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林外相に開発協力大綱改定とG7サミットでの国際連帯税提案を要請

外務省①冒頭写真

 

12月15日、グローバル連帯税フォーラムの金子文夫・田中徹二両代表理事、日本リザルツの白須紀子理事長と園田開インターン、国際連帯税創設を求める議員連盟の石橋通宏事務局長(参議院議員)、津島雄二初代議員連盟会長の代理・橋本岳議員(衆議院議員)とともに、6名で外務省に林芳正外務大臣を訪問しました。

 

記念撮影の後、林外務大臣に対して、「開発協力大綱改定並びにG7サミットでの国際連帯税導入のお願い」と題する要請書を提出。6名を代表して田中代表理事が、SDGs達成のためにはODAを補う国際連帯税が必要であり、その導入に向けて林大臣の国内外での指導性発揮を求めると発言しました。

 

 外務省②田中&白須

 

要請書の要点は、①近く改定される開発協力大綱に国際連帯税を盛り込むこと、②G7広島サミットに合わせて外務大臣会合で国際連帯税に取り組む提案をすること、③特に外国為替取引への課税をメインとすること、④新デジタル課税に連帯税を付加すること、⑤税収は国際機関管理という5項目でした。(※要請書全文はこちらから

 

●林大臣、為替取引への課税や有識者懇談会について言及

 

林外務大臣は議員連盟の前会長であったため、連帯税の意義、これまでの国内外での取組みについては十分な理解を有していました。連帯税の税目に関しては、航空券税には否定的であり、その一方、為替取引への課税についてはかねてから関心をもってみており、実需とは関係のない投機的な為替取引への課税には、それほど強い反対はないのではないか、ただし国際社会で連携して実施することがむずかしいといった発言がありました。

 

外務省③大臣&金子

 

また、過日外務省に設置された革新的資金調達に関する有識者懇談会(SDGs達成のための新たな資金を考える有識者懇談会)について、その再開を検討するかのような言及もなされました。

 

外務省④全景

 

今回の外務大臣要請をきっかけにして、コロナ禍で動きが鈍くなっていた日本での国際連帯税運動について新たな局面を切り拓いていきたいと思います。欧州でも先月エジプトで開催されたCOP27等を機に金融取引税(欧州版国際連帯税)への活動が高まってきました。国境を超えた運動として進めていきたいと考えています。

 

 

欧州での金融取引税議論>「損失と被害」資金、欧州議会での「復興基金」財源

 ピエールとグテーレス事務総長

               グテーレス国連事務総長とLarrouturou氏

 

欧州で金融取引税についての議論が高まりつつあります。ひとつは、先の気候変動枠組条約締結国会議COP27で「画期的に」決定した「損失と被害」支援資金に関して。もうひとつは、昨年12月に欧州委員会で提案された7500億ユーロ規模のコロナ復興基金の財源(償還資金)に関して。

 

●COP21パリ協定の設計者ローレンス・トゥビアナ氏たちが金融取引税を要求

 

ご承知のように、COP27は今月20日気候変動(危機)に起因する途上国の「損失と被害」の支援に特化した基金設立に合意しました。しかし基金の具体的内容(拠出者と受益者等)については来年のCOPで決めることになりました。すでにこの支援基金に向け、島しょ国のリーダーなどから様々な資金調達の提案がされてきました。国際炭素税、航空輸送や金融取引への課税、国際エネルギー企業等への棚ぼた税そしてIMF・SDR(特別引出権)の増強など。

 

一方、フランスにおいて、COP21でのパリ協定を設計した経済学者のローレンス・トゥビアナ(Laurence Tubiana)、全アフリカ議会の議長Karim Darwish、2007年にノーベル賞を受賞した「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の元副議長ジャン・ジュゼル(Jean Jouzel)欧州議会議員Pierre Larrouturouなどの国際的な専門家や欧州議員が「金融取引税を創設するための合意を得ることが、今までになく急務である」と仏紙『ルモンド』に発表しました(注1)。

 

専門家たちは、気候変動による損失と被害に対処するためのグローバル・サウス諸国への支援に向け、「この税(金融取引税)は、国連開発計画(UNDP)が2011年から支持しているもので、米国のジョー・バイデン氏や欧州議会も支持しています。欧州議会は2020年末の気候変動対策の資金調達に関する報告書で、欧州レベルだけでも…金融取引に0.1%の小さな税をかければ、大多数の人々の家計を傷つけずに年間最大で570億ユーロを生み出せます」と強調しています。

 

欧州議会、EUの新たな収入源決める>次は2023年末までに金融取引税などを

 

欧州連合(EU)は2020年に7500億ユーロ(約100兆円)規模の新型コロナ復興基金の創設を決め、昨年12月欧州委員会は基金の財源(償還資金)として、①排出量取引、②国境炭素調整措置(国境炭素税)、③多国籍企業への課税、の3案を提案しました(収入を170億ユーロと想定)。この3案につき11月23日の欧州議会で一部修正され採決されました(注2)。この後、欧州理事会で採択され、全加盟国が批准すれば晴れて実施となります。

 

一方、欧州議会では、欧州委案が採用されなかったり、収入が予定通り得られなかったりした場合には、欧州委員会はさらに適時に行動を起こす必要がある、と注文を付けています。これに対し、欧州委員会は「2023年末までに、金融取引税や企業部門に関連する独自財源を含む、新たな自主財源の第2弾の提案を行う」と強調しました。

 

金融取引税については、当初の欧州委のロードマップでは2014年までに制度設計を行い、2016年から実施となっていましたので、1年前倒しで進められそうです。

 

●地球規模課題の資金需要は年間「兆ドル」単位に>官民総力で国際連帯税実施を!

