寺島実郎氏「国際連帯税からグローバル・タックスへ」(『世界』誌より)

すでにお知らせしていますように、このところ著名な経済学者・専門家などが国際連帯税や金融取引税について発言するようになりました(以前はそうでもなかったのですが)。慶応大学・政府コロナ分科会の小林慶一郎氏、一橋大学・政府税調委員の佐藤主光氏、元日銀理事の早川英男氏、アライアンス・フォーラム財団・元内閣府参与の原丈人氏など。
 
 
そういう中で、いち早く(2008年G8洞爺湖サミットの頃から)国際連帯税に賛同し、これを広めてくれたのが(財)日本総合研究所会長の寺島実郎氏です。
 
 
●新局面の資本主義に新しいルールを
 
 
その寺島氏が、月刊誌『世界』3月号の連載コラム「脳力のレッスン」であらためて国際連帯税について発言しています。コラムのタイトルは「『新しい資本主義』への視界を拓く」。今月号はその4回目とのこと。内容を簡単に見てみましょう。
 
 
まず資本主義の歴史的な経緯について。寺島氏はこれまで「資本主義の歴史とその現代的変質を考察してきた」と述べ、冷戦の終焉を境に資本主義は次のように局面を転換した、と。それは「新自由主義」を通奏低音として情報技術革命と金融技術革命を経てきて、「途方もないエネルギーが蓄積しつつある」と見る。
 
 
金融の方は行き過ぎたマネーゲームを常態化し、情報の方はデジタル資本主義の様相を示し、しかし資本主義社会の光となるか影となるか分からない状況となっている、と。このことから、寺島氏は「新局面に入った資本主義には、新しいルールが必要なのである」と述べています。
 
 
●国際連帯税からグローバル・タックスへ
 
 
さて、金融の方のルールとしては、「国境を越えた金融取引の制御という」トービン税構想があり、これがさらに国際連帯税へと進化してきたこと。2008年には日本でも「国際連帯税創設を求める議員連盟」が設立され、その下に2回にわたり(2009年と2014年)有識者会議が設けられ、寺島氏が座長を務め報告書を作成し【注1】、国際連帯税実現に向け奮闘してきたことが述べられています。しかし、国際連帯税が日本で実現せず、世界的にも一部の国でしか実現してきませんでした。
 
 
ところが、寺島氏は今日「国際連帯税は『グローバル・タックス』というべき方向へ進化し始めている」と、つまり「国家間の連帯で実現する税制度という次元から一歩踏み出し、地球全体を一体として認識し、その秩序を制御するという視界が拓け始めてきた」と見ています。
 
 
実際、昨年10月、国際的な法人税の最低税率(並びにデジタル課税)という国際課税ルールについてG20で合意されましたが、これこそニュールールとしてのグローバル・タックスの姿である、と。従って、寺島氏は国際連帯税も「国民国家を超えた新しい資本主義のルールとして形成」する可能性が拓けてきたと見ています。
 
 
以下、「デジタル資本主義の制御」については省略。
 
 
【注1】
グローバル連帯税推進協議会「最終報告書」(2015年12月1日):
 
 
 
TOKYO MX1テレビ「寺島実郎の世界を知る力」は、毎週第3日曜日と第4日曜日(どちらも午前11時~ 第4日曜日は対談編)に放映  MX1は地上デジタル9ch
 
 
TOKYO-MX
 

「斎藤幸平&上村雄彦対談」をYouTubeにアップ!

 とびら

 

遅れましたが、1月28日に開催された「斎藤幸平&上村雄彦対談/『人新世』を生き延びるために何ができるのか~新しい資本主義とグローバルタックス~」の集いの全編を、YouTubeにアップしました。以下のリンクからご覧ください(ダイジェスト版は作成中)。

 

*斎藤幸平&上村雄彦対談  ⇒  こちらからご覧ください

 

お時間のない方は、国会議員のみなさんと議論をしている箇所(43分25秒あたり)からご覧いただくと、課題点がはっきりと見えてきて、よいのではないかと思います。

 

また、よろしくければ動画を視聴いただいて、その感想をお寄せくださればうれしいです。

 

なお、上村雄彦教授の当日のパワーポイント資料は、下記のグローバル連帯税フォーラムのwebサイトに掲載されていますのでご利用ください。

 

 *上村先生のパワーポイント資料 ⅰ)ⅱ)ⅲ)⇒  こちらからご覧ください

 

※対談の司会は、田島麻衣子参議院議員です

 

岸田首相の経済ブレインの原丈人氏、金融取引税を提言

岸田文雄首相の「新しい資本主義」など経済政策についてのブレインとなっているのが「公益資本主義」論で著名な原丈人氏(アライアンス・フォーラム財団代表理事、元内閣府参与)です。原氏がブルームバーグのインタビューを受け、その内容が2月10日付電子版に掲載されていますが、その中で氏が「金融取引税」について実施すべきと提案していますので、紹介します【注1】。

 

まず原氏は、以下の4項目につき詳しく述べています。

 

