5、環境・貧困・格差に立ち向かう国際連帯税の実現をめざして ―地球規模課題に対する新しい政策提言―

国際連帯税推進協議会(寺島委員会)最終報告書、2010 

 

国際連帯税推進協議会(通称、寺島委員会)は、国際連帯税、とりわけ通貨取引税の内容 と方法、税収の使途、ガヴァナンスを検討し、日本からその実現の道を切り開いていくこと を目的として、国際連帯税創設を求める議員連盟(2008 年 2 月設立)との密接な連携のも と、2009 年 4 月に創設された。委員は、この分野に関心をもつ研究者、NGO、国会議員、 労働組合、金融業界によって構成され、外務省、財務省、環境省、世界銀行がオブザーバー として参加した。協議会はこれまでに 10 回開催され、2009 年末に中間報告書を作成し、そ れをふまえて今回の最終報告書が完成した。

 

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「環境・貧困・格差に立ち向かう国際連帯税の実現めざして」

6、IMF中間報告書 金融取引への課税:実務上の実現可能性の評価

IMF中間報告書     WP/11/185

IMF(国際通貨基金)財政局

 

金融取引への課税: 実務上の実現可能性の評価

 

著者: John D. Brondolo[1]

配布認可者: Michael Keen、Juan Toro

2011年8月

I. はじめに

 

本文書は、様々な金融商品に対する金融取引税(FTT)徴収の管理実現可能性を検討するものである。現在このテーマには、政治家、市民社会組織、学者が多大な関心を寄せているとともに、金融セクターへの課税の様々な選択肢に対する政策・管理メリットに議論が集中している。FTTに関するこの重要政策課題については、本文書以外でも幅広く議論されている。例えばIMF(2010a)およびMatheson(2011)では、税収確保と金融市場破綻の軽減を目的とする場合には、他の課税措置がよりふさわしいとの議論を展開している。本文書では、管理実行可能性の問題、つまり広い基盤を持つFTTが管理可能であるか、またそれをどのように行うかという点にのみ焦点を合わせている。

 

FTTは金融商品の取引に課する税である。 同税は金融商品の売買および、定義上は売買と見なされなくとも同様の効果のある金融取引の形態(例えば種々のデリバティブ(金融派生商品))に適用することを想定している。FTTは1種類の金融商品、少数の金融商品、または広範囲の金融商品(株式、確定利付き証券、デリバティブ、外国為替など)に課税することが考えられる[2]。いくつかの国が現在FTTを徴収しているが、大抵の場合、少数の金融商品(最もよく見られるのが株式および債券)[3] への課税である。

 

FTTはいくつかの手法により構築することが可能である。同税の管理における主な特徴は以下の通りである。

 

・同税は金融商品の最初の発行時、同商品のその後の取引、またはその両方に適用できる。

・同税は、取引により持ち主が変わる金額、取引の想定元本、またはその他の様々な査定方法に基づきさてい評価

できる。

・一定の種類の取引また一定のカテゴリーに当てはまる者を免除するよう設計することができる。

・同税は、単一の税率または複数の税率で、従価方式(%)または特定金額(固定額)の税として課税することができ

る。

・同税は、売り手、買い手、またはその両方に課税することができる。

・取引所、手形交換所、または市場参加者が徴収することができる。

 

金融取引への課税という考え方には長い歴史がある。ケインズは1936年、有価証券取引に対し相当な額の譲渡税を課すことにより、金融市場での投機を減らす可能性を提起している。[4] その40年後、トービンは通貨市場の不安定性を低減する手段として通貨取引への課税を提案した(Tobin, 1978, 1996)。それ以降、FTTの長所・短所が広く議論され、現在もその議論は続いている。

 

近年、FTTへの新たな関心の高まりが見られる。この関心の高まりは、次のような動きが一因となっている。2009年1月にピッツバーグで開催されたG20サミットで、G20首脳らは、2010年6月のトロントでのG20サミットに向け、銀行制度修復のための政府介入に関わる負担に対し金融セクターが公正かつ実質的な貢献をする手段のオプションについて、IMFに報告書を作成するよう依頼した。2010年6月のサミットに向け、学者、市民社会組織などが、FTTを含む様々な税政策について意見を述べた。この中で、FTTの支持者の中には、FTTのような税が(国際開発を含む)様々な目的のために歳入を確保する手段として、また金融市場が破綻するリスクを低減するための手段として、有用であると考える者もいた。

 

IMFG20首脳への報告書の中で、IMFが助言を求められた課題に対しては、FTT以外の課税政策がよりふさわしいとの見解を示した。[5] 同報告書では、過去の賃借対照表項目に基づき「回顧的に」金融機関への負担を課すことが、近年の危機時の金融機関に対する直接支援で発生した財政費用を回収する方法として、最もゆがみを抑えた方法であるという提案をしている。また同報告書では、将来の金融破綻の原因を取り除くために、次の二つの税を提案している。(1)過度のリスクを冒す行為を抑え、将来の破綻の直接的財政費用を賄うための、解決メカニズムにつながる、金融安定負担金(FSC:Financial Stability Contribution)および、(2)将来の金融危機のより広範な財政的、経済的費用を賄うこと、金融セクターが巨大すぎることによる税のゆがみを相殺すること、過度のリスクを冒す行為をさらに減らすことを目的とした金融活動税(FAT:Financial Activities Tax)である。[6]

 

トロントサミット後も、引き続きFTTは注目を集めてきた。例えば、「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」が2010年に作成した報告書では、グローバルな通貨取引税の採用を提案している。[7] 2011年1月、欧州委員会は、2011年夏までに金融セクターへの課税に対する影響評価(FTT導入の影響評価を含む)を作成することを示唆した。[8] また2011年2月には、同議題について関係者が意見を述べる諮問論文を発行した。2011年3月、欧州議会はFTTの導入を欧州連合(EU)に強く求める決議を採択した。このような中で、FTTの支持・反対に関する議論は、主に同税の政策的影響と管理実現可能性に集中して行われるようになっている。

 

FTTに関しては、いくつかの政策的懸念が挙げられている。FTTは、歳入を創出するものであると同時に、有価証券の価値を下げ、使用者にとっての資本の費用を増やし、金融市場の流動性を低下させることから、非効率な手段であることが分かったためである。金融市場規制とバブル予防に関するFTTの効力についても懸念の声が上がっている。つまり、FTTが短期的な価格の不安定性を抑えるという説得力のある証拠はなく、また資産バブルは過度の金融取引数というよりは過度のレバレッジにより引き起こされることが分かっているのである。さらに、FTTの実際の負担は、金融セクターの収益にかかる(そのように想定されていることが多いようであるが)というよりは、主に最終消費者の負担となるという可能性も指摘されている。[9]

 

FTT導入を計画する国は、税管理の問題についても相当の検討をする必要がある。一般的な議論として金融取引への課税の実現可能性評価を行っている論文はすでにいくつかある(Griffith-Jones 1996, Schulmeister 2008, Kern 2010, Leading

Group 2010)。また、特定の種類の金融商品、特に外貨取引に対して、取引税を適用する方法を詳細に説明した論文もある(Kenen 1996, Schmidt 1999, Spahn 2002, Hillman, et. al. 2006)。しかし、幅広い金融商品に適用するFTTの管理について、その実現可能性と選択肢を掘り下げて評価した論文は、我々の知る限りではまだ存在しない。

 

原則として、FTTは他の税以上に管理が困難というわけではなく、逆により簡単な側面もある。他の税に適用されるのと同じ管理業務、つまり、納税者の登録、税の査定と徴収、税負担の検証が、FTTでも必要となる。これらの業務にはFTTのいくつかの特徴が有利に働く。同税が取引ベースで課税されるため、多くの金融商品について税負担額の計算がかなり容易になる。金融セクターの記録能力が高いことから、同税の計上が容易になる。また、FTTの対象主体数が比較的少ないことから、同税の管理に関する税当局の作業量が削減される。

 

実際には、FTTの管理にはいくつかの難題がある。その中には、同税の地理的範囲、課税対象となるイベント、税基盤、課税対象者の定義といった、概念的な問題に関わる課題もある。また、金融商品は非常に流動性が高く、常に革新されていくため、課税対象外の管轄区や商品へと取引を移動させることにより租税回避が可能となるという問題もある。

 

ケインズおよび後にトービンがFTTを提案して以降、同税の実現可能性を促進する発展および、同税の実現可能性を複雑化させる発展があった。実現可能性を促進した要素としては、金融商品の決済における手形交換所の役割の拡大、自動取引プラットホームの急増、紙ベースの有価証券から電子記帳式の有価証券への変換、近年いくつかの国においてデリバティブの相対(OTC)取引の規制が強化されたことが挙げられる。実現可能性を複雑化させた要素としては、新しい複雑な金融商品の創造、増加の一途をたどる金融取引量、進む金融市場のグローバル化が挙げられる。

 

これらの背景に照らし、本文書では、広い基盤を持つFTTの管理実現可能性を評価する。それにより、このような税を、(1)上場商品、(2)OTC商品、(3)外国為替商品、という3つの広範かつ一部重複する金融商品カテゴリーに適用する方法について検討する。(3)に示す外国為替商品については、取引所およびOTCで取引されるものであるが、外国為替市場が大規模であること、取引の性質がグローバルであること、これらの商品への課税に対する注目度が高いことから、独立した一つのカテゴリーとして扱う。本文書では、これら3つの各カテゴリーについて、FTTの管理を促進または複雑化する要素、同税の査定と徴収のオプション、起こる可能性の高い遵守に関わるリスクの種類、これらのリスクを緩和する方策について、検討する。[10]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IV. 外国為替商品

 

外国為替市場に対するFTTの課税というのは、特に難しい分野である。取引が主にOTC取引であること、限定的な規制しか持たない国が多いことから、課税対象取引と課税対象者を特定する税当局の作業が複雑になるのである。さらに、通貨取引の範囲が世界的であり、大規模銀行が取引デスクの世界的ネットワークを維持していることから、取引を非課税の管轄区へ移動して租税回避を行うことが特に容易にできてしまう可能性がある。

 

とはいえ、以前より現在の方が対処しやすくなった可能性のある課題もある。過去数年間に起きた制度上の進展によって、通貨取引への税を管理できる新たな可能性が出てきた。これらの進展のうち、最も重要なものは、本節で述べるように、多通貨同時決済(CLS)銀行という単一の決済機関を通して決済される外国為替(FX)取引の割合が高まっていることである。

 

外国為替取引に取引税を課している国は数少ない。その一例はブラジルで、主に資本フロー管理の手段としてFX取引(およびその他の金融商品)に課税している。通貨取引に対するFTTの設計は、同税の主目的が資本フロー管理か歳入確保かによって変化するが、徴税の管理機構は政策目的が異なっても概して同じになると考えられる。[11] この観点から、下に示すように、ブラジルの例は通貨取引に対するFTTの実際の適用について有用な識見を提供するものとなっている。

 

A. 市場における組織、商品、および規制環境

 

外国為替市場は最大級の金融市場で、世界で一日に約4兆米ドルが取引されており、その内訳は、従来の外国為替商品(スポット、外国為替スワップ、アウトライト・フォワード)が3.7兆米ドル、非従来型の商品(通貨スワップとオプション)が0.3兆米ドルである。[12] 最もよく普及している外国為替商品の定義を表3に示す。

 

3.普及している外国為替商品

商品

定義

外国為替スポット取引 一つの通貨でもう一つの通貨を購入または売却する行為で、通常受け渡しは取引日の2日後に行われる。
外国為替オプション 事前に合意されたレートで、満期日に一つの通貨をもう一つの通貨に交換する権利(義務ではない)を買い手に与える契約。
外国為替先物取引(フューチャー) 二つの異種類通貨を事前に合意された日に事前に合意されたレートで交換する取決め。アウトライト・フォワードと似ているが、OTCではなく取引所で取引される。
アウトライト・フォワード 事前に合意された将来の為替レートと日において、ある種類の通貨を異種類の通貨に交換する単一取引。「アウトライト」とは、先渡し(フォワード)を外国為替スワップと区別するための用語。前者は単一取引で、後者は多くの場合スポット取引とそれに続く先渡し取引で構成される。
ノンデリバラブル・フォワード(NDF) アウトライト・フォワードと似ているが、満期に二つの異種類通貨の物理的な受け渡しは行われない。その代り、契約した決済日に、合意された想定元本について、(i)契約したフォワードの為替レートと(ii)スポットの実勢為替レートの差額に基づき、一方の当事者からもう一方の当事者に現金決済が行われる。NDFは現金決済される商品であるため、想定元本が交換されることはない。
外国為替スワップ 2者が、事前に合意された日(通常、スポット日とフォワード日)に事前に合意されたレートで、一定額の通貨の売買および買戻し・売戻しを同時に合意する契約。
通貨スワップ 事前に合意された期間毎に、ある種類の通貨での元本と金利(固定または可変)の両方を、異種類の通貨での元本と金利(固定または可変)に交換するスワップ。取引の最後に、両者は元本を互いに交換しなおす。金利スワップと異なり通貨スワップの元本を交換できるが、通貨スワップの金利は異種類の通貨に基づくため純支払はできない。

 

外国為替市場は、銀行間取引市場と顧客市場の2種類に分かれる。銀行間取引市場は、直接または外国為替ブローカーを通して互いに取引を行うディーラー(通常は大銀行および証券会社)に支配された市場である。[13] 顧客市場では、ディーラーは顧客と取引を行う。顧客には、比較的小規模な銀行、年金基金、投資信託、ヘッジファンドなどの金融機関や、外国貿易・対外投資に携わる金融機関以外の機関が含まれる。取引の大部分(87%)は、ディーラーと他の金融機関の間における取引で、残りの13%は、ディーラーと非金融機関の間における取引である。[14] 銀行間取引市場においても顧客市場においても、スポット、先渡し(フォワード)、先物(フューチャー)、オプション、その他の通貨取引が行われる。

 

外国為替取引は、世界的に、そして少数の金融機関で集中的に行われている。大抵の取引はOTCで行われ、集権的な取引所で行われる取引は比較的少額である(特に外国為替先物取引(フューチャー)、外貨オプションの場合)。FX取引は世界市場で行われ、その外国為替取引の3分の2は越境取引である(BIS, 2010)。取引される商品が均一な性質を持つことが、越境取引を促進している。この均一な性質のために、異なる金融センターでも同じように容易に通貨の売買ができるのである。市場は非常に集中して存在しており、不釣り合いなほど多額の取引額を各国の少数の大規模金融機関が扱っている。[15]

 

規制環境は国により、また市場の種類のより様々である。一般的に、取引所で取引される通貨市場は、より大規模なOTC通貨市場より厳しく規制されている。厳しい規制が敷かれた国では、企業が外国為替取引に携わるためには認可が必要で、取引可能な商品の種類と外国為替予約に含めるべき情報が規制で定められており、トレーダーは当該規制機関に個々の取引に関する情報を報告しなければならない。それほど厳しい規制が敷かれていない国では、銀行や証券会社は通常OTCでの外国為替に関わる活動に携わるために認可を義務付けられることはなく(他の目的のために登録を義務付けられている場合もあるが)、OTC取引のための条件として公式の規則や規制は存在しない(ただし市場参加者がベストプラクティス指針を作成する場合もある)。このような国では、事業取引を取り締まる標準的な商法に従ってさえいれば、取引を行う2者が満足する条件・規定ならどのようなものでも採用してFX取引を行うことができる。

 

B. 管理オプションとその実現可能性

 

外国為替取引への課税管理について、いくつかの方法が評者から提案されている。

トービン(1978)が提案した最初の案は、少なくとも全ての主要通貨国によるスポット取引に一律の税率で課税するというものであった。トービンは後に、租税回避に歯止めをかけるためには、短期のフォワードやスワップなどの、スポット取引に似た代用品となる商品も課税対象にする必要があると認めている(Tobin, 1996)。続いて、通貨取引に対するFTT適用のための管理取決めの概要が、他の評者から提案された。これらの取決め案の主な違いは、同税を市場参加者が自己査定するか、決済機関が源泉徴収するかという点である。

 

一つのアプローチとしては、外国為替予約が確認された時点で市場参加者が税の自己査定を行うという、ケネン(Kenen, 1996)が提案した案がある。このアプローチの下では、銀行その他の外国為替ディーラー(これ以降「銀行」という)は、課税対象の管轄区内において各銀行の取引デスクが行った全種類の外国為替取引について徴税する。銀行は定期的に(毎月、毎四半期、またはその他の定められた期間毎)、納税申告書を税当局に提出し税負担の申告と政府への税の送金を行う。国の税当局は、管轄区内で行われた取引に対する納税義務を銀行が遵守しているか否かを監督する。

市場参加者を通した自己申告によるFTTの徴収には短所と長所がある。主な長所としては、この徴税は既存の管理方法に基づくため、決済機関において新たな源泉徴収の取決めを導入する必要がない。また、銀行が、定期的な所得申告を行い、徴収した税を政府に送金するまでの間、一時的に銀行が徴収した税を保持できるようにすることで、FTTを支持する大きな金銭的インセンティブ(フロートという形で)を銀行に与えることになる可能性がある。主な短所としては、決済機関ではなく市場参加者から直接徴税する場合、税当局はより多くの取組が必要になり、またより大きな納税遵守リスクに直面することになる。さらに、税の査定、経理、徴収に関わる時間と費用という負担が市場参加者に課されるという問題もある。

 

これに代わるアプローチとしては、決済機関が税を源泉徴収する取り決めを行うことである。銀行の取引デスクが外国為替予約を行うと、取引相手との間で通貨(多くの場合銀行差額)が送金された際に、最終的にその取引が決済される。決済は様々な方法で行われる(BOX 4参照)。この点については、CLS銀行や各国の大口資金決済システム(LVPS)のような決済機関に対し、決済済みの各取引に課税・徴税することを義務付けるよう提案する評者もいる。[16] この手法は、英国の清算機関(CREST)が有価証券取引に対する印紙税を徴収する方法と似た形で機能することになる(Section II)。

 

 

BOX 4. 外国為替取引の決済方法

金融機関が行う外国為替取引の決済方法には主に4つの方法がある。

多通貨同時決済(CLS)銀行:売却された通貨を受け取った場合のみ購入された通貨を支払うようにする、専門の決済機関(Appendix 2)。

従来の取引先銀行を通した取引:取引する者が取引先銀行を通してその者が売る通貨で相手の銀行預金に送金する。送金は多くの場合、各国の大口資金決済システム(LVPS)を通して行われる。

双方向相殺決済(相互ネッティング):特定の日が満期の2当事者間の取引が相殺され、従来の取引先銀行を通した方法など、他の方法を通して正味額が決済される。

 “on-us”決済:外国為替取引の両レッグ(取引の両行程)が単一機関の帳簿を通して決済される。これは、一つの銀行がその銀行の顧客と取引しており、その顧客が両方の取引通貨ベースの口座をその銀行に持っている場合など、様々な場合に行われる。

 

 

CLS銀行は、世界の外国為替取引の50%以上を決済しており、これらの取引から徴税するためにCLS銀行を利用することもできる。[17] CLS銀行は、通貨取引の決済不履行リスクを減らすために、複数の最大規模の外国為替銀行が2002年に設立した、外国為替決済の専門機関である(CLS銀行の事業の詳細についてはAppendix IIを参照)。各CLSメンバーはCLS銀行に複数通貨口座を持つ(メンバーでない者は、メンバーを通してCLS銀行にアクセスすることができる)。決済のために外国為替取引がCLS銀行に提出されると、2当事者の口座で、売却された通貨の額の引き落とし、購入された通貨の額の入金が同時に行われれる。CLSは、売却された通貨を受け取った場合にのみ購入された通貨を支払う仕組みとなっている。これにより、CLSは決済プロセスにおける信頼された第三者機関の役割を果たす。

 

CLSは徴収した歳入を様々な方法で配分することができるだろう。例えばCLS銀行は各取引ベースで課税し、税収を各国または取引当事者が位置する国に送金することができる。または、税収は(取引当事者が位置する国ではなく)取引に使用された通貨の国に蓄積させることもできる。ただし、この方法では、ある国に位置する銀行が他の国の通貨を取引した場合(例えば韓国にある銀行がユーロと円を取引した場合)などに、管轄権上の大きな問題が起きる可能性がある。重要な点として、CLS銀行では、外国為替取引の様々な種類を判別することができる(スポット、フューチャー、オプションなど)ため、必要であれば各種類の取引に異なる税を適用することもできる。

 

各国の大口資金決済システム(LVPS)を外国為替取引税の徴収に利用することもできる。各国は少なくとも1つのLVPSを運営している。LVPSは、主要金融機関が、中央銀行の口座を通して大口資金または緊急の支払いを行うために利用する。[18] 銀行は多くの場合、中央銀行の口座から相手の中央銀行に(または相手の取引先銀行の口座に)差額を送金するために、LVPSを使用して、外国為替取引を決済する。原則として、LVPSは、税の査定を行い税収を政府の口座に送金することができるだろう。この作業は、金融機関が現在利用している標準メッセージシステムを使用して行うことができると提案する評者もいる(Hillman et. al.)。標準メッセージシステムは、確認指示のコピーを当該LVPSに送ることによって、外国為替取引を確認するために金融機関が利用しているシステムである。コピーを受け取った当該LVPSは、税を査定し徴収することができる、というものだ。[19]

 

決済機関を通して通貨取引に対するFTTを徴収することには、重要なメリットがある。主な長所は、遵守しない可能性を低くできる点と、銀行に対する記録義務を減らすことができる点である。前者については、第三者が税を源泉徴収する場合(例えば雇用者が個人の所得税を従業員の給与から源泉徴収する場合)、納税者から直接徴税するより、遵守率が高くなることは、文書で十分に立証されている(GAO, 2006)。後者については、決済機関が徴収する税が最終版であると見なされ、銀行は納税義務を果たすための広範囲に及ぶ報告システムを維持する必要から解放される。

 

FTTを徴収するために決済機関を使うことには、いくつかのデメリットもある。

・第一に、FTTを管理するためには決済機関のコンピューターシステムを大幅に技術的に強化させる必要がある可

能性がある。これには追加的コストを伴い、また導入には時間がかかる。この問題については、多くの国の大口資金決済システムは外国為替の支払いとその他の支払いを区別する機能を持たないため、そのような機能を持たせるためにはかなりの取組が必要となる可能性がある。

・第二に、決済機関に徴税の責任を追加して負わせることは、円滑で安全な支払サービスを提供することで金融の安定化を推進するという、中心的目的から決済システムを逸脱させる可能性がある。

・第三に、CLS銀行を通してFTTを適用し、他の決済機関に適用しない場合、非課税の決済システムを通して取引を決済するインセンティブをユーザーに与えることになる。このような結果となれば、CLS銀行が開始されて以来提供してきた、決済リスクを低減するという重要なメリットが損なわれる可能性がある。税率によっては、CLS銀行を使用することによるメリットが、取引税のコストを上回る可能性があるとの証拠も出ているため、この懸念は完全に根拠があるとは言えないかもしれない。[20] いずれにせよ、CLS銀行またはその他の徴税を行う決済機関以外で決済を行う取引の割合に合わせて、各銀行に高い資本費を適用すれば、トレーダーがCLSを利用するのを止めるリスクをある程度減らすことができる可能性がある。

・最後に、決済機関を通して徴税することにより銀行の記録負担が減るという潜在的利益は、誇張され過ぎている可能性がある。決済機関が課税対象の取引全てに対するFTTを源泉徴収できない限り(そしてそのような源泉徴収は実現可能ではないと考えられる妥当な理由がある)、各銀行は結局、決済機関外で決済した取引に対する税を計上するために、報告システムを設置する必要が出てくる。

 

上記の問題は、十分な資源と政治的支持があれば解決できるかもしれないが、十分に注意深く評価する必要がある。同時に、決済機関を徴税のために利用する、または少なくとも決済機関が特定の当事者らのために決済した取引に関する情報を税当局に報告するようにできない場合、外国為替取引に対しFTTを適用することは、より難しく費用がかさむことになるという事実を、認識する必要がある。いずれにせよ、このようなシステムがうまく機能する例を、ブラジルに見ることができる。

 

ブラジルは、様々な種類の外国為替取引に取引税を課税している。ブラジルのFTTである「Impuesto sobre Operacoes Financieiras(IOF)」は、(1)外国為替、(2)有価証券、(3)融資事業という3種類の金融商品に課税されている。[21]

 

IOFはブラジルで行われる外国為替取引に課税される。同税はスポット取引とデリバティブの両方に課税され、資本流入(非居住者によるレアルの購入)と資本流出(居住者による外国為替の購入)の両方に課税される。スポット取引については、IOFは0.38%(38ベーシスポイント)で課税されるが、外国為替取引で得た現地通貨をどのように使用するかによって高い税率が追加される場合がある。[22] さらに、銀行間取引や輸出を含む、様々なスポット取引には一連の控除が設定されている。2010年に(外国為替だけでなく全ての金融商品に対して)徴収されたIOFは、連邦政府の歳入の1.9%を占めた。これはGDPの0.7%にあたる。[23] 

