6月29日 グローバル連帯税フォーラムの第15回定期総会開催

グローバル連帯税フォーラムの第15回定期総会が6月29日に開催され、4つの議案が提案され、採択されました。

 

議案書の中の「25年度活動方針」の基調の一部を紹介します。

 

「開発・気候資金の創出方法として、国際連帯税(グローバル課税方式)に取り組むことを基本としつつ、しかし暴力的なトランプ関税によって経済的不況の可能性や日本社会においても高まる排外主義的傾向から、短期的に途上国支援のための増税がなかなか厳しいことも事実です。従って、国際連帯税については今後本格的に議論される国連での国際租税枠組み条約の取り組みと連動しつつ中長期的に取り組んでいきます。短期的には、日本特有の潤沢に存在する外貨準備のなかのほとんど未使用のSDR(特別引出権)[*]の再チャネリング(自発的融通)実施に挑戦していきます。 」

             [*]5月末現在603億ドル(約9兆円)も積み上がっている

 

※第15回定期総会の議案書はこちらからご覧ください。

【資料】セミナー「国連租税枠組条約交渉の振り返りと今後の取組」

6月29日、講師に金子文夫さんを迎え、g-taxセミナー「国連租税枠組条約交渉の振り返りと今後の取組」を行いました。当日使用したパワーポイントを送ります。たいへんよくまとまっていますので、資料としてご利用してください。

 

 

※金子さんのパワーポイント資料「 国連租税枠組条約交渉の振り返りと今後の取組」はこちらからご覧ください。

 

<はじめに>

*国連租税条約(国際租税協力に関する国連枠組条約)

 ・UN Framework Convention on International Tax Cooperation:UNFCITC

 ・気候変動枠組条約(UN Framework Convention on Climate Change : UNFCCC)の国際租税版

 ・国際課税問題(グローバル税制)はこれまでOECD(先進国クラブ)が主導して取り組んできたが、これに対してグローバルサウスからの批判が高まり、国連によるルール形成を目指して国連租税条約の交渉が進行中

 

*報告の構成

 Ⅰ.グローバル税制はなぜ必要か

 Ⅱ.OECDの取組み

 Ⅲ.国連租税条約の準備過程

 Ⅳ. 国連租税条約交渉の現状と展望

 

※ 以下は、パワーポイント資料をご覧ください。

第4回開発資金国際会議近づく>成果文書での国際租税に関する扱いは?

決定

 

ほとんど報道されてませんが、6月30日から7月3日まで、スペインのセビリアで国連の第4回開発資金国際会議が開催されます。途上国では、債務危機に見舞われ、「アフリカ54カ国のうち、30カ国以上は医療や教育よりも多くの予算を対外債務の返済に振り向けている」(1)状況ですが、会議では途上国援助のための資金調達(途上国自身の努力含め)に関しての議論が行われます。

 

一方、途上国を援助する先進国側は、まず米国トランプ政権が人道援助の予算のほとんどを(一時)停止してしまい、また欧州各国も次々とODA(政府開発援助)予算を削減しつつあります。今こそ開発資金の大幅増額が必要であるにも関わらず、米欧はそれに背を向けています。

 

■ 最終ドラフトは第1ドラフトより後退>国際租税協力に関してチェック

 

さて、セビリア会議ですが、これまで成果文書を作成すべく、要素ドラフト(昨年11月)、ゼロ・ドラフト(本年1月)、第1ドラフト(3月)と議論を積み重ねてきましたが、米国が反発し400か所以上の修正案を出してきました。が、6月17日突如米国がFfD4から撤退を宣言。かくて最終ドラフトである’Compromiso de Sevilla’(セビリアの約束)が全会一致で!採択されることになりました(2)。

 

最終ドラフト(以下、最終)をざっと見ますと、明らかに第1ドラフト(以下、第1)から後退しています。債務問題や国際租税問題に典型的なように、主な国際ルールは先進国側が決めているので(前者はパリクラブ、後者はOECD)、途上国が主張する「どの国も平等に参加できる」国連の場での議論は必要がないとばかり、ブレーキ役となっています。

 

