取引税:税率および税収の見積

南北問題研究所  North-South Institute

 

通貨取引税:税率および税収の見積

The Currency Transaction Tax:Rate and Revenue Estimates

ロドニー・シュミット                                     200710

Rodney Schmidt                                     October 2007

 55 Murray, Suite 200, Ottawa, Ontario Canada K1N 5M3

Tel 613-241-3535 Fax 613-241-7435 E-mail rschmidt@nsi-ins.ca

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出典:http://www.globalpolicy.org/images/pdfs/10rate.pdf

 

通貨取引税:税率および税収の見積

要約

通貨取引税(Currency Transaction Tax, CTT)は、開発その他の世界的プロジェクトに独立、安定した資金を供給する資金源となる可能性を秘めた制度である。ではその税率はどうあるべきか。どの程度の税収が得られるのか。また外国為替市場にどのような影響を与えるのだろうか。

CTTは機能的には外国為替市場のビッド/アスク スプレッド(売値と買値の差額)に相当する。つまりいずれも取引費用である。ここでは計量経済学の回帰分析を用いてスプレッドと取引量の関係を推定した。その結果、税率0.5ベーシスポイント(0.005%)のCTTを主要通貨の市場に課税した場合、取引量は14%減少することが分かった。CTT導入後のスプレッドおよび取引量は、近年の観測値の範囲内に十分収まる程度であり、市場の動きを妨害するものではない。税率0.5ベーシスポイントのCTT課税により、年間330億米ドル、またはおそらくそれ以上の税収を得ることができる。

 

 

謝辞

本研究に資金援助くださった匿名の援助ドナーに、心から感謝いたします。この援助なくして、本研究を実施することはできませんでした。本プロジェクトの管理を担当してくださった、英国のWar on Want、東京の国連大学に感謝申し上げます。ストラスクライド大学(University of Strathclyde)のアンソニー・クルーニーズ・ロス(Anthony Clunies-Ross)教授は、本研究を提案、手配してくださり、また表現を明確化するようご指導くださいました。ここに心から御礼申し上げます。有益な提案をくださった英国Stamp Out Povertyのデービッド・ヒルマン(David Hillman)氏、南北問題研究所の著者の同僚ロイ・カルペパー(Roy Culpeper)氏、アン・ウェストン(Ann Weston)氏、ビル・モートン(Bill Morton)氏に感謝申し上げます。

 

通貨取引税:税率および税収の見積

 

通貨取引税(Currency Transaction Tax, CTT)は、独立、安定した多額の世界的資金を創出する新たなメカニズムとして、政府、国際機関などが検討している方法の一つである[1]。創出された資金は、国際開発や公衆衛生などの世界的課題を扱うプロジェクトの資金供給に使用される。(3.4の表4に挙げた)新たな資金源メカニズムのそれぞれに関して、次の2つの疑問が浮かび上がる。これらは実現可能だろうか(つまり費用効率は適切か、副次的な悪影響をもたらさないか)。また、これらはどの程度の資金を創出できるのか。著者らおよび他の研究者らは、CTTが実現可能であることを他文献で既に明らかにしている(1.2)。本研究では、適切なCTTの税率を算出する。つまり多額の資金を生み出すのに十分高いと同時に、基本的な市場の動きを変えずに済む低さに設定された税率を算出する。またCTTが一国・一地域単独で単一の主要通貨に課税される場合(ドル、ユーロ、円、ポンド)と、これらのうち複数の通貨に協調して課税される場合の税収を見積る。

 

         課題および前提

 

CTTは、個々の外国為替取引に課される定率税で、外国為替市場で売買を行う取引業者に課税され、金融上の清算、決済システムにおいて徴税される。外国為替の取引業者とは、ビッド(買値)とアスク(売値)の為替レートを提示し、要求に応じてその為替レートまたはそれより条件のよい為替レートで通貨を取引する金融機関のうち、大規模なグロス決済システムまたはネット決済システムに直接アクセスのある機関である。外国為替の取引業者は、他の取引業者または取引業者ではない顧客と取引を行う。

CTTは概念的にはトービン税(Tobin Tax, TT)を継承している。徴税の仕組み(金融決済システムにより徴税する)および税基盤(銀行間の外国為替市場)については、両者は全く同じである。しかし両構想の目的と税率は互いに異なる。TTは、国境を越えた資本の流れを抑制し、それにより金融政策を強化し、為替相場の危機を防止または管理することを目的としていた。TTの税率は、外国為替市場の動きを変えるために高く設定されることが提案されていた。これとは対照的に、CTTは市場の動きを妨害することなく資金を創出することを目的としている。このため、CTTの税率は低く設定される。

CTTおよびTTからの税収の見積は過去にも行われている。その結果を3.3の表3にまとめた。私達が実施した見積も含め、これらの数字を見積もる際の問題は、税が導入された場合に外国為替の取引量がどの程度縮小するかを予測することである。過去の研究ではこの数値を推測していた。本研究では、以下のようにこの当て推量を排除することができた。

 

1.1       CTT導入後の取引量

 

CTTは導入されていないため、導入の結果起こりうる取引量の減少を直接測定することはできない。しかし、CTTは実質的にはビッド/アスク スプレッド(取引業者が提示するビッドとアスクの為替レートの差)に相当するものである。両者とも外国為替取引を行う上で発生する直接費用の一部である。CTTはスプレッドを上昇させることにより外国為替市場に影響を与える。このため、CTTがどのように取引量に影響するかを予想するには、取引量がスプレッドの変化に対して通常どのように反応するかを測定すればよい。

この測定を1986~2006年における取引業者のドル/円スポット市場で行った(付録A)。この結果、スプレッドが1%上昇すると取引量が0.43%減少することが分かった。経済専門家の言葉を使うと、スプレッドに対する外国為替取引量の弾力性は-0.43である。

CTT課税のために一対の通貨ペアの市場におけるスプレッドが上昇した場合に、取引が他の市場に移転される可能性があるか否かについても調べた(付録A.2)。しかし、円のスプレッドと比較した場合の相対的なユーロやポンドのスプレッドの減少が、ドル/円市場における円の取引量の減少と関連していたという結果は認められなかった[2]

 

1.2       脱税

 

弾力性は外国為替取引に対する通常の需要を測定するもので、ここには脱税は反映されない。

CTTが大規模な金融、外国為替決済システム(多通貨同時決済(Continuous Linked Settlement, CLS)銀行や広範囲に普及しているSWIFTなど)によって徴税される場合、CTTを回避することは困難かつ無益であることは、学者、官僚の間で認識されてきている(例えば Landau (2004) 参照)。著者ら、ならびに他の研究者は、どの外国為替商品が使用されようとも、どこでどのように取引が行われようとも、同じことがいえることを過去の研究で明らかにしてきた(Hillman, Kapoor, and Spratt (2006); Schmidt (1999, 2000, 2001); Spratt (2006))。

外国為替取引の多くが、決済される前に相殺されてしまい課税されないのではないかと懸念する声もある(例えばNissanke (2004))。また、非公認、非課税の新たな決済システムが出現するのではないかという声もある(例えばLandau (2004))。しかし、前述の出典を注意深く読めばこのような懸念の必要はないことが分かる。グロス決済、ネット決済、公式、非公式、多国間、二国間にかかわらず、全ての金融、外国為替決済システムでは、その運営の過程で個々(「グロス」)の取引まで遡って追跡、照合が行われているからである。また、オンショアであろうとオフショアであろうと、これらの取引全てには、個々の取引で使用される通貨を発行している国の中央銀行に開設された口座が必要となる。さらに全ての取引では、SWIFTにより開発され中央集権的に運営されているメッセージ付きネット決済システムが共用されている。これら全ての決済システムは、各中央銀行により監督、統制されている。これらに代わる決済業務を確立することは、変則的で独自仕様のシステム、技術が使用されていた30年前に戻ることであり、CTTを支払うよりもはるかに費用がかかりリスクが高くなる。

 

1.3       税収を見積もる際の前提

 

CTT税収を見積もるにあたり、以下を前提とする。

 

  • 取引業者のスプレッドにはCTTの税率全てが反映される。
  • CTTは伝統的な外国為替市場(具体的にはスポット、アウトライトフォワード、スワップ市場)に課税される。
  • 脱税が行われていない。
  • 全ての通貨ペア、外国為替商品について、スプレッドに対する外国為替取引量の弾力性は-0.43である。

 

上記の第一、第二の前提は保守的である。まず取引業者は、小売のスプレッドおよび非金融のスプレッドを広げることにより、税の一部を取引業者ではない顧客に転化する可能性が高い。このため、想定しているほど取引業者に対するスプレッドが広がらない可能性がある。次に、決済の際に個々の取引から税が徴収される場合(それ以外に実現可能な方法はない)、同税は取引所で店頭取引されるデリバティブおよび外国為替商品を含む、非伝統的な外国為替市場にも当然課税される[3]。この非伝統的市場は巨大である。

最後の前提は単純化したものである。スプレッドに対する取引量の弾力性は、おそらく市場により異なるだろう。しかしこれは重要ではない。私達は全ての市場において取引量の弾力性を(絶対値)-1に増やし、私達が計算した税収の見積が取引量の弾力性にどの程度影響されるかを確認した。この結果、弾力性が-1の場合でも見積もった取引量は10%しか減少しないことが分かった。

私達はCTTの税率を0.5ベーシスポイント(0.005%)と設定することを提案する。この場合、第一の前提に基づくと、取引業者のスプレッドは1ベーシスポイント上昇することになる。その理由は、スプレッドが通貨の購入と売却両方の価格を含むためである。為替新聞や取引契約に記された為替レートは、買い相場と売り相場の中間価格である。このため、通貨を購入するために取引業者に連絡した者は、取引業者にスプレッドの半分を支払う。同様に、通貨を売る者はスプレッドの半分を支払うのである。一方、誰かが通貨を今月購入し次の月に売却するなど、「往復」の投資を行う場合に2回の取引にかかる費用が、全スプレッドである。CTTが施行されると、取引業者は通貨の購入、売却の各取引について税全額を支払う。つまり、各取引の費用は、課税前のスプレッド半分にCTTを足した額となる。取引業者は通貨の購入、売却両方を行うため、購入価格と売却価格を含めた課税後のスプレッドは、CTTの税率の2倍分上昇することになる[4]

以下に説明する見積は、2007年4月時点の外国為替市場に基づいて計算したものである。これは、国際決済銀行(Bank for International Settlements, BIS)がまとめた最新の外国為替に関するサーベイの月である(BIS, 2007)。

 

 

         CTTの税率

 

CTTの税率として望ましいのは、外国為替市場を妨害することなく多額の資金を創出できる税率である。この税率を正確に特定する方法はない。しかし実務的見地から言えば、課税後のスプレッドは近年のスプレッド値の範囲内に十分収まり、取引量が極端に減少しない程度である必要がある。

スプレッドの平均および変動性は、通貨市場全体にわたり大きく異なっている(表1)。このため、各通貨ペアまたは外国為替商品に、異なるCTT税率を設定するのがふさわしい。しかし、全ての市場において定率を採用することにより、望ましくない市場間の取引活動を避けることができる。

 

表1:外国為替のスプレッドおよび取引量

 

市場

平均スプレッド[e]

標準誤差[f]

変動係数[g]

取引量[h]

取引量の割合

ドル/ユーロ

2.95

1.14

0.30

201,600

0.52

ドル/円

3.39

0.95

0.23

95,280

0.25

ドル/ポンド

2.59

0.83

0.25

86,640

0.23

加重平均

2.98

1.02

0.27

合計

383,520

1.00

ユーロ/円

4

16,800

ユーロ/ポンド

5

15,360

円/ポンド

9

2,400[i]

 

出典:(ユーロ、円、ポンドに対する)ドルのスプレッドはOlsen Financial Technologies(http://www.olsendata.com)。ドル以外のスプレッドはFX Solutions(http://www.fxsol.com)。取引量はBIS (2007, Table 4)。

 

2.1       近年のスプレッド値

 

