新刊案内「タックス・オブザーバー」(NP新書)

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元財務省のバリバリ(と仕事をしていた)官僚でタックス・ヘイブン問題の専門家、志賀 櫻弁護士が新刊『タックス・オブザーバー――当局は税法を理解しているのか』(NP新書)を出版しましたので、(ちょっと遅れましたが)ご案内します。アマゾンランキングでもいぜんとして税制3分野で1位~一けた台を保っています。

 

日本の税制の問題点はもとより、タックス・ヘイブン、金融取引税(FTT)、そしてピケティ「21世紀の資本」まで論じており、たいへん興味深い内容です。

 

なお、志賀弁護士は11月7日の『シンポジウム:ピケティ「21世紀の資本」とグローバル・タックス』にパネリストとして参加します。ぜひ参加を。

 

●本の特徴:「なぜ、これだけ高い税金を払っているのに、われわれ日本人の生活水準はちっとも豊かにならないのか。その答えがこの一冊に詰まっている」(アマゾンのカスタマーレビューより⇒無断借用失礼します)

 

●本の内容:「…冒頭で、『現在の日本の税制は格差の是正に役立っているか』『公平・公正で正確か』『国民のために使われているか』といった質問を矢継ぎ早にぶつけてくる。突然の問いに頭の整理がつかない読者に対し、『いずれもノーという答えが頭に浮かんだろう。全く正しい』と論を進め、その理由と原因と解決策について、全9章にわたりじっくりと、しかしテンポよく解き明かしていく。/日本の税制で最大の問題点に挙げているのは『税制が所得の再分配に貢献していない』という現状だ。それは毎年の税制改正が国民の目の届かぬ〝密室〝で行われていることに由来するとし、そこには公平・公正な分配を行おうとする者は『壊滅的にいない』と指摘する」(アマゾンのカスタマーレビューより⇒無断借用失礼します)

 

●本のもくじ

はじめに
第1章 国税通則法の改正と国税調査
 1、国税調査の方法/2、不服申立制度/3、通則法97条改正の欠陥と今後の課題/4、税務調査と行政指導――ハイブリッド調査という名の脱法行為

 

第2章 租税争訟の実際
 1、租税争訟あれこれ①/2、租税争訟あれこれ②/3、大島訴訟を考える①/4、大島訴訟を考える②/5、大島訴訟を考える③

 

第3章 課税庁は税法を理解しているのか
 1、タックス・ヘイブン対策税制/2、正規の租税法教育を受けていない国税職員/3、税務大学校の罪は深い/4、瑕疵ある裁決/5、英語もろくに話せない調査官/6、ハイブリッド調査の問題

 

第4章 タックス・ヘイブン
 1、キプロス危機/2、ICIJオフショア・データベース/3、租税立法、英国間接税不利益課税遡及立法/4、タックス・ヘイブンの資金規模/5、ピケティとタックス・ヘイブン

 

第5章 国際的租税回避とBEPS
 1、国際的租税回避の問題と国際金融システムの問題/2、ニュー・ケインジアのモデルの限界/3、BEPSとAEOI/4、BEPSの弱点/5、自動的情報交換(AEOI)/6、FSB/7、問題の本質

 

第6章 ピケティの『21世紀の資本』を読む
 1、ピケティ『21世紀の資本』のインプリケーション/2、ガブリエル・ズックマンの『タックス・ヘイブンの経済学』/3、ニコラス・シャクソン『タックス・ヘイブンの闇』の突きつける問題/4、ブリュノ・ジュタンのアイデア

 

第7章 成長政策批判
 1、成長VS長期停滞論/2、アベノミクスの評価/3、クロダノミクス/4、ケインズとシュンペーター

 

第8章 民間税制調査会
 1、民間税調の設立趣旨/2、分配の公平と公正

 

第9章 日本国が直面する「税」の諸論点
第1節 消費税
 1、基幹税/2、消費税率の10%への引き上げ/3、軽減税率/4、逆進性対策としての社会保障給付/5、インボイス方式/6、VATナンバー制/7、国際課税問題

 

第2節 法人税
 1、国際的動向/2、経済理論からの帰結

 

第3節 所得税
 1、所得税についての税制固有の観点からのアプローチ/2、支出税/3、包括的所得概念/4、分配の公平と公正/5、国際的租税回避/6、失われたロウバストな中堅層/7、分配の公平・公正の観点からの所得税の検討/8、社会保険料と租税法律主義/9、納税者の権利意識