国際租税協力に関するドラフトを見ますと、やはり「第1」(II. A. Domestic public resourcesの章の第23パラグラフ)で記述されていた重要な文言のいくつかが「最終」(同 第28パラグラフ)でトーンが弱められたり削除されています。日本を含む先進国側からの圧力によるものと思われます。

 

<弱められた箇所>

・b) …国際租税協力に関する国連枠組み条約…「交渉を引き続き支持」し、建設的に関与(第1)

⇒…交渉に引き続き建設的に関与し、「そのプロセスへの支持を奨励」(最終)

 

<削除された箇所>

・e)「自動的な税務情報交換」「報告義務を富裕層個人にまで拡大することを検討」

・f)「実務的な会社、信託、有限責任事業組合など、幅広い資産、法人、法的取決めを網羅する世界的な実質的所有者登録簿の構築」

・「i) 持続可能な開発のための資源動員のため、グローバル連帯税の形態を含む革新的な税制の導入を検討し、各国に対し自主的な適用を呼びかけます」

 

■ 詳細は、下記6月29日開催のセミナーで報告・分析

 

g-taxセミナー:国際租税枠組み条約交渉の振り返りと今後の取り組み

 

  ◎日 時:2025年6月29日(日)午後2時30分~3時30分(延長の可能性あり)

  ◎場 所:Zoomで開催

  ◎参加申込:gtaxftt@gmail.com まで。後ほどリンクを送ります。

  ◎参加費:無料

  ◎提案者:金子文夫(グローバル連帯税フォーラム/横浜市立大学名誉教授)

 

(1)【日経新聞】アフリカが挑む国際金融改革 ハナン・モルシー氏

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD131I20T10C25A6000000/ 

(2) Compromiso de Sevilla

https://www.globalpolicy.org/en/news/2025-06-23/compromiso-de-sevilla

 

 

【第1ドラフト】

II. A. Domestic public resources

(※ゴシック斜字は、最終ドラフトでトーンが弱められたり、削除されたりした箇所)

 

23. 国際租税協力を強化し、国際課税ルールがすべての国、特に開発途上国の多様なニーズ、優先事項、能力に対応することを確保するため、

 

a) 我々は、国際租税協力が完全に包摂的かつすべての国に恩恵をもたらすことを確保することにコミットする。我々は、国際的な租税構造における開発途上国の発言力と代表性を強化することを決意する。我々は、国際租税協力枠組みが開発途上国に及ぼす影響を慎重に分析し、公平な利益を確保し、開発途上国特有の課題に対処することの重要性を強調する。

 

b) 我々は、国際租税協力に関する国連枠組み条約およびその議定書に関する交渉を引き続き支持し、建設的に関与していく。

 

c)我々は、多国籍企業を含む全ての企業が、経済活動が行われ、価値が創造される国に納税することを確保する。

 

d) 我々は、国際課税問題に関する各国税務当局間の包摂的な協力と対話を促進し、国連国際租税協力専門家委員会(その小委員会を含む)の活動を歓迎する。

 

e) 我々は、特別な状況にある国々が直面する課題を認識しつつ、税の透明性を高めることにコミットする。我々は、開発途上国に対し、例えば、自動的な税務情報交換に基づく完全な相互主義のための猶予期間の付与や、特定の基準及び条件の更なる簡素化といった特別な配慮を与えることを含め、基準の実施を支援する。我々のコミットメントには、多国籍企業の国別報告の強化、及び国別報告のための中央公開データベースの構築の更なる評価が含まれる。我々はまた、報告義務を富裕層個人にまで拡大することを検討する。

 

f) 我々は、高品質かつ標準化された情報を備えた効果的な国内実質的所有者登録簿の導入、並びに実務的な会社、信託、有限責任事業組合など、幅広い資産、法人、法的取決めを網羅する世界的な実質的所有者登録簿の構築に向けた取り組みを進めています。これらの取り組みすべてにおいて、既存の作業を基盤とし、開発途上国がこれらの透明性基準を実施できるよう支援を提供します。

 

g) 開発途上国が国際課税協力の恩恵を受けられるよう、需要に基づいた技術支援と能力構築プログラムを提供する。

 

h) 多くの国が第二の柱の実施において進展を見せていることを踏まえ、経済協力開発機構(OECD)/20カ国・地域(G20)の税源浸食と利益移転に関する包摂的枠組みに対し、他の国際機関と協力し、関心のある法域に対し国別に特化した技術支援を提供するよう要請します。