スプレッドは過去20年間(特に近年)、減少している(図1)。現在スプレッドは今までで最小となっている。取引、通信、決済の技術が向上し、取引量が多いことが原因であろう。

しかし、スプレッドは大幅に、しかも長期的に上がることもある。1992年にはポンド/ドル市場において平均スプレッドが0.54ベーシスポイントも上がり、この高いレベルが6年近くも持続した。1999年1月にはドイツマルク/ドル、ユーロ/ドル市場において、ユーロの導入に伴いスプレッドが1ベーシスポイント上昇した。この上昇は4年間継続した。円/ドル市場では、1989~1995年にスプレッドが着々と上昇し合計1.76ベーシスポイント上昇した。

 

図1:スプレッド

(対米ドル)

 名称未設定1

 

スプレッドの変動性は、通常「標準誤差」で測ることができる。標準誤差は、そのスプレッドの平均値からの平均偏差を示すもので、単位はベーシスポイントである。標準誤差の特徴は、平均スプレッドに標準誤差を足し、平均スプレッドから標準誤差を差し引くことにより、過去のスプレッド値の68%を含む範囲を限定できることである5。この範囲外にあるスプレッドは確率的に異例ということになる。過去5年間(2001年1月~2006年3月)における主要な通貨ペア市場全体の標準誤差の平均は、1ベーシスポイント強であった(表1)。標準誤差を平均スプレッドで割った数値が、「変動係数」である。過去5年間では、標準誤差の平均は平均スプレッドの27%であった。

以上から、主要通貨の市場におけるスプレッドは通常、約1ベーシスポイント変動し、まれにそれ以上変動する。また1ベーシスポイントかそれ以上上昇した状態は、長期間持続する。このため0.5ベーシスポイントのCTT導入によりスプレッドが恒久的に1ベーシスポイント上昇することは、近年の経験と同様ということになる。

ではCTTはどのように取引量、ひいては市場の流動性に影響するだろうか。

 

2.2       CTTと取引量

 

外国為替市場は取引量で見て世界最大の市場である。2007年の取引量は過去最高であった(図2)。私達の計算では、0.5ベーシスポイントのCTT導入により、外国為替の取引量は、取引に影響を与える他の要素全てを考慮に入れると14%減少する(計算方法については、3.1参照)。このCTTが2004年から導入されていたとしても、市場規模は全ての主要通貨において2007年には過去最大となっていたと予測できる。

外国為替市場は常に拡大しているわけではない。1998~2001年には、ドル市場、円市場はそれぞれ11%、4%縮小している。つまりドルの場合で見ると、上記で見積もった0.5ベーシスポイントのCTT導入による縮小規模に近い規模で縮小している。

これらの比較から、0.5ベーシスポイントのCTT導入が為替レートの動きや市場の流動性を妨害することは考えにくい。本研究では過去のスプレッドと取引量の共変動に基づき税率を決定し、税の導入による取引量の減少を見積もったわけであるから、これは当然の結論である。

 

図2:取引量

(他の全ての通貨に対し)

 名称未設定2

 

出典:BIS(2007, Table 1と3, 2007年4月の恒常為替レートにおける伝統的な市場)および年間取引日を240日とした著者らによる計算。

 

 

         CTTによる税収の見積

 

ここでは0.5ベーシスポイントのCTTが各国・各地域単独でそれぞれ独立、独自にドル、ユーロ、円、ポンドに課税された場合の税収を見積もる。また、CTTが複数の通貨に協調して課税された場合(主要通貨全て、ドル以外の主要通貨全て、ユーロとポンドのみ)の税収を見積もる(表2)6

 

3.1       計算

 

CTTからの税収は、税率(0.005%)× 税導入後の外国為替の取引量 となる。税導入後の取引量は、税導入前の取引量(v0)、スプレッドに対する取引量の弾力性(-0.43)、および税導入によるスプレッドの増加率(1.0/s()、ここでs() は平均スプレッドを示す)により決まる。

これら全てを統合し、以下の式を使用してCTTの税収(R0.5)を計算した。

 

 

 

前述したように、これらの見積がスプレッドに対する取引量の弾力性にどの程度影響されるかを確認した。例えば弾力性が(絶対値で)-0.43から-1に増加した場合、税収は10%減少すると見積もられる。

 

3.2       予想される税収額

 

0.5ベーシスポイントのCTTが、(他の通貨全てに対する)ドルの取引にのみ課税された場合、税収は年間122.9億米ドルとなる。また、円のみに課税されると55.9億米ドル、ポンドのみに課税されると49.8億米ドルとなる。

0.5ベーシスポイントのCTTを協調して主要通貨全てに課税すると、年間の税収は334.1億米ドルとなる。これはドルのみに課税される場合に比べ50.3億米ドルの増加に留まる。ほとんどの外国為替取引は主要通貨間で行われており、そのうちのほとんどがドルに関わる取引だからである。ドル以外の主要通貨全てに協調してCTTが課税される場合、212.4億米ドルの税収が得られる。ユーロとポンドのみに協調してCTTが課税される場合、165.2億米ドルの税収が得られる。

 

表2:0.5ベーシスポイントのCTTから得られる税収の見積額

(10億米ドル、年間)

 

通貨

税導入前の取引量[j]

平均

スプレッド[k]

1.0/平均

スプレッド

税導入後の取引量[l]

税収の

見積額[m]

CTTをドルに課税…

ドル

664,855

2.98

0.34

567,653

28.38

…および他の主要通貨全てに課税。

+ユーロ

+83,448

4.48

0.22

+75,554

3.78

+ポンド

+13,560

9

0.11

+12,919

+0.65

+円

+12,636

9e

0.11

+12,038

0.60

合計

774,499

668,164

33.41

CTTをユーロに課税…

ユーロ

285,048

3.17

0.32

245,825

12.29

…およびポンドと円に課税。

+ポンド

+100,200

2.78

0.36

+84,689

4.23

+円

+107,916

3.39

0.29

+94,459

4.72

合計

493,164

424,973

21.24

CTTを円に課税。

127,116

3.59

0.28

111,811

5.59

CTTをポンドに課税。

ポンド

115,560

3.08

0.32

99,659

4.98

 

出典:BIS(2007, Table 1, 2007年4月の恒常為替レートにおいて, およびTable 3)ならびに本論文の表1。

 

表3:過去に算出されたCTT税収の見積額

 

出典

税率[n]

税基盤[o]

取引量の補正

見積額[p]

Felix and Sau (1996)

25

世界

1995

  • 公務上の取引10%を除く
  • 脱税25%
  • 弾力性は長期間に-1.5~-0.75。

300

Frankel (1996)

10

世界

1995

  • 弾力性は-0.32。

166

Nissanke (2004)

1~2

世界

2001

  • 公務上の取引8%を除く。
  • 「漏出」2%。
  • 弾力性-0.12~-0.23d

17~31

Spratt (2006)

0.5

世界

2004

  • 弾力性-0.11e

24

 

3.3       過去に算出されたCTT税収の見積との比較

 

10年前に提案されたCTTの税率は、現在のものよりはるかに高かった(表3)。これは初期の提案者がCTT(当時は「トービン税」と呼ばれていた)を、税収を創出するとともに外国為替市場を規制する手段と捉えていたことに一因がある。また、当時の提案者らは取引業者のスプレッドがどれほど狭いかを理解していなかったことも一因となっている(Tobin, 1996)。

過去に算出されたCTTの見積額は、提案された税率と税基盤がそれぞれ異なるため、さまざまである。各見積では、その時点で最新のBIS外国為替に関するサーベイを使用している。またこれらの研究では、取引量の変化に影響するさまざまな要素が考慮されている。この中には、取引される場所で徴税されると想定しているか、または決済システムにおける徴税の性質について誤解しているために、脱税される取引量を減じているものもある。これら全ての見積における、税によるスプレッドの上昇を原因とする取引量の減少は、推測に基づいているに過ぎない。

今回の私達の見積は、考え方の上ではSpratt (2006) の見積に最も近い。彼の合計見積額より私達の合計見積額が100億米ドル近くも高い理由は、彼が使用した情報が出された2004年から現在までの間に、外国為替市場が非常に大きく成長したからである。また、それほど重要ではないがこの違いが生じた一因は、使用した税基盤(彼は全ての通貨を含めたが、私達は主要4通貨のみ含めた)および弾力性(彼は暗に弾力性を-0.11と想定した(表3の脚注de参照)が、私達はドル/円市場の弾力性を-0.43と見積もった)が異なるためである。また、一日の取引高から一年間の総計を求める際の前提が異なっている(彼は年間の取引日が休暇なしの260日と想定し、私達は年間の取引日を240日と想定した)。

 

3.4       他の資金源から得られる収入との比較

 

他にも新たな潜在的資金源は存在する(表4)が、これら全てがCTTと同等の資金源というわけではない。国際金融ファシリティ(International Finance Facility, IFF)および予防接種のための国際金融ファシリティ(International Finance Facility for Immunisation, IFFIm)は、新たな収入を創出するわけではなく政府開発援助(ODA)の通常の流れを前倒しにするもので、2010~2015年にピークを迎える。政策の変更がなければODAは2020年以降、前倒しされた額と比例して、通常のレベルより減少する。また、IMFによる開発のための特別引出権(SDR)発行は、おそらく一回に留まるだろう。

航空券税やIFFImなどの新たな収入源のいくつかは、既に進行中である。前者はパイロットプロジェクトとしてフランスで、後者は本来のIFFの専門分野バージョンとして実施されている。これらの収入については、必然的に推論となってしまう他の収入源より信頼性のある見積ができるだろう。航空券税からの税収は2億米ドル、IFFImからの収入は40億米ドルで、いずれも新たな収入源の中では少ない部類に属するが、他の政府がこれらの仕組みに参加すれば、収入ははるかに増額できる。炭素税の税収は税率によって年間1,300億~7,500億米ドルと見積もられ、潜在的な税収としては圧倒的に最大である。しかし、炭素税は炭素排出を抑制することも目的としているため、税収の多くは影響を受ける産業や労働者のために使用される可能性がある。

 

表4:他の資金源から得られる収入の見積

 

手段

税率

基盤

特徴

見積額[q]

航空券税[r]

€4(エコノミー)

€40(ビジネス)

フランス

  • 「リーディンググループ」の40以上の加盟国政府が支持
  • UNITAID、IDPF、IFFImに資金供給

0.200

炭素税[s]

$0.05~0.35

/USガロン

世界

  • 2020年までに52億トンの炭素排出に課税されると予測

130~750

グローバル

宝くじ[t]

世界

  • 国営宝くじに適用される

6

IFF[u]

出資

  • 2020年より前のODAの前倒し
  • 2020年以降のODAに追加されるわけではない
  • 援助すべき分野について合意が必要

50

IFFImf

出資

  • 2020年より前のODAを前倒し
  • 8カ国が支持
  • GAVI アライアンスに資金供給

4

SDRg

IMFが発行

  • 開発のために一回配分
  • 富裕国の政府が貧困国の政府に配分を移譲する必要がある
25~30

 

 

         通貨取引税の利点

 

CTTは、開発その他の世界的プロジェクトに使用する資金を創出する、実現可能で新しい収入源である。著者ら、ならびに他の研究者らが行った過去の研究から、CTTの実施方法は分かっている。また今回の研究から、CTTが年間最低330億米ドルの、独立、安定した世界的な税収を創出できることも分かった。この見積で使用した伝統的な外国為替市場より実際の税基盤ははるかに大規模であると考えられるため、これは控えめな見積額である。

私達は0.5ベーシスポイントのCTTの導入(これにより主要通貨市場のスプレッドは1ベーシスポイント上昇する)により、取引量は14%減少すると見積もった。CTT導入後のスプレッドおよび取引量は、近年経験されたスプレッドおよび取引量の範囲内に十分収まる。

通貨取引税は、2002年のモンテレー国連開発資金会議、およびその後国連と「開発資金のための連帯税に関するリーディンググループ」により求められてきた新たな資金源の中で、最も即時に実施できる有効な資金源と考えられる。

