出国税:貴重な税収を一国の一部セクターに使用すべきではない

各メディアからの報道によれば、観光資源の財源確保のための「出国税」が2018年度税制改正大綱に盛り込まれる方向性となったようです。訪日外国人ならびに出国日本人など国際線航空機利用者やクルーズ船利用者から「1人1000円の徴収」が有力案のようです。そもそもこの税制は「政府内などで制度の是非を巡る十分な議論も経ないまま唐突に浮上した」(1027日付日本経済新聞)という経緯がありますが、航空券連帯税との関係で問題点・今後の対応などを探ります。

 

領土外の消費行為への課税は地球規模課題の対策に(グローバル化の負の影響も考慮し)

 

私たちは航空券連帯税を求めていますが、もし国際線航空機利用を含む出国税を実施するなら、その税収を観光資源の確保(だけ)に使用するのではなく、世界の貧困や気候変動等のグローバルな課題に使用すべきと提言してきました。

 

というのは、これまで国際線利用者に消費税が免除されてきたのは、自国の領土外の消費行為であるためであり、その性格からして税収を自国の課題のみの使うべきではないのです。こうした考えは租税法のオーソリティーである金子宏東京大学名誉教授が1990年代から提唱していたものです(『人道支援の税制創設を 国際運輸に定率で』日経新聞 200686日)。

 

それだけでなく、今日国際的な航空網の発達というグローバル化に伴って負の影響が生じており、航空機利用者は一定コストを負担する必要性があります。負の影響とは感染症の地球規模の拡大や温室効果ガスの排出増などで、その対策費用の一部を払っていただくことです。

 

ともあれ、新しい税収による貴重な財源は、一国の観光という一部セクターのみに使うことは避けるべきと考えます。

 

●観光のための財源は実は余っている!?

 

ところで、今回の出国税構想は観光資源のための財源を確保することですが、実はその財源は十分に足りているという指摘があちこちからなされています。

 

「観光庁を所管する国土交通省は、18年度の公共事業の関連予算で前年度比16%増の6兆円強を要求。北海道局だけでも空港予算は160億円に上り、訪日客の受け入れ整備に使う。観光目的とあらば仏像修繕から国立公園の整備、税関強化などあらゆる分野に適用が可能で水ぶくれの恐れが高い」(1027日付日経新聞)

 

17年度観光庁予算210憶円、出国税税収予測410億円という金額を前提にして)「国家全体の観光関連予算は約3200億円ある。観光政策を推進する観光庁がこれら全体を統括できなければ、機能は発揮できない」と日本観光ホスピタリティ教育学会の鈴木勝会長が言っていますが、実は観光関係予算は観光庁を含む国土交通省や農林水産省、経済産業省関連にもあるというのです。

 

問題は観光行政の司令塔である観光庁のマネジメントがうまく発揮できていないところにありそうです。

 

実際、税収の主たる使途先となる地方の観光地の関係者は、「…中部地方の観光地の自治体関係者は『もともと外国人観光客を受け入れるノウハウや人材が足りない市町村は、予算を有効に使えないのではないか』と話す」(916日付東京新聞)という状況です。

 

また、東北インアウトバウンド連合(仙台市)の西谷雷佐理事長は、「財源は必要なので否定はしないが、もっと有効な手法を探ってみるべきだ。世界的には行政に観光課がないのが一般的で、民間に委託されている。新しい税を徴収する前に、整理すべき予算や団体があるのではないか」(1018日付河北新報)。

 

こうしたことから、「観光目的とあらば仏像修繕から国立公園の整備、税関強化などあらゆる分野に適用が可能で水ぶくれの恐れが高い」(同上日経新聞)とか「『観光立国』を名目に集めた税金が、地方の効果の薄い施策や公共事業に投じられる懸念も残っている」(同上東京新聞)という懸念が指摘されています。

 

●受益と負担の関係が大きく乖離:出国日本人1700万人に受益なし

 

1013菅義偉官房長官は記者会見で、出国税につき「受益と負担の適正なあり方を勘案し、増加する観光需要に高次元の対応を行う観点から具体的な検討を深めていく」と述べました。この税制で受益するのは主に観光を目当てとした訪日外国人客で、出国日本人はほとんど受益しません。ところが、この出国税は、訪日外国人はもとより出国日本人からも徴収することになります。出国する両者のうち、日本人は約42%を占めます(訪日外国人2400万人、出国日本人1710万人、2016年)。

 

また、訪日外国人のうちビジネス客は約20%を占めます(2015年)。したがって、400500万のビジネス客にも受益はありません。

 

これでは「受益と負担の適正なあり方」とは程遠いと言えるでしょう。

 

●地球規模の課題の財源も射程に、引き続き航空券連帯税も要求

 

繰り返しますが、私たちは貴重な出国税からの税収につき、一国の観光という一部セクターのみに使うことは避けるべきと考えます。そもそも観光資源のための財源は十分にあるようです(どうしてそれが有効に使われていないかの検証も必要でしょう)。従って、観光庁が観光地の地元・関係者ならびに他省庁と協働・協議を行いつつ、ありうべき観光インフラの整備等についてマネジメントしていくことが先決であるように思われます。

