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オリガルヒ制裁にはタックスヘイブン対策、金融資本台帳が必要
日本ではまったく報道されませんでしたが、4月20日に開催されたG20財務相・中央銀行総裁会合に向け、「国際法人課税改革のための独立委員会(ICRICT)」が公開書簡を公開しました。ICRICTとはノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツや著書『21世紀の資本』のトマ・ピケティ、タックスヘイブン研究のガブリエル・ズックマンたちによって創設された公正なグローバル税制を求める非政府組織です。
そのICRICTが公表した書簡は「隠された富を対象としたグローバルな資産登録が必要な時だ」というもの(注1)。この書簡につき、4月19日付の英ガーディアン紙が「G20閣僚はオリガルヒへの取り締まりをタックスヘイブン対策に活用するよう促された」と題して報道していますので、紹介します。本文の前に、2,3の背景説明を行います。
1、オリガルヒと「ロンドングラード」
オリガルヒ(新興財閥)とはプーチン政権と癒着して財を成している者たちのことですが、その財(資産)たるやロシアGDPの21%に達すると言われています(米経済誌「フォーブス」)。その莫大な資産の相当部分が海外に移されていますが、最大の受け皿となったのが英国ロンドンで、その実態をNHKテレビが伝えていました(注2)。
英国には『ゴールデン・ビザ』という制度があり、投資額に応じて居住権、永住権が与えられる投資家用のビザ制度で、どんなに汚い金やマネーロンダリング用の金であろうと、金さえ払えば匿名でビザを取得できるというもの。オリガルヒはこれを使ったのですが、「英ロンドンは、ロシア語で都市を意味する“グラード”にかけて“ロンドングラード”と揶揄されるほどロシアマネーで潤った」とのこと。
現在、イギリス政府はオリガルヒ51人に制裁を科すことになっていますが、その資産の総額は1000億ポンド(15兆6000億円)。しかし、オリガルヒたちは「資産凍結はある程度見込んでいたのではないか かなりの資金をタックスへイブン(租税回避地)に、名義を別にしてきれいにして、すでに移している」とNHKは報じています(注2)。
2、タックスヘイブン対策、金融資産台帳作成が必須
それでオリガルヒへの制裁を有効裡に進めるにはタックスヘイブン対策が必要となります。多国籍企業に対しては先のデジタル課税(新多国籍企業税+世界共通最低法人税率)で網をかけることができますが、中小企業・ペーパーカンパニーや個人資産には網をかけることができていません。真の所有者と金融資産の中身が分からないからです。それでピケティやズックマンはグローバルな金融資産台帳を作成し、資産そのものへの課税を行うべき、と提案しています(注3)。
金融取引税でも難しいのに、金融資産税となるともっと難しいのではと思われますが、一つには有価証券については有力国ではほとんど電子化されていること(日本は証券保管振替機構)、二つにマネー・ローンダリングおよびテロ資金供与防止が目的ですが、正・準会員併せて200以上の国・地域が参加する金融活動作業部会(FATF:Financial Action Task Force)が活動中であり、匿名のペーパーカンパニーに対する透明性確保を目指しています。これらが金融資産台帳作成のツールとして利用できるでしょう。
3、日本ではまず預金通帳の名寄せを行い、マイナンバーとリンクさせ金融資産台帳作成へ
ところで、金融資産は有価証券だけではなく、預金もあり、暗号通貨もあり、絵画や宝石もあるでしょう。これらすべてをカウントしなければなりませんが、日本では何よりも個人・法人の預金口座を正確に把握することが大事です。10億冊あると言われている預金通帳の名寄せを行い、預金口座とマイナンバーとをリンクさせることが必要です(プライバシー保護を前提として)。
ともあれ、ずタックスヘイブンの存在は税の公正さを著しく歪め、同時にグローバルな格差是正を台無しにさせるものです。例え国際連帯税が世界で実行され、途上国への支援が一層活発となっても、その支援以上ものリソースがタックスヘイブンへと流出するであろう構造を何としても解体していかなければなりません。
4、ガーディアン紙の報道
G20閣僚はオリガルヒへの取り締まりをタックスヘイブン対策に活用するよう促された
G20 ministers urged to use oligarch crackdown to tackle tax havens
重鎮エコノミストが、富裕層が国に支払うべきものを奪うのを阻止するための世界的な登録を要求
G20諸国は、著名な経済学者のグループから、ウクライナ制裁の中でのオリガルヒの富の取り締まりを、タックスヘイブン対策に大いに利用するようにと促されている。