 

現在グローバル社会ではコロナ感染症、気候危機などに基づく貧困と飢餓の増大、そして難民の激増等々という地球規模課題が山積し、これへの対策が年間数兆ドル(数100兆円)単位での費用を要するようになっています。今こそ国際連帯税として金融取引への課税や巨大IT企業はじめとするグローバル企業への課税が必要となってきています。欧州で3度目の金融取引税への議論がはじまりつつあります。日本でもG7広島サミットに向け金融取引税など国際連帯税を要求していきましょう。

 

(注1)

« Il est plus urgent que jamais de parvenir à un accord pour créer une taxe sur les transactions financières »   

「金融取引税を創設するための合意を得ることが、今までになく急務である」

(注2)

MEPs clear way for new sources of EU revenue

欧州議会、EUの新たな収入源を決着させる

 

※写真は、グテーレス国連事務総長に対して金融取引税について説明するLarrouturou欧州議会議員(Larrouturou氏のTwitterより)

 

●グローバル連帯税フォーラム・インターン募集中!

 ⇒詳細は、http://isl-forum.jp/archives/3729 

フォーラム、インターン募集>世界のコロナ感染症・温暖化等の資金調達を!

オルタモンドユース2

 

グローバル連帯税フォーラムは下記の通りインターンを募集します。時間等が許される方は積極的にご応募ください。いっしょに活動しましょう、どうぞよろしくお願いします。

 

【グローバル連帯税フォーラム:インターン募集要項】

 

1. 呼びかけ
コロナ等感染症や気候変動などの地球規模課題のための対策資金を創出するスキームとしての国際連帯税、またグローバルな経済的格差を是正するためのトービン税(金融取引税)などについて強い関心を持ち、社会を変革したいと願う学生や社会人のインターンを募集しています。私たちといっしょに社会課題に取り組んでみませんか?

 

2. 取り組む業務
主に下記の業務のお手伝いをお願いします
 ① セミナーやシンポジウムなどのイベント運営
 ② 広報業務(SNSやML等による広報の実施)
 ③ 翻訳(主に英語)
 ④ 国会議員や省庁へのロビイング
  現在①~③は、オンラインでの活動が中心となっています。

 

3. 応募方法
 ① お名前(ふりがな)
 ② メールアドレス
 ③ 携帯電話番号
 ④ 属性(学生、社会人)
 ⑤ 所属(学校名、会社名、定年退職者)
 ⑥ 応募いただいた理由(800字以内でお書きください:メール本文でもWordでも可)
 上記①~⑥を記載したメールを下記メールアドレス(応募先)までご送付ください。
<応募先>
    gtaxftt@gmail.com (担当:田中)

 

※写真左は、「国際連帯税東京シンポジウム2008」のもよう。右はユースによる水の民政化に関する研究・発表会のもよう。

COP27「損失と被害」、エネ企業への課税案だが国際連帯税も必要

エジプトで開催されている第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)で、温暖化による途上国の「損失と被害」への先進国からの資金支援がメイン議題の一つとなっています。途上国側の代表として島が沈みつつあるなどたいへんな被害を受けている「島しょ国グループ」から、次のようなアイデアが出されているとのことです(注1)。それはこの間のエネルギー価格の高騰で「巨額の利益」を得ているエネルギー企業等の(超過)利益に課税し、それを対策資金とすべき、というものです(注2)。

 

温室効果ガス排出がとても少ない途上国からすれば、パキスタンの大洪水やアフリカ諸国の大干ばつなどに見られるように多大な被害を受けているのですから、このようなアイデア=提案はもっともなことだと思います。しかし、このエネルギー企業等の(超過)利潤への課税については、「ウインドフォール(棚ぼた課税)」として欧州各国で既に実施または検討中であり(注3)、先進国と途上国で奪い合いになりそうです。

 

こうした状況から、11月16日付日経新聞ではエネ企業等の利潤への課税について次のように述べています。

 

「実現には国際的な合意が必要で、簡単ではない。国際的な航空輸送や金融取引に課税する国際連帯税構想も長らくあるが、いまだに実現していない」

 

いずれにしても、「損失と被害」対策資金については、恒久的かつ国際(共通)炭素税、そして国際連帯税から捻出することがよいでしょう。通常の支援の方法は、自国の領土内で徴収した税収を海外支援に回すということで、絶えず自国国民からブレーキがかかります。例えば、アフリカの貧困に何億円か拠出するとした場合、その資金は自国の私たちの税金であること、また国内にも貧しい人たちがいること等から結構国民からの反発があります。こうした反発を抑えることができるのが国際連帯税スキームです。航空輸送や金融取引税は国家の領土主権の外で行われる消費行為に対する課税となるからです。

 

ともあれCOP27での「損失と被害」に対する資金については、いぜんとして先進国と途上国との対立があるようです。そういう中で、「130か国余りの途上国(G77)と中国が共同で、気候変動による被害を受けた途上国支援のための新たな基金の創設を議長国に提案」しました(注4)。提案の中身は分かりませんが、注目していきたいと思います。カリブ海の島国バルバドスのミア・モトリー首相が途上国や脆弱国により多く配分するIMFの特別引出権(SDR)の新規発行などを提案していましたが、どうなりますでしょうか。

 

(注1)
【日経】途上国の損失支援、エネ企業に課税案 COP27で浮上
(注2) 
利益への10%課税(1ドルにつき10セント)。主要なエネルギー企業はこの3カ月で2000億ドル(約28兆円)の利益を上げている。
(注3)
【日経】「棚ぼた課税」は愚策か 財源めぐるタブー破れ
(注4)
【NHK】COP27 130か国余の途上国と中国 新たな基金創設を議長国に提案

※写真は、UNFCCCのホームページより

金融所得課税:財務省「年間所得が数億円超の富裕層への増税検討」だが…

1億円の壁

 