 

         CTT導入後の取引量の予測

 

CTTの導入による外国為替の取引量の減少率を予想するため、計量経済学の回帰分析を用いてドル/円市場のスプレッドに対する取引量の弾力性を推定した。CTTは機能的には外国為替市場のスプレッドに相当するため、これは理にかなった方法である。以下の項では回帰データおよび回帰モデルを概説する。詳細な解説は近々発行する。

 

A.1       データ

 

本論文の回帰分析および記述的分析では、月次データを使用した。月次データはスプレッドと取引量の長期的関係を示す。予測不可能な取引は、非体系的、一時的であり、月間などの長期間に相殺される傾向にあるため、予想通りの取引量および予想外の取引量を区別する必要はない(Hartmann, 1998)。経験的な慣行では、ニュースをきっかけとする予測不可能な取引量は平均するとゼロとなると見なされている。

ここで使用したスプレッド、為替レート、および為替レートの変動率は、1986年2月~2006年3月のスプレッドに関する取引日ごとの観測値を月次集計したものである。出典はOlsen Financial Technologies(http://www.olsendata.com)である。取引量に関するデータ(こちらも出典はOlsen Financial Technologies)は、各月のロイターの「ティック」を合計したものである。これはスプレッド見積の頻度、つまり取引業者が提示したスプレッドを変更する回数である。この数値は、日次の、または頻度の低い取引量の、世界的取引量に代わって使用することのできる数値である(Demos and Goodhart, 1996; Hartmann, 1998)。これらのデータを使用した方が、Nikkei Economic Electronic Databank System(NEEDS)(http://www.nikkeieu.com/needs/pdf/needs_guide.pdf)出典の日本のブローカーによる日次のスポット取引に関するデータを使用するより、正確に分析できた。日本の輸出、輸入に関する月次データおよび日本の四半期毎のGDPも、NEEDSから引用した。GDPデータは月次データを得るため手を加えた。輸出および輸入をGDP比率で表わすためである。

 

A.2       回帰モデル

 

CTTの税収を見積もるために主に関心を寄せていたのは、取引量に対するスプレッドの影響である。しかし逆の影響、つまりスプレッドに対する取引量の影響について、多くの著述がある。双方向の影響を計算に入れるために、二式の連立方程式から成る回帰モデルを作成した。私達はこれをWinRATS6.20ソフトウェア(http://www.estima.com)を使用して、累次積分の3段階最小2乗法(3SLS)により見積もった。

下記の方程式(1)には、取引量に対するスプレッドの影響が含まれる。また取引量は、為替レートの変動率および、Black (1991) に従い他の通貨市場のスプレッドならびに物品、サービスの貿易にも影響される。

下記の方程式(2)はスプレッドに対する取引量の影響を表すもので、Hartmann (1998) から採用した。

完全な回帰モデルは以下のとおりである。

 

 

 

名称未設定3

(1)(2)

 

 

ドル/円市場における取引量

ドル/円市場におけるビッド/アスク スプレッド

ドル/ポンド市場またはドル/ユーロ市場のビッド/アスク スプレッド

円の為替レートの変動率

日本における輸出、輸入のGDP比率の合計

ダミー、トレンド、左辺のラグ付変数

回帰誤差

 

YおよびZ以外の変数は全て、各変数の自然対数で表している。つまり各係数は弾力性である。特に、統計的に有意と分かったα1(=-0.43)は、スプレッドの変化に対する取引量の弾力性を示す。

 

参考文献

 

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[1] 2002年にメキシコのモンテレーで開催された国連開発資金会議には、50カ国以上の首脳と200名以上の大臣、および国連、国際通貨基金(IMF)、世界銀行、世界貿易機関(WTO)の首席が出席した。同会議において新たな開発資金源の探求が開始された。この活動は、公式には国連経済社会局(http://www.un.org/esa/ffd/)が、非公式には「開発資金のための連帯税に関するリーディンググループ」(http://www.innovativefinance-oslo.no/)に参加する40カ国以上の政府が主導している。

[2] ユーロのスプレッドの係数は統計的に有意ではなかった。一方、ポンドのスプレッドの係数はわずかに有意であったが、記号が「逆」であった。つまりポンドのスプレッドが減少した際、円の取引量がわずかに増加した。

[3] この点はHillman et al. (2006, p.24) が指摘している。

[4] この点は、クライド大学のアンソニー・クルーニーズ・ロス教授にご指摘いただいた。

[e] 単位はベーシスポイント。データを入手できた昨年2005年4月~2006年3月の平均値。

[f] 2001年1月~2006年3月のスプレッドの変動性を示す。単位はベーシスポイント。

[g] 標準誤差÷2001年1月~2006年3月の平均スプレッド。この計算に使用した平均スプレッドは5年間の平均であるため、表中に示した数値とは異なる。

[h] 単位は10億米ドル/年。BISが報告した2007年4月の一日平均に基づく。1年の取引日を240日と想定。

[i] 1.36 × 7.4として計算。後者は2004年4月の数値(BIS, 2005, Table E.7, 日本および英国で取引された額の合計)。前者は2004~2007年におけるドル/円、ユーロ/円の取引量増加率の平均。

5 これは過去のスプレッド値が「正規」分布に近似している場合である。

6 CTTは、清算、決済機関により徴税される。これらの機関では、ネット決済システム、最終決済システムにかかわらず、2通貨および個々の取引の金額が照合され処理される。このため、CTTは「通貨ペア」に対して課される。例えば、CTTは円とドルに関わる購入または売却に対して一度徴税され、それとは別にポンドとドルに関わる購入または売却に対して再度徴税される。

[j] 他の通貨全てに対する取引。二重計算の除去のため、表1の当該通貨ペア市場の取引量はこれより少ない。

[k] 表1に示した通貨ペア市場のスプレッドおよび取引量から概算。

[l] 計算については3.1参照。

[m] 計算については3.1参照。

e 仮定数値。

[n] 単位はベーシスポイント。

[o] 年は各研究で使用されたBIS外国為替に関する中央銀行サーベイの年を示す。

[p] 10億米ドル、年間。

d 出典から推定。Nissanke (2004) は、税率1ベーシスポイント、2ベーシスポイントの税の導入により、取引量がそれぞれ5%、15%減少すると想定している。この論文が発行された時期、ドルの通貨ペア市場の平均スプレッドは3.79ベーシスポイントであった。税率1または2ベーシスポイントで税が導入されると、スプレッドがそれぞれ2または4ベーシスポイント(つまり53%または106%)上昇することになる。このため出典から推定される弾力性はそれぞれ、ln (0.95) / ln (1.53) = -0.12、または ln (0.85) / ln (2.06) = -0.23 となる。

e 2004年の平均スプレッドを使用し出典から推定。

[q] 10億米ドル、年間。

[r] Jouanneau (2006)。

[s] Cooper (1998), Sandmo (2004)

[t] Addison and Chowdhury (2004)

[u] Mavrotas (2004)

f IFFIm (2007)

g Aryeetey (2004)

3、モンテレイ精神の維持 開発資金アジェンダと未完事項

モンテレイ精神の維持 開発資金アジェンダと未完事項

20086

CIDSE(開発と連帯のための国際協力)政策文書

はじめに

 

「我々の目標は、完全に包含的で公平な世界経済システムを達成しつつ、貧困を克服し、持続的な経済成長を達成し、持続可能な開発を推進することである。」[1]

 

2002年のモンテレイ開発資金国際会議は、リオデジャネイロ(1992)、ウィーン(1993)、カイロ(1994)、北京(1995)、コペンハーゲン(1995)における国連サミットでこれまで発表された全ての世界的公約を実施するための資金調達に関する、堅い決意と明確な戦略をもたらすことを目的に開催された。2000年の国連ミレニアムサミットおよびそれに続くミレニアム開発目標の策定は、「21世紀が万人のための開発の世紀になることを保証する」(モンテレイ合意第3項)ために緊急行動が必要であるという気運を非常に象徴的な形で高めるものとなった。

 

この目標を達成するため、モンテレイ合意(以下MC)では、相互に連結した世界的課題に取り組む国内、国際的な政策努力を含めた「全体論的アプローチ」(MC第8項)を明確に求めている。これらの取組みは「途上国の完全かつ効果的な参加」(MC第7項)の上に築かれた「先進国、途上国間の新しいパートナーシップ」(MC第4項)に基づき、「公正、公平、民主主義、参加、透明性、説明責任、包含の原則に基づいた国内および世界経済システム」(MC第9項)を目指す必要がある。2008年11月29日~12月2日にカタールのドーハで開催される「モンテレイ合意の実施を評価するための開発資金に関するフォローアップ国際会議(Follow-up International Conference on Financing for Development to Review the Implementation of the Monterrey Consensus)」(以下「ドーハ・レビュー会議」)は、モンテレイ合意の実施に関する進展、障害、新たな課題を評価するための重要なステップである。同会議が全体論的アプローチとモンテレイのアジェンダの緊急性に忠実であり続けることが非常に重要である。同会議は首脳レベルで開催されるべきであり、2002年のモンテレイ会議と同様の透明性を確保し、市民社会を含む利害関係者全員の参加の下で準備されなければならない。

 

カトリック教会の開発団体のネットワークであるCIDSEは、効果的な参加とパートナーシップに基づいた完全に包含的で公正な万人のための世界的開発というモンテレイの目標を共有している。しかし私達の見解では、このパートナーシップは「新しい」ものではない。これは時代や場所を超えた、男性、女性、子どもの間の基本的な関係である。2008年1月1日の世界平和の日に教呈ベネディクト16世がメッセージの中で想起したように、神に創造され、神の創造物としての私達の責務において、また神に提供された命の豊かさを共有するという私達に共通の宿命において、全人類は一つの共同体、「人類という家族」を築いくものである。この基本的概念は世界的開発の広範囲にまで影響を与えるものである。開発は、連帯、富と権力の公平な分配、資源の慎重な使用に基づく必要がある。開発は、全ての人が公正、公平な立場で協力できるものでなくてはならない。包括的な人間開発の一環としての経済発展は、現在では地球規模となった公益が必要とする要件に、効果的に対応することができなければならない[2]

 

本文書はこれらの原則に基づき、ドーハ・レビュー会議に対する私達の結論および提案を示している。本文書では、「完全に包含的で公平な世界的経済システム」(MC第1項)の枠組みにおいて、貧困の克服、持続的な経済成長、持続可能な開発という全体目標を達成するために必要不可欠であり緊急に取り組まれる必要があると私達が考える主要課題を中心に取り上げている。この中では、モンテレイ合意の各章において(国内資源、民間のフロー、貿易、政府開発援助(ODA)、対外債務、システミック・イシュー(構造的問題))、取るべき行動についても言及している。

 

I. 脱税と資本逃避からの国内資源の保護

 

「開発のための国内資金源を動員する」という言葉が、モンテレイ成果文書に書かれた6つの行動提案の一項目として示されている。これには正当な理由がある。このような資源を動員することは、開発の資金調達のためだけでなく、国内、国際レベルでの民主的な説明責任と参加を強化するために、開発にとって不可欠である。このため、課税および税公正、関税、印税は、国内資源の動員だけでなく、外国民間投資、貿易、援助、対外債務、システミック・イシューに関わる分野横断的な問題なのである。

 

租税(および程度は異なるが関税、印税)は、自らが依存する社会の公益に市民や企業が貢献する主要な手段である。この基本的な仕組みが正しく機能して初めて、民間投資や貿易は貧困層の利益となる成長と開発を推進できるのである。またこの仕組みは、一国が自立した、対外援助フローと持続不可能な借り入れから独立した国として、その自立性を維持するために必要な前提条件である。

 

