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G20サミット、財相会議で富裕層への最低課税案 フランスも支持

G20ブラジル ロゴ

 

今年のG20サミットはブラジル・リオで11月に開催されますが、それに先立ち外相会議に続いて、2月28-29日と財務相・中央銀行総裁会議が開催されました。会議2日目「ブラジルのアダジ財務相は…『超富裕層を対象にした公平な税金の支払いは国際協力次第だ』と述べ、富裕層への課税強化をG20の枠組みで目指す考えを示し」(下記、日経新聞)、これにフランスなどが支持したとのことです。

 

■ 世界の10億ドル(約1500億円)以上の資産を持つ超富裕層は2756人

 

パリ経済学院のガブリエル・ズックマン教授が参加した調査機関「EUタックス・オブザーバトリー」によると、「10億ドル(約1500億円)以上の資産を持つ富裕層(ビリオネア)の保有資産の2%に相当する最低課税を導入する国際合意が必要だとの考えを示している。その場合、2500億ドルの税収増につながると試算している。世界には2756人のビリオネアがいて、東アジア(838人)や北米(835人)に多い」(同紙)との報告がなされています。

 

■ 日本の「超富裕層ミニマム税」、株式市場では1日6兆円の売買

 

ところで、日本では2025年度より3.3億円超の納税者に対し「超富裕層ミニマム税」が実施されますが、課税対象者は200~300人程度で、税収は300~600億円程度という、とても小粒な税制です。さらに言えば、日本では金を最も貯めこんでいるのは大企業で、2022年度の日本企業の内部留保(利益剰余金)は、554兆7,777億円と過去最高で(2023年厚労省)、23年度はさらに積みあがっているものと思います。むしろここに税を課した方がよいでしょう。

 

ついでに担税力に満ち溢れているのは、金融セクターです。3月1日の東京証券取引場での株式売買高は6兆円を超えました(昨年の東証での1日の売買高は平均で3兆円前後)。しかも、この売買の約70%は外国投資家が占めています。ここに税を課すことができれば、主要に外国人投資家に税を支払ってもらうことになります。

 

■ ブラジルの貧困・飢餓TFとフランス・ケニアの国際課税TFとの連動を

 

話を戻しまして、今度のG20サミットで議長国ブラジルが主要テーマとしているのが貧困と飢餓の削減であり、「飢餓と貧困に対抗する世界連合」の設立です。そのために、“Task Force for a Global Alliance Against Hunger and Poverty”を設置しました。目標の1と2(貧困と飢餓)を含むSDGs達成プロセスが極めて厳しい中にあって時宜にかなった取り組みと言えましょう。

 

そのタスクフォース第1回会合を2月中に行っています。ブラジル側は国際機関を含むすべてのG20メンバーが参加することが見込まれているとしています(注)。日本政府もこのタスクフォースに参加するのでしょうか。

 

ざっとブラジルのG20関係のWebサイトを見ても、このタスクフォースに関し、まだ詳細な報告はなされていません。気になるのは、途上国における「貧困・飢餓」目標を含むSDGs達成のための資金ギャップ(不足額)で、これをどのように埋めていくか、つまり資金調達の議論がどう行われるか、です。その点、新しい国際課税による資金調達という、フランスとケニアが議長国となって立ち上げた“Taskforce on International Taxation to Scale Up Development, Climate, and Nature Action” においても、今回の超富裕層への課税などもテーマになると思われますので、両タスクフォースがうまく連動していくと、「新規かつ追加的で予測可能な(公的資金となる)」国際連帯税の実現の可能性が高まるのではないでしょうか。

 

(注)“It’s about putting the poor in the budget and the rich in income tax,” said Minister Wellington Dias

 

 

【日経新聞】G20、富裕層への最低課税案が浮上 ブラジルや仏が支持

2024年3月1日

 

サンパウロで開いた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、富裕層への課税強化の議論が浮上した。貧富の格差が大きい議長国ブラジルを含む途上国や新興国だけでなく、フランスも賛同している。今後は国際連携の枠組みに向けて具体的な提案を目指していく見通しだ。

 

ブラジルのアダジ財務相は29日、2日目の会議冒頭の演説で「超富裕層を対象にした公平な税金の支払いは国際協力次第だ」と述べ、富裕層への課税…(了)

 

どうする壊滅的状況のSDGs>未来サミットとグローバル・ガバナンス

上川大臣

 

本年の国連の最大のイベントは、9月の総会ハイレベル・ウィーク中に首脳会合として開催される未来サミット(The Summit of the Future)です。サミットの目的を一言でいえば、国際社会における「グローバル・ガバナンスの変革と多国間システムの再活性化」を図ること、それを『未来のための協定』にまとめ上げようというものです。

 

(1)サミットは国連の存在意義を取り戻すために必要な作業

 

実際、新型コロナウイルスによるパンデミックという未曽有の苦闘はあったものの、国連の安全保障理事会は機能していませんし、国際目標であるSDGsは8年目の折り返し時点でも15%しか実現していません。このように国連そのものの存在意義が問われている事態に対し、国際社会が国際協力・協調というグローバルなガバナンスを取り戻すために努力することは時宜にかなっていると言えるでしょう。

 

国連側は『未来のための協定』策定のための作業の第一弾として「ゼロ・ドラフト」(以下、ドラフトと略)を2月2日に公表し、今月12日までに意見書の公募と21日にバーチャル会合を設定しました。当フォーラムもこれに対応しましたので、下記をご覧ください。その前に、「ドラフト」そのものの問題点について、さらに開発資金調達の課題点について考えてみたいと思います。

 

(2)「ドラフト」の章立て>「国際的な平和と安全保障」からはじめるべきだが…

 

