欧州金融取引税の最終合意期限、6月から9月に延期に

欧州FTT(金融取引税)ですが、昨年12月に、実施に向けての最終合意を6月までに行うと決めていましたが、これが9月にまで延期されました。

 

この延期につき、欧州FTTをウォッチしている当フォーラムの津田久美子氏(北海道大学法学研究科博士課程)は次のように分析しています。

 

ユーロ圏10カ国、EU金融取引税の6月最終合意目標を9月に延期へ。明日(6月17日)のEU財務相会合を前に方針が固まったもよう。世界金融危機、ユーロ危機をきっかけに盛り上がったこの政策も、近年はDEAD or ALIVEの厳しい交渉が続いており、それがぎりぎり引き伸ばされた格好。これは来週のイギリス国民投票の前に決着させるのを回避したという意味もあるだろう(イギリスは実施メンバーではないがかねてより強硬な反対派で、Brexit実現してしまったら多少やり易くなるという側面がある)。

 

しかしそれ以上に、本丸の焦点は実施条件である「参加国9カ国以上」をキープできるか。これまでの報道によれば2カ国ドロップアウトする可能性があり9カ国を下回る恐れがあった。キーとなるのはこの半年間慎重な姿勢をとり続けてきたベルギー。デリバティブ課税による市場への悪影響を相当懸念しているもよう。それに対しソブリン債関連取引を課税適用外とする妥協案も出されてきたが、決着を見ず。そのベルギーが少なくとも交渉を続けることには合意したこと、また昨年から引き続きオーストリアが取りまとめ役を引き受けてくれたのが今回の合意期限延長につながったと言えるが、その裏側にどんな駆け引きがあったかはまだわからない。3カ月の延命措置は功を奏するのか、あるいは…。

https://www.facebook.com/kmktsd/posts/1215183408501500?pnref=story 

 

なお、欧州のNGO・労働組合は #TheTimeIsNow キャンペーンを行い、10カ国首脳へ「6月17日最終合意を得るよう」手紙作戦を行いましたが、いま一歩及びませんでした。

 

<参考>
Schaeuble Says EU ‘Avoids Total Failure’ With Financial Tax Plan

Ten EU States Vow to Push Ahead on Financial-Transaction Tax

Ten EU Countries Set Financial Transactions Tax Agreement Deadline

明日、参議院選挙公示>連帯税議連の立候補予定者

明日(22日)参議院選挙が公示されます。国際連帯税創設を求める議員連盟の役員で立候補を予定している方々は、以下の通りです(議連役職/政党:選挙区)。

 

みなさまにはぜひとも再選され、議連役員を続けていただくよう祈念するものです。

 

福島みずほ(顧問/社民:比例区)
猪口邦子(副会長/自民:千葉選挙区)
大門みきし(副会長/共産:比例区)
ふじすえ健三(副会長/民進:比例区)
谷あい正明(常任幹事/公明:比例区)
白しんくん(常任幹事/民進:比例区)
石橋みちひろ(事務局長/民進:比例区)

 

なお、この間の議員連盟等の動向については、石橋事務局長のWEBサイトをご覧ください

 

★写真は、フランスのアニック・ジラルダン開発担当大臣(当時)の議員連盟への表敬訪問のもよう(15年3月)
・議連側出席:衛藤会長、藤田会長代行、福島副会長、石橋事務局長

【ご案内】民間税調シンポ「投票の前に税のあり方を問い直そう!」

OECD:格差拡大

 

民間税制調査会による久しぶりのシンポジウムです。今回のテーマは7月参議院選挙を射程に入れて「投票の前に税のあり方を問い直そう!」というもの。ふるってご参加ください。

 

・日 時:6月26日(日)13時~16時半頃

・場 所:青山学院大学(青山キャンパス)5号館545号室

・参加費:無料

・申込先:参加希望者は、joe.aoki01@gmail.com から申し込みください。

 

当日のプログラムはまだ発表されていませんが、私が希望するのは「税のあり方」としてやはり「格差・貧困是正に資するための税制」を各党の選挙公約から見出していくことにあると思います。今日の日本が古き良き「一億総中流」社会から「格差・貧困」社会へと転落してきたことを踏まえると(「子ども食堂」が全国的に作られる社会なんて誰が想像したでしょう!)、何はともあれ「分配機能を強める税制」が待ち望まれます。

 

ただし、理念・理想ばかりではなく、実現可能性も配慮しないとなりません。

 

●成長なくして格差是正なしは本当か?