 

i) 持続可能な開発のための資源動員のため、グローバル連帯税の形態を含む革新的な税制の導入を検討し、各国に対し自主的な適用を呼びかけます。

 

【最終ドラフト】

II. A. Domestic public resources

 

28. 国際租税協力を強化し、国際課税ルールがすべてての国、特に開発途上国の多様なニーズ、優先事項及び能力に応えることを確保するため、以下の事項を実施する。

 

a) 我々は、国際租税協力が完全に包摂的かつ効果的であり、すべての国に恩恵をもたらすことを確保することにコミットする。我々は、国際課税構造における開発途上国の発言力と代表性を強化することを決意する。我々は、国際租税協力枠組みが開発途上国に与える影響を慎重に分析し、公平な利益を確保し、開発途上国特有の課題に対処することの重要性を強調する。

 

b) 我々は、国際租税協力に関する国連枠組み条約及びその議定書に関する交渉に引き続き建設的に関与し、そのプロセスへの支持を奨励する。

 

c) 我々は、国際税務に関する各国税務当局間の包摂的な協力と対話を促進し、国連国際租税協力専門家委員会(その小委員会を含む)の活動に感謝の意をもって留意する。

 

d) 我々は、OECD/G20税源浸食・利益移転に関する包摂的枠組みの第二の柱の継続的な実施を認識する。この柱は、大規模多国籍企業が事業を展開するそれぞれの国・地域で生じる所得に対し、最低限の税率を支払うことを確保することを意図している。我々は、関心のある加盟国に対し、要請に応じて、第二の柱に基づくグローバル税源浸食対策モデルルール及び課税対象ルールの実施について、国別に特化した技術支援を求める。

 

e) 我々は、多国籍企業を含むすべての企業が、国内法及び国際法・政策に従い、経済活動が行われ価値が創造される国の政府に納税することを確保する。

 

f) 我々は、特別な状況にある国々が直面する課題を認識しつつ、税の透明性を高めることにコミットする。我々は、データ保護と情報セキュリティを確保しつつ、能力開発支援の強化や特別な配慮を含め、開発途上国による基準の実施を支援する。我々は、国別報告書のための中央公開データベースの構築の更なる評価を含め、必要に応じて、多国籍企業の国別報告の強化に取り組む。

 

g) 我々は、実質的所有者の透明性の向上と実質的所有者情報交換に関する協力の強化にコミットする。我々は、国際基準に適合した、高品質かつ標準化された情報を備えた効果的な国内実質的所有者登録簿を実施する。我々は、各国実質的所有者登録簿間の情報交換メカニズムを強化し、世界的な実質的所有者登録簿の実現可能性と有用性を検討する。これらの全ての努力において、我々は既存の取組を基盤とし、知識とベストプラクティスの交換を促進し、開発途上国がこれらの透明性基準を実施できるよう支援を行う。

 

h) 我々は、開発途上国が国際租税協力の恩恵を受けられるよう、需要に基づく技術支援及び能力構築プログラムを提供する。

 

※写真は、6月17日最終ドラフトが満場一致で採択された瞬間。ジョセフ・スティグリッツ教授が共同代表を務めるICRICT(Independent Commission for the Reform of International Corporate Taxation)のXより。

開発のための資金:国際租税枠組み条約、SDRスキーム>フォーラム総会に向けて

来る6月29日(日)、グローバル連帯税フォーラムの第15回総会が開催されます。開催にあたって簡単にご挨拶を述べさせていただきます。

 

               グローバル連帯税フォーラム・代表理事 田中 徹二

 

■ グローバル化の行き過ぎ、自国第一主義・ポピュリスト勢力の伸張

 

「富裕層がさらなる富を築き、それ以外がさらに困窮するという二極化した経済において、現在、あまりにも多くの人々が繁栄を逃している。この分断が(トランプ政権の)保護主義政策の台頭を助長した…。資本主義は機能する。ただ、あまりにも少数の人々にとってだ」と述べたのは、世界一の米資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOです(*)。グローバル化の最前線にいる人の明け透けな物言いです。