【金融所得課税10%アップで約3兆円の税収を得ることができる】

 

●日本の所得税制は累進性が途中で崩れ、富裕層が有利に

 

昨日(11月8日)の日経新聞によると、財務省は年間所得が数億円超の富裕層への増税の検討に入ったと報じています(注1)。これは例の「1億円の壁」と言われている、所得が1億円を超えると税負担率が下がってしまうという(累進課税であるべき)所得税の「不公平・不公正性」を是正しようという狙いがあります。

 

実際、「財務省が10月上旬の政府税制調査会(首相の諮問機関)で示したデータによると、所得税と社会保険料の負担率は所得5千万超~1億円の層で28.7%と最も高い。所得5億超~10億円は21.5%、50億超~100億円では17.2%となり、300万~400万円の17.9%より低くなる」(同日経新聞 図参照)となっています。

 

なぜこうした事態になっているかと言いますと、次の通りです。勤労者などの「給与所得」は所得が増えるほど税率が上がっていく「累進課税」で、最高税率は4,000万円以上の45%(+地方税10%)ですが、他方、株式売却益や配当などの「金融所得」は一律15%(+地方税5%)という「分離課税」で、従って4,000万円以上の所得があっても「金融所得」が多いほど税率は下がってきます。その分岐点が1億円所得なのです。

 

●政府・与党は課税強化に向かうか?

 

金融所得課税の不公平・公正性については以前から指摘されており、とくに2019年消費税の10%へのアップ時には財務省も相当前向きでしたが見送られてきたという経過があります。また、岸田首相が誕生した当初「金融所得税の強化」を訴えていましたが、たちまち前言を翻す事態となっています。こうした中での今回の財務省の動きですが、いろいろ制約がかかりそうです。

 

そもそも自民党の税制調査会の動きがどうなのか、実施する気があるのか、です。なにしろ「貯蓄から投資へ」というのが岸田式「新しい資本主義」のキャッチフレーズですので(ぜんぜん新しくないと思いますが)。

 

ともあれ、記事では、①政府が進める創業支援に逆行しないこと、②所得5億円以下の層は土地・建物の売却益が多く固定資産税がかかることを考慮すること、③給与所得が大半の人はすでに高い税を払っているので調整すべきこと、④株売却益への課税強化は幅広い層に影響が及ぶので線引き等を検討、等々課題点が挙げられています。

 

●様々な条件が付き税収は縮小か?金融取引税の新設なども必要

 

では金融所得税を10%アップしたらどのくらいの増税になるかと言いますと、約3兆円になります(2019年の税収で 注2)。同税を分離課税ではなく総合課税としますと35%アップとなりますので税収は10兆円を超えるのではないでしょうか。10兆円超となりますと、消費税の4%分ほどになりますので、税収ボリュウームは十分と言えましょう。

 

しかし、総合課税化は激変となりますので、当面は10%程度のアップがよいのかもしれません。それでも政府・与党が課税強化に向かうとしても、上記のようにいろいろ条件が付いて、思ったほどの税収が上がらない恐れもあります。ですから、1000兆円を優に超える財政赤字を解消していくためには、所得税や法人税の累進課税の強化や金融取引税の新設などが必要となってきます。

 

驚いたのは、今回の22年度第二次補正予算において一晩で4兆円も積み上げ、しかも29兆円中22兆円を赤字国債で賄うという政府の行いです。英国では予算の裏付けのない安易な減税政策が財政の悪化を招くとして市場からの反乱にあい頓挫しましたが、日本の赤字垂れ流しは英国の比ではありませんので、近い将来が心配です。

 

●諸富徹:京都大学大学院経済学研究科 教授の「ひとこと解説」

 

図に示されているように、100億円の所得を得る人の所得税+社会保険料の負担率が、400万円の所得を得る人の負担率より低いという状況は、いくらなんでも正当化し難い。本来、累進所得税の目的は所得を再分配することだ。これでは税制が、格差の拡大を助長しかねない。所得税のこうした問題を是正するため、新興企業支援を施したうえで、一定の所得(5億円とか10億円)以上に対象を絞った課税強化なら、望ましいといえよう。逆進的な消費税は、すでに数次にわたって税率が引き上げられてきた。今後のさらなる引き上げも議論しなければならない中、再分配を担うはずの所得税の機能不全がこれ以上、放置されていてよいはずがない。

 

(注1)
超富裕層に増税検討 財務省「1億円の壁」是正目指す
(注2)
金融所得課税強化の株式市場への影響をどう予測するか

 

 

円安ドル高で物価高騰は止まらず、トービン税でヘッジファンドと戦うべき

149円

 

引き続く円安ドル高によっての物価高騰は止まらず、これに対し政府は「投機筋による過度な変動には断固たる措置を取る」(鈴木財務相)として先月為替介入を行いました。一方、金融系エコノミストや経済評論家は投機筋の動向を所与のものと受け入れ、状況解説するのみです。これに対し、私たちはトービン税による投機筋との戦いを提案しています。

 

●国内企業物価指数9.7%も上昇(コアCPIは+3%)、その50%強が円安要因

 

急速な円安が進み、政府・日銀は先月145円90銭の段階で為替介入を行いましたが止めることができず、150円台の攻防に入ろうとしています(10月17日149円台に)。こうした円安は輸入物価を高騰させ、9月には円換算で前年比+48.0%と跳ね上がり、この結果国内企業物価指数は9.7%も上昇してしまいました。この上昇を受け、生鮮食料品を除くコアCPI(消費者物価指数)は前年比+3%にもなりました。そして10月には6700品目が値上がりし、さらに円安はなお続く傾向ですから、有効な対策がなければまだまだ値上げが続くということになります。

 

この輸入物価高騰はエネルギーや穀物価格の上昇にもよりますが、今日ではますます円安による影響が強くなってきています。その影響は上昇分の5割強にも上っています。

 