 

同税は、自己査定ベースで管理されている。IOFはブラジルで発生する取引にのみ適用され、納税義務は外国為替予約が決済される際に発生する(つまり、国内通貨が外貨と交換で受領または支払われる際に発生する)。同税は、外貨で取引することをブラジル中央銀行から認可された金融機関により徴収される。これらの機関は、外国為替取引の記録を維持し、これらの取引を中央銀行に登録することを義務付けられている。これらの金融機関は、各FX取引に対して課税し、各10日間サイクルの最後の日から3営業日後に政府に税収を送金し、毎月納税申告書を提出しなければならない。[24]

 

ブラジルは、金融機関のための査定プログラムを維持している。ブラジルの税当局は、サンパウロとリオデジャネイロに、金融機関の管理に責任を持つ2つの支所を持つ。これらの支所は、外国為替取引に対するIOFを含む、銀行が支払義務を負う全種類の税を審査する会計監査官の専門チームが行う、総合査定プログラムを持つ。

 

IOFの遵守に関する推定は存在しないが、過去に投資家が節税計画を立てた形跡がある。これは、資本規制とそれに関わる税を回避することを目的としたものである。これらには、短期資本を外国直接投資と偽る、ブラジルの基礎商品についてオフショアでデリバティブ取引を行う[25]、オプション条項が組み込まれた債券を発行する(Carvalho and Garcia, 2006)などの手法が含まれる。[26]

 

他の商品と同様、外国為替取引に対するFTTの課税を実現可能にするには、次の点に関して明確なルールと実用的な方法が必要になる。(1)同税の領土的範囲の確立、(2)課税の対象となる出来事と課税のタイミングの規定、(3)税基盤の評価、(4)課税対象者の特定、(5)税の査定と徴収。

 

同税の領土的範囲の確立について。国境を越えた外国為替取引が多額に上るため、これらの取引に対するFTTに関する領土的範囲を決定する際には整合性のあるアプローチを取ることが特に重要である。通貨取引は取引所とOTCの両方で行われるため、この分野における課題とアプローチは、前述の節で説明した、取引所およびOTCにおける取引に関するものとほぼ同じである。取引所におけるFX取引については、取引所が位置する国でFTTを課税するのが妥当なアプローチであろう。

OTCで行われる外国為替取引については、取引当事者が別々の国に位置することが多く、両方の国がその取引に課税する権限を正当に主張することができる可能性があるため、事態はより複雑である。この問題に対して考えられる解決策は、国境を越えたOTC取引についての議論の中でも述べたように、国はFTTの税率の半分をその国の登録納税者に支払わせ、残りの半分を、その国の非居住者で、FTT非課税国に居住する取引相手に課税するというものである(その国の非居住者で、FTT課税国に居住する取引相手の場合は、課税しない)。

 

課税の対象となる出来事および課税のタイミングの規定について。Section IIとIIIで述べたその他の金融商品と同様に、課税の対象となる出来事は、FTTの範囲となる全てのFX取引を含むよう、広範に規定することができる。また、課税のタイミングは、取引当事者同士がFX取引契約を結んだ時(発生ルール(accrual rule))または取引が決済された時(現金ルール(cash rule))とすることができる。これらルールの通貨取引への適用には、この論文で述べた他の取引と同様の長所と短所がある。[27] 「発生ルール」はトレーダーの納税義務の履行を遅らせないようにするという利点があるが、実際に取引が行われるまで取引される外国為替の額が分からない取引に対して無規則な課税が行われる可能性がある(オプション、フューチャー、フォワード、ノンデリバラブル・フォワード(NDF)、スワップなど)。このため、外国為替取引に関しては、取引される商品に応じて「発生ルール」と「現金ルール」の両方を使い分ける折衷型が適切ではないかと考えられる。[28]

 

税基盤の評価について。外国為替取引の税基盤は、他の金融商品と同じ方法で評価されるべきである。つまり、取引当事者同士が交換する、国内通貨ベースの金額(またはその他の対価)ということになる。この定義は、多種類のFX取引に容易に適用することができる。[29] しかし、これをノンデリバラブル・フォワード(NDF)などの商品に適用しようとすると、概念的問題が出てくる。NDFでは、取引当事者同士は二種類の通貨を実際に引き渡すことはなく、その代り契約期間における為替レートの変動に基づいて、一方の当事者が他方の当事者に相殺後の純支払額を支払う。このような商品の場合、純支払額にFTTが課税されると、取引当事者同士が実際に二種類の通貨を交換し、交換された総額にFTTが課税される場合と比べて、非常に低い税負担が課される結果となる。純支払と総額支払のどちらが税基盤として適切かの議論は、最終的にはこの二つの取引が同等のものか否かという点に集約される。一方で、この二つの取引は、両取引当事者にとって同じ利益と損失をもたらすため、これは同等の取引であると考えられる。これに基づくと、総支払額への課税が正しいと論証できる。他方で、NDF契約の両当事者は、取引終了時に通貨を実際に所有することによる利益を享受することはない。これに基づくと、純支払額への課税が正しいと立証できることになる。

 

課税対象者の特定について。通貨取引に対するFTTは、取引当事者に課税される。前述と同じ理由で、同税が法的にどちらの当事者に課税されるかは、経済学的観点からは重要なことではない。しかし、管理の観点から見た場合、特に同税を決済機関が源泉徴収するのが実現可能でない場合には、同税を二当事者間で折半することには利点がある。この取決めの下では、FX取引に携わるため登録された者は、取引の記録を維持し、税を請求し、政府に送金し、決済機関で徴税されたもの以外の取引について定期的に納税申告書を提出する義務を課される。小口または不定期のトレーダーは登録を免除されることも考えられるが、これらのトレーダーも登録者と取引した場合には課税される。

 

税の査定と徴収について。査定・徴税方法は、取引がどのように決済されるか、取引相手が控除対象者か否かによって異なる。

集中型の決済機関(CLS銀行など)を通して決済される取引については、決済機関が二当事者から半分ずつ税を課税・徴収することが可能であろう。このためには、政府は決済機関による徴税を定めた協定を決済機関と結ぶ必要がある。

集中型の決済機関で決済されない取引で、その取引が登録者(ブローカーディーラー[訳注:株式の仲買と自己売買を共にする業者]やその他の主要参加者)により行われる場合、二登録者は半分ずつ税を支払うことになる。[30] この手法では、税当局が二当事者間の取引を照合することができるため、遵守の確認が可能になるという重要な利点を持つ。さらに、FX取引において両当事者が同時に(一つの通貨の)「買い手」であり(もう一つの通貨の)「売り手」となる中で、「売り手」と「買い手」のどちらにどのように課税するかを決定するという、概念的問題を解決することができる。

集中型の決済機関で決済されない取引で、その取引が登録者と非登録者(小口のトレーダー)の間で行われる場合、登録者は税の半分を自ら支払い、残りの半分を非登録者に請求する。この手法は、登録者と非登録者の間で行われる取引において、税の全額を確実に徴収するために必要である(非登録者は徴税義務から免除されるため)。[31]

 

管理制度の設立について。FX取引に対する取引税を徴収するための機構を確立することは、大事業となる可能性が高い。CLS銀行と各国の大口資金決済システム(LVPS)を通して決済される通貨取引について、これらの機関に税の源泉徴収をさせるには、相当な政治的、財政的資源が必要となる。集中型の決済機関で決済されない取引の場合、または徴税に決済機関を利用できない場合、査定、計上、検証すべきFX取引の額が莫大であることを考えると、市場参加者を通して同税を徴収するには、多大な努力が必要となる。

 

C. 納税遵守リスクとリスク緩和

 

過少申告リスク

全ての税に言えることだが、納税者の中には自分が行った外国為替取引ついて支払う義務のあるFTTを過少申告する者が現れるだろう。ほとんどの外国為替ディーラーはFTT納税義務を期限内に全額申告し支払うことが予想されるが、制度に打ち勝とうとするか、または不注意によって、義務を果たさない者も出るだろう。例えば、ブラジルの外国為替取引税に対しては、前述のように様々な節税計画が存在した。

 

過少申告を取り締まるには、いくつかの対策を考慮する必要がある。まず出発点として、FTTの計算方法は単純にし、可能であれば徴税には決済機関を利用すべきである。例えば、CLS銀行および各国の大口資金決済システム(LVPS)は、銀行からFTTを徴収するか、または銀行の外国為替取引に関する報告を税当局に提供するよう義務付けられるべきである。このような取決めは、源泉徴収の対象となる税や第三者による報告の対象となる税の納税遵守率が最も高いことを明確に示した税管理における国際優良事例とも整合している。さらに、納税者と決済機関が報告する税の正確性を検証するためには、適切な罰則体制に裏打ちされた監査プログラムが必要である。

 

国境を越えた取引の過少申告に対処するためには、追加的措置が必要となる。FX取引に関する課税対象となる出来事を検証する作業は、国際銀行の子会社や支社が取引場所ではなく帳簿記入場所(自国または第三国)に記録を保持している場合には、さらに複雑になる。[32] この問題に対処するために、市場参加者は、記録の写しを取引場所で保持し、監査の際には提出することを義務付けられることになる。また市場参加者は、FTT課税目的のために取引場所においても彼らが行った外国為替取引について把握しておくことが義務付けられる。

 

移動リスク

通貨取引に対するFTTを一国だけで導入した場合、非課税の管轄区への大規模な外国為替取引の移動が起こるため、FTTが台無しなってしまうという主張がある。[33] このような懸念は大げさだと却下する意見もある。一カ国または少数の国によるFTTの導入が一定の取引の移動をもたらすことはほぼ確実であるが、移動する額やその結果発生する歳入の損失を正確に予測するのは難しい。しかし確実に言えることは、歳入の漏出を大きく左右するのは、移動により得られる利益(節税と遵守に関わる負担の軽減)と移動によりかかるコスト(銀行の取引業務の移動にかかる費用および、移動により発生する現地の顧客サービスの混乱)だということである。この観点から、FTTの税率を低く抑え、主要金融センターを持つ国々が共同でFTTを導入することによって、FTTの前途はより明るくなるだろう。

 

資産代用リスク

もう一つの納税遵守リスクとして挙げられているのが、トレーダーが課税対象の外国為替取引を課税対象外の外国為替取引で代用するという可能性である。これに関しては、もし同税がスポット取引のみに課税された場合、トレーダーは外国為替デリバティブ(フューチャー、フォワード、オプション、スワップ)で取引を行うことによって、税を回避する可能性がある。または、もっと複雑な方法として、二カ国の短期国債(またはその他の流動資産)を交換した後すぐにその国債を売却して銀行預金に換える可能性もある(Garber and Taylor, 1995)。

 

多国籍企業は、ストラクチャード・ローン(structured loan)を外国為替取引の代わりに用いることで税を回避しようとする可能性がある。例えば、1970年代にイングランド銀行は、ロンドン外国為替市場でFX取引を行う英国企業に対し、外国子会社の運営に資金提供するために、米ドルについて市場価格より割増したレートを支払うことを義務付けた。その結果、英国企業にとってロンドンでドルを借りる方がニューヨークで借りるより割高となった。このドル購入に対する税を回避するため、英国の多国籍企業は、パラレルローン、バックツーバック・ローンを米国の多国籍企業との間で手配した。[34] これらを手配したことにより、米国と英国の企業は、外国為替市場で実際に通貨を獲得することなくそれぞれの通貨を貸し借りすることができるようになり、税を回避することができた。(Schinasi et.al., 2003)。

 

トービンが提案したように、資産代用リスクに対する最良の解決策は、スポット取引に近い代替商品にもFTTを課税することである。これらには、満期の短いフューチャー、フォワード、スワップが含まれる。それでも多少は代替品利用の可能性が残るかもしれないが、最終的にはより複雑な(そして最適ではない)代用品を使用するコストが税により発生するコストを上回るようになるため、失われる歳入はそれほど大きくならない可能性がある。さらに税当局は、バックツーバック・ローンやその他の回避計画のような一定の種類の取引について報告義務を導入し、税法の回避対策条項を利用してそのような取引を課税対象取引として再定義することもできるだろう。[35]

 

D. 評価のまとめ

 

外国為替取引にFTTを課税することは、他の金融商品への課税より難しい。しかしこれらは解決不可能な問題ではない。外国為替取引が困難である原因は、外国為替市場がグローバルな性格を持つものであること、通貨取引を国境を越えて容易に移動させることができること、多くの国で同市場に対する規制が緩いことにある。もしCLS銀行のようなFX決済機関が徴税または少なくとも銀行の外国為替取引に関する情報を税当局に報告するようにできれば、これらの難題を減らすことができるだろう。もしこのような取決めが実現可能でないとなれば、外国為替取引に対する課税の見通しは、他の金融取引にも増して以下の点に左右されることになる可能性が高い。(1)主要な金融センターを持つ国々が、ある程度均一な形で協力して共同で同税を導入する。(2)租税回避のインセンティブを低減するよう低い税率で税を査定する。(3)スポット取引に似た代替商品を課税対象にする。(4)納税者が自由意思で納税義務を果たさなかった場合に、税当局がFTTの遵守を強制できるよう、十分な資源を税当局に提供する。

 

V. 結論

 

広範な基盤を持つFTTの導入を検討している国は、その政策目的と管理面の実現可能性を考慮に入れるべきである。税務政策の観点から、最近のIMFによる研究結果では、歳入創出と金融市場破綻リスクの緩和にはFTT以外の税手段の方が適切であることが述べられている。税管理の観点から、本文書では、FTT管理の実現可能性についていくつかの結論を導き出している。

 

FTTの実施がどの程度容易かは、金融商品によって異なる。一般に、組織化された取引所で取引され、集中型の決済機関で決済される商品の方が、OTCで取引され集中型の決済機関で決済されない商品より、課税しやすい。しかし、最近いくつかの国で行われた法律改正(OTCデリバティブに関する新たな金融規制の制定など)や進行中の制度的発展(外国為替取引の決済においてCLS銀行の役割が卓越して大きくなっていることなど)によって、以前よりも幅広い商品にFTTを課税することが容易になってきた。ただし、CLS銀行などの決済機関を徴税に利用する前に、これら決済機関を通してFTTを徴収する場合の意図せぬ悪影響の可能性(およびこれらの悪影響を緩和する措置)について、徹底した評価を行うべきである。

 

FTTの効果的な管理には、整合性の取れた法律制定が不可欠である。特に、FTTの法律には、同税の領土的範囲、課税対象となる出来事と課税のタイミング、税基盤、課税対象者を定める明確な条項が必要である。金融取引が多様であることと、複雑な商品が存在することから、「納税義務が現金ベースで課されるべきか発生ベースで課されるべきか(またはその両方か)」、「商品の想定元本を税基盤とすべきか持ち主が変わる額を税基盤とすべきか」、「現金で決済される取引への課税を純支払額に基づいてすべきかその基礎をなす総支払額に基づいてすべきか」といった、概念的問題が出てくる。法律の効果的な管理のためには、このような問題に対してうまく機能する解決策が必要になる。

 

取引所や清算機関を通してFTTを徴収することには大きな利点がある。これらの機関を利用することで、市場参加者が登録、税の徴収、送金を行う必要が無くなり、遵守・管理コストが削減できる。取引所や清算機関が利用できない場合は、課税・徴税の義務をブローカーディーラーおよび主要トレーダーに限定して課すことによって、市場参加者から直接FTTを徴収する際のコストを低減することができるだろう。小口の市場参加者や不定期の市場参加者はこの義務から免除されるが、ブローカーディーラーやその他の主要トレーダーと取引する際には課税対象となる。徴税が取引所や清算機関を通して行われないことになった場合でも、取引所や清算機関は、取引に関する情報を税当局に報告する必要がある。

 

FTTの遵守リスクに対処するには、適切なリスク緩和手法を適用する必要がある。納税者がFTTを過少申告するリスクに対しては、適切な罰則体制に支えられた施行プログラムが必要となる。金融商品の所有権の譲渡に関する法的地位を同税の支払いに関連付けることによって、過少申告を阻止することもできる。市場参加者の中には、取引を課税対象の金融商品から非課税の金融商品に移動しようとする者も現れる可能性がある。この問題に対処する最良の方法は、課税対象の金融商品に近い代替商品に対しても、税を適用することであろう。トレーダーが取引を非課税の管轄区に移動するリスクについては、移動のインセンティブを減らすような低い税率での課税を行うことで、そのリスクを低減することができる。

 

FTTの実現可能性は国際協力によって強められる。主要金融センターを持つ国々がある程度均一な形でFTTを導入すれば、各国がFTTを実施する自由度は高まり、税のアービトラージ(裁定取引)や取引移動の可能性についての懸念も低減される。

 

FTTの実施には入念な準備と計画が必要である。主な実施業務としては、法規制の制定、情報システムと管理手順の作成、税務官の補充と養成、納税者の登録、納税者の義務に関する教育がある。これらの業務を遂行する際には、官民両セクターの関係者と協議し、徴税のための管理に関する取決めを設計する際に関係者のニーズや懸案事項を考慮に入れることが不可欠である。各国による新税の実施を支援したIMFの経験から、FTTの導入には少なくとも18カ月はかかると考えられる(IMF, 1991参照)。新税を導入する場合、一般的に優良事例とされている方法は、様々な設計と実施業務を行う専門チームを税当局の中に設立することである。これにならい、税当局は、FTT管理が安定して最終的に税当局の主要業務にFTTを統合させるまでの間(実施の初期)FTTを管理するための、特別部署を設立すべきである。最後に、FTTの実施と管理のために、継続的に税当局に十分な資源(予算、人員、必要に応じて技術的支援)を提供することが極めて重要である。

 

原文:Taxing Financial Transactions: An Assessment of Administrative Feasibility

http://www.imf.org/external/pubs/ft/wp/2011/wp11185.pdf

 


[1] この文書の策定にあたり以下の皆様から大変有用な指導・コメントをいただきました。Roberto Benelli, Vieri Ceriani, Massimo Cirasino, Serge Cools, Carlo Cottarelli, Mark de Brunner, Randall Dodd, Simon English, Michael Gaw, Simon Gray, Miles Harwood, Michael Keen, Andrei Kirilenko, Robert Kramer, Heitor Lima, Antonella Magilocco, Thornton Matheson, Arbind Modi, Victoria Perry, Luc Robin, Christine Sampic, Alessandra Sanelli, Robert Schroeter, Bernd Spahn, Lawrence Sweet, Victor Thuronyi, Franz Tomasek, Juan Toro, and Koenraad van der Heeden. しかしいかなる誤り、記述漏れも著者に全責任があります。

[2] 現在のFTT提案者は支持していない考え方だが、当座預金銀行取引も同税の対象になりうる。

[3] FTT課税を行っている国の一部が、Matheson (2011)表1に示されている。

[4] Keynes(1936)、104~105ページ参照。

[5] IMF(2010a)参照。

[6] FSCは、最初は定額の拠出金とし(ただし金融機関の種類により額は異なる)、後に個々の機関のリスク度とその機関のシステミックリスクへの寄与度に応じた額に改訂される。またFSCは、広範な賃借対照表の債務側に基づき適用される(資本は除外、簿外の項目を含める可能性あり)。拠出金は、脆弱な金融機関の破綻処理を促進するための基金に貯蓄されるか、一般歳入に支払われる。FATは総収益および金融機関の報酬に課すもので、一般歳入に支払われる。詳細については、IMF(2010a)および、Keen, Krelove and Norregaard(近刊のIMF中間報告書)参照。

[7] Leading Group(2010)参照。

[8] Semeta(2011)参照。

[9] これらを含む政策課題の詳細は、Matheson(2011)、IMF(2010a)およびShome and Stotsky(1996)の中で詳細に分析されている。

[10] 各国は、国境を超えた株式投資に特定した課税、対外債権に特定した課税、外国為替の流れに特定した課税を、資本フロー抑制の手段として使用することもできる。このような税を資本フロー管理に使用することが望ましいか否か、効力があるか否かの評価は、本文書では行わない。

[11] 資本フロー管理が望ましいか否か、またその手段に関わる問題は、本文書での検討の範疇外となる。これらの課題の検討については、IMF(2011)およびOstry et.al.(2011)参照。

[12] Bank for International Settlements(BIS, 2010)。国際決済銀行(BIS)は3年毎に、外国為替市場とOTCデリバティブ市場の規模と構造に関する情報を取り纏めるため、50の中央銀行と連携しTriennial Central Bank Survey3年毎の中央銀行調査)を実施している。

 

[13] 外国為替のディーラー(マーケットメーカーとも呼ばれる)は、ディーラー自身のため、または顧客のため、もしくはその両方のために外国為替を売買する。これにより、これらの業者は様々な通貨の売値と買値(為替レート)を提示し、そのレートで取引できるよう待機する取引のプリンシパルの役割を果たす。一方、外国為替ブローカーは、ブローカー自身のために取引することはなく、顧客に連絡を取ることもない。ブローカーは、ディーラーを引き合わせるサービスを提供し手数料を請求することにより収益を得る。

[14] 出典:Bank for International Settlements(2010年12月)

[15] 例えば、英国、米国、スイス、日本における外国為替の取引高の75%は、それぞれ12銀行、10銀行、3銀行、9銀行が扱っている(BIS, 2007a)。同様の状態が他の国でも見られる。

[16] 詳細は、Schmidt (1996, 2001), Spahn (2002) および Hillman, Kapoor, and Spratt (2006) 参照。

[17] CLS銀行の活動の規模を示す数字を挙げると、2010年2月16日には、CLS銀行は一日で過去最高の170万サイド、額にして合計で6.2兆米ドルを決済している。CLS銀行が世界の外国為替取引に占めるシェアは、2007年のBISサーベイ時の50%から70%にまで伸びている可能性があるとされている。

[18] LVPSは中央銀行か銀行業界が所有している場合がある。

[19] 銀行とその他の金融機関の間で金融メッセージを交換する際に使用されるシンタックス(体系)は、SWIFT(国際銀行間通信協会)メッセージシステムに基づき標準化されてきた。SWIFTは、ベルギーの法の下に登録された協同組合で、加盟金融機関が所有する協会であるが、2010年9月時点で209ヶ国、9,000の金融機関と連携している。重要なことは、SWIFTがMT3000とその変形という専用のメッセージ形式を持っており、これらは異なる種類の外国為替取引(スポット、デリバティブなど)確認のために使用されるということである。

[20] 例えば、Spraat et.al. ((2005) はポンドの取引に対するFTTによりトレーダーが追う費用の合計と、CLSを使ってポンド取引を決済することにより彼らが得る利益の合計を比較した。その結果、ポンド取引へのFTTが0.005%の場合トレーダーが支払う費用は年間10億米ドルと見積もられた。これに対し、CLSを使用してポンド取引を決済することによる利益は、180億米ドルと見積もられた。その内訳は、効率向上による利益が125億米ドル、必要とされる正味資金の削減が54億米ドル、操業コストの削減が1億ドルである。メンバーがCLSを去った場合に失われる追加的利益には、CLSにアクセスするためのコンピューターシステムの開発に必要な費用(メンバー毎に約500万米ドルと見積もられる)などの様々な固定費がある。

[21] 具体的には、IOFには、(1)外国為替のスポット取引に適用されるIOF sobre Cambio(外国為替取引)、(2)株式、社債、有価証券オプション、有価証券フューチャー、外国為替フューチャー、オプション、デリバティブ(フォワード、スワップ、金利先渡し契約(FRA))に適用されるIOF sobre Titulos e Valores Mobiliarios(有価証券取引)、(3)金融機関と非金融機関による融資に適用されるIOF sobre Operacoes de Credito(融資・信用貸し事業)がある。

[22] 例えば、(1)投資家がブラジルの株式、債券に投資することを目的に外貨を現地通貨に交換する場合、それぞれ6%、2%を課税できる。(2)投資家がデリバティブのマージン支払を目的として外貨を現地通貨に交換する場合、6%が課税される。(3)外国の銀行がブラジルの金融会社または非金融会社に満期720日以下のローンを提供する場合で、借り手がそのローンからの外貨をレアルに交換する場合、そのローンに6%を課税できる。(4)国際クレジットカードの管理会社が、海外で購入された物品、サービスに関わったクレジットカード所有者の債務を支払うために外貨を購入した場合、その管理会社に対し6.38%を課税できる。

[23] 2010年に、徴収されたIOFは266億100万レアル、連邦政府の歳入合計は1兆3,786億900万レアル、GDPは3兆6,749億6400万レアルであった(出典:財務省およびIMF)。