 

経済のグローバル化が行き過ぎた結果、先進国においては中間層がやせ細り富裕層と大多数の取り残された人々というように格差が拡大してきました(米国で顕著な事態に)。このことはすでに2016年の米トランプ第1次政権の誕生(就任は翌年1月から)や英ブレグジット(EUからの離脱)の時に散々指摘されてきたことですが、以降も格差が拡大し続け、米国ではトランプ第2次政権が生まれ、欧州では極右・ポピュリスト政党がいっそう台頭してきました。

 

■ 先進国による途上国援助の停止(米国)と後退(欧州)

 

一方、途上国においては一部新興国の台頭はありつつも、新型コロナ禍等から債務危機に見舞われ、貧困・飢餓、そして難民・避難民が拡大しています。

 

トランプ政権の高関税を武器にした米国優先主義は世界中で軋轢を生じさせていますが、とくに看過できないのは、突然米国際開発庁(UNAID)を実質的に解体し、国際援助のほとんどを一時停止したことです。この結果、食糧や医療支援の停止で百万人単位での犠牲者を生ずる恐れが出てきています。実際、6月5日国連総会でエイズ対策についての会議が開かれ、その場で「米がエイズ支援停止の場合には4年後までに死者が400万人増となる」と報告されました(**)。

 

また、ODA優等生であった欧州でも、英・仏・独などがODA削減に踏み切りました。主要国がこぞって国際協調よりも自国優先や地政学を重視する傾向となり、途上国の危機はいっそう厳しくなりそうです。

 

■ 排外主義が拡大する中での途上国支援、フォーラムの二つの方針

 

日本国内においては、超円安以降の物価高騰とくに食料品高騰が続き、他方賃金アップがそれに追いつかないことにより国民生活は苦しいものになっています。こうした背景から、現役労働者の間に、高齢者や在日外国人等に対しての分断・排外主義的思考がSNSを通じつつ拡大しています。

 

このような情勢の中で、私たち途上国援助・国際協力としてのNGOの役割は何でしょうか? 当フォーラムは、(前身の団体活動含め)20年近く国際(グローバル)連帯税の実現を目指し活動してきました。しかし、今日日本の世論においても、欧米の風潮と同じように「途上国にカネを使うな、(困っている)国内の自分たちに使え」という声が大きくなりつつあります。こうした中で、一国内で連帯税実現は厳しいものがあるものの、フォーラムとしては国際的な包括的かつ持続可能な税制を求める「国際租税枠組み条約」の取り組みと連動して実現を図っていきたいと考えています(個々の税制は議定書で実現していく)。

 

とはいえ、上記枠組み条約が承認されるのは2017年9月以降となりますので、その間途上国援助のための資金調達を何としても見出さなければなりませんが、そのひとつが先進国では流動性や外貨準備としてほとんど未使用状態にあるIMFのSDR(特別引出権)です。SDRは外貨準備に積まれていますが、日本では本年4月末現在で600億ドル(約8.6兆円)も有しています。ちなみに外貨準備全体では1兆2,983億ドル(約186兆円)もあります(***)。もし積み上がっているSDRを途上国支援に使用しても、国庫の一般会計から拠出するわけでも、新税を制定するわけでもないので、抵抗なく実施できるのではないでしょうか。ということで、この資金調達スキームにもチャレンジしていきたいと考えています。

 

(*)【日経新聞】米ブラックロックCEO、保護主義台頭に警鐘 「二極化が助長」
(**)【NHK】“米がエイズ支援停止の場合 4年後までに死者400万人増”国連
(***)【財務省】外貨準備等の状況(令和7年4月末現在)

 

 

info:g-taxセミナー:国際租税枠組み条約交渉の振り返りと今後の取り組み

 

  ◎日時:2025年6月29日(日)午後2時30分~3時30分(延長の可能性あり)
  ◎場所:Zoomで開催
  ◎参加申込:gtaxftt@gmail.com まで。後ほどリンクを送ります。
  ◎参加費:無料
  ◎提案者:金子文夫(グローバル連帯税フォーラム/横浜市立大学名誉教授)