 

第4節 資産税・富裕税
 1、資産税論点整理/2、資産税/3、相続税/4、富裕税

 

第5節 金融取引税(FTT)
 1、トービン・タックス/2、フランスの金融取引税/3、金融取引税の問題点

 

第6節 二重課税
 1、所得税と相続税の二重課税問題/2、所得税内部での二重課税問題/3、「金銭の時間的価値」/4、所得税と消費税の二重課税問題
あとがき

 

◆写真左は、タックスヘイブンの島、ケイマン島です。

【ガーディアン】ピケティ、スペイン反緊縮政党にアドバイス

ピケティ①

 

このところあまり活躍が伝えられていませんが、欧州のマスコミではピケティ教授がスペインの反緊縮政党「ポデモス」の経済政策アドバイザーに就任したということで、話題を呼んでいます。英紙ガーディアンの記事を和訳してもらいましたので、送ります。なお、スペインの総選挙は12月です。

 

政治・政党と言いますと、すぐに左派と右派というように分けがちですが、欧州では新しい動きとして、反緊縮を掲げデモ・集会などの(直接)行動を背景とした新しい政党が生まれ、かつ急激に伸長しています。ギリシャ(SYRIZA)とスペイン(PODEMOS)がその典型です。

 

また、伝統的政党でも、先に英国労働党の党首選でラジカルな反緊縮政策を掲げるジェレミー・コービン氏が選出されました。欧州政治も変革期を迎えているようですね。

 

 

【ガーディアン】トマ・ピケティがスペインの反緊縮政党「ポデモス」にアドバイス

2015年9月7日

 

フランスのエコノミストが、総選挙に先立って経済政策を党にアドバイスする国際的な専門家委員会に加わることになった。

 

富と不平等に関する論争の的となった本で有名なフランスのエコノミストトマ・ピケティは、スペインの反緊縮政党ポデモスにアドバイスを行うことになった。

 

「21世紀の資本」の著者は、ポデモスが12月に行われる総選挙で初めて闘う準備を進めているので、その経済政策についてアドバイスする国際的な専門家委員会に加わることに同意した。

 

ピケティは、彼の2013年のベストセラーのテーマである不平等と闘う政策を発展させることおよびユーロ圏の民主化案に関して左翼政党と共に働くことになる、とポデモスは月曜日の声明で述べた。

 

経済危機、緊縮政策、高位官職者による汚職に対するフラストレーションが、「私たちはできる」という意味を持つポデモスのような新しいスペインの政党の立ち上げを促した。また、中道政党のシウダダノス(「市民」)は、与党の右翼政党「人民党(訳者注:日本のマスコミでは国民党と記述)」と野党の「社会党」に挑戦している。

 

ポデモスは昨年結成されたが、シウダダノスは二つの伝統的な政党、特に人民党の犠牲によって5月の地方選挙で躍進した。

 

しかしながら最近の世論調査は、経済の回復にともなって新しい政党への支持はピークに達したかもしれないことを示唆している。

 

月の世論調査では、細分化した政治状況の中で人民党が対抗する政党を明らかにリードしているが、単独で政権を獲得するのに必要な過半数にははるかに及ばない。具体的には、人民党が28.2%、社会党が24.9%で両者とも前回の世論調査を上回っており、ポデモスとシウダダノスはそれぞれ15.7%と11.1%と後退した。

【ご案内】民間税調第8回シンポジウム「地方税を考える」

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民間税調第8回シンポジウムを下記の通り行います。

   

    ◆民間税調第8回シンポジウム「地方税を考える」◆
     基調報告:川村栄一・前首都大学東京法科大学院教授

 

・日 時:9月13日(日)午後1時~(4時半頃まで)
・会 場:青山学院大学7号館720教室

    (東京都渋谷区渋谷4-4-25) キャンパスマップ 
・申込み:次のアドレスにお名前、所属をお書きの上申込みください。
        yoshimikimiki@gmail.com
・参加費:無料

 

地方税と言いますと、住民税関係と、事業税(道府県税の中心)と固定資産税・都市計画税(市町村税の中心)、ならびに法定外税があるようです。三木義一教授の『日本の納税 新版』(岩波新書)を事前に読んでくると理解しやすいですね。