[24] 納税者は、外国為替その他の金融商品へのIOFを含む全ての月間の連邦税負担額を、DCTFと呼ばれる単一の統合納税申告書を使用して申告する。

[25] ブラジルの基礎商品に基づくデリバティブ取引の多くは、ブラジルの外で行われる。これによりトレーダーは、ブラジルの基礎資産を取得することなく(つまり税を回避しながら)買い持ちすることができる。

[26] この計画は、過去に短期外債に適用されていた高い税率を回避するためのものである(満期が90日以下のローンには5.38%の税が課せられていた)。これはプットオプション条項が組み込まれた長期債券を発行するというものであった。これらの条項は、オプションの行使によって外国投資家が長期のローンを短期化することを可能にし、しかも税率は長期ローンに対する低い税率で済むというものである。

現在IOFは満期が720日以下のローンに適用される。

[27] 場合によってはこの2つのルールは同じ取引について全く異なる課税の成果をもたらすことになる可能性があることに触れておきたい。例えば、輸出業者と銀行が、米ドルから韓国ウォンへのノンデリバラブル・フォワード(NDF)契約を結んだとする。具体的には、輸出業者は銀行と(1)55.75億韓国ウォンのフォワードを、1米ドル=1115韓国ウォンで売却(500万米ドル相当)し、(2)6カ月後のスポット実勢価格(つまり「fixing date [訳注:決済日の決済レートが表示される日]」の価格)で55.75億韓国ウォンを購入する、という契約を結んだとする。もし韓国ウォンがその後ドルに対してウォン安となりfixing dateの時点で1米ドル=1130韓国ウォンとなり、55.75億韓国ウォンの価値が4,933,628米ドルに下がった場合、輸出業者は銀行から500万米ドルと4,933,628米ドルの差額である66,372米ドルを受け取ることになる[訳注:原文では「US$6,372」とあるが、計算では「66,372米ドル」となるためそのように訳出した]。「発生ルール」の下では、FTTの税基盤は500万米ドルとなる。「現金ルール」の下では、税基盤は66,372米ドルのみとなる。

[28] 課税対象となる出来事の定義に関しては他にも概念的問題がある。FTTは通貨のスワップ取引の両レッグ(両行程)に課税すべきかどうかという問題である。Section IIIで説明したような買戻し契約の場合、スワップが売却として扱われるか(その場合、両レッグに課税されるべきである)、金融取決めとして扱われるか(その場合、最初のレッグのみに課税されるべきである)によって異なると考えられる。

[29] 例えば、FX即日決済取引のスポット価格や、FXオプション取引の行使価格+プレミアムは、これらの取引に関する税負担を妥当に、また容易に計算する税基盤となる。

[30] 登録者は、顧客との取引の2倍の税を銀行間取引に課税するのを避けるため、登録者相手の取引については税の半分のみ請求する。徴税主体が登録者と非登録者を区別できるようにするために、税当局は徴税主体に登録者リストを提供するか、登録者情報をウェブサイト上で提供する。

[31] 非登録者間の取引は課税を免除されるが、これにより失われる税収はわずかだと考えられる。

[32] 国際銀行は、外国為替取引を様々な場所(例えば取引場所)にある子会社や支社から行う可能性がある。国際銀行は、コストを抑えるために、これらの取引の経理を一か所または少数箇所(帳簿記入場所)で集中的に行う可能性がある。

[33] 移動は様々な形で起きる可能性がある。Garber(1996)が指摘したのは、課税管轄区内の親会社が非課税管轄区内の子会社に貸し付けをし、その子会社が外国為替取引を行い、得られた外貨を親会社にまた貸し付けるという方法である。

[34] バックツーバック・ローンは、異なる国の二企業間のローンで、各企業がそれぞれの通貨で相手企業にローンを提供する。パラレルローンは、異なる国の二企業間のローンで、両企業とも相手企業の国に子会社を持つ。二企業は、互いの企業の子会社にローンを提供する。

[35] これらの条項または法的慣行は、納税者が税回避以外の事業目的を持たない非課税取引契約を結んだと税当局が判断した場合、その取引を課税対象として再定義する権限を、税当局に与えることになる。

7、金融取引税の共通制度および指令2008/7/ECの修正に関する理事会指令案

欧州委員会

2011年9月28日 ブリュッセル

COM(2011) 594 final

2011/0261 (CNS)

金融取引税の共通制度および指令2008/7/ECの修正に関する理事会指令案

{SEC(2011) 1102}

{SEC(2011) 1103}

解説的覚書

 

1.             提案の背景

1.1.           序文:金融・経済危機、政策目標、域内市場の適切な機能確保の必要性

近年の世界経済・金融危機は、我々の経済および財政に深刻な影響を与えた。金融セクターはこの経済危機の発生要因を作ったが、そのコストを負担したのは政府および欧州市民全般であった。この危機の処理費用および金融セクターに対する現在の課税の低さに鑑み、金融セクターによるより公平な負担が必要との強い合意が欧州内および国際的に形成されている。EU加盟国のうち数か国は既に金融セクターへの課税について異なる措置を取っている。この課題に対し域内市場と調和した欧州共通のアプローチを示すことが本提案の目的である。本提案は、過去の慣行を繰り返さぬよう金融市場の一部の区分における特にリスクのある行為に対処し、金融サービスの安全強化に関するEUの規制枠組みを補完することを目的とする。

欧州委員会は既に、金融セクターへの課税に関する2010年10月7日委員会報告書[1]においてFTT(金融取引税)実施の構想を検討している。委員会が実施した分析に照らし、また欧州理事会[2]、欧州議会[3]および理事会からの数多くの要請に応え、以下の目的達成に向けた第一歩として本提案を示す。

 

-             協調性のない国家レベルの課税策導入が増加している現状を念頭に置き、金融サービスの域内市場における分断化を回避する。

-             金融機関が近年の危機のコストを公平に負担し、金融セクターと他のセクターが課税の観点から[4]平等な競争条件の下に置かれることを確保する。

-             金融市場の効率性を高めない取引に対し適切な阻害要因を作ることで、将来の危機回避を目的とした規制措置を補強する。

 

課税対象となり得る取引のほとんどは極めて移動性が高いため、加盟国単独の着想による課税ルールが市場の歪みを生むのを回避することが重要である。事実、EUレベルで対策を実施することによってのみ、様々な活動に渡る国境を越えた金融市場の分断を回避し、EU内の金融機関の平等な待遇を確保し、最終的には域内市場の適切な機能を確保することが可能となる。

このため本提案は、EU単一市場の円滑な機能を確保するためにEU加盟国の金融取引税の整合化を規定している。

欧州連合の自己資金制度に関する2011年6月29日理事会決定の委員会提案[5]に従い、本提案はEU予算への各国の拠出金を徐々に置き換え国庫への負担を減らすために新たな収入源を創出することも目的としている。

 

1.2.           EU予算の資金調達

金融セクターへの課税に関してはEU予算見直しに関する2010年10月19日委員会報告書[6]でも取り上げられている。ここでは「各国の拠出金を徐々に置き換え国庫への負担を減らす方法の候補となり得るものとして、委員会は以下の資金調達方法に関する非排他的リストを検討している。- 金融セクターへのEU課税。」とある。これに続く欧州連合の自己資金制度に関する2011年6月29日理事会決定の委員会提案[7]では、FTTをEUの予算に含める新たな自己資金と見なしている。従って本提案は、FTTがEU予算の資金となる旨を委員会がどのように提案するかを提示した別途の自己資金提案により補完されることになる。

 

1.3.           規制上の背景

欧州連合は現在、金融サービスセクターにおいて野心的な規制改革プログラムを実施しているところである。委員会は、欧州の金融市場を規制・監督する方法を根本的に改善するために必要な主要素を今年末までに全て提案することとしている。このEU金融サービス改革は、金融セクターの監督改善、金融機関の強化および必要に応じその回復のための枠組みの提供、金融市場の安全性および透明性の向上、金融サービスの消費者保護の向上という、4つの戦略的目的を重視するものである。この広範囲に及ぶ改革により金融サービスセクターが再び実体経済に役立つもの、特に成長を助成するものとなることが期待される。FTT提案はこれらの規制改革を補完することを目的としている。

 

1.4.           国際的な背景

本提案はまた、現在進行中の金融セクターへの課税に関する国際的議論、特にグローバルレベルでのFTTの策定に大きく貢献するものである。効果的にリスクを最小限に抑えるには、国際レベルでの協調したアプローチが最良の策である。本提案では、効果的なFTTを設計・実施し相当な額の歳入を創出できる方法を明示している。このため本提案は最も重要な国際的パートナーとの協調したアプローチに向けた道を開くはずである。

 

2.             関係者との協議および影響評価の結果

2.1.           外部との協議および専門家の意見

本提案は広範な外部からの意見に基づき策定されている。これらの意見は、金融セクターへの課税に関する公聴の過程におけるフィードバック、EU加盟国、専門家、金融セクター関係者との協議、影響評価を目的として委託された3つの外部調査という形で提供されたものである。

協議プロセスの結果と外部の意見は影響評価に反映されている。

 

2.2.           影響評価

本提案に伴う影響評価では、(1) 金融セクターの財政への貢献を確保する、(2) 望ましくない市場行動を制限することで市場の安定化を図る、(3) 域内市場の歪みを回避するという目的に関して、金融セクターへの追加的課税の影響を分析している。影響評価では、金融取引税(FTT)と金融活動税(FAT)という2つの基本案およびこれらに関連する多数の設計案を分析し、FTTがより望ましい案であるとの結論に達した。

FTTは金融セクターから相当な額の税収を得られる可能性を持つようだが、FATと同様にGDPおよび市場の取引高の縮小という観点から悪影響を及ぼす恐れがある。取引の本来の場所からの移動を回避するには、EU単一市場の分断化を避けるためにEUレベルで、またG20間の協力という野心的目標に沿うために国際レベルで協調したアプローチが必要となる。

さらに、市場の反応および成長への影響に関するリスクに対応するため、FTTの設計には、経済効果、税負担、起こり得る租税回避に対する戦略、取引移転のリスクという観点から影響の軽減を目的とした具体的な設計上の特徴が組み込まれている。

 

・             商品、取引、取引・金融主体の種類、金融グループ内で実施される取引に関して税の範囲を広範に定義する。

・             居住地原則を適用し、取引場所に拘わらず金融主体が設立されたEU加盟国で課税する。本指令はまた、非EU金融機関がEU内の主体との金融取引に関与した場合と非EU金融機関のEU内の支店が金融取引に関与した場合のEU内での課税についても規定している。

・             金融投資以外を目的とする資本コストに結果的に与える影響をできるだけ抑えるために適切な税率を設定する。

・             有価証券(株式、債券)のプライマリー市場の取引(政府や企業による資本調達の阻害とならないようにするため)および通貨のプライマリー市場の取引をFTTの範囲から除外する。プライマリー市場の除外は指令2008/7/ECにも記されているように長年実施されているEU政策と一致する方針である。

・             一般世帯、企業、金融機関による賃借、その他の日常の金融活動(住宅ローンや支払取引など)を保護する。

・             本指令が金融機関の借り換えの可能性や金融政策手段に影響を与えないよう、例えば欧州中央銀行(ECB)や各国の中央銀行との金融取引をFTTの範囲から除外する。

 

実際に提案されたFTTの設計上の特徴による影響の軽減策を考慮に入れると、GDPレベルへの長期的な悪影響は基礎シナリオと比較し0.5%程度に止まると予想される。

影響評価によると、FTTは金融セクターの市場行動およびビジネスモデルに影響を与えることが分かった。金融市場での自動売買は、税を起因とする取引費用の増加の影響を受ける可能性がある。この費用により限界利益が浸食されるからである。これは、金融機関がおびただしい数の大量かつ薄利の取引を行う取引プラットフォームと物理的に密接に関わる高頻度取引のビジネスモデルについて特に当てはまる。これらについては、数はより少ないが(税引き前の)利幅がより高い取引を行わせるアルゴリズムに置き換えなければならない可能性がある。

また影響評価では、FTTが累進的な分配効果を持つ、つまり、高所得者層は金融セクターが提供するサービスからより多く恩恵を受けているためFTTの影響は所得に比例して増加することが分かった。これは、債券、株式およびそのデリバティブなどの金融商品取引に限定したFTTについて特に当てはまる。積極的に金融市場に投資していない一般世帯や中小企業は、FTTの設計に組み込まれた「保護」機能の結果、本提案の影響を受けることはほとんどない。

税収の地理的分布は税の技術的設計によって異なってくる。本指令では、地理的分布は金融商品の取引場所ではなく金融取引に関与する金融機関の設立場所によって決まる。この設計は税収の地理的集中の軽減につながる可能性が高い。これは、ある金融機関が他のEU加盟国に設立された金融機関に代わって取引プラットフォームに介在する場合に特に当てはまる。

また本指令では、委任法令を通して租税回避、脱税、税の乱用に対する具体的措置がEU加盟国レベルおよびEUレベルで規定されることを保証している。再検討条項では、実施から3年後に、金融セクターへの課税の国際的進展も考慮に入れつつ、FTTが域内市場の適切な機能、金融市場、実体経済に与える影響を検討することとしている。

 

3.             本提案の法的要素

3.1.           法的根拠

本指令案に最も関連の深い根拠法はTFEU(欧州連合の機能に関する条約)第113条である。本提案は域内市場の適切な機能を確保し競争の歪みを回避するために必要な、金融取引への間接課税に関する制定法の整合化を目的としている。

 

3.2.           補完性の原則と比例性の原則

EU内における取引・市場参加者の不適当な移動、および金融商品の置き換えを回避するためには、FTTの基本的特徴をEUレベルで一律に規定する必要がある。言い換えれば、域内市場の適切な機能を確保しEU内の競争の歪みを回避するには、EUレベルでの一律な規定が必要なのである。

同様にEUでの一律規定は、金融セクターにおいて近似の代替品となることの多い異種商品などの、現在存在する域内市場の分断化を低減するために重要な役割を果たす可能性がある。整合化されていないFTTは租税裁定行為につながり、加えて二重課税または課税の空白を引き起こす可能性もある。これは平等な競争条件下で金融取引が実施されるのを妨げるだけでなく、EU加盟国の歳入にも影響を与える。さらに、2つの異なる税制を順守する必要が出てくるため金融セクターのコンプライアンス費用が増加する。

これらは経験的証拠により裏付けられている。金融取引への国税はこれまでのところ、金融活動・金融機関が本来の場所から移動するか、それを避けるために比較的移動性の低い税基盤にのみ課税した結果、近似の代替品が課税対象外となる結果を招いている。このためEUレベルでの主要な考え方の整合化と実施の協調は、金融取引税の適用の成功と歪みの回避に必要不可欠な条件である。このようなEUによる措置は望ましいアプローチを促進することにもなる。

このため本提案の内容は、FTTの共通構造および課税可能性に関する共通条項の設定に集中したものとなっている。従って本提案は、実際の最低税率以上の税率の設定、会計・報告義務の詳述、脱税、租税回避、税の乱用の防止に関して、EU加盟国に十分な政策の余地を残している。

以上のことから、EUにおけるFTTの共通枠組みは、TEU(欧州連合条約)第5条に規定された補完性の原則および比例性の原則を順守している。EU加盟国では本提案の目的は十分に達成することはできない。本提案の目的は、域内市場の適切な機能の確保のためにはEUレベルにおいてより効果的に達成することができる。

この整合化案は規則ではなく指令という形で提案されており、我々が追い求める目的(何より域内市場の適切な機能)の達成に必要な措置の範囲を超えておらず、よって比例性の原則を満たしている。

 

3.3.           本提案の詳細な解説

3.3.1         1章(課税対象、範囲、定義)

この章ではEUにおけるFTT案の基本的枠組みを規定している。このFTTはネッティング以前のグロスの取引への課税を目的とする。

金融商品は互いに近似の代替品となることが多いことから、この税では全種類の金融商品に関わる取引を対象にすることを目指しているため、課税対象範囲は広範に渡る。このため対象範囲には、資本市場において譲渡可能な商品、短期金融市場の商品(支払手段を除く)、集団投資事業(UCITS(譲渡可能証券の集団投資事業)およびオルタナティブ投資ファンド[8]を含む)のユニットや株券、デリバティブ契約が含まれる。さらに、税の対象範囲は規制市場や多国間取引施設などの組織された市場に止まらず、他の種類の取引(店頭取引を含む)も対象となる。また対象範囲は所有権譲渡に限らず、関与する金融機関がその金融商品に含まれたリスクを負うか否かを反映し、締結された契約(「売買」)が対象となる。また、デリバティブ契約の結果金融商品が供給される場合、全ての課税条件が満たされれば、課税対象のデリバティブ契約に加えて金融商品の供給も課税対象となる。

ただし、金融機関の借り換えの可能性や金融政策全般に対する悪影響を回避するため、欧州中央銀行および各国の中央銀行との取引は対象範囲外とされる。

特に、金融商品のうち売買・譲渡が課税されるものおよびデリバティブ契約の締結・修正については、一般的に認められた明確で包括的な定義が当該のEUレベルの規制枠組みにおいて示されている[9]。より具体的にここで言及されるデリバティブ契約について言えば、ここで関係してくるのは投資目的のデリバティブである。これは、スポット通貨取引は課税対象外の金融取引であるが、通貨デリバティブ契約は課税対象となるという使用定義に基づくものである。またコモディティの現物取引は課税対象外であるが、コモディティに関わるデリバティブ契約は課税対象である。

また金融取引は、仕組み商品(証券化を通して提供される売買可能な証券またはその他の金融商品)の売買または譲渡から構成されることもある。このような商品は他の金融商品に類似しているため、本提案で使用する用語としての「金融商品」に含まれる必要がある。これらをFTTの対象外にすれば租税回避の機会を与えることとなる。この種の商品には、手形、ワラント、サーティフィケート、通例住宅ローンやその他のローンなどの資産に関わる信用リスクを市場に移転させるバンキング証券化、その他のリスク(保険の引受けなど)を市場に移転させる保険証券化が含まれる。

ただしこの税の対象範囲として焦点を合わせているのは金融機関による取引で、これには金融機関が自己勘定または他人勘定で取引の当事者として行う金融取引、および金融機関が取引当事者の名義で行う金融取引が含まれる。このアプローチを取ることによりFTTの包括的な適用が確保される。実際面でいえばこれらは帳簿の各記載によって通常明らかになる。

金融機関の定義は広範に渡り、基本的には投資会社、組織された市場、信用機関、保険会社、再保険会社、集団投資事業とその管理者、年金基金とその管理者、持株会社、リース会社、特別目的事業体を含む。また規制目的で採択された関連EU法で規定されている定義を可能な限り参照する。加えて、相当な額での金融活動を行う上記以外の者も金融機関と見なされるべきである。

本指令案ではさらなる詳細については権限の委譲が規定されている。

集中清算機関(CCP)、証券集中保管機関(CSD)、国際証券集中保管機関(ICSD)は、これらの機関が果たす機能自体は売買活動にあたらないため、金融機関とは見なされない。またこれらの機関は金融市場の機能の効率性と透明性の向上に重要な役割を担っている。

本提案のFTTの各国領域における適用とEU加盟国の課税権は、居住地原則に基づいて規定されている。EU内で金融取引が課税対象となるには、取引当事者の一方がEU加盟国の領域内に設立されている必要がある。金融機関が自己勘定または他人勘定で取引当事者として金融取引を行うか、または取引当事者の名義で金融取引を行う場合に、その金融機関の事業所が位置する領域を管轄するEU加盟国においてFTTが課税される。

取引当事者としてまたは取引当事者の名義で金融取引を行う金融機関の事業所が、それぞれ異なるEU加盟国の領域に位置していた場合、これらのEU加盟国は本提案に従って各国で設定した税率でこの取引に課税する権限を持つ。取引に関与する事業所が非EU国の領域内に位置する場合、取引当事者の一方がEU内に設立された機関でない限り、その取引はEU内のFTTの対象にはならない。取引当事者の一方がEU内に設立された機関である場合、第三国の金融機関も取引に関係するEU加盟国内に設立されたものと見なされ、そのEU加盟国での課税対象となる。取引がEU外の取引場所で行われた場合、取引を行う事業所または取引に介在する事業所のうち少なくとも一方がEU内に位置する場合はその取引は課税対象となる。

ただし、納税義務者が取引の経済的実質とEU加盟国の領域の間に関連性がないことを証明できた場合には、その金融機関は加盟国に設立されたものと見なされない。

さらに、売買が課税対象となる金融商品がグループ内の企業間での譲渡の対象を形成する場合、この譲渡は売買ではなくても課税対象となる。

以上のことから、上記の目的に従ったFTTの論理では、多くの金融活動が金融取引と見なされないこととなる。プライマリー市場の除外に加え、市民や企業に関係のある日々の金融活動のほとんどはFTTの範囲外となる。範囲外となるのは保険契約、住宅ローン、消費者信用、支払いサービスなどである(ただしその後の仕組み商品を通したこれらの取引は範囲内となる)。また、スポット市場での通貨取引をFTTの範囲外とすることで資本の自由な動きを確保している。ただし、通貨取引に基づくデリバティブ契約は、それ自体は通貨取引ではないためFTTの範囲内となる。

 

3.3.2.        2章(課税可能性、課税価額、税率)

課税の時点は金融取引の発生時点と規定されている。その後のキャンセルは、エラーの場合を除き課税除外の理由とはならない。

金融商品(デリバティブ以外)の売買または譲渡と、デリバティブ契約の売買、譲渡、締結、修正では、性質と特性が異なるため、これらの課税価額は異なるものでなければならない。

ある金融商品(デリバティブ以外)の売買については通常、価格またはその他の対価が特定される。論理的にはこれが課税価格と考えられる。しかし市場の歪みを回避するには、対価が市場価格より低い場合やグループ内の企業間で行われる「売買」の概念から外れる取引の場合には特別なルールが必要となる。これらの場合、FTTの課税時点における公正妥当に決定された市場価格が課税価額となる。

デリバティブ契約の売買、譲渡、締結、修正については、FTTの課税価額はそのデリバティブ契約が売買、譲渡、締結、修正された時点の想定元本とする。このアプローチによりデリバティブ契約へのFTTの適用が分かりやすく容易となり、またコンプライアンス費用および行政費用が低く抑えられる。またこのアプローチにより、例えば価格や価値の差のみに関する契約を締結する税制上のインセンティブは発生しないため、巧妙な設計によるデリバティブ契約を通して作為的に税負担を軽減することが難しくなる。またこのアプローチでは、契約のライフサイクルの異なる時点で発生するキャッシュフローに課税されるのではなく、契約の売買、譲渡、締結、修正の時点で課税されることになる。このため適正な税負担を規定するためには使用税率を低く抑える必要がある。

租税回避、脱税、税の乱用を防ぐためにはEU加盟国における特別条項が必要となる可能性がある(3.3.3も参照のこと)。例えば想定元本が作為的に除算されることが考えられる。例としてはスワップの想定元本が恣意的に高い数値で除算され、全ての支払額が同じ数値で乗算される可能性がある。この操作によりこの商品のキャッシュフローは変わらないが税基盤の規模が恣意的に縮小されることになる。

課税価額またはその一部が、査定を行うEU加盟国以外の国の通貨建てである場合についても、課税価額の確定のために特別条項が必要となる。

デリバティブ以外の金融商品の売買または譲渡と、デリバティブ契約の売買、譲渡、締結、修正では、性質が異なる。さらに、この2つのカテゴリーへの金融取引税に対し市場は異なる反応を示すと考えられる。これらの理由および広く均等な課税を確保する目的から、この2つのカテゴリーには異なる税率を適用すべきである。

また税率を決める際には課税価額の決定方法の違いも考慮すべきである。

概説すると、提案された最低税率(それ以上については各国に国内政策の余地が与えられている)は本指令の整合化目的を達成するのに十分な高さであると同時に、移転のリスクを最小化するのに十分な低さに抑えられている。

 

3.3.3.        3章(FTTの支払、関連義務、脱税・租税回避・税の乱用の防止)

本提案では、EU加盟国の領域内に設立された金融機関が(自己勘定または他人勘定で)当事者として行う金融取引またはその金融機関が当事者の名義で行う金融取引を参照することにより、FTTの対象範囲を規定している。実際、金融機関は金融市場での取引の大部分を実施しており、FTTは市民ではなく金融セクター自体に焦点を絞るべきである。従ってこれらの機関が税務当局に納税する義務を負うべきである。ただしEU加盟国は取引当事者の本社がEU外に位置する場合を含め、他者にもFTTの支払義務を連帯して負わせることができるべきである。

金融取引の多くは電子的に行われる。この場合FTTは課税時点で直ちに支払われるべきである。その他の場合、FTTは支払処理を手動で行うのに十分な時間を確保しつつ当該金融機関がキャッシュフローから不当な利益を得ることのない期間内に支払われるべきである。この意味で3営業日が適切な期間と見なすことができる。