まずこの「ドラフト」の構成は次の通りとなっています。
 ・リード(パラ1~18) 
 ・第1章 持続可能な開発と開発のための資金調達(パラ19~45) 
 ・第2章 国際的な平和と安全保障(パラ46~90) 
 ・第3章 科学、技術、技術革新とデジタル分野の協力(パラ91~102) 
 ・第4章 ユースと将来世代(パラ103~115) 
 ・第5章 グローバル・ガバナンスの変革(パラ116~148)

 

    ※未来サミット「ゼロ・ドラフト」はこちら

 

ところで、「グローバル・ガバナンスの変革」を言うならば、現下のロシア/ウクライナとパレスチナ/ガザ戦争についてロシアと米国の拒否権発動で安全保障理事会が機能マヒに陥っていることからして、むしろ「国際的な平和と安全保障」を第1章にした方がよいと思われます。また今回のサミットが国連創設75周年(2020年)を記念することからはじまったことからも、そうあったほうがよいのではないでしょうか。

 

しかし、安保理改革は微妙な問題もあることからして、共同起草者(ドイツとナミビア代表)は第5章で[5.1 安全保障理事会の改革]という中見出しを用意したものの、具体的記述はありません。そのことにつき [共同進行役注:安全保障理事会の改革が依然として未来サミットの優先課題であることは…明らかであり…我々は、2024年6月に、この問題に関する最初の文言を提示する予定である]と述べています。

 

(3)なぜ第1章に「開発のための資金調達」か>説得力ある説明なし

 

「ドラフト」を読んで、第1章に持続可能な開発問題を持ってくることを了としつつも、なぜ続けて資金調達問題を持ってきたのか、このことの説明が明確ではありません。文章的には、リード(前書き)部分で「…極度の貧困を含め、あらゆる形態と次元の貧困を根絶することが、世界最大の課題であり、持続可能な開発にとって不可欠な要件であることを再確認する」とは述べているものの、その根絶に向けなぜ改善できていないのか(結果、SDGs達成率がわずか15%)の原因は述べていません。

 

改善できていない理由を端的言いますと、途上国での貧困・飢餓が増大しているからであり、それを克服するための主な手段としての支援資金が圧倒的に足りていないからです。ですから、「ドラフト」で資金調達問題を取り上げなければならなかったのだと思われます。

 

このことに対し、説得力のある説明がないまま「私たちは、持続可能な開発目標の資金ギャップの推定値が増加していることに深い懸念を抱いており…開発資金の量と質において一歩踏み込んだ変化が必要であることを認識し」と述べるだけで、これでは「世界最大の課題である」という割には何の切迫感も危機感も感じられません。また、開発資金の踏み込みも、「私たちは、援助国に対し、政府開発援助の規模を拡大し、そのコミットメントを履行するよう促す」と述べるのみです。資金ギャップがどのくらいで、政府開発援助(つまり、ODA)の現状がどうで、それをどう拡大していくのかなどは述べられていません。

 

ところで、先進・ドナー国といえども新型コロナ問題等への莫大な支出により財政的余力は乏しく、政府開発援助を飛躍的に増加させるには厳しいのが現状です。従って、国際社会は盛んに民間資金の活用や世界銀行等IFIs改革による資金捻出を唱えています。しかし、途上国や気候変動に脆弱な国は、公的資金の拡大を望んでおり、それがODAでは厳しいのであれば、新規かつ追加的で予測可能な資金、つまり国際連帯税のような革新的資金調達を望んでいます。

 

このような観点から、当フォーラムとして「ドラフト」に関する意見書を提出しました。

 

(4)「ドラフト」への意見書>SDGs資金ギャップを公的資金で埋めるために

 

細かいところもありますがそれは省略して、主要なコメント部分を日本語でお知らせします。

 

1)「Chapeau」の10パラグラフに続けて、次の文章を入れる
――我々は貧困の根絶が世界最大の課題であることに鑑み、持続可能な開発目標(SDGs)の達成年の中間点にあたる2023年時点で、その達成率が15%でしかないという現実に危機感を抱き、その原因が開発途上国におけるSDGs達成のための資金ギャップにあることに留意する。

 

2)「Sustainable development and financing for development」の12パラグラフに続けて、次の文章を入れる。
――我々は、開発途上国におけるSDGs達成のための資金ギャップが、COVIT-19以前は年間2.5兆米ドルと予測していたが、COVIT-19によるパンデミック、気候危機、ウクライナ戦争による食料危機とインフレーション、並びに先進国の高金利政策によって4兆米ドルにも跳ね上がっていることを認識する(UNCTAD 2023)。一方で開発援助国側(OECD・DAC)のODA総額は年間2110億ドルであり(OECD 2022)であり、その差が著しいことに留意する。

 

3)「1. Sustainable development and financing for development」の39パラグラフに続けて、次の文章を入れる。
――我々は事務総長提案を実現するためにも、2023年のCOP28 で創設された「The Taskforce on International Taxation to Scale Up Development, Climate, and Nature Action」(議長国:フランスとケニア)を支援する。同時に各国に対しタスクフォース参加を呼びかける。

 

4)「1. Sustainable development and financing for development」の41パラグラフに続けて、次の文章を入れる。
――我々は政府開発援助だけではグローバル公共財を賄えないことを認識する。年間4兆米ドルというSDGs資金ギャップを公的資金で埋めるために、新規かつ追加的で予測可能な資金としての国際連帯税などの革新的資金メカニズムの創設に同意する。(了)

 

※写真は、昨年9月21日、国連・未来サミット閣僚級会合で演説する上川外務大臣

 

多極化時代のグローバル税制の展望

未来サミットのロゴ

 

 2024年に入り、ウクライナ戦争、パレスチナ戦争の先行きが見通せないなかで、米国ではトランプ再選の可能性が高くなっている。世界は分断と混迷を深めているが、長期的にはグローバルサウスの動向に注目すべきだろう。1月22日の日経新聞1面には、「サウス台頭『旧秩序』突く、米中『世界二分論』に異議」という見出しの記事が掲載された。グローバルサウスは経済力を増大させ、発言力を高めつつある。以下、グローバル税制をめぐる最近の動向に即して、サウス台頭の展望を記してみたい。