火曜日に開催される20カ国の財務相会議に送られた公開書簡では、資産、会社、建物を所有者に関連付ける世界的な登録制度を導入し、彼らが国に支払うべきものを奪うことができなくなるようにすることが求められた。
この公開書簡には、経済学者のガブリエル・ザックマン、ジョセフ・スティグリッツ、トマ・ピケティや、フランスの捜査判事エヴァ・ジョリなど、租税回避防止団体「国際法人課税改革のための独立委員会(ICRICT)」の委員14名が署名している。
彼らは、タックスヘイブンに隠された極端な富の集中が不平等を拡大し、社会の最貧層を貧困化させていると主張し、「富裕層の税金悪用で歪んだ」国際金融システムの改革を要求しているのです。
パンデミック発生以来、世界の富裕層の富は2倍の150億ドル(1.01兆ポンド)に達したが、ICRICTの委員は、その間、貧富の差は広がるばかりで、ウクライナ紛争で悪化した状況は、多くの貧困層を生活危機とエネルギーや食料の高騰に直面させていることを明らかにした。
彼らは、グローバルエリートのメンバーは、しばしば「税金の支払いを避けるためだけでなく、汚職や違法行為によって生じたお金を隠すために精巧な構造を通し…グローバル金融は、税の悪用、汚職、マネーロンダリングを繁栄させることができ」その富を隠していると書いている。
ウラジーミル・プーチンの侵攻後、ロシアのオリガルヒに属する資産を制裁しようとする試みは、彼らの富の保有場所について署名者たちが「不透明性の壁」と呼ばれる壁によって、クレムリンとつながりを持つ人々に刑罰を課そうとする国々を困難にしていた。
書簡にはこうある。「ウクライナ戦争は、タックスヘイブンに正面から取り組み、緊急に透明化対策を実施する必要があることを示している。それは、すべてのオリガルヒ、そして税務当局や一般市民から隠され、金融の不透明性が高い国・地域に隠されているあらゆる富をターゲットにすることである」、と。
同グループによると、金融口座情報の自動交換や受益者登録の導入など、富とその真の所有者を結びつける上で、近年いくつかの進展が見られたという。しかし、これまでの進展は「政治的な意思」を欠いていたとし、G20諸国にさらなる努力をするよう促している。
「パナマ文書」、「パラダイス文書」、そして最近では「スイス・シークレット」など、大量の文書がリークされ、富裕層や企業の活動、そしてオフショアのタックスヘイブンの利用が浮き彫りになっている。しかし、その結果、各国政府に対してより厳しい税制上の措置を取るよう圧力がかかったにもかかわらず、活動家は、オフショア租税回避地の利用を取り締まることにほとんど進展がないと述べている。
ICRICTのエコノミストは、不動産、ヨット、ジェット機、宝石などの資産から、銀行口座、暗号通貨資産、貸金庫、信託などの法的手続き、さらには知的財産や商標などの無形資産まで、あらゆる形態の富を登録した資産登録の国際ネットワークの導入を提案した。
これらの資産は、法的な所有者とは異なる実際の受益者にリンクされることになる。経済学者らは、何がどこに、誰によって所有されているかを詳細に示すグローバル資産登録によって、各国が富と不平等を記録・分析できるようになり、税法の執行強化につながると同時に、不正な活動を行おうとする人々の防止になると述べています。
委員は、G20首脳に対し、このようなシステムを導入し、オフショア富とタックスヘイブンを議論するための緊急国際サミットを開催するよう促しています。「もう言い訳はいらない、パンデミックもいらない、戦争もいらない、行動しないことを正当化できない」と彼らは署名し、そのような行動は「民主主義を守り、一層進行する不平等を終わらせ、社会契約を再構築するために」必須だと結論づけた。
(注1)
https://www.icrict.com/press-release/2022/4/19/icrict-open-letter-to-g20-leaders-its-time-for-a-global-asset-register-to-target-hidden-wealth
(注2)
https://www.nhk.jp/p/nw9/ts/V94JP16WGN/blog/bl/pKzjVzogRK/bp/pQ8JrVgMyX/
(注3)
https://toyokeizai.net/articles/-/74897
【ご案内】5.25コロナ禍における在日外国人の健康問題を考える
グローバル連帯税フォーラムも参加しているNGO労働組合国際協働フォーラムの感染症グループが下記のようなウェビナーを開催しますので、関心のある方はふるってご参加ください。
NGO労働組合国際協働フォーラム:HIV/エイズ等感染症グループ ウェビナー
コロナ禍における在日外国人の健康問題を考える
=NGOと労働組合が協力してできること=
◎日時:2022年5月25日(水) 午後3時~4時30分