EU加盟国はFTTが正確かつ適時に課税され、脱税、租税回避、税の乱用が防止されるよう適切な措置を取る義務を負わされるべきである。

これに関連してEU加盟国は、金融取引に関する報告・データ保守義務を含む既存および今後制定される金融関連EU法を活用すべきである。

同様にEU加盟国は、必要な場合は常に、税の査定・回収に関する既存の行政協力文書を活用すべきである。これには特に、課税における行政協力および指令77/799/EECの廃止に関する2月15日理事会指令2011/16/EU[10](2013年1月1月より適用)、および租税、関税、その他の措置に関する請求分の回収のための相互支援に関する2010年3月16日理事会指令2010/24/EC[11](2012年1月1日より適用)が含まれる。他の法律文書(例えば欧州評議会・OECD税務行政執行共助条約[12]など)も、関連性・適用性がある場合には使用すべきである。

本指令案ではさらなる詳細については権限の委譲が規定されている。

本FTTの基礎を成す概念的アプローチ(広い対象範囲、居住地原則、免除なし)に加え、上記で概説したルールにより、脱税、租税回避、税の乱用を最小限に抑えることができる。

 

3.3.4.        4章(最終条項)

整合化という本提案の目的から判断すると、EU加盟国はVATおよび本指令案が規定するFTT以外の金融取引税を維持・導入すべきでないことになる。VATについては、付加価値税の共通制度に関する2006年11月28日理事会指令2006/112/EC[13]の第137条1.(a)に規定された税の選択権は引き続き適用されるべきである。保険料に対する税などは当然性質が異なる。また金融取引の登録料も、それが純粋な費用の返済または提供されたサービスの対価に相当する場合は性質が異なる。従ってこのような税や手数料は本提案の影響を受けるものではない。

資本調達への間接税に関する2008年2月12日理事会指令2008/7/EC[14]の条項は原則として引き続き全面的に適用される。これにより例えば、指令2008/7/EC第5条(2)で言及されているように、株券または同種の有価証券もしくはそのような有価証券に基づくサーティフィケート、債券(国債を含む)、ローンに関わるその他の譲渡可能な有価証券のプライマリー市場での発行は、EUにおいてFTTの対象外となる。この2つの指令間に起こり得る対立を避けるため、ここで提案する指令は指令2008/7/EC条項に優先する旨を規定すべきである。

 

4.             予算への影響

仮見積もりによると、市場の反応によってはEU全体での税収は年間570億ユーロとなる可能性がある。

本質的に本提案は、欧州連合の自己資金制度に関する2011年6月29日理事会決定案に沿って、EU加盟国およびEU予算の新たな収入源を創出するものである。

EU内でFTTから創出された歳入は、EU予算の自己資金として全額または一部を使用できるため、加盟国の国家予算から支払われる既存の自己資金に取って代わることができる。これによりFTTの税収はEU加盟国における財政再建の取り組みに寄与することになる。委員会はどのようにFTTをEU予算の資金として使用できるかを示した必要な補完提案を別途提示する。

 

         2011/0261 (CNS)

金融取引税の共通制度および指令2008/7/ECの修正に関する理事会指令案

 

欧州連合理事会は、

欧州連合の機能に関する条約および特にその第113条を考慮し、

欧州委員会からの提案を考慮し、

立法機関制定法案の各国議会への伝達後に、

欧州議会の意見[15]を考慮し、

欧州経済社会評議会の意見[16]を考慮し、

特別立法手続きに従って行動し、

以下の事実に鑑みて、本指令を採択した。

(1)            近年の金融危機の結果、金融セクターへの追加的課税の可能性、特に金融取引税(FTT)の可能性についての議論が全てのレベルにおいてなされるようになった。この議論は、金融セクターによる危機の費用負担に対する貢献を確保すること、今後は他のセクターと同等の公平な課税が金融セクターに課されるようにすること、金融機関による過度のリスクを伴う活動を抑制すること、将来の危機の回避を目的として規制措置を補強すること、総予算または特定の政策目的のための追加的歳入を創出することを求める声から生じたものである。

(2)            当該の金融取引のほとんどは極めて移動性が高いことを念頭に置き、加盟国単独の措置による市場の歪みを防ぐことで域内市場の適切な機能を確保するためには、加盟国におけるFTTの基本的特徴は欧州連合レベルで整合化させることが重要である。これにより、欧州連合内での租税裁定行為に対するインセンティブの発生、欧州連合内の金融市場間の移転による歪みの発生、二重課税または課税の空白の発生を回避すべきである。

(3)            域内市場が適切に機能するためには、FTTは、組織された市場および「店頭」市場における仕組み商品、全てのデリバティブ契約の締結と修正を含む、幅広い金融商品に適用されるべきである。同じ理由から、FTTは広範に定義された金融機関に適用されるべきである。

(4)            「金融商品市場および理事会指令85/611/EEC、93/6/EEC、欧州議会および理事会指令2000/12/ECの修正、ならびに理事会指令93/22/EECの廃止に関する2004年4月21日欧州議会および理事会指令2004/39/EC」(MiFID)[17]の付属書Iに示された金融商品の定義には、集団投資事業のユニットも含まれる。これはつまり、譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS)に関わる法律、規制および行政条項の協調に関する2009年7月13日欧州議会および理事会指令2009/65/EC[18]の第1条(2)に定義された、譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS)の株券およびユニットも金融商品となることを意味する。また、オルタナティブ投資ファンド管理者および指令2003/41/EC、2009/65/EC、規則(EC) No 1060/2009、(EU) No 1095/2010の修正に関する2011年6月8日欧州議会および理事会指令2011/61/EU[19]の第4条(1)(a)に定義された、オルタナティブ投資ファンド(AIF)の株券およびユニットも金融商品となることを意味する。従って、これらの商品の引受けや償還はFTTの対象となるべき取引である。

(5)            金融市場の効率的で透明性ある機能を保つためには、それ自体が売買活動とは見なされずむしろ売買活動を促進する機能を果たしている、または加盟国を財政的に支援するために金融取引を行っているという理由から、一定の事業体を本指令の範囲から除外する必要がある。

(6)            金融機関の借り換えの可能性や金融政策全般に対する悪影響を回避するためには、欧州中央銀行との取引と同様に各国の中央銀行との取引もまたFTTの対象となるべきではない。

(7)            企業および政府による資本調達の阻害とならないように、また一般世帯への影響を回避するために、デリバティブ契約の締結または修正を除いて、プライマリー市場でのほとんどの取引および、保険契約の締結、住宅ローン、消費者信用、支払いサービスなどの市民・企業に関係のある取引は、FTTの範囲から除外されるべきである。

(8)            域内市場での歪みを回避するために、課税可能性および課税価額は整合化されるべきである。

(9)            課税時点は必要以上に遅延されるべきではなく、金融取引の発生時点と同時であるべきである。

(10)           企業および税務管理組織の費用を抑えられるよう課税価額の決定をできる限り容易にするためには、デリバティブ契約に関わるもの以外の金融取引については、通常は取引の中で与えられた対価を参照すべきである。対価が与えられていない、または与えられた対価が市場価格より低い場合、取引の価値を公正に反映したものとして市場価格が参照されるべきである。同様に計算を容易にするという理由から、デリバティブ契約が売買、譲渡、締結、修正された場合には想定元本が使用されるべきである。

(11)           無差別待遇の促進ために、取引の各カテゴリー(一方のカテゴリーはデリバティブ以外の金融商品の取引、他方のカテゴリーはデリバティブ契約の売買、譲渡、締結、修正)内では単一税率が適用されるべきである。

(12)           課税の焦点を市民ではなく金融セクター自体に合わせるために、また金融機関は金融市場での取引の圧倒的大部分を実施していることから、これらの機関が自己名義、他人名義、自己勘定、他人勘定のいずれで取引をした場合にも、本税はこれらの機関に適用されるべきである。

(13)           金融取引は移動性が高いことから、また租税回避の可能性を軽減するために、FTTは居住地原則に基づき適用されるべきである。

(14)           最低税率は本指令の整合化目的を達成するのに十分な高さに設定されるべきである。同時に、最低税率は移転のリスクを最小化するのに十分な低さでなければならない。

(15)           加盟国はFTTが正確かつ適時に課税されるために必要な措置を取る義務を負うべきである。脱税、租税回避、税の乱用を効率的に防止するために、加盟国は必要な場合は常に財政案件における相互支援に関する既存の法律文書を使用する義務を負うべきである。また該当する法規に従い金融セクターに義務付けられている報告・データ保守義務を活用する義務を負うべきである。

(16)           ある企業が本指令でいう金融機関と見なされる程度に一定の金融活動がその企業の活動のかなりの部分を占めているか否かを判断するための詳細ルールを採択できるよう、また脱税、租税回避、税の乱用からの保護に関する詳細ルールを採択できるよう、この目的の達成に必要な措置の指定について、欧州連合の機能に関する条約第290条に従い法令を採択する権限が委員会に委譲されるべきである。委員会が準備作業段階で専門家レベルの協議を含めた適切な協議を行うことが特に重要である。委任法令の作成準備および作成の際には、委員会は確実に理事会に対し関連文書を適切かつ適時に伝達すべきである。

(17)           本指令と資本調達への間接税に関する2008年2月12日理事会指令2008/7/EC[20]の間の対立を避けるため、その指令は適宜に修正されるべきである。

(18)           本指令の目的、すなわち欧州連合レベルにおけるFTTの基本的特徴の整合化は加盟国によって十分に達成することはできず、単一市場の適切な機能を確保するには欧州連合レベルにおいてより効果的に達成することができるため、欧州連合は欧州連合条約第5条に記載された補完性の原則に従い、措置を採択することができる。その条項に記載された比例性の原則に従い、本指令はこの目的の達成に必要な措置の範囲を超えていない。

 

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課税対象、範囲、定義

 

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課税対象、範囲

1.             本指令は金融取引税(FTT)の共通制度を制定するものである。

2.             本指令は、少なくとも取引の一方の当事者が加盟国に設立され、加盟国の領域内に設立された金融機関が自己勘定または他人勘定で取引当事者として関与するか、もしくは取引当事者の名義で関与した場合の、全ての金融取引に適用されるものとする。

3.             本指令は以下の主体には適用されないものとする:

(a)               欧州金融安定ファシリティ;

(b)              パラグラフ4ポイント(c)を条件として、2か国以上の加盟国により設立された国際金融機関で、深刻な資金問題に悩むかまたは脅かされている参加国のために財源を動員するまたは財政援助を行うことを目的としたもの;

(c)               集中清算機関(CCP)の機能を果たしている場合のCCP;

(d)              証券集中保管機関(CSD)、国際証券集中保管機関(ICSD)の機能を果たしている場合のCSDおよびICSD。

ただし、ある主体が第1サブパラグラフに準じて課税対象外となる場合、これはその取引相手に対する課税の可能性を除外するものではない。

4.             本指令は以下の取引には適用されないものとする:

                (a)             委員会規則 (EC) No 1287/2006[21]第5条ポイント(c)に定めるプライマリー市場取引。ただし、欧州議会および理事会指令2009/65/EC[22]第1条(2)に定義する譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS)、ならびに欧州議会および理事会指令2011/61/EU[23]第4条(1)(a)に定義するオルタナティブ投資ファンド(AIF)の、株券およびユニットの発行および償還を除く;

                (b)            欧州連合、欧州原子力共同体、欧州中央銀行、欧州投資銀行との取引、および、欧州連合または欧州原子力共同体により設立された欧州連合の特権及び免除に関する議定書が適用される機関との取引。ただしこれは、その議定書およびその実施のための協定もしくはその本部協定の範囲内および条件下において、競争の歪みにつながらない範囲内に限定される;

                (c)             ポイント(b)に定めるもの以外の国際組織または機関で、その組織または機関のある国の公的機関にそのように認められている組織または機関との取引。ただしこれは、その機関を設立する国際条約または本部協定により規定された範囲内および条件下に限定される;

                (d)            加盟国の中央銀行との取引。

2

定義

1.             本指令では以下の定義が適用されるものとする:

(1)            「金融取引」とは、以下のいずれかをいう:

                (a)             レポ取引、リバースレポ取引、有価証券の貸借契約を含む、ネッティング、決済以前の金融商品の売買;

                (b)            ポイント(a)にあたる場合以外で、グループ内の企業間における、金融商品を所有者として処分する権利の譲渡、およびその金融商品に付随するリスクの移転を意味する同等の操作;

                (c)             デリバティブ契約の締結または修正;

(2)            「金融商品」とは、欧州議会および理事会指令2004/39/EC[24]の付属書IセクションCに定義する金融商品および、仕組み商品をいう;

(3)            「デリバティブ契約」とは、指令2004/39/ECの付属書IセクションCポイント(4)~(10)に定義する金融商品をいう;

(4)            「レポ取引」および「リバースレポ取引」とは、欧州議会および理事会指令2006/49/EC[25]第3条に定める取引をいう;

(5)            「有価証券貸付取引」および「有価証券借入取引」とは、欧州議会および理事会指令2006/49/EC第3条に定める契約をいう;

(6)            「仕組み商品」とは、欧州議会および理事会指令2006/48/EC[26]第4条(36)の意義の範囲内での、証券化を通して提供される売買可能な有価証券またはその他の金融商品、もしくは信用リスク以外のリスクの移転を伴う同等の取引をいう;

(7)            「金融機関」とは以下のいずれかをいう:

                (a)             指令2004/39/EC第4条に定義する投資会社;

                (b)            指令2004/39/EC第4条に定義する規制市場および、その他の組織された取引場所またはプラットフォーム;

                (c)             指令2006/48/EC第4条に定義する信用機関;

                (d)            欧州議会および理事会指令2009/138/EC[27]第13条に定義する保険、再保険事業;

                (e)             指令2009/65/EC第1条に定義する譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS)および、指令2009/65/EC第2条に定義する管理会社;

                (f)             欧州議会および理事会指令2003/41/EC[28]第6条(a)に定義する年金基金または職域年金基金、そのような基金の投資顧問;

                (g)            指令2011/61/EU第4条に定義するオルタナティブ投資ファンド(AIF)およびオルタナティブ投資ファンドのマネージャー(AIFM);

                (h)            指令2006/48/EC第4条に定義する証券化特別目的事業体;

                (i)             指令2009/138/EC第13条(26)に定義する特別目的事業体;

                (j)             以下のうち1つ以上の活動を行うその他の企業。ただしこれらの活動が金融取引の量または額から見てその企業の活動全体のうちかなりの部分を占める場合に限る:

                                (i)             指令2006/48/EC付属書Iのポイント1、2、3、6に定める活動;

                                ii)             全ての金融商品について自己勘定または顧客の勘定による売買;

                                (iii)           事業における持株の取得;

                                (iv)           金融商品への参加または金融商品の発行;

                                (v)            ポイント(iv)に定める活動に関連するサービスの提供。

(8)            「集中清算機関」(CCP)とは、1つ以上の金融市場内での売買の取引当事者間に介入し、あらゆる売り手の買い手となり、あらゆる買い手に対する売り手となる法人をいう;

(9)            「ネッティング」とは、欧州議会および理事会指令98/26/EC[29]第2条に定義する意味を持つものとする;

(10)           「想定元本」とは、あるデリバティブ契約における支払金を計算する際に使用する、原資産の額面価額をいう。

2.             委員会は、第13条に従い、パラグラフ1(7)(j)に定める活動が企業の活動全体のうちかなりの部分を占めるか否かを判断するための詳細なルールを定める委任法令を採択するものとする。

3

設立

1.             本指令では、金融機関は以下の条件のいずれかが満たされた場合に、ある加盟国の領域内に設立されたと見なされるものとする:

                (a)             その加盟国の当局が所轄する取引については、その金融機関が金融機関として活動することをその当局が認可した場合;

                (b)            その金融機関がその加盟国で登記されている場合;

                (c)             その金融機関の定住所または常住地がその加盟国にある場合;

                (d)            その金融機関の支部が行う取引については、その加盟国内にその支部がある場合;

                (e)             その金融機関が、取引当事者として自己勘定または他人勘定で、もしくは取引当事者の名義で、ポイント(a)、(b)、(c)または(d)に準じてその加盟国で設立された金融機関、またはその加盟国の領域内で設立された金融機関以外の当事者と、金融取引を行う場合。

2.             パラグラフ1に記載されたリスト内の条件のうち2つ以上が満たされる場合、満たされた条件のうちリストの最も上位にある条件により設立加盟国が決定されるものとする。

3.             パラグラフ1の記述にかかわらず、FTTの納税義務者がその取引の経済的実質と加盟国の領域との間に関連性がないことを証明した場合には、金融機関はそのパラグラフの意義の範囲内においては設立されたと見なされないものとする。

4.             金融機関以外の者は、その者の登記された地位、または自然人の場合はその者の定住所もしくは常住地が加盟国にある場合、あるいはその者の支部が行う金融取引についてはその支部が加盟国にある場合に、その加盟国に設立されたと見なされるものとする。

2

課税可能性、課税価額、税率

 

4

FTTの課税可能性

1.             FTTは各金融取引が発生した時点で各取引に対し課税可能となるものとする。

 

2.            その後に生じた金融取引のキャンセルまたは修正は、エラーの場合以外は課税可能性に影響を与えないものとする。

 

5

デリバティブ契約に関連するもの以外の金融取引におけるFTTの課税価額

 

1.             第2条(2)のポイント1(c)に定めるもの以外の金融取引および、デリバティブ契約については第2条(1)のポイント1(a)および1(b)に定めるもの以外の金融取引では、課税価額は、譲渡と引き換えに取引相手または第三者から支払われた、または支払義務が生じた、対価を構成するもの全てとする。

 

2.             パラグラフ1の記述にかかわらず、そのパラグラフに定める場合で以下の条件下にある場合には、FTTが課税可能となった時点で決定される市場価格が課税価額となるものとする:

(a)             対価が市場価格より低い場合;

(b)            第2条(1)(b)に定める場合。

 

3.             パラグラフ2における市場価格とは、公正妥当な取引であった場合に関係する金融商品の対価として支払われるはずの価格全額をいうものとする。

6

デリバティブ契約に関連する金融取引における課税価額

 

第2条(1)のポイント1(c)に定める金融取引および、デリバティブ契約については第2条(1)のポイント1(a)および1(b)に定める金融取引では、FTTの課税価額は、金融取引の時点でのデリバティブ契約の想定元本とする。

 

1つ以上の想定元本が特定された場合、課税価額の決定には最も高い想定元本を使用するものとする。

 

7

課税価額に関する共通条項

 

第5条または第6条の下で、課税価額の決定に関連する価格の全額または一部が、課税する加盟国以外の通貨建てで表示されている場合に適用される為替相場は、FTTが課税可能となった時点で関係加盟国の最も代表的な為替市場で記録された最新の売り相場、またはその加盟国が規定したルールに従いその市場を参照することにより決定された為替相場とする。

 

8

適用、構造、税率

 

1.             加盟国はFTTが課税可能となった時点で有効な税率を適用するものとする。

 

2.             税率は課税価額に対するパーセンテージという形で各加盟国が定めるものとする。

 

これらの税率は以下の割合以上とする:

(a)               第5条に定める金融取引については0.1%;

(b)              第6条に定める金融取引については0.01%。

3.             加盟国はパラグラフ2(a)および(b)に準じて、同じカテゴリー内の金融取引全てに同じ税率を適用するものとする。

 

3

FTTの支払、関連義務、脱税、租税回避、税の乱用の防止

 

9

税務当局に対するFTT納税義務者

 

1.             各金融取引について、FTTは以下の条件のいずれかを満たす各金融機関により支払われるものとする:

(a)             その金融機関が取引当事者として自己勘定または他人勘定で活動する場合;

(b)            その金融機関が取引当事者の名義で活動する場合; または

(c)             取引がその金融機関の勘定で行われた場合。

2.             ある金融機関が他の金融機関の名義または勘定で活動する場合、後者の金融機関のみがFTT納税義務を負うものとする。

 

3.             取引で使用された勘定を持つ金融機関が、第10条(4)に記載された期限までにおさめるべき税金を支払わない場合、非金融機関を含む取引の各当事者は、その金融機関が納めるべき税金の支払いに対し連帯責任を負うものとする。

 

4.             加盟国は、本条項のパラグラフ1、2、3に定めるFTTの納税義務者以外の者をその税の支払いに対する連帯責任者として定めることができる。

 

10

FTTの納税期限、確実な納税のための義務、納税の確認に関する条項

 

1.             加盟国は、登録、会計、報告義務および、税務当局に納めるべきFTTの効率的な納税を確保することを目的としたその他の義務を規定するものとする。

 

2.             加盟国は、各税率で課税された取引の総額を含め、1か月間に課税可能となったFTTの計算に必要な情報すべてを記載した申告書を、FTTの納税義務者全員が税務当局に確実に提出するようにするための措置を導入するものとする。FTT申告書は、FTTが課税可能となった月の翌月10日までに提出するものとする。

 

3.             加盟国は、金融機関が指令2004/39/EC第25条(2)に当たらない場合、所管当局から提出を求められればすぐに提出できるよう、自己名義、他人名義、自己勘定、他人勘定を問わず金融機関が行った金融取引全てに関する関連データを、少なくとも5年間は確実に保管されるようにするものとする。

 

4.             加盟国は税務当局に納めるべきFTTが以下の時点で確実に支払われるようにするものとする:

(a)             取引が電子的に行われた場合は、課税可能となった時点;

(b)            その他の全ての場合、課税可能となった時点から3営業日以内。

 

5.             加盟国は、税が正しく支払われたか否かを所管当局が確実に確認するようにするものとする。

 

11

脱税、租税回避、税の乱用の防止に関する特定条項

 

1.             加盟国は脱税、租税回避、税の乱用を防止するための措置を導入するものとする。

 

2.             委員会は、第13条に従い、加盟国がパラグラフ1に準じて取るべき措置を特定する委任法令を採択することができる。

 

3.             加盟国は、必要な場合には常に、税務に関する行政協力について欧州連合により導入された条項、特に理事会指令2011/16/EUおよび2010/24/EUにより導入された条項を活用するものとする。また加盟国は、金融取引に関連する既存の報告義務およびデータ保守義務を活用するものとする。

 

4

最終条項

12

金融取引に対するその他の税

加盟国は、本指令のFTTおよび理事会指令2006/112/EC[30]に規定する付加価値税以外の金融取引に対する税を維持、導入しないものとする。

 

13

委任の行使

 

1.             本条項に規定された条件の下に委任法令を採択する権限が委員会に与えられる。

 

2.             第18条に定める日から不定期間に渡り、第2条(2)および第11条(2)に定める権限が委譲されるものとする。

 

3.             第2条(2)および第11条(2)に定める権限委譲は理事会によりいつでも取り消すことができる。取り消しの決定によりその決定に規定された権限委譲は終了するものとする。これは欧州連合官報(Official Journal of the European Union)で決定が公表された次の日、またはこの中で規定された後日に発効するものとする。これはその時点で既に実施されている委任法令の効力に影響を及ぼすものではない。

 

4.             委員会は、委任法令を採択し次第その旨を理事会に通知するものとする。

 

5.             第2条(2)および第11条(2)に準じて採択された委任法令は、理事会への法令の通知後2か月間に理事会からの異議申立てがない場合またはその期間の終了前に理事会が異議のない旨を委員会に通知した場合にのみ発効するものとする。その期間は理事会の主導により2か月間延長できるものとする。

 

14

欧州議会への情報

 

欧州議会は、委員会による委任法令の採択、これらに対する異議申立て、理事会による権限委譲の取り消しについて通知を受けるものとする。

 

15

指令2008/7/ECの修正

 

指令2008/7/ECを以下のように修正する:

(1)            第6条(1)のポイント(a)を削除する。

(2)            第6条の後に、以下の条項を挿入する:

6a

指令…/…/EUとの関係

本指令は理事会指令…/…/EU[31]を侵害するものではない。」

16

再検討条項

委員会は、5年ごと、最初については2016年12月31日までに、本指令の適用に関する報告および、適当な場合にはその修正に関する提案を、理事会に提出するものとする。

その報告の中で委員会は最低限、FTTが域内市場の適切な機能、金融市場、実体経済に与える影響を検討するものとし、金融セクターへの課税の国際的進展も考慮に入れるものとする。

17

移行措置

1.             加盟国は、遅くとも2013年12月31日までに、本指令の順守に必要な法律、規制および行政条項を採択、公布するものとする。加盟国は、それらの条項およびそれらの条項と本指令の相関表を直ちに委員会に伝達するものとする。

加盟国は、それらの条項を2014年1月1日から適用するものとする。

加盟国がそれらの条項を採択する際には、それらの条項に本指令が言及されるか、またはそれらの公布の際に本指令が言及されるものとする。その言及がどのようになされるかは加盟国が決定するものとする。