●私たちの生活に関係する消費者物価高騰の大元を辿れば米国の高インフレに

 

翻って、そもそもなぜこうした事態になっているのかを探ってみましょう。まずなぜ円安になっているのか。それは日米の金利差によります(米=高金利、日=低金利どころかマイナス金利)。ではなぜ米国FRB(連邦準備制度理事会)は高金利政策を取っているのか。それは高インフレを抑制するためです。

 

つまり、一連の事態は次のような図式となります。【米国高インフレ⇒米国高金利(日本マイナス金利)⇒円安(ドル高)⇒日本輸入物価高騰⇒日本消費者物価高騰】

 

以上から、「日本消費者物価高騰」要因の大元を探っていくと「米国高インフレ」に辿り着きます。ではなぜ高インフレに? 結論的に言いますと、このインフレをもたらした最大の原因は、超がつくくらいの過剰流動性、つまりジャブジャブのお金が市中・市場に提供され、コロナ禍では当初使う場がなかったため過剰貯蓄がなされたのです(注1)。そのお金の出どころですが、基本的に超金融緩和による株高とコロナ対策のための複数回にわたる給付金です。この結果、ただでさえインフレ傾向だったのが、コロナ禍が下火になるとともに爆発的に需要が高まり、インフレも急速に高まったのです。

 

●米高インフレを呼び込んだ株式バブル、金融取引税による抑制必要

 

米国の株高ですが、2008年のリーマンショック以降FRBはゼロ金利や低金利を取り、また量的緩和政策をつい最近まで取り続け、すっかりバブル状況ともいえるような事態になっていました。とりわけGAFAなど大手IT企業の時価総額が大幅に上昇しました(22年1月3日に最高値)。今日高金利政策によって半ば強制的にバブルを弾けさせているのですが、「FRBは株価が下落することが望ましいと考えている」(ミネアポリス連銀のニール・カシュカリ総裁)とまで言われています。

 

米国が高インフレを避けるとすれば、2010年代の早い時期から超金融緩和政策を転換させるべきだったのですが、いったん決めた政策はなかなか転換できない(ウォールストリートなどのステークホルダーの圧力により)という現実があります。だとしたら、その政策遂行にブレーキがかかる仕組みを埋め込んでいくことが必要だったのです。この場合は、できるだけ過剰流動性を抑制する金融取引税です。

 

米国の与党・民主党内で金融取引税を主張する有力議員が何人もおり法案を作成していますが、どちらかというと税収を得るための金融取引税でした。今後金融市場の正常化というか安定化のための金融取引税という主張が出てくるではないかと思われます。

 

●通貨の著しい変動は「市場の失敗」なのにG7は「注意深く監視する」だけ

 

さて、いわば米国の一方的理由でドル高が取られ、その結果日本円のみならずユーロも韓国ウォンもというように、世界各国が通貨安に見舞われています。この背景には、金利差が激しいドル/円相場が典型ですが、この差を利用してヘッジファンド等投機筋による通貨安攻撃があるのです。こうした事態に対し、今月G7ならびにG20財務相・中銀総裁会議が開催されました。

 

その対策について、G7は次のような声明を発しました。「声明は『多くの通貨がボラティリティー(変動率)の高まりに伴い著しく変動している』と指摘した。その上で、為替レートは市場で決定されるのが原則だとしつつ、過度な変動や無秩序な動きによる経済への悪影響に言及したG7の従来の合意を再確認」し、「注意深く監視していく」とのことです(注2)。

 

つまり、為替レートは市場で決定されるはずだが、そうはなっていない事態とは「市場の失敗」ではないでしょうか。だとするならば、監視しているだけではどうしようもなく、参加国どうしによる協調政策が必要でしょう。例えば、かつてのドル高を抑えるためのプラザ合意による協調為替介入ということも考えられますが、当時とはまるで状況が違いますので、為替取引への課税、つまりトービン税が有効ではないでしょうか。同税は、今から50年前の1972年、ノーベル経済学賞受賞者でもあるイェール大学のジェームズ・トービン教授(当時)が「一国の金融政策の自律性を獲得するためのスキーム」として提唱されました。

 

●国際金融「トリレンマ論」はトービン税で克服でき、税収を有効に活用できる

 

ところで、内田稔・高千穂大准教授は国際金融の「トリレンマ理論」を用いて、現今の円安問題について次のような論考を記しています(注3)。

 

まず「国際金融のトリレンマとは、1)為替相場の安定、2)金融政策の独立性、3)自由な資本移動──の3つを同時に満たすマクロ経済的な枠組みや制度は存在せず、どれか1つを放棄しなければならないことを指す」こと。それでこの枠組みでドル/円上昇に歯止めをかける選択肢を考えると、次の2つ。「1つは、金融政策の独立性を放棄することだ。このケースでは、米国に倣って利上げに踏み出さなければならない」というもの。「もう1つは新興国と同じく資本移動に制限を加えることだ。例えば、円安圧力つながる輸入や対外的な投資への制限がこれにあたる」。しかし、「日本にとって、どちらの選択肢も非現実的であることは明らかだ」、と。

 

では、どうすべきか。「消去法で考えて為替相場の安定を放棄する以外、日本には選択肢がない」「(世界のインフレが収束し、多くの中央銀行が金融緩和へかじを切るとか等々の)外部環境に変化がみられない限り、ドル/円はまだ、高値を目指す危険性が高い。率直に言えば、150円で止まるのかどうか、極めて疑わしくなってきた」、と内田さんは言います。つまり、手の打ちようがなく、150円で止まらないのではないか、というのが内田さんの結論のようです。

 