寛大な富裕国からの対外援助に依存する本質的に貧しい国々という、広く知られたイメージは誤っている。ほとんどの途上国は、国内に天然資源、人的資源という富を保持している。重要な問題は、これらの資源が全人口、特に貧困層の利益となる公共財の資金源として使用されるのを妨げる障害が、国内、国際レベルにおいて存在することである。国連は、途上国からの純資金移転は、流出額が最大だった2006年には年間6,580億米ドルに達したと見積もっている(UN, World Economic Situation and Prospects 2007, New York 2007, 58f))[3]。同期間のOECD(経済協力開発機構)加盟国からの援助は、1,039億米ドルであった[4]。世界貿易機関(WTO)の統計によると、世界貿易の50%以上が同じ会社または持ち株会社所有の会社の系列会社間で取引されるグループ内取引であり[5]、そのほとんどがタックスヘイブン(租税回避地)に事業体を置いている。「資本逃避の削減」は、モンテレイ合意で言及されており(MC第10項)、2005年の世界サミット成果文書[6]でも「国内資源を動員する権能を与える国内環境を作るために」必要な取り組みであると繰り返されているが、上述の事実は国際社会が資本逃避の削減に真剣に取り組んでいないことを示している。

 

私達は、国内資源の効果的な動員と利用を妨げている障害には、以下のようなものがあると考える。

 

1. 金融市場のグローバリゼーションおよび自由化を原因とする自由な資本移動の増加のために、資本の追跡と規制が欠如している。このため、途上国および先進国における資本への課税および、危機の際の資本逃避規制が難しくなっている。資本への課税による税収が低くなることによって、消費と賃金に対する課税の圧力が高まり、特に貧困層と女性への負担が相対的に高くなる。資産家の資産がタックスヘイブンに保管され課税不可能となっていることによる税収の損失は、低く見積もっても途上国だけで年間約500億ドルに上る[7]

 

2. 各種のインセンティブ、休日、手当に関する措置を通して外国投資家を誘致する招致国が課税競争を繰り広げている。この競争は多国籍企業(TNC)が自社の納税を最小限に抑えるために利用しており、法人税に関する「底辺への競争」を招いている。また公共支出を削減し、累減的な効果を持つ税、特に消費税を増額する圧力を各国政府にかける結果となっている。同様に、国内の企業家は免税を受けた外国企業に対し不公平な競争を強いられることが多い。

 

3. TNCは政府間の課税競争により優遇税制措置を受けるだけでなく、自社の複数の系列会社間で行われる相当量の取引をうまく利用し、納税を回避するために複雑なミスプライシング戦略を構築している(つまり、振替価格操作)。例えば、TNCは税金の高い国から税金の低い国に収益を移転するために、企業内の資本構成を操作している。TNCの年次報告や会計基準は、企業が活動中の地域に関しても、関連する年間の総売上高、収益、納税額に関しても、正確な情報を提供していない。これらの偽造価格構造および歪められ操作された資本構成は、透明性の欠如と相まって、脱税の主要な抜け道を形成している。この結果途上国が被った年間損失額は、2000年には500億米ドルと見積もられている。これは同時期の世界のODA合計額に匹敵する[8]

 

4. 節税のためのシェルターを提供するオフショア金融センター(OFC)の重要性が高まっている。国際通貨基金(IMF)によると、このようなOFCは1970年代の25カ所と比較して、現在では52カ所以上存在する[9]。税公正ネットワークは、11.5兆米ドルがオフショア金融センターに保管されていると見積もっている[10]。さらにオフショアシステムは、主に貧困層に影響を及ぼす金融の不安定と金融危機の一因となってきた[11]

 

5. タックスヘイブンにおける司法の実態の遅れが、資金の不法な流出と腐敗のシェルターとなっている。独裁者や官僚に略奪された資産は多くの場合、銀行秘密、トラスト、財団その他の匿名性を許す特別目的媒体の陰に隠されている。富裕国間を含め、司法の協力が大幅に強化される必要がある。またどのような種類の法人についても、実際の所有者情報を司法当局、税務当局が入手できるようにする必要がある。不法な資金の本国への送還は、切に必要とされている開発資金の提供に大いに役立つ可能性がある[12]

 

6. IMFや世界銀行などの国際金融機関および援助供与者からの助言や融資条件は、貿易自由化、資金フローの規制撤廃、外国投資を誘致するための租税控除、財政引き締めに向けて途上国に圧力をかけるものがあまりにも多い。このような政策は、保健、教育、需要主導型の経済刺激プログラムの実施に対する支出を増額するために、切に必要とされている財源を適切に動員する努力を妨げるものである。ほとんどの途上国では、外部から強いられた貿易の自由化によって失われた関税からの多額の税収を、租税で賄うことができない[13]。失われた税収を賄うために、消費税や労働所得税などの移動性の低い税基盤に対する課税が増額されることが多く、これらは累減的な性格を持ち特に貧困層に大きな打撃を与える。ブラジルでは、1996年から2001年の間、労働所得税は27%増加し社会保険料は66%増加した。一方、法人税は16%減少し、地方の所有地に対する税は半減された[14]

 

7. 財政において、公共支出および歳入創出政策全般、特に課税に関して、ジェンダーの問題が十分に考慮に入れられていない。男性と女性では、課税および財政の目減りにより受ける影響が異なる。それは、男性と女性では、環境、所得、無報酬の仕事に関する社会経済条件や状況が異なり、資源の入手可能性と処理が異なるからである。またジェンダーに特定の行動にも違いが見られる。

 

主に腐敗に対する取組みに限って言えば一定の進展があったとはいえ、上述の評価は正しいものといえる。世界銀行によると、「犯罪活動、腐敗、脱税による、国境を越えた収益のフローは、世界で年間1兆~1.6兆ドルと見積もられている」[15]。汚職資金問題に対処する国際社会の関与が強化されたことを示す取組みには、2005年に発効した国連腐敗防止条約(UNCAC)、世界銀行統治・対腐敗戦略(World Bank Governance and Anticorruption Strategy)、2007年9月に世界銀行と国連が開始した不正蓄財回収構想(Stolen Assets Recovery (StAR) initiative)などがある。しかしStAR構想は、腐敗により蓄財された約200~400億米ドルの資金に焦点を合わせており、脱税により生じた多額の不法な資本フローは対象となっていない。

 

節税と脱税については、IMF職員によるオフショア金融センターに関する評価は現在までのところ26司法管轄区を対象として行われている[16]。OECDレベルでは、租税委員会(Committee on Fiscal Affairs)、税制・税務行政センター(Centre for Tax Policy and Administration)、課税に関するグローバルフォーラム(Global Forum on Taxation)が国際的な課税問題を扱っている。それにも拘らず、OECDはこの点において途上国が直面している問題にほとんど注意を注いでおらず、非協力的なオフショア地域のリストからはほとんどの行政区が取り除かれている。2000年以降に同リストから消された国の政策が、実際に変更されたという証拠はほとんどない。しかし現在ブラックリストに掲載されているタックスヘイブンは、アンドラ、リヒテンシュタイン、モナコの3カ国に過ぎない。同様に、金融活動作業部会(Financial Action Task Force (FATF) )はマネー・ロンダリング(資金洗浄)に関して非常に貴重な提案を策定したが、FATFと関連する地域当局は、加盟国からの非公式な圧力以外にその実施を保証する仕組みをほとんど持ち合わせていない。

 

税収に関する途上国を巡る状況は全般的に暗いままである。脆弱な税務行政や大規模なインフォーマル部門などの国内問題に加え、この極めて重要な問題の根源的な原因は、脱税と資本逃避という世界的課題に取り組むための国民の意識と政治的意思が欠けていることである。対腐敗、金融セクターの監視、課税の問題に取り組む上述のイニシアティブでさえ、この問題にまったく取り組んでいないか、激しい反対を受け有効な施策の代わりに見せかけに過ぎない取組みを行う程度の結果に終わっている。

 

このため、途上国が最大限の政策余地の中で扱うことのできる資金源の保護と増額は、引き続き重要なアジェンダであり続けているのである。

 

提案

 

国内資源の動員を可能にする環境を整えるために取るべき主要行動は、以下の通りである。

 

(1)既にモンテレイ合意で示唆されたように、タックスヘイブンおよび脱税の克服を含め、税務、財政問題におけるより効果的な国際協力を保証する。この協力は以下を含む必要がある。

  • ドーハ成果文書の一部として経済社会理事会(ECOSOC)の税問題に関する小委員会により策定される国際的な脱税・節税克服のための協力に関する行動規範採択する。この行動規範には、以下の主要点が含められるべきである。

- 例えば銀行秘密規定を制限するなどの、金融問題に関する透明性についての要件。

- 税務当局間の、包括的かつ自動的な情報交換に関する協定。

- 秘密に付された条件を持つトラストなどの、課税の実施を混乱させることを意図した合法的投資手段の設立を回避することに関する公約。

- 銀行その他の金融仲介機関については「顧客を知る(KYC:know your customer)」規定、企業その他の法人については「株主を知る(know your shareholder)」規定に関する、新興の基準の準拠。

- 大口の現金移転に関する規定などの、報告規定の採択と実施を約束する公約。

  • 国連税金問題における国際協力に関する専門家委員会(UN Committee of Experts on International Cooperation in Tax Mattersを、特にOECDによる既存の国際的取り組みを拡大する政治的な代表に基づく政府間委員会に格上げすることにより、国際的な税務に関する協力を強化する。格上げの際には、同委員会に割り当てられる資金を大幅に増額すべきである。また、国際税務機関を設立するという提案が真剣に検討される必要がある。
  • 国際会計基準の一環として、一部のセクターだけでなく全てのセクターのTNCに対して国別報告を義務付ける。これにより振替価格操作の可能性が大幅に低減できる。現在、貿易関連投資措置(TRIM)協定により禁止されている、現地調達や貿易の均衡に関する要件などの受入国による要件を、再度導入できるようにすべきである。これらの措置は振替価格操作を阻止できる可能性があるからである。

 

(2)途上国が富の再分配と保健や教育などの公共サービスへの資金調達を保証できる累進課税を導入できる政策の余地を保証する。また、課税スキームの社会的およびジェンダーに対する影響評価を支援する。

 

(3)以下の要素を含め、各国間の司法協力を強化する。

  • 腐敗や公共資金の横領だけでなく、脱税の疑いのある人物に関して、外国の司法当局、税務当局に要求された場合、銀行の情報を提供することを義務付ける。
  • 受取り側の国が、本国送還の司法手続きを開始できるか否か、または開始する意思があるかないかに拘らず、着服された資産を本国へ送還することを義務付ける。

 

(4)金融センターおよび国際金融構造の監視監督に関する、国際通貨基金(IMF)の責任を強調する。この責任を果たすためにIMFは、同機関が発行する国際基準の遵守状況に関する報告書(Reports on Observance of Standards and Codes (ROSCs))において、非居住者の顧客に代わり資産を扱う金融センターである管轄区域が、国際的な金融の透明性および効果的な情報交換に関する基準を遵守しているか否かについて、報告すべきである。

 

 

II. 革新的な開発資金源

 

国際的な税公正に密接した関係を持つ課題には、現在「革新的な開発資金源」という名の下に議論されている課題がある。これらの課題には、開発資金のための連帯税に関するリーディンググループ(Leading Group on Solidarity Levies to Fund Development)の設立などの前途有望な展開を含め、注目が高まっている。これらの議論は(国際金融ファシリティ(International Finance Facility)、事前買取制度(Advanced Market Commitments)などの)革新的な資金源を創出することに重点を置いているが、提案の中には、グローバリゼーションがもたらす利益の公正な分配の問題や、国際税によって地球公共財の費用を賄うといった問題を扱っているものもある。CIDSEは航空燃料、炭素、金融取引全般および通貨取引(通貨取引税(CTT))に対する課税の提案、および航空券税に見られるこれらの税の実施に関する最初の進展を歓迎している。

 

1. 通貨および金融取引税

CIDSEは、スパーンによる二重構造の通貨取引税(CTT[17] 案を長年にわたり推進してきた。CIDSEが同税案を支持するのは、同税がより公平な富の分配を実現する可能性を持つため、また開発資金の創出と同時により安定した金融状態を支える施策としての可能性を持つためである。加えて、同税は税負担を労働所得税や消費税から資本に対する課税に移すことに寄与し、税制全体をより公平なものにする働きがある。