2.             加盟国は、本指令の適用を受ける分野について採択する国内法令の主要条項の条文を、委員会に伝達するものとする。

18

発効

本指令は、欧州連合官報(Official Journal of the European Union)での公布日の翌日から起算して20日目に発効するものとする。

19

発出先

本指令は加盟国に発出する。

ブリュッセルにて

理事会

議長

 

付属書

立法上、財政上の声明

 

1.             本提案・イニシアティブの枠組み

 

1.1.           本提案・イニシアティブの表題

 

金融取引税の共通制度および指令2008/7/ECの修正に関する理事会指令

1.2.           ABM/ABB構造に関係のある政策分野

 

14 05 課税政策

 

1.3.           本提案・イニシアティブの性格

 

新たな措置に関わる提案

1.4.           目的

1.4.1.        本提案により達成を目指す委員会の多年度戦略的目標

 

金融安定化

1.4.2.        具体的目標および関連するABM/ABB活動

 

具体的目標 No.3

EU政策目標を促進するために新たな課税イニシアティブ・措置を創り出す。

関連するABM/ABB活動

14章 税制・関税同盟; ABB 05 税制政策

1.4.3.        期待される成果

 

協調性のない国家レベルの課税策導入が増加している現状を念頭に置き、金融サービスの域内市場における分断化を回避する。

 

金融機関が近年の危機のコストを公平に負担し、金融セクターと他のセクターが同等に課税されることを確保する。

 

過度にリスクのある取引に対し適切な阻害要因を作り、将来の危機回避を目的とした規制措置を補強する。

1.5.           本提案・イニシアティブの根拠

1.5.1.        短期的、長期的に満たすべき要件

 

金融危機後のEUにおける安定化という全体目標への貢献

1.5.2.        EUの関与がもたらす付加価値

 

EUレベルで対策を実施することによってのみ、様々な活動に渡る国境を越えた金融市場の分断を回避し、EU内の金融機関の平等な待遇を確保し、最終的には域内市場の適切な機能を確保することが可能となる。

1.5.3.        過去の類似の経験から得た教訓

 

広範囲の税基盤を持つFTTを国レベルで導入することにより深刻な移転を招くことなく上記3つの目標を達成することは、ほとんど不可能であることが分かっている(スウェーデンの例)。

1.5.4.        他の関連法律文書との首尾一貫性および相乗効果の可能性

 

税はグローバルな解決の枠組みの一環である。さらに、委員会はFTTの税収を将来の自己資金として使用することを提案している。

1.6.           継続期間および財政的影響

 

無期限の提案

1.7.           想定される管理方法

 

本提案は行政費用の増加によりEUに財政的影響を与える。

 

委員会による集権的直接管理

 

以下の者への実施業務の委託を伴う集権的間接管理:

 

欧州連合条約第5章に準じて特定の活動の実施を委任され、財政規則第49条の意義の範囲内で関連基本法において認定された者。

 

加盟国との共有管理

 

第三国との分権的管理

 

国際機関(今後指定される予定)との共同管理

 

2.             管理方法

2.1.           監視、報告ルール

 

加盟国は、確認方法を含め、FTTが正確かつ適時に課税されるための適切な措置を取らなければならない。

 

納税を確保し正確な納税を監視、確認するための適切な措置の提供については、加盟国に任される。

2.2.           管理、抑制制度

2.2.1.        特定されたリスク

 

1. 本指令の加盟国レベルでの実施の遅延

2. 脱税、租税回避、税の乱用のリスク

3. 移転のリスク

2.2.2.                        想定される抑制方法

 

本指令第11条では、委任法令および税務に関する行政協力という、脱税、租税回避、税の乱用の防止に関する具体的な条項が記載されている。

 

移転のリスクには、適切な税率の選択および広範な課税基盤の規定により対処する。

2.3.           不正行為の防止対策

既存または想定される防止、保護措置を特定する。

 

3.             本提案・イニシアティブの財政に対する影響の概算

3.1.           影響を受ける多年度財政枠組みの見出しおよび歳出予算項目

Ÿ 既存の歳出予算項目

多年度財政枠組み見出し・予算項目順に記載

多年度財政枠組み見出し

予算項目

歳出の種類

拠出

番号

 

[種類………]差別化/非差別化1EFTA2加盟国より加盟準備国3より第三国より財政規則第18条(1)(aa)の意義の範囲内で[XX.YY.YY.YY]差別化/非差別化有/無有/無有/無有/無

Ÿ 新たに要求された予算項目

多年度財政枠組み見出し・予算項目順に記載

多年度財政枠組み見出し

予算項目

歳出の種類

拠出

番号

 

[見出し………]差別化/非差別化EFTA加盟国より加盟準備国より第三国より財政規則第18条(1)(aa)の意義の範囲内で[XX.YY.YY.YY] 有/無有/無有/無有/無

3.2.           支出に対する影響の概算

3.2.1.        支出に対する影響概算の概要

100万ユーロ(小数点第3位まで)

多年度財政枠組み見出し 番号 [見出し… … … … … … ]

 

総局: <… …> N4 N+1年 N+2年 N+3年 …影響の継続期間を示すために必要な年数を全て記入(ポイント1.6参照) 合計
Ÿ 運営予算
予算項目の番号 割当分 (1)
支払分 (2)
予算項目の番号 割当分 (1a)
支払分 (2a)
特定のプログラム用から供給された行政的性格の予算5
予算項目の番号 (3)
合計

総局<… …>用の予算割当分=1+1a

+3該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず支払分=2+2a

+3該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず

 

Ÿ 運営予算合計 割当分 (4) 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず
支払分 (5) 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず
Ÿ特定のプログラム用から供給された行政的性格の予算の合計 (6)
多年度財政枠組み見出し<….>の予算合計 割当分 = 4 + 6 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず
支払分 = 5 + 6 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず

本提案・イニシアティブに1つ以上の見出しが影響を受けた場合:

Ÿ 運営予算合計 割当分 (4)
支払分 (5)
Ÿ特定のプログラム用から供給された行政的性格の予算の合計 (6)
多年度財政枠組み見出し14の予算合計(参照額) 割当分 = 4 + 6 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず
支払分 = 5 + 6 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず 該当せず

 

多年度財政枠組み見出し:

5

「行政支出」

100万ユーロ(小数点第3位まで)

2013 2014 2015 2016 2017以降
総局: 税制・関税同盟総局
Ÿ 人的資源 0.254 0.762 0.762 0.762 0.762
Ÿ その他の行政支出 0.040 0.036 0.036 0.036 0.036
税制・関税同盟総局合計 0.294 0.798 0.798 0.798 0.798

 

多年度財政枠組み見出し5の予算合計 (割当分合計=支払分合計) 0.294 0.798 0.798 0.798 0.798

100万ユーロ(小数点第3位まで)

2013 2014 2015 2016 2017以降

多年度財政枠組み見出し15の予算合計

割当分 0.294 0.798 0.798 0.798 0.798
支払分 0.294 0.798 0.798 0.798 0.798

 

3.2.2.        運営予算に対する影響の概算

                - X 本提案・イニシアティブは運営予算の使用を必要としない。

 

3.2.3.        行政的性格の予算に対する影響の概算

 

3.2.3.1.     概要

X 本提案・イニシアティブは以下の通り行政予算の使用を必要とする:

 

100万ユーロ(小数点第3位まで)

2013 2014 2015 2016 2017以降

 

多年度予算枠組み見出し5
人的資源 0.254 0.762 0.762 0.762 0.762
その他の行政支出 0.040 0.036 0.036 0.036 0.036
多年度予算枠組み見出し5小計 0.294 0.798 0.798 0.798 0.798

 

多年度予算枠組み見出し5以外6  

 

 

人的資源     その他の行政的性格の支出     多年度予算枠組み見出し5以外の小計該当せず該当せず該当せず該当せず該当せず

 

合計 0.294 0.798 0.798 0.798 0.798

3.2.3.2.     必要とされる人的資源の概算

X 本提案・イニシアティブは以下の通り人的資源の使用を必要とする:

概算は全額で表示(または小数点第1位まで)

2013 2014 2015 2016 2017以降
Ÿ 機関内計画ポスト(職員、臨時職員)
14 01 01 01 (本部および委員会代表事務所) 0.254 0.762 0.762 0.762 0.762
14 01 01 02 (代表部) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
14 01 05 01 (間接的研究) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
10 01 05 01 (直接的研究) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
Ÿ 外部人員(単位:フルタイム当量(FTE))7
14 01 02 01 (「グローバル用」から、CA、INT、SNE) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
14 01 02 02 (CA、INT、JED、LA、代表部のSNE) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
XX 01 04 yy8 -本部9 p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
-代表部 p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
XX 01 05 02 (CA、INT、SNE - 間接的研究) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
10 01 05 02 (CA、INT、SNE - 直接的研究) p.m. p.m. p.m. p.m. p.m.
その他の予算項目(特定する)
合計 0.254 0.762 0.762 0.762 0.762

14は関係する政策分野、予算の章番号。

 

必要な人的資源は本措置の管理のために既に配置された総局のスタッフ、および/または総局内で再配置されたスタッフで賄われる。必要な場合は、年次配置手続きの下で予算上の制約に照らして管理担当総局に追加人員が配置される。

 

職務の内容:

職員、臨時職員 税制・関税同盟総局の現在のスタッフはFTT共通システムという課題を完全に考慮して配置されているとはいえず、内部での再配置が必要である。配置された職員の主な職務は、交渉プロセスを促進するための本税の実質的な機能に関する専門的事項の詳細策定、それに続く実施状況のモニタリング、法解釈および作業文書の作成、委任法令の租税回避・乱用対策条項への寄与、必要に応じて侵害調査手続きの作成などである。

3.2.4.        現在の多年度財政枠組みとの適合性

X 本提案・イニシアティブは現在の多年度財政枠組みと矛盾しない。

3.2.5.        第三機関による寄与

- 本提案・イニシアティブでは、第三機関による協調融資について規定していない。

 

3.3.           歳入に対する影響の概算

X 本提案・イニシアティブによる歳入への財政的影響はない。

 

*原文: http://ec.europa.eu/taxation_customs/resources/documents/taxation/other_taxes/financial_sector/com(2011)594_en.pdf


[1] COM(2010) 549 final

(http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2010:0549:FIN:EN:PDF)

[2] 特に、ユーロ圏の首脳・政府首班は2011年3月11日の欧州理事会で「ユーロ圏、EU、国際レベルにおいて金融取引税の導入をさらに検討し、発展させるべき」ことに合意した。これに続く2011年3月24、25日の欧州議会においても世界的な金融取引税の導入をさらに検討し発展させるべきとの結論が改めて表明された。

[3] 欧州議会は2010年3月10日、25日および2011年3月8日、FTTの長所と短所を検討する影響評価の実施を委員会に求める決議を採択した。欧州議会はさらに、EU予算への寄与、途上国における気候変動の適応策と緩和策に対する支援提供のための革新的資金調達メカニズムとしての活用、開発協力の資金調達という観点から、FTTの各種案の可能性を評価するよう要請した。

[4] 金融・保険サービスのほとんどはVAT(付加価値税)から免除されている。

[5] COM(2011) 510 final

http://ec.europa.eu/budget/library/biblio/documents/fin_fwk1420/proposal_council_own_resources_en.pdf

[6] COM(2010) 700 final

(http://eur-lex.europa.eu/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=COM:2010:0700:FIN:EN:PDF)

[7] COM(2011) 510 final

(http://ec.europa.eu/budget/library/biblio/documents/fin_fwk1420/proposal_council_own_resources_en.pdf)

[8] この対象範囲は、「金融商品市場および理事会指令85/611/EEC、93/6/EEC、欧州議会および理事会指令2000/12/ECの修正、ならびに理事会指令93/22/EEC (OJ L 145, 30.4.2004, p. 1)の廃止に関する2004年4月21日欧州議会および理事会指令2004/39/EC」の付属書Iに示された金融商品の定義を参照している。この定義によると集団投資事業のユニットも金融商品に含まれている。従って、指令2009/65/EC (OJ L 302,17.11.2009, p. 32)の第1条(2)に定義された譲渡可能証券の集団投資事業(UCITS)の株券・ユニットおよび、指令2011/61/EU (OJ L 174, 1.7.2011, p. 1)の第4条(1)(a)に定義されたオルタナティブ投資ファンド(AIF)は金融商品である。このため、これらの商品の引受けや償還は本提案の意義の範囲内では金融取引と見なされる。

[9] 特に指令2004/39/EC(前脚注を参照)。

[10] OJ L 64, 11.3.2011, p. 1

[11] OJ L 84, 31.3.2010, p. 1

[12] http://www.oecdilibrary.org/docserver/download/fulltext/2311331e.pdf?expires=1309623132&id=id&accname=ocid194935&checksum=37A9732331E7939B3EE154BB7EC53C41

[13] OJ L 347, 11.12.2006, p. 1

[14] OJ L 46, 21.2.2008, p. 11

[15] OJ C …, …, p..

[16] OJ C …, …, p..

[17] OJ L 145, 30.4.2004, p. 1–44

[18] OJ L 302, 17.11.2009, p. 32–96

[19] OJ L 174, 1.7.2011, p. 1–73

[20] OJ L 46, 21.2.2008, p. 11

[21] OJ L 241, 2.9.2006, p. 1

[22] OJ L 302, 17.11.2009, p. 32

[23] OJ L 174, 1.7.2011, p. 1

[24] OJ L 145, 30.4.2004, p. 1

[25] OJ L 177, 30.6.2006, p. 201

[26] OJ L 177, 30.6.2006, p. 1

[27] OJ L 335, 17.12.2009, p. 1

[28] OJ L 235, 23.9.2003, p. 10

[29] OJ L 166, 11.6.1998, p. 45

[30] OJ L 347, 11.12.2006, p. 1–118

[31] OJ L ….., …., p

1 差別化=差別化された予算/非差別化=差別化されていない予算。

2 EFTA:欧州自由貿易連合。

3 加盟準備国および、該当する場合には西バルカン諸国の加盟準備国となる可能性のある国。

4 N年は本提案・イニシアティブの実施開始年。

5 EUのプログラム・措置を支援するための技術・行政支援および支出(元「BA」項目)、間接的研究、直接的研究

6 EUのプログラム・措置を支援するための技術・行政支援および支出(元「BA」項目)、間接的研究、直接的研究

7 CA=契約職員、INT=臨時スタッフ(「Intérimaire」)、JED=「Jeune Expert en Délégation」(代表部の若年層専門家)、LA=現地職員、SNE=補助的国家専門家。

8 運営予算(元「BA」項目)から外部人員用の上限以下で。

9 基本的には、構造基金、欧州農業農村振興基金(EAFRD)、および欧州漁業基金(EFF)用。

8、金融取引税を巡る12の誤解 Financial Transaction Tax: Myth-Busting

Financial Transaction Tax: Myth-Busting

March 2012

Stamp Out Poverty 編

 

金融取引税を巡る12の誤解

2012年3月(註1)

 

 

金融取引税(FTT)は、金融セクターからまとまった額の新たな税収を得ることができる政策オプションとして、現在、幅広い論議の対象となっている。金融危機への対処には膨大なコストがかかった。2009年12月末までにG20先進諸国が銀行救済のために使った費用の総額は、世界のGDPの6.2%、すなわち19760億ドルにのぼる(IMF、2010)。しかも欧米において、失業や公共サービスの切り詰めなどの形でこのコストを担うことになったのは、危機の招来に何ら責任をもたない一般市民だった。金融危機の原因とは何の関係もない発展途上諸国も、保健衛生、開発、インフラ整備、気候変動対策などに当てられるはずだった資金の切り詰め、もしくは支払い繰り延べという形で、大きなコスト負担を余儀なくされた。

 

FTTは、今も続くグローバルな経済危機に対処するコストの一部分を担えるだけの、有意な額の歳入を上げ得る数少ない政策オプションのひとつである。FTTを導入することで、現在あきらかに課税過少の状態にある金融セクターから、自らの行動の結果である危機に対処するコストを、より多く徴収することができるだろう(これはより公正なことでもある)。重要なのは、FTTが同時に市場を規制し、市場における投機的行為と短期収益主義を減らし、代わりにより持続可能で合理的かつ公正な長期的な経済発展を奨励することだ。

 

にもかかわらず、また、国際的に見てもFTTへの支持が広がっているのに、反対論者たちはいまだにFTTが経済に与える影響に関する「神話」を広めようとしている。だが、こうした「神話」は事実無根だ。この論文の目的は、こうした「神話」を一掃することである。

 

金融取引税(FTT)とは何か?

 

FTTとは、四種類の主要な金融資産の購入、販売、もしくは移転に課せられる小額の税金のことである。ここでいう四種類とは、株式、債券、外国為替、それに各々のデリバティブ(金融派生商品)である。欧州委員会は、株式と債券の取引に0.1パーセント、デリバティブの取引に0.01パーセントの課税を提案している(2011)。また、リーディング・グループ(註2)は2010年、外国為替の取引に0.005パーセントの課税を行うことを提唱して

いる。FTTは、まとまった額の新たな税収源になり得る。EU圏内全域に(通貨に関わる部分は除いて)FTTを課せば、年間570億ユーロの歳入を得ることができる(欧州委員会、2011)。さらに、広範囲にわたるFTT(通貨に関わる部分を含む)をすべての先進諸国で課せば、年間3000億ドル近い歳入を得ることができるだろう(Spratt&Ashford, 2011)。

 

手始めに、FTTをほかの貿易関連のコストとの関連というコンテクストから見てみよう。FTTの税率0.1パーセントとする場合、これは取引にかかるコストの総額の10パーセント未満に過ぎない。たしかに、それ以外のコスト、「たとえば各種手数料、スプレッド、マーケット・インパクト・コスト、手形交換高、清算費、手数料のやり取り、経営コストなど(Persaud, 2012, p2)」に比べて、とりわけ大きいとは言えない。実際、この程度のFTTを課しても、単に取引関連コストが10年前の水準に戻るだけだ。加えて、10年前の市場が今よりずっと健全であったことは、十分論証可能である。

 

「神話」その1:FTTは世界一律に実施しないと意味がない?

 

これは全くのでたらめである。これまで世界で実際に導入されたFTTの例を見てみれば、上記の主張とは正反対に、いくつもの国が一国単位でFTTの導入・活用に成功しているのがわかるだろう(付録1参照)。「FTTは別に珍しいものではない。過去何十年にもわたって40以上の国で恒久的もしくは一時的に導入されている。」(Beitler, 2010)(註3)イギリスで株式取引に課されたFTTが、よい例だ。この税は、有意なほど大きなビジネスの流出を招くことなく、イギリス国内で毎年50億ドルもの歳入を財務省にもたらしている。韓国、南アフリカ、インド、香港、イギリス、ブラジルをはじめとする多くの国々が、FTTでかなりの税収を上げている。たとえばブラジルは、各種資産の取引に様々な税率のFTTを課すことで、2010年一年間で150億ドルの税収を得ている(ブラジル財務省、2011)。こうした現在進行中の成功例を見れば、FTTは必ずしも全世界で一律に実施する必要はないことはあきらかだ。世界中で一律に実施しなければ、金融機関は単に税金逃れのために取引の場を海外へ移すだけだ、というのもまた、妥当性のない「神話」である。IMFも認めているとおり、FTTは「必ずしも、容認できないほどの規模で金融活動を国外に流出させるものではない。」(IMF、2011)FTTがどの程度成功するかは、どれだけうまく税制をデザインするかにかかっている。

 

「神話」その2:FTTは簡単に脱税できる?

 

実のところ、税制をうまくデザインすれば、脱税を最小限にするのは簡単だ。つまり、脱税という行為がロー・リスク、ハイ・リターンではなくて、ハイ・リスク、ロー・リターンになるようにすればいいのだ。言い換えれば、税率を低く設定し、脱税を行った場合の罰則を重くすればいいのである。そうすれば、脱税を行うインセンティブは大幅に低くなる。税制の施行を成功させるためには、税金の収納率を上げるという観点から、よいシステムをデザインすることが不可欠だ。以下に述べる二つのデザイン上の原則を守れば、脱税を最小限にとどめることができるだろう。この場合、取引がどこで行われるかは関係ないので、取引の場所を移すことによって脱税を図ることはできないからだ。

 

欧州委員会が提唱する「居住地原則」(2011)

FTTの徴収は、税を支払う金融機関、もしくは取引の主体がどこにあるか、またはいるか、という居住地原則にのっとって行う。徴収の際に注目すべきは、だれが取引主体かということで、どこで取引が行なわれたか、ではない。たとえば、欧州圏内の一国、フランスがFTTの徴収を決めたとする。その場合、フランスの納税義務者として登録されているすべての企業、もしくは個人が、フランス国内に在住しているか否かを問わず、納税を義務づけられる。対象となる金融資産の取引が世界のどこで行なわれようと関係はない。

 

「法的所有権移転の原則」(印紙税、と称されることもある)

金融資産の取引があった場合、法的な所有権の移転は、FTTが徴税当局に支払われないかぎり行えないものとする。課税されていない(もしくは印紙が添付されていない)金融取引は、法的な効力を持たない。FTTを支払わなければ契約の結果に法的な拘束力がない、となると、脱税をした当事者は大きな不利益をこうむることになる。法的な所有権がなければ、株の配当を受け取ることもできないし、資産を担保にすることもできないからだ。

 

「課税を受けていない、すなわち法的な拘束力を持たない証券類は、クリアリングハウスによる公的な決済の対象とされない。この事実は、今日では決定的な重要性を持つ。こうした意味で、FTTはデリバティブのような金融商品に対しても以前に増してふさわしい対策である・・・公的な決済を経ていない証券類を保有していると、自己資本比率規制に抵触するなどして、FTTを支払うよりもはるかに高いコストがかかるのである」(Griffith-Jones and Persaud, 2012, p.9)

 

こうした要素を勘案すれば、(脱税は)投資家にとってリスクが高すぎる―すなわち、脱税のインセンティブは相当低くなる。

 

最後に付け加えておきたいのだが、FTT反対論者はFTTに対してほかの税金の場合と比べて「はるかに厳しい基準」を適用している―あらゆる税金は、一定限度は脱税可能なのだ。税の収納率が100パーセント、ということはあり得ない。アメリカ政府の主要な財源となっている所得税を例にとってみよう。内国歳入庁(IRS)による最近の調査によると、脱税率は約19パーセント、金額にして年間3450億ドルという膨大な額にのぼる。しかしながら、1年間に収納される所得税の総額は2兆ドルだ。さすがに、本来入るべき税収の五分の一近くが収納されていないのだから、所得税には価値がない、という人はいないだろう(前出.2012)。課税方法について検討する場合、目標とするのは脱税を最小限にとどめることだ。それは上記の二つの原則を守れば達成できる。だが、脱税をゼロにすることはできない。

 

「神話」その3:FTTのコストは結局一般庶民が負うことになる?

 

そんなことはない。FTTを負担するのは、誰よりもまず、金融資産の主たる買い手と売り手である。実際、課税対象となる取引の85パーセント(註4)は銀行その他の金融機関によって行なわれている。その他のなかには、ヘッジファンドのように富裕層の個人を主な顧客とする機関も含まれる。一般庶民は、概して債券やデリバティブなどの金融資産の取引を行わない。FTTは結局誰が負担することになるのかを検証したIMFは、FTTが「きわめて累進的な」税制になるだろうと結論づけている(IMF, 2011, p.35)。すなわち、FTTを負担するのは、キャピタルゲイン課税の場合と同じく、社会でもっとも富裕な企業および個人になるだろう、ということだ。もっとも貧しい人々が不釣合いなほど多額の負担を強いられる付加価値税(VAT)と、好対照であるといえる。

 

何より重要なのは、投資の対象として1回だけ金融資産を買うのではなく、四六時中金融資産の取引を行い、結果として一番多額のFTTを支払うことになるのは、個人ではなく企業だ、という点である。取引を頻繁に行えば行うほど、多額の税金を納めなくてはならないからだ。FTTはとりわけ、高頻度取引(HFT)(註5)に大きな影響を与えるだろう。HFTを市場の崩壊をもたらす危険な取引で、規制対象とされるか大幅に縮小されるべきだ、と考える多くのエコノミストは、予測される結果を歓迎している。

 

金融機関、とりわけ銀行は、ATMの利用や住宅ローンをはじめとする各種ローンといった通常の金融サービスの手数料を上げることによって、FTTのコストを間接的に一般顧客に転嫁しようとするのではないか?

