ドイツ総選挙にみる金融取引税の位置、世界的な“カネ余り”と投機マネー

今秋G7諸国は、日本を含めドイツ、カナダで総選挙が行われます。その総選挙の大きなテーマの一つがコロナ禍でさらに拡大した格差問題です。一方、コロナ禍は超金融緩和政策を長引かせ、これが世界的な“カネ余り”をもたらし投機マネーとなって世界を駆け巡り、バブル経済状況にもなっています。

 

●9.26ドイツ総選挙>SPDとGREENSが金融取引税を掲げて

 

いち早く今月26日に投票が行われるドイツは有力三党がしのぎを削ってきましたが、やや地殻変動が起こり、この間与党の一角でありながらずっと低迷を続けてきた社会民主党(SPD)が世論調査で突然と言っていいくらいにトップに躍り出ています。

 

ドイツはもともと環境・気候変動対策の先進国で、極右政党以外どの政党もこの課題に力を入れていますが、さえなかったSPDがトップにいる理由の一つが粘り強く「格差是正」を訴えてきたことにあるようです【A】。

 

「社民党は最低賃金を時給12ユーロ(約1500円)に引き上げることや富裕層への課税強化などを公約に…」【A】しているとのことです。また、ロイター通信は同党が「国家の収入源となる富裕税や、他の欧州連合(EU)諸国と同様の金融取引税の導入を望んで」いると報じています【B】。

 

また、世論調査で一時トップに躍り出ましたが、現在第3位になっている緑の党(GREENS)も格差是正を訴えるとともに、選挙公約で「私たちは、広範な課税基盤を持つEU全体の金融取引税を導入するなどして、投機や短期主義を魅力のないものにします。金融市場の安定性と予測可能性を高めるために、有害な高頻度取引を抑制します」と訴えています【C】。

 

●メルケル首相のCDU・CSUはやや企業や富裕層に優しく

 

一方、今期で引退するメルケル首相を擁する最大政党、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は今年に入り急速に支持率を低下させ、ついにSPDに抜かれるまでになりました。富裕層への増税には繁栄の妨げになるとして反対し、「経済成長こそが税収にもつながる」としています【A】【B】。さらに、同党は低・中所得者への減税を言いつつも、企業減税(約30%から25%へ)も掲げています。総じて、格差是正政策に弱点があるようです【D】。

 

●財政立て直し&グローバル・イシューのための金融取引税

 

欧州における金融取引税については、すでにコロナ復興基金7500億ユーロ(約95兆円)債券の返済のための原資のひとつとして挙げられています。ただ、実施予定はかなり遅く2024年までにその制度設計など成案を得て、2026年実施というタイムテーブルとなっています。また、ここでの金融取引税はEU財政のためのもので国際連帯税的な内容ではありません。

 

こうした事態に対し、欧州のNGOや欧州議会議員などが、1)金融取引税を株取引に限定せずデリバティブ取引や為替取引を含む幅広い税制とし、かつ実施を早めること、2)税収を域内だけに使用するのではなく地球規模課題のために使用すること、などを要求して活動しています。

 

●世界的な“カネ余り”と投機マネー、通貨取引税こそ求められています

 

現在、巨大IT企業等を対象とした国際課税(法人税)ルールがOECD/G20の場で(1国課税主義を超えて)共通ルールとして確定しようという動きとなっています。これと同じく感染症パンデミック、難民、飢餓問題等の地球規模課題解決のための資金調達を国際連帯税として共通ルール化すべきです。その税制の中身は、今日通貨(為替)取引税がもっともふさわしいと考えます。

 

というのは、「コロナ対策として各国が大規模な金融・財政政策を打ち出した結果、世界的な“カネ余り”が生じている」【E】という現状があり、このカネが投機マネーとなって株式からビットコイン市場へ、そして原油や鉱物資源などの商品市場に流れ込み、世界的な株高や商品高をもたらしています。通貨取引税はこの動きのブレーキをかけることもできますし、法外に利益を上げているところから税として取り戻すべきです。

 

翻って、日本でも遅くとも11月までには総選挙が行われます。右派であれ、左派であれ、金融取引税を軸とした国際連帯税を国連、G7やG20などの国際会議の場で提案することのできる日本の政治リーダーが求められています。

 

【A】独総選挙大詰め、社民党がリード 格差是正訴え
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75713220T10C21A9EA1000/

 
【B】Factbox: Germany’s election and the finance industry
https://www.reuters.com/world/europe/germanys-election-finance-industry-2021-09-07/

 
【C】Deutschland. Alles ist drin. Bundestagswahlprogramm 2021
https://cms.gruene.de/uploads/documents/Wahlprogramm-DIE-GRUENEN-Bundestagswahl-2021_barrierefrei.pdf

 
【D】Germans ponder ‘sea change’ on tax, spending policies ahead of election
https://www.politico.eu/article/germans-ponder-sea-change-taxes-spending-policies-ahead-election/

 
【E】世界のマネーは米国株に向かう
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB077Q50X00C21A9000000/?unlock=1

 

※写真は、SPDの首相候補のショルツ氏(現財務大臣)

『世界』10月号に上村雄彦横浜市大教授の論文が掲載されました

雑誌・世界

 

雑誌『世界』10月号が本日発売となりましたが、その「脱成長――コロナ時代の変革構想」という特集で、上村雄彦・横浜市大教授の論文が掲載されていますので紹介します。この論文を読んで議論などができるとよいですね。

 

【世界 2021年10月号】

 

●特集1:脱成長――コロナ時代の変革構想
 いま、私たちは “右肩上がり” の状況を生きている――グローバル経済の指標と地球の平均気温、あるいは二酸化炭素の累積排出量と異常気象の発生確率。
 新型コロナウイルスによるパンデミックは、この急激な右上方への上昇曲線を、多少、緩和した。だが、そこには多くの人命の犠牲と生活上の困難、生きがいや働きがいの喪失がともなっている。
(中略)
 ”右肩上がり” は、歴史的役割を終えた。
 地球と我々の生活を壊さないオルタナティブが必要だ。
 新たな時代への政治的想像力を磨くために、特集する。

 

【目次】
〈変革に向けて〉
気候崩壊と脱成長コミュニズム――ポスト資本主義への政治的想像力
斎藤幸平(大阪市立大学)

 

〈アメリカの新しい潮流〉
アメリカ あらたな労働運動の波――パンデミックという危機をチャンスに変える
佐久間裕美子(文筆家)

 

〈日本への提起〉
社会的連帯経済 それは世界を変えつつある
廣田裕之(スペイン社会的通貨研究所)

 

〈地方から変革は起きる〉
ニュー・ローカルの設計思想と変化の胎動
山本達也(清泉女子大学)

 

〈地球規模の転換〉
グローバル・タックス、GBI、世界政府
上村雄彦(横浜市立大学)

 

●特集2:東京オリンピック 失敗の本質 <省略>

 

なお、特集とは別の「注目記事」でフォーラムのセミナーで講師を務めていただいた稲場雅紀さんも執筆していますので紹介します(勝俣先生も)。

 

《パンデミックとアフリカ》
 ○ポスト・コロナを切り拓くアフリカの肖像
 稲場雅紀(アフリカ日本協議会)
 ○新しい南北問題の中のアフリカ――パンデミック、武力紛争、気候変動
 勝俣 誠(明治学院大学名誉教授)