G20財務相等会合、超富裕層への課税、国際租税協力枠組み条約

G20財務相・中銀総裁会議が25-26日に開催されますが、その共同声明のドラフトをロイター通信が入手したということで、電子版に掲載されています(注1)。様々な課題がある中で、議長国ブラジルがもっとも重視し今回の共同声明に盛り込もうとしていたのが「超富裕層へのグローバルな最低課税」案ですが、どうなりそうでしょうか?

 

■超富裕層へのグローバルな最低課税案は共同声明に盛り込まれるか?

 

ロイター記事は次のように述べています。「共同声明案はブラジルが強く主張する富裕層への課税強化について支持表明は盛り込まれず、IMFとブラジルの依頼で行われている収入に関する調査をG20財務相が注目していると記すにとどめた」、と。この富裕層への課税案は次回G20議長国となる南アフリカやアフリカ連合、そしてフランスやスペインなどが賛同しましたが、米国その他が反対したようです。

 

もっとも共同声明とは別に「国際課税協力に関するリオデジャネイロG20閣僚宣言」を上げるようですが、これは多分に議長国のメンツを立てるためでしょうか? ただ、この閣僚宣言が「国際租税協力に関する枠組み条約」との関連で述べられることになれば、たいへん意義のあるものになると思います。

 

ちなみに、タックス・ジャステス関係NGOのみならず、国際協力NGO・研究団体、労働組合は、まず枠組み条約を制定し、その中に富裕層への課税を盛り込むべきではないかと提案しています。同時に、多国籍企業への公正な課税、金融取引税なども。要するに、脱税、租税回避、利益移転、そして違法な資金流出を止めていく手立てを準備していくことです。

 

■OECDの権威の失墜>国連 国際租税協力枠組み条約の動き加速か?

 

なお、本日(25日)の日経新聞は、『デジタル課税遠い決着、独自税復活に懸念 G20の焦点に』と題し、次のように述べています(注2)。「これまで国際課税の議論は先進国の主導でOECDがけん引してきたが、近年はアフリカ諸国を中心に国連に軸足を移す動きもある。東京財団政策研究所の岡直樹研究員はデジタル課税の膠着が続けば『OECDの権威を失墜させかねない』と警鐘を鳴らす」。

 

日経新聞ではほとんど報道されていませんが、「国連に軸足を移す動き」とは国際租税枠組み条約づくりに動きのことですが、スケジュールは以下の通りとなります。
 1)7月29日~8月16日枠組条約の付託事項を起草する特別委員会の第2回目の会合
 2)ここで草案が合意されると、これを9月からの国連総会に報告し、最終決定を図る
 3)その後条約文の交渉が行われる。

 

◎以下、特別委員会によるドラフト(⇒この分析は29日のセミナーで行います)
国際連合枠組条約のゼロドラフト(2024年6月7日)
国際連合枠組条約の規約改訂案(2024年7月18日)

 

 

【セミナー「国連国際税務協力枠組条約の設立の可能性を探る」】

 

 ◎日 時:7月29日(月)午後7時~8時30分
 ◎提案者:青葉博雄・CNEO(Center for New Economic Order)代表/GATJ                        

      (Global Alliance for Tax Justice)世界委員会アジア代表             

      金子文夫・横浜市立大学名誉教授:

 ◎参 加:Zoomによるオンライン配信。gtaxftt@gmail.com から申込み下さい。
 ◎参加費:無料
   ※ 詳細は、こちらをご覧下さい。

 

(注1) 
G20財務相、共同声明で世界経済「軟着陸」の可能性に言及へ
(注2)
デジタル課税遠い決着、独自税復活に懸念 G20の焦点に

国際租税協力に関する枠組条約>スティグリッツの小論とセミナー開催

著名な経済学者のジョセフ・スティグリッツが、FOREIGN AFFAIRSオンラインに、『国際課税システムは破綻している しかし国連はそれを解決できる―ワシントンが邪魔をしなければ』と題して、現在国連で議論中の「国際租税協力に関する枠組条約」について寄稿文を寄せています。