 

ところで、出国税が18年度税制改正大綱に盛られたとしても、実施するのは19年度のようです。したがって、私たちはその間、1)いぜんとしてその税金が公共事業の水ぶくれ・無駄遣いになるという懸念が強く出されていることに対し、観光庁の検討委員会は真摯に検討すべきである、2)出国税を実施するとしてもその税収を観光資源の財源にのみ使用すべきではなく、グローバルな課題についても使用すべき、3)(地球規模の課題に使用しないとすれば、引き続き)パンデミック等が心配される感染症対策等を目的とする航空券連帯税を実施すべき、ということを要求していきます。

 

3)につき、韓国では、観光目的のための出国税も航空券連帯税も実施していますので、十分実施が可能です。

 

<資料>

日経新聞】出国税構想、見切り発車 受益・負担に見えづらさ

 

【日経新聞】「出国税」は本当に要るのか 

 

【朝日新聞】「出国税」千円、日本人も対象 政府方針、19年度から

 

【税制調査会・参考資料】人道支援の税制創設を 国際運輸に定率で

 

【訪日ビジネスアイ】観光庁の出国税「財源確保としては疑問」×「予算整理や法の整備を」

 

【河北新報】<衆院選 東北・経済人に聞く>論点(5完)観光 人材育成 時間も必要

 

【東京新聞】「出国税」新設を検討 外国人誘客、日本人も負担?

 

 

 

シンポジウム「税と正義/パラダイス文書、グローバル・タックス、税制改正」

定数に達したため、申込み受付を終了させていただきます!】

 

シンポジウム「税と正義/パラダイス文書、グローバル・タックス、税制改正」

 

・講演1:伊藤 恭彦(名古屋市立大学人文社会学部教授/副学長)

・講演2:津田久美子(北海道大学法学研究科博士課程 日本学術振興会特別研員DC1)

・講演3:三木 義一(青山学院大学法学部教授/学長)

 

◎日 時:2017年12月3日(日) 13時00分~16時50分  
◎会 場:青山学院大学渋谷キャンパス 14号館(総研ビル)5階14509教室
     キャンパスマップ
◎共 催:グローバル連帯税フォーラム、民間税制調査会
◎資料代:500円
◎申込み:info@isl-forum.jp から、お名前、所属(あれば)ならびに「12.3シ

     ンポ参加希望」とお書きの上、お申込みください。

 

●パラダイス文書と「税の正義(タックス・ジャスティス)」を考える

 今日、国内的にも世界的にも格差・不平等が拡大していますが、昨年のパナマ文書に続き、今回のパラダイス文書で暴露されたように各国の著名な政治家や富豪そしてグローバル企業のタックスヘイブンを利用した税金逃れの横行は、これに大いに拍車をかけています。こうした格差や不公正を背景として、各国で排外主義的なポピュリズムが吹き荒れています。

 

 格差拡大をもたらしているのは、度を越した金融緩和やグローバル企業が優位となる経済・税政策(含むタックスヘイブンの存在)によりグローバル企業と富裕層が肥大化してきたからです。その結果、「世界の富豪トップの8人の資産と世界人口の下位半分の36億人の資産が同じ」(国際NGOオックスファム、2017年)という異様な事態が出現しているのです。

 

 ひるがえって、経済のグローバル化の土台である市場社会は競争社会でもあり、それが行き過ぎると人間の尊厳を奪う可能性を内包します。格差と貧困の拡大はその典型的事例です。従って、市場社会で人間の尊厳を確保するには、政治分野での民主主義とともに、税・財政分野での再分配を軸とする「税の正義」が求められています。

 

 今日、タックスヘイブンの存在とそこへのグローバル企業や富裕層の利益(資金)移転の増加はあまりにも不条理であり、(たとえ合法であっても)許されることではありません。また政治社会的に野蛮なポピュリズムが台頭する時代にあって、あらためて「税を人間の尊厳を維持するためのシステム」へと変えるにはいかにすべきか、を考えていきます。

 

●タックス・ジャスティスからグローバル・タックスへ--その原点と欧州FTTの課題

 とはいえ、経済がグローバル化した社会にあっては、一国内でのタックス・ジャスティスの追求には限界があること、また世界の貧困や地球環境問題、さらに加えてタックスヘイブン(グローバル企業等の税金逃れ)など地球規模課題に取り組まなければならないこと等から、今やグローバルなジャスティス、とくにグローバルな分配的正義に関する議論と実践が必要となってきています。タックス・ジャスティスからグローバル・タックスへ--その原点と可能性を探っていきます。

 

 グローバル・タックスのひとつが、金融取引税(FTT)です。2008年リーマンショック後の国際的な金融危機の後、2011年欧州委員会は欧州連合(EU)規模の金融取引税を2014年1月に導入する指令案を提示しました。しかし、議論の進展とともに規模が縮小し、現在はユーロ圏10か国での先行導入が計画されていますが、これも遅々として進まない状況となっています。ところが、今年9月マクロン仏大統領は「欧州改革」の一環として、FTTを国際協力のための資金として英国を含めて全欧州で導入すべき、という新たな提案を行いました。EU-FTTの最新情報と課題について報告していただきます。とりわけ、FTTは金融機関の資金の流れを透明にする役割を負っており、この面から不正な資金の流れを押しとどめることができます。