ウーム、困ったものですが、本当に円安を止める手段はないのでしょうか。あります。G7やG20のリーダーは、まずもって上記トリレンマ論で言うところの「自由な資本移動」がこれまで何度も行き過ぎた投機マネーの跳梁を招いてきたという「市場の失敗」を認識すること、その上でそれを克服すべく為替取引に課税し投機マネーを抑制するというトービン税を協調して実施することです。

 

そういう意味で、イエレン米財務長官の「市場で決定される為替レートがドルにとって最良の体制であり、それを支持する」(注4)という発言はとうてい承認することはできません。同長官は実はイェール大学でトービン教授(当時)の薫陶を受けた学研の徒であっただけに残念です。

 

ともあれ、G7やG20で協調してトービン税を実施すれば、投機筋の跳梁を大規模に抑制できるでしょうし、一国でも取引量が莫大ですので(東京市場の取引は1日当り65兆円にも上る)、税率をぐっと押さえれば実施可能でしょう。そして同税は税収が上がりますから、それを感染症・パンデミックや気候変動・脆弱国「損失と被害」に使用することができます。

 

ともあれ、米高金利による円安/ドル高そして物価高騰はいっこうに止まりませんので、引き続きトービン税の必要性を政府や国会議員、エコノミストやマスコミに訴えていきたいと考えています。

 

(注1)
【日経新聞】「過剰流動性」の正体は 問われるバイデン経済政策
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGD00006_Q0A231C2000000/ 
【日経新聞】FRB「倍速利上げ」の賭け 3兆ドルの過剰マネー火種
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB067AS0W2A500C2000000/
(注2)
【時事通信】通貨の「著しい変動」懸念=国際金融市場を注視―G7財務相・中銀総裁会議
https://equity.jiji.com/oversea_economies/2022101300130
(注3)
【ロイター通信】コラム:「国際金融のトリレンマ」からみた円安、150円目指す動き濃厚
https://jp.reuters.com/article/column-minori-uchida-idJPKBN2R907P
(注4)
【ロイター通信】米財務長官「市場で決まるレートが最良」 ドル高批判受け
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN14EQ80U2A011C2000000/

 

※写真は「投機筋による過度な変動には断固たる措置を取る」と発言している鈴木財務相

気候脆弱国が炭素税、航空税、金融取引税などグローバル税を要求

パキスタンの洪水(テレ朝報道ステーションより)

パキスタンの洪水(テレ朝報道ステーションより)

 

今世紀半ばの干ばつ予想(日テレより)

今世紀半ばの干ばつ予想(日テレより)

 

9月20日から国連総会一般討論がはじまり、現在ウクライナ問題を軸に主要国が討論を行っています。一方、世界で最も気候(温暖化)危機に対し脆弱な国が、危機に対処すべく「損失と損害」についての文書を総会向けに準備しているとのことです。このことにつき英ガーディアン紙が報じていますので紹介します。

 

●気候変動「損失と損害」とは?

 

その前に、「損失と損害」について簡単に説明します。気候変動に関する途上国支援としては2つあり、それは温室効果ガスの排出削減のための緩和策と気候変動影響への適応策です。ところが、近年の気候危機は途上国が適応できる範囲を超えて、大干ばつや大洪水など甚大な被害をもたらしつつあり、途上国は「損失と被害」への補償も先進国に求めてきました。温室効果ガス排出が圧倒的に少ない途上国が、主に先進国からの温室効果ガス排出によってもたらされている気候危機の最大の被害者となっているからです。

 

この「損失と被害」について昨年のCOP26でようやく主要議題の一つとなり、脆弱国は具体的な支援につながる何らかの機関・基金の創設を求めましたが、合意できませんでした。ただ今後もこの実現に向けて協議を続けるということになり、今年のエジプトで開催されるCOP27では「損失と損害の基金の創設と資金動員」が突っ込んで議論されると思います。

 

そこで前もって国連総会という場で、島が沈んでしまう危機を有する島嶼国等の脆弱国が「損失と損害」に関する資金動員を図るための討論文書を用意しているということです。

 

●ガーディアン紙の記事

 

脆弱な国々は、気候がもたらす損失と損害の代償としてグローバル税を要求する

Vulnerable countries demand global tax to pay for climate-led loss and damage 

 -貧しい国々は、化石燃料の大口使用者と航空旅行に対する「気候関連および正義に基づく」課税を検討するよう国連に要求した。

 

世界で最も脆弱な国々は、気候危機によって被る回復不能な損失に対して、化石燃料や飛行機への新たな課税を含む緊急の資金調達を要求し、富裕経済圏に対抗する準備をしていることが、リーク文書で明らかになった。

 

異常気象はすでに多くの発展途上国に大きな打撃を与えており、さらなる大災害を引き起こすと予測されている。損失と損害、つまり、気候破壊の最も極端な影響に苦しんでいる貧しい国々をどのように支援するかという問題は、気候交渉で最も論争になっている問題の一つである。

 

世界で最も脆弱ないくつかの国は、今週の国連総会での議論のためのペーパーを準備した。それによると、貧しい国々は、発展途上国が被った損失や損害に対する支払いを賄う方法として、「気候関連と正義に基づく」グローバルな税の要求のための準備をしているようだ。

 

その財源は、世界的な炭素税、航空旅行への課税、船舶が使用する汚染度が高く炭素集約的なバンカー燃料への課税、化石燃料採掘への追加課税、あるいは金融取引への課税によって調達される可能性がある。

 

討論文書では、それぞれの利点と欠点、そして世界銀行、国際通貨基金といった世界の開発銀行や民間セクターを通じて富裕国から資金を調達する選択肢を指摘している。

 

損失と損害の資金調達に関するすべてのオプションは、化石燃料の価格が高騰し、食糧価格が上昇し、世界中で生活費が危機的状況にある今、富裕国が同意することは困難であると思われ、…中略…(さらに)ロシアのウクライナ侵攻以降の地政学的な激動の中で、今年の協議はより険悪なものになりそうだ。