11.7シンポジウムのフライヤー(チラシ)です

 11.7『シンポジウム:ピケティ「21世紀の資本」とグローバル・タックス』のフライヤー(チラシ)を作成しました。下記のPDF版をプリントしてご利用ください。

 

◆11.7シンポジウムのフライヤー⇒ PDF

 

 

●左の写真は、8.30反安保法制国会前10(12)万人集会のもようです。この坂をまっすぐ行くと国会正面ですが、たいへんな人混みでなかなか前に進めず

 

11.7シンポジウム:ピケティ「21世紀の資本」とグローバル・タックス

 

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シンポジウムのご案内です。格差・不平等が世界でそして日本で拡大しています。昨年-今年と一大旋風を起こしたトマ・ピケティ教授の「21世紀の資本」は、格差・不平等との闘いの理論的支柱を提起しています。ちょっと落ち着いたところで、あらためてピケティ理論を捉え返してみたいと思います。

 

基調報告は、日本の貧困・格差問題の第一人者である橘木俊詔先生に行っていただきます。また、パネルディスカッションでは各分野の第一線で活躍されている専門家の先生方が問題提起を行います。

 

また民間税制調査会より「民間税制調査会版税制大綱最終答申」も併せて紹介します。

 

世界と日本の格差・不平等を解消し、かつ世界的な貧困化・温暖化等の地球規模課題に対応していくために、そしてこれらに資する税制改革はいかにあるべきか、ともに考えていきましょう。

 

 

 シンポジウム:ピケティ「21世紀の資本」とグローバル・タックス         ~行き詰まる資本主義、日本の格差・貧困、国際課税への提言~

 

◎基調講演: 橘木俊詔 (京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授)

テーマ:「『21世紀の資本』と世界的な資産税の可能性~日本の貧困・格差問題を踏まえて~」(仮題)

 

◎民間税制調査会:「民間税制調査会版税制大綱最終答申」の紹介
    三木義一(民間税調共同代表、青山学院大学教授)

 

◎パネルディスカッション:「グローバル・タックス、グローバル累進的資産税の可能性を探る」

・モデレーター: 三木義一(青山学院大学教授)

・パネリスト: 水野和夫(日本大学教授)「超バブル経済と資本主義の終焉」

        志賀 櫻(弁護士)「タックスヘイブン対策なくしてグローバル課税なし」

        上村雄彦(横浜市立大学教授)「グローバル連帯税と21世紀の資本」

       小西雅子(WWF気候変動・エネルギー・プロジェクト・    ーダー)。。。。。。。。。。。。。。。。。「気候変動とグローバル資金」

 

・日時11月7日(土)13:00~16:30(12:30開場)

・会場:青山学院大学9号館931教室

・定員:150名

・資料代:500円(学生は無料)

・申込み:お名前とご所属、「シンポジウム参加」と明記のうえ、Eメールまた

     はFAXでお申し込みください。

      Eメール:info@isl-forum.jp / Fax:03- 3834-2406

 

 

グローバル累進資産税はなぜ必要か?それは可能か? 日本の現場から、グローバル・タックスの可能性から考えてみる~日本の貧困・格差問題の第一人者を迎えて~

 

フランスの経済学者トマ・ピケティの著書『21 世紀の資本』が世界的にベストセラーとなる中、今年初めに本人が来日し一大旋風をまきおこしました。同書ではグローバルな規模での富(所得)の格差を歴史的に証明するとともに、格差是正に向けての処方箋を提起しています。グローバルな累進資産課税がそれです。

 

ピケティ教授は次のように言う。20世紀の社会(福祉)国家と累進所得税は将来的にも中心的役割を果たすが、「民主主義が21世紀のグローバル化金融資本主義に対するコントロールを取り戻すためには、…資本(注:資産)に対する世界的な累進課税」が必要であり、「それをきわめて高水準の国際金融の透明性と組み合わせなければならない」(邦訳版 539P)、と。

 

つまり、教授は、第2次世界大戦での富の破壊や富裕層への課税強化により格差が縮小し、その傾向が1970年代まで続いたが、21世紀資本主義は再び格差を大きく拡大しつつある、と述べています(これは私たちにとって日々肌で確認するところです)。従って、このままでは民主主義体制を危うくし、ひいては資本主義そのものが立ち行かなくなるという危険性を警告するとともに、教授は税制を通しての資本主義規制を提案しています。