 

今日まで国際課税ルールを主導してきたOECD(経済協力開発機構)の政策は失敗に帰していること、これを克服するためには途上国が主張するように、気候変動枠組条約の租税版となる国際枠組条約を創設すべきと訴えています。スティグリッツの寄稿文は下記をご覧ください。

 

■「枠組条約」問題は歴史的な取組み>しかし、日本ではまったく報道されず

 

この「枠組条約」問題ですが、二重の意味で歴史的ともいえる取組みとなりそうです。巨大IT企業等の目に余る租税回避行為に対し、OECD主導で「恒久施設なくして課税なし」という100年来の国際課税ルールの変更を、2021年にG20で合意しましたが、まずこのことが歴史的と言えます(まだ実施には至っていませんが)。さらに途上国側はこうしたプロセスが不十分として「国連枠組条約」として国際ルールを決めるべきとして、2023年に国連で採択したこと、です(現在、特別委員会で草案作成に向け議論中)。もし「枠組条約」案が国連で採択されるなら、気候変動問題に続いて歴史的なものになるでしょう。

 

ところが、日本では前者のことは報道されても、後者のことはまったく報道されていませんし、驚くべきことにシンクタンクなどでも分析や論文等が公表されていません。この背景には、日本を含むG7諸国がこぞって「枠組条約」創設に後ろ向きの態度を取っているからでしょうか。

 

そこであらためて私たちは国際租税枠組条約の意義を探るとともに、決して前向きではない日本政府を変えるために何をすべきか、ともに議論していくために下記のようなセミナーを開催します。ふるってご参加ください。

 

■セミナー「国連国際税務協力枠組条約の設立の可能性を探る」開催

 

◎日 時:7月29日(月)午後7時~8時30分

◎提案者:青葉博雄・CNEO(Center for New Economic Order)代表/GATJ(Global          Alliance for Tax Justice)世界委員会アジア代表

     金子文夫・横浜市立大学名誉教授:

◎参 加:Zoomによる配信。gtaxftt@gmail.com  から申込み下さい。

◎参加費:無料

詳細は、こちらをご覧ください。

 

 

 

国際課税システムは破綻している【FOREIGN AFFAIRS】

しかし国連はそれを解決できる―ワシントンが邪魔をしなければ

ジョセフ・E・スティグリッツ

 

国連の静かな廊下で激しい戦いが繰り広げられている。昨年 12 月、国連総会は、より公平な新しい世界税制の枠組みに関する交渉を開始する決議を可決した。提案されている国連国際税務協力枠組条約は、企業や富裕層が納税逃れを許す抜け穴だらけの現行の欠陥税制を改革するものである。

 

今日の租税回避の規模は驚くべきものだ。現在の制度では、企業や富裕層がタックスヘイブンに利益を「隠す」ことができる。毎年、多国籍企業の海外利益、つまり企業の本国以外で発生した利益の35% が、スイス、シンガポール、バミューダ、ケイマン諸島などの国に帰属し、利益が実際に発生した国の税務当局の手が届かない場所に帰属している。その結果生じる歳入の損失は、年間 2,400 億ドルから 6,000 億ドルに上ると推定される。

 

…以下、全文はこちらをご覧ください。

フォーラムへの夏季資金支援のお願い>3つの国際課税問題への取組み

例年ですと、梅雨の時期のはずですが、日本列島各地で35℃を超える猛暑日=危険日の日々が続いています。温暖化は容赦なく襲ってきていますが、みなさまにおかれましてはお元気でお過ごしのことでしょうか?