こうした事態が生じるとは考えがたい。第一に、立法府は金融機関がそうした方法でコストを利用者に転嫁することを禁じる法律を作ることで、そうした行為を規制できる。第二に、金融セクターはきわめて競争が激しいので、金融機関がコストを利用者に転嫁する可能性は低いだろう―そんなことをすれば、顧客を競争相手に取られてしまうからだ。たとえば、ライバルに比してはるかに多額のFTTを支払わざるを得ないような金融活動を行っている銀行があるとしよう。そうした銀行が、たとえばATMの利用手数料を新たに徴収したり、住宅ローンの金利を上げたりして、顧客にFTTのコストを転嫁し、一方、ライバル銀行はそうしたことを行わなかった場合、コスト転嫁を行った銀行は競争上不利な立場に立たされ、結果として市場におけるシェアを失う危険を冒すことになる。FTT反対論者はお題目を唱えるように、「銀行はいつだってコストを顧客に転嫁しようとする」と言って、われわれを脅かそうとする。しかし競争が激しい市場においては、話は見かけほど、もしくは金融セクターが主張するほど、単純ではない。

 

「神話」その4:年金生活者が損をさせられる?

 

年金生活者がFTTのコストを負担させられることはない。ほかの種類の投資家(たとえばヘッジファンドやHFTを行なう機関投資家)に比べて、年金基金は(世界中どこでも)長期的な投資を行なう傾向にあり、買った金融商品を保有しつづけるという戦略をとりがちだ。年金基金の資本のほとんどは長期的視野に立って運用されるので、市場参入時と撤退時に課せられるごく低率の税金は、ほかのコストや利得に比すれば無視してもよいほど小さな要因なのだ。

 

FTTの影響について語る際に主として考慮しなくてはならないのは、金融商品の保有期間である。FTTの導入によって、短期取引(証券を毎時、取引日であれば一年中毎日、売買すること)を行なうものは、不釣合いに大きなコストを負わされる。中期取引(買った証券を一年以上保持すること)を行なうものにとっては、FTTのコストは最小限であり、長期取引(たとえば10年物の国債を買って、満期まで持ちつづけること)をおこなうものにとっては、無視できるほど小さい。

 

年金基金がポートフォリオを見直すのは、せいぜい2年に一回程度だ。一方、HFTを行なう投資家は、一日でポートフォリオを丸ごと入れ替えるほど煩瑣に売買を繰り返す―したがって彼らは平均的な年金基金の1666倍のものFTTを支払うことになる (Persaud, 2012)。

 

さらに重要な違いについても、説明しておかなくてはならない。年金制度は、大きく二つに分けることができる―公的資金を財源とするもの(賦課方式のものや税金によってまかなわれるもの)と、事前積立された資本を運用することから出ているもの(すなわち年金基金)である。FTTの影響を受けるのは、後者のみだ。公的資金は金融市場で運用されることはなく、したがって課税の対象とならないからである。

 

すべてのヨーロッパ諸国において、年金生活者の収入の優に50パーセント以上は公的資金に由来するものである(オランダ、イギリス、フィンランドの三カ国は、特別な例外だが)。一方、EUに属する11カ国(フランス、ギリシャ、ベルギー、スペイン、ポルトガル、イタリア、ハンガリー、オーストリア、ポーランド、スロバキアそれにチェコ共和国)では、賦課方式の年金の割合は10パーセント未満である。ドイツでは賦課方式は15パーセント。賦課方式の年金が退職者の収入のかなりの部分(20パーセント以上)を占めているのは、6カ国(フィンランド、オランダ、イギリス、デンマーク、アイルランド、スウェーデン)だ。企業サイドや金融ロビーからFTTの影響を心配する声が上がっているのは、これら6カ国においてであり、それはある意味当然だろう。

 

最後にもうひとつ。FTTは、HFTにともなう構造的なリスクを減らすことで市場の安定に貢献し、長期的な年金の価値を上昇させる。銀行やヘッジファンドは、複雑かつ変動の激しい市場で大量の取引を行なうことで利益を得る傾向がある。取引手数料や営業利益をかすめとり、コンピューターの多用や技術的なアドバンテージを生かしつつ、リスクの大半、場合によっては全部を顧客に負わせるのだ。FTTを導入すれば、銀行がこのように預金者を食い物にして利益を上げる度合を減じることができる。

 

「神話」その5:FTTは経済成長を阻害し、失業者を増やし、経済に害を与える?

 

事実はその正反対だ。FTTは経済成長を促進し、雇用を生み出す一助となる。イギリスで(ECが提案しているように)外国為替を含む幅広い金融取引にFTTを課せば、年間84億ポンドの税収を上げると同時にGDPを0.25パーセント押し上げることができる―これは75,000の新たな雇用の創出と同等の効果がある(Persaud, 2012)

加えて、現在FTT課税を行なっている多くの国々の経済が大きく成長しているという事実もある。韓国、香港、インド、ブラジル、台湾、南アフリカ、スイスなどの国々だ。実際、これらの国々の経済は世界的に見てもかなりの急成長を遂げている。

 

長期的な経済成長の最大の脅威はFTTではなく、金融セクターの暴走である。2009年末時点でのG20先進諸国における金融危機の損害額は、GPD総額の6.2パーセント、すなわち1兆9760億ドルにのぼっている(IMF, 2010)。FTT反対論者は、最近、欧州委員会が公表したインパクト・アセスメント(IA)に掲載された数字を、文脈を無視して取り出し、それを引用してFTTを攻撃している。IAに掲載された数字は、GDPの伸び率がマイナス1.76パーセントになる、というものだ。まず、この数字は「予想できる最悪の事態」がおきた場合にはこうなる、という仮定の上に立ったもので、最終的に確定したものではない。IAの主張は、ECが提唱しているような形でデザインされたFTTが導入されれば、長期的に見て0.53パーセントのGDPの減少が予測される、というものだ。この長期的に見て0.53パーセントという数字は、年率に換算すればほんのわずかに過ぎない。にもかかわらず、反対論者はこのマイナス1.76パーセントという数字を、誤解を招くようなやり方で使い、FTTの影響に関する誤った推論を展開、膨大な数の職が失われるかのように言い立てているのだ。

 

マイナス0.53パーセントという数字ですら、減少幅を大きく見積もりすぎている。欧州委員会が使用したモデルには、最近、最初のモデルを開発したのと同じメンバーによって改定が加えられている(Lendvai and Raciborki, 2011)。最新版のモデルは、投資に回される資金がどのように調達されるかをより現実を反映する形でシミュレートしている。このモデルを使った予測では、FTTがGDPに与える悪影響は大幅に縮小され、マイナス0.2パーセントに過ぎなくなる。

 

しかしながら欧州委員会による予測は、改定版でさえ完璧とはいえないモデルに基づいて算出されている。IAはFTT導入によるマイナスの影響だけを計算に入れ、プラスの影響を少しも考慮していないからだ。とりわけ、FTTによって得られた歳入を経済成長をうながすような政策、たとえば雇用の創出やインフラ整備、貧困の緩和などに投資した場合のプラスの効果を無視しているのは問題である。分析を行なうに際して、税の導入によって経済にかかるコストのみを考慮し、税の導入がもたらしうる利益を一切考慮しないというのは、きわめて不誠実な態度だ。欧州委員会税制・関税同盟総局のシェメタ局長も、IAが正確性を欠くことを認めている。局長は、これは世界のひとつの地域全体に幅広いFTTを課した場合、どのような影響があるかをモデル化する初めての試みであり、未完成のプログラムなのだ、と述べている。欧州委員会はこの問題に関する分析をさらに進めて、FTTの歳入を使った政策による経済成長へのプラスの影響も考慮にいれた報告書を近々発表する予定だ。

 

Griffith-JonesとPersaud(2012)の最近の研究は、経済危機の可能性を減じるというFTT導入のプラスの影響を特に取り上げて論じている。二人の論文は、FTTの導入がGDPに与える影響は、差し引きでプラスになる―(最低でも)約0.25パーセントのプラスになるだろう、と結論している。FTT導入で得られた歳入をうまく累進的に使えば、こうしたプラスの影響をさらに拡大することができる―失業率を下げ、経済を調整して、より持続的かつ公正な成長を可能ならしめることもできるのだ。

 

より生産性の高いセクターへの人的資源の再分配

金融セクターの異常に高い報酬が、そうでなければ工業、商業、研究などの分野に行く可能性がある、最高の頭脳を持った新卒の学生を金融分野にひきつけている。FTTの導入にともなって金融セクターでも最高額の報酬を得ている人々の収入レベルが下がれば、最高の頭脳を持つ学生が工業技術や製造業にも目を向ける一助となるだろう。そうすれば、より根本的かつ長期的な成長を目指すよう、経済全体を調整しなおす役にも立つはずだ。

 

より公正な成長

FTTはほかの多くの税金よりも累進的なものになるだろう。これには(ECのImpact Assessmentをはじめとする)十分な証拠がある。したがって、もしほかの税金を廃して(もしくは軽減して)代わりにFTTを課すならば、言い換えると財政の中立性を保つならば、総家計収入のより高い割合が消費に回されるようになるだろう。比較的貧しい世帯の場合、比較的裕福な世帯にくらべると、そのわずかな所得のうち消費に廻す割合が大きいからである。 つまり、もしFTTから得られる歳入の分、所得税かVATの税率を下げることが可能であれば、総需要と成長を伸ばすことができるのである。この効果は、総需要の不足こそが成長率の低迷、もしくは景気後退の重要な要因であると大多数のエコノミストがみなしている現在の状況下では、とりわけ価値があるとみなせるだろう。

 

「神話」その6:FTTは結果的に雇用を減らす?

 

そんなことはない。上述したように、FTTの導入はイギリス国内だけでも75,000の新たな雇用を生むだろう(Persaud, 2012)。FTT導入によって得られた歳入の増加分を、上手に累進的に活用すれば、労働市場を刺激し、製造業をはじめとする特定分野での雇用を増加させることができるはずだ。そうすれば、とりわけイギリスでは金融セクターへの依存が過度に高くなっている経済全体のバランスの再調整に貢献することができる。FTTの導入は、ごく特殊な分野、すなわちHFTで働く人々にとっては、比較的少量の雇用の減少を招くかもしれない。しかし経済のほかの諸分野での雇用の上昇は、特定分野での減少を補ってあまりあるので、全体としてみれば雇用は増加するだろう。

 

「神話」その7:FTTは確かによい政策のようだが、本気でそんなものを導入しようと考えている者などいない?

 

実際、FTTはこの二年間で多くの人からかなりの支持を集めている。マイクロソフトの創始者で慈善家としても有名なビル・ゲイツをはじめとする、きわめつきの著名人もFTT支持を表明している。ゲイツは2011年11月、G20首脳たちに提出したリポートの中で、特にFTTの導入を勧奨している(註6)ほかにもジョージ・ソロス、アル・ゴア、バン・キムン、コフィー・アナンなどの錚々たる面々がFTTを支持している。2011年には、ノーベル賞を受賞したジョセフ・スティグリッツやポール・クルーグマンをはじめとする一流エコノミスト千人がFTT支持を表明している。また、世界三十カ国の国会議員千人も支持を表明した。2011年を通じて、FTT支持の動きは拡大しつづけた。G20サミットでは、アルゼンチン、ブラジル、フランス、ドイツ、南アフリカの各国がFTT支持を表明した。

 

今現在、ヨーロッパではFTT導入に向けた強い機運がある。欧州委員会は現在、FTT法案を審議中であり、EU域内の9カ国(フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、ポルトガル、ギリシャ、オーストリア、ベルギー、フィンランド)がこの議案を優先的に審議するよう要請している。フランスは口先だけでなく、FTT導入を実行に移した。2012年2月にフランス議会は、イギリスの株式に対する印紙税をモデルにした自国内限定のFTT法案を承認したのである。

 

最後に、FTTがすでにどれほど世界各国で導入されているかについては、世界FTT地図(補遺1)を参照してもらいたい。

 

「神話」その8:FTTは市場の流動性を低下させ、資本コストを上昇させて、広義の経済活動に悪影響を与える?

 

EUが現在検討している規模でFTTを導入すると、取引コストが上昇し、その結果、出来高が減少して流動性が低下し、資本コストが上昇して、ついには投資が減少して経済成長率が鈍り、結局のところ、たいした税収は上げられないだろう、とする論者もいる(Rogoff, 2011)。だが、この議論は多くの事実をあえて隠している。

 

ここで上述の議論に対して懐疑論を述べる一番わかりやすい理由は、FTT導入によって取引コストが上昇しても、取引コストはせいぜい十年前のレベルに戻るだけだからだ。十年前の市場は、現在の市場よりもずっと健全だった。流動性の問題など、当時はあきらかに存在しなかった(Persaud, 2012年3月)。

 

次に資本コストの問題に目を向けよう。もし取引コストのわずかな増加が資本コストに有意なほどの影響を与えるというRogoffの論が正しければ、取引コストの急激な下落(コンピューター技術の進歩と規制緩和に由来する)の結果、経済はこの二、三十年で大きく成長していなくてはならないはずだ。しかし、データはこの仮説を支持しない。成長はむしろ取引コストがもっと高かった、市場暴落以前の時期のほうが大きかったのである(Baker, 2011)。

 

最後に、先にも述べたとおり、FTT導入でもっとも影響を受けるのは、HFTに従事している人々である。HFT従事者は、自分たちが市場に不可欠な流動性を供給していると主張する。だが、その主張はあてにならない。市場がすでに流動的である平常時には、HFTは確かに市場に流動性を供給する。だが、市場が危機に陥ると、HFT従事者はトレンドを先取りしようとして、一番流動性が必要なまさにその時に流動性を極端に低下させてしまうのだ―2010年5月のニューヨーク市場における瞬間暴落のときのように。FTTがHFTを減少させることができるのなら、FTTの導入には市場の構造弾性を向上させるというおまけまでついてくるのだ(Persaud, 2012)。Kapoor(2012)が述べているとおり、それならば、より低い出来高でも、より健全な流動性が供給されるほうがずっといいということだ。FTTの導入は市場から経済上何の目的も果たさない過剰な取引を除く一助となり、結果としてより基本的な経済的動機に基づく取引が残るようにするのだ。

 

「神話」その9:スウェーデンにおけるFTTの失敗は、FTTが機能しないことの証拠である?

 

FTT反対論者はしばしば、1984年から1991年にかけて施行されたスウェーデンの株式取引税の失敗を例にとって、FTTが機能しないことの証拠であると論じる。しかしながら、ほかの多くの諸国でFTTが導入され、成功しているのを見れば、スウェーデンの事例はむしろ例外であり、これを一般法則とみなすことはできないのがわかるだろう。スウェーデンのFTTの問題点はデザイン上の欠陥であり、FTTという一般的コンセプトそのものではなかったことは、今では広く知られている。

 

2010年9月にIMFがG20に提出したリポートは、主な問題点として以下の二つを挙げている。

1.      株式取引税は、登録されたスウェーデンのブローカーを通じておこなわれる取引のみに課されたので、スウェーデン以外のブローカーを通じて取引することで簡単に課税を逃れることができた。その結果、スウェーデン株の取引のかなりの部分が、イギリスのブローカーが扱うところとなった。一方、イギリスの印紙税の場合、イギリスで登録されている企業による株式取引に課税するもので、その取引が世界中どこで行われようと関係ない。さらに印紙税を支払わなければ正式な所有権の譲渡が認められないために、取引の当事者は税金逃れができない。たいていの投資家は、資産の正式な所有権を確定させるためなら、少しくらいの税金は進んで支払うものだ。

2.      1989年から1990年にかけて実施された確定利付債券の取引への課税は、企業ローンやスワップなどの課税対象とならない金融商品への資本のシフトを招いた。

 

スウェーデンの事例に対するIMFの結論は、FTTを導入すべきではなかった、というものではない。むしろ課税対象を「可能なかぎり拡大すべきだった。課税逃れを防止しするためにはそのほうが望ましい。また、司法・行政の名の下に・・・確実に税が取り立てられるようにすべきだった」(註7)

 

「神話」その10:FTTはブリュッセルの欧州委員会がEUの財政状態を改善するために導入しようとしているものである?

 

そうではない。ほかのすべての税金と同じく、FTTも一国単位で徴収される。したがって、その税収を何に使うかは個々の国の政府が決めることだ。FTT導入にもっとも熱心なフランスとドイツは、FTTによる歳入をEUの予算に充てることに反対している。労働組合およびNGOから構成される市民社会は、FTTの税収は欧州委員会に送るよりも、それぞれの国で優先順位の高い課題、たとえば公共サービスの維持や国際公約とした成長目標の達成、気候変動対策などに使うべきだ、としている。
補遺1を見ればわかるとおり、FTTは異常でも何でもない、ごくありふれたものであり、かつ、一国レベルで導入されるものである。しかしながら、複数の国家が協調して課税を行い、合意した共通の目的のために税収を振り向けた例もある。航空券連帯税の税収が、ユニットエイド(UNITAID)という国際機関がエイズや結核、マラリアなどの治療薬を購入する資金に充てられているのがよい例である。税金の徴収は各国政府が行うが、たまった資金はジュネーブにある世界保健機関(WHO)にプールされ、主として発展途上国などで支出されて、大きな成功を収めている。同じように、いくつかの国で徴収されたFTTを共同で使うことも考えられる。新たに得られる税収の一定割合を、保健・衛生分野での国際的な義務を果たすために、たとえば世界基金(Global Fund)(註8)に支出する、もしくは気候変動に対処するために、グリーン気候基金(Green Climate Fund)に支出するなどの例が考えられる。

 

「神話」その11:FTTが導入されても、政治家たちはその税収を最貧国の開発や気候変動対策に使おうとはしないだろう?

 

現在の経済状況の下では、FTTによる税収を、国内の必要を満たすためではなく、国際公約を果たすために使わせるのは、実際、難しいだろう。だが、税収の使途をこうした目的に限るという提案が出されたのも、市民団体とその活動が十分考慮に値する政策オプションとなったおかげである。2011年1月に発表された世論調査の結果によると、ヨーロッパでFTT導入を支持する人の割合は61パーセントであるのに対して、不支持の割合は26パーセント。イギリスでのFTTへの支持は65パーセントである。以前発表された別な調査によると、イギリス、フランス、ドイツ、スペイン、イタリアの5カ国では、五人に四人の人が、経済危機が原因で起きた様々な問題は、金融セクターが責任を持って解決すべきだ、と考えている。(註9)

 

ヨーロッパは金融危機で深刻な影響をこうむったが、発展途上国における危機の影響はよりいっそう深刻なものだった。経済のメルトダウンは貧しい国々に650億ドルもの歳入不足を生じさせた。世界銀行の推計では、このために全世界で新たに6400万人の人々が、一日当たり1.25ドル以下で生活しなくてはならなくなった。外国からの援助額は過去15年間で最大の下げ幅を記録し、出稼ぎ労働者からの送金は激減し、さらに気候変動の影響が加わって、何百万人もが家を失ったり、飢餓に陥ったりする危険にさらされている。世界エイズ・結核・マラリア対策基金は昨年、発展途上国への資金の提供を一時中断せざるを得なかった。生きのびるためには一生涯治療を受けつづけるしかない人々にとって、破滅的な結末を招きかねない事態だ。FTTの導入によって、金融危機の原因を作った人々の資金を、金融危機の原因にはほとんど関係ないにもかかわらず、結果として一番深刻な影響をこうむっている人々に再分配することこそが、公正ではないだろうか。

FTT賛成論者は、導入によって新たに得られた税収のうち一定部分は国内的な必要に応じて使われるべきだが、残りの部分は開発と気候変動への対応という二つの目的のために国際的に使用されるべきだ、と一貫して政府に要請してきた。これまでのところ、政治家たちの反応は好意的だ。フランス、ドイツ両国はともに、FTTの税収の一部は発展途上国の開発と気候変動対策に充てるべきだとの声明を出している。2011年11月のG20サミットでのスピーチの中で、サルコジ大統領は以下のように述べている。「フランスはFTT導入によって上げられる税収の一部、より詳しく言うなら、そのかなりの部分、大半、もしくはそのすべてを、開発の目的に充てるべきだと考える」同様に、ドイツのアンジェラ・メルケル首相は2011年11月、ドイツ議会の開発委員会への声明で、以下のように述べている。「FTTの導入によって上げられる税収の一部分を、開発や気候変動への対応に充てることを議論するべきだろう。」

 

「神話」その12:FTTよりも金融サービスを対象とするVAT、もしくは金融活動税(FAT)(註10)を課すほうが望ましい?

 

そんなことはない。FTTが最高の選択であることを示す理由は、いくつもある。第一に、FATやVAT(註11)と違って、FTTには何より金融危機の原因となった有害な経済活動を減少させる効果がある。FTTは金融市場での取引のコストを上げることによってHFTを抑制し、経済の過剰な活性化や構造的なリスクを減じる一助となる。一方、ほかの選択肢によっても税収を上げることはできるが、金融市場における取引行為に直接的に影響を与えることはできず、したがってFTTのような規制効果によるメリットは望めない。

 

第二に、税収を上げるという観点から見ると、FTTはほかの選択肢よりも大きな歳入の源になり得る可能性を秘めている。もし外国為替市場(FX、金銭自体を取引対象とする)をも対象とする広範な課税が実現すれば、とりわけそうである。欧州委員会は、EUに加盟する27カ国全域でFXを除く範囲でのFTTを導入した場合、570億ユーロの税収が見込まれる、としている。さらに導入先をすべての先進国に広げ、FXも含めて課税を行った場合、3000億ドルに近い歳入が得られるだろう、としている(Spratt and Ashford, 2011)。

 

第三に、取引清算時に自動的に課税されるFTTは、FATに比べてきわめて税金逃れが難しい。追加的な法人所得税の一種といってもよいFATについては、税金対策戦略を使っていくらでも脱税工作が行える。たとえば、資金をオフショアへ移す、という方法は、これまでにもしばしば大企業や高額所得者である個人が税金逃れのために使っている。

第四は、政治的な次元の問題だ。FTTがよりよい選択肢なのは、それがすでにドイツ、フランス、オーストリア、ベルギーなどの各国、および欧州委員会の支持を得ているからだ。金融セクターへの課税にはいくつもの方法があるが、どれをとっても完璧ではない。この件に関してコンセンサスを得るのは(たとえばEU27カ国内でも)きわめて難しい。であるから、完璧でないからといってよい選択肢を葬り去らないように気をつけることが重要だ。諸政府が、後始末に今現在、多額のコストがかかっている金融危機を引き起こした金融セクターに、少しでも自分の不始末の穴埋めをさせるためにより多額の税金を払わせたい、と考えているならば、とにかくひとつの選択肢を選び、それの導入を徹底して進めることが大切だ。FTTがかくも多くの支持を集めていることが重要なのは、FATやVATもふくめた金融セクターへの課税方法の選択肢で、コンセンサスを得ることができるものは存在しないだろうからだ。だからこそ、FTTひとつを選び出し、その導入に力を集中することが重要なのだ。FTTは潜在的な税収の額という点から見ても、経済を安定させる効果という点から見ても、一番の有力候補だからである。ほかの選択肢に気を散らされ、判断を遅らせてはならない。FTTの支持者は、可能かもしれないほかの選択肢に関わるいつ終わるとも知れない議論に引き込まれないようにすることが大切である。FTT反対論者はこの戦術を使って税制導入を遅らせ、可能ならば永遠に先送りにしようとしている。このシナリオにのせられたら、銀行とヘッジファンドが勝者となり、FTTがもたらす経済の安定化から利益を得るすべての人々、およびFTTがもたらす税収、先進国においては雇用を守り、発展途上国においては命を救うためにどうしても必要な税収から利益を得るはずの人々が敗者となるだろう。

 


補遺1:世界各国におけるFTTの導入例

 

 

世界の金融取引税

 

 

青:FTTを導入していたが、その後廃止した国

黄緑:FTTを導入して10億ドル未満の税収をあげている国

オレンジ:FTTを導入して10億ドル以上の税収をあげている国

 

国名

FTTのタイプ

歴史

年間の税収額(億ドル)