 

これは1994年にポール・ベルント・スパーン(Paul-Bernd Spahn)(当時フランクフルト・アム・マイン大学の経済学教授で、IMF専門家)が提案した税案である。この案は、税収を得ることを目的とした非常に低率で単一税率の税(0.01または0.02%)、および為替レートの変動速度からその通貨が投機的な通貨流出の対象となると考えられる場合に課せられる一時的な懲罰的税率(50~100%)という、二重構造を持つ[18]

 

モンテレイ以降、CTTの提案に関する議論の機運はさらに高まり、多くの国にわたり国内および国際的に実現可能な選択肢として広く受け入れられてきている。いまや同税の実施は政治的意思の問題であることは明らかであり、実施すべきときが来たといえる。非常に低い税率のCTTは一国または単一の通貨圏で導入することができ、投機攻撃に対抗する非常に高い税率を持つ二番目の措置は単独で導入できる。

 

開発資金のための連帯税に関するリーディンググループによる近年の発行物や議論では、0.5ベーシスポイント(0.005%)という非常に低率の税を特定通貨の全ての取引に課税する「通貨取引開発税(Currency Transaction for Development Levy (CTDL))」が提案されている。この税は、市場のひずみや租税回避の可能性を最小限に抑えるために、取引される地域に拘らずその特定通貨の取引全てに課税される。この提案は、CTTの導入に関する長期的な展望を維持しつつ、税の実施に関する経験を得る第一歩としてパイロット・スキームの役割を果たせる可能性がある。

 

通貨のスポット(直物)取引以外の金融商品を使用した取引の重要性が高まる形で金融市場が発展する中、オーストリア政府の支援を受けてオーストリアの研究所が全般的な金融取引税(Financial Transaction Tax (FTT)の実現可能性と効果に関する調査を行った。通貨取引のみならず、株式、債券などと関連デリバティブ(金融派生商品)(金利契約、先物取引、オプション)を含む全ての金融取引(スポットおよびデリバティブ)を含めることにより、税基盤が拡大する。このため低い税率を保ったままで多額の税収を得ることができる。この税は短期取引への影響がより大きくなるため金融市場の安定に寄与する可能性がある。

 

全ての主要経済大国における金融資産の取引全般に対する課税は、いくつかの主要なEU加盟国においてスポットおよびデリバティブ取引に対する課税に限定して実施し、後にこれを拡大していくという、段階的なFTTの実施プロセスの最終段階と位置づけられる。

 

今後の国際レベルにおける一層の議論および研究は、FTTの実施の詳細に集中して行われるべきである。

 

2. 航空券税

開発資金のための連帯税に関するリーディンググループによるイニシアティブとして、いくつかの国によって航空券税が導入されている[19]。同税は、航空産業に悪影響を与えない最低限の妥協案として、低い税率が採用されている。この税は現在、途上国におけるHIV/エイズ、マラリア、結核治療のために新たに設立された仕組みである国際医薬品購入ファシリティ(International Drug Purchasing Facility)のUNITAIDを通して、結核、エイズ、マラリアに対する医薬品調達の資金源となっている。

 

航空券税の導入は、その体制において、国および市民社会の代表を含む北と南が対等な立場で開発資金を創出し管理する共同行動の経験を積む一助となる、興味深いパイロット・プロジェクトである。この取組みは、一国または一地域が単独で、もしくは主導的な国家の連盟が、国際税に向けた第一歩を踏み出せることを証明するものである。しかし、現在の航空券税が効果的な仕組みになるには、以下の点について改善が必要である。

 

1. 負担は任意ではなく義務付けられるべきである。

2. 環境コストを内部化し、個々人の行動に影響を与えるためには、航空券税の税率を十分に高く設定する必要がある。それにより税収も大幅に増額できる。

3. その重要性を増すには、より多くの国を含む国際社会の支持を得る必要がある。

 

全ての革新的メカニズムにより創出された資金の割り当てにおいては、その資金の受益国のオーナーシップという原則が尊重されるべきであり、受益国は重荷となるどのような形の融資条件も強いられるべきではない。資金は、持続可能な開発のための包括的プログラムに割り当てられるべきである。援助供与者が定義する資金割り当ての基準の範囲が狭すぎれば、受益国のオーナーシップが損なわれ、そのような援助は恐らく受益国のニーズと重点事項に対応できないものになるだろう。

 

提案

 

ドーハ・レビュー会議では、これまでの革新的資金源に関する成果と議論を基礎に、以下の行動を取ることによりさらなる前進に向けて措置を講じるべきである。

 

  • CTTを含む国際開発税に関する課題をドーハのアジェンダに含めること。
  • 以下に関して明確な公約を行うことを目指すこと。

- 国連大学世界開発経済研究所(United Nations University- World Institute for Development Economics Research (UNU-WIDER))に対して金融取引税の実施に関して研究するよう要請する。

- 実施経験を得るために低率のCTTまたはCTDLを実施するためのパイロット・スキームを導入することに合意する。

  • 革新的資金源から得られる資金を管理する体制が、国内、国際レベルにおける資金の活用において透明性、説明責任、利害関係者の参加を保証するものであるようにすること。このことは、開発のためのグローバル・パートナーシップをより実質的なものにすることになるため、ミレニアム開発目標(MDG)の目標8の実現に寄与することになる。
  • 革新的資金源の追加性を公約すること。
  • 航空券税の規制効果の側面をさらに重視すること、開発資金のための連帯税に関するリーディンググループをさらに強化すること、UNITAIDの体制をさらに改善することを公約する。これらの強化改善には、費用効率および有効性の改善、医薬品の配布を超えた持続可能な開発のための資金活用、国際開発のイニシアティブに資金供給するリーディンググループによる航空券税イニシアティブに対するより多くの国々の参加などがある。
  • 新たな資金調達手段は、少数の国で実施するよりも、多国間ベースで実施することによって、その効率性を高め規模を拡大することができる。また、これらの新たな仕組みにより創出された資金がどのように活用され管理されるかを決める制度的枠組みが必要である。国連は、これらのイニシアティブのいくつかについて議論し、支持を獲得し、実施を助ける促進者の役割を維持すべきである。しかし、多国間協定を通して、いくつかの種類の資金源をより汎用的に使用することを模索する価値はある。革新的資金源とその管理に関する取組みは、そのガバナンスを多国間の国連機関として制度化することによって、改善できる可能性がある。

 

VI.フォローアップ・プロセスの強化

 

モンテレイ合意は結果ではなく、出発点となるよう意図されたものであったことを強調することが重要である。ここで発表された約束やコミットメントは、「モンテレイの精神」に具象化されているように、継続的な対話と全ての利害関係者による取組みを通してのみ実現されるところが大きい。モンテレイ合意の重要な功績は恐らく、そのような対話の枠組みを作ったことであろう。

 

しかしこれは、各国政府によるコミットメントの度合いが、成果文書で使用される言葉遣いよりもフォローアップ・プロセスの力強さによって量られるべきであることを意味する。

 

CIDSEは初期のモンテレイ・プロセスに取組み、そのフォローアップに定期的に参加してきたが、このプロセスに対するコミットメントが薄れていることを懸念している。この煮え切らないコミットメントを象徴する最近の出来事として、首脳レベルでのドーハ・レビュー会議の開催が合意できなかったことが挙げられるが、それだけではない。事実、ECOSOCのハイレベル対話と国連総会は牽引力をますます失ってきており、国連以外の利害関係者はこれらの成果の政治的価値が不明確なため無視しがちである。

 

また市民社会は、フォローアップ・プロセスの最近の段階において、重要な利害関係者として意味のある関与の場を与えられていない。これは地域準備会議において特に言えることで、市民社会は事前にこれらの会議について通知を受けることも招聘されることもなかった。開発資金プロセスへの多様な利害関係者の参加という方式に従い、このような通知や招聘は行われるべきであった。

 

不調なプロセスを背景に、フォローアップの強化ができなければ、モンテレイの精神の喪失につながり、その公約全ての価値が下がることになる。このため私達は、ドーハ・レビュー会議で合意されるフォローアップの力強さを最も重要視しているのである。

 

提案

 

CIDSEは現在のフォローアップ・プロセスを、少なくとも以下に示す5つの特徴を持つ、制度化された新たなメカニズムに置き換えることを提案する。

 

1.定期的に、高い頻度で会合すること。

2.交渉による成果を出すこと。私達は、交渉を行わないフォローアップ様式から、交渉を行うフォローアップ様式へと移行しなければならない。

3.この制度化されたメカニズムは最高レベルで取り組まれるものであること。これは、特に加盟国の主要な経済関連の地位に着く高級官僚を含む政府の参加に加えて、国際金融機関および世界貿易機関の最高指導者、ならびに関係する全ての開発主体の参加を含む。

4. 開発資金プロセスの開始段階からそうであったように、市民社会は参加の機会を与えられるべきである。ドーハ会議準備プロセスの最終段階において、進行全てに市民社会が完全に参加できるようにすることにより、国内、地域、国際レベル、および会議自体における市民社会の本プロセスへの参加が推進されるべきである。

5. 開発資金プロセスが、真に多様な利害関係者が参加するプロセスとなることを保証するために、情報の入手可能性、および市民社会を含む全利害関係者の交渉への参加を推進する必要がある。

 

さらに、この制度化されたメカニズムは、開発資金問題への取組みを強化した国連事務局に支援される必要がある。

 

このような成果を達成する具体的方法の一つとして、国連総会およびECOSOCにおける既存のフォローアップ・プロセスを置き換える開発資金委員会(Financing for Development Commission)を設立することを提案したい。モンテレイの精神を保持するために、同委員会には全ての関連する利害関係者からの参加者が含められる必要がある。また、市民社会と民間セクターの参加というECOSOCにおける方式と同様の方式が採用される必要がある。

 

開発資金委員会は、モンテレイ合意の実施の進展を評価するため、定期的(毎年または半年毎)に会合を持つべきである。出席者には財務担当大臣、貿易担当大臣が含められるべきである。同委員会は、全ての利害関係者により協議されたアジェンダに基づいて会合すべきである。また、モンテレイの精神を保持するために、全ての政府に合意され、関連する機関利害関係者の支持を得た成果文書を発行すべきである。

 

国連総会は「開発資金委員会」を、日々のフォローアップ事項に関する国連事務局の政府間カウンターパートとなる形で、また他の機関利害関係者との協力関係を維持する政府間の要となる形で設立すべきである。

 

開発資金フォローアップ・プロセスの事務局における必要物に現在当てられている資金は、定期的に協議される開発資金委員会の成果文書の策定に当てられるべきである。また、国連事務局、国連総会の開発資金委員会、ブレトンウッズ機関の加盟国、WTOその他の関連する利害関係者が同委員会の定期的会議を準備するためのプラットフォームとして、事務局が設置される必要がある。

 

 

結論

 

CIDSEは、モンテレイに向けたプロセス、モンテレイ会議、現在の「ドーハへの道」フォローアップに参加してきたが、モンテレイ合意の精神を実現するためにやるべきことは未だ多くあると確信している。同時に、ドーハ・レビュー会議およびその成果文書においては、変化する世界経済および財政の現状と、このような変化の開発資金アジェンダに対する影響を無視することはできない。

 

本文書では、モンテレイ・アジェンダの状況を検討し、ドーハ・レビュー会議およびそれ以降に取るべき行動に関する提案を行った。CIDSEは、このアジェンダを実現する野心的な成果文書が発行されることが、まさしくモンテレイの精神に対するコミットメントの証明になると考えている。

 

●原文⇒ http://www.fastenopfer.ch/data/media/dokumente/entwicklungspolitik/entwicklungszusammenarbeit/entwicklungsfinanzierung/cidse_doha_2008.pdf


[1] United Nations (2002), Monterrey Consensus of the International Conference on Financing for Development. Chapter I.1. Monterrey, Mexico, 18-22 March 2002. 開発資金国際会議で採択された合意と公約の最終版。

[2] Benedict XVI (2008), Message for the World Day of Peace, paras 9-10, Vatican, 1 January 2008.

