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「環境・社会富裕税」創設に向け、9月から欧州100万人署名に向かう

欧州レベルで最富裕層1%を対象とした富裕税創設に向け、具体的に動きが始まりました。仏ルモンド紙は「7月11日火曜日、欧州委員会は、欧州社会民主党陣営の有力人物2人、ベルギーのPaul Magnette議員とフランスのAurore Lalucq議員による欧州市民イニシアチブ(ECI)の登録を決定したと発表」と報道(注1)。

 

両議員による欧州委への要請は「エコロジーと社会的移行のための巨万の富への課税」(Taxing great wealth to finance the ecological and social transition、以下、環境・社会富裕税と略)をECI方式で行うというものです。この方式は少なくとも7カ国の欧州国民から1年以内に100万人の署名を集めれば、欧州委員会に対して立法を提案することができる制度です。これを欧州委が受理したということで、9月から署名がはじまるようです。

 

●環境・社会富裕税の目的

 

「この構想は、欧州委員会に対し、巨万の富に対する欧州税の創設を求めるものである。これにより欧州連合の財源が確保され、加盟国が共同出資する欧州の生態系・社会的移行および開発協力政策を拡大し、永続させることが可能となる。この拠出金は、気候変動や不平等と闘うために使用され、これらの目標達成のために欧州市民が公平な負担をすることを保証するのに役立つだろう。」(欧州連合のHPより)

 

●欧州富裕税を推進する人々・団体

 

1)欧州議会議員100人ほどの賛同(注:中道右派の一部、中道左派、グリーン、左派など)

2)研究者・専門家:トマ・ピケティ、ガブリエル・ズックマン、ジョセフ・スティグリッツ、ジャヤテイ・ゴーシュ、アン・ペティフォーなど

3)愛国的な大富豪:マリーナ・エンゲルホルン(1992年、オーストリア生まれ。世界最大の総合化学メーカーBASF社の創設者の一人)など

4)NGO/シンクタンク:オックスファム、TaxEd Alliance (Actionaid, Global Alliance for Tax Justiceほか)、ETUC(欧州労働組合連合)、Patriotic Millionairesなど

 

なお、上記の名前、団体等は欧州富裕税に向けたキャンペーンサイト(注2)をご覧いただくとして、この富裕税の仕組み等についてはまだ公表されていないようです。オックスファムの試算によれば、欧州の億万長者に年間最大5%の富裕税を課せば、年間2500億ユーロ近くが集まる可能性があると報告しています(注3)。

 

●富裕税関する最近の動きと100万人署名への注目

 

・富裕税については欧州各国で廃止・縮小されてきましたが、この間、欧州議会においてEUの長期予算である多年度財政枠組み(パンデミック復興資金の返済資金も含む)の修正議論の過程で富裕税提案が出されました。しかし、この提案は見送られたという経緯があります。そこで議会(並びに行政)の外から市民の総意で富裕税の実現を目指そうというのが今回の動向といえます。実際、世論調査でも富裕税への賛同は高いようです。

 

・ひとつ問題は、富裕税実現となれば、富裕層が国外脱出を図るということで、最近でもノルウェー政府が富裕税1.1%に引き上げたところ続々と富裕層が国を出ているということです(行先は主にスイス)。これへの歯止めが絶対必要になりますが、推進派はどのような制度設計を考えていますでしょうか?

 

・さらに言えば、富裕税は直接税ですので、その分抵抗が激しくなると思いますので、まずは富裕層が行う資金運用に課税していく、つまり株や通貨などの金融取引に課税していくという間接税の方がやり易いのではないかと思います。ともあれ、何しろ100万人署名ですから、大きな運動になることは間違いありません。この運動に注視し、わが国でも増税が待ち受ける中、大衆収奪にならない形での増税を、すなわちお金がうなるほどあり十分担税力のある所から徴収することのできる税制を考えていきたいと思います。

 

(注1)

欧州委員会、富裕層課税に関する請願を承認

(注2)

欧州富裕税キャンペーンサイト

(注3)

Economists, activists and millionaires register landmark ‘European Citizens’ Initiative’ calling for a European wealth tax on the richest 1%

 

 

報告:気候危機とグローバルサウス 国際連帯税は未来を救えるのか?

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7月7日横浜市立大学の講堂とオンラインによって「~明日のために今の大学生が考える~気候危機とグローバルサウス 国際連帯税は未来を救えるのか?」が開催され、70人を超えての参加申し込みがありました。

 

主催は、グローバル連帯税フォーラムと横浜市立大学SDGs学生団体TEHs。冒頭主催者挨拶として、TEHs代表が挨拶されました。同グループは「SDGsを広めることを目的に様々なプロジェクトベースで活動している団体」で現在100人を超える部員が活動しているとのことでした。

 

プログラムですが、「第1部:講演」では、明日香壽川・東北大学東北アジア研究センター/環境科学研究科教授と田中徹二・グローバル連帯税フォーラム代表理事が行い、グリーンピース・ジャパンの儀同千弥さんが「COP28に向けての活動事例」との報告を行いました。その後「第2部:大学生による未来のためのディスカッション」に移りました。

 

今回は、講演を行ったお二人の当日の資料を送ります(第2部の報告は別稿で)。

 

・明日香壽川「気候危機と『損失と被害』」

 

・田中 徹二「国際連帯税は未来を救えるのか?」

 

なお、グローバル連帯税フォーラムのニュースレター『国際連帯税・通貨取引税』も送ります。同レターでフォーラムの会員を呼び掛けていますので、会員になっていただける方は gtaxftt@gmail.com までご連絡ください。

 

 

《講演のエッセンス》

 

●明日香壽川「気候危機と『損失と被害』」

 