税収額の年度

税収額の出典

アルゼンチン 株式、社債、国債および先物取引に0.6%の課税 現行 39 2001 Beitler(2010)
オーストラリア 株式に0.3%、社債と国債に0.6% 現行
オーストリア 株式と社債に0.15% 現行 1.07 2005 Schulmeister et al.(2008)
ベルギー 株式に0.17%、社債と国債に0.07% 現行 0.49
ブラジル 外国株に1.5%、債券に1.5%、外国為替に0.38%、株式および債券市場への資本の流入に2% 現行 150 2010 ブラジル財務省(2008)
チリ 株式および社債の取引コストに18%のVAT 現行 15~20 1992~1996 Beitler(2010)
中国 債券に0.5または0.8% 現行
コロンビア 株式、社債および国債に1.5% 現行 13.7 2004 Beitler(2010)
デンマーク 株式と社債に0.5% 1999年に廃止
エクアドル 株式に0.1%、社債に1% 現行
フィンランド 株式に1.6%(HEX電子市場においてのみ)、不動産取引に4%、株式持分に1.6% 現行 3~6 2010 フィンランド財務省(2011)
フランス 株式に0.1% 2012年に導入予定 13 Guardian(2012)
ドイツ 株式に0.5% 1999年に廃止 9.3 Matheson, 2011
ギリシャ 株式と社債に0.6% 現行 23.35 2005 Schulmeister et al.(2008)
グアテマラ 株式と社債に3% 現行
香港 株式に0.3%+5ドルの印紙税 現行 27.9 2009 Persaud(2012)
インドネシア 株式に0.1% 現行
インド 株式と社債に0.5% 現行 12.2 2008 Persaud(2012)
アイルランド 株式に1% 現行 5.5 2009 Darvas and von Weizsacker(2010)
イタリア 株式に1.12% 1998年に廃止 13.5
日本 株式に0.1~0.3%、社債に0.08~0.16% 1999年に廃止 120 1980年代 Beitler(2010)
マレーシア 株式と社債に0.5%、国債に0.015%、先物取引に0.0005% 現行
モロッコ 株式に0.14%(+7%のVAT)、社債と国債の取引コストに7%のVAT 現行
オランダ 株式と社債に0.12% 1990年に廃止
パキスタン 株式と社債に0.15% 現行
ペルー 株式、社債および国債に0.008%(+取引コストに18%のVAT) 現行 1.1 2004 Beitler(2010)
フィリピン 株式の取引コストに10%のVAT 現行
ポルトガル 株式に0.08%、社債に0.04%、国債に0.008% 1996年に廃止 0.15 Schulmeister et al.(2008)
ロシア 新たに発行された株式と債券の価値の0.2% 現行
シンガポール 株式に0.2% 現行
南アフリカ 株式に0.25% 現行 14.1 2008 Persaud(2012)
韓国 株式と社債に0.3% 現行 60.8 2007 Persaud(2012)
スウェーデン 株式に1% 1991年に廃止 0.5 1992 Beitler(2010)
スイス 株式、社債および国債に0.15% 現行 20 2007 Persaud(2012)
台湾 株式に0.3%、社債に0.1%、先物取引に0.05% 現行 33 2009 Persaud(2012)
トルコ 株式に0.2%、債券発行に0.6~0.75%の発行手数料 現行
イギリス 株式に0.5% 現行 58.6 2008 Persaud(2012)
アメリカ 株式に0.0013% 現行 10.9 2000 Beitler(2010)
ベネズエラ 株式に0.5% 現行
ジンバブエ 株式に0.5% 現行

 

注釈:いくつかの国については、税収はGDPの何パーセント、という形で提示された。こうした国に関しては、IMF Economic Outlook Data所載の該当国のGDPの値から推算して税収の額を出した。税収の額に関するデータが得られなかった国々については、仮に税収10億ドル未満のグループに含めた。

 

 

補遺2:年金に関する補足

 

年金基金は一度の取引で資産運用担当者(アセット・マネージャー)に資金を全額任せるだけだから、FTTのコストはあまりかからない

 

投資家は、大雑把に言って二つの種類に分けられる。一つ目は資産オーナーで、年金基金に加えて、保険会社や政府系ファンドもこれに含まれる。二つ目は資産運用担当者(もしくはファンド・マネージャー)で、銀行の資産運用部門、外貨市場のファンド、ヘッジファンド、それにプライベート・エクイティ・ファンド(企業再生ファンド、ベンチャー・キャピタルなどとも称される)などが含まれる。

 

資産運用担当者は(ここでは仮にヘッジファンドであるとしよう)、資産オーナー(仮に年金基金としよう)の代わりに取引を行う。年金基金は、資金の運用を資産運用担当者に委託する際に、一度だけ取引を行い、資金を担当者のところへ動かす。委託期間は一年以上、時に数年に及ぶ。委託する期間が長いため、年金基金サイドにとっては、取引コストの上昇はわずかである。

 

FTTの大半を支払うのは、資産運用担当者の側だ。上述したとおり、担当者がどれだけのコストを支払わなくてはならないかは、その投資戦略によって違ってくる。保有期間が短ければ多額のコストを支払わねばならないし、保有期間が長ければ、コストは少額ですむ。FTT反対論者は、資産運用担当者は自分が支払ったコストの90パーセントから100パーセントを年金基金に移転させるだろう、と主張する。だが、この主張が正しいという証拠はどこにもない。むしろコストの上昇分は投資の各段階で分散して負担されるのではないだろうか。市場には競争がつきものであり、資産運用担当者も自分の顧客を失いたくはないだろうからだ。

 

 

年金基金は年金が債務過剰になるのを防ぐためにデリバティブを多用しているので、FTTによる税収のかなりの部分を年金基金が負担することになるだろう

 

年金基金がUSD+450tr(米ドルとNASDAQの主要450銘柄の)利率関連デリバティブ市場における主要な投資家なのは事実である。だが、問題は保有期間である。本質的に相対取引のデリバティブは(リスクヘッジのための)保険の一種だ。年金基金がデリバティブを買うのは、予想したほど利益が上がらなかった場合に備えてポートフォリオに保険をかけるというもっともな必要性があるからだ。そのポートフォリオが十分な利益を上げなくても、デリバティブが不足分を補ってくれるというわけだ。つまりこの場合、デリバティブが買われたのはリスクを回避するためであって、投機目的のためではない。したがって、年金基金は相対取引のデリバティブを満期まで、時には数年間も保有する。その結果、年金基金が支払う少額のFTTは、デリバティブのコストをほんのわずかに押し上げるだけで、長期的なビジネス戦略には何ら影響を与えない。

 

FTTは年金基金が投資で得る利益を減少させ、年金基金の市場における危機管理能力を削いでしまうだろう

 

FTTが年金基金のポートフォリオの構成や危機管理戦略に一定の影響を与えるであろうことは、否定できない。だが、それはむしろ目的にかなったことなのだ。年金基金による「忍耐強く」「生産性の高い」資本(たとえばインフラ、環境保護関連、中小企業への融資など)への投資が少なすぎる、年金基金は短期主義的な外部の資本運用担当者に頼りすぎている、というのはだれもが認める事実だ。FTTは年金基金が短期的な取引を減らし、長期的な投資に資金を回す誘因となるだろう。

 

ポスト金融危機の時代において、金融市場の過度の活性化を十分抑制し、構造的なリスクを大幅に軽減する改革案の一環として、FTTを取り入れるべきだ。年金基金のような長期投資家は、リスク過剰の市場では敗者となってしまう。一方で銀行やヘッジファンドは、カジノのように資本の回転率ばかりを上げて利益を得る。FTTの導入は、不透明で不安定な市場のリスクを引き下げる一助となるだろう。

 

FTTは実のところ長期的に見れば年金生活者に利益をもたらす

 

2008年の金融危機で、世界11カ国の主要年金市場における年金基金の資産は、5兆ドルも目減りした。これは資産が19パーセント減少したのと同じことで、総資産は2005年の水準以下にまで減少したことになる(Reuters, 2009)。FTTを導入すれば、HFTにともなう構造的リスクが軽減するので、市場は安定性を増し、ひいては長期的に見た年金の価値が上昇して、年金基金が実質的な損失を受ける将来的なリスクは小さくなるだろう。

 

最後に、FTTの税収は、年金生活者が頼りにしている医療をはじめとする主要な公共サービスに投資されることを付け加えておこう。

 

●翻訳: 国際公務労連加盟組合日本協議会(PSI-JC)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(註1) この論文に寄与してくださったことを、以下の方々に感謝したい:David HillmanとChristina Ashford(Stamp Out Poverty)、Hernan Cortes(Ubuntu)、Sarah Anderson (Institute for Policy Studies=米シンクタンク)、Pierre Habbard (TUAC=OECDに対する労働組合諮問委員会)、Cecilia Gondard(欧州議会における社会民主進歩同盟

(註2)革新的な開発資金調達に関するリーディング・グループは、60以上の国からなるグループで、専門家会議を通じてFTTの可能性(中でも最大の市場である外国為替市場を規制下におくことに関する可能性)を幅広く研究している

(註3)それらの国々とは、アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベルギー、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、デンマーク、エクアドル、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、グアテマラ、香港、インド、インドネシア、アイルランド、イタリア、日本、マレーシア、モロッコ、オランダ、ニュージーランド、パキスタン、パナマ、ペルー、フィリピン、ポルトガル、ロシア、シンガポール、韓国、スウェーデン、スイス、台湾、イギリス、アメリカ、ベネズエラ、ジンバブエ、である。

(註4)欧州委員会税制・関税同盟総局、Algirdas Semeta局長

(註5)高頻度取引(HFT)とはハイテク機器を使って株式やオプションのような証券の取引を行うことである。きわめて多量の証券をあつかい、コンピューター化されたアルゴリズムを使って入ってくる市場情報を分析し、自己が所有する金融資産の取引戦略を実行に移す。投資のポジションは、ごく短期間、ときには数秒単位で、めまぐるしく変化する。すばやい売り買いが何度も、ときに一日あたり何千、何万回も繰り返される。2010年には、HFTは米国内で行なわれる株式取引の70パーセント以上を占めており、ヨーロッパやアジアでも急速に広がりつつある(ウィキペディアによる)。金融専門家のなかには、HFTの広がりは不健全であり、将来的に市場の不安定化を招く、と考える者もいる。「HFTの急速な広がりは、コンピューターを駆使し、危険なほど安定性を欠く、世界の株式市場をつなぐ取引ネットワークを現出させた。世界の市場は、システム横断的な「瞬間暴落(flash crash)」の危機にさらされている」“Financial Crisis 2: The Rise of the Machines”(R. Gower, 2011)参照

(註6)「FTTはすでに多くの国々で導入され、かなりの税収をあげている。つまり、FTTの導入は技術的に見てあきらかに実現可能であるということだ」2011年11月にG20首脳会議に提出されたビル・ゲイツのリポート、p13

(註7)オーストリアのエコノミストStephan Schulmeisterは、はるかに効果的に設計されたイギリスのFTTと対比させながら、スウェーデンの事例を詳しく分析している。全文は以下のサイトで見ることができる。http://www.wifo.ac.at/wwa/servlet/wwa.upload.DownloadServlet/bdoc/S_2008_FINANCIAL_TRANSACTION_TAX_31819$.PDF

(註8)世界エイズ・結核・マラリア対策基金

(註9)ユーロバロメーター(Eurobarometer)とユーガブ(YouGov)の共同調査、ウィキペディアより

(註10)金融活動税(FAT)は、過剰な利益と報酬に対する課税である。

(註11)金融セクターが現時点ではVATの課税対象となっていないことは、特筆に値する。欧州委員会によると、これによって金融セクターが得ている税制上の優遇は、年間180億ユーロにのぼる。こうした税制上の優遇を受けているのだから、金融セクターはもっと課税されるべきだし、また、より多くの税金を支払う余裕もあるはずだ、と言う論者もある。

メーリングリスト登録希望者&ボランティアスタッフ募集

●メーリングリスト登録希望者を募集します

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国際連帯税フォーラムのこれまでの歩み

●2011年国際連帯税フォーラム設立までの経緯

国際連帯税の取り組みの出発点は、2006年2月開催された国際的な旗揚げである「国際連帯税に関するパリ国際会議」でした。この会議で、フランスなど航空券連帯税実施国の発表や「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ(以下、LG)」創設が決まりました。

 

日本での国際連帯税の取り組みは、当初NGOや研究者中心でしたが、2008年2月「国際連帯税創設を求める議員連盟」(以下、議連)が設立され、政治レベルでの取り組みにもなりました。当初日本政府は国際連帯税に対して後ろ向きでしたが、議連の強い働きかけもあり、同年9月にLGに正式加盟することになりました。

 

翌2009年には、議連よりの「国際連帯税とりわけ通貨取引税に関する実現方法等の検討」依頼を受けて、寺島実郎・日本総合研究所理事長を座長とする国際連帯税推進協議会が4月に発足しました。また同年同月、これまで国際連帯税活動を行ってきたNGO・市民、専門家が集まり、国際連帯税を推進する市民の会(アシスト:Association of Citizens for International Solidarity Taxes)が設立されました。

一方、2008年9月のリーマン・ショック以降100年に1回という世界的に深刻な金融危機が起こり、その原因となった過剰な投機マネー、強欲金融資本に対する批判がまき起こりました。欧州においてはNGOや労働組合のみならず政治指導者も金融規制の必要性、その一環として金融取引税の必要性を提案するようになってきました。2010年2月には英国では金融取引税実施を求めるロビン・フッド・タックス・キャンペーンが設立され、このキャンペーンが欧州全体に拡大してきました。

日本においても欧州等でのキャンペーンと連動しつつ、2010年9月より国際連帯税共同キャンペーン実行委員会(以下、共同キャンペーン)を立ち上げ、議連とともに日本政府へのロビー活動を行ってきました。政府側は、当初外務省が国際連帯税に積極的であったことから、22年度税制調査会の専門家委員会・国際課税小委員会で「貧困問題、環境問題等の地球規模の問題への対策のための財源確保」という観点から議論されました。しかし、結果は「今後、真摯に検討します」ということになり23年度実施は見送りとなりました(23年度税制改正大綱)。

同年12月16-17日日本政府が議長国となりLG第8回総会が東京で開催されました。この総会を盛り上げる意味もあり、前日の15日には共同キャンペーン主催で「連帯と希望:国際連帯税を実現するための国際シンポジウム」を開催し、これには内外のNGO・労組、専門家など100人近い参加がありました。また、NHKなどマスメディアも総会やシンポジウムを大きく取り上げて報道しました。

 

共同キャンペーンに参加していたNGOや労働組合は、共同キャンペーンの役割が終わったことを確認し、2011年よりあらたな運動体(広場)を目指し、国際連帯税フォーラム準備会を発足させました。

 

背景として次のことがありました。第一に、11年より金融取引税に積極的なフランスがG20議長国に就任し、G20サミットにおいて金融取引税が主要課題になる可能性が高いこと、従って、欧州や米国のNGO等もG20を射程にしてキャンペーンを活発化していること、です。第二に、国内的にも昨年の活動の経緯もあり、これまで以上の運動の広がりが期待されること、です。このようなことから4月フォーラム設立を目指し、準備会を進めてきました。

 

ところが、本年3月11日未曾有の東日本大地震が生起し、同時に福島第一原発重大事故も発生し、準備会活動の延期を余儀なくされました。この間、日本の大災害に対して世界中の国々や市民から援助が寄せられましたが、中でも昨年大地震にあい20万人以上の死者を出した中南米ハイチをはじめとする最貧国の多くからも温かい援助がありました。「苦難や痛みを共有し、国境を越えて連帯を」というグローバルな連帯の精神をもって、私たちは国際連帯税フォーラム設立に向け活動を再開します。【以上、2011年6月25日フォーラム設立総会議案書より】

 

主な活動実績:2011625日~2012331

・2011年6月25日 国際連帯税フォーラム(以下フォーラムと略)設立総会&シンポジウム

(会場:青山学院大学)-参加者:70人、

・8月2~5日 議連総会に向けて議員等へのロビー活動(国際連帯税新スキームの説明兼て)

・8月8日 議連総会

-外務省から政府税制調査会に対し国際連帯税新設要望を上げてもらうための外務大臣要請を行うことを確認

・9月29日 齊藤内閣官房副長官と玄葉外務大臣への要請行動(議連並びにフォーラムの連名で要請文提出)

・10月29日 国際連帯税2011シンポジウム(会場:東洋大学)

-参加者:70人弱、目的:市民啓蒙とG20サミットに向けての首相提言

・2012年2月6日 議連(臨時)総会&勉強会

-一部役員交代、欧州債務危機問題と金融取引税の勉強会

・2月27日 院内学習会「欧州危機から国際連帯税(金融取引税)へ」

-講師:浜矩子先生(同志社大学教授)、上村雄彦先生(横浜市立大学准教授)

-参加:議員本人7人・議員代理出席21人、市民35人

・3月15日 「国際連帯税提言書」野田総理へ手交 <主催は世界連邦国会委員会>

-出席)議連側:世界連邦国会委員会8人、国際連帯税議連2人

政府側:野田総理、本多首相補佐官、峰崎内閣官房参与

-提言)「国際連帯税(日本版FTT)実施に向けた総理直轄の検討委員会(タスクフォース)設置を」

-回答)「今後もG20など、国際連帯税が話題になる時に是非皆さんの知恵を貸してほしい」「そ

の課題はよく分かっている。また皆さんの知恵を貸してほしい」(総理)

 

●2011~2012年の情勢とフォーラムの活動>

フランスはLGのリード国でありますが、2011年はG20サミットの議長国でもありました。サルコジ大統領は年頭からサミットの主要議題のひとつとして金融取引税(以下、FTTと略)を挙げていました。さらに、ドイツもそれに同調し、欧州債務危機が進行する中、8月17日サルコジ大統領とメルケル首相が、ファンロンパイEU議長に対し、欧州においてFTT導入を求める書簡を送りました(欧州議会では決議が上がっている)。

 

そして9月28日にはついに欧州委員会がタックスベースの広いFTT、つまり株・債券・デリバティブ取引に課税を求める法案を欧州連合と加盟各国に提案しました。しかし、金融資本の牙城であるシティーを抱えている英国やスウェーデンがこれに反対しました。

 

さらに11月のG20カンヌ・サミットにおいて、サミット史上はじめてFTTが議論されましたが、ここでも英国が、そして米国やカナダが反対に回りました。

 

今年に入り、欧州では3月の財務大臣会合で本格的に欧州委員会案の議論がはじまりましたが、いぜんとして結論がでず、6月の首脳会議が次の山になる情勢となっています。2月にはフランス議会が8月からの(国内での)FTT導入を可決・成立させました(株取引への課税、高頻度取引への特別税など)。

 

米国では、昨年秋から「1%(富裕層)対99%(我ら)」をスローガンとしたオキュパイ運動が盛り上がり、その運動の象徴としてFTTの要求が掲げられました。また、米国では労働組合が熱心で、とくに看護師組合(NNU)が先頭に立っています。こうした動向から与党民主党議員を中心にウォール・ストリート税(FTT)要求がやや勢いを増しつつあります。

 

日本では、2009年に政府レベル(税制調査会)で国際連帯税議論がはじまりましたが、2年続けて検討課題として先送りされてきました。こうした事態を打破するために、私たちは国際連帯税創設を求める議員連盟(以下、連帯税議連)と連携しつつ活動してきました。しかし、11年度も国際連帯税は検討課題にとどまり、壁を打破するには至りませんでした。

 

そういう中で、本年3月15日、野田総理に対して「国際連帯税提言書」を手交することができました。これは世界連邦日本国会委員会や国際連帯税創設を求める議員連盟など主に国会議員のみなさんのがんばりによるものですが、私たちも総理要請の準備を手伝ってきました。ともあれ、今後国際連帯税に関する提言をダイレクトに総理官邸に発出できる地平を切り開いたと評価できます。【以上、2012年5月19日フォーラム第2回総会議案書より】

 

◆主な活動実績:201241日~2013331

 ・2012年5月19日 フォーラム第2回総会&水野和夫氏(内閣府官房審議官)記念講演

(会場:青山学院大学)-参加者:72人

・6月11日 駐日フランス大使館・マセ大使と議連との懇談会にオブザーバー参加

・6月15日 G20ロスカボス・サミットに向けて首相(代理・齊藤副官房長官)、外務大臣(代理・加藤大臣政務官)要請行動<議連並びにフォーラムの連名で要請文提出>

・9月3日 議連2012年度総会(議連会員67人に)

-2012年度役員改選、平成25年度税制改正に向けた提言、10月IMF・世銀総会サイドイベント「国際シンポジウム」

・9月6~7日 平成25年度税制改正に向けて首相(代理・齊藤官房副長官)、財務大臣(代理・藤田副大臣)、外務大臣(代理・加藤政務官)要請行動<議連並びにフォーラムの連名で要請文提出>

・10月11日「国際シンポジウム: 金融取引税・国際連帯税は世界を救うか?~開発のための革新的資金調達に関する世界のリーダーと市民社会の対話」(会場:青山学院大学国際会議場)

-参加者:230人

-スピーカー

<リーディング・グループ関係・閣僚>

フィンランド国際開発大臣ハイディ・ハウタラさん(リーディング・グループ議長)

駐日マリ大使マハマン・バニア・トゥーレさん(ティエーナン・クリバリー財務大臣の代理)

フランス開発大臣のパスカル・カンファンさんはビデオでの参加

<リーディング・グループ関係・政府>

フランス外務省グローバル化局副局長のジャン・マルク・シャテニエさん

日本外務省大使・地球規模課題審議官石井正文さん

<国会議員関係>

ドイツ連邦議会議員・金融委員会カーステン・ジーリングさん

日本国際連帯税創設を求める議員連盟会長(参議院)林芳正さん

日本国際連帯税創設を求める議員連盟事務局長代理(参議院)石橋通宏さん

<労働組合関係>

ITUC(国際労働組合総連合)グローバルユニオン・ワシントン事務所長ピーター・バクビスさん

国際公務労連アジア・太平洋地域事務所事務局V.ラクシミさん

<NGO関係>

英国Stamp Out Poverty事務局長デービット・ヒルマンさん

フランス国際保健活動者連合事務局長パトリック・ベルトランさん

国際連帯税フォーラム代表理事/横浜市立大学教授金子文夫さん

横浜市立大学教授上村雄彦さん

日本リザルツ事務局長白須紀子さん

「動く→動かす」(GCA-J) 事務局長稲場雅紀さん

-最後に「金融取引税など革新的資金メカニズムを実施するための国際アピール」を採択

・2013年2月6日 「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」第11回総会(ヘルシンキ)への参加

・2月8日 議連2013年度第1回役員会

・2月19日 リーディング・グループ総会報告会(参加者:26人)

・2月26日 議連勉強会

-講師:上村教授「リーディング・グループ総会報告」

・3月25日 議連2013年度第1回総会&勉強会

-講師:マセ駐日フランス大使「国際連帯税はなぜ必要か」

 

●2012~2013年の情勢とフォーラムの活動

前年度においては、「はじめに」で述べた「国際シンポジウム: 金融取引税・国際連帯税は世界を救うか?」の取組みもあり、久しぶりにマスメディアでこの種の問題が取り上げられました(東京新聞や共同通信など)。朝日新聞は『金融取引税―欧州の新たな挑戦』と題した社説を掲載し、「…日本も消極的だが、ここは欧州の挑戦を重く受け止め、再考の契機とすべきだろう」との主張を掲げました(10月17日付)。

前年度ではありませんが、本年5月30日横浜で「TICAD Vパートナー事業: アフリカの発展と国際連帯税・金融取引税に関するシンポジウム」を開催しましたが、神奈川新聞などのマスメディアが大きく取り上げ、なかでも朝日新聞は『国際連帯税―国を超えた絆づくり』   と題した社説を掲載し、「日本は、国連への拠出金や政府の途上国援助(ODA)に資金を出しているが、財政難から予算は伸び悩んでいる。新しい発想でお金を集め、世界との絆を強める取り組みを育てていきたい」と主張しています(6月12日付)。

 

さて、日本の政治経済情勢の最大の変化は、昨年12月衆院議員選挙の結果、与野党が逆転したことです。このことにより私たちは「国際連帯税創設を求める議員連盟」(以下、議連)の存続が心配されましたが、川口順子元外相が議連の会長に就任するなど、結果としてこれまでと変わることなく活動が進められています。しかし、私たちのロビイングの弱さもあり、新政権は2013年度税制改正大綱から国際連帯税を外してしまいました。

 

一方、世界的には欧州でのFTT導入の動きが最大の変化と言えます。2011年9月に欧州委員会が「2014年にFTTの導入を求めるEU指令案」を提出しましたが、英国等が反対しEU全体(27カ国)での導入が危ぶまれました。その後議論が進められ、昨年10月には「強化された協力」という法的手続きで11カ国が先行導入することに合意し(欧州委承認)、12月には欧州議会が圧倒的多数でFTT導入を採択しました。そして翌年1月には欧州財務相理事会が採択し、2月に欧州委がFTTの11カ国導入計画を正式に提案する運びとなりました。

 

ところが、4月に入り英国がEU司法裁判所に提訴など反対する動きも活発化しています。しかし、2014年度中には(提案内容に若干の変更があるかもしれませんが)導入されることは間違いのないところです。注目していきましょう。【以上、2013年6月23日フォーラム第3回総会議案書より】

 

◆主な活動実績:201341日~

・2013年4月16日 津島雄二先生と議連役員懇談会

・4月26日 国際連帯税政策オプション作業チームの設置

-有識者14人、議連3人で構成

・5月15日 【緊急セミナー】世界の富を吸い込み、貧困と格差を助長するタックスヘイブン

~日本の経済と途上国開発をつなぐ租税回避問題を考える~(参加者80人)