 

国際連帯税の再構築

 

 国際連帯税は、2000年の国連ミレニアム開発目標(MDGs)の資金調達を目的にしてフランス主導でスタートした。その要件は、▼国境を越える経済活動に課税、▼税収は国際機関が管理、 ▼使途はグローバル課題に充当というもので、2006年の航空券連帯税が第1号となった。国際線を利用する旅客に少額課税、税収は国際機関UNITAIDが管理し、貧困国への医薬品供給にあてるという方式で、現在も継続している。

 

 これに続いて2011年、EUで金融取引税が提起された。この税は、国境を越える金融取引(株式、債券、デリバティブ等)に低率課税し、税収は各国政府とEUが管理・使用するもので、課税対象が国際連帯税に近いといえるが、金融業界の反対が強く現在まで実現をみていない。

 

 そうしたなかで、気候危機に対する資金調達策として新たな取組が開始された。2022年のCOP27(エジプト)では、グローバルサウスの気候危機に対処するための「損失と損害基金」設置が合意された。その具体化に向けて、様々な試みが追求されていく。

 

 2023年6月、フランス、バルバドスの呼びかけで、「新グローバル金融協定サミット」がパリで開催され、国際課税を通じた資金調達を検討するタスクフォース設置が提起された。9月、ケニアでのアフリカ気候サミットを経て、11~12月、COP28(アラブ首長国連邦)が開かれ、「損失と損害基金」の制度の大枠が決定された。財源には公的資金、民間資金、革新的資金源等が広くあげられ、その一環として「開発、気候、自然の資金調達のための国際課税に関するタスクフォース」の立ち上げに至った。そこでは炭素税、海上・航空輸送税、金融取引税などが扱われるが、この間の経緯のなかにグローバルサウスの発言力の増大を確認することができる。

 

多国籍企業課税改革の紆余曲折

 

 多国籍企業への課税は本国、進出先のいずれでなされるべきか、二重課税問題の扱いについては100年の歴史がある。第二次大戦後はOECDと国連で取り組みが続いたが、ルール形成の主導権は先進国クラブであるOECDが握ってきた。

 

 21世紀に入り、グローバル化、デジタル化の進展とともに、タックスヘイブン等を利用する多国籍企業の課税回避(二重非課税)が横行する事態となった。2012年、OECDはG20との共同作業として、BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げ、2015年に15項目からなる行動計画を策定した。約40カ国が参加したBEPSをさらに発展させ、140カ国参加の交渉を続けた結果、2021年10月に2本柱からなる新たな課税ルールで合意に達した《第1の柱は、売上高200億ユーロ超、利益率10%超のグローバル企業(約100社)を対象に、10%を超える利潤のうち25%について市場国(消費者のいる国)に課税権を配分、第2の柱は法人税の最低税率を各国共通して15%に設定》。

 

 当初の予定では、2022年に多国間条約、法改正を成立させ、2023年実施を目指したが、多国間条約の締結は現時点でなお実現していない。特に米国議会(共和党)が反対の意向であり、米国が条約に批准しないとなれば、この合意は不成立に終わるかもしれない。

 

国連主導のルール形成へ

 

 2本柱の新ルールについては、先進国に有利な決め方だとしてグローバルサウスから反発の声が上がっている。最低税率が低すぎるというNGOからの批判もある。アフリカ連合などがルール形成の場をOECDから国連に移すべきだと声を上げてきた結果、国連事務総長は2021年7月、25カ国の専門家からなる国連租税委員会の設置を決めた(期間は2021~2025年)。

 

 また2022年11月の国連総会では、国際課税ルールは国連の場で取り組むべきとの決議がなされた。米国は修正を試みたが失敗に終わっている。さらに2023年11月15日、改めて国連総会で「包摂的で効果的な国際課税協力の推進」に関する議題が取り上げられ、アフリカ連合提案が賛成125、反対48、棄権9で採択された。イギリスは修正提案を提出したが、賛成55、反対107、棄権16で否決された。日本は前者に反対、後者に賛成だった。ここにはグローバルサウスが多数派、G7が少数派になった現実が示されている。

 

 2024年9月には国連未来サミットが開かれる。この決議を受けて、2024年夏までに一定の案をまとめるべく、20カ国ほどの政府間協議体が組織される。その先はかなり長い道のりになると思われるが、世界が多極化へと進んでいくなかで、多国籍企業課税、さらには超富裕層へのグローバル課税の具体化が進むことになるのだろう。

 

金子文夫(横浜市立大学名誉教授)・記

 

「NPO現代の理論・社会フォーラム経済分析研究会」の“POLITICAL ECONOMY No.254” (2024年2月1日発行)より転載   

 

※上記ロゴは、国連未来サミットのものです。

多極化時代のグローバル税制の展望

未来サミットのロゴ

 

 2024年に入り、ウクライナ戦争、パレスチナ戦争の先行きが見通せないなかで、米国ではトランプ再選の可能性が高くなっている。世界は分断と混迷を深めているが、長期的にはグローバルサウスの動向に注目すべきだろう。1月22日の日経新聞1面には、「サウス台頭『旧秩序』突く、米中『世界二分論』に異議」という見出しの記事が掲載された。グローバルサウスは経済力を増大させ、発言力を高めつつある。以下、グローバル税制をめぐる最近の動向に即して、サウス台頭の展望を記してみたい。

 

国際連帯税の再構築

 