お話するのは、①気候危機の現状、②気候変動の国際交渉、③損失と被害、④今後の展望。中でも、③につき、次のように話された。

 

「損失と被害」(基金)の意義

日本に限らず、先進国に住む人々は、途上国での被害に同情するものの、自らを加害者として認めて賠償金を払うという意識を持つ人の数は極めて少ない(ほぼゼロ?)。しかし、自分が交通事故などの被害者になった時のことを考えればわかるように、「援助」と「賠償」は全く意味合いが異なる。

 

さらに、日本の場合、財政支出は増えるものの、その財源に関する議論は乏しい。一方、実現可能かどうかは別にして、「損失と被害」に関しては、国際航空のフライト、化石燃料会社や金融市場などへの課税などイノベーティブな財源が提案されており、硬直化した日本の財政に関する議論にも一石を投じる可能性がある。

 

●田中徹二「国際連帯税は未来を救えるのか?」

 

1)世界には幸福がいっぱいあるが、不幸もそれ以上に多い。本来人間は幸福を求める権利があるが、この地球上では貧困・飢餓という最悪の不幸に見舞われている人が多い。とくに途上国では今日、感染症、食料・エネルギー危機、気候危機、債務危機等のポリクライシス(複合危機)に苦しむ。

 

2)よって途上国支援が求められているが、国際社会が確約した「SDGs=持続可能な開発目標」を達成するための資金が毎年4.2兆ドルも不足している。が、富裕国によるODA総額は2000億ドルたらずで、公的資金による支援では間に合わず。そこで先進国や国際機関は盛んに民間資金の動員・利用を訴え、ブレンドファイナンスやESG投資など様々なスキームが実施されている。しかし、肝心の貧困国や脆弱国にはお金届かず。民間資本は利益の上がらないところに融資したがらないから。

 

3)従来の公的資金ならびに民間資金が途上国の資金ニーズに及ばないとすれば、第三の革新的資金の創出が必要。それが国際課税方式による国際連帯税。そのスキームは極めてシンプルで、グローバル化によって受益している経済セクターの活動に広く薄く課税して、その税収を地球規模課題であるSDGsや気候変動対策資金に充てる、というもの。

 

4)国際連帯税はまずは航空券連帯税としてフランス等で始まったが、国際的な広がりに欠けてきた。しかし、SDGsや気候危機資金ニーズが今や「兆ドル」単位に跳ね上がる中で再び注目を浴びる。6月開催された「新グローバル金融協定のためのサミット」でも多くの提案が行われた。とくに金融取引税。OECDも言うように世界の金融資産はコロナ禍やインフレににもかかわらず増額の一途を辿っている。つまり、お金は有り余るほど世の中にはある。まずそのフローである株取引や為替取引(通貨取引)への課税へ、と。

 

5)このままではODAや民間資金動員が増えたとしても依然として億ドル規模だし、民間資金は貧困国等には向かわない。すると債務に押しつぶされそうな60を超える低・中所得国では借金返済に手いっぱいであり、SDGs達成はまず不可能に。「誰一人取り残さない(Leave No One Behind)」というSDGsの理念は水泡に帰す。こうした根本問題・構造的な解決なくしてSDGsを語ることはできない。債務の帳消しと新しい資金による支援が必要だ。世界にはお金はある、有り余るほど使い切れないほどあるのだから。

 

※左のロゴは、横浜市大TEHsグループのロゴです。

パリ・サミット終る:大いに議論したが実行のための提案なく

プロローグ冒頭

 

6月22-23日パリにおいて、約40カ国の政府(首脳や財務大臣)、国連以下の国際機関、シンクタンク、市民団体が一堂に会し「新グローバル金融協定サミット」が開催されました。日本からは林芳正外務大臣が出席しました。大いに議論はされましたが、2006年の国際連帯税パリ総会時に航空券連帯税実施を決めたような具体的な実行提案はありませんでした。

 

●南からのブレトンウッズ機関(IMF、世界銀行)批判・告発

 

このサミットについては、日本ではほとんど報道されませんでした(日経新聞が小さく報道)。当地フランスのメディアはどう報道したでしょうか。Le Mondeは24日付で『パリ・サミットでは、新たなグローバル金融協定はまだプロジェクトにとどまっている』との見出しの下、「約40カ国の政府がパリで会合を開き、過剰債務と気候変動の問題に取り組んだが、世界の北と南の国々の間の溝を埋めることはできなかった」と結論付けています(注1)。

 

とはいえ、サミットが気候変動と開発資金危機に関する南と北の率直な対話が開始され、南からの告発・批判が多く寄せられました。南の代表格としてブラジルのルーラ大統領のプレゼンがフランスのメディアに多く登場しています。上記Le Mondeはもとより経済紙のLes Echos(レゼコー)でも『ルーラ氏の世銀、IMF、国連への告発』という見出しで、詳しく紹介されています(注2)。その一部を紹介します。

 

…前・中略… 中見出し「IMF、国連、世界銀行の改革」
(ルーラ氏は)「ブレトンウッズ機関はもはや機能しておらず、もはや世界社会の願望に対応していない」と述べた。…中略…気候問題は 「二次的な課題」ではなく、「不平等を抜きにして気候を語ることはできない 」と彼は主張した。ジェンダー、賃金、人種、健康、教育における不平等に早急に取り組まなければ、気候に関する懸念は、世界が直面している問題の規模に比べれば「冗談のような」ものになってしまう。IMF、世界銀行、国連が改革されなければ、「世界は変わらない。金持ちはさらに金持ちになり、貧乏人はさらに貧乏になる」。サミットが開催されていたパレ・ブロンニャールでは、ルーラの発言に出席したすべての代表団から大きな拍手が送られた。