-講師:志賀 櫻(弁護士)、山田太雲(オックスファム・ジャパン)

・5月16日 国際連帯税政策オプション・第1次案まとめる

・5月22日 同1次案の議連第1回検討会

・5月30日 TICAD Vパートナー事業「アフリカの発展と国際連帯税・金融取引税に関するシンポジウム~MDGs達成とUNITAIDなど革新的資金調達に向けたグローバルリーダーからの提言~」(会場: 神奈川県民センター・ホール)

-参加者:150人

-スピーカー

<あいさつ>

白須紀子(国際連帯税フォーラム代表理事/日本リザルツ代表)

川口順子(国際連帯税創設を求める議員連盟会長/参議院議員)

<報告と討論>

上村雄彦(横浜市立大学教授):「国際連帯税・金融取引税の意義と最新動向」

イボンヌ・チャカ・チャカ(南アフリカ歌手、ロールバック・マラリア親善大使):

「アフリカの現実を知ろう」

シャムスディーン・ウスマン(ナイジェリア国家計画大臣、LG議長)【ビデオ参加】:

「MDGsの達成及びポスト2015開発アジェンダの実施における革新的資金調達の役割」

ドゥニ・ブルーン(UNITAID事務局長):

「UNITAID:国際保健のための革新的資金ファシリティ」:

石橋通宏(国際連帯税創設を求める議員連盟事務局長/参議院議員):

「国際連帯税創設を求める議員連盟(日本)の活動と国会の動向について」

<今後の活動提案>

田中徹二(国際連帯税フォーラム代表理事/アシスト代表)

・6月7日 国際連帯税政策オプション1次案の議連第2回検討会(外務省・財務省も参加し意見交換を行う)

・6月10日 国際連帯税政策オプション・第1次最終案完成

・6月12日 議連総会

-「国際連帯税政策オプション・第一次案」についての報告と意見交換(作業チームからの報告:田中徹二、上村雄彦)

・6月23日(日) フォーラム第3回総会&志賀 櫻氏(弁護士)記念講演(会場:青山学院大学)-参加者:70人

・8月7日 議連総会

-衛藤新会長就任、26年度税制改正に向けての議論

・8月29日 議連、総理官邸申し入れ(対菅官房長官)

-参加議員:衛藤会長以下8人

・10月3日 議連第2回勉強会(講師:諸富徹京大教授)

・10月8日 世界基金日本支援委主催のUNITAID報告会

-出席:ドゥニ・ブルーン事務局長、ヴァレリー・テラノバ特別顧問

-その後、衛藤会長・石橋事務局長との懇談

・11月19日 議連2013年度第4回総会

-26年度税制改正要望に向けて

・12月8日「ポストMDGsと国際連帯税・金融取引税に関する国際シンポジウム~貧困、環境破壊、格差のない次の時代をめざして~」(会場:青山学院大学)

-参加者95人

-スピーカー

<あいさつ>

金子文夫(国際連帯税フォーラム代表理事/横浜市大副学長)

石橋通宏(国際連帯税創設を求める議員連盟事務局長/参議院議員)

<報告>

クリスチャン・マセ(駐日フランス大使)

「ポストMDGsと国際連帯税~フランスの経験から~」

諸富 徹(京都大学大学院経済学研究科教授)

「国境を超える税制度:国際連帯税・金融取引税の歴史的意義」

フィリップ・ムニエ(エイズ・感染症担当大使/フランス)

「エイズ・結核・マラリアなど感染症との戦いとユニットエイド」

<今後の活動提案>

田中徹二(国際連帯税フォーラム代表理事)

国際連帯税フォーラムに参加している団体と理事

●国際連帯税フォーラムに参加している団体と理事(2013年3月31日現在)

 

<参加団体紹介>

・(特活)アジア・コミュニティ・センター21  http://www.acc21.org/

・「動く→動かす」 http://www.ugokuugokasu.jp/index2.html

・(特活)オックスファム・ジャパン  http://www.oxfam.jp/

・オルタモンド

・(特活)国際協力NGOセンター  http://www.janic.org/

・国際公務労連加盟組合日本協議会(PSI-JC) http://www.psi-jc.jp/

・国際連帯税を推進する市民の会  http://www.acist.jp/

・(公財)国際協力NGOジョイセフ  http://www.joicfp.or.jp/jp/

・世界連邦運動協会  http://www.wfmjapan.org/

・(特活)世界連邦21世紀フォーラム  http://www.wfmjapan.com/

・(特活)日本リザルツ  http://www.resultsjp.org/

 

<理事紹介>

・阿久根武志(世界連邦運動協会)

・大類 隆博(個人)

・勝見 貴弘(個人)

・金子 文夫(個人、専門家グループ)【代表理事】

・佐藤 克彦(国際公務労連加盟組合日本協議会)

・白須 紀子(日本リザルツ)【代表理事】

・田島 純一(個人)

・田中 徹二(国際連帯税を推進する市民の会)【代表理事】

・遠野はるひ(オルタモンド)

・成田 好孝(世界連邦21世紀フォーラム)

 

●参考1:「国際連帯税推進協議会」委員一覧

国際連帯税推進協議会(通称、寺島委員会)は、国際連帯税議連が日本総合研究所理事長の寺島実郎氏に「国際連帯税並びに通貨取引税の内容と方法等」についての検討が依頼され、2009 年4 月創設されました。同協議会の委員は、この分野に関心をもつ研究者、NGO、国会議員、労働組合、金融業界によって構成され、外務省、財務省、環境省、世界銀行がオブザーバーとして参加しました。協議会は以降10 回開催され、2009 年末に中間報告書を作成し、それを踏まえて2010年9月最終報告書『環境・貧困・格差に立ち向かう国際連帯税の実現をめざして―地球規模課題に対する新しい政策提言―』が完成しました。以下、委員を紹介します(団体名・役職名は当時のもの)。

 

〔座長〕

・寺島実郎(三井物産戦略研究所会長、日本総合研究所理事長、多摩大学学長)

〔委員〕

・稲場雅紀(アフリカ日本協議会/国際保健分野プログラム・ディレクター)

・植田和弘(京都大学大学院経済学研究科教授)

・上村雄彦(横浜市立大学国際総合科学部准教授)

・金子文夫(横浜市立大学国際総合科学部教授)

・小西雅子(WWF ジャパン気候変動担当オフィサー)

・斎藤 勁(衆議院議員/国際連帯税創設を求める議員連盟事務局長)

・佐藤克彦(自治労国際部長)

・白須紀子(日本リザルツ事務局長)

・田中徹二(オルタモンド事務局長)

・平田仁子(気候ネットワーク東京事務所長)

・三木義一(青山学院大学法学部教授)

・諸富 徹(京都大学大学院経済学研究科教授)

・山田晴信(HSBC 顧問)

〔オブザーバー〕

・谷口和繁(世界銀行駐日特別代表)

・外務省国際協力局

・財務省国際局

・環境省地球環境局

 

●参考2:「国際連帯税政策オプション検討のための作業チーム」委員一覧

「国際連帯税政策オプション検討のための作業チーム」は、2013年4月国際連帯税議連の決定に基づき設置され、実質的に国際連帯税フォーラムが事務方を担いました。同チームにはフォーラムに参加する専門家・有識者の多くが委員として参加していただき、集中的議論を行って、同年6月一次案を完成させました。以下、委員を紹介します(団体名・役職名は当時のもの)。

 

・稲場雅紀(「動く→動かす」(GCAP-J)事務局長)

・植田和弘(京都大学大学院経済学研究科教授)

・上村雄彦(横浜市立大学国際総合科学部教授)

・金子文夫(横浜市立大学国際総合科学部教授)

・君島東彦(立命館大学国際関係学部教授)

・小西雅子(WWF ジャパン気候変動担当オフィサー)

・佐藤克彦(国際公務労連・日本協議会(PSI-JC)事務局長)

・志賀 櫻(弁護士、日弁連税制委員会副委員長)

・田中徹二(オルタモンド事務局長)

・谷川喜美江(千葉商科大学大学院商学研究科専任講師)

・三木義一(青山学院大学法学部教授)

・望月   爾(立命館大学法学部教授)

・諸富 徹(京都大学大学院経済学研究科教授)

・鰐部行崇(日本リザルツ コミニケーション・ディレクタ)

国際連帯税とは何か?

国際連帯税とは何か?

 

●国際連帯税の基本的な考え方

世界では、貧困・感染症や気候変動・大災害の問題、さらには莫大な投機的短期資金が引き起こす金融危機の問題など、国境を超える課題が山積しています。これらのグローバルな課題に対処するためには、国際社会が協働して対応するシステムの構築が求められており、とくにそのために必要な資金の確保を可能とするメカニズムが必要です。

 

グローバルな課題のための資金は、従来、各国の政府開発援助(ODA)による資金拠出で賄われていました。しかし、ODAは2008年の金融・経済危機以降ドナー国の財政危機が重なり、その拠出総額が減少傾向となってきています。また、ODAは各国の国益に左右される性格を有しています。つまり、政権が変わるごとに援助政策が変わるという不安定性です。

 

これに対し、新たな資金メカニズムは、国益等に左右されない持続性を持ち、かつ予測可能性を備えていなければなりません。さらに一定の資金量の確保も求められます。こうした要件を満たすのは、地球規模の課税、つまり「グローバル・タック」ス方式が最もふさわしいと考えられています。その課税権は、超国家機関による徴収または複数国によるシェアなどとして検討されるべきです。しかし、現実的には複数の政府から構成される共通の「地球規模課題を扱う国際機関等」へ税収の一部または全部を拠出、という形になると思われます。また、投機マネーの抑制には金融取引税が有効であり、これは他方で、相当額の税収を生むものとして注目が集まっています。

 

グローバル・タックスの仕組みは、経済のグローバリゼーションで受益している経済主体の、国境を越えて行う経済活動に課税し、その税収でもってグローバルな課題対策のための資金源とする、というものです。課税対象としては(つまり、国境を越えて行う経済活動で恩恵を受けている経済主体)、国際航空・船舶輸送、国際金融取引(外国為替取引)、国際電子商取引、多国籍企業(貿易)、武器取引などが考えられています。

 

グローバル・タックスの萌芽は、2006年フランスが率先して導入した航空券連帯税で、現在10か国ほどが同税を導入し、その税収の一部または全部をUNITAID(ユニットエイド:国際医薬品購入機関)という国際機関に拠出しています。UNITAIDとは、途上国のエイズ・結核・マラリアという3大感染症治療のための医薬品や診断薬を購入する機関です。

 

●国際連帯税の誕生<2006年>

国際連帯税の誕生は、2002年の国連開発資金会議(モンテレイ)まで遡ります。同会議で、ミレニアム開発目標(MDGs)達成のためには、ODAだけでは不十分という認識の下、革新的資金メカニズムの必要性が議論されました。こうした議論をもとに、その翌年、フランスでランドー委員会が設置され検討されることになりました。

 

ランドー委員会は、シラク大統領の諮問機関として設置され、委員長にはジャン=ピエール・ランドー氏(会計検査院委員長)が就任し、政府、IMF、経済界、大学、NGO出身の15人で構成されました。2004年8月「ランドー・レポート」が提出され、環境税(炭素税、航空・海上輸送税)、航空券税、金融取引税、多国籍企業への課税、武器取引税など、国際課税方式による資金メカニズムを主張しました。

 

◇ランドー・レポート:

http://www.diplomatie.gouv.fr/en/IMG/pdf/LandauENG1.pdf

 

このランドー・レポートを受けてフランスはブラジルなどとともに2006年3月「革新的資金調達に関するパリ会議」を開催し、「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ(以下、LG)」を設立しました。当時このLGには38カ国が参加しました。同年7月にフランスが航空券連帯税を導入し、9月には5カ国を設立国とするUNITAID(ユニットエイド)が創設されました。UNITAIDの予算は主に航空券連帯税で賄われます。

 

●日本:国際連帯税創設を求める議員連盟の設立<2008年>

日本では2007年頃より国際連帯税に関する関心が高まり、2008年2月、超党派の「国際連帯税創設を求める議員連盟」(以下、議連)が設立され、初代会長は津島雄二衆議院議員(当時)、幹事長は林芳正参議院議員、事務局長は犬塚直史参議院議員(当時)が就任しました。

 

議連の当初の活動目標は、①リーディンググループ(LG)のフルメンバーになること、②LGの議長国となり総会を日本で開催すること、③国際連帯税を日本で導入すること、でした。その後、①は2008年中に、②は2010年に実現しました。後は③のみです。

 

●その後の経緯と最新情報

LGとUNITAIDは大きく拡大しました。前者は65カ国に、後者は28か国に拡大。が、航空券連帯税導入国はまだそれほど増えていません。一方、LGは2010年に「国際金融取引タスクフォース」を組織し、専門家委員会からグローバル通貨取引税の答申を受けました。具体的には、主要国の通貨取引に0.005%課税し、税収をグローバル連帯基金として使用するというものです。このグローバル通貨取引税の提案が、2011年欧州委員会による金融取引税の提案につながりました。

 

日本では、2010年に政府税制調査会が専門家委員会の下に「国際課税小委員会」を組織し、本格的な検討が行われましたが、税制改正大綱では「今後とも真摯に検討を行います」との表現にとどまりました。2012年には総選挙で政権交代となり、議連の役員・会員メンバーもずいぶん変わりましたが(2008年の創設から衆参両選挙がそれぞれ2回ずつ行われる)、引き続き国際連帯税実現のため奮闘しています。

 

今、世界ではグローバルな課題がいっそう増大し、それに対応するための資金の必要性が高まっています。2015年を達成期限とするMDGsの第2ステージである「ポスト2015開発アジェンダ」の資金について、気候変動対策のための適応資金について、さらに大地震等の災害等への資金について、民族紛争や資源戦争等に対処する平和構築のための資金について等々、枚挙にいとまがないほどです。

 

しかし、それらの資金供給が先細ってきています。それは先に見たドナー国の財政危機からODA拠出が減少してきているからです。こうした状況に対し、今、世界的に革新的資金メカニズム(国際連帯税・金融取引税)への関心が高まっています。なかでも、現在欧州11カ国で導入に向けての準備が進められている金融取引税です。

 

金融取引税と航空券連帯税については、ここをクリック<<

金融取引税とは何か?

金融取引税とは何か?

 

●概要

金融取引税(FTT:Financial Transaction Tax)とは、通貨、株式、債券、デリバティブ、一次産品など、あらゆる金融資産の取引への課税を指します。この税により、株価、為替レート、一次産品価格の乱高下という不安定さが弱められるのみならず、実施国政府に多大な税収をもたらします。

 

この税は、金融業界はじめ経済界の反対などがあり、実現はむずかしいと考えられてきました。ところが、2011年9月に、欧州委員会はEU加盟各国に対し、欧州金融取引税を2014年1月に導入するEU指令案を提示しました。これは、EU域内居住者である金融機関(またはそれに準ずるファンドや個人)の取引に対し、株式と債券取引に0.1%、デリバティブ取引に0.01%を課すものです。

 

この税制の目的・特徴について、アルジルダス・セメタ税制担当欧州委員(閣僚級)は次のように発言しています。「①FTTは金融セクターの国家財政への妥当な貢献をもたらす、②FTTは安定した金融活動をもたらし高リスクな投機を抑制する、③FTTは一般市民に負担を求めることなく大幅な税収増をもたらす、④この税収は景気対策のみならず、開発や気候変動等の地球規模課題の対応資金とすることができる」(2012年5月欧州議会での演説のまとめ)。

 

しかし、この提案に英国等が反対し、EU27国によるいっせい導入が困難になりました。それでドイツ、フランスなどの導入積極グループは、2013年1月22日、「強化された協力」という手続きで11ヵ国による先行導入を決めました(同年2月14日欧州委員会が11カ国導入に向け正式提案)。以後、英国によるEU法に反するとしての欧州司法裁判所への提訴などで紆余曲折があったものの、2014年中へのFTT導入をめざして11カ国で調整中となっています。

 

 ■金融取引税導入予定11カ国
ベルギー、ドイツ、エストニア、ギリシャ、スペイン、フランス、イタリア、オーストリア、ポルトガル、スロベニア、スロバキア

 

●導入予定のFTTの実施内容

導入予定の実施内容について、ロイター通信は以下のように報道しています(『〔情報BOX〕EU11カ国で導入する金融取引税のポイント』2013年 02月 15日)。

http://jp.reuters.com/article/marketsNews/idJPTK829290420130215

 

<対象>

11カ国に「経済的なつながり」がある場合、すべての金融機関によるすべての商品及び市場に関するすべての取引。

<税率>

株式や債券、短期金融資産、レポ取引、証券貸借取引は0.1%。デリバティブ(金融派生商品)取引は0.01%。取引にかかわった各金融機関が支払う。加盟国はこれより高い税率を適用することも可能。

<例外>

クレジットカード、預金、通貨のスポット取引など日常的な金融取引は課税対象とはならない。株式や債券、投資信託ユニットの資金調達を目的とした発行も対象外。

<課税逃れ防止対策>

11カ国内の金融商品に関する取引は、時期や場所を問わず課税されるとの「発行原則」を採用。課税地域からロンドンなど域外へ取引が移ることを阻止することが狙い。

<税収見込み>

年間300億─350億ユーロ  《以上がロイター通信の記事》

 

課税の目的ですが、基本的に国内財政への寄与ならびに金融規制を挙げていますが、これにグローバル公共財への資金創出が入るかどうかは、今後の協議となります。

 

●11カ国FTTは日本の金融機関にも関係してきます

ところで、課税対象ですが、加盟国の金融機関どうしの取引では両金融機関に課税されることはもちろんですが、加盟国の金融機関と取引した非加盟国の金融機関も「加盟国に設立されたものとみなされ課税対象とする」ということが欧州委員会提案に明記されていますので、非加盟国の金融機関も納税をしなければなりません。例えば、(非加盟国である)日本の金融機関が(加盟国の)フランスの金融機関と取引した場合、世界のどこで取引を行ったとしても、日本の金融機関にも課税され、フランスの税当局に納税しなければならない規定となっています。

 

また、租税回避を防ぐために、同提案では発行主義原則を取っており、加盟国で発行された金融商品に関して加盟国圏外で取引された場合にも課税されることになります。例えば、(非加盟国である)日本の金融機関が(非加盟国である)米国の金融機関との間で、(加盟国の)ドイツの金融機関が発行した株式を取引した場合、日本と米国の金融機関はそれぞれドイツの税当局に納税しなければならないのです。

 

このように欧州で実施されようとしているFTTは、日本の金融機関や金融市場には無関係どころか、大きく影響してきます。

 

●今後のスケジュールと日本での課題

11カ国FTTの導入は、本来2014年1月1日からの予定でしたが、英国の反対の立場からの欧州司法裁判所への提訴などで、大幅に遅れてしまいました。しかし、11カ国は、昨年12月の「FTT推進を合意した」ドイツ大連立政権の誕生もあり、年が明けてからようやく交渉のエンジンもかかってきたようです。スケジュール的には、11カ国は「5月6日を期限に欧州委員会提案の検討」に入っています(情報は、1月17日「開発のための革新的資金調達に関するリーディング・グループ」第12回総会から)。

そして11カ国導入をリードずるためにフランスとドイツの首脳会議が開催され、そこで方向性が出されると思います(首脳会議は2月19日)。

 

一方、日本においてはFTTに関し政府レベルでも金融機関等の民間レベルでもまだ関心が高まっていません。従って、官民挙げて早急にFTTについて検討していくことが求められています。そしてFTTの積極的要素を踏まえ、欧州11カ国と連動しつつ導入を図っていくことが求められています。その要素とは、セメタ欧州委員(閣僚級)の言うように、①財政の安定化のために、②投機マネーを規制するために、③そして世界の貧困や気候変動対策のためのグローバル資金調達のために、です。

航空券連帯税・UNITAIDとは何か? 

航空券連帯税・UNITAIDとは何か? 

●概要

航空券連帯税(Solidarity Levy on Air Tickets)は、数ある国際連帯税構想の中で成功裡に実施されている税制です。「国際連帯税とは何か?」で述べたように、フランスが2006年7月から先頭を切って導入し、その後、韓国やチリそしてアフリカ諸国など、現在9カ国で導入されています。

 

同税は以下の特徴を有するため、国際連帯税としてもっとも導入が容易な税制です。

①    徴税のためのコストかからず--航空券購入時に空港税に上乗せする方法で行う

②    航空会社に費用発生ぜず--税を払うのは国際線を利用する乗客である(出国時のみ適用され、トランジット客には適用されない)

③    税制設計は各国で決めることができる--とくに国際条約等が存在しないため、導入国が税率含めて設計できる。

 ■航空券連帯税導入国
フランス、韓国、チリ、カメルーン、ニジェール、モーリシャス、マリ、マダガスカル、コンゴ共和国 (この他、ナイジェリア、モロッコ、スリランカ等が検討中)

 

 

●導入国での実施例(税額など)と収入

導入国のフランスと韓国の実施例を見てみましょう。

 

■フランスの実施例

国内・EU線

エコノミークラス 1 ユーロ

ビジネス・ファーストクラス 10ユーロ

国際線

エコノミークラス 4 ユーロ

ビジネス・ファーストクラス 40ユーロ

■韓国の実施例

国際線

クラス別に関係なく1律1,000ウォン

       (注・他の導入国では一部税率で行っている国もあるが、ほぼ定額税である)

 

収入については、フランスで年間約1.7億ユーロ、韓国では年間150億ウォンです。

 

●資金の使途:UNITAID(ユニットエイド)の役割

航空券連帯税で得られた税収は、その一部または全部がUNITAIDという国際機関に拠出されます。例えば、フランスは税収の90%をUNITAIDに、残りの10%をIFFIm(予防接種のための国際金融ファシリティ)に拠出しています。韓国は半分をUNITAIDに、残りの半分は独自のアフリカ支援等に充てています。その他の国はほぼ100%の拠出となっています。

 

UNITAIDは2006年9月、フランス、チリ、ブラジル、ノルウェー、イギリスの5カ国によって設立されました。目的は、「エイズ・結核・マラリアという感染症で苦しむ途上国の人々のため、それらの国々の現状では手に入れることが困難な高品質の医薬品・診断技術の価格を下げて、広く供給が行き届くようにすること」(UNITAID憲章)、です。医薬品等の価格を下げることが可能なのは、航空券連帯税による税収という持続的かつ予測可能な資金を活用し、製薬メーカーとの交渉力を強化し、価格を下げることに成功しています。

 

UNITAIDは設立から6年余りで、参加国が28か国(これに2財団も参加)へと拡大し、これまで20億ドルを超える資金調達を行いました。この資金のうち航空券連帯税による資金が70%を占めています(連帯税未実施の国はその国の財政から拠出)。この結果、①小児エイズ治療薬の80%、②マラリアの最良治療薬の80%、③エイズ第二選択薬の60%、④最新の結核診断検査費用の40%等々の価格引き下げに成功し、現在合計96か国でのプロジェクトで成果を上げています。

 

●日本人は年間約10億円国際連帯税をすでに支払っています

え? 日本では国際連帯税(航空券連帯税)を導入していないのに、どうして同税を支払っていることになるのでしょうか? それは同税を導入している国に観光旅行等をした場合、その出国便の航空券に課税されているからです。具体的には、導入国のうち、そのほとんどはフランスならびに韓国に納税していることになります。合計で年間約10億円に上ります。

 

訪問客数* 税 額 日本人の国際連帯税納入額(予想)
韓  国 352万人(2012年) 一律 1000ウォン 35.2億ウォン(2億9300億円)
フランス 62万人(2011年) エコノミー4ユーロビジネス以上40ユーロ 583万ユーロ(7億4000万円)**

*この数字は観光客としてのみの数字で、ビジネス客等は含まれていない。

**エコノミー席乗客割合を85%、ビジネス席以上乗客割合を15%として試算

 

そこでもし日本が国際連帯税(航空券連帯税)を導入していたら、外国の方からどのくらい税収を得ることになるのでしょうか? つい先日、訪日外国人が2013年に1,000万人を超えたとの報道がありました(1036.4万人)。それでこれにフランス並みの定額税がかかっていたとすれば(エコノミー500円、ビジネス以上5000円)、121.8億円となります。なお、同年の出国日本人は1747.3万人でしたので、日本の方からは205億円の税収となり、海外・国内合せて約327億円の税収となります。

 

このように国際連帯税ならびに金融取引税関係では、もっぱら日本人が他の国に税を払うという構図になっており(航空券連帯税の場合)、あるいはなりそうである(欧州FTTの場合)ということで、あらためて政府や国民が能動的・積極的に関われる国際連帯税を政策化していく必要があります。