どうする壊滅的状況のSDGs>未来サミットとグローバル・ガバナンス

上川大臣

 

本年の国連の最大のイベントは、9月の総会ハイレベル・ウィーク中に首脳会合として開催される未来サミット(The Summit of the Future)です。サミットの目的を一言でいえば、国際社会における「グローバル・ガバナンスの変革と多国間システムの再活性化」を図ること、それを『未来のための協定』にまとめ上げようというものです。

 

(1)サミットは国連の存在意義を取り戻すために必要な作業

 

実際、新型コロナウイルスによるパンデミックという未曽有の苦闘はあったものの、国連の安全保障理事会は機能していませんし、国際目標であるSDGsは8年目の折り返し時点でも15%しか実現していません。このように国連そのものの存在意義が問われている事態に対し、国際社会が国際協力・協調というグローバルなガバナンスを取り戻すために努力することは時宜にかなっていると言えるでしょう。

 

国連側は『未来のための協定』策定のための作業の第一弾として「ゼロ・ドラフト」(以下、ドラフトと略)を2月2日に公表し、今月12日までに意見書の公募と21日にバーチャル会合を設定しました。当フォーラムもこれに対応しましたので、下記をご覧ください。その前に、「ドラフト」そのものの問題点について、さらに開発資金調達の課題点について考えてみたいと思います。

 

(2)「ドラフト」の章立て>「国際的な平和と安全保障」からはじめるべきだが…

 

まずこの「ドラフト」の構成は次の通りとなっています。
 ・リード(パラ1~18) 
 ・第1章 持続可能な開発と開発のための資金調達(パラ19~45) 
 ・第2章 国際的な平和と安全保障(パラ46~90) 
 ・第3章 科学、技術、技術革新とデジタル分野の協力(パラ91~102) 
 ・第4章 ユースと将来世代(パラ103~115) 
 ・第5章 グローバル・ガバナンスの変革(パラ116~148)

 

    ※未来サミット「ゼロ・ドラフト」はこちら

 

ところで、「グローバル・ガバナンスの変革」を言うならば、現下のロシア/ウクライナとパレスチナ/ガザ戦争についてロシアと米国の拒否権発動で安全保障理事会が機能マヒに陥っていることからして、むしろ「国際的な平和と安全保障」を第1章にした方がよいと思われます。また今回のサミットが国連創設75周年(2020年)を記念することからはじまったことからも、そうあったほうがよいのではないでしょうか。

 

しかし、安保理改革は微妙な問題もあることからして、共同起草者(ドイツとナミビア代表)は第5章で[5.1 安全保障理事会の改革]という中見出しを用意したものの、具体的記述はありません。そのことにつき [共同進行役注:安全保障理事会の改革が依然として未来サミットの優先課題であることは…明らかであり…我々は、2024年6月に、この問題に関する最初の文言を提示する予定である]と述べています。

 

(3)なぜ第1章に「開発のための資金調達」か>説得力ある説明なし

 

「ドラフト」を読んで、第1章に持続可能な開発問題を持ってくることを了としつつも、なぜ続けて資金調達問題を持ってきたのか、このことの説明が明確ではありません。文章的には、リード(前書き)部分で「…極度の貧困を含め、あらゆる形態と次元の貧困を根絶することが、世界最大の課題であり、持続可能な開発にとって不可欠な要件であることを再確認する」とは述べているものの、その根絶に向けなぜ改善できていないのか(結果、SDGs達成率がわずか15%)の原因は述べていません。

 

改善できていない理由を端的言いますと、途上国での貧困・飢餓が増大しているからであり、それを克服するための主な手段としての支援資金が圧倒的に足りていないからです。ですから、「ドラフト」で資金調達問題を取り上げなければならなかったのだと思われます。

 

このことに対し、説得力のある説明がないまま「私たちは、持続可能な開発目標の資金ギャップの推定値が増加していることに深い懸念を抱いており…開発資金の量と質において一歩踏み込んだ変化が必要であることを認識し」と述べるだけで、これでは「世界最大の課題である」という割には何の切迫感も危機感も感じられません。また、開発資金の踏み込みも、「私たちは、援助国に対し、政府開発援助の規模を拡大し、そのコミットメントを履行するよう促す」と述べるのみです。資金ギャップがどのくらいで、政府開発援助(つまり、ODA)の現状がどうで、それをどう拡大していくのかなどは述べられていません。

 

