欧州11カ国金融取引税、実施要綱の合意は越年へ!

オランド

 

ご案内のように、欧州11カ国金融取引税は「本年末までに制度設計と立法化を終了する」予定でしたが、12月8-9日のECOFIN(欧州財務相理事会)で最終合意が図られず、合意が先送りとなりました。

 

この背景には、「株式にのみ課税することを進めるべき(従って、デリバティブ取引への課税は当面考えない)」というフランスと「デリバティブ取引への課税を含む野心的で広範な課税を求める」というドイツならびにオーストリアとの対立があるようです。そもそも5月6日ユーロ圏財務相会合で「株取引と一部デリバティブ取引への課税からはじめる」と合意したはずですが、フランスが後退しました。

 

世界に先駆け航空券連帯税を導入し、さらに2012年には(ミニ)金融取引税を導入して途上国支援を行ってきた「革新的資金調達のためのリーディング・グループ」のチャンピオンであるフランスが、今回の11カ国金融取引税導入問題でブレーキ役になっていることは何とも残念です。

 

ところで、ロイター通信は、年末までの合意ができなくなったので「2016年初めの導入計画が予定通りに実行できない可能性が出てきた」と報道していますが(A)、フランスは「2015年の早期に合意に達したい」と言明しています(ロイター通信B・C)。また、「(その合意は)金融取引税への第一歩」であると述べ、更なるステージを認めています。ですから、「2016年初めの導入」が不可能ということではありません。

 

 12月8日、欧州の市民4カ国の首都でいっせいアクションを行う

 

 8-9日のECOFINに向け、8日欧州の市民・社会運動団体は4カ国の首都(Paris,Berlin, Rome and Madrid)でいっせいにアクションとメディアワークを行いました。そのもようについては以下をご覧ください。

写真を見る:ここ

 

こうした市民・社会運動団体からの圧力もあり、11カ国は「野心的ではないFTT」での合意を取らなかった、とも言えます。

 

本日(10日)欧州の市民・社会運動団体は現状分析と今後について電話会議を行っています。その報告が週末には届くと思いますので、あらためて欧州11カ国FTTの展望について探ってみます。

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【A】ユーロ圏の金融取引税導入計画、年末までの合意困難に=外交筋 

 

 [ブリュッセル 8日 ロイター] – 外交筋が8日明らかにしたところによると、ユーロ圏11カ国は他の加盟国に先行して導入を検討している金融取引税(FTT)について、年末までに合意できない見通しとなり、2016年初めの導入計画が予定通りに実行できない可能性が出てきた。

 

 この計画は9日の財務相会合で承認される予定だったが、法案の準備を進めている外交筋によると、課税方法をめぐる見解の溝が埋まっていないという。

 

 外交筋の1人は「年末までの合意は不可能だ」と指摘した。また、2016年の導入計画にどのような影響を及ぼすかとの質問に、別の外交筋は「かなりの政治的意志が必要になるだろう」と語った。

 

【B】France seeks to keep EU ‘Robin Hood tax’ plan despite missed deadline

 

【C】Eleven euro zone countries want financial tax deal in early 2015 -France 

 

◆写真は左がベルリンでのイメージクリエイト&メディアワーク(首相府へ投影)。画面は、金融取引税:どちら側を選びますか? (天使)貧困と気候保護のために何とかしてください! (悪魔)銀行で聞いてください!  右はパリでのアクション。

気候変動・温暖化対策「適応資金」、途上国に最大年間60兆円必要

 

現在ペルーのリマで第20回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP20)が開催されていますが(12月1日~10日)、国連環境計画(UNEP)は5日気候変動・温暖化による途上国の被害への対策である「適応」のための資金について、2050年までに2500~5000億ドル(約30~60兆円)に達する恐れがあるとの報告書を公表しました。

 

ところで、2009年に開催されたCOP15で、長期(適応)資金として2020年までに1000億ドルを先進国は拠出することを決めていますが、この1000億ドルすら目途
が立っていません。そういう中での、いっそうの増額が求められていますので、先進国はあらゆる方法で拠出額を増加させていかなければなりません。

 

ODAの対GNI比0.7%拠出という国際目標の達成はもとより、金融取引税や国際炭素税などの革新的資金メカニズム、その他によって。ちなみに世界のODA拠出はGNI比0.29%で1254億ドルですから(2012年)、0.7%拠出となれば3028億ドルの拠出となります。従って、ODAから半分の1500億ドル、革新的資金メカニズムから1000億ドル拠出できれば、最低の2500億ドルをクリアーできるでしょう。

 