 

●海運、金融取引への課税など国際課税の提案>次はケニアでのサミットへ

 

一方、「革新的資金メカニズムの動員」に関しては、サミット2日目の冒頭「プロローグ: パリ合意、今後数か月に向けてどのような方向に進むのか?」の最初に元パリ協定の交渉担当者で現欧州気候財団のローレンス・トゥビアナ氏が次のように述べました(ONEフランスのSenior Policy & Advocacy ManagerであるMae Kurkjian氏のTwitterより、写真も)。

 

奇跡はない。将来の課題に立ち向かうためには、新たな資源が必要だ。すべてのグローバルな課税オプション(海上・航空課税、金融取引税、化石燃料や企業への課税)を検討するタスクフォースを呼びかける。

 

こうした発言もあり、サミットの議長サマリーで次のような文章が入りました。

 

課税を通じた新たな財源の可能性を検討するタスクフォースの立ち上げが提案され、このタスクフォースは、2023年9月にケニアが主催する気候変動資金に関するサミットまでに、最初の結論を提示することができる。

 

このサミットは、9月4~6日に開催されるアフリカでの第1回気候サミットです。ケニアのウィリアム・ルト大統領はパリの方で「炭素税、海運税、金融取引税をどのように執行するのか?私たちが生きている今の世界には、もっと多くの創造性、革新性、技術がある。創造性、革新性、テクノロジーは、この税金を徴収するための梃子となる」と発言し、世界のリーダーたちに感銘を与えたとの報道がなされています(注3)。

 

(注1)
Au sommet de Paris, le nouveau pacte financier mondial reste un projet
(注2)
La charge de Lula contre la Banque mondiale, le FMI et l’ONU
(注3)
Ruto Impresses World Leaders With Ideas on Raising Climate Taxes

 

※写真左はサミットの会場風景、上は23日のプロローグ冒頭でプレゼンするローレンス・トゥビアナ氏

気候危機とグローバルサウス 国際連帯税は未来を救えるのか?

学生たちによる「講演とディスカッション」の七夕の夕べです。学生のみなさんの参加を訴えます。チラシは、こちらから。

 

 

 

~明日のために今の大学生が考える~
気候危機とグローバルサウス 国際連帯税は未来を救えるのか?

 

◎日 時:2023年7月7日(金)18:00~20:30(17:30開場)
◎会 場:横浜市立大学本校舎第一講堂
      ⇒アクセス:京浜急行線「金沢八景駅」下車徒歩5分

         (神奈川県横浜市金沢区瀬戸22-2)

     オンライン参加 も可能です!
◎主 催:グローバル連帯税フォーラム/横浜市立大学SDGs学生団体TEHs 
◎参加方法:次のフォームより申込み下さい     

      https://forms.gle/rpNXjKtFsWfSVQ5n6

      ⇒参加費は無料です。

 

<プログラム>

 

●第1部:講演
 講演①:明日香壽川(東北大学東北アジア研究センター/環境科学研究科教授)
     ―― 気候危機と「損失と被害」基金の意義を語る
 講演②:田中 徹二(グローバル連帯税フォーラム代表理事)
     ―― 途上国支援のための国際連帯税を語る
 報告:儀同 千弥(グリーンピース・ジャパン)
     ――COP28に向けての活動事例の報告

 

●第2部:大学生による未来のためのディスカッション

 

 ようやく新型コロナ感染症が世界的にひと段落しました。しかし、昨年洪水により国土の3分の1が水没し壊滅的事態となったパキスタンにみられるように、世界はもうひとつの危機である気候危機に見舞われています。

 

 とりわけ被害の規模は途上国で深刻であり、食料危機や飢餓、国土喪失と難民/避難民を生み出しています。一方、国際社会は昨年の気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)において、途上国を資金面から援助すべく「損失と損害」基金の創設を決定しました。

 

 ところが、援助するための資金が圧倒的に不足しているという現実があります。先進国も気候危機やコロナ禍に見舞われ、財政的余裕を失ってきているからです。

 そこで第二の公的資金として国際連帯税への期待が世界的に高まっています。

 すでに気候危機で生活と命を奪われてぃる途上国の人々を援助することは、CO2を多く排出している先進国側の私たちの責務です。

 

「気候危機―『損失と被害』基金―国際連帯税」について学び、その上で私たちの未来を取戻すための討論を行っていきましょう。

 

※左の写真は、多くの大学生が参加した「SDGs達成のための国際連帯税を実現するシンポジウム2019」(2019年7月開催)。上部にあるフライヤーはクリックすると大きくなります。プリントしてご利用ください。

本日からパリ・サミットはじまる>今晩大規模コンサートで盛上げ

2大スター

 

日本ではほとんど報道されていませんが、本日から開発と気候変動のための資金調達に関する「新グローバル金融協定パリ・サミット」が開催されています。今夜その盛り上げのため2人のビッグ・スターが出演する大規模コンサートが行われます。主催するのは、#PowerOurPlanet と題したNGOグローバル・シチズン。コンサート内容は下記の“フィガロ”紙をご覧ください。

 

とくに21歳のビリー・アイリッシュはグラミー賞を7回も受賞しているスーパースターのようですね。なお、今晩の深夜3時からこのコンサートを聴くことができます。FB、Twitter、インスタグラム、YouTubeなどで視聴できます。視聴方法は以下のglobalcitizenのwebサイトから選んでください。

 

ところで、本番の方のパリサミットですが、革新的資金調達メカニズムとして多くの国際(的な)連帯税が提案されています。詳細は、次のお知らせで。

 