 

さて、グローバル連帯税フォーラムは6月26日第14回定期総会を行い、2024年度の活動方針を決めました。つきましては、今年度の私たちの活動を支えていただけるよう、夏季資金支援(カンパ)を訴えます。

 

第14回総会の議案書はこちらからお読みください。

 

◎驚くべきことに、日本では「国際租税枠組条約」に関し報道も分析・研究もなし

 

今年度のフォーラムの活動ですが、例年通り国内で国際連帯税の実現を目指すことはもとより、主に3つの国際的な課税問題に取り組んでいきます。一つは、ケニア、フランス、バルバドスを議長国とする「開発、気候、自然のための国際課税に関するタスクフォース」、二つは、本年のG20サミットの議長国であるブラジルが提唱している持続可能な開発資金創出のための「グローバル・ミニマム富裕税」(世界の超富裕層への世界最低富裕税)、三つは「国連国際租税協力に関する枠組条約」です。

 

これらの国際課税は、G20で合意されたBEPS枠組(巨大IT企業などの市場国での課税並びに世界最低法人税)以外の新しい動きですが、日本ではメディアも専門家も(!)ほとんど取り上げていません。とくに驚くことは、3番目の国際租税枠組条約問題について報道も分析・研究文もまったく見当たらないことです。この問題が近いうちに国連気候変動枠組条約のような条約になるかもしれないというのに、です。

 

この点、私たちも取り組みが遅れていたことから、まず「経緯と現状」を知ろうということで、セミナーを行うことにしました(下記、参照)。

 

以上、今年度の活動はこれらの国際課税をウォッチしつつ(必要に応じて日本政府にロビイングしつつ)、国内で国際連帯税の実現を図っていくという構えでがんばっていきたいと思っています。そのための資金支援(カンパ)の方ぜひよろしくお願いします。なお、会員になっていただき会費を納入=支援するという形でも結構です(会費は、個人一口3,000円/年、団体一口10,000円/年 となります)。

 

※資金支援、会費納入のお振り込み先は次の通りです。振り込みにあたっては、資金支援(カンパ)か会費かをお書きの上、gtaxftt@gmail.com  までご一報くださると助かります。

 

《 お振り込み先 》

■銀行口座: みずほ銀行 築地支店(支店番号015)

       普通 2698313

■口座名義: 国際連帯税フォーラム

 

 

【インフォ:セミナー「国連国際税務協力枠組条約の設立の可能性を探る」】

◎日 時:7月29日(月)午後7時~8時30分

◎提案者:青葉博雄・国際公務労連(PSI)東アジア事務所 所長

     金子文夫・横浜市立大学名誉教授:

◎参 加:Zoomによるオンライン配信。gtaxftt@gmail.com から申し込みください。

詳細は、こちら をご覧ください。

 

6月26日 グローバル連帯税フォーラム第14回定期総会を開催

グローバル連帯税フォーラムの第14回定期総会が6月26日に開催され、5つの議案が提案され、質疑討論ののち採択されました。

 

質疑のうち2つを紹介します。

 

・情勢認識として、国際課税政策をめぐり、議案書の方では国連側にルールづくりの主導権が移ったように書かれているが、実際は国連とOECDの間でどちらが主導権を取るのかせめぎ合い状況となっていることと認識した方が良い。

(⇒了解です)

 

・会員の特典のひとつとして会員向けのニュースレター発行が考えられないか、年3-4回、PDF版でもよい。

(⇒理事の中で編集長を決め、年4回程度の発行を考えたい)

 

※第14回定期総会の議案書はこちらからご覧ください。

 

【ご案内】セミナー:国連 国際租税協力枠組条約の設立の可能性を探る

g-taxセミナーを開催します! ふるってご参加ください。

 

      ~ストップ!多国籍企業・富裕層による脱税・租税回避~
    国連 国際租税協力枠組条約の設立の可能性を探る 

 

◎日 時:2024年7月29日(月)午後7時~8時30分
◎場 所:Zoomで開催
◎参加申込:

  希望者は次のアドレスに「7.29 g-taxセミナー」と明記の上申込み下さい。

  gtaxftt@gmail.com(担当:田中)

    ⇒参加希望者に、後ほどZoomリンクを送ります。   

◎参加費:無料
◎提案者:青葉博雄・CNEO(Center for New Economic Order)代表、GATJ(Global           Alliance for Tax Justice)世界委員会アジア代表
     金子文夫・横浜市立大学名誉教授

 

■各国は世界的な税制の不正利用により、年間4,800億ドルの税金を失っています。

 