 

一方、途上国にあっては資金の不法流出が急速に増え続け、途上国へ供与された政府開発援助(ODA)の7倍の資金が途上国から流出しているという現実があります(2011年)。

 

とはいえ、資産に対する累進課税は、とくに金融資産への課税は容易ではない。やすやすと国境を越えてタックスヘイブンなどへと移り課税を回避することが可能であるからです。今や同地に秘匿されている金融資産は2010年の段階で少な目に見積って21兆~32兆ドル(約2500兆~3800兆円)に達しています。

  

ところで、日本の格差問題は、米国型の富裕層への所得と資産の集中、つまり「1%対99%」型というよりは、「貧困者や資産ゼロの人々の存在」に負っているというのが橘木教授の所論です。「OECD諸国の中では日本は15%を超す貧困率であり、主要先進国の中ではアメリカに次ぐ第二位の貧困率の高さである」(「トマ・ピケティ著『21世紀の資本』の衝撃」現代思想1月増刊号)。貧困化する高齢者(生活保護世帯の半分を占める)や一人親世帯、そして非正規労働者の増大等、日本では低所得の分厚い層が岩盤のように存在しています。

 

本シンポジウムでは、日本での貧困・格差問題を踏まえつつ、国際課税(気候変動や貧困問題等の地球規模課題の財源としても使用するためのグローバル・タックス)について理解を深め、同時にピケティ教授が提起した「グローバル累進資産課税」の可能性を展望していきます。

 

また民間税制調査会より「民間税制調査会版税制大綱最終答申」も併せて紹介します。

 

 共 催:グローバル連帯税フォーラム/民間税制調査会

 協 賛:(特活)日本リザルツ

 

<橘木俊詔(たちばなき としあき)教授プロフィール>

1943年、兵庫県生まれ。専門は労働経済学、公共経済学。京都大学経済学博士(1998年)。小樽商科大学商学部卒業、大阪大学大学院、ジョンズ・ホプキンス大学大学院修了(Ph.D.取得)。仏米英独にて研究職・教育職、京都大学経済研究所教授、経済企画庁客員主任研究官、日本銀行客員研究員、日本経済学会会長、同志社大学経済学部教授を経て現在、京都女子大学客員教授、京都大学名誉教授。『日本の経済格差』(岩波新書、エコノミスト賞)、『家計からみる日本経済』(岩波新書、石橋湛山賞)、『格差社会』(岩波新書)、『学歴入門』(河出書房新社)、『夫婦格差社会』(共著、中公新書)、『「幸せ」の経済学』(岩波現代全書)など。

 

◆写真は、橘木教授です

【ご案内】8.23民間税調シンポジウム「国際課税を考える」

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第6回民間税調シンポジウムのお知らせです。今回のテーマは「国際課税」です。

 

 

  民間税調第6回シンポジウム「国際課税を考える」

 

  ・日 時:8月23日(日)午後1時~(4時半頃まで)

  ・会 場:青山学院大学7号館720教室

       (東京都渋谷区渋谷4-4-25)

        キャンパスマップ      

  ・申込み:次のアドレスにお名前、所属をお書きの上申込みください。

        yoshimikimiki@gmail.com

  ・参加費:無料

 

日本の税制において、所得税は累進課税であるかと言えば、決してそうではありません。申告納税者の税負担率を見ると、年収1億円までは累進制になっていますが、その収入を越すと逆に税率が下がっていきます。そのからくりは、富裕層の所得の多くを占める株式の譲渡等にかかる税率が20%と低く(2003~2013年までは10%)、かつ分離課課税になっているからです。

 

「これはおかしい。分離ではなく総合課税にしきちっと累進制を取れ」ということに対し、税率が上げると富裕層は海外に所得を持ち出し課税逃れしようとするので、無暗に上げるわけにはいかない、というのが課税当局のみならずエコノミストほかの考えのようです。これを少しでも防止するために、森信茂樹中央大学教授は北欧諸国が取っている「二元的所得税」を紹介し、それに沿った日本版二元的所得税を提言しています(7月31日付日経新聞『経済教室』「戦後70年 税制残された課題(上)公平性と効率性の両立を」)。

 

しかし、森信教授のせっかくの提言も、「高率の税率を金融・資本所得に課して資本・税源が国外に逃げれば、一国の経済成長や福祉に大きな影響を与える。源泉国(所得の発生した国)で広く、確実に課税する方が、経済に良い影響を及ぼす」ということを前提にしている限り、中途半端なものに終わっています。