Billie Eilish et Lenny Kravitz au Champ-de-Mars, à l’affiche d’un grand concert pour la planète

ビリー・アイリッシュとレニー・クラヴィッツ、シャン・ド・マルスで地球のための大規模コンサートを開催

 

※写真は左上がサミットの主会場となるブロンニュー宮殿。真ん中が左ビリー・アイリッシュ、右レニー・クラヴィッツ、フィガロ紙より。

6月のパリ・サミットにイエレン米財務長官、李強中国首相出席

バナー

 

昨日の報道によれば、6月22,23日パリで開催される「新グローバル金融協定のためのサミット」(以下、パリサミット)にイエレン米財務長官や李強中国首相も出席するとのことです(注)。これで主要な国の元首や閣僚としては、主催者としてマクロン仏首相、同シタラン印財務大臣、そしてモトリー・バルバドス首相、ラマポーザ南ア大統領、ルーラ伯大統領、フォン・デア・ライエン欧州委委員長など、また国際機関からはグテーレス国連事務総長ほかが参加します。

 

●日本でも財務大臣クラスを参加させるべき

 

では、G7議長国としての日本からは誰が出席するのでしょうか。5月24日にパリ・サミットに関する日本政府の窓口となっている外務省・松本地球課題総括課長とお会いした時にこのことを聞いたところ、その時分には決まっていないとのことでした。が、米国がイエレン長官を出すなら、日本も鈴木財務大臣を派遣しないとならないでしょう。もっともイエレン長官はこのところ世界銀行改革に熱心ですが、鈴木大臣ならびに日本財務省は世界銀行など国際開発金融機関(MDBs)改革にどれほどの方針を持ってるのでしょうか? ぜひ知りたいものです。

 

●パリ・サミットのWebサイト、ようやく公開される

 

どういう訳かこれだけのサミットを開催するというのに専用のWebサイトがなかなか構築されず、ようやく1か月前の開設となりました。

 

International solidarity ? Website for the Summit on a New Global Financing Pact goes live (25 May 2023)
 

<サミットへの訴え>
このサミット…の目的は、貧困との闘い、気候変動、多様性の保護という私たちが共有するグローバルな課題に対応するため、より公平で連帯感のある新しい金融システムの基礎を築くことにあります。

 

…サミットは、インド議長国でのG20サミット、マラケシュでの世界銀行・IMF年次総会、ニューヨークでの持続可能な開発目標に関する国連事務総長サミット、ドバイでの国連気候変動会議(COP28)など、2023年後半に開かれる多くの国際会議と一致しています。

 

会議では、今後の改革の基本原則を明確にし、南と北のバランスのとれた新たな金融パートナーシップに向けた道筋をつけることができるでしょう。また、過剰債務と闘い、より多くの国が持続可能な開発への投資、より良い環境保護、温室効果ガス排出量の削減、生態系の危機から最大のリスクを抱える人々の保護に必要な資金を利用できるようにするための将来の合意への道筋をつけることができるでしょう。

 

 

(注)
イエレン長官、世界的な債務と気候改革を求めるパリ・サミットに向かう
Yellen Headed to Paris Summit in Push for Global Debt, Climate Reforms
-新たな世界金融協定のためのサミットは6月22日~23日に開催される。
-中国の李強首相も出席する予定。

 

米国は、貧しい国々をよりよく支援し、気候変動や将来のパンデミックといった世界的な脅威に対処するために、世界的な融資構造を改革する機運を高めようとしています。

 

フランスのエマニュエル・マクロン大統領が主催する「新しい世界金融協定のためのサミット」は、多国間開発銀行の改革や債務超過への対応から、グリーンインフラへの融資、気候変動に脆弱な国への資金動員まで、幅広い問題に取り組むことを目指しています。(以下、有料のため省略)

ジョセフ・スティグリッツなど国際的経済学者がFTTとパリ・サミットを応援

写真:スティグリッツなど

 

「金融取引に関する国際課税への一歩は、歴史的な第一歩となる」と題した書簡がフランスのルモンドに掲載されました。この書簡はノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・スティグリッツやCOP21でパリ協定を設計したローレンス・トゥビアナなど70人以上の国際的な経済学者が、貧困と地球温暖化との闘いのための資金調達に向け、株式市場取引に対する国際的な課税(FTT:金融取引税)を求める内容のものです。

 

こうした国際経済学者からの書簡は、今月パリで22日からはじまる「新グローバル金融協定のためのサミット」の盛り上がりと革新的資金調達の実現に向けた機運を高めていくことになるでしょう。書簡に署名した主な経済学者の名前とルモンドの記事の一部を紹介します。

 

【書簡に名を連ねた主な経済学者】

 

ジョセフ・スティグリッツ(Joseph E. Stiglitz)ノーベル経済学賞受賞者 
ジャヤティ・ゴーシュ (Jayati Ghosh)ジャワハルラール・ネルー大学教授、開発経済学
ローレンス・トゥビアナ(Laurence Tubiana)パリ政学院教授、気候変動パリ会議(COP21)元特別代表. 元フランス気候変動交渉担当大使。
ダニ・ロドリック(Dani Rodrik)プリンストン高等研究所教治授、国際経済学・開発経済学、邦訳書『貿易戦争の政治経済学:資本主義を再構築する』(2019)など
マリアナ・マズカート(Mariana Mazzucato)ロンドン大学教授、公共経済学
ブランコ・ミラノヴィッチ(Branko Milanovic)ニューヨーク市立大学大学院センター客員大学院教授、邦訳書『資本主義だけ残った』(2021)など
アナト・アドマティ(Anat Admati)スタンフォード大学経営大学院ジョージ G. C. パーカー記念講座教授 
スティーブ・キーン(Steve Keen)ロンドン・キングストン大学経済学教授