[3] Gurtner, Bruno (2007) Verkehrte Welt: Der Süden finanziert den Norden. In IUED, Schweizerisches Jahrbuch für Entwicklungspolitik, Vol. 26, N°2, 61-84, Geneva.

[4] OECD (2007) Development aid from OECD countries fell 5.1% in 2006, Paris.

[5] World Trade Organisation (2006) International Trade Statistics 2006, Geneva.

[6] United Nations General Assembly (2005), 2005 World Summit Outcome (A/60/L.1), 24 (e), New York.

[7] Tax Justice Network (2005) The price of offshore, London. 全ての国を含めた概算は約2,550億ドル。

[8] Oxfam (2000) Tax havens: Releasing the hidden billions for poverty eradication, Oxfam Briefing Papers, Oxford.

[9] International Monetary Fund (2006) Offshore Financial Centers: the Assessment Program – A Progress Report.

[10] Tax Justice Network (2005)

[11] Oxfam (2000) Tax havens: Releasing the hidden billions for poverty eradication, Oxfam Briefing Papers, Oxford. 同報告書では、東アジアへの短期資金フローの経路として使われたタイのバンコク国際金融市場(BIBF)の例を取り上げている。同地域は、租税優遇措置と規制要件の控除を提供するオフショアセンターとして機能していた。これらの慣行によって、タイで100万人を貧困に陥れ、インドネシアで貧困生活を送る人口を倍増させた、アジア危機の下地が作られたのである(Bank for International Settlements (1998), 68th Annual Report, Basel および、Financial Stability Forum (2000) Report of the Working Group on Offshore Centres (point 36)参照)。

[12] CCFDの調査では、南の国々の独裁者が過去数十年に着服した資金は1,000億~1,800億ドルと見積もられている。(CCFD (2007) Biens mal acquis… profitent trop souvent. La fortune des dictateurs et les complaisances occidentales, Paris)

[13] 125カ国の情報を評価したIMFの研究者によるパネル調査では、中所得国は失われた貿易からの収入1ドルに対し35~55セントを回収できている。しかし最低所得国は基本的に全く回収できてない。(Baunsgaard, Thomas and Keen, Michael (2004) Tax Revenue and (or?) Trade Liberalization. Washington DC.)

[14] GRESEA (2003) La Justice fiscale pour le développement social – Etudes de cas: Brésil et Algérie, pp. 17-18, Brussels.

[15] World Bank Fact Sheet on Stolen Asset Recovery, Washington DC.

[16] これよりはるかに多くの管轄区に対して接触が図られたが、そのほとんどは(明確に、または事実上)参加していない。International Monetary Fund (2006) Offshore Financial Centers. The Assessment Program – A Progress Report, Washington DC 参照。

[17] CIDSEウェブサイトのCTTに関する取組み、および CIDSE (2004) Redistribution through Innovative Measures: a Currency Transactions Tax, Brussels and CIDSE (2005) New Resources for Development, Brussels 参照。

[18] Spahn, Paul Bernd (2006) in IMF Finance and Development, June 1996.

[19] フランス、チリ、コートジボワール、コンゴ、韓国、マダガスカル、モーリシャス、ニジェールが現在この税を実施している(出典:UNITAID)。

4、連帯のグローバル化:金融課税のための論拠 「国際的な金融取引と開発に関するタスクフォース」専門家委員会報告書

開発のための革新的資金メカニズムに関するリーディング・グループ

報告書2010

連帯のグローバル化:金融課税のための論拠

「国際的な金融取引と開発に関するタスクフォース」専門家委員会報告書

 

3.5 中央で徴収する多通貨取引税(中央徴収型多通貨取引税)

中央で徴収する複数通貨を対象とした通貨取引税(CTT)(中央徴収型多通貨取引税)と前述の税(訳注:国内で徴収する単一通貨取引税(国内徴収型単一通貨取引税))には多くの共通点があるものの、当委員会では、この二つのオプションには別個に評価するだけの十分な違いがあると判断した。

一国で実施するCTTと異なり、このオプションは、ある管轄区内で中央システムを通して決済される全ての取引(どの通貨かに拘わらず)に適用されるため、本質的に多国間の税である。現在のところ、この中央システムは多通貨同時決済(CLS)銀行[31]だが、この税はCLS銀行を通して実施するものと限っているわけではない。むしろこの税は、中央集権的な外国為替取引決済のための多通貨メカニズム全てを想定している。とはいえ、中央集権化された世界的な外国為替取引の決済システムはその性質上独占状態を生むもののようであり、このような機関が複数生まれる状況は考えにくい。

 

3.5.1 十分な収益性

このオプションについての税収見込みは、国内徴収型CTTを全ての主要通貨群に課税する場合と同等である。しかし、前節で見たように、現行の見積額は近年の市場の出来高や呼び値スプレッドの変化を考慮に入れていない。

この問題を解決するために、我々は潜在的税基盤[32]に関する数値を新たに見積もり、これらを主要通貨ペアのスプレッドに関するより最近のデータと組み合わせ、現在の年間税収見込みをより正確に出すこととした。

2009年末における主要4通貨(ドル、ユーロ、円、ポンド)の出来高の見積もりを表2に示す。

 

表2 外国為替の年間出来高の見積額(2009年)(単位:米10億ドル)

米ドル

ユーロ

日本円

イギリスポンド

ドル/ユーロ 出来高 ユーロ/円 出来高 円/ポンド 出来高 ポンド/その他 出来高
現物

87427.85

現物

8020.80

現物

603.55

現物

4868.73

先物

28265.20

先物

2593.11

先物

195.13

先物

1574.05

FXスワップ

134996.11

FXスワップ

931.94

FXスワップ

7517.74

ドル/円 FXスワップ

12384.81

円/その他
現物

42290.16

ユーロ/ポンド 現物

4799.69

先物

13672.30

現物

6589.91

先物

1551.73

FXスワップ

65299.64

先物

2130.50

FXスワップ

7411.14

ドル/ポンド FXスワップ

10175.39

現物

28917.32

ユーロ/その他
先物

9348.90

現物

20618.01

FXスワップ

44650.84

先物

6665.75

ドル/その他 FXスワップ

31835.98

合計

年間

909,392

現物

113014.48

合計

一日

3,637

先物

36537.30

FXスワップ

174504.08

出典:国際決済銀行(BIS)(2007)、ロンドン外国為替合同委員会(FXJSC)、ニューヨーク外国為替委員会、東京外国為替市場委員会、および著者による計算。

 

この表から分かるように、一日の平均出来高は36,370億ドルと見積もられ、2007年に発表された3年ごとのBISによる調査(BIS Triennial Survey)結果から約20%の増加となっている。この間に、現在生きている人が記憶する中で最も深刻な金融危機が発生したにも拘わらずの増加である。

これらの出来高の見積額を表2に示すスプレッドと組み合わせ算出した、3つのシナリオにおける税収の見積額を表3に示す。各シナリオでは、(現在75%がCLSを通して決済されているのに対し)外国為替取引の87.5%が中央システムで決済されると想定した。基本ケースとして、価格弾力性はシュミット(Schmidt, 2008)に従い-0.43とした。

 

表3 CTT税収および出来高縮小の見積もり(2009

シナリオ1

シナリオ2

シナリオ3

年間税収(米10億ドル)
米ドル

28.63

29.42

21.34

ユーロ

12.75

13.13

9.22

日本円

5.76

5.94

4.12

イギリスポンド

4.47

4.57

3.57

世界

33.47

34.38

25.00

出来高縮小(%縮小)
現物

14.60

14.60

14.60

先物

14.60

11.68

14.60

FXスワップ

14.60

9.73

50.93

出典:上と同じ、スプレッドのデータはOlsen Financial Technologies

 

シナリオ1では、各通貨ペアでスプレッドは当然異なるが、3つの市場分野(現物、先物、FXスワップ)全てにおいてスプレッドは同じであると想定した。またこれら3つの分野における価格弾力性は同じレベルであると想定した。表3から分かるように、結果としてもたらされる世界全体での税収は334.7億ドルとなり、シュミット(Schmidt, 2008)が示したものと非常に近い数値となった。上述のように、20%の出来高の増加はスプレッドの縮小により相殺され、これらの想定の下では税収の見積額は概して変わらない結果となった。

シナリオ2では、先物市場とFXスワップ市場のスプレッドを現物市場のスプレッドからそれぞれ50%、25%増加させた。これは先物市場で流動性が最も低いこと(決済日が固定されているため)、またFXスワップ市場でも現物市場より流動性が低いことを反映してのことである。ここでは税収の合計は若干増加し343.8億ドルとなった。これはスプレッドが増加しCTT税率の占める割合が下がったため取引される出来高への影響が小さくなったことを反映している。

シナリオ3では、シナリオ1と同様に3種類の市場におけるスプレッドは同じと想定するが、FXスワップ市場における価格弾力性を-0.43から-1.5へと大幅に増やした。これは基本的には「感受性試験」であるが、FXスワップ市場からの大幅な資本移転の効果を示すことも目的としている。ここでは税収は大幅に減少するが、それでも250億ドルと多額である。

ここで重要なことは、これらの見積もりは取引の1区間にのみ課税される取引を対象としていることである。このため、ポンドが売られユーロが買われる場合、その全体の取引に0.005%の税が課税されるのであって、両方の区間それぞれに課税されるのではない。しかし、もし英国とユーロ圏の両方がCTTメカニズムに参加しているのであれば、両方の区間それぞれに課税しない理由はどこにもない。例えば、英国当局はポンドの売却に、ユーロ圏はユーロの購入に課税することができる。この場合、税収の見積額は当然大幅に増加する。結果として取引に対する税率が2倍になるため、出来高は大きく減少することとなり、このため税収が単純に倍になるわけではない。しかしCTTの対象となる主要通貨全ての両区間に中央徴収型CTTが課税されれば、世界的な税収の合計はここで示した見積額を大幅に超えることになる。

 

3.5.2 市場への影響

表3では、3つのシナリオにおけるCTTの市場に対する潜在的影響についても見積もっている。中心的な数値となった「14.6%縮小」は、シュミット(Schmidt, 2008)で算出された数値に近いが、この間起きたスプレッドの縮小を反映し今回の縮小度合いが若干増している。シナリオ2では、先物市場、FXスワップ市場の流動性が比較的低いことから、先物市場、FXスワップ市場ともに現物市場よりスプレッドを大きく想定している。ここでは、出来高への影響は先物市場、FXスワップ市場で低減されている。シナリオ3では、FXスワップの価格弾力性を非常に高い-1.5と想定した。その結果、出来高は大幅に縮小した(50%の縮小)。

これらの見積もりでは、外国為替取引の87.5%が中央システムで決済されると想定した。この小節ではこれ以降、この想定について議論していく。

世界的な外国為替市場における決済は、ますます中央集権化されてきている。この潮流を推進している要素が2つある。一つは、異なる標準時間帯、管轄区における外国為替取引に関わる決済リスクを金融機関が緩和しようと努めていることである。これは、取引の区間の片方で受け取りが行われる前に、対応するもう片方の区間で送金が行われた場合、不履行により取引が完了しないリスクが発生し、関係金融機関に深刻なリスクがもたらされるからである。第二に、グローバル金融機関同士の相互連関性は非常に高く、一機関の破綻は個々の機関に大きなリスクを与えるだけでなく、世界レベルで深刻なシステミックリスクをもたらす。このため、金融規制当局や中央銀行は2通貨を同時に決済する(PVP方式)形での中央集権化された決済を推進している。PVP方式は外国為替取引の両方の区間の送金を同時に行うもので、これにより「ヘルシュタット・リスク」[33]を排除することができる。外国為替市場における決済リスクを解決するために、現在までに取り入れられた主要な手段はCLS銀行の設立である。CLS銀行は一つの窓口で全ての標準時間帯における通貨取引をPVP方式で決済する機関である。