ところで、先進・ドナー国といえども新型コロナ問題等への莫大な支出により財政的余力は乏しく、政府開発援助を飛躍的に増加させるには厳しいのが現状です。従って、国際社会は盛んに民間資金の活用や世界銀行等IFIs改革による資金捻出を唱えています。しかし、途上国や気候変動に脆弱な国は、公的資金の拡大を望んでおり、それがODAでは厳しいのであれば、新規かつ追加的で予測可能な資金、つまり国際連帯税のような革新的資金調達を望んでいます。

 

このような観点から、当フォーラムとして「ドラフト」に関する意見書を提出しました。

 

(4)「ドラフト」への意見書>SDGs資金ギャップを公的資金で埋めるために

 

細かいところもありますがそれは省略して、主要なコメント部分を日本語でお知らせします。

 

1)「Chapeau」の10パラグラフに続けて、次の文章を入れる
――我々は貧困の根絶が世界最大の課題であることに鑑み、持続可能な開発目標(SDGs)の達成年の中間点にあたる2023年時点で、その達成率が15%でしかないという現実に危機感を抱き、その原因が開発途上国におけるSDGs達成のための資金ギャップにあることに留意する。

 

2)「Sustainable development and financing for development」の12パラグラフに続けて、次の文章を入れる。
――我々は、開発途上国におけるSDGs達成のための資金ギャップが、COVIT-19以前は年間2.5兆米ドルと予測していたが、COVIT-19によるパンデミック、気候危機、ウクライナ戦争による食料危機とインフレーション、並びに先進国の高金利政策によって4兆米ドルにも跳ね上がっていることを認識する(UNCTAD 2023)。一方で開発援助国側(OECD・DAC)のODA総額は年間2110億ドルであり(OECD 2022)であり、その差が著しいことに留意する。

 

3)「1. Sustainable development and financing for development」の39パラグラフに続けて、次の文章を入れる。
――我々は事務総長提案を実現するためにも、2023年のCOP28 で創設された「The Taskforce on International Taxation to Scale Up Development, Climate, and Nature Action」(議長国:フランスとケニア)を支援する。同時に各国に対しタスクフォース参加を呼びかける。

 

4)「1. Sustainable development and financing for development」の41パラグラフに続けて、次の文章を入れる。
――我々は政府開発援助だけではグローバル公共財を賄えないことを認識する。年間4兆米ドルというSDGs資金ギャップを公的資金で埋めるために、新規かつ追加的で予測可能な資金としての国際連帯税などの革新的資金メカニズムの創設に同意する。(了)

 

※写真は、昨年9月21日、国連・未来サミット閣僚級会合で演説する上川外務大臣

 

多極化時代のグローバル税制の展望

未来サミットのロゴ

 

 2024年に入り、ウクライナ戦争、パレスチナ戦争の先行きが見通せないなかで、米国ではトランプ再選の可能性が高くなっている。世界は分断と混迷を深めているが、長期的にはグローバルサウスの動向に注目すべきだろう。1月22日の日経新聞1面には、「サウス台頭『旧秩序』突く、米中『世界二分論』に異議」という見出しの記事が掲載された。グローバルサウスは経済力を増大させ、発言力を高めつつある。以下、グローバル税制をめぐる最近の動向に即して、サウス台頭の展望を記してみたい。

 

国際連帯税の再構築

 

 国際連帯税は、2000年の国連ミレニアム開発目標(MDGs)の資金調達を目的にしてフランス主導でスタートした。その要件は、▼国境を越える経済活動に課税、▼税収は国際機関が管理、 ▼使途はグローバル課題に充当というもので、2006年の航空券連帯税が第1号となった。国際線を利用する旅客に少額課税、税収は国際機関UNITAIDが管理し、貧困国への医薬品供給にあてるという方式で、現在も継続している。

 

 これに続いて2011年、EUで金融取引税が提起された。この税は、国境を越える金融取引(株式、債券、デリバティブ等)に低率課税し、税収は各国政府とEUが管理・使用するもので、課税対象が国際連帯税に近いといえるが、金融業界の反対が強く現在まで実現をみていない。

 

 そうしたなかで、気候危機に対する資金調達策として新たな取組が開始された。2022年のCOP27(エジプト)では、グローバルサウスの気候危機に対処するための「損失と損害基金」設置が合意された。その具体化に向けて、様々な試みが追求されていく。

 