 

●2018年度税制改正を軸にタックス・ジャスティスを探る

 12月は次年度の税制改正について確定するときです。日本の税制がタックス・ジャスティスとしての役割を果たしていないこと、別に言えば、再分配機能がきわめて弱いこと、このことがとみに指摘されてきました。実際、子どもの貧困率をはじめひとり親世帯や高齢者世帯の貧困率が高まっています。また、非正規雇用が全雇用者の40%近くを占め、社会全体としての貧困化は改善されずじまいです。一方、家計金融資産は過去最高の1800兆円まで膨らみ、富裕層は年々増加しています。日本社会でも確実に格差が拡大しています。

 

 格差拡大を是正する手段の一つが税制改革です。しかし、政府与党がこの数年課題としてきた所得税改革は鳴りを潜めてしまい、さらにあまりにも突然行われた衆議院選挙のため税制改革の議論は大幅に後退しています。あらためて「格差を是正し、分厚い中間層を形成する税制と財務支出」(民間税制調査会設立宣言)をめざす立場から、18年度税制改正を軸にタックス・ジャスティスの在り方、ならびにタックスヘイブン問題を日本でどうするか、を探っていただきます。

 

<プログラム>

・講演(1)「税の正義とグローバル・タックス~パラダイス文書からひも解く」  13時05分~14時05分(60分) 

   講師:伊藤 恭彦(名古屋市立大学人文社会学部教授/副学長)

・講演(2)「EU金融取引税:現状と課題」 14時05分~14時35分(30分)                                  

   講師:津田久美子(北海道大学法学研究科博士課程 日本学術振興会特別研究員DC1)

・講演(3)「2018年度税制改正の課題:格差是正は可能か?」  14時50分~15時30分(40分)

   講師:三木 義一(青山学院大学法学部教授/学長)

◎パネル討論  15時30分~16時40分(70分)

 

<講師プロフィール:敬称略>
■伊藤 恭彦(いとう・やすひこ)
 1961年生まれ。大阪市立大学大学院法学研究科後期博士課程単位取得。博士(法学)。静岡大学人文学部教授を経て、名古屋市立大学大学院人間文化研究科教授。主要著書に『貧困の放置は罪なのか―グローバルな正義とコスモポリタニズム』(人文書院、2010年、2011年日本公共政策学会著作賞受賞)、『タックス・ジャスティス―税の政治哲学』(風行社、2017年)など多数。

 

■津田 久美子(つだ・くみこ)
 1986年生まれ。北海道大学法学研究科博士課程、日本学術振興会特別研究員(DC)。2008年、中央大学総合政策学部を卒業。日本アイ・ビー・エム株式会社にて3年半の勤務を経て、2013年に北海道大学法学研究科修士課程入学、15年修了。著作に「『車輪に砂』―EU金融取引税の政治過程:2009-2013年(1)/(2・完)」『北大法学論集』66巻6号/67巻1号。

 

■三木 義一(みき・よしかず)
 1950年生まれ。一橋大学大学院法学研究科修士課程修了。立命館大学法科大学院教授を経て青山学院大学法学部教授。専門は租税法、弁護士。2015年12月より青山学院大学学長。主要著書に『日本の納税者』(岩波新書、2015)、『日本の税金 新版』(岩波新書、2012)、『よくわかる税法入門(第9版)』(有斐閣、2015)、『よくわかる法人税法入門(第2版)』(編著、有斐閣、2015)など多数。

 

◆写真は、2015年11月のシンポジウム「ピケティ『21世紀の資本』とグローバル・タックス」のもようです。

 

【報告】10.4サンタマンOECD租税センター局長講演会

写真:サンタマン講演会①

 

(サンタマン局長は、2日に来日して経団連、浅川財務官等との会合等をこなし、4日午前私たちへの講演を行い、午後にはニューヨークへ飛び立ちました。超過密スケジュールの中での講演でした。以下、報告です)

 

104日水曜日、参議院議員会館にて、パスカル・サンタマン(Pascal Saint=AmansOECD租税センター局長に「BEPSプロジェクト――進捗と課題」と題した市民向け講演を行っていただきました。BEPSとは「税源浸食と利益移転」の略で、国際的な租税回避行動への包括的な対抗策を講じるために、OECD/G20で進められてきたプロジェクトです。

 

講演の後には参加者からの質問にも答えていただき、盛況のうちに閉会しました(この質問への回答には興味深い内容がありましたので別稿で報告します)。また最後に司会者から、BEPSプロジェクトでは今も検討課題に関する市民からの意見公募を行っていることが紹介され、日本の市民社会からも積極的な参加が呼びかけられました。平日日中の開催にもかかわらず、当日は30名の皆さんにご参集いただきました。ありがとうございました。

 

●以下、報告の続きはこちらをご覧ください   PDF