 国際連帯税は、2000年の国連ミレニアム開発目標(MDGs)の資金調達を目的にしてフランス主導でスタートした。その要件は、▼国境を越える経済活動に課税、▼税収は国際機関が管理、 ▼使途はグローバル課題に充当というもので、2006年の航空券連帯税が第1号となった。国際線を利用する旅客に少額課税、税収は国際機関UNITAIDが管理し、貧困国への医薬品供給にあてるという方式で、現在も継続している。

 

 これに続いて2011年、EUで金融取引税が提起された。この税は、国境を越える金融取引(株式、債券、デリバティブ等)に低率課税し、税収は各国政府とEUが管理・使用するもので、課税対象が国際連帯税に近いといえるが、金融業界の反対が強く現在まで実現をみていない。

 

 そうしたなかで、気候危機に対する資金調達策として新たな取組が開始された。2022年のCOP27(エジプト)では、グローバルサウスの気候危機に対処するための「損失と損害基金」設置が合意された。その具体化に向けて、様々な試みが追求されていく。

 

 2023年6月、フランス、バルバドスの呼びかけで、「新グローバル金融協定サミット」がパリで開催され、国際課税を通じた資金調達を検討するタスクフォース設置が提起された。9月、ケニアでのアフリカ気候サミットを経て、11~12月、COP28(アラブ首長国連邦)が開かれ、「損失と損害基金」の制度の大枠が決定された。財源には公的資金、民間資金、革新的資金源等が広くあげられ、その一環として「開発、気候、自然の資金調達のための国際課税に関するタスクフォース」の立ち上げに至った。そこでは炭素税、海上・航空輸送税、金融取引税などが扱われるが、この間の経緯のなかにグローバルサウスの発言力の増大を確認することができる。

 

多国籍企業課税改革の紆余曲折

 

 多国籍企業への課税は本国、進出先のいずれでなされるべきか、二重課税問題の扱いについては100年の歴史がある。第二次大戦後はOECDと国連で取り組みが続いたが、ルール形成の主導権は先進国クラブであるOECDが握ってきた。

 

 21世紀に入り、グローバル化、デジタル化の進展とともに、タックスヘイブン等を利用する多国籍企業の課税回避(二重非課税)が横行する事態となった。2012年、OECDはG20との共同作業として、BEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトを立ち上げ、2015年に15項目からなる行動計画を策定した。約40カ国が参加したBEPSをさらに発展させ、140カ国参加の交渉を続けた結果、2021年10月に2本柱からなる新たな課税ルールで合意に達した《第1の柱は、売上高200億ユーロ超、利益率10%超のグローバル企業(約100社)を対象に、10%を超える利潤のうち25%について市場国(消費者のいる国)に課税権を配分、第2の柱は法人税の最低税率を各国共通して15%に設定》。

 

 当初の予定では、2022年に多国間条約、法改正を成立させ、2023年実施を目指したが、多国間条約の締結は現時点でなお実現していない。特に米国議会(共和党)が反対の意向であり、米国が条約に批准しないとなれば、この合意は不成立に終わるかもしれない。

 

国連主導のルール形成へ

 

 2本柱の新ルールについては、先進国に有利な決め方だとしてグローバルサウスから反発の声が上がっている。最低税率が低すぎるというNGOからの批判もある。アフリカ連合などがルール形成の場をOECDから国連に移すべきだと声を上げてきた結果、国連事務総長は2021年7月、25カ国の専門家からなる国連租税委員会の設置を決めた(期間は2021~2025年)。

 

 また2022年11月の国連総会では、国際課税ルールは国連の場で取り組むべきとの決議がなされた。米国は修正を試みたが失敗に終わっている。さらに2023年11月22日、改めて国連総会で「包摂的で効果的な国際課税協力の推進」に関する議題が取り上げられ、アフリカ連合提案が賛成125、反対48、棄権9で採択された。イギリスは修正提案を提出したが、賛成55、反対107、棄権16で否決された。日本は前者に反対、後者に賛成だった。ここにはグローバルサウスが多数派、G7が少数派になった現実が示されている。

 

 2024年9月には国連未来サミットが開かれる。この決議を受けて、2024年夏までに一定の案をまとめるべく、20カ国ほどの政府間協議体が組織される。その先はかなり長い道のりになると思われるが、世界が多極化へと進んでいくなかで、多国籍企業課税、さらには超富裕層へのグローバル課税の具体化が進むことになるのだろう。

 

金子文夫(横浜市立大学名誉教授)・記

 

「NPO現代の理論・社会フォーラム経済分析研究会」の“POLITICAL ECONOMY No.254” (2024年2月1日発行)より転載   

 

※上記ロゴは、国連未来サミットのものです。     

                                                                                                      

TIME誌に「開発・気候のための国際課税タスクフォース」紹介される

ローレンス・トゥービアナ カナダ大臣 

 

1月16日付「TIME誌」電子版に、「2024 年は飛躍的な気候変動アクションの年になるに違いない」と題した小論が掲載され、その中で「開発・気候のための国際課税タスクフォース」についても述べていますので、紹介します。

 

小論の執筆者は、ローレンス・トゥビアナさんとキャサリン・マッケナさん。前者は、この間何回か紹介していますように、欧州気候財団の CEO であり、フランスの気候変動大使および COP21 特別代表であり、画期的なパリ協定の主要な立案者であり、かつ今回のタスクフォース設立の立役者でもあります。

 

後者のマッケナさんは、2015 年から 2019 年までカナダの元環境・気候変動大臣、2019 年から 2021 年までインフラ・コミュニティ大臣を務めました。現在、国連ネット-ゼロの議長などを務めています。

(写真は、左がトゥビアナさん、右がマッケナさん)

 

 

2024 年は飛躍的な気候変動アクションの年になるに違いない

    ローレンス・トゥビアナ、キャサリン・マッケナ

 

2024 年、あるいは T マイナス 6 (注:気候変動の1.5度リミットまで6年を切る)へようこそ。気候変動との闘いにおける重要な節目である 2030 年が、今やはっきりと視界に入ってきました。