 2023年6月、フランス、バルバドスの呼びかけで、「新グローバル金融協定サミット」がパリで開催され、国際課税を通じた資金調達を検討するタスクフォース設置が提起された。9月、ケニアでのアフリカ気候サミットを経て、11~12月、COP28(アラブ首長国連邦)が開かれ、「損失と損害基金」の制度の大枠が決定された。財源には公的資金、民間資金、革新的資金源等が広くあげられ、その一環として「開発、気候、自然の資金調達のための国際課税に関するタスクフォース」の立ち上げに至った。そこでは炭素税、海上・航空輸送税、金融取引税などが扱われるが、この間の経緯のなかにグローバルサウスの発言力の増大を確認することができる。

 

多国籍企業課税改革の紆余曲折

 

 多国籍企業への課税は本国、進出先のいずれでなされるべきか、二重課税問題の扱いについては100年の歴史がある。第二次大戦後はOECDと国連で取り組みが続いたが、ルール形成の主導権は先進国クラブであるOECDが握ってきた。

 

 21世紀に入り、グローバル化、デジタル化の進展とともに、タックスヘイブン等を利用する多国籍企業の課税回避(二重非課税)が横行する事態となった。2012年、OECDはG20との共同作業として、BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げ、2015年に15項目からなる行動計画を策定した。約40カ国が参加したBEPSをさらに発展させ、140カ国参加の交渉を続けた結果、2021年10月に2本柱からなる新たな課税ルールで合意に達した《第1の柱は、売上高200億ユーロ超、利益率10%超のグローバル企業(約100社)を対象に、10%を超える利潤のうち25%について市場国(消費者のいる国)に課税権を配分、第2の柱は法人税の最低税率を各国共通して15%に設定》。

 

 当初の予定では、2022年に多国間条約、法改正を成立させ、2023年実施を目指したが、多国間条約の締結は現時点でなお実現していない。特に米国議会(共和党)が反対の意向であり、米国が条約に批准しないとなれば、この合意は不成立に終わるかもしれない。

 

国連主導のルール形成へ

 

 2本柱の新ルールについては、先進国に有利な決め方だとしてグローバルサウスから反発の声が上がっている。最低税率が低すぎるというNGOからの批判もある。アフリカ連合などがルール形成の場をOECDから国連に移すべきだと声を上げてきた結果、国連事務総長は2021年7月、25カ国の専門家からなる国連租税委員会の設置を決めた(期間は2021~2025年)。

 

 また2022年11月の国連総会では、国際課税ルールは国連の場で取り組むべきとの決議がなされた。米国は修正を試みたが失敗に終わっている。さらに2023年11月15日、改めて国連総会で「包摂的で効果的な国際課税協力の推進」に関する議題が取り上げられ、アフリカ連合提案が賛成125、反対48、棄権9で採択された。イギリスは修正提案を提出したが、賛成55、反対107、棄権16で否決された。日本は前者に反対、後者に賛成だった。ここにはグローバルサウスが多数派、G7が少数派になった現実が示されている。

 

 2024年9月には国連未来サミットが開かれる。この決議を受けて、2024年夏までに一定の案をまとめるべく、20カ国ほどの政府間協議体が組織される。その先はかなり長い道のりになると思われるが、世界が多極化へと進んでいくなかで、多国籍企業課税、さらには超富裕層へのグローバル課税の具体化が進むことになるのだろう。

 

金子文夫(横浜市立大学名誉教授)・記

 

「NPO現代の理論・社会フォーラム経済分析研究会」の“POLITICAL ECONOMY No.254” (2024年2月1日発行)より転載   

 

※上記ロゴは、国連未来サミットのものです。

多極化時代のグローバル税制の展望

未来サミットのロゴ

 

 2024年に入り、ウクライナ戦争、パレスチナ戦争の先行きが見通せないなかで、米国ではトランプ再選の可能性が高くなっている。世界は分断と混迷を深めているが、長期的にはグローバルサウスの動向に注目すべきだろう。1月22日の日経新聞1面には、「サウス台頭『旧秩序』突く、米中『世界二分論』に異議」という見出しの記事が掲載された。グローバルサウスは経済力を増大させ、発言力を高めつつある。以下、グローバル税制をめぐる最近の動向に即して、サウス台頭の展望を記してみたい。

 

国際連帯税の再構築

 

 国際連帯税は、2000年の国連ミレニアム開発目標(MDGs)の資金調達を目的にしてフランス主導でスタートした。その要件は、▼国境を越える経済活動に課税、▼税収は国際機関が管理、 ▼使途はグローバル課題に充当というもので、2006年の航空券連帯税が第1号となった。国際線を利用する旅客に少額課税、税収は国際機関UNITAIDが管理し、貧困国への医薬品供給にあてるという方式で、現在も継続している。