ともあれ、UNEP報告につき毎日新聞の報道とリマに行っているWWFジャパンの小西雅子さんの報告を送ります。

 

【毎日】温暖化被害:気温2度未満抑制達成でも途上国に年60兆円
…前略
 (適応のための対策として)例えば、バングラデシュなど南アジアでは食料確保や洪水対策などの費用で、10~50年の年平均で400億ドルかかるという。また、マダガスカルでは、巨大化するサイクロンに備え、襲来する季節の前に収穫できるイネの開発費が多額に上る。コロンビアでは、被害軽減策の基礎データとなる環境異変を評価するための人材育成への投資も必要と指摘している。
…後略

 

【WWFブログ】気候変動への「適応」にかかるコストは?
…前略
その(UNEPレポート)内容は、世界の国々が「適応」のため必要とする資金額は、これまでの想定を大きく上回るという衝撃的なものです。
…中略
この規模は、これまでIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の評価に基づき「2050年までに毎年700~1,000億ドル(85~120兆円)」と予測されていた金額の、4~5倍に相当します。
…後略

 

増大する円安倒産:急激な為替変動には金融取引税が有効だ

キャプチャ3

 

10月末に突如行われた日銀の追加金融緩和などにより急激に円安が進行し、わずか1カ月の間に10円強も円安になっています。その結果、円安倒産が急に増えてきており、来年以降倒産が本格化するのではないか、と言われています(ロイター通信…【1】)。

 

もとより、苦しいのは輸入関係の企業だけではなく、今回の円安により輸入物価が上昇し、消費税増税と相まって我々庶民の生活も苦しくなっています。賃金が多少上がってもそれ以上に物価が上昇していますので、15カ月連続して実質賃金が下がってきています。

 

では、今後この円安の傾向はどうなっていくのかといいますと、「『歴史的円安』を招く」だろうというのが、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏です(ロイター通信…【2】)。

 

唐鎌氏は、その理由として、これまでの円安局面時期とは異なり、「巨大な貿易赤字と大幅なマイナス金利」が定着しつつあるから、と言っています(これに今後開くであろう米国と日本の金利差も強力に影響していくるでしょう)。

 

とするなら、もうひとつの為替相場を動かしているアクターのヘッジファンドなどの投機筋がどう動いてくるかですが、当然趨勢として円安が進行するとの予測が立つなら、徹底して空売りを仕掛けてくるでしょう。実際、1か月足らずで10円も円安になっている背後にはすでに投機筋が動いていることには間違いありません(唐鎌氏のみならずいわゆる金融系エコノミストたちの分析には投機筋の動向がネグレクトされることが多い)。

 

ところで、円とドルの取引は1日当たり100兆円にも上っています(東京市場での取引は世界全体の2割)。そのうちのどれだけが空売りでの取引を行っているか分かりませんが、ヘッジファンド等が一斉かつ一方的に円売り・ドル買いを行えば、円安(ドル高)はとめどなく進行していくでしょう。

 

これを止めていくためには、まず日銀の異次元緩和なる劇薬政策をストップさせるともに、投機を抑制するツールとして金融取引税を実施すべきだと思います。

 

なお、東京外国為替市場での外資系金融機関と日系金融機関との取引高は、2013年で3:1となっています<日銀:外国為替およびデリバティブに関する中央銀行サーベイ (2013年4月中取引高調査)について:日本分集計結果>。従って、日本で金融取引税(為替=通貨取引税)を導入した場合、東京市場だけでも課税全体の4分の1が日系金融機関の取引に、4分の3が外資系金融機関の取引に課せられることになります。

 

他の為替市場(ニューヨークやロンドンなど)での日系金融機関の(円ドル、円ユーロほか)取引割合は分かりませんが、例えばドル/円取引だけでも1日80兆円もの取引があり、それへの課税対象の多くは外資系金融機関になるものと思われます。

 

【1】2倍の速度で進む円安、前回円高時に比べ関連倒産件数は3倍超

 円安が猛スピードで進んでいる。2007年からの円高は4年かけて40円の円高が進んだが、今回は2年で40円の円安となった。倒産は円高、円安どちらでも発生するが、企業が対応に困るのは為替変動のスピードが速い場合だ。

 

 円安倒産は中小・零細の輸入企業が多いため1件当たりの負債総額は小さいが、件数は円高倒産に比べ3倍以上。足元の急速な円安による倒産増加が警戒されている。

 

【2】コラム:「歴史的円安」を招く2つの増幅装置=唐鎌大輔氏

 

◆ポスターはオーストラリアのロビンフッド・タックス(金融取引税)キャンペーンより