近年の世界金融危機により、システミックリスクの削減に向けた規制努力に拍車がかかっている。これらの勢力により、今後時間とともにより多くの外国為替取引が中央システムで決済されるようになる可能性が非常に高い。しかし、世界的な決済機関を通して適用されるCTTがこの傾向にどのような影響を与えるかが、未解決の問題として残る。ある機関にとってのこのインセンティブの規模を測るには、CTTの費用(つまりCTT税率×取引額)と他の決済形式に取引を移転させる場合の費用を比較する必要がある。後者の費用は次の4つのカテゴリに分類することができる。

第一に、CLSを通して取引するために確立された制度的インフラを放棄することによる直接的な固定費[34]がある。第二に、中央集権化されていないシステムを通して取引することにより、(a)効率性が劣る、(b)取引毎の費用が高くなる、(c)一日毎に取引を可能にするには相当高い流動性が必要となる、という問題から発生する追加的な変動費がある[35]。スプラット(Spratt, 2006)は、これらの変動費の節約によりCLS参加者が受ける恩恵は年間179.4億ドルに上ると見積もっている。これらの数値が見積もられた時期から取引額が大幅に増加したことを考慮すると、節約された額も増加していると考えられる。第三に、非PVPシステムでは取引相手側における不履行の可能性があるため、莫大な決済リスクが発生する。確率は低いが、実際に起きた場合にはその機関に破壊的な結果をもたらす。

第四に、これらの経済的要素は潜在的規制コストを伴う。外国為替市場における主要な取引先の不履行がもたらす影響によるシステミックリスクは重大である。これは2008年のリーマン・ブラザーズ破綻の影響により痛感させられた事実でもある[36]。提案された金融規制・監督改革は現在取り組まれている最中であるが、改革の結果、リスクが高いと考えられる活動(特にシステミックな影響が重大な場合)を阻止するため規制当局がより大きな権力を持つことになりそうな気配である。

中央集権化されていないシステムで決済される外国為替取引はまさにこのカテゴリに当てはまると見られる。当委員会の知るところでは、バーゼル銀行監督委員会では現在、中央システム以外で決済される外国為替取引はリスクがより高いことを反映し、そのような取引に対してより高い自己資本比率規制を適用する案を検討しているという。

中央徴収型CTTについて、デリバティブ(金融派生商品)がもたらす問題の多くは、国内徴収型CTTの関連で上述された問題と類似している。しかしいくつか異なる点もある。中央システムで決済される外国為替デリバティブは増加してきている。その方が市場参加者にとって経済的利益となるからである。その結果、一般的に好まれる決済システムを通したCTTの適用と上述の規制圧力の組み合わせにより、CTT適用における「従来の外国為替取引」と「外国為替のOTC(店頭)取引」の相違が少なくなっている。このため概して、中央決済システムを通したデリバティブ取引へのCTT課税は、従来のFX市場への課税と同じ課題を抱えることになる。

CTT支持者の間では、「従来の」外国為替取引(現物取引、アウトライト先物FXスワップ[37])は課税されるべきとの合意が形成されている。中央システム以外で決済される非従来型のFX取引については、話はそこまで明瞭ではない。全体としては、これらの契約の概念的価格に課税することは、次の理由から望ましくも可能でもないというのが当委員会の意見である。(a)デリバティブ契約のほとんどは実際の通貨の受け渡しを伴わない。(b)オプションが従来のFX取引と同じ税率で課税されると、過重課税の問題が起きる[38]。(c)デリバティブは従来のFX取引の完全な代用にはならないため、従来のFX取引のみが課税されても実質的な租税回避の機会を与えることにはならない。

当委員会は、特にFXオプションが実行された場合には現物市場で課税されるため、FXオプション契約へは課税しないことが正しいと考えている。しかし一方で、平等な競争条件を確保するために、オプションプレミアムには多国間CTTを課税すべきだと考える。OTCデリバティブからの税収は上記の見積額には含んでいない。

最後に、当委員会は、「CTTの納税回避のために複雑なデリバティブ商品が構築されるリスク」が誇張されていると考えている。金融革新は基本的に費用便益に基づく決定である。非常に低率のCTTはそのような商品の構築にかかる費用よりも低い[39]

さらに、英国の株式に対する印紙税と同様に、中央システム以外で決済される取引が法的に実施不可能となるように、租税回避を阻止する確固とした法的環境が整えられることになるだろう。

 

3.5.3 実現可能性

技術的な実現可能性が高い点が、中央徴収型CTTの魅力的な特徴といえる。例えばCLSでは、既に1,000,000ドルの取引毎に22セントという少額の税がかかる。これは0.000022%のCTTに相当する。CLSを通して0.005%のCTTを課税する場合、このインフラに便乗することができ、その場合既存の税率は0.005022%に増加することになる。

CLS銀行などの中央決済機関に頼る参加国は、それらの決済機関の領土管轄権を持つ国々に対して共同委任することにより、第三者徴税システム[40]を設置させることもできる。

中央徴収型CTTの実施には、国内徴収型CTTの実施より当然はるかに多くの国際的な法的取り決めが必要となろう。また、税の基本原則(「代表なくして課税なし[41]」や税の主権など)、実施上の法的原則(税の執行管轄区における領土権の原則)、国際的な原則(無差別待遇および、投資・貿易自由化の原則)に対する解決策が必要である。しかし当委員会は、これら全ての課題については国際課税のこれまでの経験を参考にすることができ、共同で適用されれば必要な解決策が得られると考える[42]

現在100%民間資本の世界的決済インフラを通して徴税する国際税を確立するためには、課税に関する相当な調整と連携が必要である。また、国際経済法の基準(特に既存の法定の資本・貿易自由化との適合性に関わる基準)に沿った設計が必要である。共通に合意された設計に基づき国際的な公共体のために徴税することを目的にCLS銀行などの中央決済・支払機関に共同の法的委任・指示を与えることにより、多重課税のリスクを解決することができるだろう[43]

国内徴収型CTTと同様に、(公認の)支払・決済機関を通して多通貨取引税を中央集権的に徴収することは、市場参加者によるコンプライアンスを促進し、また代替方法がより費用のかかるものとなるため、そのこと自体がインセンティブとなるだろう[44]

無差別待遇と自由貿易の国際原則の問題については、多通貨CTTでは通貨によって異なる扱いをすることがないため資産の差別という法的問題には抵触しない。

中央銀行は、中央銀行により独占的に発行される通貨に関して法定の「独占権」を持つ。このことは、(各国通貨が各参加国の管轄区内で唯一の法定通貨であるという)通貨取引における特定の法的側面と課税手法を組み合わせる、国際法上またとない機会を与えることとなる。このような強力かつシステミックな仕組みは、英国で発行される株式の取引に対する印紙税の場合と同様に、地理的な租税回避を完全に排除することにはならないにせよ効率的に阻むことになる。上述のように、税外の契約を実施不可能にするという英国の手法を活用して、この仕組みを強化することもできる。

 

3.5.4 安定性と適合性

中央徴収型CTTからの税収の安定性は、FX市場の発展、税の設計の強靭性、中央決済システムからの移転の度合いに左右されることになる。また中央決済システムからの移転の度合いは、移転を逆方向に押し戻そうとする中央銀行による監視行為を含めた、経済的手段、規制手段を使用した勢力の強さに左右される。

全体として中央決済に向かう勢力が強い場合、このオプションは他にも次のような長所を持つことになる。第一に、中央徴収型CTTは、国内での徴税、支出を避けることにより、その時々の税収の予測可能性を低くする「国内歳入問題(domestic revenue problem)」を克服することができる(訳注:国内で徴税された場合、これらの税収を差し迫った国内ニーズに充てようとする政治的圧力が高まり、開発資金のための税基盤が浸食されるという問題)。第二に、中央徴収型CTTは、グローバル決済時点で徴税することにより、上述の「世界的連帯のジレンマ(Global Solidarity Dilemma)」に対する解決策を提供するもののようである(訳注:グローバル経済の成長は地球公共財の費用を抜きに進められ、今日世界経済、社会、環境等のリスクを招き、逆にグローバル化の基礎を蝕んでいる、というジレンマ)。中央システムで決済される外国為替取引に低率の税を課すことは、税の帰着を世界経済における影響力と結び付けることにより、「徴税における不釣合い(asymmetry of revenue collection)」の問題をも克服している(訳注:金融機関の拠点国では税収が不相応に高くなる問題)。また、金融機関がCTTの負担の大部分を金融・法人顧客に転嫁すると想定すると、その影響は、経済市場参加者の市場への関与の度合いに応じて世界経済全体に市場ベースで均等に分配される。その結果、世界経済全体が地球公共財の供給のために低率の税を支払うことになる。これは地球公共財のための資金を調達するには適切な方法である。

別表4では、これらの評価の概要をマトリックス形式で示している。

 

3.6 主な提案

地球公共財のための資金調達源として最も適切なのは世界経済の経済活動そのものであり、その資金調達による影響度は国際システムへの関与の度合いに比例しているべきである。これは、「グローバル・コモンズ」の使用により得た金銭的利益について、世界経済システムに課される料金(fee)または課徴金(levy)であると考えることができる。その収益は世界公共財の資金源として使用される。これは、公平な人間開発と安定した自然環境という、システムの安定を支える地球公共財に対して世界的責任を果たすことに匹敵する。我々は、この料金を直接世界経済の全ての経済参加者に課すことを推奨しているのではない。我々が推奨するのは、最も利益を得ており最も貢献力のあるセクターが負担の重要部分を担うようにしつつ、費用負担が国際システムに広く分配されるような資金調達方法を見つけることである。

検討されたオプションは全て公共資金調達メカニズム案として価値があるが、これら全てが同等に上述の特定の任務に適しているというわけではない。我々はこの任務と、「国際開発および環境危機の緩和・適応のための安定した革新的資金源として最適な潜在的資金源を特定する」という当委員会に課せられた付託事項を直接結び付けている。

これは極めて重要な点である。世界経済は社会、環境の揺るぎない安定性なしにはその目的を果たせない。これを支えるための安定した長期的資金を提供できなければ、開発目標はいつまでも達成できないし、環境変化は驚くほど激しさを増すことになるだろう。その先にあるのは長期的な世界的安定ではなく、貧困、不平等、急速に悪化する環境により悪化し続ける社会不安であろう。

まず第一に、この理論に基づき我々は世界金融セクターが最も適切な資金源であると特定した。国際金融はグローバリゼーションと密接に結びついている。国際金融は世界経済の活力源である。世界経済活動と世界金融は共進化してきたもので、相互依存性が非常に高い。金融なしには今のグローバリゼーションはあり得なかっただろうし、その逆もまたしかりである。国際金融システムの成長はグローバリゼーションに依存している。

また、金融システムのいくつかの側面は、本質的に国際的である。最終的に、当委員会が全般的な金融取引税(FTT)、金融収益・報酬への課税(FAT)、金融セクターへの売上税の拡大(VAT)を推奨しない主な理由はここにある。これらの提案にはそれぞれ、特に国内の資金調達方法としてのメリットはあるものの、「世界的連帯のジレンマ」の解決と地球公共財への資金調達という任務には適していないと我々は考えた。これらの提案には全て国際的な要素が含まれるが、いずれも完全にグローバルなものではなく、国内レベルの金融活動に大きく頼っている。その結果、これらは「徴税における不釣合いの問題」と「国内歳入問題」の両方を抱えることになる。

当委員会は、金融市場の中で最も国際的に組織化され統合化された分野であり、投資、商品、サービスの国際決済に組織的構造を提供している外国為替市場が、この目的を達成するためのメカニズムとして最も適していると考える。国際通貨取引に課される低率の税の一部は、間違いなく金融機関からその顧客、他の金融機関(ヘッジファンドなど)、企業に転嫁されるだろう。これらの機関はさらにその顧客にコストの一部を転嫁する。この波及プロセスによって、世界経済活動における金融セクターを含めた各参加者の関与の度合いを幅広く反映する形で、コストの一部が国際経済全体に分配、共有されることになる。金融セクター内では、ヘッジファンドや投資銀行などのより頻繁に金融取引を行う参加者、および高収益で高い報酬を支払う参加者らは、全体の税のうち高い割合を負担することになる。またこの事実は、他のオプションと比べこの税が比較的公平であることを意味する。

