欧州での金融取引税議論>「損失と被害」資金、欧州議会での「復興基金」財源

 ピエールとグテーレス事務総長

               グテーレス国連事務総長とLarrouturou氏

 

欧州で金融取引税についての議論が高まりつつあります。ひとつは、先の気候変動枠組条約締結国会議COP27で「画期的に」決定した「損失と被害」支援資金に関して。もうひとつは、昨年12月に欧州委員会で提案された7500億ユーロ規模のコロナ復興基金の財源(償還資金)に関して。

 

●COP21パリ協定の設計者ローレンス・トゥビアナ氏たちが金融取引税を要求

 

ご承知のように、COP27は今月20日気候変動(危機)に起因する途上国の「損失と被害」の支援に特化した基金設立に合意しました。しかし基金の具体的内容(拠出者と受益者等)については来年のCOPで決めることになりました。すでにこの支援基金に向け、島しょ国のリーダーなどから様々な資金調達の提案がされてきました。国際炭素税、航空輸送や金融取引への課税、国際エネルギー企業等への棚ぼた税そしてIMF・SDR(特別引出権)の増強など。

 

一方、フランスにおいて、COP21でのパリ協定を設計した経済学者のローレンス・トゥビアナ(Laurence Tubiana)、全アフリカ議会の議長Karim Darwish、2007年にノーベル賞を受賞した「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の元副議長ジャン・ジュゼル(Jean Jouzel)欧州議会議員Pierre Larrouturouなどの国際的な専門家や欧州議員が「金融取引税を創設するための合意を得ることが、今までになく急務である」と仏紙『ルモンド』に発表しました(注1)。

 

専門家たちは、気候変動による損失と被害に対処するためのグローバル・サウス諸国への支援に向け、「この税(金融取引税)は、国連開発計画(UNDP)が2011年から支持しているもので、米国のジョー・バイデン氏や欧州議会も支持しています。欧州議会は2020年末の気候変動対策の資金調達に関する報告書で、欧州レベルだけでも…金融取引に0.1%の小さな税をかければ、大多数の人々の家計を傷つけずに年間最大で570億ユーロを生み出せます」と強調しています。

 

欧州議会、EUの新たな収入源決める>次は2023年末までに金融取引税などを

 

欧州連合(EU)は2020年に7500億ユーロ(約100兆円)規模の新型コロナ復興基金の創設を決め、昨年12月欧州委員会は基金の財源(償還資金)として、①排出量取引、②国境炭素調整措置(国境炭素税)、③多国籍企業への課税、の3案を提案しました(収入を170億ユーロと想定)。この3案につき11月23日の欧州議会で一部修正され採決されました(注2)。この後、欧州理事会で採択され、全加盟国が批准すれば晴れて実施となります。

 

一方、欧州議会では、欧州委案が採用されなかったり、収入が予定通り得られなかったりした場合には、欧州委員会はさらに適時に行動を起こす必要がある、と注文を付けています。これに対し、欧州委員会は「2023年末までに、金融取引税や企業部門に関連する独自財源を含む、新たな自主財源の第2弾の提案を行う」と強調しました。

 

金融取引税については、当初の欧州委のロードマップでは2014年までに制度設計を行い、2016年から実施となっていましたので、1年前倒しで進められそうです。

 

●地球規模課題の資金需要は年間「兆ドル」単位に>官民総力で国際連帯税実施を!

 

現在グローバル社会ではコロナ感染症、気候危機などに基づく貧困と飢餓の増大、そして難民の激増等々という地球規模課題が山積し、これへの対策が年間数兆ドル(数100兆円)単位での費用を要するようになっています。今こそ国際連帯税として金融取引への課税や巨大IT企業はじめとするグローバル企業への課税が必要となってきています。欧州で3度目の金融取引税への議論がはじまりつつあります。日本でもG7広島サミットに向け金融取引税など国際連帯税を要求していきましょう。

 

(注1)

« Il est plus urgent que jamais de parvenir à un accord pour créer une taxe sur les transactions financières »   

「金融取引税を創設するための合意を得ることが、今までになく急務である」

(注2)

MEPs clear way for new sources of EU revenue

欧州議会、EUの新たな収入源を決着させる

 

※写真は、グテーレス国連事務総長に対して金融取引税について説明するLarrouturou欧州議会議員(Larrouturou氏のTwitterより)

 

●グローバル連帯税フォーラム・インターン募集中!

 ⇒詳細は、http://isl-forum.jp/archives/3729 

フォーラム、インターン募集>世界のコロナ感染症・温暖化等の資金調達を!