◎形式:ズームによるオンライン会議
・参加費:無料 参加申込をお願いします。
◎申込:以下のリンクから登録フォームにアクセスし、必要事項を記入して送信をお願いします。
URL: https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSf3_u33ZDU_27nc6O0m-yN_rOSPcF8KXWKqHJQnub2ltQ2-Zw/viewform
◎主催:NGO・労働組合国際協働フォーラム HIV/エイズ等感染症グループ
◎問合せ:HIV/エイズ等感染症グループ事務局
(特活)アフリカ日本協議会 国際保健部門
担当:稲場・廣内・小泉
メールアドレス:ajf.globalhealth@gmail.com
<プログラム>全体90分
・開会挨拶・趣旨説明:NGO労組協働フォーラム 感染症グループ
・外国人労働者の受け入れに関する連合の考え方:連合 労働法制局 菅村裕子さん
・労働組合の取り組み事例:UAゼンセン 外国人相談担当 エスター・スイバンモイさん(ミャンマー)
・NGOの取り組み事例1:シェア=国際保健協力市民の会 副代表理事 沢田貴志さん
・NGOの取り組み事例2:移住者と連帯する全国ネットワーク(移住連)運営委員 旗手明さん
・コメント:JETROアジア経済研究所 佐藤寛さん
・パネル・ディスカッション、質疑応答
・閉会挨拶:NGO労組協働フォーラム 感染症グループ
<開催の趣旨>
◎現在の日本では、少子高齢化などによる労働力不足を解消するために、外国人労働者の受入れが拡大しています。その中で、メディアでもよく取り上げられているように、外国人労働者をめぐる労働問題、人権問題が頻繁に生じています。
◎特に技能実習制度では、「国際協力の一環」という制度の目的とは裏腹に、実習生は過酷な労働環境で働いていたり、職を失うなど様々な困難に直面しています。また、外国人労働者がHIV/AIDSや結核、新型コロナなどの感染症、勤務中のケガなど、健康状態が悪化した時には、言語や制度、医療費などが障害となって、十分に治療を受けられずに失職したり、帰国を促されるといったケースもあります。
◎NGOと労働組合が協働してSDGsの達成を目指すことを目的とする「NGO・労働組合国際協働フォーラム」のHIV/エイズ等感染症グループでは、これまで、外国人労働者への現場での課題や労働組合の取り組みについて、いくつかの労働組合との座談会を開催してきました。実際のところ、労働組合の取り組みや、NGOとの連携の事例はそれほど多くはないものの、共有し広げていくべき事例もあるということがわかりました。
◎今回のウェビナーでは、外国人労働者関連で実績のあるNGOと労働組合の方々の登壇をお願いし、それぞれの立場で具体的な取り組み事例をお話いただきます。外国人労働者の健康、労働権、人権について、NGO・労働組合としてできること、お互いに協力していけることは何かについて考える機会にしたいと考えております。ご関心のある多くの方々のご参加をお願いいたします。
【ご報告】5.12国際保健への取り組み強化を求める緊急院内集会
(OECD)Global Outlook on Financing for Sustainable Development 2021
オミクロン株の登場で、コロナウイルスもエンデミック状態へと転化していくのではと期待されましたが、中国や北朝鮮でも感染拡大が見られ、パンデミック状況は収まりそうもありません。
そういう中で我が国をはじめ各国のグローバルヘルスについての資金的貢献や取り組みを強化してもらうため、昨日(5月13日)参議院議員会館会議室において、『コロナ時代のグローバル・ヘルス(国際保健)への日本の取り組みに関する緊急院内集会』が超党派の国会議員とともに開催されました。主催は同集会実行委員会(注1)で、議員による呼びかけは7党派のみなさんから行われました(注2)。
◎集会プログラムと国際連帯税と資金調達に関する報告
集会は、議員呼びかけを代表して武見敬三参議院議員が行い、その後基調報告を國井修・GHITファンド(グローバルヘルス技術振興基金)最高経営責任者が行いました。國井さんは、高所得国と中・低所得国との桁違いともいえる医療格差の実態を明らかにしつつ、今日のグローバルヘルスの課題について述べました(詳細は後日報告)。参加した国会議員との質疑も活発に行われました。
国会議員の質問に答える國井氏(右から2人目)
その後、市民社会から3人、政府から2人がコメントを寄せました(注3)。私(田中)も『グロ-バルヘルスと資金調達――方法論としての国際連帯税』と題して報告を行いました。その骨子は次のようなものです。
国際連帯税を報告する田中氏(右端)
◎国際連帯税報告の要旨
1)これまでSDGs達成のための資金ギャップは年間2.5兆ドルと言われてきたが、コロナ禍の発生でそれが4.2兆ドルと拡大した(OECD2021)。保健に限れば1兆ドル。