本報告書では、2つの外国為替メカニズムが検討された。まず、「国内で徴収する単一通貨取引税(国内徴収型単一通貨取引税)」は、特に租税回避が困難であることと比較的容易に一国の管轄区内でメカニズムを設立できるという点で、明らかに重要な潜在性を有する課税メカニズムである。しかし、当委員会は検討の結果、この税は資金が国内レベルで徴収されるという点において、もう一つのオプションである「中央で徴収する多通貨取引税(中央徴収型多通貨取引税)」と比べ、地球公共財に資金調達するという任務には適していないと考えた。

中央システムでのグローバル決済時点で外国為替取引に料金を課す方法は、世界的連帯のジレンマの解決に直接取り組む方法となる。この案の最も重要な課題は、外国為替取引を中央決済から移転させるインセンティブをこの税が与えてしまう可能性があることである。しかし当委員会は、中央決済を促進する経済手段、規制手段を用いた勢力の方が、全体としてそのようなインセンティブに勝ると考える。

 

バーゼル委員会では既に、承認されたメカニズムを通した中央集権的な決済を使用しない取引に対する自己資本比率規制を採用することにより、中央決済システムがもたらす安定性の利益を内部化しようとするイニシアティブが存在すると聞いている。この要件は、バーゼル合意の第一の柱に追加されるか、第二の柱における監督の裁量のメカニズムを通してこのイニシアティブが取り入れられるかのどちらかであろう。後者の場合、バーゼル合意の改正を必要としない。このような動きは、もし正しく調整されれば、中央決済を促進する勢力をさらに強化することになる。

これらの勢力は、法的措置(例えば、下位指令で定める税の遵守に関する規定、確固とした反租税回避規制、税外取引の実施可能性に対する法的保護の欠如)と組み合わせれば、CTTの適用により発生する阻害要因を相殺するどころか、これに勝ることになるだろう。

さらに我々は、税を徴収した中央決済システムが、国際開発と環境危機への資金調達を担う機関にその税収を直接渡すことを推奨する。そのような機関がどのように機能するかについて、いくつかの提案を下に示す。

我々は「税(tax)」ではなく「課徴金(levy)」という言葉を意図的に使用する。上述したように、当委員会はこれらの税収を、「グローバル・コモンズ」へのアクセス、およびグローバル化した経済圏の富の共有へのアクセスを反映して、広く世界経済に課する「料金」であると捉えている。このため、これを「通貨取引税」と考えるのは適切ではなく、「世界連帯課徴金(Global Solidarity Levy)」と考えるのが適切である。



[31] 2002年、中央銀行と世界的民間銀行のコンソーシアムが、外国為替取引の決済をより確実なものにするため、多通貨同時決済銀行(Continuous Linked Settlement (CLS) Bank)を設立した。CLS銀行は、決済インフラの世界的中枢となっている。同銀行は他に類を見ない市場主導の機関で、市場参加者にネッティング(相殺決済)・決済サービスを提供し、世界の17主要通貨に制度的枠組みを提供している。CLS銀行には59の銀行が加盟しており、これら59行はCLS銀行を所有する持株会社であるCLSグループの株主でもある。CLS銀行の企業統治および、CLS銀行がどのようにデータ、リスク・エクスポージャー(リスクにさらされる度合い)、加盟銀行へのサービスの管理を行うかについては、これらの59株主銀行が責任を負っている。これら59加盟銀行に加え、現在合計7070の参加機関、参加主体がCLS銀行のサービスを利用している。これらの第三者参加者のうち、6620機関が投資銀行で、残る450機関は銀行、企業主体、その他銀行以外の金融機関である。このため、CLS銀行のネットワークの範囲は幅広く、同銀行が提供する外国為替決済サービスの範囲もまた、これらの機関や主体による外国為替取引に及んでいる。外国為替決済市場におけるCLS銀行のシェアが増加していることから、同銀行は将来的に外国為替取引の価格や出来高に関するデータの管理、収集を制度的に支配することになると考えられる。とはいえ、この市場シェアの成長は危ういものである。もし加盟銀行やその顧客が取引銀行間(二行間)などのより従来型の方法を使用する、または他の決済取り決めを使用するなどしてFX取引を決済するとの決定を下せば、このシェアは減少する可能性がある。しかし、CLSを通して決済を行う加盟銀行とその顧客金融会社・機関はリスク削減に関して多大な利益と相乗効果を得ており、外国為替取引に対する非常に低率の取引税を回避するためにこれらの重要な費用の優位性を犠牲にしたいとは恐らく思わないだろう。

[32] 潜在的税収の見積額については、国際決済銀行(BIS)の外国為替とデリバティブ(金融派生商品)取引に関する3年ごとの調査(Triennial Central Bank Survey of Foreign Exchange and Derivatives Market Activity)に頼っていることがほとんどである。しかし前回の調査は2007年であり、2010年の調査は当委員会の報告が終了した後に発行される予定である。この問題を解決するため、我々は、主要な外国為替取引センター(ロンドン、ニューヨーク、東京)の出来高データを照合し、これを元に世界レベルの傾向を推定することにより、世界レベルでの数値を見積もった。

[33] 「これは、時差により銀行間資金送金システムの営業時間が重ならないことによって起こる通貨間決済リスクである。この状況下では、一方の取引先側の決済が不履行となることで横断的な不履行の連鎖反応が起きる。1974年6月に、取引先からの支払いを受け取った後契約を決済すべき期間に破綻したドイツの小規模銀行(Bankhaus Herstatt)の名前にちなみこのように呼ばれる。」(BusinessDictionary.comより)

[34] 金融サービスIT調査会社であるタワーグループ(Tower Group)は、CLS加盟銀行、利用者、第三者が1999~2003年に既存または新たなITインフラに費やした費用は、1億8300万ドルだと見積もっている。

[35] スプラット(Spratt, 2006)は、CLSを通して処理される各取引の費用は他の方法に比べ相当に低く、これによりCLS参加者は6000万ドル以上の純益を得ているとしている。またスプラットは、CLSのネッティング(相殺決済)処理によって、流動性確保のための必要額(liquidity requirement、各機関がシステムに払い込む必要のある額の合計)が取引全体の総額の2%で済むという点も指摘しており、CLS参加者はこのメリットにより年間54億ドルの利益を得ていると見積もっている。またスプラットは、CLSシステムによって少ないスタッフでより多額の取引を行うことができるようになり、年間120億ドル強という大幅な効率向上につながっているとしている。

[36] ドイツ国有銀行であるドイツ復興金融公庫(KfW)は、リーマン・ブラザーズ倒産の日に3億ユーロを送金した。CLSを通さない取引であったため、KfWはドルの支払いを受けられず、ユーロの回収もできない事態となった。

[37] CLSによると、現物、スワップ、アウトライト先物の価格の75%がCLSを通して決済されているという。2009年10月にCLSにより決済された支払指図書の合計価格は一日平均3.766兆ドルであった。

[38] 通貨デリバティブの売り手にとって、そのデリバティブが有効な期間中管理し続けるということは、原資産の額の一部に関する現物取引が絶え間なく発生することを意味する。

[39] デリバティブを利用して、従来のFX取引に対する税を回避する方法は2つある。一つは、例えばローンと2つのオプション取引(コールとプット)を組み合わせることにより、デリバティブ商品を利用して現物取引を人工的に再構成することである。もう一つは、例えば通貨自体の代わりに二種類の通貨建ての流動性を有する証券(財務省短期証券のような)をスワップ取引することである。問題は、このような回避行為が行われる可能性はどの程度あるかという点である。これらの操作は純粋な従来のFX取引(現物またはFXスワップ)より費用がかかりリスクが高いため、従来のFX取引に対する税率が十分低く設定されていればこのような操作を行う価値は見出せないだろう。

[40] 多くの国の金融セクターに適用されている既存の印紙税、有価証券取引税、不動産取引税の経験がある。領土外の管轄区に関する発想は、これまでの経験から得ることができる。例えば、EU貯蓄指令(EU Saving Directive)における支払代理人(paying agents)システムが多数のオフショアセンターへ拡大されていること、仲介業者に資格を与えるという米国の考え方、また多くの管轄区における、賃金、配当、金利に対する国境を越えた源泉徴収税の負担義務に関する経験などがある。

[41] 国内の税務当局が徴税を監督するため、税のこの部分に関する民主的管理は国内レベルで行使されることになる。税の支出側については、これ以降に説明されるように、税収を受け取り資金を分配する「グローバル基金(Global Fund)」の統治構造により、民主的に管理することができる。

[42] 多通貨CTTでは明らかに、金融取引税(FTT)や単一通貨CTTよりさらに、各国間で税の適切な共通設計に合意する必要がある。これらの設計には、課税対象の取引と資産、課税対象の活動、税基盤と税率、納税者、徴税を委任・指示される金融仲介業者を承認するための基準についての、一致した定義が含まれる。各国は、二重(または多重)課税を避けるために、共通に合意された個人または対象領土の関連要素に従って税の徴収(を共同で委任すること)ができるよう、各々の課税の権利・権力に関する主権を共有することに合意しなければならない。しかし多通貨CTTでは、一国の通貨ではなく、参加管轄区内の外国為替市場全体が対象となる。つまり、取引に関与する通貨の種類、取引先(の住所)、仲介業者に拘わらず、全参加管轄区における全ての取引が課税される。このような税はその適用においてより中立的であり、全ての市場参加者にとって公平な競争の場を提供できる。さらに多通貨CTTでは、この共有メカニズムに参加していないが参加国の管轄区内で取引されている国の通貨が関わる取引に対しても、課税することができるのである。このことは徴税を行う決済機関レベルでの実際的な実施を大幅に簡素化、促進し、類似の単一通貨課税より多くの税収をもたらす可能性が高い。

多国間での導入では当然、課税の権利に関する摩擦のリスクや多重課税を排除できるが、海外にある領土外の課税執行管轄権(徴税)の委任、組織化を伴うことを意味する。適切な枠組みとしては、基本的な課税の特徴、定義、相互協力を含む多国間協定および/または地域的取り決めが考えられる。さらにこれらは各国で実施され国内法に統合されることになる。

[43] 参考:多くの国の金融セクターに適用されている既存の印紙税、有価証券取引税、不動産取引税の経験がある。領土外の管轄区に関する発想は、これまでの経験から得ることができる。例えば、EU貯蓄指令(EU Saving Directive)における支払代理人(paying agents)システムが多数のオフショアセンターへ拡大されていること、仲介業者に資格を与えるという米国の考え方、また多くの管轄区における、賃金、配当、金利に対する国境を越えた源泉徴収税の負担義務に関する経験などがある。

[44] 脚注22参照。(訳注)脚注22:コンプライアンスに関わる市場参加者の負担(徴税を担う公認の仲介業者を通さない取引を行う場合)には次のようなものがある―納税申告の提出、取引先への税の支払いと税の徴収、より詳細な報告を市場規制当局に行うことによる取引データの監視、税務当局による管理。税務当局による管理は、市場規制当局への報告および当局による監視に基づくもの、SWIFT(国際銀行間通信協会)や類似機関のメッセージシステムが要求する情報に基づくものが考えられる。また税務当局による管理は、(資金洗浄、テロリズムへの資金調達などの)不法な資金フローの領域における監視機能を持つ総合的な金融情報サービスとの協力の下行われることが考えられる。税収がEU予算に使用される場合には(EUの開発資金を含む)、欧州不正対策局(OLAF)が関わってくるEUの「経済的利害」保護のためのEU法もまた、適用されることになる。

 

 

 

 

原典: http://www.leadinggroup.org/IMG/pdf_Financement_innovants_web_def.pdf