 

問題は、「資本・税源が国外に逃げ」ることを可能としている今日のタックスヘイブン(オフショア)の存在をどう防いでいくのかだと思います。こうした問題は日本や他の先進国のみならず、実は途上国でも大変な問題になっています。先月開催された第3回(国連)開発資金国際会議(FfD3)で最ももめたのが税制問題、とりわけ途上国側は租税不正(租税回避や犯罪・腐敗)に実効的な新しいルールを策定できる、実行力のある新国連機関の設置を求めて先進国側と激しく対立しました。結果は、新機関設置は否決されてしまいました。

【Thomson Reuters Foundation 】

Development finance talks in Ethiopia close to collapse – charities

 

◆タックスヘイブン(オフショア)に秘匿されている資金…21兆ドル~32兆ドル(タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)調べ)

⇒シンポジウムで基調報告する志賀弁護士は、この数字はまだ過小推計と言っている。ちなみに、世界のGDP総額(2014年)は77兆ドルで、日本のGDPは4.6兆ドル。

 

◆タックスヘイブン(オフショア)問題はこれを放置しておくと、(世界の)民主主義も人権も立ちゆきません。何とかしないとなりません。が、専門的すぎて、一般市民はとっつきにくいが、何ができるだろうか? 

 

例えば、

 

・毎日のようにマスコミ等で報道されているタックスヘイブンに関する情報の収集と分析…分かりやすく解説してくれる専門家がいるとよいですね。

 

・各産業セクターの対外投資の状況を調査する…かならずタックスヘイブンに投資しているはず(世界の対内投資の第3位は香港で第5位は英領ヴァージン諸島)

 

◆グラフは、日経「経済教室」に載った申告納税者の所得税負担率(2013年)

 

第3回開発資金国際会議:LGのイベントと連帯税宣言

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去る7月13日から16日まで、エチオピアのアディスアベバで国連の第3回開発資金国際会議(FfD3)が開催されました。この資金会議は、この9月に国連で採択される予定の「持続可能な開発目標(SDGs)」に向け、その目標を実現するための資金問題について議論する場でした(1)。

 

資金会議の第1回目は2002年3月モンテレーで、第2回目は2008年12月ドーハで開催されました。第1回目は前年に確定されたミレニアム開発目標(MDGs)実現に向けての議論ということで、当時の盛り上がりを反映してブッシュ米大統領、シラク仏大統領(いずれも当時)という世界的な政治リーダーが参加しました。第2回目は、このモンテレー会合のフォローアップ会議でしたが、同年9月に米リーマンショックと続く国際的な金融危機で、盛り上がりに欠けるものでした。そして、第3回目。秋にSDGsの採択、冬に(2020年からの国際的枠組みを決める)COP21開催という「時代の節目」の時であるのもかかわらず、先進国の政治リーダーの参加のない寂しい国際会合でした。

 

さて、この資金会議で「アディスアベバ行動目標(The Addis Ababa Action Agenda)」という成果文書が採択されました(2)。この内容は「…9月に新たな長期開発目標を策定するのを前に、2030年まで年間3兆~4兆ドルが必要とされる開発資金の調達で協力することでこのほど合意した。政府開発援助(ODA)に加え、課税逃れの防止の徹底、政府系金融や民間資金の活用を通じて実現を目指す」(7月18日付日本経済新聞 電子版)というもの(3)。今回目立ったのは、資金需要はぼう大ではあるが、先進国がODAや革新的資金メカニズムによる公的資金を増加させて途上国支援を行うというよりも、民間資金・資本の活用が前面に打ち出されていることです。民間資金・資本はもともと利潤を上げることが目的ですので、とくに貧困国には向かわないでしょう(実際、今日の途上国向け直接投資も大部分は中国やブラジル等新興国に行っている)。

 

ともあれ、資金会議開催中の7月14日、我が国も参加している「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」(常設津事務局・フランス)が「ポスト2015・持続可能な開発アジェンダにおける革新的資金調達」というサイドイベントを開催し(3)、そこで「持続可能な開発に向けた歳入を倍加するための連帯税に関する宣言」を上げました(4)。同宣言は、FfD3に参加している各国政府に対して、またCOP21(パリ)に向けて各国政府に署名を取っていきたい、との意向です。現在、フランス、チリ、韓国が署名し、さらにリーディング・グループに参加している政府が署名していくと思われます。従って、日本政府もぜひこの宣言に署名していただくことを要請していきたいと思います。