 

しかし、世界はまだ、あるべき方向に進んでいません。

 

パリ協定で定められた気温上昇を摂氏1.5度以内に抑えるには、早急に軌道修正が必要だ。しかし、現在の(注:各国の現在の公約の実施による)摂氏 2.5 度から 2.9 度という軌道は、破滅的な気候変動の可能性を確実なものにしています。

 

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、「今日の(温室効果ガス)排出量ギャップはむしろ排出量の峡谷に似ている」と簡潔に述べた。この峡谷を閉じるには、2024 年を飛躍的な気候変動対策の年にする必要があります。

 

これは、気候変動の主な原因である化石燃料への依存を即時かつ急速に削減することによってのみ可能なことです。

 

2024 年に、私たちは化石燃料時代が終わりを迎えたことを明確にし、次の 5つの飛躍的な行動に焦点を当てる必要があります。

 

1.IEA のネット・ゼロの道筋を実行する …省略

 

2.化石燃料の段階的廃止 …省略…

 

3.グローバル・サウスへの融資の拡大

化石燃料を段階的に廃止するには、再生可能エネルギーシステムを構築し、グローバル・サウス諸国が公平かつ公正な移行を達成できるよう支援するために利用可能な資本を大幅に拡大する必要があります。飛躍的な行動をとるためには、数十億ではなく、兆単位の資本が必要です。これが、アゼルバイジャンで開催されるCOP29を含め、今年は金融が焦点でなければならない理由であり、気候繁栄と債務の持続可能性に向けて世界的な金融アーキテクチャの方向性を直ちに転換し、民間資本を活用するためのリスクを軽減するブレンデッド・ファイナンスモデルが不可欠である理由である。

 

また、気候変動資金の新たな財源も必要です。これは、気候変動の原因となっていることが最も少ないにもかかわらず、最も高い代償を払っている気候変動脆弱国にとって、特に重要です。フランス、ケニア、バルバドスは、海運、航空、化石燃料取引、金融取引、極度の富に対する課税を検討する、開発と気候変動対策のための課税に関する新たな国際タスクフォースの立ち上げを主導している。これらの措置は、切実に必要とされている資金を提供し、気候変動の最も責任のある人々が最終的に公平な負担を確実に提供できるようにするのに役立つでしょう。

 

4.国と地方のネット・ゼロ行動を連携させる …省略…

 

5.人々に力を与える

私たちは2024年を、広報ではなく国民の声が普及する年にしなければなりません。今後 12 か月間で少なくとも 67 回の国政選挙が行われます。私たちは国民に、より野心的な気候政策に取り組む政党を支持し、投票してもらう必要があります。

 

両親や祖父母とともに行進する若者たちや、法廷で政府や化石燃料産業に異議を唱える市民グループの行動が重要であることに疑いの余地はありません。宗教団体が化石燃料投資からの撤退を表明し、若者が有望な雇用主に対して気候変動リーダーであることを要求することが重要なのです。また、消費者が信頼できる気候変動対策に取り組んでいると知っている企業から購入することや、先住民が伝統的な土地を守るために闘うことを支援することも重要です。2024年、私たちは変革のためにあらゆる場所で活動する人々への支援を倍増させる必要があります。

 

これは特に女性に当てはまります。残念なCOP28の家族写真に写っているような女性首脳の不足にもかかわらず、世界的には女性が気候変動対策をリードしています。私たちは、より多くの女性と女児がコミュニティで主導権を握れるよう支援し、世界が必要としている女性主導の気候変動解決策を拡大するために、資金、指導、技能訓練を動員する必要があります。

 

新年は、自分自身を見つめ直し、より良くやっていこうと誓う時です。しかし、決意を新たにする時期は終わりました。これは、私たち全員が参加しなければならない戦いなのです。新年には新たな希望が約束されています。この新しい年を1日も無駄にしないようにしましょう。

 

◎原文はこちら:

2024 Must Be the Year for Exponential Climate Action

 

※左の写真は、1930年3月31日付TIME誌の表紙を飾ったマハトマ・ガンディーとのことです。

 

【info:求む、グローバル連帯税フォーラムの会員】

当フォーラムの活動は主に会員の会費で賄っています。個人会員は一口3,000円/年、団体会員は一口10,000円/年です。会員になってもよいという個人・団体は、お名前(団体名)と所属(役職)をお書きの上、gtaxftt@gmail.com まで連絡ください。よろしくお願いします。 

  

「温暖化対策は国際連帯税で」>1月4日付日経新聞「私見/卓見」コーナー

climate&ISL5

 

1月4日付の日本経済新聞の「私見/卓見」欄で、当フォーラム理事の宮越氏の論考文が掲載されましたので紹介します。

 

【追加的な解説】昨年のCOP28の成果文書では、当初案の化石燃料の「段階的廃止」ではなく「脱却」という妥協的内容で合意されましたが、これは中東産油国からの強い反対があったためと言われています。しかし、反対したのは新興国を含む中所得の途上国も反対したようです。

 

その背景は、化石燃料からの脱却には多額の資金が必要で、「石炭や石油、ガスからの収入を使って、より環境に優しいエネルギーへの移行費用を確保する必要がある」(12月14日付 BBCニュース電子版)という事情があります。低所得・脆弱途上国の適応資金や損失・損害資金なども含め、資金需要は巨額です。いよいよグローバルタックス=国際連帯税の出番になってきています。

 

 

温暖化対策は国際連帯税で 宮越太郎氏

グローバル連帯税フォーラム 理事

2024年1月4日

 

 世界気象機関(WMO)は2023年の世界平均気温が記録のある1850年以降で過去最高になる見通しだと発表した。ここまで追い込まれた状況の中で、実効性のある政策が取られなければ、私たちには今よりさらに暗い未来が待っているだろう。