オルタモンドユース2

 

グローバル連帯税フォーラムは下記の通りインターンを募集します。時間等が許される方は積極的にご応募ください。いっしょに活動しましょう、どうぞよろしくお願いします。

 

【グローバル連帯税フォーラム:インターン募集要項】

 

1. 呼びかけ
コロナ等感染症や気候変動などの地球規模課題のための対策資金を創出するスキームとしての国際連帯税、またグローバルな経済的格差を是正するためのトービン税(金融取引税)などについて強い関心を持ち、社会を変革したいと願う学生や社会人のインターンを募集しています。私たちといっしょに社会課題に取り組んでみませんか?

 

2. 取り組む業務
主に下記の業務のお手伝いをお願いします
 ① セミナーやシンポジウムなどのイベント運営
 ② 広報業務(SNSやML等による広報の実施)
 ③ 翻訳(主に英語)
 ④ 国会議員や省庁へのロビイング
  現在①~③は、オンラインでの活動が中心となっています。

 

3. 応募方法
 ① お名前(ふりがな)
 ② メールアドレス
 ③ 携帯電話番号
 ④ 属性(学生、社会人)
 ⑤ 所属(学校名、会社名、定年退職者)
 ⑥ 応募いただいた理由(800字以内でお書きください:メール本文でもWordでも可)
 上記①~⑥を記載したメールを下記メールアドレス(応募先)までご送付ください。
<応募先>
    gtaxftt@gmail.com (担当:田中)

 

※写真左は、「国際連帯税東京シンポジウム2008」のもよう。右はユースによる水の民政化に関する研究・発表会のもよう。

COP27「損失と被害」、エネ企業への課税案だが国際連帯税も必要

エジプトで開催されている第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)で、温暖化による途上国の「損失と被害」への先進国からの資金支援がメイン議題の一つとなっています。途上国側の代表として島が沈みつつあるなどたいへんな被害を受けている「島しょ国グループ」から、次のようなアイデアが出されているとのことです(注1)。それはこの間のエネルギー価格の高騰で「巨額の利益」を得ているエネルギー企業等の(超過)利益に課税し、それを対策資金とすべき、というものです(注2)。

 

温室効果ガス排出がとても少ない途上国からすれば、パキスタンの大洪水やアフリカ諸国の大干ばつなどに見られるように多大な被害を受けているのですから、このようなアイデア=提案はもっともなことだと思います。しかし、このエネルギー企業等の(超過)利潤への課税については、「ウインドフォール(棚ぼた課税)」として欧州各国で既に実施または検討中であり(注3)、先進国と途上国で奪い合いになりそうです。

 

こうした状況から、11月16日付日経新聞ではエネ企業等の利潤への課税について次のように述べています。

 

「実現には国際的な合意が必要で、簡単ではない。国際的な航空輸送や金融取引に課税する国際連帯税構想も長らくあるが、いまだに実現していない」

 

いずれにしても、「損失と被害」対策資金については、恒久的かつ国際(共通)炭素税、そして国際連帯税から捻出することがよいでしょう。通常の支援の方法は、自国の領土内で徴収した税収を海外支援に回すということで、絶えず自国国民からブレーキがかかります。例えば、アフリカの貧困に何億円か拠出するとした場合、その資金は自国の私たちの税金であること、また国内にも貧しい人たちがいること等から結構国民からの反発があります。こうした反発を抑えることができるのが国際連帯税スキームです。航空輸送や金融取引税は国家の領土主権の外で行われる消費行為に対する課税となるからです。

 

ともあれCOP27での「損失と被害」に対する資金については、いぜんとして先進国と途上国との対立があるようです。そういう中で、「130か国余りの途上国(G77)と中国が共同で、気候変動による被害を受けた途上国支援のための新たな基金の創設を議長国に提案」しました(注4)。提案の中身は分かりませんが、注目していきたいと思います。カリブ海の島国バルバドスのミア・モトリー首相が途上国や脆弱国により多く配分するIMFの特別引出権(SDR)の新規発行などを提案していましたが、どうなりますでしょうか。

 

(注1)
【日経】途上国の損失支援、エネ企業に課税案 COP27で浮上
(注2) 
利益への10%課税(1ドルにつき10セント)。主要なエネルギー企業はこの3カ月で2000億ドル(約28兆円)の利益を上げている。
(注3)
【日経】「棚ぼた課税」は愚策か 財源めぐるタブー破れ
(注4)
【NHK】COP27 130か国余の途上国と中国 新たな基金創設を議長国に提案

※写真は、UNFCCCのホームページより

金融所得課税:財務省「年間所得が数億円超の富裕層への増税検討」だが…

1億円の壁

 