 

ところで、格差是正のための分配を行うにはまず経済成長が必要だ、という伝統的とも言える議論があります。一方、今日新たな経済政策・理論として、格差(つまり、分配政策の不備)こそが経済成長を阻害しているという議論が出てきました。

 

ご案内のように、後者のような議論は、ラジカルな経済学者だけではなくOECD(経済協力開発機構)やIMFというメインストリームからも出てきているというところに(今日的な)特徴があります。OECDペーパー『所得格差は経済成長を損なうか?』(14年12月)では次のような結論を導き出しています。

 

・富裕層と貧困層の格差は今や大半の OECD 諸国において過去 30 年間で最も大きくなっており、このような所得格差の趨勢的な拡大は、経済成長を大幅に抑制している。…

・ 租税政策や移転政策による格差への取り組みは、適切な政策設計の下で実施される限り、成長を阻害しない。

・特に、再分配の取り組みは、人的資本投資に関する主要な決定がなされる対象である子供のいる世帯や若年層を重視するとともに、生涯にわたる技能開発や学習を促進すべきである。

 

●「格差拡大=経済成長を阻害」論の背景

 

以上のような議論の背景はどのようなものでしょうか? このことを紹介しているのが、小林慶一郎・慶大教授の「経済教室『格差拡大、成長に悪影響?』」(日経新聞 16年2月22日)です。ここではOECDやIMFの研究者のみならず世界の経済学者の議論も紹介していて、勉強になります(電子版になし)。

 

格差拡大がなぜ経済成長を阻害するかですが、「OECDやIMFの研究では、教育や技術などの『供給能力』の低迷という要因を重視しているが、『需要』の縮小という要因も問題だと思われる。…(注:名前が長いので…大学教授2人の)共著『ハウス・オブ・デット』(14年)は、家計の債務の膨張(これは富の格差拡大の一種である)が米経済を脆弱にしていると主張している」、と小林教授は紹介しています。

 

確かに家計の縮小・貧困化が需要増を妨げており、米国や他の先進国のみならずこの間の日本社会の家計消費活動の低迷がそれを物語っています。そしてそのことが経済成長を停滞させていると言えます。

 

その日本ですが、14年4月実施の消費税アップが低迷の主要因という説もありますが、実際はもっと複雑です。実は消費税以上に社会保障関連(年金、医療・介護、雇用など)負担が毎年3%のペースで値上がりしており、国民全般が将来への不安を抱き生活防衛(貯蓄を含め)に回っています。また、高齢者や非正規雇用者など(これに比例して貯蓄率が低下)低所得と貧困の分厚い層が社会に積もり消費活動の最大のブレーキとなっています。

 

<参考>
【東洋経済】なぜ消費低迷が続くのか?社会保障の負担も重く

【日経新聞】雇用絶好調でもさえぬ消費 賃上げ力不足、貯蓄に回る

 

●格差・貧困是正に資するための税制に向けての議論を

 

以上から、所得税や法人税、資産課税や消費税そして国際課税なども、格差・貧困是正のために抜本的に改革する必要があります。参議院選挙に臨む各政党は税制をどのような理念から政策化しようとしているのか、シンポジウムの中でともに考えていきたいと思います。

日本記者クラブ「パナマ文書」第1回&財務省への質問書

●OECD租税委員会議長・浅川財務官のお話し

 

日本記者クラブ研究会は「パナマ文書」問題を連続的に取り上げるようで、その第1回がOECD租税委員会議長である浅川雅嗣財務官のお話しでした(6月6日)。

 