 

 第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では 開発、気候、自然の資金調達のための国際課税に関するタスクフォースの発足が発表された。この目的は最も温暖化ガスを排出しながらも低税率となっている経済セクターへの課税、例えば炭素税、金融取引税、海上・航空輸送税などのグローバルタックス(国際連帯税)に基づく革新的な資金調達手段を特定して、資金を動員することである。

 

 民間資金は最終的には利益の出る事業しか対象にできないため、誰ひとり取り残さない温暖化対策を目指すのであれば、公的資金であるグローバルタックスの導入が有効ではないだろうか。

 

 グローバルタックスとは、従来の国家主権に専属した課税では対応できない、グローバルな資産や国境を超える活動に課税し、負の活動を抑制しながら、税収を地球規模課題の解決に充てる税制のことだ。

 

 現在、気候変動やパンデミック、紛争、食糧危機などの地球規模課題は日本の国益にも直接影響を与えている。従来、途上国が中心に語られがちであった世界の課題は地球規模の課題になった。こうした国境を軽々越えて影響しあう世界において、グローバルタックスは国際社会の課題に対峙できる処方箋だ。

…中略…

 地球温暖化の損失と損害からの復旧にかかるコストは2030年までに1500~3000億ドルにのぼるという。日本を含め待ったなしの温暖化対策を打ち出さなければならない国際社会にとって、今こそグローバルタックスの導入が必要である。

 

※新聞の掲載記事はこちらから

「温暖化対策は国際連帯税で」>日経新聞「私見/卓見」コーナー

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本日(1月4日)の日本経済新聞の「私見/卓見」コーナーで、当フォーラム理事の宮越氏の論考文が掲載されましたので紹介します。

 

【追加的な解説】昨年のCOP28の成果文書では、当初案の化石燃料の「段階的廃止」ではなく「脱却」という妥協的内容で合意されましたが、これは中東産油国からの強い反対があったためと言われています。しかし、反対したのは新興国を含む中所得の途上国も反対したようです。

 

その背景は、化石燃料からの脱却には多額の資金が必要で、「石炭や石油、ガスからの収入を使って、より環境に優しいエネルギーへの移行費用を確保する必要がある」(12月14日付 BBCニュース電子版)という事情があります。低所得・脆弱途上国の適応資金や損失・損害資金なども含め、資金需要は巨額です。いよいよグローバルタックス=国際連帯税の出番になってきています。

 

 

温暖化対策は国際連帯税で 宮越太郎氏

グローバル連帯税フォーラム 理事

2024年1月4日

 

 世界気象機関(WMO)は2023年の世界平均気温が記録のある1850年以降で過去最高になる見通しだと発表した。ここまで追い込まれた状況の中で、実効性のある政策が取られなければ、私たちには今よりさらに暗い未来が待っているだろう。

 

 第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)では 開発、気候、自然の資金調達のための国際課税に関するタスクフォースの発足が発表された。この目的は最も温暖化ガスを排出しながらも低税率となっている経済セクターへの課税、例えば炭素税、金融取引税、海上・航空輸送税などのグローバルタックス(国際連帯税)に基づく革新的な資金調達手段を特定して、資金を動員することである。

 

 民間資金は最終的には利益の出る事業しか対象にできないため、誰ひとり取り残さない温暖化対策を目指すのであれば、公的資金であるグローバルタックスの導入が有効ではないだろうか。

 

 グローバルタックスとは、従来の国家主権に専属した課税では対応できない、グローバルな資産や国境を超える活動に課税し、負の活動を抑制しながら、税収を地球規模課題の解決に充てる税制のことだ。

 

 現在、気候変動やパンデミック、紛争、食糧危機などの地球規模課題は日本の国益にも直接影響を与えている。従来、途上国が中心に語られがちであった世界の課題は地球規模の課題になった。こうした国境を軽々越えて影響しあう世界において、グローバルタックスは国際社会の課題に対峙できる処方箋だ。

 

…以下、省略…

 

記事掲載のURLはこちらです

 

 

 

 

 

 

 

 

 

国際課税に関するタスクフォース>ウール政務参事官(仏大使館)に聞く

仏大使館と③    仏大使館と②

 

去る12月22日、COP28でフランスなどが立ち上げた「開発・気候のための国際課税に関するタスクフォース」(以下TF)について、国際連帯税創設を求める議員連盟(以下議連)事務局がフランス大使館のマリー・ウール政務参事官を招いてヒアリングを行いました。当フォーラムも参加させてもらいましたので、ヒアリングのもようを報告します。

 

◎議連事務局からは、石橋通宏幹事長(参議院議員)、田島麻衣子事務局長(参議院議員)が出席。

 

【マリー・ウール政務参事官からの報告(見出しは当フォーラム)

 

 ●2023年6月のパリサミットでTFが提案され、COP28の場で立ち上げられた

 

背景として、22年のCOP27での議論を踏まえ、途上国が開発と気候のために闘うにあたり、どちらかを選ばなければならない国があってはならないということで、本年6月パリで新グローバル金融協定サミットを開催し、より多くの資金を投入する金融刺激策を議論した。日本からは林芳正外相(当時)に参加してもらった。そこでは国際金融機関(IFIs)改革や民間資金の動員、そして国際課税について議論され、後者についてTF設置の必要性が提案された。

 

また、9月に開催された「第1回アフリカ気候サミット」(共催:アフリカ連合とケニア)でも上記内容が提案され、従って、フランスのマクロン大統領とケニアのルト大統領の両者によりTFの設立が呼びかけられた。

 

TFの目的と参加国

<目的>

 ①現在の公的資金に加え、新規で追加的な、かつ予測可能な財源を拡大する

 ②汚染者に価格シグナルを発し、温室効果ガスの排出量を抑制する

 ③国際連帯の精神に基づき、環境コストをより衡平に負担する

なお、国際金融機関(IFIs)の改革等はTFで議論せず(OECD内で推進)