1)四半期開示の見直し

⇒短期経営になればなるほど投機的傾向を強め、ヘッジファンド等の餌食となる(注:田中まとめ、以下同じ)

2)自社株買い

⇒自社株買いは資本主義の大原則に反し、もっぱら株主と経営者が受益している

3)金融取引への課税

⇒有価証券取引税の復活

4)公益資本主義

⇒これまでの英米流の株主資本主義からの転換、ダボス会議でステークホルダー資本主義が提唱されるようになった

 

さて、金融取引への課税ですが、原氏は「(東京証券取引所でのHFT=高頻度取引)のようなものは、本来金融市場にとって良いのか…。(スーパーコンピューターを使っている人たちと普通の人たちの株取引につき)フェアという観点からは枠組みを変える必要がある」と述べています。金融取引への課税は金融規制ならびに税収増というふたつの面があると思いますが、原氏は主にHFTなど投機マネーの規制にあるようです。

 

ところで、原氏のこれまでの発言につき調べてみましたが(ネット上だけの検索)、とくに税財政や社会保障問題についての発言が見当たりません。もしこちらについても発言があれば、金融取引税が税収増という面からして重要な提案になると思います。

 

実際、欧州は8000億ユーロ(約100兆円)に上るコロナ復興基金の財源のひとつとして金融取引税を充てようとしています。日本でも莫大なコロナ対策資金を赤字国債で発行していますので、今後財政立て直しの重要な財源になると思われます。これに投機マネーの元になっている外国為替(通貨)取引に課税できれば、国際連帯税として実現できます。

 

ともあれ、首相の経済ブレインが金融取引税を提言していることは、今後の政治展開に一定の希望を持つことができます。

 

(追記)原氏は別のメディアで「小泉政権時代に構造改革が唱えられ、成長戦略がもてはやされて民営化も進みました。しかし、国民の所得は増えませんでした。増えたのは、配当と自社株買いによる株主還元だけです」【注2】と述べ、「(岸田氏に)方針を変えるべきです。国民が豊かにならなければ、市場が重要であるとする主張に意味はないでしょう」と伝えたとのことです。

 

インタビュアーは「(16年に公益資本主義が国会でも話題になったが脚光を浴びなかった。しかし)長引くコロナ禍により日本経済が打撃を受ける中、原氏の持論は政策を左右するほどになっている」と結んでいます。

 

【注1】

分配の次は財政出動強化、首相に助言の原氏が分析-新しい資本主義

四半期開示が企業の成長阻害、自社株買い規制の議論を-原氏一問一答

 

【注2】 

岸田版・新しい資本主義の元ネタ?「公益資本主義」提唱者が語る“分配の理想形”

 

株主の配当は顕著

 

斎藤・上村対談のパワポ資料&小林慶一郎・佐藤主光共著の新刊

1月28日に開催された「斎藤幸平&上村雄彦対談 『人新世』を生き延びるために何ができるのか」集いのパワーポイント(パワポ)資料をアップしました。上村先生のパワポの分量が多すぎたため3分割しています。また、斎藤先生のパワポ資料の説明は、後ほどアップするユーチューブでご覧ください。

 

  ・上村先生のパワポ資料  こちらからお入りください

 

●新刊『ポストコロナの政策構想』の紹介

 

ところで、上村先生のパワポ資料の(ⅲ)で、以下のように、政府のコロナ分科会の委員でもある著名な経済学者の小林慶一郎先生もトービン税導入を提案していることを紹介しています。

 

【上村先生のパワポ】
まだ希望はある!(注:国際連帯税実現に向けて)
……………
小林慶一郎(東京財団政策研究所研究主幹、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会委員)トービン税や「世界財政機関」を提案
 ◎「トービン税(通貨取引税)」の導入を提案
 ◎各国で協調して導入すれば逃げ道がふさがり、税金を分け合うことができる
 ◎各国が協力して財政再建するためには、「世界財政機関」のような新しい国際機関を作り、世界銀行、IMFと並んで財政政策の国際的な調整を行っていくという発想が必要

   (出典:『現代ビジネス』2020年7月12日;『日本経済新聞』2020年7月28日)

 

その小林先生ですが、政府税制 調査会の委員を務める一橋大学の佐藤主光先生と共著で、下記のような新著を現わしています。

 

『ポストコロナの政策構想~医療・財政・社会保障・産業~』(日本経済新聞出版)

 

その「第6章 ポストコロナに向けた税財政の国際協調」で、トービン税、国際連帯税そして「世界財政機関」などが語られています。実は、ここの文章は、東京財団政策研究所のWebサイトでの「ポストコロナの政策構想:税制の国際協調による財政再建を」でも読むことができます。 (上)  (下)

 

斎藤先生の脱成長論と小林・佐藤先生のいわば(日本)経済の健全な発展論とは本質的には異にしますが、様々な政策面でシンクロナイズさせることは可能です。とくに上記の第6章などはそうです。

 

Pコロナの政策構想