 

(1)第3回開発資金国際会議(外務省、全体):

http://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/gic/page22_002123.html 

 

(2)アディスアベバ行動目標(外務省、骨子):

http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000091207.pdf 

 

(3)日経新聞「国連加盟国、開発資金の調達協力で合意 年3~4兆ドル」:

http://www.nikkei.com/article/DGXLASGM17H0E_Y5A710C1NNE000/ 

 

(4)リーディング・グループのサイドイベント(日本語):

 http://isl-forum.jp/wp-content/uploads/2015/07/Side-event-of-the-Leading-Group.pdf

 

(5)リーディング・グループの連帯税宣言(日本語):

 http://isl-forum.jp/wp-content/uploads/2015/07/Declaration-on-Solidarity-Levies.pdf

 

◆左のロゴはリーディング・グループのロゴ、中の写真は外務省のウェッブサイトより

 

【ご案内】7.26民間税調第6回シンポジウム「社会保障と税を考える」

図1 主要国の税・社会保障国民負担率(財務省)図2 所得階級別に見た税・社会保険料

 

民間税制調査会の次のシンポジウムは「社会保障と税を考える」です。以下、「社会保障と税」問題を少々考えてみました。

 

まず、図1の「主要国(日、米、英、独、スウェーデン、仏)の税と社会保障費(社会保険料)による国民負担比率」<税と社会保障費/国民総所得(GNI)>を見て下さい。以下のような特徴があります。

 

・日本:税負担が少なく、(税に比べて)社会保障費負担が多い 
・米国:税も社会保障費も少ない
・独・仏:税も社会保障費も多い
・スウェーデン:税が多く社会保障費が少ない

 

ここで我が国の様々な問題が起きてきます。消費税の逆進性が問題となっていますが、実は社会保障費負担の逆進性の方も大きな問題となっています。

 

え? 社会保障費(社会保険料)って本人負担もあるけれど、会社負担も同じくらいの比率で負担しているし、率で料金を計算するのだから、給料の高い人が負担率が多くなり、累進性となっているのではないの、と思われるかもしれません。

 

最新の労働・社会保険の料率表(⇒これは分かり易い)
http://www.office-i.net/insurancerate.html

 

しかし、問題は会社負担のない労働者です。つまり、非正規雇用の人々や年金生活者です。つまり、現役非正規雇用の支払う年金(国民年金)や健康保険(国民健康保険)等は定額制ですので、収入の少ない人ほど負担率が高く、まったくの逆進性になっています。

 

図2の「所得階級別に見た税・社会保険料(2010年)」を見ますと、下位所得になればなるほど保険料の負担比率は上昇し、消費税の逆進性を上回っています。この時期は消費税は5%でしたから現在はもうちょっと負担率は上がっているかもしれませんが、社会保険料(年金・保険料金等)も上がっていますから、数字的にはそう変化はないと思います。

 

ご承知のように、国民年金の未納率は40%を超えています。その背景には、非正規雇用労働者が増大(2014年で1,962万人、雇用者全体の37.4%)があります。つまり、低所得層が増大し、会社負担のある厚生年金(&共済年金)に入れないため、自己負担だけでしかも定額制の国民年金に入らないとならないが、それが払いきれないという現実があるからです。

 

とすると、解決策として次のこと(方向性)が考えられます。第一に社会保障費にも累進性を導入すること(非正規労働者の保険料をずっと安くするなど)、第二に国民負担のうち社会保障費増ではなく税金を増やす方向性に転換すること(本当の累進所得税や法人への課税ベース拡大、金融取引税などを通して)、第三に税制とは直接結びつきませんが何よりも非正規雇用を縮小させる政策を取ること(が、現在は労働者派遣法が改悪されようとしており完全に逆行しています)、ですね。

 

そんなことを考えましたが、ぜひ民間税調シンポジウムに参加し、大いに議論を巻き起こしていきましょう。

 

 

     民間税調第6回シンポジウム「社会保障と税を考える」

 