2)一方、公的な開発援助資金ODAはトータルで1789億ドルしかなく、保健すら賄えず。それでOECDは民間資金である金融資産378.9兆ドルに着目し、その1.1%を動員できればギャップは解消すると提言。
3)その民間資金(金融資産)を動員する方法として、①投融資によるやり方、②税制によるやり方という2つ。OECDは前者を提言しているが、私たちは後者の国際連帯税という方法を提案する。
4)国際連帯税の2つのスキーム。①新多国籍企業税、②外国為替(通貨)取引税だ。何よりも政治リーダーが国際会合で主張し、専門家をまきこみつつ、市民=世論がこれを支えること。そうすれば国際共同スキームとして、兆円単位の援助資金を創出することができる。
(注1)
参加団体(50音順):グローバル連帯税フォーラム、新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!連絡会、アジア太平洋資料センター(PARC)、アフリカ日本協議会、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、日本リザルツ
(注2)
自由民主党 衛藤征士郎 衆議院議員、武見 敬三 参議院議員
立憲民主党 西村智奈美 衆議院議員、田島麻衣子 参議院議員
公 明 党 古屋 範子 衆議院議員
日本維新の会 青柳 仁士 衆議院議員
国民民主党 古川 元久 衆議院議員
日本共産党 井上 哲士 参議院議員
社会民主党 福島 瑞穂 参議院議員
(注3)
田中徹二:グローバル連帯税フォーラム(開発資金等)
堀江由美子:セーブザチルドレンジャパン(保健システム等)
金杉詩子:国境なき医師団(公平な医薬品アクセス等)
赤堀 毅:外務省地球規模課題審議官
三村 淳:財務省国際局長
ウクライナ難民、SDGs(持続可能な開発目標)、国際連帯税
国際連帯税議員連盟でお世話になっている田島麻衣子参議院議員が、毎日新聞電子版の政治プレミアに「ウクライナ難民」問題について取材されていますので、紹介します。その前に若干思ったところを述べます。
1)日本政府は「避難民」受け入れと言っていますが、これは難民認定を極端に渋っている政府の政策によります。難民と避難民では、まるっきり保護待遇が違ってきます。その点をまず田島議員は指摘しています。
2)なお、この問題については4月10日TBS「サンデーモーニング」放送で分かりやすく解説していました(動画)。こちらと併せて読むことをお勧めします。
3)この難民問題は当然SDGs(持続可能な開発目標)の課題で、コロナ以前には貧困と保健関係の目標は相当改善されてきましたが、難民だけは2013年頃より急増し、2015年にはドイツがシリア難民等を100万人引き受けました。2020年で世界の難民数は8240万人にも上り、今日ウクライナから520万人の難民が生じていますので、全体で9000万人に上るのではないかと思われます(地球人口の約1.1%が故郷を追われている)。
4)ところで、河野太郎元外務大臣(17年8月-19年9月)はSDGs対策のため国際連帯税の必要性を国際的に提案していましたが、その事例として当時急増する難民の救済を挙げていました。日本政府は、国際的支援を実施することはもとより国内的にも「故郷を追われた人は世界中にいる…日本が国際社会の中で応分の責任を果たすならば、これからもっと難民を受け入れなければならない」と田島議員は訴えています。
<以下、記事です>
田島麻衣子・参院議員
英オックスフォード大学院で難民問題や人道支援を学び、国連の世界食糧計画(WFP)でコンゴ民主共和国から隣国のアンゴラに逃れてきた難民たちのキャンプに入るなど支援の現場に関わった。日本はこれまで難民政策と言えるものがなかった。今回のウクライナ難民の受け入れによってまず一歩を踏み出さなければならない。
日本政府は、ウクライナからの「避難民」を受け入れたと言っているが国際的には通用しない。命を守るため、政治的な武力紛争から逃れ国境を越える人々は難民だ。岸田文雄首相が国際会議で「避難民」と発言した時にどう通訳するというのか。「難民ではなく、避難民だ」などと言えば、私が学んだ教授たちに怒られてしまう。
日本政府は難民制度を本質的に変えていく気がない。ウクライナ難民への対応も場当たり的で、長期的な視点がない。
大量の難民が来たらどうするか
国連の現場にいると、人道支援がいかに難しいかということを、身をもって体験する。難民キャンプに支援に入るとしても、受け入れ国の許可がなければ入っていけない。助けようと思っている難民が受け入れ国の政府から迫害されている場合、どうすればいいのか。人道支援の原則である中立的な支援ができるのか。
そうした問題を抱えながら、それでも人道支援をしなければならないことを実地で学ぶ機会が、これまでの日本には欠けていた。……(以下、省略)
※写真は毎日新聞電子版より