 

【ルモンドの記事】

 

≪ Un pas vers une taxe internationale sur les transactions financieres serait une premiere historique ≫
金融取引に関する国際課税への一歩は、歴史的な第一歩となる

 

ジョセフ・スティグリッツ、ジャヤティ・ゴーシュ、ローレンス・トゥビアナなど70人以上の国際的な経済学者が、貧困と地球温暖化との闘いのための資金調達のために、株式市場取引に対する国際的な課税を求める文書をルモンドに寄せた。彼らは、6月22日と23日にパリで開催される「新しい世界金融協定のための国際サミット」を理想的な機会として捉えている。

 

「ロビン・フッド税、トービン税、FTTなど、どのように呼ぼうと、グローバル化の悪影響を相殺するために金融取引に課税するというアイデアは、新たな経済危機のたびに人気が高まっています。原理は単純で、金融市場の取引規模を考えれば、極めて低い税率を適用するだけで、市場の運営方法に影響を与えることなく、多額の税収を上げることができるからだ。

 

FTTは、歪みが少なく、再分配効果が高く、税収が潜在的に高く、徴収コストが最小であるなど、優れた税となる資質をすべて備えています。FTTの人気が高いもう一つの理由は、市場の規制緩和と高頻度取引の発達に伴い、取引量が爆発的に増加していることに対応するためである。1970年代以降、世界の株式市場の取引額は500倍以上に膨れ上がり、フランスでもパリ証券取引所の年間取引額は1970年に35億ユーロ、1980年に90億ユーロ、1990年に1000億ユーロ、2000年に1兆ユーロ、そして現在は2兆ユーロ以上となっている。

 

現在、30カ国以上でさまざまな形で印紙税が適用されているのは、こうした理由があるからに違いない: 例えば、フランス、イタリア、スペイン、スイス、香港、台湾、そして英国では3世紀以上もの間、途切れることなく印紙税が適用されており、英国で最も古い税である。金融取引税が適用されている金融センターは、世界でも有数の金融センターであり、その発展を妨げていないことは明らかである。

 

市場への影響はほとんどない

 

FTTをめぐる議論では、必ずと言っていいほどその影響に焦点が当てられる。投機を抑制することで市場の不安定さを軽減することを期待する人もいれば、流動性の欠如によるボラティリティの上昇を恐れて、その原理そのものを否定する人もいる。実証研究は、前者も後者も間違いであることを証明している。現在の形では、FTTは市場にほとんど影響を与えない。一部の人が恐れる黙示録でも、他の人が期待する万能薬でもない。ポイントは銀行家に対する罰でも市場に対する罰でもなく、幅広い裾野と低い税率を持つ税は実質的に歪みを生じさせず、高い歳入をもたらすからである。

 

以下、省略

 

※写真は、左からジョセフ・スティグリッツ、ジャヤティ・ゴーシュ、ローレンス・トゥビアナ、ダニ・ロドリック

新グローバル金融協定サミットWGに、金融取引税が提案される

今月22-23日パリで開催される新グローバル金融協定サミット(以下、協定サミットと略)を前に、Gunther Capelle-Blancardパリ第1大学教授が金融取引税に関して最新情報を含む「The taxation of financial transactions: An estimate of global tax revenues 金融取引への課税: 世界の税収の試算」(注1)という論文を発表しました。また、この論考が協定サミットのワーキンググループ(4つのグループのうちの革新的資金調達グループ)にも提案されたとのことです。

 

さてこの論文はソルボンヌ経済センターのWebサイトに掲載されていますが、マスメディアではリベラシオン紙に「Taxer les transactions financières, le retour d’une idée qui pourrait rapporter gros         金融取引への課税:多額の資金をもたらす可能性のあるアイデアの復活」と題して掲載されています(注2)。以下、簡単に紹介します。

 

●最大4000億ユーロをもたらすが、まずは既存の金融取引税からはじめる?

 

1)G20諸国で(株式交換または取引に)金融取引税(FTT)を導入した場合、年間1620億ユーロから2700億ユーロをもたらし、さらに日中取引や高頻度取引に拡大すると4000億ユーロ以上の税収となる。

 

2)従って、気候変動対策や貧困対策で莫大な資金需要がある現在、FTTはこれに応えることに役立つ。「この制度は、ケインズが最初に考え、トービンが開発したもので、2012年からフランスを含む約30カ国ですでに存在している」。

 

3)FTT推進派は、6月22-23日にパリでの新しい金融協定に関するサミットで政治的なチャンスを見出すだろう。「金融取引に対する国際課税への一歩は、何よりも、気候変動の影響を最も受けている国、つまり、気候変動の責任を最も負わない国にとっての貴重な勝利になるだろう」(NGOグローバル・シチズン副代表 Friederike Röder)。

 

4)税収だが、G20に導入した場合、フランス並みの税率0.3%で年間1620億ユーロ、英国並みの税率0.5%で2700億ユーロをもたらすと推定。が、日中取引や高頻度取引に拡大すれば、4000億ユーロ以上の税収になる。「貧しい国のために年間1000億ドルの気候変動資金を動員するという公約の達成と、豊かな国の国民総所得の0.7%を開発援助に割り当てるという集団的公約の達成に大きく貢献できる」(NGO ONEアドボカシー担当 Maé Kurkjian)。

 