浅川財務官は、パナマ文書公表については「驚くことはなかったが、BEPS(税源浸食と利益移転)の方向は正しかったし、追い風になった」と感想を述べています。また、「国境を利用した多国籍企業や富裕層の租税回避により、税の公平感・信頼感を失わせしめていることはとうてい看過できない」とBEPS取り組み等の背景について語りました。

 

同財務官はBEPSプロジェクトの取り組みを紹介しつつ、差し迫った取り組みとして、次の3課題について述べています。
 〇金融口座に関する自動情報交換について
 〇自動情報交換への非協力地域のブラックリスト作りについて
 〇実質的所有者情報と交換制について

 

◎浅川財務官のお話と質疑のもようは、ここをクリックしてください

 

 

●財務省への質問文

 

来る6月24日に第62回財務省・NGO定期協議(*)が開催されますが、ここで租税回避問題も協議できるということで、さっそく質問文を書いてみました。お気付きの点がありましたら、ご指摘ください。

 

【G7サミットを受けて租税回避の取組みについての質問】

 

1、6月30日~7月1日京都で開催されるOECD租税委員会拡大会合について

 

①「パナマ文書」公表で日本と世界とでたいへんな驚きと関心をもたらした課題ですので、財務省として正直な納税者たる市民に対してOECD租税委員会拡大会合(以下、拡大会合)に関する報告会を事前または事後に開催してください。

 

②拡大会合の主要議題の一つが、「国際的な課税逃れ阻止へ対策徹底として非協力ブラックリストの作成準備」(4月G20財務相・中央銀行総裁会議での要請)にあるようです。そこで、このブラックリスト方式はかつて2009年グローバルフォーラムが作成し公表してきた経緯がありますが、今回の予定されているブラックリスト方式は前回との違いは何であり、なぜあらためて必要なのかを説明ください。

 

2、金融口座情報の自動交換制度について

 

①金融口座の自動情報交換が2017-2018年からはじまる予定で、現在100か国程度がこれに参加しようとしていますが、とくにひとつのビルに十万社ものペーパー・カンパニーが登記しているタックスヘイブン国・地域での、例えばケイマン諸島などの税務当局の情報調査・収集能力について十分あると考えているのでしょうか(ちなみに世界第6位の金融センターであるケイマン諸島では政府機能が5階建てのビルにすっぽりと収まる程度のキャパシティしかないが)。

 

②今日先進国内のタックスヘイブンとして米国のデラウェア州などがありますが、ここが今後より大きな抜け穴になるとして問題視されています。米国に対してどのように自動交換制度への参加を図る予定でしょうか。

 

3、開発途上国を含む広範な国々が参加できる国際的枠組みの構築について

 

日本の政府税制調査会も述べているように、タックスヘイブン・租税回避で最大の被害を受けるのは開発途上国です。現在この問題はG20とOECDが先導しこれに関心を持つ途上国の参加をもって取り組まれていますが、これを国連規模の途上国を含む広範な国々が参加できる国際的枠組みへと発展させるべきではないでしょうか。そうでなければG20/OECD+アルファ諸国から漏れた国・地域が「腐敗,脱税,テロリストへの資金供与及び資金洗浄」(G7伊勢志摩サミット首脳宣言)の場になっていくからです。

 

4、内部告発に依拠しない実質的所有者の透明性の確保について

 

①G20は「実質的所有者情報の透明性」を求めていますが(4月G20財務相・中央銀行総裁会合)、ペーパーカンパニーの作成(タックスプラニングの設計)の元は銀行等金融機関であり、会計・法律事務所等であるので、まずこれらの入口を規制することにより実質的所有者を特定していくべきではないでしょうか。 

 

②日本では、国外財産調書の未提出者が対象者の約90%と推定されますが、これへの対策につき数値目標を含めどのように考えていますでしょうか。

 

(*)財務省・NGO定期協議:1997年に第1回協議会が開催されました。詳しくは、こちらを参照ください