 

…中略…

 

アンティグア・バーブーダの国連大使で、小島嶼国連合の議長を務めるウォルトン・ウェブソン氏は、次のように述べた。「私たちは、負債と破壊の恐怖におびえることなく生きる資格があります。私たちの島々は、私たちが引き起こしたのではない危機の最も重い負担を負っており、専用の損失および損害対応基金を緊急に設立することが、持続可能な復興の鍵になります。私たちは、年を追うごとに極端になっていく気候の影響を経験しているのです。

 

全文はこちら⇒

Vulnerable countries demand global tax to pay for climate-led loss and damage

https://www.theguardian.com/environment/2022/sep/19/vulnerable-countries-demand-global-tax-to-pay-for-climate-led-loss-and-damage 

【財務省高官への手紙】超円安を止めるスキームとしてトービン税を!

 

 神田財務官

 

この間の急速な円安(ドル高)に対し、日本政府も多くのエコノミストも円安を前提として対策を立てようとしており、短期に為替変動を導いているヘッジファンド等投機筋への対策は立てられないままです。確かに投機筋は日米金利差を利用して円売り攻撃を仕掛けていますので、金利差を縮める政策、例えば長期金利規制(YCC=イールドカーブ・コントロール)の緩和は有効のように見えます。しかし、事はそう簡単ではなさそうです(詳しくは次回に説明)。

 

では投機筋の攻撃を直接抑止する方法はないのかと言えば、為替介入とトービン税導入が考えられます。後者については、投機筋からの徴税を(例えば)感染症・パンデミック対策のための資金として使うことができます。

 

ともあれ、以上の立場から日本政府の為替政策のポリシーメーカーである財務省高官に以下のような手紙を書きましたので、お読みいただければ幸いです。

 

 

 

【財務省高官への手紙】

 

財務省○○局長 様

 

お世話になっています。…略… 円安対策での提案です。ざっと目を通していただければ幸いです。

 

この円安ですが、日米金利差や貿易赤字による影響を背景として、具体的には為替市場でヘッジファンド等投機筋が売りを仕掛けており、それに様々な投資家が追随していることで実現しております。とくに8月26-27日のジャクソンホールでのパウエル-黒田発言以降、売りが売りを呼ぶ事態となり、145円近くまで下落しました。その上投機筋は日本国債へ6月に続いて再度売り攻勢を強めているようです。

 

こうした直近の投機筋の売りを止める方法としてはまず為替介入が考えられますが、それにも限界がありますので、今こそトービン税導入(準備)を考えるべきではないでしょうか。ご承知のように、中国では2014年、2016年と人民元への投機筋のアタックに対し「トービン税検討」を打ち出しファンド等をけん制してきたという経緯があります。

 

投機筋の攻撃は、日本のみに向けられているのではなく、EUのユーロ売りにも、さらにイタリアの国債売りにも向かっているようです。従って、日本政府からEUに呼びかけてヘッジファンド等投機対策を設置し、その対策ツールの一つとして「トービン税検討を行う」とのアナウンスメントを発してはいかがでしょうか。相当投機筋へのけん制となり投機抑制に繋がるのではないでしょうか。またアナウンスメントで終わるのではなく、逆にこうした事態を利用してトービン税導入を図ってみてはいかがでしょうか。税率は0.0001%という超々低率でも構わないと思います。

 

トービン税は税金ですので、税収が上がりますが、それを当面感染症等パンデミック対策のための資金としてもよいと思います。

 

以上でございますが、米国の金利上昇はまだ続き、投機筋のアタックもやむことがないと思いますので、日欧連携でヘッジファンド対策を行っていただければ両国・地域の人々は大いに助かることは間違いありません。どうぞご検討のほどよろしくお願いします。

 

※写真は、20数年のドル円相場の推移と9月8日「財務省、金融庁、日銀」3者会合後の記者会見に臨む神田真人財務官【BS-TBS「Bizスクエア」より】

 

超円安140円!続く物価高騰、即効性ある対策は為替介入とトービン税準備

円安が急速に進んでいる

 

●超円安要因は日米金利差を利用したヘッジファンド等投機筋の円売り攻撃

●日銀の大規模金融緩和と国家財政の立て直しの前に、為替介入とトービン税準備が必要

 

1、円安による物価上昇はこれからが本番

 

7月19日に放映されたBS-TBSの『報道1930』で元日本銀行理事の早川英男氏は次のように発言していました。「…物価が上がるのはこれからなんです。今までの物価上昇は原油高とか、小麦が上がったりの影響で、この最近の円安が物価に表れるのは夏から秋くらい。今の物価上昇は1ドル120円くらいの円安の分。その後の分はまだまだ全然反映していない。物価はこれからまだまだ上がる」(注1)。

 

実際、帝国データバンクの調査によれば、「今年8月末までに計2万品目が値上げされ、10月は単月で最多の6532品目の値上げ計画が明らかになった。CPI(消費者物価指数)の上昇率は今秋に3%を超えるとの予想もある」(注2)とのことです。

 

食料品値上げはもとより、電気代も東京電力では、13カ月連続の値上げで、標準的な家庭の1カ月当たりの料金は8月に比べて8円高くなり9,126円となります。これに加えてガス代も上がっていくでしょうから、今年の冬は厳しくなりそうです。

 

2、インフレは預金を減らし、税金を取られるのと同じ>拡大する格差

 

少々のインフレがあっても、連動して賃金や年金が上がっていけばよいのですが、日本の場合そうはなっていませんので、生活レベルが実質的に低下してきています。さらに私たちのなけなしの預金も物価上昇分だけ価値が減少していきます。

 