5)【以下、編集者注】フランスも英国も株式の日中取引には課税していない。課税は、同一営業日において同一顧客によって執行されたすべての購入と売却をネットした(相殺した)額に行っている。つまり、ひとつひとつの取引(グロス)に課税していないので高頻度取引にあっても課税額はたいしたことはない(逆にグロス課税だと莫大な納税になる)。英国は株「取引税」ではなく「印紙税」として執行されてきている。また、フランスの場合には株取引税と言っているが、正確には株「譲渡税」と呼んだ方がよいのではないか。実際、「フランスでは60%から70%の取引がFTTの対象外になっているようだ」。

 

6)【本題に戻り】Capelle-Blancard教授は「FTTはよい税金」だと言います。それは「実証研究によると、導入時に取引量はわずかに減少するが、流動性や市場のボラティリティにはほとんど影響がない」「広範なベースと低い税率で、歪みを生じさせず、低い徴収コストで高い歳入をもたらし、高い再分配性を持つ税」なのだから、と。FTTが協定サミットでぐっと盛り上がり、協定内容に組み入れられるとよいですね。すると、その内容が9月のG20サミットに、同月の国連SDGsサミットに、そして11月のCOP28に繋がり、FTTが世界規模で実現していくと期待されます。

 

(注1)

Gunther Capelle-Blancard, The taxation of financial transactions: An estimate of global tax revenues

(注2)

Taxer les transactions financières, le retour d’une idée qui pourrait rapporter gros

 

 

【邦訳全文】

Taxer les transactions financières, le retour d’une idée qui pourrait rapporter gros

金融取引への課税:多額の資金をもたらす可能性のあるアイデアの復活
2023年5月15日発行

 

ある調査によると、このようなシステムを導入すれば、税率にもよるが、年間1620億から2700億ユーロをもたらすことができるという。しかし、ヨーロッパ全体への適用はまだ計画段階である。



カムバックである。各国政府がパンデミックから多額の負債を抱え、気候変動対策であれ貧困対策であれ、資金の必要性が莫大である現在、大規模な金融取引税(FTT)の導入は、この方程式を解決するのに役立つだろう。この制度は、ケインズが最初に考え、トービンが開発したもので、2012年からフランスを含む約30カ国ですでに存在している。

 

欧州規模での創設というアイデアは欧州議会で再燃し、先週水曜日(5月7日)に採択された決議で、欧州予算の新たな収入源の候補に挙げられている。2月に欧州議会は、「欧州委員会と強化協力交渉に参加している加盟国(フランスやドイツを含む11カ国【正しくは10か国】)に対し、2023年6月末までに金融取引税に関する合意に達するよう最大限の努力をするよう要請した」ところだ。この意図は新しいものではない。2011年9月以来、欧州金融取引税の指令案が欧州委員会の棚に眠っているのだ。

 

最大4,000億ユーロ

 

トービン税の推進派は、6月22日と23日にパリで開催される新しい金融協定に関するサミットに政治的なチャンスを見いだすだろう。「金融取引に対する国際課税への一歩は、歴史的な第一歩であり、エマニュエル・マクロンとナレンドラ・モディのサミットにとっての真の成功であり、何よりも、気候変動の影響を最も受けている国、つまり、気候変動の責任を最も負わない国にとっての貴重な勝利になるだろう」と、NGOグローバル・シチズンの副代表、Friederike Röderは述べている。

 

どれくらいの金額が期待できるのか? 経済学者のGunther Capelle-Blancard氏(パリ第1大学教授)が月曜日にNGO Oneから発表した研究は、いくつかの明確な根拠を示している。それによると、G20諸国にFTTを適用した場合、名目税率0.3%(フランスで選択された税率)で年間1620億ユーロ、0.5%(英国で選択された税率)で2700億ユーロをもたらすと推定しています。この税金を日中取引や高頻度取引に拡大することで、4000億ユーロ以上を回収することができる。「これは、2022年に1940億ユーロに達した世界の開発援助総額の2倍以上です」と、Oneのアドボカシー責任者であるMaé Kurkjianは比較する。そして彼女は、これが「貧しい国のために年間1000億ドルの気候変動資金を動員するという公約の達成と、豊かな国の国民総所得の0.7%を開発援助に割り当てるという集団的公約の達成」に大きく貢献すると計算する。

 

10年以上前に初めてスケッチされたとき、欧州のプロジェクト(想定されていた率は0.1%【編集者注:正確には、株と債券取引に0.1%、デリバティブ取引に0.01%】)は年間600億ユーロ近くと評価されていた。報告書は、現在の取引数で利回りを更新していない。Gunther Capelle-Blancard氏は、「欧州プロジェクトは素晴らしいが、非常に野心的である。2000年代前半に比べ、市場の状況ははるかに透明性が低くなっているため、収益については非常に不透明な部分がある。しかし、それ以降、取引が増えていることは確かです」と説明している。また、すべては課税ベースとその設計方法によって決まる、とも。

 

「良い税金とは」

 

エコノミストはまた、この税制を導入した国々で観察された効果を引き合いに出し、定期的に指摘される多くの批判に反論している。「実証研究によると、実際にはFTTの効果は控えめで、導入時に取引量はわずかに減少するが、流動性や市場のボラティリティにはほとんど影響がない」と説明し、「よく戯画的に言われることとは異なり、FTTは良い税金になる資産を持っている」と考えている。実際、「広範なベースと低い税率で、歪みを生じさせず、低い徴収コストで高い歳入をもたらし、高い再分配性を持つ税」なのだ、とも。

 

欧州やその他の国々でFTTが導入されれば、フランスの収入も増加する可能性がある。現行の課税は、主にフランスに登記上の事務所があり、時価総額が10億ユーロを超える企業の株式交換に関するものだ。「フランスでは60%から70%の取引がFTTの対象外になっているようだ」と報告書は述べている。昨年、FTTは約19億ユーロをもたらした。2016年、フランス議会はこれを日中取引に拡大することを決議した。エマニュエル・マクロンは大統領に選出されるや否やこの決定を覆し、その理由の1つとしてブレグジットを挙げています。彼はOuest-Franceのインタビューでこのように説明した:「欧州レベルでは、私はすべての道を行くと言ってきた。…私はFTTを望んでいる。私は、一貫した領域で適用され、理にかなっていて、効果的なFTTを望んでいます」。それが、約6年前のことです。■■