 

 これに続いて2011年、EUで金融取引税が提起された。この税は、国境を越える金融取引(株式、債券、デリバティブ等)に低率課税し、税収は各国政府とEUが管理・使用するもので、課税対象が国際連帯税に近いといえるが、金融業界の反対が強く現在まで実現をみていない。

 

 そうしたなかで、気候危機に対する資金調達策として新たな取組が開始された。2022年のCOP27(エジプト)では、グローバルサウスの気候危機に対処するための「損失と損害基金」設置が合意された。その具体化に向けて、様々な試みが追求されていく。

 

 2023年6月、フランス、バルバドスの呼びかけで、「新グローバル金融協定サミット」がパリで開催され、国際課税を通じた資金調達を検討するタスクフォース設置が提起された。9月、ケニアでのアフリカ気候サミットを経て、11~12月、COP28(アラブ首長国連邦)が開かれ、「損失と損害基金」の制度の大枠が決定された。財源には公的資金、民間資金、革新的資金源等が広くあげられ、その一環として「開発、気候、自然の資金調達のための国際課税に関するタスクフォース」の立ち上げに至った。そこでは炭素税、海上・航空輸送税、金融取引税などが扱われるが、この間の経緯のなかにグローバルサウスの発言力の増大を確認することができる。

 

多国籍企業課税改革の紆余曲折

 

 多国籍企業への課税は本国、進出先のいずれでなされるべきか、二重課税問題の扱いについては100年の歴史がある。第二次大戦後はOECDと国連で取り組みが続いたが、ルール形成の主導権は先進国クラブであるOECDが握ってきた。

 

 21世紀に入り、グローバル化、デジタル化の進展とともに、タックスヘイブン等を利用する多国籍企業の課税回避(二重非課税)が横行する事態となった。2012年、OECDはG20との共同作業として、BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げ、2015年に15項目からなる行動計画を策定した。約40カ国が参加したBEPSをさらに発展させ、140カ国参加の交渉を続けた結果、2021年10月に2本柱からなる新たな課税ルールで合意に達した《第1の柱は、売上高200億ユーロ超、利益率10%超のグローバル企業(約100社)を対象に、10%を超える利潤のうち25%について市場国(消費者のいる国)に課税権を配分、第2の柱は法人税の最低税率を各国共通して15%に設定》。

 

 当初の予定では、2022年に多国間条約、法改正を成立させ、2023年実施を目指したが、多国間条約の締結は現時点でなお実現していない。特に米国議会(共和党)が反対の意向であり、米国が条約に批准しないとなれば、この合意は不成立に終わるかもしれない。

 

国連主導のルール形成へ

 

 2本柱の新ルールについては、先進国に有利な決め方だとしてグローバルサウスから反発の声が上がっている。最低税率が低すぎるというNGOからの批判もある。アフリカ連合などがルール形成の場をOECDから国連に移すべきだと声を上げてきた結果、国連事務総長は2021年7月、25カ国の専門家からなる国連租税委員会の設置を決めた(期間は2021~2025年)。

 

 また2022年11月の国連総会では、国際課税ルールは国連の場で取り組むべきとの決議がなされた。米国は修正を試みたが失敗に終わっている。さらに2023年11月15日、改めて国連総会で「包摂的で効果的な国際課税協力の推進」に関する議題が取り上げられ、アフリカ連合提案が賛成125、反対48、棄権9で採択された。イギリスは修正提案を提出したが、賛成55、反対107、棄権16で否決された。日本は前者に反対、後者に賛成だった。ここにはグローバルサウスが多数派、G7が少数派になった現実が示されている。

 

 2024年9月には国連未来サミットが開かれる。この決議を受けて、2024年夏までに一定の案をまとめるべく、20カ国ほどの政府間協議体が組織される。その先はかなり長い道のりになると思われるが、世界が多極化へと進んでいくなかで、多国籍企業課税、さらには超富裕層へのグローバル課税の具体化が進むことになるのだろう。

 

金子文夫(横浜市立大学名誉教授)・記

 

「NPO現代の理論・社会フォーラム経済分析研究会」の“POLITICAL ECONOMY No.254” (2024年2月1日発行)より転載   

 

※上記ロゴは、国連未来サミットのものです。