・日 時:7月26日(日曜日)午後1時~(4時半頃まで)
・会 場:青山学院大学1号館123教室(東京都渋谷区渋谷4-4-25)
     キャンパスマップhttp://www.aoyama.ac.jp/outline/campus/aoyama.html
・申込み:次のアドレスにお名前、所属をお書きの上申込みください。
        yoshimikimiki@gmail.com
・参加費:無料

 

※各国の国民所得における税収の割合についての論考ですが、トマ・ピケティの
『21世紀の資本』の「第13章 21世紀の社会国家」が面白いですね。結局、税収率の低い国は社会保障・福祉政策を満足に取れないということで、我が国は米国と並んで30~35%のラインにいます。北欧・独仏は50%前後。さらに問題は途上国で10~15%でこれが年々下がっている、「実に由々しき事態」とピケティ教授は述べています。

 

◆図1は財務省のWEBサイトから、図2は内閣府“財政・社会保障の持続可能性に関する「経済分析ワーキング・グループ」”に提出された小塩隆士一橋大学教授の提出資料から、それぞれ取りました。

 

ローマ法王、気候変動問題に関する回勅を公表(6月18日)

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先に「米国からウェビナーのお誘い」という記事を国際連帯税メーリングリストに流しましたが(下記参照)、そこで話題となっていたローマ法王の回状(encyclical 正しくは回勅)が昨日公表されました。で、この回勅ですが、「カトリック教会の公書のひとつ。ローマ教皇から全世界のカトリック教会の司教へあてられるかたちで書かれる文書で、道徳や教えの問題についての教皇の立場を示すものである…」(Wikipediaより)とのこと。

 

ともあれ、気候変動=地球温暖化問題を何とか前進させようとする世界の指導者やNGOにとっては、たいへん心強い声明となったと思います。以下、マスコミ記事で貧困(国)に焦点を当てているところをピックアップしてみました。

 

【毎日新聞】ローマ法王:環境問題で初の「回勅」迅速な温暖化対策促す

 

…また、法王は「富裕国の大量消費で引き起こされた温暖化のしわ寄せを、気温上昇や干ばつに苦しむアフリカなどの貧困地域が受けている」として先進国市民に「使い捨て」の生活様式を改めるよう要請。「回勅」にはカトリック史上初の中南米(アルゼンチン)出身法王として、社会的弱者に寄り添う「貧者の教会」路線が反映されている。…

 

【朝日新聞】ローマ法王、地球温暖化に警鐘 公文書で呼びかけ

 

…法王は、道徳や教義への法王の立場を示す公文書「回勅」の中で、「数々の科学研究が、ここ数十年の地球温暖化の原因は主に人間活動の結果排出される温室効果ガスの濃縮によるものだと示している」と指摘。温室効果ガスを排出し続けて経済成長を遂げた先進国が、貧困の克服や社会の発展を目指す途上国の温暖化対策に技術などで協力するよう呼びかけた。…

 

【wsj】ローマ法王、迅速な地球温暖化対策を訴え

 

…法王はまた、政治的・経済的な強い関心が貧困層や次世代を犠牲にして地球を略奪していると強く非難した。…

 

◆写真左はフランシスコ法王、中は聖フランシスコ教会のあるアッシジ(2008年撮影)

 

 

●国際連帯税メーリングリスト(6月15日付)より

 

米国地球の友のKaren Orensteinより、以下のような招待メールが来ていましたので紹介します。タイトルは、『ウェビナー:気候変動事項に関して―パリ、ヴァチカンそしてウォールストリート税』。

 

このウェビナーとはオンラインセミナーのことのようですが、タイトルにヴァチカンが入っていましたので、気候変動や金融取引税とヴァチカンがどう関係しているのかなど、ちょっと関心がありましたので見てみました。

 

まず原文(下記参照)の“Why”でセミナーの目的が書かれています。以下、訳してみました。

 

…………………………
【翻訳】
貧困国は、これまでも人間としての要件―基礎的な保健サービスや初等学校教育の提供のような―を満たすための資金に苦労しているが、現在、気候変動に起因する異常気象対策に莫大な費用をかけなければならないことに直面しています。

 

気候危機を引き起こすことへの責任ほとんどを負ってないにもかかわらず 、彼らは命と生活を失うことによりそれの支払いをしています 。

 