【金融所得課税10%アップで約3兆円の税収を得ることができる】

 

●日本の所得税制は累進性が途中で崩れ、富裕層が有利に

 

昨日(11月8日)の日経新聞によると、財務省は年間所得が数億円超の富裕層への増税の検討に入ったと報じています(注1)。これは例の「1億円の壁」と言われている、所得が1億円を超えると税負担率が下がってしまうという(累進課税であるべき)所得税の「不公平・不公正性」を是正しようという狙いがあります。

 

実際、「財務省が10月上旬の政府税制調査会(首相の諮問機関)で示したデータによると、所得税と社会保険料の負担率は所得5千万超~1億円の層で28.7%と最も高い。所得5億超~10億円は21.5%、50億超~100億円では17.2%となり、300万~400万円の17.9%より低くなる」(同日経新聞 図参照)となっています。

 

なぜこうした事態になっているかと言いますと、次の通りです。勤労者などの「給与所得」は所得が増えるほど税率が上がっていく「累進課税」で、最高税率は4,000万円以上の45%(+地方税10%)ですが、他方、株式売却益や配当などの「金融所得」は一律15%(+地方税5%)という「分離課税」で、従って4,000万円以上の所得があっても「金融所得」が多いほど税率は下がってきます。その分岐点が1億円所得なのです。

 

●政府・与党は課税強化に向かうか?

 

金融所得課税の不公平・公正性については以前から指摘されており、とくに2019年消費税の10%へのアップ時には財務省も相当前向きでしたが見送られてきたという経過があります。また、岸田首相が誕生した当初「金融所得税の強化」を訴えていましたが、たちまち前言を翻す事態となっています。こうした中での今回の財務省の動きですが、いろいろ制約がかかりそうです。

 

そもそも自民党の税制調査会の動きがどうなのか、実施する気があるのか、です。なにしろ「貯蓄から投資へ」というのが岸田式「新しい資本主義」のキャッチフレーズですので(ぜんぜん新しくないと思いますが)。

 

ともあれ、記事では、①政府が進める創業支援に逆行しないこと、②所得5億円以下の層は土地・建物の売却益が多く固定資産税がかかることを考慮すること、③給与所得が大半の人はすでに高い税を払っているので調整すべきこと、④株売却益への課税強化は幅広い層に影響が及ぶので線引き等を検討、等々課題点が挙げられています。

 

●様々な条件が付き税収は縮小か?金融取引税の新設なども必要

 

では金融所得税を10%アップしたらどのくらいの増税になるかと言いますと、約3兆円になります(2019年の税収で 注2)。同税を分離課税ではなく総合課税としますと35%アップとなりますので税収は10兆円を超えるのではないでしょうか。10兆円超となりますと、消費税の4%分ほどになりますので、税収ボリュウームは十分と言えましょう。

 

しかし、総合課税化は激変となりますので、当面は10%程度のアップがよいのかもしれません。それでも政府・与党が課税強化に向かうとしても、上記のようにいろいろ条件が付いて、思ったほどの税収が上がらない恐れもあります。ですから、1000兆円を優に超える財政赤字を解消していくためには、所得税や法人税の累進課税の強化や金融取引税の新設などが必要となってきます。

 

驚いたのは、今回の22年度第二次補正予算において一晩で4兆円も積み上げ、しかも29兆円中22兆円を赤字国債で賄うという政府の行いです。英国では予算の裏付けのない安易な減税政策が財政の悪化を招くとして市場からの反乱にあい頓挫しましたが、日本の赤字垂れ流しは英国の比ではありませんので、近い将来が心配です。

 

●諸富徹:京都大学大学院経済学研究科 教授の「ひとこと解説」

 

図に示されているように、100億円の所得を得る人の所得税+社会保険料の負担率が、400万円の所得を得る人の負担率より低いという状況は、いくらなんでも正当化し難い。本来、累進所得税の目的は所得を再分配することだ。これでは税制が、格差の拡大を助長しかねない。所得税のこうした問題を是正するため、新興企業支援を施したうえで、一定の所得(5億円とか10億円)以上に対象を絞った課税強化なら、望ましいといえよう。逆進的な消費税は、すでに数次にわたって税率が引き上げられてきた。今後のさらなる引き上げも議論しなければならない中、再分配を担うはずの所得税の機能不全がこれ以上、放置されていてよいはずがない。

 

(注1)
超富裕層に増税検討 財務省「1億円の壁」是正目指す
(注2)
金融所得課税強化の株式市場への影響をどう予測するか