一方、インフレで得するのは借金をしている側です。どれだけ物価が上がっても、返済する金額に変化はないので、借金の実質的な負担は物価上昇分だけ軽減されます。では国内で一番借金を背負っているのは誰かというと、1000兆円を超す負債を有する政府です。「つまり、インフレが進むと国民の預金から政府に所得が移転するので、これは国民の預金に税金をかけ、政府債務の返済に充てたことと同じになる」(注3)という訳です。

 

もっとも借金を負っているものが得をするとしても、最終的に破綻する可能性もあるわけで、救済されるわけではありません。今回のインフレで最も得をするのは、ドル通貨とドル建て有価証券を持っている大企業や富裕層でしょう。彼らは為替差益でただ寝ていても儲けを得ることができるのです。かくて、物価高に喘ぐ一般勤労者・年金生活者や価格の転嫁できない中小企業と大企業や富裕層との格差が一層拡大していくことになります。

 

3、金利を上げることができない日銀、第2波の国債攻撃の標的に

 

インフレを抑制する手段の一つは中央銀行(日銀)による金利アップ政策(金融引き締め)です。日本のインフレの最大の要因は円安による輸入品価格の上昇にあり、そしてこの円安は米日の金利差を要因としているのですから、二重の意味で日銀は利上げが待ったなしの政策であるはずです。ところが、日銀・黒田総裁は大規模金融緩和を続けると言明し、10年もの国債金利まで0~0.25%に強引に抑え込んでいます(YCC/イールド・カーブ・コントロール)。

 

インフレに備え主要国が軒並み政策金利を上げているのに、なぜひとり日本だけ金融緩和を続けているのでしょうか。それは、次の二つの理由によります。1)日銀の保有する莫大な国債の価格が下落し、日銀が債務超過になる恐れ(日銀当座預金への利払いを含む)、2)国の一般会計歳出での公債利払いが飛躍的に増加し満足に予算がたてられなくなる恐れ、があるからです。

 

要するに日本政府は莫大な借金(国債発行)による予算で国を運営し、その国債を実質的に日銀に買わせ、かくて政府も日銀も借金で首が回らなくなる状況になりつつあるのです。YCC政策などはほとんど金融政策の禁じ手であり、なのにそれを使わざるを得ない事態となっています。

 

8月末のジャクソンホール会議でパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が「(インフレを抑え込むための金融引き締めを)やり遂げるまでやり続けなければならない」と講演。これを受けて外国為替市場では円相場は24年ぶりの安値である1ドル=140円台に急落することになりました。これで息を吹き返したのが、日本の国債価格下落に賭けるヘッジファンドの国債売りが再びはじまりました。かくして外国為替市場では投機筋による二重の円安攻撃が行われることになりました。

 

4、提案:円安攻撃を食い止めるために為替介入とトービン税を

 

米国の金融引き締めはいつまで続きそうかと言うと、「FRB高官には2023年いっぱいは利下げに転じないとの見方が出ている」とのことです。なのに、日銀がこのまま金融緩和を続けることになれば、ますます金利差が広がり、日本のインフレがいっそう高じてきます。

 

では、この円安を食い止めるにはどうすればよいか? 短期的には円買いドル売りの為替介入を行うことです。実際、日本政府は「97~98年には130円台でも円買い介入に動いていた」こともあり、「急激な円安が市場を混乱させるようなことになれば、当局の警戒モードも高まり、円買い介入に踏み切る可能性も出てきそうだ」と日経新聞は報じています(注4)。しかし、日本政府のドル保有(外為特会)にも限度があることから、ヘッジファンドが束になって一斉に円売りに出ると負けることも考えられます(1992年の英ポンド売りや1997年のタイ・バーツ売りのように)。

 

そこでトービン税(外国為替取引への課税)の出番で、上記為替介入とトービン税との合わせ技でヘッジファンド等の投機筋と対決することです。まず日本当局はトービン税導入を研究しはじめたというアナウンスメントを公表することです。中国の人民銀行が行った手です(注5)。最初は10ベーシスポイント(0.1%)課税という高い税率を公表することです。そして

実際為替取引税を導入する場合には、取引当事者の税を取られているとの意識を極力避けるための税率0.0001%(1億円の取引に対し100円の税収)で制度設計することです。

 

このような超々税率でも、年間1000億円(東京市場のみ)~3000億円(グローバル市場)の税収になります。これを感染症パンデミック対策資金として連帯税的要素として使用することが可能です。

 

この間再三述べてきましたが、為替相場を決めるのは、①貿易、②金利、③投機という3要素です。①と②は経済のファンダメンタルズによるものですから、これを改善するには時間がかかります。が、③は短期に対処しなければなりませんし、また政府が本格的に取り組めば対処することができます。要するに、国家はヘッジファンド等投機筋に付け込まれるような金融・財政政策をとってはならないということです。前者は大規模金融緩和であり、後者はもっぱら借金による財政運営のことです。

 

(注1)

【報道1930】ヘッジファンドトップが語る「日銀は必ず負ける」

https://youtu.be/7Ma9X0YT4V4 

(注2)

【日経新聞】円安でも動けぬ黒田、覚悟のパウエル 金融政策総点検

日米中銀、異次元の難局(上)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB239SQ023082022000000/ 

(注3)

【現代B】岸田首相もやっと危機感…政府の「インフレへの鈍感さ」が、これから引き起こすこと

https://gendai.media/articles/-/98963 

(注4)

【日経新聞】円安はどこまで進む? 政策の日米差鮮明、節目は147円か

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB020VY0S2A900C2000000/ 

(注5)

【ロイター】為替投機対策でのトービン税導入、研究段階=中国人民銀副総裁

https://www.reuters.com/article/g20-china-idJPKCN0WN09P 

 