 

※写真は、Gunther Capelle-Blancardパリ第1大学教授

6月パリ「新グローバル金融協定サミット」近づく、その意義と課題

既報通り、欧州では欧州議会で見られるように、再び金融取引税の議論が活発化してきました。一方、6月22-23日パリで開催される「新グローバル金融協定のためのサミット」(SUMMIT FOR A NEW GLOBAL FINANCIAL PACT、以下パリ・サミットと略)でも金融取引税が議論されています。日本ではこのサミットについてまったく報道されていませんが、ここでの議論や合意は9月のG20サミットや11月のCOP28(国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議)に大きな影響を及ぼすことが予想されます。パリ・サミットの概要ならびにNGO等の動きについて報告します。

 

 COP27の振り返り>気候資金についてのグローバル・タックスなどの提案

 

ご承知のように、昨年11月に開催されたCOP27において、気候変動の悪化に起因する災害等による「損失と損害(ロス&ダメージ:L&D)」を支援する基金創設が合意されました。これは島が侵食されていく小島しょ諸国など気候脆弱国が30年来訴えてきたものですから、歴史的な合意がなされたと言ってよいでしょう。とはいえ、L&D基金の中身(拠出額・方法や運用など)については、今年アラブ首長国連邦で開催されるCOP28で決めることになり、今後の議論が重要となってきます。

 

ところで、このCOP27を前にして、気候資金調達に向け、島しょ国等脆弱国のリーダーから様々な提案が出されました。グローバル炭素税、航空券税、化石燃料採掘税そして金融取引税などの国際連帯税(注1)、さらに国際エネルギー企業への課税そしてIMF・SDR(特別引出権)の増強など。一方、フランスにおいては、COP21でのパリ協定を設計した経済学者のローレンス・トゥビアナや欧州議会議員のピエール・ラルートゥルーなどの国際的な専門家や欧州議会議員が「(気候資金調達のために)金融取引税を創設することが、今までになく急務である」と仏紙『ルモンド』に発表するなど(注2)、議論が大きく盛り上がっていました。

 

こうした流れの中で、COP27においてL&D基金の創設が決まるとともに、マクロン仏大統領が「最も脆弱な国との新しい金融協定が必要」(ツイッターより)と提案。同大統領は、同年9月の国連総会で「世界金融の構造改革のための「2022年ブリッジタウン・アジェンダ」(注3)を提唱したカリブ海の小島バルバドスのミア・モトリー首相と共に、2023年6月にパリ・サミットを開催することになったのです。

 

●パリ・サミット(開催日:6月22-23日)について

 

以下、パリ・サミットの概要につき、簡単に説明します。

 

1)目的

気候変動と世界的危機に対処するために南北諸国の間で新たな協定を構築すること、とりわけ最も脆弱な国々が最も緊急かつ重要なニーズに対処するための支援を行うこと、そのために多国間開発銀行の改革、債務危機、革新的な融資と国際税、特別引出権(SDR)などの重要な問題に取り組む。

 

2)主な4つの課題とそれぞれのワーキンググループ

・WG1:最も影響を受ける国に対する財政スペースの確保

⇒債務の脆弱性に直面している国に対して、どのように資金へのアクセスを増やすか

・WG2:低所得国での民間セクターへの融資

⇒脆弱な国における民間セクター、とくに小規模企業をどのように支援するか

・WG3:新興国・途上国における「グリーン」インフラへの投資拡大

⇒グリーンインフラへの民間投資を加速させる方法

・WG4:気候変動に脆弱な国に対する革新的な資金調達の動員

⇒新たな資金源をいかに引き出すか、国際税務アジェンダ、インパクト・ファイナンス、気候変動に強い商品、債務スワップ、債務契約における災害関連停止条項、保険スキーム、その他のタイプのメカニズムについて

 

3)運営方法と参加国・国際機関(主催:フランスとG20サミット議長国のインド)

・運営方法:COP28、G20、G7など多くのパートナーからの提案とコミットメントを得る

・参加:フランス、バルバドス、インド、日本、UAE、米国、中国、EU委員会、ドイツ、英国、ブラジル、セネガル、南アフリカ、国連事務局、IMF、世界銀行、OECD

 

●パリ・サミットの課題とNGOの活動

 

パリ・サミットの焦点のひとつは、WG4にある「新しい資金源の創出」です。先進国によるODA(政府開発援助)拠出は限界にきており、先進国(ドナー国側)や国際機関は盛んに民間資金の動員(活用)を宣伝してきました。しかし、そうした国・機関が最も期待していた「ブレンドファイナンス」は減少に転じ(注4)、気候変動の支援資金の核となる2020年までに1000億ドル拠出公約も果たせませんでした。

 

確かにこれほどの地球規模課題対策に巨額の資金ニーズが高まっている現在、各国のODAも民間資金の動員も、さらに世界銀行・MDBs改革やIMF・SDRの増強も必要ですが、まったく間に合いません(OECDやUNDPは年間4兆ドルの資金ギャップを挙げている)。従って、これに加えて新しい方式による新しい資金調達がぜひとも必要となっています。その調達のためツールが国際連帯税(グローバルタックス)です。

 