 

<現在の参加予定国>

フランス、ケニヤ、スペイン、バルバドス、アンティグアバーブーダ、オブザーバーとしてアフリカ連合と欧州委員会

 

●TFの制度設計とタイムテーブル

<TFの機能>

 ①参加国の首脳級会合:年に1回開催

 ②運営委員会(参加国のシェルパ) :6週間に1回開催

 ③専門家諮問委員会

 ④事務局:欧州気候基金(ECF)とアフリカの機関

 

<タイムテーブル>

まず24年1月に第1回運営委員会を開催し、諮問委員会の専門家を指名する。詳細はこれからで、COP30を目途に内容を具体化し、実施については国際機関で協議する。

 

【質 疑】

*<議連>TF参加を各国政府に呼び掛けているのか?日本政府には?

⇒<ウール氏>日本を含めG7、G20政府には参加要請済み。日本政府からはまだ前向きの回答は得ていない。

 

*日本から専門家を推薦することは可能か?以前、2010年の仏クシュネル外相時、(国際連帯税のための)金融取引税に関する専門家委員会が組織され、日本からも当時千葉大学の上村雄彦さんが加わっている(注)。

⇒それは可能だ。

 

*議連として、上川外務大臣に「SDGs達成のための新しい資金調達を考える有識者懇談会」設置を要求することになっているが、併せて日本政府がTFに参加するよう強力に要請していきたい。

⇒それはたいへんありがたい。ぜひよろしくお願いしたい。

 

(注)「国際的な金融取引と開発に関するタスクフォース」専門家委員会報告書

 

◎TFの正式名: The Taskforce on International Taxation to Scale Up Development, Climate, and Nature Action  

 

◎TF設立に関する報道:

【ft】Climate finance: Perhaps the money is there, after all

 

【lemonde】COP28: Fossil fuel taxation at the heart of the battle to finance climate transition

 

【CHNews】France, Kenya set to launch Cop28 coalition for global taxes to fund climate action

 

グローバル連帯税フォーラムへの冬季資金支援のお願い  

年の瀬も押し迫ってまいりましたが、みなさまにおかれましてはお元気でお過ごしのことと存じます。今年も何かとたいへんな1年でしたが、グローバル連帯税フォーラムとしてはここ2年ほどの活動停滞を何とか打ち破り、飛躍の2024年を迎えようとしています。つきましては、来年の私たちの活動を支えていただけるよう、資金支援(カンパ)を訴えるものです。

 

本年の当フォーラムの活動ですが、先日「国際連帯税創設を求める議員連盟」の総会が2年8か月ぶりに開催され、今後の方針を決めることができました。やはり国会議員さんたちが動いてくれると官庁の対応が断然違います。当日外務省、財務省、国交省(観光庁)の方々が参加してくれました。

 

また、国際的にもフランスが軸となり、先のCOP28で「開発・気候・自然のための国際税タスクフォース」が立ち上がり、同 組織は他の政府等の参加を呼び掛けています。従って、日本政府もぜひ参加していただきたいと思うところですが、フランス政府としてそうした呼びかけを行っているのかどうかにつき、近々駐日フランス大使館側とのヒアリングを持つ予定です。

 

このようにようやく国際連帯税実現に向けての環境が整いつつあります。残念ながら今年は次年度の税制改正に結び付きませんが、来年にはフォーラムの活動をいっそ活発化させ、次々年度の税制改正にぜひとも結び付け、連帯税が実現できるよう頑張っていきたいと思います。そのための資金支援(カンパ)の方ぜひよろしくお願いします。なお、会員になっていただき会費を納入するという形でも結構です(会費は、個人一口3000円/年、団体一口10000円/年 となります)。

 

※資金支援、会費納入のお振り込み先は次の通りです。振り込みにあたっては、資金支援(カンパ)か会費かをお書きの上、gtaxftt@gmail.com までご一報くださると助かります。

 

【お振り込み先】

■銀行口座: みずほ銀行 築地支店(支店番号015)

       普通 2698313

■口座名義: 国際連帯税フォーラム

 

※写真は、ちょうど10年前のクリスチャン・マセ駐日フランス大使をお招きしての国際連帯税勉強会(2013年12月)

 

 

「結局資金はある」国際課税タスクフォースに関するFT記事

この間「開発・気候・自然のための国際課税タスクフォース(TF)」立ち上げをお知らせしていますが、これにつきフィナンシャル・タイムズ(FT)電子版がたいへん参考になる記事を配信していますので、紹介します。

 

­【FT電子版】気候変動資金:結局、資金はあるのだ

新組織は化石燃料や他のセクターへの課税を検討する

Simon Mundy and Patrick Temple-West DECEMBER 7 2023

 

ここドバイで開催されたCOP28で議論された、気候変動対策に必要な金額に関する数字の一部は、信じられないほど膨大であるように思えた。たとえば、発展途上国の気候変動への適応に必要な資金は、年間約3,000億ドルです。

 

しかし、他に大きなものがあることをご存知ですか? 石油・ガス業界の利益です。この金額は昨年4 兆ドルに達し、適応費用の10倍以上を賄うのに十分な額です。

 

以下に私が書いているように、化石燃料やその他の経済分野に的を絞った税金を利用して、気候変動資金のギャップを埋めるための潜在的に強力かつ洗練されたアプローチの機運が高まっています。

 

…中略…

 

2015年のパリ協定の主要な立案者であるフランスの経済学者、ローレンス・トゥビアナ氏は昨日、新たに「開発、気候、自然への取り組みを拡大するための国際課税に関するタスクフォース」立ち上げの記者会見を行いました。

 