※写真とグラフは日経新聞より

金子 宏先生ご逝去、国際人道税を提唱した先駆者

金子先生スピーチ(2019年2月)

              発言する3年前の金子先生(2019年2月)

 

日本の租税法のオーソリティーであり、かつ税制に基づく国際援助資金調達のスキームである国際人道税を提唱した金子 宏・東京大名誉教授が去る8月23日にご逝去されました。91歳でした。報道は「課税要件の理論的解明という課題に取り組み、租税法学の基礎を築いた。2018年に文化勲章受章」(共同)と述べています。

 

国際人道税ですが、広く知られるようになったのは2006年8月3日付日本経済新聞の経済教室に「人道支援の税制創設を 国際運輸に定率で」と題した先生の論考が載ったことです(すでに1998年に発表済み)。私たちは先生の提唱する人道税は航空券連帯税そのものではないかと驚き、早速連絡を取らせてもらい、翌年先生の講演会を開催しました。以降、国際連帯税の節々のイベント等に先生に出席していただき、先生の熱い人道税=連帯税への想いを語っていただきました。

 

金子先生は租税法のオーソリティーであり、従って学のみならず政官財に余多の門下生を送り出しています。しかし、先生のヒューマニティ溢れる国際人道税等の理論を引き継ぐ人士が出ていないことを本当に残念に思います(ただ「金子教授と国際人道税」などと解説する直弟子先生はいますが)。

 

ともあれ、国際人道(連帯)税を学問的に裏付けし、さらに推進しようとした先生の功績は大なるものがあります。日本ではまだ実現していませんが、先生の意思を受け継ぎ頑張っていきたいと思います。以下、3年前の金子先生のスピーチを送ります。

 

 

【金子宏先生のスピーチ】

 

2019年2月25日「国際連帯税アドバイザリーチーム」立ち上げ会合での金子宏東京大学名誉教授のスピーチです。

 

ただ今ご紹介いただきました、金子でございます。予定の時間を過ぎて、遅れて参上いたしまして、大変失礼いたしました。ここに、先輩であり長年の友人である津島雄二さん(注:元自民党税調会長で国際連帯税創設を求める議員連盟の初代会長)がご一緒してくれました。昨年文化勲章を拝受いたしまして、非常に光栄なことと存じております。これは、租税法という法律、これは他の分野と比べると新しい分野でございますけれども、その分野の理論と体系を構築したということで、拝受いたしました。本当に光栄なことと存じております。

 

それから、今ご紹介がありました、国際連帯税に関しまして、私は国際人道税と呼んでおりますが、どちらも国際航空運賃に課税をするという点では共通でございます。1998年に日本の雑誌に国際人道税という名称で国際航空運賃に課税したらどうかという提案を含んだエッセイを書きました。そして、たまたま日本に来ておられたハーバード大学のロースクールのオールドマン先生に、こういうものを書いたと話しました。すると、国際航空運賃に課税するという提案は、まだ誰もしていないから、是非とも英語で発表するようにということで、早速アメリカのインターナショナル・タクゼーションに関する雑誌に掲載する手はずを整えてくださいました。私の拙い英語で英訳しましたが、オールドマン先生の弟子で、私の長年の知り合いのラムザイヤー教授が私の英語を見て、必要な訂正を施してくれて、ラムザイヤーさんが翻訳したくれたところ、見違えるほど内容が良くなりました。そして、それがアメリカの雑誌に載りました。

 

2006年でしたか、2000年代に入ってから、フランスの旧植民地の色々な人道問題を援助しているNGOを通じて、シラクさん(注:当時のジャック・シラク仏大統領)に対して強力に国際人道税を導入して、国際航空運賃に課税をすべきだと、そしてフランスの旧植民地においてマラリア根絶などの費用に充てる為に導入したらどうかと働きかけをしたようであります。シラクさんは最初反対しておりましたけれども、説得の結果導入されたようでありますが、フランスで導入されたものが、フランスの旧植民地に使うということで、UNICEFなど国際組織に寄付をするという私の提案とは違い、フランス政府の手で使うということになったようです。その後、いくつかの国と連帯して、共同で色々な事業に使っているようであります(注:UNITAID・国際医薬品購入ファシリティという国際機関を設立し、途上国の感染症対策のための医薬品等の購入を行う)。

 

私は、国際航空運賃というのはどこの国も消費税をかけることができないという理由で、つまり国外の消費でありますから、消費税の対象にならないためどこの国も課税してこなかったのでありますけれども、色々な宗教対立とか人種間の紛争とか、それによって子ども達が悲惨な目に遭っているという状況に照らして、今までどこの国も課税できないとして課税してこなかった国際航空運賃に課税をして、その税収をUNICEFに寄付して、UNICEFの手で色々な国でひどい目に遭っている子ども達の救済に充てたらどうかと考えた訳であります。

 

いくつかの国で、シラクさんが採用した国際連帯税という制度を採用している訳ですけれども、先ほど申しましたように、私の提案とは徴収した国が使うのか、それを国際組織に寄付をして国際組織の手で色々な、例えば国境なき医師団とか、国際的な活躍をしている、経験のある組織にお金を出してそしてそれを子ども達の救済に充ててもらうのかという違いがあるわけでありますけれども、私は今の国際連帯税がやがて税収を各国が使うのではなく、国際組織に使ってもらうというようになっていくといいなと考えています。

 

ですから、国際連帯税と国際人道税は決して違うものではなくて、私が同種の租税が将来的には徐々に国際人道税に発展してゆくことを期待している訳であります。国際連帯税に反対するわけではなく、むしろその発展に少しでもお役に立つことができればというふうに思っている次第でございます。歳を取ってしまいましたけれども、できる限りでご協力をしていきたいと思っております。ちょっと長くなりましたけれども、以上でございます。どうぞよろしくお願いいたします。(大きな拍手)