パリ・サミットでは、市民参加も呼びかけられ、各WGにNGO代表が参加していますが、WG4では専門家やNGOは金融取引(FTT)を提案しています。また、WG4の共同議長は、モトリー首相の顧問でブリッジタウン・アジェンダ提案に関わったAvinash Persaud氏(英グレシャム大学名誉教授)が務めており、彼はこれまで欧州FTT活動に対して助言的立場を取ってきた人です。よって、ここにおいては新しい資金調達スキームとしてFTT実施案が勧告される可能性が大いにあると言えます。

 

ところで、日本政府も国際運営委員会に参加していますが、特段積極的な提案はされていないようで残念です。

 

ともあれ、パリ・サミットでの議論や合意が、次のG20サミットやCOP28の議論に、また9月の国連SDGsサミットに影響してくることは間違いありません。注目していきましょう。

 

(注1)

Vulnerable countries demand global tax to pay for climate-led loss and damage

(注2)

‘It is now more urgent than ever to reach an agreement to create a tax on financial transactions’

https://www.lemonde.fr/en/opinion/article/2022/11/16/it-is-now-more-urgent-than-ever-to-reach-an-agreement-to-create-a-tax-on-financial-transactions_6004481_23.html

(注3)

The 2022 Bridgetown Agenda for the Reform of the Global Financial Architecture

(注4)

SUMMIT FOR A NEW GLOBAL FINANCING PACT: TOWARDS MORE COMMITMENTS TO MEET THE 2030 AGENDA?

(注5)

【日経新聞】途上国に民間資金呼ぶ COP27、政府保証・無料データ活用

「…民間資金の動員は、ほとんどが中所得国で、銀行・金融サービス、エネルギー・産業、鉱業、建設など、収益源が明確なセクターで行われている」

 

※写真は、マクロン大統領とモトリー首相

 

G7広島コミュニケと資金動員>寺島実郎氏、国際連帯税を提案(#サンモニ)

G7広島サミットは21日に閉幕しましたが、首脳コミュニケが前日に出されるという異例の事態でした。サミットは、最後に来て「ゼレンスキー・サミット」と呼ばれるほどの演出が際立ちましたが、日本政府が事前に目玉として宣伝していた「グローバルサウスとの連携」はどうだったのでしょうか?

 

●民間資金及び公的資金の動員を謳っているが…

 

「グローバルサウスとの連携」を言うなら、まずは途上国支援のための資金が求められています。実際コミュニケでも「我々は、2030年までの持続可能な開発目標の達成、貧困の削減、気候危機を含むグローバルな課題への対応及び低・中所得国における債務脆弱性への対処は、緊急であり…」と認識し、「これらの課題に対処し、公正な移行を支援するために必要な民間資金及び公的資金を動員する…」(以上、第10パラグラフ)と謳っています。

 

しかし、途上国のSDGs達成のための資金ギャップが年間4兆ドルを超えるという現状に対して、まずはG7が公的資金を十分に拠出し、その上で民間資金の動員があって、そのギャップは埋められていきます(第10パラでは逆の表現に)。その公的資金については、ODAのGNI比0.7%目標の重要性の認識、ならびに「革新的資金調達メカニズム」の必要性ということで記述されていますが(第11パラ)、その具体性については依然として語られていません。

 

例えば、0.7%目標については毎回毎回「重要性の認識」にとどまり、目標を達成するための工程がネグレクトされています。また、革新的資金調達メカニズムの方も具体的提案がありません。

 

もうひとつ。気候変動問題で言いますと、COP27で合意され、今年のCOP28でも最大の議題となる「損害と損失」基金問題が、第18パラから21パラまでの『気候』記述の中で一番最後に「世界的な気候変動の悪影響を警戒し、特に最も脆弱な国々に対して、損失と損害を回避し…これらに対処するための行動と支援を増加させる(COP27等の決定)」とさらっと記しているだけです。そこには先進国としての責任を果たすという意欲が見られないのです。

 

●グローバルサウスへの支援、国際連帯税構想で>寺島実郎氏

 

「グローバルサウスを惹きつけるようなクリエイティブな発想がG7にはまったくない」というのが、21日TBSで放映されたサンデーモーニングでの寺島実郎氏のコメントです。

 

寺島氏の発言を追ってみます。「今度のサミットでグローバルサウスに対して何ができるのか。例えばG7が豊かな国というのなら、そこでのマネーゲームに税金をかけてアフリカやアジアの貧しい国々に対して、こういう仕組みでもって、これ国際連帯税構想というものがあるのですが、そういうものに踏み込んだとなれば、グローバルサウスの方はG7はたいしたものだなとなる」。しかし、そうではない、ということで上のような結論になりました。

 

テレビでの発言は時間的制約があるため、論理が短絡していますが、G7は国の財政が厳しくなると公的資金ではなく盛んに民間資金の利用を言い出し、先進国としての責任を放棄してきたのです。一般財政からの拠出が厳しいのであれば、革新的資金メカニズムを構想し実行しなければならないのです。それが国際連帯税だと寺島氏は主張します。

 

●6月新国際金融サミット、9月G20サミット、11月COP28へ

 

首脳コミュニケは、気候変動や貧困削減のための「開発資金ツールキットを強化」するため、「6月…パリで開催される国際開発金融の再活性化のためのサミットに始まり、(9月)ニューデリーでのG20サミット、ニューヨークでのSDGsサミット…(11月)アラブ首長国連邦での…COP28を通じてこのモメンタムを維持し…具体的な進展を得るために協働する」と謳っています(第10パラ)。

 

私たちもG7サミットに引き続き、6月パリサミットからCOP28まで、今度こそ運動をまき起こし国際連帯税や金融取引税をアピールしていきたいと考えています。

 

※写真は、NHKテレビより