トゥビアナ氏は、よりスマートな名称を検討中とのことだが、この新しい取り組みにはすでにアンティグア・バーブーダ、バルバドス、フランス、ケニア、スペインから正式な政府の承認が得られており、欧州委員会もオブザーバーとして参加している。

 

その目的は、発展途上国におけるグリーンで気候変動に強い投資に資金調達のために、対象を絞った国際課税を主張することです。このアジェンダは学者や活動家の間で長年渦巻いており、これまでのところ経済的影響は限定的です。

 

「これは完全なタブーだった議論を始めるというものです」とトゥビアナ氏は語った。彼女は、化石燃料補助金が年間7兆ドルに達し、石油・ガス産業の利益4兆ドルの利益を支えている一方で、気候変動によって「多くの国々で莫大な富と福祉が失われ、その(喪失を賄う)ための資金がない」という世界の不条理を強調しました。

 

この新しいイニシアティブでは、化石燃料会社、航空、金融取引など、さまざまな産業や経済活動に対する税金から気候変動資金を調達する可能性を検討します。これは、9 月にナイロビで開催されたアフリカ気候サミットでのアフリカの政府首脳による画期的な声明に続くもので、「化石燃料取引、海上輸送、航空に対する炭素税を含む世界的な炭素税体制、さらに世界的な金融取引税によって強化される可能性もある」と呼びかけています。

 

気候変動関連の国際援助への支出を増やそうとしている富裕国政府が直面する国内の政治的障害について考慮しなければなりません。直感的に言って、先進国の低・中所得者層は生活費の上昇に神経をとがらせており、新たな税金や国家予算への負担増を警戒しているからです。

 

一方、これらの国の比較的少数の人々は、富の不平等の大幅な拡大と歴史的基準から見て非常に低い税負担の恩恵を受けています。

 

­­­­­­­­­­…中略…

 

17世紀のフランスの政治家ジャン・バティスト・コルベールは、課税を、最小のシュー音で最大量の羽毛を確保するためにガチョウの羽をむしる技術(注:生きているガチョウを騒がせずに、その羽をできるだけ多くむしり採ること)と呼んだことで有名です。バルバドスのミア・モトリー首相の有力な財政特使であるAvinash Persaud氏は、この取り組みも同じ論理に従っていると述べました。

 

同氏は「経済活動に最も控えめなタッチができる場所を探す必要があります」と述べました。

検討されるべき選択肢のひとつは、国連事務総長のアントニオ・グテーレスがすでに要求しているように、一定水準以上の石油やガスの利益に対する棚ぼた税が検討されるべき選択肢のひとつです。もうひとつは、すべての石油バレルと単位量の化石ガスに課税する方法です。

 

「最も貧しく脆弱な人々が洪水や干ばつに見舞われる一方で、石油・ガス部門は4兆ドルの利益を上げているという二律背反は、グロテスクな二律背反である」とPersaud氏は言いました。

 

新組織は航空分野にも目を向けますが、年に一度休暇をとる家族ではなく、最も裕福な旅行者に焦点を当てています。ケニアのウィリアム・ルト大統領の気候変動特使であるアリ・モハメド氏は、企業や富裕層がビジネスクラスやファーストクラスの航空券に毎年巨額を費やしていることを指摘しました。

 

モハメド氏は、これらの航空券に控えめな税金を課しても、購入者にとっては「大きな違いにはならない」が、「ケニアのような発展途上国を支援するのに十分な資金を調達する絶好の機会になるだろう」と述べました。

 

アナリストたちはまた、プライベートジェットへの新たな課税や、毎年一定回数以上のフライトを利用する個人への課税も提案しています。

 

検討すべきその他の分野には、金融取引に対する新たな課税や、非常に高いレベルの富や所得に対する少額の課税が含まれます。また、6月に開催された注目の金融サミットでフランス政府が支持を集めようとした、海運からの炭素排出に対する課税もあります。

 

課税タスクフォースの背後にある指針は、これらの課税は主に経済的に余裕のある人々の負担で賄われ、先進国の低所得者や中所得者にはほとんど影響を及ぼさないというものです。しかし、巻き添え被害を警告する批評家に直面することは間違いありません。

 

石油会社は、自分たちの業界に新たな税金を課せば、家庭用エネルギー価格の上昇につながると主張するでしょう。そして、新たな金融取引税の影響は最も裕福な人々に不釣り合いにかかるだろうし、一般の労働者の年金受給額への打撃も避けるのは難しいと(主張するでしょう)。

 

しかし、かつてステート・ストリート銀行やJPモルガンの調査部門を率いていたPersaud氏は、この考えは思っているほど急進的なものではないと主張した。

 

「元銀行員として、以前の同僚から『ああ、これらのことは素晴らしいアイデアだけど、実行するのは不可能だ』とよく言われます」と彼は言う。

 

「そうですね、すでに金融取引税から毎年300億ドルが調達されていますが、私たちはそれらを広げる必要があります。米国議会はメタン漏洩税を可決しました。私たちはそれを世界規模にする必要があります。 [EU] には収益を増やす炭素国境調整メカニズムがすでにあります。私たちはこれらの収益を発展途上国に送金する必要があります...必要な数字を達成するために、活用できるポイントはたくさんあります。」

 

トゥビアナは、現在の政治環境において、このアジェンダは非現実的なものではないと付け加えました。

 

「プライベートジェット?さあ」と彼女は言いました。「かなりうまくいくと思いますよ。」

 

【原文】

Climate finance: Perhaps the money is there, after all

 

 

【info:求む、グローバル連帯税フォーラムの会員】

当フォーラムの活動は主に会員の会費で賄っています。個人会員は一口3,000円/年、団体会員は一口10,000円/年です。会員になってもよいという個人・団体は、お名前(団体名)と所属(役職)をお書きの上、gtaxftt@gmail.com まで連絡ください。よろしくお願いします。