世界はフランシスコ法王の気候変動に関する回勅を待っており、この12月のパリでの国連サミットでグローバルな気候に関する合意を得る方向にある時、金融取引への小さな税率の課税を行う方法を学ぶウェビナーにどうぞ参加してください。一般的にはロビンフッド税/ウォールストリート税として知られていますが、途上国が気候変動に対処するために必要な資金を提供できます。
<ここまで>
…………………………

 

しかし、なぜフランシスコ法王(ヴァチカン)の名前が出てくるのか、まだ分かりませんでしたが、ずっと下のスピーカーや主催者を見て納得。その中に、Maryknoll Office for Global Concernsとありますが、直訳すると世界的関心のためのメリノール事務所となりますが、この団体は米国のカソリック系教会であるMaryknoll FathersのNGO部門ですね。

 

いずれにせよこのウェビナーは、国際環境NGO、宗教団体NGO、労働組合、シンクタンク、与党民主党の国会議員事務所等の共催で行われるようです(それに仏の環境団体、英のいつもおなじみのデービット・ヒルマン)。米国の運動のダイナミズムが伝わってきます。これに参加したい人は以下の要項でお願いします。

 

◎日時:6月17日(米国)東部夏時間正午

◎連絡:ウェビナー参加希望者は、korenstein@foe.org まで連絡のこと

 

《原文》

You’re invited!

 

What: Webinar -Connecting the climate change dots – Paris, the Vatican and taxing Wall Street

 

When: Wednesday, June 17, noon EDT (9 AM Pacific)

 

Why: Impoverished countries, already struggling to fund unmet human needs — like providing basic health services and primary school education — now also face the enormously expensive fallout of extreme weather caused by climate change. Though bearing little-to-no responsibility for causing the climate crisis, they are already paying for it in lives and livelihoods lost.

 

As the world awaits Pope Francis’s encyclical on climate change and heads toward a global climate agreement at the UN summit in Paris this December, please join us for a webinar to learn how a tiny tax on financial transactions ? popularly known as the Robin Hood Tax/Wall Street Tax — could provide the money developing countries need to address climate change.

 

Speakers:

 

Bill Gallagher, National Nurses United
David Hillman, Stamp Out Poverty (UK)
Alix Mazounie, Climate Action Network France
Chloe Schwabe, Maryknoll Office for Global Concerns
Carol Wayman, Office of Congressman Keith Ellison

 

The webinar will cover:

・The basics ? The “what” and “how” of the financial transactions tax (FTT)

・Trailblazing trends in Europe – How 11 nations are leading the way with the establishment of a the world’s first regional FTT

・U.S. hope – Exciting initiatives in the U.S. Congress

・The climate connection ? What does the FTT have to do with climate change and the major Paris climate summit

 

The webinar will take place via Go-To-Meeting. Please RSVP to korenstein@foe.org  and we will send you a link to join the webinar. (If you’ve already RSVP’d, no need to do so again. We’ll be sending the link out this Thursday, June 11.)

 

Sponsored by Friends of the Earth US, Institute for Policy Studies, and Maryknoll Office for Global Concerns.

 

Karen Orenstein <KOrenstein@foe.org>

【ご案内】6.14民間税調第4回シンポジウム「所得税を考える」

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三木義一青山学院大学教授と水野和夫日本大学教授が共同を代表を務める民間税制調査会の第4回シンポジウムのご案内です。

 

     第4回民間税調シンポジウム「所得税を考える」

 

   ・日 時:6月14日(日曜日)午後1時から~4時半頃まで

   ・会 場:青山学院大学7号館720号教室

        (東京都渋谷区渋谷4-4-25) キャンパスマップ    

   ・申込み:次のアドレスにお名前、所属をお書きの上申込みください。

         yoshimikimiki@gmail.com

   ・参加費:無料

 

日本の大多数のサラリーマン(労働者)の所得税は、“源泉徴収と年末調整”という仕組みとなっており、ほとんど何も考える暇もなく税が徴収されてしまいます。ここから日本人の税制への無関心が形成されてきました。逆に言えば、財務省が巧妙な(モノ言わせぬ)納税システムを作った結果でもあります。日本の所得税について根本的に考えてみましょう(累進課税も含め)。

 

今回、以下の論点を中心に議論するとのことです。

 

1 税率構造

2 所得分類

3 課税単位

4 所得控除か税額控除か

5 年末調整

 

◆写真は、4月26日に開催された前回のシンポジウムの模様です(会場は政策研究大学院大学)