この4,800億ドル(約72兆円)損失のうち、3,110億ドルは多国籍企業による国境を越えた法人税の不正利用により、1,690億ドルは富裕層によるオフショア税(タックスヘイブンなど)の不正利用により失われています(英Tax Justice Network、2023年)。

 

国際課税ルールは、長年OECD(経済協力開発機構)が担ってきましたが、経済のデジタル化やグローバル化が進行するにしたがって、国境を越えて事業展開をする巨大IT企業などが進出先の国(市場国)に工場や子会社など恒久的施設(PE)を必要としないため、PEがなければその国で課税できないという旧来の課税ルールを逆手に取り、市場国で莫大な利益を上げていながら法人税を払わず、租税回避を行ってきました。

 

これに対し、OECDはBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げ、2021年にはG20の場で、①第一の柱:PEがなくても市場国で課税できるデジタル課税、②第二の柱:世界最低法人税ルール、が合意されました(BEPS包摂的枠組み)。

 

とはいえ、①については条約化が必要であり、現在その目途が立っていませんし、②についても具体的には2025年からはじまります(日本の場合)。こうして包摂的枠組みが始動してないことや、他方において依然として無課税・軽課税地であるタックスヘイブンが世界に存在していることから、上記のような巨額な税収損失を生んでいるのです。

 

■途上国の不満:「国際租税協力に関する枠組条約」を求めて

 

上記包摂的枠組みには途上国を含む140カ国余りが参加していましたが、途上国側からは議論には参加できるが意思決定過程には参加できないとの不満があり、こうした不満を背景に2023年11月22日、 国連総会第2委員会は決議「国連における包括的かつ効果的な国際租税協力の推進」を採択しました。

 

この決議には、主に途上国の125カ国が賛成し、英国、ドイツ、日本、米国を含む主に先進国約48カ国が反対し、OECD加盟国のアイスランド、メキシコ、ノルウェー、トルコを含む9カ国が棄権しました。

 

さらに、12月22日の国連総会において上記委員会決議が追認され、アドホック政府間委員会が2024年8月までに国際租税協力に関する枠組条約の草案作成し、2024年9月の国連総会で進捗状況の報告を行う、という段取りとなっています。その後条約文についての交渉が行われることになります。

 

このように国際課税ルール策定につき、途上国側は加盟国すべてが参加できる国連気候変動枠組条約のような組織を作り、国連が主導すべきという立場であり、先進国側はこれまでのようにOECD主導ということにこだわっています。

 

ともあれ、国連は草案作成に向けての委員会を設立し、草案作成に向け実質的な会合を2回行う段取りとなっています(1回目は4月26日~5月8日、2回目は7月29日~8月16日)。また、6月には委員会事務局がゼロドラフトを公表しています。

 

■「国際租税協力に関する枠組条約」作業の現在地、日本政府へのアプローチ

 

このように国際課税ルール策定を巡る状況は、現在大きく転換しようとしています。今日枠組条約を強く求めるグローバルサウスの声を先進国側はもはや押し留めることはできないことは明らかです。共に協力し合いながら本格的な租税に関する枠組条約ができることを望みます。国境を超えてビジネスを行う巨大IT企業などの多国籍企業や超富裕層が易々と租税回避できる(または過小課税で済む)体制がいつまでも許されることではありません。

 

今回のセミナーでは、以下につき報告をもらい、議論していきたいと思います。
1)国際枠組条約決議が採択されるまでの経過並びにその意義について
2)条約に関する作業委員会での議論と市民社会からの提言
3)日本政府を(真の)条約賛成派に変えるための取り組み

 

1)については、当フォーラムのもう一人の代表理事である金子先生から報告してもらいます。2)については、CNEO(Center for New Economic Order)代表/GATJ(Global Alliance for Tax Justice)世界委員会アジア代表として広く世界の市民社会・NGOと意見交換を行っている青葉さんから報告してもらいます。これらの報告を受け、セミナー参加者のみなさんとともに議論し、3)について考えていきたいと思います。ふるってご参加ください。(了)